一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「兄ちゃん、最近よく帰ってくるよな!暇なのか?」

 

カズキのその言葉に私の手が止まる。

目の前でトランプを広げたノリコが早く引いてほしそうだが、私はカズキを振り返った。

 

「……普通」

「そうなの?」

 

いつパルキアが迎えに来るか分からない為、やり残しのないようにと私の一日は一分一秒でさえ無駄がなかった。

今日は来なくても明日来るかもしれない。なら今日の仕事は今日やってしまわなければ行けないし。

今日会ってない人とはもう明日になると会えないかもしれないと思うと私は特に理由が無くともその人達の所へと足を運んだし、理由もなく電話を掛けて他愛ない話をしたりする。

最近、シンヤって凄い気さくな感じだよね!とヤマトに言われたが自分では必死なだけなのでよく分からない。

今日は朝からすぐに仕事を終わらせて実家へと足を運んだ。仕事が忙しいだのなんだのとあまり帰って来ない事が多かったのを今になって後悔する。

夕食もこの頃はカナコさんのお世話になってばかりだ。

 

「お兄ちゃん早く引いて!!」

 

ノリコに誘われてババ抜きをしていた私はカズキに向けていた視線をノリコに戻し、ノリコの手元のトランプを引いた。

丸っこくデフォルメされたポケモンのイラストが描かれたトランプだ。

それにしても二人でやるババ抜きは面白みがないのだが……、まあ、ノリコが楽しければそれはそれで良いか……。

 

「そういえばさー」

「ん?」

 

カズキが私の首に腕を回して背後から抱きついてきた。子供は体温高いな。

 

「この前、兄ちゃんが美人と歩いてるの見たぞ!!」

 

私の頬を引っ張るカズキが「彼女?彼女?」と聞いて来るが思いあたる女の知り合いは居ない。ジョーイならジョーイだと分かるだろうし、ツバキは美人とは言い難い。

 

「……美人?」

「とぼけたってダメなんだからな!!」

 

オレ、母さんと父さんに教えちゃったもんねーと笑ったカズキに「そうか」と返すが本当に思いあたる女が居ない。

 

「お兄ちゃんの彼女美人なんだー、のんも会ってみたいなー」

「誰の事なのかさっぱりだ」

「とぼけるなー!!」

 

むにっと頬を抓られて痛い。

考えても考えても美人な女の知り合いは居ない。もしかすると男か?カズキが女と見間違えるかも知れない男の美人なら確かに数名思い当る。

 

「その美人、本当に女だったか?」

「えー……、うーん……」

「胸、あったか?」

「無かった!」

 

男だ、絶対に男だ。

美人だけど胸ぺっちゃんこだなーって思ったーとケラケラと笑ったカズキは失礼な奴だ、本当に相手が女だったら殴られるぞ。

 

「カズキの見たのは男だろうな、女の美人は知らないし」

「マジかよ、母さんと父さん喜んでたのに!」

「そうよ!!母さん楽しみにしてたのに!!」

「「「……あ」」」

 

買い物に行っていたカナコさんが買い物袋を床に落として泣き真似を始めた。

楽しみにしてたのにー!!とそんな事を言われても……。

 

「あ、でも、男の彼女でも母さん大丈夫!!連れてきなさい!!」

「男の彼女ってなんだ!?」

 

男の人でも彼女になれるの?なんて疑問を抱いてしまっているノリコに「忘れなさい」と一言付け足しておく。

私の前に座ったカナコさんが私の手を握った。

 

「母さんは息子の愛した人ならどんな相手だって認めるわ。反対なんてしない、父さんが反対なんてしたらグーパンチで黙らせてあげるから任せなさい!」

「い、いや……、あの……」

「今日の夕食に招待しましょ!!ね!!そうしましょう!!男の彼女さん、ちゃんと連れてくるのよ!!」

「え!?」

 

お兄ちゃんの彼女は男の人なの?と疑問を抱いたノリコに「忘れろ!」と一言付け足す。

 

「私に彼女なんて……」

「シンヤの彼女さんどんな人だったの?教えてくれるカズキ?」

「んーっと、美人!!細くてー、つり目でー、髪の毛サラサラだった!」

「だ、誰だ……」

「楽しみだわ~!!」

 

カナコさんが買い物袋を持ってキッチンへと行ってしまう。

なんで彼女でも何でもない相手を連れて来ないと駄目なんだ!しかも男!!それに私と一緒に居た美人の男という時点で相手はポケモンだろ!?

