一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「エーフィが嫁入り修行してるんだって?」

「……」

 

ヤマトがコテンと首を傾げてそう言った。

ここにエーフィが居たらお前はエーフィから覚えてもいない、おうふくビンタをくらう事になるぞ……。

ぶつぶつ文句を言いながらカナコさんの所に行ったエーフィを思い出し溜息を吐いた。

 

「ブラッキーが拗ねてたよ。エーフィがシンヤの所に嫁に行くんだ、ずるいよなー……って」

「なんだ、ブラッキーは一人で研究所に遊びに行ったのか」

「うん、来てた」

 

てっきりポケモンの姿のままエーフィにくっついて行ったのかと思っていた……。

暇をしてるなら私もこれから出掛けるし連れて行ってやろうかな。

よし、そうしよう。と心の中で頷いて立ち上がればヤマトがお茶を啜りながら私を見上げた。

 

「何処行くの?」

「……デート」

「ぶっ!!!」

 

お茶を吹き零したヤマトに冷ややかな視線を送りつつカバンを肩にかける。

チルットに留守番よろしく、と言えばチルットは笑顔で頷いた。

 

「いってらっしゃいませ、ご主人様」

「いってきます」

「ちょちょちょ、デートって……、ねぇ!!!シンヤってばぁあああ!!」

 

研究所に寄ってブラッキー回収して行こう。

 

*

 

足元を、てててっと軽やかな音を立てて走り回るブラッキー。

『カフェやまごや』の前でぼんやりと空を見上げていると遠くに見えていた小さな影がだんだんと大きな影になって、相変わらず青いなぁと心の中で思った。

 

「やあ、シンヤ!!」

「テンション高いな……、ゲン」

「こんな心躍る日はそうないからね」

 

へぇ、と適当に返事をすればニコニコと笑いながらゲンがボーマンダから降りて来た。

ゲンに勢いよくブラッキーが飛び付いたが難無く受け止めてブラッキーの頭を撫でている。今日はなんとも面倒な日……、いやいや、ゲンいわく心躍る日になりそうだ。

ことの発端は先日にゲンに電話を掛けた時、喜々として電話に出てくれたゲンとくだらな……他愛ない話をしていると唐突にゲンに誘われたのだ。

 

「そうだ、今度のシンヤの休みの日にデートをしよう!」

 

物凄くそれはもう心から面倒だとは思ったが、ゲンにはキッサキシティから送って貰った事もあるしもう二度と会えないかもしれないので会っておくのも良いだろうと思い。それはもう心から面倒だとは思ったが、嫌々そのデートの誘いに了承した。

 

「で、何処に行くんだ」

「ナギサ」

 

シンヤは何処行きたい?って聞かれた時の返事は考えていたというのに……。

ゲンの返事にあからさまに嫌そうな顔でもしてしまったのかゲンが苦笑いをしながらナギサは嫌かと聞いてきた。

 

「嫌ではない」

「じゃあ行きたい所あった?」

「ミオ図書館!」

「さ、ナギサシティに行こうか」

 

……シカト、ムカつく。

ミミロップがよく使っている言葉が脳裏に思い浮かんだ。

 

*

 

ボーマンダの空を飛ぶでナギサシティに着いた。磯の香りがするし、見上げるとソーラーパネルの道路が……。ここは相変わらずだな、見慣れているズイとは正反対だ。

 

「シンヤはナギサ市場に行った事ある?」

「いや……、ナギサのポケモンセンターには寄ったが観光はしてないからな……」

 

大体草むら歩いて近くのポケモンセンターに顔を出してズイに帰る、を繰り返している。

行こうとは思ってはいたがデンジの所に行くのもめんど……いや、忘れてしまって行った事がなかったな。ジムなんて私には無縁過ぎる場所だ。

 

「シールを売ってるから買ってみたら?」

「何のポケモンが入っているか見分ける為のシールか!!それは少し前に欲しかったな……」

「違うけどね」

 

コンテストでよく使われるものでボールを専用のカプセルに入れてそのカプセルにシールを貼ると、ポケモンを出す時に貼ったシールによって登場の仕方が変わるらしい。

あの光りがピカーってなるのが別のものになるんだな、なんとなく理解した。別に要らん。

 

