一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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カナコさんにタマゴを持ち歩ける様にとカバンを作って貰った。

肩から斜めにかけるカバン、ショルダーバッグ風だった。

丁度右手の所にタマゴが来るから咄嗟の時は反応出来るでしょ、と言われてポケモンのタマゴも割れる可能性がある事を知った。

 

持ち歩かなくても良い気がする。

 

新しく買って貰った靴を履いて玄関の扉を開けるとカズキに遅いと怒られた。

今日、隣町にある育て屋さんという場所に行くらしい。

自然の景色を眺めながらバス停まで歩けば、紫色のサル?を肩に乗せた運転手が「おはよう」と挨拶をして来た。

バスに動物を乗せて良いのかと思ったがここじゃ良いらしい、それに動物じゃなくてポケモンか……。

 

「運転手さんのエイパム可愛いよねー」

「エイパム?」

「肩に乗ってるやつ」

 

尻尾を振るあのサルがエイパムと言うのか……。

サルに種類があるみたいにサルみたいなポケモンでも何種類か居たりするのだろうか……、サルポケモンみたいな……。

まあ、私には知る術も無いし、今は知る必要も無いのだけど……。

 

隣町に着いて、バスから降りて走り出したカズキとノリコをぼんやりと見送って、ゆっくりとバスから降りた。

片手を上げた運転手に軽く会釈を返すと、エイパムが尻尾を振ってくれた。

動物よりポケモンの方が賢そうだ。

 

バスを見送った後、走って先に行ってしまっていたカズキとノリコが走って戻って来た。

 

「追いかけて来いよマジで!!」

「私は追いかけないぞ、疲れるからな」

「なんだよ、もー!!」

 

片手にカズキ、もう片手にノリコと手を繋いで暫く歩くと柵が見えて来た、柵の向こうには見知らぬ動物……。もとい、ポケモンが居た。

ここが育て屋さんらしい。

 

「ポケモンを育ててるのか」

「そーだよ、代わりにポケモンを育ててくれるのが育て屋さん」

 

柵に近づいて柵の向こうを覗く二人を後ろから眺める。

 

「あ、ミミロル居るー、可愛いー」

「ブイゼルだ!!」

 

何の名前を言ってるのかさっぱりだ。

楽しそうにハシャぐ二人に手を引かれて育て屋の店内へと入った。

人の良さそうな老夫婦が居るだけで他には誰も居ない。

 

「「おはよー」」

「ああ、カナコちゃんの所の」

「おはようさん」

 

顔見知りらしい、おじいさんが私を視界に入れて首を傾げた。

 

「初めて見る顔だね」

「これは男前が来たもんだねぇ」

 

クスクスとおばあさんが笑う。

 

「オレらの兄ちゃん、シンヤだぜ」

「上がおったのか」

「知らんかったのぉ」

 

すんなりと受け入れられてしまった。

いや、本当に知らなかったにせよ、カナコさんを知ってるならどう考えてもおかしい事に気付くだろ。

私はそんなに若く見えるか、いや、見えない。年相応だろ、5歳若く見られたとしても20歳以下に見られる事はまず無い。

 

「ポケモン見に来たのー、中入って良い?」

「いじめちゃ駄目だよ」

「分かってる!!」

 

ノリコに手を引かれてさっき外から見ていた柵の向こう側に入る。

見た事のない生き物が走り回っているのを見ると夢を見ている気分になって来る

生まれて25年、こんな生き物を間近で見る事になるとは……。

 

「ほら、ミミロルー!!」

「どれがミミロル?」

「あのウサギポケモンだよ!!」

 

ウサギか。

耳がロールで、ミミロルとかそんな安易な感じで名前を付けられているのかもしれない……。

 

「兄ちゃん、ほら、コイキングー」

 

カズキが指差した先には小さな池があって、そこには赤い大きな魚が居た。

 

「コイの王か……、強そうだな」

「え、超弱いよコイツ。はねてるばっかだもん」

「そうなのか?じゃあ、女王は?」

「女王?」

「コイキングか居るなら、コイクイーンとか居ないのか?」

「居ない、メスもコイキング!!」

 

可哀相に、メスでもキングなのか……。

それに王と名に付いてるのに名前負けしてるとは……。

カズキがコイキングを池から出して地面に置いた、コイキングはビタンビタンと音を立てて跳ねた。

 

「コイツ、戦う時もずっとこうなんだぜ」

「負けるなコレは」

「うん、進化したらギャラドスになって強いって父さんが言ってたけどね」

「そうか、出世魚なのか」

「しゅっせうお?」

「なんでもない」

 

コイキングを池に戻して辺りを見渡す。

黄色い二足歩行のアヒルがこっちを見ていた……、何故、頭を抱えているんだ……。

アヒルが首を傾げたので私も首を傾げて返した、アヒルは私に背を向けて歩いて行ってしまった。

まだ首を傾げている、私が何をした。

 

「……」

「?」

 

