一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「お邪魔します」

 

ゲンを連れて家に帰って来たとは言っても、勿論、反転世界の方に連れて行くわけにも行かないので実家の方だけどな。

連れて行ったらギラティナに怒られる。

 

「ああ、シンヤさんでしたか。お母様なら買い物に出掛けてるんですよ」

 

そろそろ帰って来ると思いますけど、と私のカバンを持ってくれたエーフィ。

カナコさんの女物のエプロンを身に付けたエーフィは女に見間違えられるのも頷けた。ミロカロスの方が女顔だからあんまり気にしてなかったが……、エーフィも女顔だったんだな。

 

「兄ちゃんおかえりー!!後ろの人だれ?」

「知り合いのゲンだ」

 

知り合い以上の関係が良いと文句を言っているゲンを無視してリビングへと向かう。

茶を淹れようとキッチンへと向かおうとしたが私が淹れますよとエーフィに止められてしまった。エーフィが自分から動くのは珍しいな……、カナコさん教育の賜物か……。

 

「どうぞ」

「ありがとう」

「悪いな、それにしてもお前は良い嫁を極めるのか……?」

 

ムスっとした顔をしたエーフィはそっぽを向いた。

向かいに座ってたゲンがオスだろ?と言いながら首を傾げたがこっちにも色々と事情があるんだと適当に返事をしておく。

 

「カズキ、ノリコはどうした?」

「あ、そーだ。部屋でトランプしてたんだった」

 

トイレ行って忘れてた、と言いながら席から立ったカズキはノリコが待っているであろう子供部屋へと走って行った。

 

「シンヤの弟にしては随分と似てないね」

「当然だ。私はこの家の人達の誰とも血が繋がってないからな」

「それなのに実家?」

「寛容な家族なんだ」

 

へえ、と頷きながらゲンが笑った。ゲンの深く詮索して来ない所はわりと助かる。

お茶を飲んでいるとボールからブラッキーが勝手に出て来た。人の姿になって私の隣に座ったブラッキーはエーフィにお茶を催促する。

 

「オレもお茶ー」

「はいはい」

 

テーブルの上にあった饅頭を頬張るブラッキーを見て私は小さく溜息を吐く。

ゲンと他愛無い話をしているとカナコさんが帰って来たらしい。エーフィが玄関まで出迎えに行った。

 

「ただいま、シンヤー!!」

「おかえりなさい」

 

座っている私の背後から抱きついて来たカナコさん。向かいの席に座っていたゲンがカナコさんにニコリと笑みを向けた。

 

「はじめまして、ゲンと言います」

「あら、シンヤのお友達?母のカナコです、はじめまして」

 

友達じゃなくて知り合いだ、と言えばゲンは寂しそうにお茶を啜った。そのゲンの姿を見てエーフィが笑うのを必死に耐えている。

 

「キミは?」

「オレ?オレはシンヤのペット?」

「ぐっ!!!」

 

向かいでお茶が変な所に入ったらしいゲンが咽ている。

私とした事がブラッキーをボールに戻すのを忘れていた……。しかもなんでペット発言……、この私に人間をペットにする趣味があると思われるじゃないか……!!

 

「あらー……、やるわねシンヤ」

「違うぞっ!!」

「キミのお名前は?」

「……えっと、」

 

オレの名前、ブラッキーで良いの?とこちらに視線をやるブラッキーに私は眉を寄せた。ブラッキーに名前!?

待て、待ってくれ、そんなにすぐに思いつかないぞ。変に名前を付けてしまったらエーフィに怒られるだろうし……。

 

「ツキくんですよ、カナコさん」

「ツキくん?」

「ええ、あだ名はツッキーです」

 

アハハと笑ったゲンにブラッキーもニコっと笑みを返す。

素敵な名前ねとカナコさんも全く疑問に思っていない。ゲンに助けられた……、もうクロとか言いそうになってたぞ私は……。

でも、何でツキ?

……月光ポケモンだから、月なのか?これだな、多分これだ。しかしあだ名は別に要らないだろ。

 

「それにしても自分からシンヤのペットだなんて……。そう言うように言われたの?シンヤってばサディスト……、ホント見た目通りね」

 

見た目通り!?

今の聞き捨てならないんだがカナコさん!!

そんな他人の性癖を見た目で判断するのはどうかと思うぞ!!