「まあまあ、見てみたら欲しくなるかもしれないから」

「要らん」

 

とは言ってみたがゲンに腕を引かれるままナギサ市場へ。

シールを販売しているおじさんにこれをこう貼るとこーんな感じだ!と実演してまで説明された。いや、確かに何でシールを貼るだけで!?とは思ったけどな……。

 

「要ら……「ブラー!!!」

 

買ってーこれ買ってー!!と目を輝かせ尻尾を振るブラッキー。お前という奴は……。

お前だけに買って帰ったら後々、自分には?と言ってくる連中が居るじゃないか!なんて面倒な、いつもほとんどボールに居ないんだから出て来る時なんてどうでも良いだろ……。

 

「くそ……、あるだけ全部3個づつくれ」

「ハハハ……」

 

このカプセルにボールを入れてね、と言われて貰ったボールカプセルもカバンに突っ込んだ。

余計な買い物をした後にゲンとソーラーパネルの道路を歩く。歩いた事がなかったので気付かなかったが下が透けて見えるんだな……、海の上を歩くのはなかなか面白い。

 

「シンヤ、ほらナギサ名物ポケモン岩だ」

「ゴンベか?」

「カビゴンじゃない?」

「カビゴンなのか」

「別にゴンベでも良いと思うけど」

「どっちだ……」

「どっちでも良いよ」

 

クスクスと笑うゲン。

絶対に私をからかって遊んでるなコイツは……。

その後、景色を眺めながら道路をのんびりと歩いてゲンに誘われるままシルベの灯台へと昇った。

 

「海しか見えないな……」

「双眼鏡を覗くとポケモンリーグが見えるけど……、私は隣に居る人を、シンヤを見つめていたいな……」

「なんだ。霧で見えにくいじゃないか」

「シンヤ、私の話最後まで聞いてくれてた……?」

「え?ああ、聞いてた聞いてた」

「……それじゃシンヤは?」

「……私は?……うーん、そうでもない」

「そうか、聞いてなかったという事にしても良いよな?よし、良い、シンヤは私の話を聞いてなかった」

 

絶対に聞いてなかったと言い張るゲン。

まあ、事実最後まで聞いてなかったから何の事だがさっぱりだが気にしないでおこう。

灯台を後にして、そろそろ移動しようかと言うゲンには行きたい所があるらしい。

でも、せっかくナギサに来たんだからデンジの所に顔でも出しておこう。

 

「ジムに寄っても良いか?ここのジムリーダーに挨拶だけして来る」

「え、ああ、それは構わないけど……」

 

本当に行くの?と何故か念を押して聞いて来るゲンにしつこいぞと返事をしてジムへと入る。

自動ドアが開いたと思えば道が機械仕掛け……、なんだこのふざけた所は……。

一緒に入って来たゲンが出入り口の前で苦笑いを浮かべている。とりあえず、と足を踏み出したがどう見ても道は行き止まりだった。

道が無い、と思った時に足元に丸い矢印の描かれたパネル。踏むと道が回転した。

 

「ッ…!!!」

 

何度か踏んで元の形に戻してゲンの前に立つ。

 

「大丈夫……?」

「帰る!」

 

誰が挨拶になんて行ってやるか!!

二度と来るか!!ジムなんて嫌いだ!!と文句を言いつつゲンとジムを後にした。

あと、くだらない仕掛けに電気を使ってるデンジはバカだと思う。

道路ソーラーパネルにしてる暇あるならもっと考えろ!!トレーナーに対して厳しすぎる!!

 

「シンヤはそう言うと思ったよ」

「さっさと移動するぞ!!」

 

*

 

「ホテル、グランドレイク……」

 

ゲンに連れられてリッシ湖のほとりに来たがホテルの宿泊料に開いた口が塞がらない。

ポケモンセンターを見習った方が良いぞ。まあ、ポケモンセンター以上に快適に過ごせるという事もあるだろうが……、高い。

これはもう儲けているに違いない、言葉は汚いかもしれないがガッポリ儲けているに違いない。条件の良い場所に立っているホテルほど高いものはないな……、私は畳のある旅館の方が好きだ……。

 

