一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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※ぶっとび超展開注意


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本当に突然で、呆気に取られている間にシンヤは消えてしまった。

シンヤは何処から来たの?なんでポケモン達を連れて行けないの?どうしてアンノーン達が?

別れが近づいていたから僕達やポケモン達と少しでも多くの時間を過ごそうとしてたの……?

こんなお別れってないよ、悲しくて苦しくて辛い……。

 

動揺する僕を余所にイツキさんとカナコさんは僕達ほど悲しんだ様子は見せなかった。シンヤだしなぁなんて言って、今日は良い思い出になったわねって笑ってみせて、カズキくんとノリコちゃんを抱きかかえて帰って行った。

血は繋がってなくてもシンヤの両親なんだ……って少し心が温かくなる。

シンヤ的に言うと「会えなくなるといっても死んだわけじゃあるまいし……」って感じかなぁ……。

うん、僕の立場にシンヤが居たらきっとそんな感じに言ってポケモン達を無理やりボールに戻して家に帰るよ。きっとそう。

 

僕はポケモン達を連れて反転世界に行った。

シンヤの部屋に行ってみたら部屋は綺麗に片付けられていた。医学関係の本しか残っていない。ベッドもまるで使われていないみたいで。ただの物置部屋みたいな印象を受けた。手紙か何か残っていないかと机の引き出しを開けたけど何も無い。

本当に何も無い。

シンヤがここに住んでいたというのが信じられないほど何も無い……。

机の引き出しという引き出しを確認して何も無い事が分かると小さな溜息が零れた。するとリビングの方で誰かの怒鳴り声がした。慌てて僕はリビングへと走る。

 

「テメェ!!知ってたのに何で言わなかった!!」

 

ユクシーに掴みかかろうとするミミロップをトゲキッスが懸命に止めていた。ミミロップから少し距離を取ったユクシーは僕の方へと顔を向けてから小さく頷いた。

 

< シンヤさんの頼みを聞いたまでです……、シンヤさんが貴方達に本当の事を話して帰られたなら我はお話します >

「何をですか……」

 

エーフィが眉間に皺を寄せる。

ユクシーの傍に居たアグノムが僕の所へと飛んできたので僕はアグノムを抱きかかえてユクシーへと近づいた。

 

< 我は貴方達の記憶を消すようにシンヤさんに頼まれました。シンヤという人間はこの世に存在しなかった……。貴方達の中からシンヤという人間が消えるのです。だからシンヤさんは何も言わずに帰るつもりだった。それが貴方達にとって一番だと思ったのです >

 

シンヤが消える、存在しなかった事になる。

何もない物置のような部屋を思い出して僕は目を瞑った。シンヤが何も言わず消えていたら、あの部屋に疑問は持たなかっただろう。

でも、シンヤは最後の最後で僕達にちゃんと話す事を決めた。

シンヤが居なくなった。この状況になって僕は色々と思い出す。シンヤは自分が居なくなった後の事をちゃんと考えてた……。不自由の無いようにポケモン達に頼る人間が出来るように、気付かれないように一人で……。

 

トゲキッスが泣きだした。

さっきまで怒っていたミミロップが驚いてトゲキッスの背を擦る。

 

「シンヤが、一番……辛い、です……!!」

 

そうだね、きっと僕が思ってる以上にシンヤは苦しんだに違いない。

それでも笑ってた……。

一生の別れを悲しまないはずがない。その別れを告げずにみんなの記憶から消えようとした。でもシンヤは別れを告げた。

何を思って頭を下げたのか、どれだけ悲しみながら僕にボールを渡したのか、無表情で心の内は読めなかったけどシンヤはきっと泣いてた。

 

< 我は貴方達の記憶を消す事が出来ます、どうしますか?忘れますか?シンヤさんの事を >

「……忘れない!!!」

 

声を荒げたのはミロカロスだった。

目一杯に涙を溜めて泣くまいと堪えているのが分かる。

シンヤを責められる理由がない。

ずっと黙っていたのは酷いと思う、でもそれは僕達を思っての事だった。最後の最後で全てを話して行くのはもっと酷い、でもそれは僕達を信じたからこその優しい裏切りだった……。

