一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「……シンヤ、何その貼り紙」

 

リビングで黙々と作業をしていたらヤマトが家に来た。来るなり人を小馬鹿にしたような視線を送ってくるので睨み返す。

うるさいな、私だってこんな事はしたくないが私には長い時間はおそらく残されていないんだ、思い立ってすぐに行動しなければ明日には出来ないかもしれないじゃないか。

 

「"セクハラ禁止!!従業員にお手を触れないで下さい、不純な行為を行った場合その場で罰金1000円から"……って、何これ……」

「ポケモンセンターと育て屋に貼る」

「しかも罰金1000円、から?」

「1000円払ったら何やっても良いと思われるのは癪だろ。行為の度合いによって金額を上げるんだ」

「なにその必死な対策!!良いの!?そんなのポケモンセンターとかに貼っても!?」

「ばば様とジョーイには許可を貰ってきたから良いんだ」

「許可貰えたんだ……」

「没収した罰金はポケモンセンターと育て屋が直接受け取っても良いと言ったら二つ返事だった」

「わあ、悪徳商売みたいだね」

 

乾いた笑みを浮かべたヤマトが貼り紙をぼんやりと眺める。

セクハラも減るかもしれないし、減らなかったとしても利益になるからという理由で貼り紙を作った私は完成した貼り紙を見て小さく頷いた。

うん、良い出来だ。

 

「っていうかミミロップがわりと男の人から絡まれてるなんて知らなかったなー……」

「私も知らなかったがジョーイから聞くとからかわれたり絡まれたりするのはよくあったらしい」

「愛想悪いから?」

「愛想悪いから」

 

ミロカロスは愛想良い分、更に絡まれるんだね。と呟いたヤマトの言葉に私は頷いた。

 

「ミロカロスはどうやらオスにモテるらしいぞ」

「え!?」

「見た目もあれで性格も結構女々しい所があるからかもな」

「エーフィも見た目美人さんだけどなー……」

「あれは雄々しく逞しい美人だ」

「ああ、まあね……」

 

あと言葉がキツイ。と付け足せばヤマトは苦笑いを浮かべる。

それに人の姿の時でもエーフィはブラッキーと一緒に居るから絡まれるという事も無いだろう、あまり人の姿になって出歩くという事をしない奴でもあるしな。

 

「ミロカロスが出歩く時はなるべく一緒に居るようにトゲキッスに言っておいたし、ジョーイにもなるべくミミロップに人の姿での仕事を与えないようにも言っておいたから大丈夫だとは思う」

「ふぅん……」

「……何だ?」

「いや、なんか良く考えてるなぁと思って」

 

嬉しそうに笑ったヤマトを見て私は内心罰が悪い気持ちになった……。

全て、私が居なくなってから困らないように……と、まるで罪滅ぼしのように物事を解決しようとしている。そんな私の気持ちをヤマト達が知るよしもない。

 

「最近のシンヤは別人みたいだね」

「……」

「でも、あんまり無理しちゃダメだよ」

「……ああ」

「あとね、別人ついでに僕の仕事も手伝って」

 

えへ、と笑ったヤマトに持っていたマジックを投げつける。スコーンと心地よい音を立ててマジックはヤマトの額(ひたい)に当たった。

 

「いったぁああああ!!!!」

「サマヨールだけじゃなく私までこき使うのか」

「猫の手も借りたいんだってホント!!」

 

猫の手、使えるポケモンを呼んでくれば良いじゃないか。

お願いお願いとうるさいヤマトを見て溜息を吐く。この貼り紙はチルットに持って行ってもらうか……。

 

*

 

研究所に来ればサマヨールがヤマトを睨み付ける。

 

「ヤマト……、お前、主まで使う気か……」

「サマヨールの言動はシンヤと似てきたね」

 

頬を膨らませたヤマトに山積みの書類を渡されて溜息を吐く。

サマヨールの隣に座ればサマヨールが心配したように私の顔を覗きこんだ。

 

「主、大丈夫か……?」

「何がだ?」

「主は主の仕事があるだろう?」

「大丈夫だ、朝方に終わらせたからな」

 

さすが主、と目を細めて笑ったサマヨールに笑みを返す。向かいの席に座ったヤマトがニッコリと笑った。

 