もう何を言っても無駄なのか……。彼女ではないとしても今日の晩にここへ連れて来ないと駄目なのか……。一体、誰だ……。

美人で、細くて、つり目で髪の毛がサラサラ……。ミ、ミロカロスか……?

 

「俺様がシンヤの彼女の役!?え、やる!!良い子に出来るよ!!良い子の彼女になるなるー!!!」

 

くっ……、連れて来たくない……!

いや、ミロカロスじゃないかもしれない。誰だ、髪の毛がサラサラなのはサマヨールか?いや、包帯を巻いてて美人と判断されるかどうか……。でもサマヨールの方がまだ……。

 

「カズキ、その美人は包帯を巻いていたとかないか?」

「ううん、巻いてなかった」

「他に、特徴は……」

「んー……、髪の色が綺麗だった!!」

「ちなみに、何色だ」

「薄紫?」

 

ああ……、嫌そうな顔が目に浮かぶ。

 

*

 

家に帰るとミミロップが「おかえりー」と言って飛びついてきた。

くっつくミミロップを引き摺ったままリビングに行けば、今日は休みでズラリと見慣れた顔が揃っていた。

 

「おかえりなさいませ」

 

頭を下げたチルットに「ただいま」と返事をして、くっつくミミロップを引き剥がしソファに放り投げる。

 

「今日のご夕食は?」

「ああ、今日も向こうだ」

「かしこまりました」

 

実家で食べる事を伝えればチルットはニコリと笑って頭を下げた。

最近はよく帰るんですね、とエーフィが私に声を掛けたのでエーフィに視線をやる。

 

「……」

「……?なんですか?」

「エーフィ、今日はお前も一緒に来てくれ」

「私も?嫌ですよ、あの双子のオモチャにされるじゃないですか」

「いや、人の姿のままで……」

「……は?」

 

エーフィがポカンと口を開けた。周りの連中も驚いてこちらを振り返る。

言いたくはないが……、エーフィが人の姿で私と歩いているのをカズキに目撃された事、私の彼女だと勘違いされた事、男だと言っても彼女だと疑わず今日の夕食に連れて来いと言われた事を説明すればエーフィは嫌そうな顔をした。

想像通り過ぎる表情にもう何も言えん。

 

「また、それは面倒な……」

「私もそう思う」

「ちょ、エーフィがシンヤの彼女としてシンヤの両親に挨拶に行くぅうう!?ふ、ふざ、ふざけすぎだろ!?」

「落ち着いて下さいミミロップさん!!」

 

ギャーギャー叫ぶミミロップをトゲキッスが必死に宥めていた。

 

「強引に事を進められて断る機会を逃したんだ……、まあ一度会えば満足するだろうから……」

「……仕方がないですね」

「俺様も行くぅううう!!!」

「ワタシも行くぅううう!!!」

「オレも行っても良いなら行きたい!!」

 

連れてってー!!と喚くミロカロスとミミロップ。エーフィが行くなら行きたいと名乗りをあげたブラッキー。

ミロカロスとミミロップに「駄目だ」と一言、ブラッキーには「今度ポケモンの姿でなら連れて行ってやる」と言っておいた。

 

「ミロカロスにミミロップ、あまり無茶を言うものじゃない。主も困っているんだ、今回は大人しくしているべきだぞ……」

「「……」」

 

サマヨールに言われ二人はガクンと肩を落とした。

ミミロップが肩を震わせ泣くものだからラルトスが大慌てでミミロップに駆け寄る、そこまで大袈裟にしなくても良いじゃないか……。

 

「やれやれ、まさか私に白羽の矢が立つとは……」

「すまん」

「構いませんよ、気分は悪くありませんし」

「……そうなのか?」

「ええ、今の気持ちを簡単に言うと……、ざまーみろ、ミミロップ!って感じですかね」

 