僕達に嫌われたかったのか、呆れられたかったのか、はたまた見離されたかったのか……。

僕達がシンヤを嫌いになんてなれるわけないのにね。

 

「一つ、聞きたい事がある……」

< なんですか? >

「主を、何故アンノーンが連れて行ったんだ……?」

 

サマヨールの言葉に一瞬ユクシーは考えるように眉を寄せた。

でも確かにそこは僕も聞きたい所ではあった、遠くに帰ると言ったシンヤは何処に帰ったのか……。

 

< 良いでしょう、我が聞いた事全てお話します >

 

ユクシーは教えてくれた。

アンノーンがパルキアの指示でシンヤを迎えに来た事、シンヤを遠くに帰すのはパルキアだと言う事、そしてシンヤがここに来たのはパルキアの不注意が起こした事故のようなもので、シンヤはポケモンの存在しない遠い遠い僕達の住む場所とは異なる世界から来たという事を……。

 

< そして、ここに居たシンヤさんには肉体と呼べる身体が無い状態でした。彼は精神だけの存在でこの世界に引き摺り込まれるように来たと言った方が良いでしょう。シンヤさんは体を自分の世界に置いて来ているんです、この世界に居続ける事は出来ません……。 >

「触れたのに?あんなに温かかったのに?」

< 詳しい事は我にも分かりません、でもそう聞きました。精神だけの異質な存在な為、ポケモンがシンヤさんに強く惹かれるというのも関係していたそうです >

 

シンヤはポケモンによく懐かれる、とは思ってたけど。そんな理由があったなんて想像もしてなかった。

泣きそうな顔でユクシーの話を聞いていたミロカロスが首を横に振る。

 

「違う……、俺様は、シンヤが異質だから好きになったんじゃない……」

 

そうミロカロスは呟いて首を横に振った。

でもミロカロス以外のポケモン達は思う所があるのか俯いたまま何も言わなかった。

ミロカロスが泣いちゃう……、そう思った時に勢いよく部屋の扉が開いて見知らぬ男性を引き摺るように連れてギラティナが入って来た。

 

「シンヤは居るか!?居ないか!?もう帰ったのか!?」

「ギラティナ!なんでその事……!?」

「帰っちまったにしろ、まだ間に合う!!シンヤを取り戻すぞ!!!」

「えぇ!?」

 

グッと拳を握ったギラティナに僕は驚きの声をあげる。ずっと居なかったのに何で状況を知ってるのかとかその引き摺るように連れて来た男の人は誰なのかとか色々と聞きたい事がありすぎる。

 

「よーく聞け!!オレは今日の朝方まだ日も昇らない時にパルキアがこの反転世界に入って来たのを確認した!!前にシンヤが行方不明になった時以降、シンヤから目を離さなかったオレを褒め称えて欲しいくらいだ!!」

「いいから、早く本題喋れアホ!!」

 

ミミロップに怒鳴られてギラティナは少し嫌な顔をしたが話を続けた。

 

「パルキアがシンヤを連れて行くってのだけ分かったからオレはすぐにコイツをとっ捕まえに行ったんだ」

 

コイツ、と言ってギラティナが男の人の腕を無理やり引っ張った。

顔を歪めた男の人は不満気に大きな溜息を吐いた。

 

「ディアルガだ」

「えぇえぇええ!!!ディアルガ!?!?」

 

と、驚きの声をあげたのは僕だけだった……。

ポケモンばっかりだから僕の人間側から見た反応は全くないわけだ……。でもディアルガなんて一生に一度見れるか見れないかの存在を目の当たりにして叫んだ僕は悪くない。

 

「で、ディアルガから状況を聞いてピーンと思いついたわけよ」

 

ニヤリと笑ったギラティナ。

僕達はハテナマークを浮かべながら首を傾げた。

 

