一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「え!!お兄ちゃんポケモン貰ったの!?」

 

目を輝かせるノリコにヒンバスを見せてやった。

みるみる表情が落ち込んでいくのが分かったが特に何も言わない事にした。

 

「よく見ていると愛嬌のある顔に見えなくもない」

「びみょー」

 

口を尖らせるカズキの言葉を聞きながらヒンバスをボールに戻した。

すっかりヒンバスに興味を無くしたノリコは運転手の肩に乗るエイパムに手を振っている。

ヒンバスの生息地……、イツキさんに聞けば分かるかもしれないな……。

 

「「ただいまー」」

 

声を揃えた二人、言い逃したと思いつつ小さく「ただいま」と後から言ってみた。

 

「おかえりー、手洗ってうがいしてらっしゃい」

「「はーい」」

 

バタバタと走って行った二人の背を見送ってからカナコさんに視線をやる。

 

「イツキさんは今日、何時に帰って来る?」

「は?」

「……違った、お父さんだった」

「うん、お父さんは夕方には帰って来るんじゃない?何で?」

 

育て屋でヒンバスを引き取った事を説明すればカナコさんは少し顔を曇らせたがすぐに笑顔を返してくれた。

 

「手、洗ってきなさい。お昼ご飯出来てるから」

 

カナコさんの言葉に頷いて洗面所へと向かった。

 

 

昼食をすませた後、思い出した様にカズキが何故か手をあげて言った。

 

「兄ちゃん、ポケモン持ってるから森行けんじゃーん!!!」

「ホントだー!!」

 

バンザーイと両手をあげた二人を見てカナコさんが顔を顰める。

チラリとカナコさんが私に視線を向けたので私は首を横に振った。

 

「残念、シンヤは無理だって」

「「なんでー!?」」

 

カズキとノリコが私の腕を引っ張ったが私は首を横に振った。

 

「お前たちは、ヒンバスが戦えると?」

「「……」」

 

育て屋のおじいさんが言うには確か「はねる」と「たいあたり」と「じたばた」とかいう技が使えるらしいが。

森で魚がどうやって戦うというのだろうか、はねてるばかりなのがオチだ。

 

「森行きたい……」

 

「森ー……」

 

項垂れる二人を他所に私はコーヒーを啜った。

すると勢いよく玄関で扉が開けられる、カナコさんがほうきを片手に勇ましく玄関へと向かった。

 

「「…え」」

 

おそるおそる玄関へと向かうカズキとノリコを自分の背に隠して玄関の様子を見てみた。

息も絶え絶えに玄関で突っ伏すイツキさんが居て、カナコさんはそんなイツキさんの頭をほうきで突いていた。

 

「父さんじゃん」

「なんで?」

「私に聞くな」

 

水……、と呟いたイツキさんの言葉に私はキッチンから水の入ったコップを持ってイツキさんに手渡した。

決して水道水ではない、ちゃんと冷蔵庫の中に入っていたおいしい水とやらを淹れた。

 

「ふぅ……、シンヤ!!」

「?」

「オーキド博士がな!!シンヤに会ってお礼が言いたいって!!」

「何故?」

「ホウオウの羽はそれだけ貴重なんだ!!」

 

イツキさんの興奮っぷりであまりよく分からないが……。

とりあえず、そのオーキド博士とやらがホウオウの羽を研究材料として提供した私に直接会ってお礼を言いたいと……。

 

うん。

 

「別に気にしないで下さい、と伝えてくれ。いってらっしゃい」

 

イツキさんに向かって手を振ったらガシリと手を掴まれた。

 

「お前も行こうな!!」

 

凄く嫌だ。めんどくさい。

ずるずると引き摺られながら靴を履き、カナコさんが持って来てくれたタマゴ入りのカバンを肩にかけてイツキさんと外に出た。

 

カナコさんとカズキとノリコが手を振っていた……。

 

「別に良いのに……」

「光栄な事じゃないか!!オーキド博士だぞ!!」

「それは誰だ」

「……」

 

 

イツキさんの運転する車に揺られ研究所へとやって来た、イツキさんの職場という所だろう。

興奮しているイツキさんに急かされて研究所へと足を踏み入れた。

不思議な機械音、微かな薬品の香り、白衣を着た人がイツキさんに声をかけた。

イツキさんに手招きされイツキさんの後を追う。

一室へと入れば、ホウオウの羽が不思議なガラス瓶の中でふわふわと浮いていた。

 