ニコリと笑ったエーフィをミミロップが睨みつけた。お前たち、仲悪いな……。

一応連れて行って向こうで彼女じゃないと否定するから、とエーフィに言えば「別に否定しなくて良いですよ」と言われてしまった。

否定しなかったら、私は男と付き合っている事になるじゃないか。

とは、思ったが。エーフィがミミロップを怒らせたいだけだったみたいなので何も言わないでおく。

夕食の時間が迫って来た為、人の姿のエーフィと家を出ようとするとミロカロスに袖を引っ張られた。

目に涙を溜めたミロカロスが何か言いたげに私を見るものだから思わず冷や汗が流れた。そ、そんなに泣くほどの事なのか……?

 

「エーフィはシンヤの彼女で良いよ……」

「え!?……え?ああ……」

 

意味が分からないが一応返事はする。

 

「でも、シンヤの嫁は俺様だぁあああ!!」

「そ、そうか……」

 

もうコイツが何を言いたいのか分からん。

後ろの方で「じゃあ、ワタシは愛人で!!」なんてバカ発言が聞こえるが何も聞かなかった事にしよう。

揃いも揃って男が何を言っているんだろうか……。

隣で大笑いするのを必死に耐えているエーフィの背を押してさっさと家を出た。

 

実家の前まで来て隣に立つエーフィに視線をやればニコリと笑みを返された。

まあ、毒は吐くが言葉遣いは丁寧だし賢い奴だから上手くやってくれるだろう……。ミロカロスだと場が余計にややこしくなりそうだから、エーフィでまだ良かった。

 

「彼女という事は否定しておけば良いんですよね?」

「ああ」

「分かりました、後はその時によって上手く話を合わせますよ」

 

こういう所は頼もしいな。

エーフィに頷き返して家の扉を開けた。

バタバタと大きな足音を立ててカズキとノリコが走って来た。隣に立つエーフィを見てカズキが「あ!!」と声をあげる。

 

「その人ー!!」

 

カズキの見た美人はエーフィで合っていたらしい。

ニコリと笑って「こんばんは」と挨拶したエーフィはさすがである。いつもぬいぐるみのように扱うノリコの事を嫌っては居るが一切表情に出さない凄いやつだ。

 

「本当に綺麗な"お姉さん"だね!!」

「ノリコ……、お姉さんじゃない"お兄さん"だ……」

 

男だぞ、と言えばノリコはハッと表情を変えた。間違えたのが恥ずかしかったのか顔が赤い。

 

「名前はなんて言うんだ?」

 

カズキのその言葉にエーフィがチラリと私の方を見た。

名前なんて考えてなかった!!エーフィじゃ駄目なのか、駄目だろうな……。ポケモンの名前だし……。

 

「……、フィー?」

「フィー兄ちゃん?」

 

じとっとエーフィに視線を向けられているのが分かったが思いつかなかったんだから仕方がないじゃないか……。

 

「ええ、フィーと申します。カズキくんとノリコちゃんですね。シンヤさんからお話は伺ってますよ。どうぞよろしく」

 

ニコリと笑って話を合わせたエーフィにカズキとノリコは何の疑問も持たずに「よろしく!」と返事をしていた。

もうどうにでもなれ……、なんとかなる。

 

「父さんも帰ってるんだ!!早く早く!!」

「もう待ってるんだよ!!」

「はい、ありがとうございます」

 

カズキとノリコがエーフィの手を引いて行くのを私も追った。

リビングに入ると何故かスーツを来たイツキさんが居て思わず視線を逸らした。

 

「(何だ今の……、気のせい?)」

 

もう一度イツキさんの方を見れば気のせいでも何でもない。びしっとスーツを来たイツキさんが膝に手を置いた状態で固まっている。

料理を運んできたカナコさんが「やだもー、お父さんったら緊張しちゃってー」と笑っている。頭が痛くなって来た……。

 

*

 

「本日は夕食にご招待ありがとうございます」

 