「ディアルガとパルキアの力をフルに使って、シンヤの居た世界の時と空間を捻じ曲げる」

「……それをしてどうなるというんですか?」

「繋げるんだよ、こことシンヤの世界を!!そうすればシンヤがこっちに帰って来れるかもしれねぇ!!」

 

ギラティナの言葉にエーフィは眉間に皺を寄せた。

うん、凄いアイディアかもしれないけど……、規模が大きすぎてよく分からない……。

そんな簡単に言ってるけど世界を捻じ曲げて繋げたらシンヤがこっちに来れるようになったよワーイ!みたいな感じには絶対にならないと思うし……。

 

< ディアルガ、可能なんですか?ギラティナの言っている事…… >

「不可能ではない」

 

ディアルガの言葉に僕たちは目を見開いたけど。

だが、と続けられた言葉に一気に肩を落とす。

 

「勿論簡単な事ではないし、やるとなれば俺達はシンヤという人間を中心に世界を動かさなければならなくなる」

「動かせ!!」

「小僧がほざくな、神と称される力を人間一人に使うわけにはいかぬ。それに異世界を捻じ曲げるとなればパルキアの力が必要で俺はどうする事も出来ない」

「パルキアが起こした騒動なんだから責任取ってもらうしかねーだろーが!!小僧言うなおっさん!!!」

「……責任を取って人間一人、時間を割いて送り帰したんだ。このまま放置して見殺しにしても俺達に罪は無かった、全ては善意だそれを忘れるな青二才が……」

「あぁ!?んだとテメェ…!!」

 

ギラティナとディアルガの間に火花が散る……。

大型のポケモン二人の睨み合いに僕、人間一人……。逃げ出したい衝動に駆られた……。

っていうか、ディアルガから見たらギラティナって子供なんだ。さすが時を司る神と呼ばれるポケモン……!!

 

「ならパルキア呼んで話し合いだ!!オレは一歩も引く気はねぇんでな!!」

「パルキアは今、シンヤを送る為に居ない」

「時間戻したらいくらでも居るだろーが!!さっさと戻せよ!!シンヤがこの世界に来て間もない頃に、だ!!!」

「そんな時間に戻ってどうする気だ?」

「お前ら、シンヤを引き摺り込んだ時に探したんだろ?シンヤの居た世界。見つけた時点で捻じ曲げさせる!!そうすれば未来である今も大きく変わるはずだ!!」

「馬鹿な……。下手をすれば全てが消えるぞ」

「上手くやる!!オレには超良い考えがあるんだよ!!」

 

ニヤリと不敵に笑ったギラティナを見てディアルガは溜息を吐いた。

呆気に取られていた僕達の方を振り返ったギラティナは真剣な目で言った。

 

「未来、変えに行こうぜ!!」

< 乗りましょう >

 

返事をしたのはユクシーだった。

口元に笑みを浮かべて楽しげだ、未来を変えるなんてよく分からないけど。

シンヤが居る未来になるというなら……。

 

「行くっきゃないね!!みんな!!今は僕がトレーナーなんだから付いて来てもらうよ!!」

 

お互いに顔を見合わせたミミロップ達はコクンと頷き返してくれた。

 

*

 

失敗しても俺は知らないからな、とそう言い捨てたディアルガの言葉にギラティナは頷いた。そして僕達はディアルガの力で過去に戻る……。

べしゃ、と乱暴に地面に叩きつけられた。

顔を上げると驚いた顔をしたディアルガと知らない男の人、多分この人がパルキアなんだろう。

 

「……俺が、送ったようだな。用件は何だ」

 

逸早く我に返ったディアルガは冷静にそう聞いて来た。

過去に送られたのは分かるが場所が何処か分からない、辺りは真っ白の空間で僕は忙しなく辺りを見渡す。

 

「シンヤの世界は見つかったか!?」

「!?」

 

ギラティナの言葉にディアルガが眉間に皺を寄せた。

渋々ながら今しがた……、と答えたディアルガの言葉にギラティナは「流石だな、バッチリの時間に送ってくれてんじゃん」と言って笑った。

 