「ホテルじゃなくてこっちのレストランの方だよ。まあ、シンヤが泊まりたいって言うなら私は……」

「七つ星!!星多いな!!」

「シンヤ、私の話は最後まで聞いてくれ……」

「ん?何か言ったか?」

 

なんでもない、と何故か肩を落とすゲンの後に続いてレストランへと入る。

店内に入ってみれば二人掛けのテーブルばかりが並んでいて私は思わず首を傾げた。レストランならむしろ四人掛け、六人掛けのテーブルを置くべきじゃないだろうか……。

 

「なあ、ゲン」

「ん?」

「こだわりすぎの味が自慢という事はむしろ美味しくない可能性も無くはないんじゃないのか?」

「こだわりすぎて凄く美味しいかもしれないじゃないか」

 

そうだろうか……。

メニューを見ながら私は口を閉じた。こだわりすぎ、という言葉は良い意味に捉えにくい。偏食の客が多いから二人掛けのテーブルしかないのか、なんて疑問さえ脳裏に過った。

しかもレストランの名前が七つ星。

店の名前には少し荷が重い。美味しくないものが出てくれば七つ星もとんだ皮肉だ……。

 

「何が良い?」

「何でも良い。任せる」

「それじゃ、このコースを二つ」

 

ウェイトレスに注文をするゲンを見てからメニューを閉じてちらりと周りを見渡した。わりと客は入っているんだな……。

 

「ここの店の料理は食べた事がないから知らないんだけど噂は聞いてて一度来てみたかったんだ」

「……噂?」

 

ウェイトレスが持ってきてくれた水を飲みながらゲンに視線をやればゲンはニコニコと嬉しそうに笑って言った。

 

「食事だけじゃなくてポケモン勝負も出来るんだ」

「ぶっ!」

 

口からぼたぼたと水が零れたが気にせずにゲンの言葉を聞き返した。

 

「よく、聞き取れなかったんだが……?」

「え?ちょ、シンヤ……、水が……」

 

ごしごしと口元を拭いながらゲンを睨み付ければゲンは苦笑いを浮かべる。

 

「食事も出来てポケモン勝負も出来る。ちなみに勝負方法は私とシンヤで組んだダブルバトルだ」

「帰る」

 

そう言って立ち上がろうとした私の腕をゲンが掴んだ。料理来たから!と引きとめるゲンの言葉に渋々再び腰を下ろした。

色鮮やかな料理を口に運びながら向かいに座る男には視線をやらない。だが、まあ料理の味は悪くない。

 

「挑まれればの話だよ。こちらから挑むつもりはないし挑まれなければ普通に食事をして帰れるから」

「……」

 

黙っててごめんな、と謝りながらも笑うゲンを私は睨みつける。なんで食事をしつつポケモン勝負までしないといけないんだ……とは思ったがそういう事を楽しむ人の為の店なんだろう。

なんて場違いな場所に来てしまったのやら、知っていたなら絶対に足を踏み入れない場所だ。

まあ、挑まれなければ良い話だ。さっさと食べて店を出ようと料理を口に入れた時に「あ」と近くで声が聞こえて振り向いた。

 

「やたら強いヒンバスを連れてた人!!」

「誰だお前は」

「え!?お、覚えてないの!?」

 

大きなカバン、腰にモンスターボール、ニット帽を被った青年が私の言葉にうろたえる。

キョトンとこっちを見てるゲンと視線が合ったが私は何も言わなかった。

 

「そりゃ会ったのは随分と前だけど……」

「知りません」

「……もしかして忘れたフリしてない?」

「何のことだか」

「……いや、もう確実に覚えてるよね」

「忘れました」

 

ズイで会っただろ!その時に貴方はイーブイとヒンバスを連れていてポケモンのタマゴも持ってた!!とツラツラと説明してくる青年。

うるさいな、そんな事言われなくても分かってるんだ……。分かってて知らないフリをしてるんだからそのまま通り過ぎて行ってくれれば良いじゃないか……。

 

「忘れたと言い張るならそれはそれで良いさ。今度はボクが勝つ!!ポケモン勝負でリベンジだ!!」

「それが嫌だから知らないフリしてたんだ!」

「知らないよ、この店に居るんだから挑まれたらバトル、でしょ?」

 