ニコリと笑ったエーフィを見てイツキさんがパクパクと口を何度か開閉させた。

夕食の用意も出来て席についた時にエーフィがそう発言したものだから何故か緊張しているイツキさんの緊張は更にピークを迎えたらしい、声が出ていない。

私の前に座ったカナコさんが困ったように笑う、エーフィを前に座っているイツキさんは緊張でガチガチだ。エーフィは内心大笑いしているに違いない。

そして両端にカズキのノリコが机を挟むように向かい合わせに座っていて、二人はイツキさんを見たりエーフィを見たりと忙しなく視線を動かしていた。

 

「い、いや、えっと……む、息子がお世話になってます!!とても、お美しいのに男性だということで、えー、息子の彼女になってくれてどうもありがとうございます!」

 

支離滅裂だな。

イツキさん自身も自分が何を言ってるのか理解してないに違いない。とりあえず感謝だけは伝えねばというイツキさんの気持ちは伝わって来たが……。

 

「いえいえ、私の方がシンヤさんにとてもお世話になっているんですよ。それとお気持ちを裏切るようで申し訳ないのですが私はシンヤさんとお付き合いさせて頂いているわけではありませんので」

「およ!?」

 

話が違うよ母さん!!と小声でイツキさんがカナコさんに声を掛けた。この距離では丸聞こえなのだが……。

 

「シンヤ!彼女じゃないの!?」

「私は彼女だなんて一言も言ってない」

 

そうだよ、違うって言ってたよとカズキとノリコが話を合わせてくれると「あらら~」とカナコさんが困ったように笑った。

 

「改めまして、シンヤさんのお父様お母様。私、フィーと申します。シンヤさんとは親しくさせて頂いていますが清くお付き合いさせて頂いている仲ではありません。同性の尊敬する人として慕って仲良くさせて頂いております。どうぞご理解下さい」

 

ニコリとエーフィが笑えばカナコさんもニコリと笑みを返す。

 

「母さん、早とちりしちゃったわ!」

「む、息子を尊敬して慕ってくれてるなんて……、なんて良い子なんだ……!」

 

何故か泣きだしたイツキさんの肩をカナコさんが笑いながらバンバンと叩いた。

 

「やーねー!!何泣いてるのよお父さん!!」

「うう……、感動で涙が……」

「今は友達でもこれからお嫁さんになるかもしれないのよ!!フィーちゃん!仲良くしましょうね!!」

 

ぎょっとエーフィが目を見開いた。。

カナコさんが全く諦めていない……。むしろエーフィを気に入ってしまったのか"ちゃん"付けだ……。

同性だろうと本当に気にしてないというのか。

 

「そうか、そうだな!!フィーちゃんがうちに嫁に来てくれたら良いな!!」

 

イツキさん……、貴方まで……。

相も変わらず懐の深い人たちだ……。私はそれで息子として迎え入れられたわけだしな……。

いや、今は関心している場合ではない状況だが。

 

「あ、あの……、お父様?お母様?私の話を聞いて頂けたんじゃ……?」

「大丈夫!!私が産んだわけじゃないけどね、シンヤは良い男よー!!頭も良いし!!」

「ええ、まあ、それは存じておりますが……」

「シンヤをよろしくね、フィーちゃん!!」

 

笑顔のカナコさんにエーフィは口元を引き攣らせながら何とか笑みを返した。

なんか私まで喉がカラカラになってきたんだが……。

 

「それじゃ、乾杯してご飯を食べましょ!!」

「よーし!!それじゃ、シンヤの未来のお嫁さんにカンパーイ!!!」

「「「カンパーイ!!!」」」

「「……カ、カンパーイ」」

 

私とエーフィのテンションだけが降下した。

夕食を食べ始めて少しするとエーフィが私の足をツンツンと足で突いた、チラリと視線をやれば頭の中に直接エーフィの声が響く。エスパータイプならでは……、エーフィも出来たんだな……。

 

<手強いです、ここからどう否定しても私はシンヤさんの妻になってしまいますよ……>

 

確かに、カナコさんはエーフィがなんと言おうと今は友達でも!を強調するに違いない。

 

<最後まで否定で通すつもりですが、今後に影響が出ても怒らないで下さいよ?またフィーちゃんを連れて来てなんて言われても私は行きませんからね!>

 