「ま、用件をザックリ言うとだな……。オレたちはシンヤを失いたくない、だからシンヤが身体を取り戻してからシンヤをまたこっちの世界に来れるようにしてほしいって事」

「……オイオイ、何言ってんだ!そんなの無理に決まってんだろうが!!人間一人の為にそんな好き勝手に動かせるわけねぇだろ!!」

 

怒ったのはパルキアだった。うん、ディアルガと一緒に居るし絶対にこの人がパルキアだと思う。

 

「オレの空間に人間も含めワラワラと引き連れて来やがって……」

「未来のディアルガは二つ返事で了承してくれたぜ?シンヤはこの世界に必要だと俺も思う……ってな」

「ほぉ、俺がそんな事を……」

「そうだよ、だからオレ達がここに居るんだよ。十分証拠になるだろ?」

 

嘘吐いた!!!あの子、真剣な顔でサラリと嘘吐いた!!!

でも、ギラティナの言葉にディアルガは少し納得したのかそこまで反対の言葉を発する事はしなかった……。良いのかな、神様に嘘吐いて……。

 

「ディアルガが良いっつっても、空間を動かすのはこのオレなんだよ。オレが居なきゃ、あのシンヤとかいう人間は帰る事すら出来ねぇーの、分かってんのか?ここで見殺しにしても良いんだよオレはな」

 

パルキアの言葉にギラティナが口籠る。

全てはパルキアの力が必要だから、パルキアが納得してくれないとどうしようもない。それどころかここでパルキアの機嫌を損ねたらシンヤは生きて帰る事すら出来なくなる……。

何か言わないと、そうは思うけど相手がディアルガとパルキアじゃ言葉なんて喉から出て来てくれない。圧倒的な力の差が僕達を押し潰す。

 

「……ろ」

「あ?」

「なんとかしろよ!!元はお前が悪いんだろ!!」

 

言葉を発したのはミロカロスだった。

ミミロップ達もミロカロスがパルキアに言い返した事に驚いて目を見開いている。でも、よく考えるとミロカロスはレベルが高いし、僕たちほどパルキアとの力の差を感じていないのかも。

 

「……確かにそうだ、そこは責任持って帰すだけはやってやるよ。そっからは関係ねぇ事だ!!あの人間をまたこっちに親切に送ってやる義理はねぇ!!」

「分かってるよ!!だからこうして頼みに来たんだろ!!俺様達の我儘だよ!!でもシンヤに居て欲しいから来たんだ!!ちょっとは考えてくれても良いだろ、ばかぁっ!!!」

「ば、ばかぁ……って、ちょ、……」

「うえぇぇぇ……!!」

「おわぁああ!!な、泣かないで!!!ちょ、ディアルガ!!ディアルガ!!オレどうしたら良いの!?」

「泣ーかしたー、泣ーかしたー、アールセウスに言ってやろー♪」

「ちょ、そういうのやめて!!本気で焦るから!!」

 

泣くミロカロスの頭を撫でるパルキア。

ディアルガはニヤニヤと笑って楽しそうだ……。何だろう、この二人凄く仲良しなんだね……。

僕たちにとったらミロカロスが泣く事なんて珍しい事じゃない、特にシンヤが絡むとなれば見慣れたものだけどパルキアからしたら初対面の相手に急に泣かれた事になるんだからそりゃ焦りもするか……。

 

「な、泣くなよ!!ちゃんと考えるからさ!!な?」

「……ホントに?」

「ホントに」

「絶対だからな!」

「…ッ!!!」

 

嬉しそうに笑ったミロカロスを見てパルキアの頬がぽっと赤くなった。

シンヤが言ってた育て屋のおばあちゃん仕込みってこれかぁああ!!!頬笑みで男を落とす事も出来るってこれ……。

 

「ごほん……、えー……じゃあ、考えます」

「早速行動に移してくれ」

「はぁ!?今、考えるって言っただろ!!まだ行動に移すかは決めてねぇ!!」

 