「イツキ君!!」

「オーキド博士!!お久しぶりです!!」

「相変わらず元気そうでなにより!!」

 

豪快に笑うイツキさんとオーキド博士。

ぼんやりとその光景を眺めていれば不意にオーキド博士に視線がこちらに向いた。

 

「キミがシンヤ君かね?」

「はい」

「ホウオウの羽をどうもありがとう。ホウオウはとても珍しいポケモンでまだ解明されていない事が多い。そんなポケモンの一部が手に入る事はとても有り難い事だ」

 

本当にありがとう、そう言って私の手を握ったオーキド博士の顔には嬉しそうな笑みが……。

どうでもいいと思っていたけれどここまで本当に喜ばれると気にしないで下さいなんて素っ気無い返事はしにくい。

 

「いえ、お役に立てたなら良かったです」

 

愛想の良い笑みなんて返せない私にオーキド博士は気にした素振りも見せず嬉しそうに笑った。

 

イツキさんとオーキド博士が何やら研究の話を始めてしまったので私はそそくさと近くに居た研究員の人達と一緒に部屋から出た。

すると足元を何か緑色の生き物が横切った、驚いてその生き物に視線をやれば頭から葉っぱの生えたカメ……、だろうか……?

 

「あれは……」

「ナエトルだよ」

 

研究員の一人がそう言った。

ナエトル?苗?……確かに頭の所が苗っぽい様な気もする。

 

「ここでは初めてポケモンを持って旅をする子達の為に初心者用ポケモンを提供しているんだよ」

「初心者用ポケモン……、あのナエトルが?」

「うん、ナエトルとヒコザルとポッチャマが居るよ」

 

研究員の人が指差した先には食事をしているのか何かを食べるサルとペンギンが居た。

サルポケモンにも種類があった事に少しの感動を覚えたのは私だけの秘密だ。

 

ポチャポチャポーチャ!!とサル……もとい、ヒコザルに怒鳴る様に言っているポッチャマ。

それを見て研究員の人が苦笑いを浮かべた。

 

「あのポッチャマはすぐに噛み付くというか……、やんちゃな子なんだよ」

「いや、別に理由無く噛み付いてるわけじゃなさそうだ」

「え?」

 

ヒコザルに対して怒った様子のポッチャマがポチャポチャとポケモンなりの会話をしている。

よく聞いていると何となく言っている事が分かる……様な……。

 

「あのポッチャマの食べている何かをヒコザルが盗ったんだ、だから怒っている」

「ポケモンフードを?」

 

研究員の人達が顔を見合わせたが私は気にせずにヒコザルとポッチャマの傍へと近寄った。

私を見上げたヒコザルのお皿からクッキーの様な食べ物をポッチャマのお皿に返してやる。

 

「ポチャー!!」

 

飛び跳ねて喜んだポッチャマが今度は盗られまいとその食べ物を持ってヒコザルから少し離れた。

キーキーとヒコザルが私に怒ったので首元を掴んで持ち上げてやった。

 

「やんちゃなのはヒコザルの方だ」

 

研究員の人にヒコザルを返せばヒコザルは悔しげに研究員の人の服の袖を引っ張った。

 

「でも、ポッチャマはよく他のポケモンにも突っ掛かるんだよ。自分より体の大きなポケモンにも……」

「それは勇敢というか無謀というか……、どうなんだろうな……」

 

ああ……と研究員の人が呟いた。

キーキーと喚くヒコザルを気にもせずナエトルが自分のであろうお皿に入ったポケモンフードを食べていた。

ポケモンにも人間みたいに性格があるんだな。

それも動物より表情が豊かで遥かに分かりやすい……。

 

「シンヤ君はポケモントレーナーなのかい?」

「いや」

「違うのかー……、とてもポケモンの観察能力に優れていると僕は思うよ」

 

私とそう年の変わらないであろう研究員の人がそう笑って言ったが。

観察するも何も見れば何となく分かる様な……。

そういえば、イツキさんに聞こうと思っていたんだった。

 