「さ、片付けようか!!」

「「……」」

 

一人で片付けろ、そう思った言葉は喉までやって来たが何とか飲み込んだ。

 

*

 

さほど難しい内容ではない、ただ量があるだけ……。

手慣れた手付きで片付けていくサマヨールを余所に向かいに座るヤマトはだるそうに頭を垂れて呻っている。どうやら疲れて来たらしい。

 

「僕、小さい頃からこういうの苦手なんだよ……。書き写しとか凄い嫌い……」

「単純な作業を繰り返すだけだろ」

「う~……、ちなみにシンヤは何が苦手?」

「は?」

「小さい頃から苦手なものってあるでしょ?」

「……苦手なもの」

 

小さい、頃から?

と、言われても……、小さい頃の記憶が一切無い私にはどうにも答えようがない……。

 

「もしかして無いの!?苦手なもの!?」

「……よく分からない」

「あんまり苦手っていうのを意識した事がないってこと!?なんかそれ凄いね……」

 

そういうわけではないんだが……。

私の曖昧な返答にヤマトは勝手に納得してしまったのかサマヨールにも同じ質問をした。

 

「サマヨールは?」

「ポケモンの自分に聞かれてもな……」

「あはは、まあ確かに!でもヨワマルの時とサマヨールになってからの時、何か変わった事とかない?進化前って子供時代みたいなものでしょ?」

 

それだと進化を確認されていないポケモンはどうなるのだろうか……。一瞬そんな疑問が脳裏を過った。

 

「自分は……、物凄く馬鹿だったと思う……」

「な、なんで!?」

 

凄い賢いよ!?と慌てるヤマトを見てサマヨールは困ったように笑った。

そういえばツバキがヨマワルは全然言う事を聞かないとか言ってたな。バトルを放置して遊びに行ったりもしたとか。私は全く想像出来ないが……。

 

「ツバキの命令を全く聞かなかったし、今思うと申し訳ないが……。自分はツバキを馬鹿にしていたんだ……」

 

まあ、事実あんまり頭の良い子ではないと思うが……。

 

「えー……、真面目なサマヨールが?全く想像出来ないんだけど……、なんで?」

「……認めたくなかったのかもしれない。子供に従う自分が嫌で自分にはもっと相応しい人間が居るはずだと思っていたから……。自分は自分を物凄く過大評価していて自分は誰よりも優れたポケモンだと思っていた……」

 

とても愚かだ、とそう呟いてサマヨールは小さく溜息を零した。

更生した元ヤンみたいだな……と思いながら特に口は挟まずに書類を片付ける。

 

「でも、結果的に主の下にこれて良かったと思っている……」

「そっかー」

「……」

 

サマヨール良い子だねー、なんて笑っているヤマトがチラリと私に視線を向けた。

 

「何だかんだでシンヤってポケモンに懐かれるよね、結構扱い雑なのにね」

 

それは私が異質な雰囲気を持っているからなんだが……。まあ、口が裂けても言えない。

あと扱いが雑なのは余計なお世話だ。

 

「シンヤの手持ちは優秀な子が揃ってるよね、これは近い未来にはシンオウだけじゃなくて全地方に名を轟かせるポケモンドクターが誕生するんじゃない!?」

「主はシンオウに名を轟かせているのか……?」

「うーん……、まあね!!」

「今、適当な返事をしただろう……」

「いやいや、そんな事ないって!!ね、シンヤ!!有名人になったら僕の事も親友として紹介してよね!!そしたら僕は各地方の可愛い沢山のポケモンとも出会えるチャンスが……」

 

良いね、素晴らしい未来だ、と一人盛り上がるヤマトにサマヨールは呆れたような視線を向ける。

私は一言も返さない。近い未来など無いのだから返事をしようにも出来ないのだ。

まあ、未来があったとしても……。ポケモンドクターとして各地方を巡るはめになるのは遠慮したい。

 

「沢山のポケモンと仲良くなるのが僕の小さい頃からの夢だからね。シンヤに協力してもらわないと」

「他力本願だな……」

「あ、はは……、シンヤの将来の夢はなんだった?」

「……さあ」

 

相変わらず返事素っ気無いな、とヤマトが肩を落とした。

過去の話も未来の話も、答えを求められても私には答えられる答えなど無いのだ……。

 