ギラティナの言葉にパルキアは驚きながら声を荒げた。危うく流される所だったんだろう。

 

「それに考えるっつっても、簡単じゃないのは分かるだろ?人間一人を中心に世界を動かさなきゃいけなくなる、異世界となんて普通は繋がるもんじゃねぇんだよ」

「でも、パルキアなら出来るよな……?」

 

ミロカロスが首を傾げるとパルキアは頬を赤くしつつ口元を手で押さえた。

 

「ディアルガ……」

「なんだ」

「オレ、何でも出来る気がしてきた!!」

「俺はお前が凄く馬鹿なんだと再認識した」

 

ミロカロスが期待したようにパルキアを見つめるとパルキアは照れたように口元をニヤけさせて頬をかいた。

僕、可愛いポケモンとか見てる時にニヤけてるって言われるけど……、あんな顔してるのか……、嫌だなぁ……。

 

「ま、あれだな。オレは人間の頼みよりやっぱりポケモンの頼みを聞いてやりがちな頼れる男ですから」

「長い付き合いだが、そうだったのか」

「特に同じ水タイプのポケモンの頼みを聞いてやらないわけにはいかないでしょ、うん、同じタイプにはやっぱり無条件で贔屓しちゃうよね!」

「同じドラゴンタイプだが、初耳」

「というわけで、ミロカロス。オレに任せろ!!」

 

ごめんなさい、空間を司る神にこんな事言いたくないけど……。

馬鹿だ!!!あの人!!!

エーフィが必死に笑うのを堪えてるのかブラッキーの後ろで口元を押さえて肩を震わせている。

まあ、でもなんか思ってた以上に話は上手く進んだよね。ミロカロスの活躍で……。

 

「それじゃ、パルキア!!早速行動に移してくれ!!」

「あぁ?なんでギラティナの小僧にそんな事を…」

「よろしくな!!パルキア!!」

「んん、任せなさいっ!!」

 

僕、本やお話だけで見るパルキアだけで良かったかも。現実は結構想像してたイメージ破壊されるよ……。

 

「仕方がない、話が纏まってしまったなら行動に移そう」

 

ディアルガの言葉にギラティナは頷いた。

僕達も何か出来る事をしようとディアルガの言葉に真剣に耳を傾ける。

 

「未来から来たユクシー」

< はい >

「お前をシンヤが帰る直前の場所へと送る、そしてそこでシンヤからこの世界の事と関わった全ての者達の記憶を消してこい」

< え!? >

 

それって、シンヤが僕たちにしようとしてた事の間逆だよね?

シンヤの記憶から僕たちが消えちゃったら……、シンヤがまたここに来れても意味が無いよ……。

 

「なんでシンヤの記憶を消すんだよ!!」

「世界を変えた時に不都合がある、全て思い通りに行くほど甘くはないという事だ。シンヤという人間の記憶から自分達が消える事、覚悟しておけ」

「……ッ」

 

ギラティナが苦々しげに顔を歪めた。

ミロカロスがまた泣き始めるとパルキアが慰めるようにミロカロスの肩を抱く。

 

「ミロカロス大丈夫だ!この世界に戻った時に記憶が戻る可能性もある」

 

絶対とは言い切れないけど、と苦笑いを浮かべたパルキアの言葉にミロカロスは口を一の字にして涙を流した。

 

「この世界、とは言っても本当にこの世界かどうかも分からない」

「どういう、事ですか……?」

 

僕がそう聞けばディアルガは頷いて説明してくれた。

世界を捻じ曲げる事で別の世界同士を繋げるという事は平行にある世界の中にまた一つの異世界を作りだすと言う事。

ようするに、シンヤを中心として小さな世界同士をくっ付けて大きな塊とし全てを混ぜ合わせた世界を作り上げる。

この世界にもまた別の世界の理が混ざり合い、ここは今の状態のままでは無くなると言う事……。

今、この世界に居る人物が居ない世界と混ざればその人物は存在しないものとされる事もある。

 