私がこの世界で最初に見たトレーナーだ。名前は聞いてないし聞くつもりも覚えるつもりもないが。

私の向かいの席に座ってるゲンによろしくお願いしますと頭を下げる青年を見て私は溜息を吐いた。

 

「結局、貴方はトレーナー?コーディネーター?」

「……」

「彼はポケモンドクターさ」

 

私が黙っていると勝手にゲンが教えてしまった。へぇ、医者だったんだ、そうは見えなかったと呟いた青年は私を見てニッと勝気な笑みを浮かべる。

まあ、初めて会った時の私はポケモンすら知らない奴だったからな……。医者になんて見えるわけがない。今も見えるとは思わないが。

 

「ボクのキルリア、進化してサーナイトになったよ。さあバトルだ!!」

 

青年がボールを投げるのと同時にゲンも隣でボールを投げた。仕方なく私も唯一の今の手持ちのブラッキーのボールを投げる。

サーナイトとグレイシアを出した青年に対してこっちはゲンのルカリオと私のブラッキーだ。

 

*

 

二対ニで向き合うポケモンを見て青年がブラッキーを指差した。

 

「そのブラッキーって、もしかしてあの時のイーブイ?」

「ああ、そうだ」

「やっぱりボクの事を覚えてるんじゃないか!!」

「……あ」

 

知り合い?と首を傾げるゲンに「今、突然忘れた」と言って青年に視線をやる。

青年は呆れたように溜息を吐いたが自慢げにグレイシアを紹介してくれた。別に頼んでないのに……。

 

「貴方のイーブイを見てボクもイーブイを育てたんだ。このグレイシアなかなか美人だろ?」

「そのグレイシア、メスか」

「まあね」

 

良いな、メス。とは思ったが言葉には出さず。そのグレイシアが美人ならうちのエーフィの方がもっと美人だけどな、とも思ったがそれも口に出さない。

青年の怒りではなくメスのグレイシアに怒られそうだ。オスのエーフィの方が美人だぞなんて言ったらな。エーフィ連れて来なくて良かった……。

 

「へー、今は居ないけどシンヤのオスのエーフィの方が美人だと思うけどね」

「ゲン!!私が思ったけど言わなかった事を何故言った!!」

「え、ごめん?」

 

なんか悪い事言った?みたいな顔でこっちを見たゲン。青年はキョトンとしていたがグレイシアに視線をやれば周りの空気が一気に冷えた気がした……。さ、寒いっ!!

こっちを睨むグレイシア……、隣に立つサーナイトは自分を抱きしめるようにしてそろそろとグレイシアから離れた。

 

「シァー、グレィシアー!!」

 

な、なんだ……?

ベシンと尻尾を床に叩きつけたグレイシア……、私が美人じゃないって言うの!!みたいな事を言っている……。

怒らせたの私かな?なんて言って首を傾げたゲンにルカリオがチラリと視線をやった。

機嫌の悪いグレイシアからサーナイトは着実に距離を離して行っている。賢いなサーナイト……。

青年が困ったようにグレイシアの名前を呼んだがグレイシアの機嫌は悪い。そんなグレイシアに怯まずブラッキーがグレイシアに近づいた。

 

「ブラァー」

「……」

「ブラァ、ブラッキィー!」

「シアー!」

 

グレイシアの機嫌が良くなったのか周りの寒さも和らいだ。

まさかブラッキーが世辞の言える奴だとは思わなかったな。キミはとっても美人だと思うよみたいな事を言ったブラッキーの言葉にグレイシアはご満悦だ。

ブラッキー、男前らしいしな。ポケモンの美的感覚も好みなんてのも知らないが、人間で言うイケメンに褒められれば女も満更悪い気はしないんだろう。

寒さが和らいで何よりだ。

 

「シア、グレーシァー?」

「ブラッキィー!」

「……」

「……ブラ?」

 

正直者だもんな、それがお前の良い所だブラッキー……。

 

「グレィシァアアアア!!!」

「ダイヤモンドダストが!!」

「さ、寒いっ!!」

 

ブラッキー!そこはキミの方が美人だよ、とでも言っておけば良かったじゃないか!!とりあえずその場は収まっただろ!!

レストラン内にダイヤモンドダストが舞ってそれはもう綺麗だ、綺麗だが、凄く寒い!!