「主……?どうかしたか……?」

「いや、なんでもない」

 

ヤマトの仕事を終わらせて時計を見れば随分と時間が掛かっていた。仕事を溜めた張本人は途中で頭が沸騰したとか言って床に寝転がり眠ってしまった。

 

「サマヨール、そこの馬鹿を蹴り起こして良し」

「……考えておく」

 

どうするか悩んでいるのかヤマトを見降ろしたサマヨールに先に帰るぞと一声掛けて私は研究所を後にした。

とりあえず貼り紙がちゃんと貼られているかどうかを確認しないとな……。

 

*

 

ポケモンセンターに入ってすぐに貼り紙が視界に入った。ポケモンセンター内には怪しい貼り紙が異様に目立つ……。

嫌だな、こんなポケモンセンター。自分で作ったけど……。

 

「あら、シンヤさん」

「貼り紙が何処に貼られたのか見に来たんだが……」

「あの貼り紙、凄く良いですよ」

「なんだ?セクハラが無くなったのか?」

「思わぬ収入が入って上々」

 

ミミロップ……、すまん……。

機嫌の良いジョーイとは対照的に凄く機嫌が悪いかもしれないミミロップに心の中で謝った。

 

「でもシンヤさんがあんな貼り紙を作るなんて、私ビックリしちゃいました」

「……そうか?」

「らしくない事しちゃって」

 

フフフと笑ったジョーイは何処か嬉しげだったが私は内心複雑だ。

 

「らしくない、ついでに……」

「さーて、そろそろ育て屋に行かないとなー」

「……」

「……」

「……チッ」

「……っ!」

 

笑顔のジョーイの視線を感じつつ、私は逃げるようにポケモンセンターから出た。背後に視線が突き刺さる……。

ジョーイなんて嫌いだ。

 

少し不貞腐れながら私が育て屋に入るとばば様がニコリと笑みを向けてくれた。ちゃんと壁には貼り紙が貼ってある。

ポケモンセンターよりはまあ……、マシかな、雰囲気的に……。

 

「ばば様、あんまりミロカロスに変な躾けをしないようにしてくれ……」

「なーにを言うか、躾けのかいあってミロカロスは随分と可愛らしくなったじゃろ」

 

オスに可愛らしさを仕込むのはどうかと思うが……。

ばば様の躾けのせいでミロカロスは随分と女々しくなって口調まで最初の頃とは変わった気がする……。そのうち、自分の事も俺様じゃなくてアタシとか言い出すんじゃないだろうか……、ツバキみたいに……。

 

「頬笑みで男を落とすくらいには成長したからの」

 

やめてくれ、本当にホステスの女みたいだ。

 

「シンヤもぐっと来るかもしれん」

 

そうだな、ミロカロスがメスだったらありえたかもな。

最近はミロちゃんへ、なんて言ってプレゼントやら花束やらをよく貰うんじゃとばば様が自慢げに言う。ばば様はミロカロスをどうしたいのか甚だ疑問だ。

 

「ミロちゃんに会いに来ました。なんて言ってポケモンを預けに来る客もおってな。育ちもしとらんポケモンを連れて帰ってまた預けに来るというのを繰り返しとるんじゃ」

 

ますます怪しい店になって来たな……。

まあ、それで育て屋が儲かっているならそれはそれで良いのかもしれないが……。ミロカロスは良いのだろうか……、アイツ言われたら何でもするのか……?

 

「ミロカロスは庭に?」

 

頷いたばば様の横を通って庭へと行けば、庭の隅っこでポケモンの姿のまま珍しく長い体をまっすぐにして寝転がるミロカロスが居た。

一体って言うより、一本って感じだな……。

 

「ミロカロス」

「……ミロ!?」

 

びょいんと飛び跳ねたミロカロスがうろたえながらオロオロと周りを見渡した。

随分と挙動不審だな……。

ミロカロスのうろたえる様を傍観していると落ち着いたのか人の姿になったミロカロスが恐る恐るといった様子で私を見上げた。

芝生に座りこむミロカロスに視線を合わせる為、腰を下ろせばミロカロスの顔がぼっと真っ赤になった。

な、なんだ……!?