「その世界を混ぜるっていうのはしないと駄目なのか?シンヤだけこっちに連れてこれないのか?」

「ミロカロス、良い質問!!」

 

首を傾げたミロカロスにパルキアがビシリと指差して笑った。

 

「シンヤがこの世界に来れたのは身体が無い状態だったからだ、この世界に存在しないはずの人間をそのまま連れて来るなんてことオレには不可能なんだよ。だから世界を混ぜてシンヤを存在している人間にする必要があるってわけ」

「その通り、存在しない人間を俺達がどうこう出来るものではない。存在させなければいけないからシンヤを中心に世界を作る必要があるわけだ」

「世界を混ぜ合わせるのは簡単じゃねぇうえにリスクもある。そのリスクっつーのはこの世界に存在している人間が別に世界には存在してない可能性もあるってこと」

 

と、いう事は……。

今の僕にとって当然として存在している、例えばイツキさんが居ない世界もあるってことか……。

 

「今、この世界に居る人物が居ない世界と混ざればその人物は存在しないものとされる事もある……と言った通りだ。ここに居るポケモン達、そして俺達……特殊な立場に立つポケモンはそのまま世界に引き継がれる。しかし人間であるお前は必ずしもその新たに作られた世界に存在出来るかは分からない」

「え……、僕!?」

 

ディアルガがついと僕を指差した。

うーわー……、そういや僕だけ人間でした……。

 

「ヤマトも居ないと嫌だ!!」

「それは難しい。全てはシンヤが中心となる、それは混ぜ合わされた各世界に存在するシンヤという人間とも混ざり合う。全てが一つになり、その一つになったまま世界は進んでいく」

「?」

 

ミロカロスが眉間に皺を寄せてディアルガを見つめた。

ちょっと待って、僕も理解が追いついて行けなくなってる!!各世界に存在するシンヤという人間が混ざり合うってどういう事?

 

「パラレルワールドと称される世界の何個かを混ぜ合わせるのだ。それはパルキアが空間を捻じ曲げて、俺は全ての時間を合わせ調整する」

「ぱられるわーるど、ってなに?」

 

ミロカロスがそう聞けばパルキアがニコリとミロカロスに笑みを向ける。

 

「もしも、で考えられる未来の世界だ。もしも、ミロカロスが進化しなかったら……の世界も存在していると考えて良い」

「俺様がヒンバスのままで!?」

「そういう世界もあるってこと」

「という事は、僕が世界一の最強トレーナーになってる世界もあるのかな……」

「有り得る話だ。パラレルワールドは想像の数だけ存在している」

 

凄い……。

じゃあ、考えようによってはここは僕がもしもポケモン研究員だったら……の世界ってことだよね。

だとすると違う世界にはポケモンドクターじゃないシンヤも居て、僕たちと同じ世界に生まれたシンヤも居るんだ。

そんなシンヤ達が居る世界が一つになる、それには勿論、僕が居ない世界もあるから……、僕が絶対に存在するとは言い切れない……と。

大体、把握出来た。

シンヤが居てくれたら僕の代わりに何でも理解してくれて後で簡単に纏めて説明してくれたりするんだけど……、今更ながら僕、シンヤに甘えっ放しだったな……。

 

「全てを一つにするには今あるシンヤの記憶は邪魔にしかならない、だから全てを消してしまうんだ」

「なんとか納得出来そうです。僕が居なくてもミロカロス達がシンヤに会えるならそれはその方が良いですから」

「そのミロカロス達、も……少し問題がある」

「え!?」

「シンヤが記憶を取り戻さなければ俺達はシンヤに関わる事が出来ない。つまりミロカロス達をシンヤが思い出さないとミロカロス達もシンヤを認識出来ないという事だ」

 

また理解出来ない事言われたー!!!