「ヒンバスの生息地を知っているか?」

「ヒンバス?確か、テンガン山だったと思うけど」

「テンガン山……」

「神聖な山だよ、やりのはしらという古代の遺跡もあるんだ」

 

山となればそこに行くまでが問題になるが、場所が分かっただけ良しとしよう。4

 

「有難う助かった、物知りだな」

「これでも研究員だからね!!」

 

研究員、ヤマトは私と同い年だった。

 

「幼く、見られないか?」

 

「……見られる」

 

そう年は変わらないとは思ったが、少し年下くらいなんじゃないかと思っていた……。

 

*

 

「シンヤ、こっちこっち!!」

 

ヤマトに連れられて研究所の裏庭へとやって来た。

研究員と言ってもまだ素人らしく、博士達と一緒に研究はせず主にポケモンの世話をしたり野生ポケモンの生態検査をしたりしているらしい。

 

「何が居るんだ?」

「ウラヤマさんという人からポケモンを提供して貰ってるから珍しいポケモンが居るんだよ」

 

へぇ、と相槌を打てばヤマトはにへっと間の抜けた笑みを浮かべた。

お皿を出したかと思えばカラカラと音を立てながらお皿の中にポケモンフードを入れて行く。

その音を聞きつけて裏庭に居るポケモンが顔を出した。

ピンク色のボールみたいな生き物が……。

 

「ププリン~、相変わらず可愛いな~」

 

ププリンというポケモンを抱きしめたヤマト、ププリンの方は凄く迷惑そうだ。

そのププリンに似た一回り大きくて更に丸いピンクのポケモンがポケモンフードを食べ始める。

その後もぞろぞろと何処か可愛らしい容貌のポケモンが集まってきた。

 

「あれがピィであっちがルリリで、あれがピンプク!!まだ小さくて可愛いだろ~!!」

 

可愛いものが好きらしい……。

でも、ノリコを連れて来ていたら喜びそうな光景だ。小さくて全体的に丸みのあるポケモン……。

足元に転がってきたププリンとやらを触ると、マシュマロみたいに柔らかい。

 

紫色のスライム状のポケモンと目があった。

なんとも間抜け顔。モンモー、なんて言いながらポケモンフードを食べていた。不思議な生き物だ…。

 

空になりかけているお皿にポケモンフードを足しているとウサギの様な茶色いポケモンが近寄って来た。

 

「ブイ!!」

 

私の足に擦り寄るコイツもまた目が大きくてふわふわした毛並み、可愛らしいポケモンだな。

 

「あ、そのイーブイ。双子なんじゃないかって思うんだよね」

「は?」

「いつも一緒なんだ」

 

そいつと、と言ってヤマトが指差した先には少し離れた所から私をじっと見つめている同じ茶色いポケモン……、イーブイというらしいが。

同じイーブイなのに性格が違うというだけで雰囲気とか顔の表情が違って見えるから不思議だ。

 

それにしても双子か……。

カズキとノリコも双子なんだよな……、似てなくても別に変な事じゃないか……。

 

 

「シンヤー!!」

 

イツキさんが研究所の二階からこちらを見下ろして手を振っていた。

小さく手を振り返すと、手招きをされたので立ち上がった。

 

「悪いな」

「いーよ」

 

ヤマトに背を向けて研究所へと戻る。

二階へと行けばイツキさんとオーキド博士が笑顔で迎え入れてくれた。

 

「シンヤ君、キミの話は聞かせてもらった。この先にポケモンが居なければ困る事も多い、そんなキミにポケモンを贈ろうと思う」

「そんな事……」

「なーに、ホウオウの羽と交換じゃよ」

 

この世界の人達は本当に優しい人が多い。

オーキド博士にお礼を言った私はそれでも首を横に振った。

 

「シンヤ、ポケモンのタマゴを持ってはいるが戦えるポケモンは大事だぞ?」

「一応、育て屋の老夫婦にヒンバスを貰ったから……」

「ヒンバス?」

「このヒンバスは育て屋に預けられたまま捨てられたらしい、だから、せめて生息地で捨ててやろうと思って」

 

ぽん、とオーキド博士が私の肩に手を置いた。

人の良さが滲み出た笑みを向けられて思わず口篭る。

 

「なら尚更、そのヒンバスを帰す為にはポケモンが必要じゃな。森や茂みを抜けようとすれば野生ポケモンが襲い掛かって来て非常に危険じゃ、その困難を共に乗り越えて行けるポケモンを連れて行かねば」