エーフィの言葉に私はお茶を飲みながら頷く仕草をした。

よく考えれば私に"今後"など無いのだ……、今をどう思われようとも今後に差し支えるような事はない。今を楽しんで未来に期待するカナコさんとイツキさんが居るのならそれはそれで良い……。

喜んでくれるなら、良い。

 

「フィーちゃん!シンヤの何処に惹かれたの?」

 

「……惹かれたとかではなく。シンヤさんという一人の人間を慕ってはいますが……」

「一目惚れって事ね!!」

「そ、そうとられるんですね……」

 

ニコニコと笑顔のカナコさんにエーフィはまた引き攣った笑みを返した。

 

「フィーちゃんはお料理するの?」

「いえ、全くしませんが……?」

「そうなの?それじゃ明日またうちにいらっしゃい、教えてあげるわ!!」

「えぇ!?いえ、そんな!!」

「遠慮しないで!フィーちゃんならすぐに覚えられるわ!!」

「……」

「ね?」

「……はぃ」

 

カナコさんに押し負けたエーフィが小さく頷きながら返事をした。

私が呼んで来いと言われる前に約束を作ってしまったカナコさんは何て強引なんだ……。あのエーフィが押されている、私でもたまに言い負かされるのに……。

なんだろう、実際に見たわけではないのに嫁姑の関係を目撃してしまったようなこの感覚。

 

「フィーちゃんはシンヤのお家に遊びに行く事あるの?」

「いえ、私はシンヤさんと一緒に」

 

一緒に、と言ってしまった時点でエーフィが自分の口を塞いだ。

カナコさんの目がキラキラと輝きだした。隣でイツキさんが行儀悪く箸をくわえながら口元に笑みを浮かべた。

 

「そう!そうなのね!!だからシンヤってば母さんに家の場所教えてくれないのね!!もう!!」

「お母様、あの違……」

 

いや、反転世界にあるから……。

その辺にあるってちゃんと言ったぞ、私は……。あの家に住所なんてあるわけないじゃないか……。

 

「シンヤ、器用だから自分で料理作ってるのね。お掃除はフィーちゃんにやらせてるんでしょー、母さんお見通しよ!」

「……」

 

最近は料理も掃除もチルットが全部やってる。まあ、料理は私がチルットに教えたけど。

 

「フィーちゃん、私が手際の良い料理と掃除方法教えてあげるわ!こういうのは主婦に聞くと良いのよー!!」

「あ、あの……」

「良いの!!良いのよ!!気にしないで、ね!!」

「……はぃ」

 

もう完全に勝てない。

見えないはずなのにエーフィの耳としっぽが垂れ下がってしまっているのが見える……。

その後、夕食が終わった後にさっそくエーフィは聞きたくもないであろうカナコさんから主婦の仕事に何をするかなんて話を聞かされていた。

夜の10時になってカズキとノリコが眠いと言って自分たちの部屋に入って行ったので、カナコさんがやっとエーフィに話をするのをやめた。

 

「それじゃ、フィーちゃん!また明日ね!」

「はい、ありがとうございました……」

「気を付けて帰れよ~」

 

手を振るカナコさんとイツキさんに手を振り返した。

二人が家の中に戻るのを確認してから隣に立つエーフィに視線を落とす。

 

「私が、私が口で負けるなんて……。完全に向こうのペースに持っていかれました……」

「悔しいのはそこなんだな」

 

結局、明日も行くのか?と聞けば約束してしまったんだからしょうがないじゃないですか!と涙目で怒鳴られてしまった。

 

「シンヤさんのバカッ……!」

「す、すまん……」

 

よしよしと頭を撫でればエーフィはポケモンの姿に戻った。その場で座り込んだのでこれはもう抱えて帰れという事らしい。

 

「お前は上手くやってたよ、助かった。ありがとうな」

「フィー……」

 

私は助かってません、そうエーフィが言ったような気がするが私は何も言わなかった。

エーフィには悪いがカナコさんとイツキさんが嬉しそうだったから私は結構満足してたりする。

 

*





【挿絵表示】

ブラッキーとエーフィ

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