駄目です、もう頭が破裂しますとは言えず……なんとか説明を聞く。

 

「混ぜ合わされた世界に誘われたシンヤは混乱しつつも記憶を拾い集めるだろう、でもそれは混ぜ合わされた各世界にある"もしも"で成り立っていたシンヤの記憶だ。生活する分には困らないだろうが、そのもしもの世界でシンヤが全く同じ手持ちを連れたトレーナーとは限らない」

「ミロカロス達を連れてないシンヤ……?」

「全く別のポケモンかもな。だが、ユクシーに消された記憶をシンヤが思い出せば……」

「ユクシーにシンヤの記憶を戻して貰ったら!!」

「それは不可能だ。ユクシーもまたその世界ではシンヤが覚えていなければシンヤという人間に関わる事が出来ない、全てはシンヤの記憶が重要になる」

 

うぅーん……。助けて、シンヤ……。

でも、とりあえずは新しく出来た世界には沢山の性格のシンヤが混ざったシンヤが居て、その沢山の性格の混ざったシンヤが僕たちの事を思い出さないとミロカロス達とは会えない……。

結局、どうなるの?

 

「ヤマト……、お前分かったか?」

「微妙だけど大体は……」

「オレは途中からさっぱりだ!」

 

アハハとギラティナが笑った。

ミロカロスとブラッキーは完全にもう分からないんだろう悩む素振りすら見せていない。

ミミロップとトゲキッスも大体は把握してそうだ、エーフィとサマヨールは理解出来たのかな……。現実主義って感じでこういうのは受け入れ難いとか言いそうだから…。チルットとラルトスは賢い子だし意外と柔軟に理解出来てそうだけどね。

 

「とりあえず、僕はもう完全に運任せって事だよね。シンヤに関わる人間として存在してる事を祈るよ……!」

「チル達はシンヤさんが思い出してくれるのを待つしかないんですよね」

「ラルー」

「ま、何もしないよりマシだろ。よろしくな、おっさん二人!!」

「おっさん言うな!!」

「……小僧が」

 

ディアルガの力でユクシーが帰る直前のシンヤの所へと飛ばされた。そして僕たちは元の時間へと戻される。

 

未来や世界を変えるなんて僕の想像を超え過ぎてて理解が追いつかないし、沢山の世界を巻き込んだ大事(おおごと)になっちゃったみたいだけど。

未来を変えられるチャンスがあるならそれに縋り付くしかない……。

 

シンヤ、ごめんね!!シンヤは怒るかもしれないけど!!

神様、どうかよろしくお願いします……!!

 

*

 

「さてと、そんじゃお前を元の世界に帰すからな」

「ああ」

 

再び真っ白な空間へと連れて来られた私は小さく溜息を吐く。

パルキアが大丈夫か?と私に声を掛けて来たので大丈夫だと返す。

 

「じゃあ、……ッ!!」

 

言葉を途切れさせたパルキアが目を見開いて頭を押さえた。

大丈夫か?と今度は私の方から聞けばパルキアは私を見て苦笑いを浮かべた。

 

「そうだよ、もう未来は変わっちまってるんだった……」

「何を言っているんだ?」

 

パルキアの言葉に私が首を傾げればパルキアの隣にユクシーが急に現れた。辺りを見渡すように首を動かしたユクシーは私の方へと顔を向けて口元に笑みを浮かべる。

 

「ユクシー……」

< シンヤさん、準備は全て整ったようです。後は貴方が自分の肉体へと戻った後に…… >

「なんのことだ」

 

ニコリと笑ったユクシーは言った。

世界は繋がる、いや繋げるのだと……。何の事を言っているのかさっぱり分からない私は眉間に皺を寄せてユクシーの話を聞いた。

 

シンヤさんの生きるべき世界とここの世界を繋げる事になったんです。繋げると言っても沢山の世界を巻き込んだ新たな世界を作るという大規模な試み。

シンヤという人間を中心として平行の世界を混ざ合わせ世界を作ります、そして最後に貴方のこれから帰る世界を混ぜ合わせてシンヤさんは再びポケモンの存在するであろう世界に戻って来る事になるんです。

全ての世界、即ち空間をパルキアが繋げ、全ての時間をディアルガが調整します。

 

「……は?」

 

私はおそらく間の抜けた顔でポカンと口を開けてユクシーを見ていただろう。

それも致し方ないほど理解し難い事をユクシーは言わなかったか?沢山の世界を巻き込んで新たな世界を作る?パルキアとディアルガが?