 

「シンヤに痛い事とかされてない?平気?シンヤの事が嫌になったらすぐ逃げなさいね、あんまりお母さん暴力的なのは反対だから」

「シンヤは優しいよ!!最近はいっぱい構ってくれるし撫でてくれるし、オレはシンヤが大好きだから全然平気!」

 

痛い事なんかされたことないー、と笑うブラッキーにカナコさんは自分の口を手で覆った。

そしてチラリと私の方に視線をやる。

 

「フィーちゃんとツキくん、どっちが本命!?」

 

「だから、どっちも違……」

 

「どっちも本命!?シンヤ、貴方って子は!!」

 

なんか誤解されたまま凄い剣幕で怒鳴られてるんだが……。

笑ってないで助けてくれエーフィ……。

 

「プレイボーイって奴ね!!さすが私の息子!!」

 

怒ってるのかと思いきや笑顔になって親指を立てながらウインクをしたカナコさん。

この相手がカナコさんでなければぶん殴っていたのに……、カナコさんの中で私は一体どういう男になっていくのか物凄く不安だ……。

そんなに節操の無い男に見えるのだろうか、しかも男色の。

実の母親がカナコさんで私が10代だったら確実に非行に走ってたな。

私は泣きながら家を出るぞ……。

 

*

 

そろそろ帰るよ、そのゲンの言葉になんとかその場はお開きとなった。

エーフィとブラッキー両方お嫁さんにくれば良い、なんて恐ろしい事を言っていたカナコさんの言葉は忘れてしまおうと思う。

結局すっかり遅い時間になってしまったので私もエーフィとブラッキーを連れて帰る事にした。にやにやと笑うカナコさんは見なかった事にする。

 

「嫌なら怒鳴ってでも否定すれば良いのに」

 

シンヤってそんなに押しに弱かったっけ?とゲンがボーマンダをボールから出しながら言った。

そうだな、と簡単に返事をしておく。隣に居るエーフィが訝しげな視線を私に向けた。

ずっとこの場所で生きていく事になるなら、それはもう懸命に否定しただろうな……、その言葉は私の心の中でだけ呟かれた。

冗談じゃないと怒りたい気持ちは無いわけではない。

でも、皆の記憶は消える事になる。

唯一残る私の記憶にはガッカリしたような表情を浮かべるカナコさんよりも嬉しそうに笑ってるカナコさんの表情を残しておきたいから……、私は強く否定しないのかもしれない。

なんて自己満足……、これは私の為だけの記憶を作ってるにすぎない……。

 

「シンヤ?」

「ああ、なんだ?」

「……まさか、エーフィとブラッキーを嫁に貰っても良いかも……、なんて思ってないよな?」

「思ってるわけないだろ」

「思ってないなら否定してくれよ、こっちがドキドキするだろ」

「ゲン、知ってるか?男は婿にはなれても嫁にはなれないんだぞ」

「……知ってます」

 

ガクンと項垂れたゲンがのそのそとボーマンダの背に乗った。

じゃあな、と手を振れば「またね」と手を振り返される。またな、とは言葉に出来ず私はぎこちない笑みだけをゲンに返した。

 

反転世界に入り家への帰路をぼんやりと歩く。隣を歩くエーフィは未だ訝しげに私を見ていた。

ブラッキーと手を繋ぎながら空に浮かぶ地を眺めた。大きく手を揺らしながらブラッキーがご機嫌に鼻歌を歌っている。

 

「シンヤさん、貴方は最近……、様子が変です」

「そうか」

 

軽く視線をやればエーフィはむっとしたように私を睨んだ。

 

「最近すごい優しいもんなー」

 

あはは、と笑いながら言うブラッキーの言葉にエーフィは頷く。

優しいと様子が変だと認識される人間である自分に少しだけ悲しくなった。そんなに冷たい人間か、私は……。

 

「何よりも仕事優先、自分の面倒な事は絶対にやらないと言い張ってた人間が……。最近はどうです、仕事よりも私たちを優先して面倒な事も仕方ないなと一言で了承して受け入れてしまってる」

「なにか悪い事なのかそれは……」

「いいえ、良すぎて気持ち悪いです。ミロカロスとの一件で考えを改め直したとしてもこれは異常過ぎる変化ですよ」

 

ミミロップも怪しんでいるのか甘えにくい……とぼやいてました。と続けたエーフィの言葉に私は内心なるほどと頷いた。

最近、あんまり抱きついてこなくなったとは思ってたんだ。その分、ミロカロスがべったりになっているがそれにもあまりミミロップは怒らないし。

 