 

「どうかしたのか……?」

「ななななななんでもないっ!!!」

 

ブンブンと首を大きく横に振ったミロカロス。首がもげそうなほど振らなくても……。

それにそんな顔を真っ赤にしたうえに、どもりながら否定されても説得力がないんだが……。これで誤魔化せると本気で思っているのだろうか……。

真っ赤な顔のまま視線を泳がせるミロカロスは怪しいがまあ良い、それは置いておこう。

 

「ミロカロス、あのな」

「はイ!!」

 

声が裏返ったし、別に今のタイミングで返事は求めて無いんだが。

 

「ばば様に言われても嫌なら律儀に従わなくて良いからな」

「……え?うん、分かった……」

 

本当に分かっているのだろうか……。

キョトンとした顔のまま頷いたミロカロスと目が合えば、また顔を赤くさせて視線を逸らされた。

これは照れている赤面と認識して良いのだろうか……。私と向きあうと恥ずかしい理由でもあるのかもしれない。

なんとも言い難いこの微妙な空気。隠し事をされているのは分かるが何だろう。彼女と結婚するんです、なんて言って嫁でも連れて来るのだろうか……。いやそれ以前にポケモンって結婚するのか……?

 

「……入籍する戸籍があるわけじゃないしな」

「え?え?な、なんか言った……?」

「いや、別に……」

「そ、そっか……」

 

顔を真っ赤にさせたまま居心地が悪いのか落ち着かない様子のミロカロスはチラリと私を見たり俯いたり……。忙しなく視線を泳がせている。

 

「何か私に言いたい事でもあるのか?」

「え!?えと、えーっと……、あの、その……あー……」

 

茹で上がるんじゃないかと思うぐらい顔を真っ赤にさせてミロカロスがもじもじと手を動かしながら視線を泳がせる。

本当に挙動不審だな……。

口を開いたり閉じたり、視線を合わせたかと思えば逸らして。

あーだのうーだのと呻るばかりでミロカロスはなかなか話をしない。気の長い方ではないのでさすがに少しめんどくさくなってきた……。

 

「あ、のな!!」

「なんだ?」

「あの……その……」

「……」

 

エンドレス!!!いつまでこの会話といえない会話を続けなければいけないのか。

あのな、と言おうとしたミロカロスになんだ?と返せばミロカロスは視線を逸らしてまた口籠る。これをもう何回繰り返した?どれだけ繰り返せば良い?帰りたくなってきた、なんかもう最初は気になってたけど心からどうでもよくなってきた。

別に聞かなくてもミロカロスが変なだけで死ぬわけじゃないし。

 

「……あー……」

「ミロカロス、言いたくないならもう良い」

「ぅえ!?」

「先に帰ってるぞ」

「……あの、な!!」

 

なんだ、とはもう聞かない。

立ち上がった私の腕を掴んだミロカロスがパクパクと口を開閉させる。

 

「シンヤ……」

「……」

 

俯いたかと思えばミロカロスがパッと顔をあげた。

頬を赤くしたミロカロスと視線が合う、一瞬視線を泳がせたがすぐにミロカロスは私と目を合わせた。

潤んだ目で私を見つめて来たミロカロスは首を少しだけ傾げる。

 

「俺様もちゅーして、欲しい……」

「……」

「……だ、駄目?」

「……」

 

無言の私に対してどう思ったのか、私が再びミロカロスの前に座れば怯えたように私を見た。そのミロカロスの鼻を摘まんで無理やり俯かせる。

うっ、と呻き声をあげたが鼻を摘まむ手は離さない。

さーて……、この馬鹿をどうしてくれようか……。

いまだ鼻を摘ままれたままのミロカロスはじたばたともがいているが今はどうでもいい。

なんなんだコイツは、ばば様の躾け効果か何かしらんが何処までも女々しくなって……。一瞬、女に見えてしまった私の目が悪いのか!?

「シンヤもぐっと来るかもしれん」

勘弁してくれ、私はどちらかと言うとそりゃ美人の方が好きだ。男とはいえ美人の方が見る分には良いとは思う。だが美人とはいえ男が女の色気を纏うのはどうかと思うぞ!!そしていじらしい仕草をするな!!

