ズイタウンに帰って来て、どっと疲れが押し寄せて来た。眠たいし考える事も色々とあって、頭が痛い。
丸一日も無断で留守にしてしまったのだから怒られそうだ。
「家まで一緒に行こうか?」
「え?」
「顔色があまり良くない」
「大丈夫、寝てなくて疲れてるだけなんだ」
一人で帰れる、と苦笑いを返せばゲンは気を付けてと言って私の肩をポンと叩いた。
家まで送られても家の場所が場所なだけに説明が面倒だしな……。
「それじゃ、また」
「……ああ」
「今度ちゃんとお礼してもらうからな」
ヒラリと手を振ったゲンに手を振り返す。ボーマンダの姿は空の彼方に消えていった。
また……、今度、か……。
パルキアはいつ迎えに来るのだろうか。時間を与えられても私の気持ちは変わらないだろうし、私にはあとどれだけの時間が残されているのか……。
もうここに存在して居られる保証はない。
とりあえず、家に帰ればチルットは居るだろう。一先ず休んで、全員が揃ってから説明をしないと……。
どうやって説明しよう。
私自身、記憶がほとんどない世界の事を……。
ここに存在するべき人間ではないこと、全くの別世界から来たこと、その別世界に戻らなければいけないこと。
私がその別世界で死を選んだこと、も……。
私にはどうしようもないことなのだと、説明しなければ……。
帰りたくない、戻りたくない、ここに居たい、お前たちと……。
それでも、
私はここに居てはいけないのだと……。
*
連絡のないまま、反転世界の様子を見に行ったり研究所に行ったり、ポケモンセンターに行ったりを繰り返していた。
そして、ポケモンセンターから出て研究所に戻ろうとした時、見慣れた後ろ姿が……。
「シンヤ!?」
「なんだ?」
なんだ、じゃないだろうがー!!!
コテンと首を傾げたシンヤに駆け寄ればシンヤは眠たげな目で僕を見下ろした。
「何処行ってたんだよ!みんな心配してたんだよ!?」
「私も何処に連れていかれたのかは分からないが、アンノーンに拉致されたのは確かだ」
「アンノーンに……?」
色々と聞きたい事は山ほどあるけど、すぐにシンヤを家に連れて帰らなければ!
みんなに教えてあげないと!!!
目を擦ったシンヤの腕を無理やり引っ張ればシンヤが驚いたように声をあげた。
「ヤマ、トッ」
「早く帰るよ!!!」
一番近い育て屋に走って反転世界に飛び込んだ。
そうすればギラティナが一番に気付くだろう。良かった!!本当に良かった!!これでみんなも元気になるし、シンヤが自分から出て行ったんじゃないって事も証明出来る!!
家が見えた所でシンヤの腕を放す。
眉間に皺を寄せてシンヤが僕を見たけど、僕はシンヤの背を押して歩く。
「早く、早くっ!!」
「ゆっくり歩かせてくれ、疲れてるんだ……」
「みんな待ってるんだから!!」
「みんな……?」
トン、とシンヤの背を押して僕はその場で立ち止まる。ゆっくりと家に向かって歩くシンヤの視界には今か今かとシンヤの帰りを待っていたみんなの姿が見えただろう。
「シンヤ!!!」
弾けたようにみんながシンヤに向かって走り出す。
僕はその光景を見てほっと胸を撫で下ろした。本当に良かった……。
*
みんなが、待ってる。
その言葉を聞いてどうしようもなく胸が締め付けられた。
悲しい
駆け寄って来てくれる姿を見て、歯を食いしばる。
「シンヤッ!!」
ミロカロスが飛びついてきた。
「何処行ってたんだバカァアア!!!」
ミミロップが怒鳴った。
「オレが、どれだけ探したと思ってんだッ!!」
ギラティナが泣いた。
「おかえりなさいっ、シンヤ!!」
トゲキッスが、
「おかえりシンヤ!!」
ブラッキーが、
「帰ってくるのが遅いですよ」
エーフィが、
「無事に帰って来てくれて良かった……」
サマヨールが、
「おかえりなさいませ、ご主人様!」
「ラルゥ!!」
チルットが、ラルトスが、
私を笑顔で迎えてくれた。
苦しい
*
今のこの恵まれた状況がとても苦しい。
ここに自分が存在してはいけないんだという事実がとても、悲しい。
「シンヤ……?」
大丈夫かと、声を掛けてくれたミミロップに頷き返す。
ちっとも大丈夫じゃない、それでも頷かずにはいられなかった。
こうして迎えてくれた連中に私はなんて説明すれば良い?どう説明すれば納得してくれるのか、どう説明すれば私は納得出来るのか……。
泣き腫らしたのか赤い目を涙で潤ませたミロカロスが笑って言った。
「おかえり、シンヤ!!」
私の居場所は"ここ"だと言ってくれる。
そんな連中に、私は……、
私、は……。
「ただいま」
(さよなら)
事実など話せるわけがない……。
安心したように笑みを返してくれた連中に。
今だけ見逃してくれと、精一杯……、口角をあげて笑ってみせた。
偽る私を見逃してくれ……、
決して許してくれとは言わないから。
*
申し訳程度の挿絵の邪魔感。