平行の世界を混ぜ合わせるという事はあれだろう……。つまり、今の自分からは考えられないような自分が存在している空想の世界が現実になろうとしているという事…。

それも私という人間を中心に、……だとすると様々な思想や言動を持つ私が一つになるというのか?

 

そんな……

 

「そんな馬鹿な話があってたまるか……!!」

< もうすでにここへと来るまでに未来は変わってしまってるんです >

「ディアルガの力で戻せるだろうが……、すぐにやめろ」

< 全ては貴方の為です、シンヤさん >

 

私の為?

平行の世界を巻き込んでまでするような事じゃない、平行の世界は人間の想像の中にしかない世界だというが、確かに存在しているであろうその世界の全てを巻き込むなんて馬鹿な話があってたまるか。

それに全てを混ぜ合わせてしまっては存在するべきだった人や物をも消してしまう可能性だってあるんじゃないのか……?

 

「私一人、ただの人間一人に世界を変える力を使うなんて間違っている!!」

< ……シンヤさん >

「新たな世界を作るなんて馬鹿な真似はよせ、馬鹿げた話過ぎて頭が痛くなる……!!」

 

私が溜息を吐けばパルキアがクククと喉で笑った。

何が可笑しいんだと聞いてパルキアを睨みつければパルキアは腹を抱えて笑いだした。

 

「フハハハハッ!!!」

「……」

「シンヤ、お前は欲の無い人間だなー!」

「は?」

 

私が首を傾げればパルキアは笑い過ぎで出た涙を手の甲で拭った。

 

「お前を中心にして世界が作られるんだぞ?お前は世界の特別な存在になるんだ、普通の人間なら戸惑う奴はいるかもしれないがそこまで怒る奴は居ないだろ」

「……そんな事分からないだろうが」

「ま、そうだな。お前みたいに欲の無い人間は他に居るかもしれねぇな、でもオレはお前が初めてだ」

「お前の感想なんてどうでも良い。さっさとどうにかしてくれ、作られた新たな世界で生きるなんて冗談じゃない」

「残念だけど、オレも男として一度言った約束は守りてぇのよ。愛は人を動かすんだぜ!」

「お前が馬鹿だという事はよく分かった。ディアルガを呼べお前じゃ話にならん」

 

オレってそんな言われるほど馬鹿……?、と勝手に落ち込んでいるパルキアを無視してユクシーに向き直る。

ユクシーはニコリと口元に笑みを浮かべた。

 

「ディアルガを呼べ」

< 我はポケモンです、人間の言う事なんて聞いてあげません >

「ユクシー!!」

< さよなら、シンヤさん。貴方が全てを思い出し……、再びこうして会える日を楽しみにしています >

「何を……ッ!?!?」

 

ニコリと笑ったユクシーの閉じられた目が開かれた。

目を見てはいけない、目を閉じろと自分自身に言い聞かせる前に私はユクシーの開かれた目と視線を交えた……。

目の色は何色だろうか、ぐらりと視界と脳が揺れていて判別出来ない。私はこのまま全てを忘れるのだろうか、ああでも全てを思い出せばまた会えるとユクシーは言ったか……。

 

会えるのは、新たな世界で?

それは駄目だ、絶対に駄目だ、冗談じゃない、絶対に嫌だ、駄目だ、嫌だ、

 

……、……ん?何が、嫌?

 

何が駄目?何だった?私は何を忘れる?

そういえば、何故忘れるんだろうか……?別に頭を強く打ったわけじゃあるまいし……、何で忘れると思い込んでいるんだろう?

 

……?

 

私は、さっきまで誰と会話をしていたんだ…?

 

 

 

 

目の前が真っ白だ。

ここは……、何処なのだろうか……?

 

*




後に超展開の補足説明を付けます。

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