ばば様のしてやったりな顔が思い浮かんで物凄く悔しい気持ちになった。

 

「シンヤ~!!!痛いし苦しい!!」

「……ああ、悪い」

 

ふはぁ!!と大きく息をしたミロカロスは赤くなった鼻を擦った。

恐る恐ると私の方に視線をやったミロカロスは私を見てびくっと肩を揺らす。

 

「やっぱり、怒った……?」

「別に……」

「でも!!俺様もシンヤとちゅーしたい……!!ギラティナだけずるいー……!!」

 

ボロボロと涙を流して泣き始めたミロカロス。昨日のことをずっと考えていたのだろう。考えていたから変な寝転び方をして一本の生物になっていたのかと思うと少し面白い。

 

「ミロカロス、泣くな」

「じゃあ、ちゅう……」

「駄目だ!!」

「っ……なんで!?」

「駄目なものは駄目だ!!」

「ギラティナは良いのになんで俺様は駄目なの!?ねえ!!なんで!?」

 

なんでー!!と言ってまた泣きながら縋り付いて来るミロカロス。

口が裂けても「今、手を出したら後に引けなくなりそうだから」とは言えない。セクハラ禁止の貼り紙を作った張本人が手を出すなんて馬鹿な話があってたまるか……。絶対に罰金1000円じゃすまない……。

 

「シンヤ……、ひぐっ……、俺様のこと、嫌い、なの……?」

「……」

「うわぁあああん!!シンヤが何も言ってくれないぃいい!!!」

「……嫌いじゃない」

「……なら、好き?」

「……」

「なんで黙るの!?ねえ!!なんで!?」

「すまん」

「えぇぇぇ!!!なんでぇ!?」

 

わんわんと泣くミロカロス、酷い有様だ……。いや、まあ泣かせたのは私なんだが……。

私も好きか嫌いかと聞かれればそりゃミロカロスの事は好きなんだが……。ここで好きと答えれば当然「じゃあ、ちゅうして」と返って来るのが目に見えている。

嫌いじゃないと答えるので精一杯だ。もう勘弁してくれ……。

泣き続けるミロカロスに何も言わず黙ったままの私、暫くそうしているとミロカロスが泣きやんだ。

まだぐすぐす言っているが……、顔を上げたミロカロスの目と鼻は真っ赤になっていた。い、痛々しい……。泣き腫らした顔だ……。

 

「落ち着いたか……?」

「……」

 

コクンと頷いたミロカロスは少し不貞腐れたような表情だった。

カバンからタオルを取り出してミロカロスの涙に濡れる顔を拭くとまたぼろっとミロカロスの目から涙が零れる。

よくもまあここまで泣き続けられるものだ……。

 

「シンヤ……、怒ってない……?」

「怒ってない」

「ホントに?」

「ああ」

「……」

 

口を一の字にしたミロカロスは泣きながらその場で立ち上がった。

お互いに座った状態だったので私は立ち上がったミロカロスを目で追い見上げる。

 

「シンヤのバカ!!!」

「……」

 

まあ、……今日は許す。

私も自分が凄く馬鹿だと思っていた所だったし……、と思いながらミロカロスに視線をやればミロカロスはキッと私を睨みつけた。

 

「シンヤの意地悪!!」

「……」

「でも、スキ!!!」

 

言葉と同時に"ちゅ"と音を立てて軽く触れるだけのキスをされた。

あまりにも突然過ぎて状況を理解出来ずに私がパチパチと瞬きをすればミロカロスの顔が一気にぼっと赤く染まる。

 

「うわぁああああああ!!!」

「……」

「シンヤのバカー!!!イケメンー!!」

 

走って逃げて行ったミロカロスをぼんやりと目で追ってから私は小さく息を吐く。

色々と言いたい事はあるがまあ飲み込んでおこう……、全く……。

 

「……可愛いじゃないか」

 

笑みと共に思わず零れた言葉に慌てて口を手で塞いだ。

辺りを見渡してから溜息を吐く……。

ああ、もう私は何を言っているのか。自分で自分の考えている事が分からなくなってきた……。

 

「とりあえず……、ギラティナ。お前とは後でゆっくり話をするからな」

 

と、見ているかもしれないので言ってみた。

 

***

 

(助けてチルットォオ!!!)

(ギラティナ様、どうなさったんですか?)

(なんでかバレてたぁあああ!!!)

(???)

 

*


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