池の中のコイキングの鮮やかな赤に隠れる様に茶色っぽい魚が居た。

汚い色だ、ヒレやらもボロボロで、生きている魚の癖に死んだ様な目をしている。

前の世界の私も鏡を見た時にそんな目をしていた。

 

あまりにもこっちを見つめるので、何だか他人とは思えず手を伸ばして魚を持ち上げてみた。

見れば見るほど、醜い魚だった。

 

*

 

「うわー、何そのポケモン!!」

 

私の手の中の魚を見てカズキが顔を歪ませた。

 

「知らないのか?」

「オレ、まだ勉強中だから」

 

カズキが知らないんじゃ知る術もない。

パクパクと口を動かす魚を池へと戻せば、魚は顔を出してまた私を見つめた。

 

「じいちゃーん!!池に居るさー、ぶさいくなポケモンなんて言うのー?」

 

育て屋のおじいさんへ声をかけたカズキは手招きしておじいさんを呼んだ。

 

「そいつはヒンバスじゃよ」

「ヒンバスー?」

「この辺には生息しとらんからのぉ」

 

この辺では見かけないポケモンだと聞いたカズキが目を輝かせた。

 

「珍しいポケモン!?」

「いや、大量に生息はしとるが一箇所に集まる習性があってな。一定の場所に行かんと捕獲出来んのじゃ」

「なーんだ……」

 

カズキは肩を落としたが私は十分珍しいと思った。

一定の場所にまで行ってわざわざ捕獲するほどの価値があるという事だろう?

 

「コイキングみたいに進化したら強くなるのかもしれないぞ、カズキ」

「そーなの?強くなんの?」

「わしは知らんが……、そのヒンバスはもう随分とここに居るぞ」

「マジで!?コイツのトレーナー腰抜かすぐらい大金払わないとだな!!」

 

育て屋のおじいさんはカズキの言葉に返事をせず笑顔だけ返した。

わざわざ捕獲した、という訳ではなかったのかもしれない。その経緯を知る事など出来はしないが……。

 

ケラケラと笑いながらポケモンと戯れるノリコの方へと駆けて行ったカズキを見送った。

池へと視線を戻せばヒンバスと目が合った。

 

「…」

「…」

 

死んでいる。

世界に絶望している目だ、絶望して死んだ私が言うのだからこれは間違っていない。

 

「おじいさん……」

「なんじゃ」

「このヒンバスは、どれくらいここに?」

「……もう、5年になる」

 

5年もこの小さな池の中に居たのか。

柵の向こうからトレーナーが来るのを諦めたのはきっと随分と前なんだろう。

周りでは預けられては一回り強くなってトレーナーのもとへと帰って行くポケモンを何度見送ったのだろう……。

 

「トレーナーは迎えに来るだろうか」

「……」

 

おじいさんは少し離れた場所のカズキとノリコを眺めながら小さな声で言った。

 

「要らないと、言われたんじゃ」

 

悲しいな、こんな美しい世界にもやはり腐臭を放つ存在はあるわけだ。

ポツリポツリと話し出したおじいさんの声に耳を傾けた。

 

5年前、ヒンバスを預けたトレーナーはヒンバスとコイキングを育て屋に預けた。

数ヵ月後にトレーナーは戻って来たがあまり成長の見られなかったヒンバスとコイキングを見て再び育て屋に預け旅に出た。

また数ヵ月後にトレーナーは戻って来た。

ヒンバスとコイキングを引き取ったが暫くするとトレーナーは戻って来て、ヒンバスだけを預けた。

 

また数ヶ月が経った、その時にはすでにヒンバスは育て屋に預けられて1年になる。

育て屋に立ち寄ったトレーナーは再びヒンバスを引き取ったが暫く経つとまた戻って来てヒンバスを育て屋に預けた。

全然、強くならない。コイキングは進化したのにコイツは進化しない。もう、コイツ要らないから。

1年もここに居たヒンバスは呆気なく捨てられた、この辺では生息していないヒンバスを野生に帰すのも可哀相で……。

 

気が付けばもう、5年も経っていた。

 

池に居るヒンバスに手を伸ばしたおじいさんの背中を見つめる。

こういう事は育て屋なんて仕事をしていれば稀にある事なのかもしれない。

おじいさんに頭を撫でられたヒンバスを見て同情する気持ちが無いわけではなかった

捨てるなら、せめて……。

 

「おじいさん」

「なんじゃ」

「そのヒンバスを引き取っても良いだろうか」

「連れて行ってくれるのか?」

「捕獲された場所に私が捨ててくる」

「場所は知らんぞ」

「一定の場所に集まるのなら調べれば分かるかもしれない……、それに、この小さな池で生きるよりはマシだ」

 

小さく頷いたおじいさんを見てから私はヒンバスへと視線を落とした。

似ているから助けるわけじゃない、ただ、この世界に来て触れた優しさに私はとても感謝したのだ。

些細な事でも良い、それで救われるなら、見逃すわけにはいかないだろう……。

 

 

今、私は死にたいとは思っていない

 

 

生きたい。

 

 

この美しい世界で、何かをして生きていたいのだ……。

 

 

*

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