「何かあったんですか?」

「私がお前たちを思って接する事に不満でもあるのか」

「シンヤが手持ちラブ!愛してるぞ可愛いお前たち!なんて言い出したら私は胃に穴が開いて血を吐きます」

「ヤマトを見習っているというのに……」

「優しく接してくれる分には嬉しいですよ、でも貴方らしくないんです。シンヤさんはシンヤさんで居てくれないとこっちの調子が狂うんですよ。むしろ"うるさい喚くな静かにしろ!!"と怒鳴ってるシンヤさんの方が私は落ち着きます」

「私の血管を破裂でもさせたいのかお前は……」

 

クスクスと笑ったエーフィ。

オレはどんなシンヤでも好きだ!と言いながら笑顔を向けてくれたブラッキーの頭を撫でる。

 

「変ついでにプロポーズでもしてやろうか、エーフィ?」

「や、やめて下さい!!本当に胃に穴が開くどころか全身の毛が抜け落ちそうです!!」

 

顔を真っ青にさせたエーフィを見てブラッキーがケラケラと笑った。エーフィの自慢の毛が抜け落ちる姿を想像するだけで哀れだ……。

 

「シンヤシンヤ!オレにして!」

「んー……。ブラッキー、三食昼寝付きで私と結婚してくれ」

「おやつも付けてくれないと嫌だ」

「贅沢だな」

 

あと毎日ブラッシングと週に一回遊びに行く事と起きた時と寝る前に頭を撫でてくれないと駄目ー、と何とも面倒な条件を並べるブラッキー。

横でエーフィが肩を震わせながら笑うのを堪えていた。

 

家に着いて玄関の扉を開けるとミロカロスが勢いよく飛びついて来た。

 

「シンヤー!!!」

 

すかさずエーフィが玄関の隅に移動し避難していた。お前だけずるいぞエーフィ……。

苦しいくらいに抱きついてくるミロカロスはまた嗚咽を漏らしながら泣いていた。今度は一体何の理由で泣いているのやら。

 

「どうした?またミミロップに馬鹿にされたのか?」

「う~……」

 

ぶんぶんと首を横に振ったミロカロス。

なんなんだ、と思っているとリビングからミミロップとヤマトが出て来た。私の前でミミロップが腕を組んで仁王立ちする。その顔は明らかに不機嫌だ。

 

「なんだ」

「なんだじゃなーい!!!ヤマトから聞いたぞ!!聞き捨てならない事を聞いてしまってワタシは口から心臓が飛び出すかと思った!!」

 

体の構造的に口から心臓が出るのは絶対に不可能だけどな、と思いつつミミロップの言葉に頷いた。

 

「誰とデートしたのか吐け!!」

「ゲン」

「なぁぁぁあんですとぉおおおお!?!?」

 

バーンとリビングの扉を勢いよく開けたのはツバキだった。

遊びに来ていたらしい、ギラティナは何処かに避難しているんだろうな……。

 

「聞き捨てならない事を聞いて、あたしの口から心臓が飛び出すかと思ったよ!!」

「それワタシがさっき言ったんだけど……」

「表に出やがれシンヤさん!!」

「私はまだ家に入ってないぞ、ツバキ」

 

ツバキは数回瞬きをしてうむと頷いた。

そのままリビングへと走って戻って行ったかと思えば、自分のカバンを持って戻って来た。

 

「エンペラー、ゴォオオ!!!シンヤさんをフルボッコだ!!今日は絶対に許さん!マジ許さん!ゲンさんとデデデデデデートなんてぇえええ!!!」

 

ボールから出て来たエンペラーはすぐに人の姿になったかと思えば私に視線をやって、すぐにツバキの方へと振り返った。

 

「ねえ、シンヤさんに喧嘩売るって事はこのシンヤさんにくっ付いてるミロカロスも敵にするんだよね?っていうか、シンヤさんフルボッコってこの反転世界でそんな事言ったら逃げ場ないんだけど」

「文句言うな!!」

「文句じゃないよ正論しか言ってないよ。ツバキの後ろで仁王立ちしてるウサギが今にも蹴りかかりそうなのは良いの?」

「ちょちょちょ、ミミロップ!!どんだけあたしの事嫌いなのさ!!助けてエンペラー!!愛しのご主人様がピンチだよぉお!!」

「蹴られれば良い」

「エンペラァァアアア!!ポッチャマの時からずっと一緒だったじゃないかぁああ!!」

 

ミミロップに追いかけ回されるツバキをエンペラーは冷ややかな目で見守っていた。懐いてはいる、はずだよな?