 

「よし、このままバトルだ!!ルカリオ、とりあえずグレイシアから倒すぞ!!」

「ガゥ!!」

「ささささ寒い……!!凍え死ぬ……、寒いのは嫌いだ……」

「シンヤ!!気をしっかり持て!!」

「うるさい!!元はと言えばお前のせいだろうが!!」

「そこは全面的に謝る。ごめん!!」

「謝ったからって許してやる寛大な心を私は持ち合わせて無い!!!特にお前に対しては!!」

「酷いぞシンヤ!!でも、そんな所も好きだ!!」

「やかましい!!!」

 

その後、バトルどころではなくなり青年のサーナイトを含め、怒るグレイシアをボールに戻す作業に追われた。

ボールが凍った!!と青年が叫んだ時は本気で泣きたくなった……。炎タイプが凄く愛しい。

 

*

 

「大変だったけど、楽しかったな!」

 

帽子に雪を積もらせながら笑ったゲン。

結局、グレイシアは瀕死状態にして青年が抱えて帰って行った。自分のポケモンを制御出来なかったボクはまだまだ未熟だ、なんて言ってお礼を言って帰って行ったが青年は悪くない。

元気に足元を走り回るブラッキーに視線を落としつつ溜息を吐いた。

 

「疲れた……」

「何処かで休むか?」

「帰るに決まってるだろ」

「私たちのデートはまだまだこれからじゃないか、夜まで随分と時間があるし」

「何で夜までお前に付き合わないといけないんだ。帰る」

 

丸一日、シンヤを独占したいんだ……。なんて言って背後から抱きついてきたゲンの鳩尾に肘を入れてやる。

ぐほっ、なんて間抜けな声を上げてその場に蹲った。

 

「あんまり帰りが遅くなるとミロカロス達が怒るからな」

「せっかくのデートなのに……」

「それに夜まで付き合って何になるんだ。夜景なんて私は興味無いぞ」

「夜景も良いけど、大人の夜と言ったら、ねぇ?」

 

何が……"ねぇ?"だ、この馬鹿は。

 

「何を言ってるのかさっぱりだな!」

「そんな嘘ばっかり!!」

 

本当は分かってるくせに!!と喚くゲンの言葉を聞かないように耳を塞いだ。

誰が男のしかもゲンと良い雰囲気を過ごさなきゃならないんだ。二度と会わないかもしれないから今日だけ……、なんて事には絶対に天地がひっくり返っても無いからな!というか私の住んでる所じゃ天地がひっくり返ってるのなんて普通だ!

 

「シンヤ……。私は本当に好き、なんだ……。シンヤの事が……」

「ゲン……。お前も一度死ぬと良い、人生を見つめ直せるぞ」

「え!?ちょ、一度死んだら終わりだぞシンヤ!!それに"も"って何!?お前"も"って!!」

 

頬を赤らめて上目遣いで私を見上げたゲンの言葉を切り捨てる、乙女かお前は。

歩く私の後を追って来たゲンが私の腕を掴んだ。真面目な顔でゲンが私を見つてきたので思わず立ち止まる

 

「シンヤ、誰か殺したのか……?」

「ふっ……」

 

自嘲気味に笑えばゲンはどう捉えたのか顔を蒼くしていた。

というか、私は人を殺せるような度胸は持ち合わせていないけどな。なんせ自分自身も殺し損ねた男だ……。

 

「いや……、シンヤがどんな罪を背負っていたって私はシンヤが好きだからな!」

「……そうか、それは嬉しいな」

「!!」

 

顔を赤くしたゲンが照れたように笑った。

帽子に乗った雪を掃ってやって「帰るぞ」と言えばゲンは渋々頷いた。

 

「懐の深いお前に茶ぐらい出してやる」

「嬉しいよ!」

 

どんな罪を背負っていても好きでいてくれるなんて、やっぱりこの世界の人間は寛容だ……。

これから私がこの世界から消えて、お前から記憶を奪っていっても許してくれるだろうか……?それでも好きだと言ってくれるのだろうか……?

 

私なら……、

私なら、絶対に許さないし……。

 

そんな奴は、

 

大嫌いだ。

 

*





【挿絵表示】

ミロカロスとミミロップ

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