「俺もそう思います!!な、シンヤ!!」

 

ニコニコと笑うイツキさんに押され渋々頷いてしまった。

 

「さーて、どんなポケモンが良いかのぉ」

 

オーキド博士が腕を組んだ時に部屋の扉に何かがぶつかる様な音。

イツキさんが扉を開けてみれば、コロリと部屋の中に少し目を回したイーブイが入って来た。

 

「お前……」

「ブイ!!」

 

裏庭に居た人懐っこいイーブイだ。

私を追いかけて階段をのぼって来てしまったらしい、後でヤマトにでも渡しておこう

足元に来たイーブイを抱き上げるとオーキド博士が頷いた。

 

「イーブイはさまざまな能力を持ったポケモンへと進化するポケモンじゃ、イーブイも良かろう」

 

いや、別に連れて行くなんて一言も……。

 

「裏庭に居るイーブイだなー、うん、オーキド博士が言うなら連れて行って良いぞ!!」

 

だから、連れて行くなんて言ってない。

私の腕の中で上機嫌にブイブイと鳴くイーブイ、なんて能天気な奴なんだ……。

 

「お前、このままじゃ私にゲットされるぞ」

「ブイ!!」

 

良いのか……。

いや、それは良くない。

 

「イーブイも乗り気のようじゃな」

「ボールが必要だな、ボールボール……」

 

はい、とイツキさんに手渡されたモンスターボール。

イーブイとボールを交互に見やってから小さく溜息を吐いた。。

 

「イツキさん」

「ん?」

「もう一つ、ボールを下さい」

 

イツキさんとオーキド博士が顔を見合わせたが、仕方ないじゃないか……。

 

 

裏庭に戻ればヤマトがポケモンに囲まれていた。

私に気付いたヤマトが首を傾げたが、後ろに居るオーキド博士とイツキさんに気付いて慌てて立ち上がって頭を下げた。

 

小さく息を吐いてから、モンスターボールを投げた中からはさっきゲットしたイーブイが出て来た。

 

「ブイー!!」

「あ、そいつ……」

 

ヤマトが驚いた様に目を見開いた。

それも当然、この双子のイーブイの片割れは今、私の前で威嚇をしているのだから……。

 

「連れて行くなら二匹まとめてだ。イーブイ、でんこうせっか」

「ブイー!!」

 

イーブイが私の声に反応して、片割れへとたいあたりをする。

咄嗟の事に避けきれなかった片割れのイーブイが弾き飛ばされた。

しかし、すぐに起き上がって同じ様にでんこうせっかをしてくる。

 

双子同士を戦わせるのは可哀相だが仕方が無い。

 

「イーブイ、避けてとっしんだ」

「ブイブイブイー!!!」

 

能天気なイーブイは遊んでる気分なのか技にも手加減が無い。

弾き飛ばされた片割れのイーブイが目を回している隙に空のモンスターボールを投げた。

ボールの中に吸い込まれたイーブイ。

カタカタとボールは暫く動いていたが、ボールに付いていたランプが消えると大人しくなった。

 

「ゲットしちゃった……」

 

ヤマトの小さな声を聞いてから私はイーブイの入ったボールを拾い上げた。

足元では能天気なイーブイが嬉しそうに走り回っている。

イーブイを二匹、連れて行く事になった。

でも、それは仕方が無い……双子なんだ、片方だけ連れて行くなんて私には出来ない……。

ゲットしたばかりのイーブイを出せば、イーブイは体をふるふると震わせてから私を見上げた。

 

「ブイ……」

 

真面目……いや、冷静な性格って所か……。

 

「イーブイにニックネーム付けるの?」

「……能天気なイーブイに冷静なイーブイ」

「ネーミングセンス、ゼロ……」

 

ガクンと肩を落としたヤマトを見てイツキさんとオーキド博士が笑っていた。

イーブイはイーブイだろ。種族名なのか知らないが、イーブイだと認識してるんだから仕方ないじゃないか……。

 

*




* ヤマト
イツキの働く研究所の見習い研究員
主人公と同い年の男、可愛いポケモンをこよなく愛する
表情豊かで主人公とは対照的だが良き友となる
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