まあ、良いやと思いつつ家に入ればヤマトに呼び止められた。

 

「ごめんよシンヤー!言うつもりは無かったんだけどつい口が滑って……」

「ああ、まあ別に良い」

「でも何でデート?」

「前にキッサキシティからゲンに送って貰っただろ、あれのお礼みたいなもので付き合っただけだ」

「あ、そう……」

 

大した事じゃなかったね、と呟いたヤマト。

抱きついていたミロカロスが離れたかと思うとミロカロスは頬を赤らめながら顔に笑みを浮かべた。

 

「俺様ともデートしよ?」

「そうだな、明日行くか」

「やった!!」

 

トゲキッスに自慢してやろうとリビングへ走って行ったミロカロスを見送った。

うろたえながら私に視線をやったヤマトが「マジで?」と言葉を漏らす。

 

「明日、買い物に行こうと思ってたんだ」

「それデートじゃないよね?ただの買い物だよね?」

「一緒に出掛ければ満足するだろ」

 

それに男同士でデートというのも馬鹿らしいよな、と続ければヤマトは苦笑いを浮かべた。

 

「でも、シンヤならめんどくさいから嫌だ。なんて言うかと思ったよ」

「最近の私は優しくて変らしいぞ」

「変だねー、まあみんな何だかんだで嬉しそうだから良いと思うけど」

「……そうか」

 

それなら、良かった。

 

 

その日の晩、夕食の用意をしているとミミロップとミロカロスの怒鳴り声が聞こえて来た。最近減って来たと思ってたのにな、と思いつつクリームシチューをかき混ぜた。

隣でトマトを切っていたチルットがチラリと私の方に視線をやったから、私は小さく頷いた。

 

「何してるんだ」

 

料理をチルットに任せてリビングに行けばミロカロスがミミロップに泣かされていた。

本当におかしな話だ、レベルならミロカロスの方が明らかに上だというのに、力で勝てても言葉では全く勝てないという……。

ミロカロスは語彙が少ないんだな……。

 

「この低能が調子に乗りやがるんだよ!!」

「俺様はトゲキッスと喋ってたんだ!!話に入ってくんなっ!!」

「さっきからトゲキッスに明日シンヤとデートする約束したんだーって同じ事ばっかり言ってんじゃねぇか!!聞こえてくるワタシにも聞かされてるトゲキッスにも迷惑だこの馬鹿!!」

「お、俺は別に……」

 

大丈夫なんですけど……と言ったトゲキッスの言葉は最後までミミロップには届かない。

睨み合う二人の間に入るトゲキッスが邪魔だと押しのけられた。

 

「……うるさい」

 

取っ組み合いの喧嘩になりだした二人を止めに入ろうとトゲキッスがウロウロと忙しなく歩き回っている。

髪を引っ張り頬を引っ掻き、その行動の後に治療するのは一体誰だと思っているのか……。

 

「うるさいっ!!!!」

「「!?」」

「家の中で暴れるな!!これ以上暴れるなら家から蹴り出すぞ!!」

「「……」」

 

二人は口をへの字にして不満気に私を見上げた。

そうかそうか、そんなに不満か……。すぐに"ごめんなさい"と謝罪の言葉が出てこなかったあたりは私の躾け不足だったみたいだな。良い度胸だ……。

 

「お前たちここに正座して並べ……」

「え!?ちょ、マジで!?これから晩ご飯……」

「シンヤ~……」

「私の言う事が聞けないのか……?」

「「……ッ」」

 

この後、きっちりニ時間説教した。

 

「ミミロップ!お前はミロカロスに対して馬鹿にするような発言や喧嘩越しになるのはやめろ!!お前が突っ掛からなければ喧嘩の原因にはならないんだぞ!!」

「……はい」

「ミロカロス!お前はすぐに泣くからミミロップに馬鹿にされるんだ!怒られるような行動をとったらすぐに謝れば良いだろ!!俺様は悪くないの一点張りだからミロップを怒らせる!!原因を作ってるのがお前じゃないわけがないんだからな!!」

「……はぃ」

「私だってこんな説教したくないんだ。分かったな?」

「「はい、ごめんなさい。反省します」」

 

揃って頭を下げたミミロップとミロカロス。

こういう時だけ本当に息がぴったりだなお前たちは……、怒られ慣れしている気がしてならない……。

私が溜息を吐けば後ろでエーフィがクスクスと笑った。

 

「やっぱりシンヤさんはそうでなくては」

 

私の胃に穴が開きそうだ。

 

「(というか、そもそも二人の喧嘩の原因は決まって主の事だと思うのは自分だけだろうか……)」

「腹減ったー……」

「ラルゥー……」

 

*





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トゲキッスとサマヨール
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