可愛げなくてごめんね
昔は可愛げあったのに……。
オレの主であるヒロキヨは目を細めてオレを冷ややかな目で見下ろした。
ヒロキヨと一緒に戦ってレベルを上げて、ズバットからゴルバットに進化したらこのありさま……。
小さい口より小さい牙より、大きい口で大きい牙の方が噛みつきやすい。強くなれば体が変化するポケモンなのだから仕方のない事じゃないか……。
オレは一秒でも早く進化したかった。
目のないズバットじゃ、ヒロキヨ、アンタの気配は察知出来ても表情を見る事なんて叶わなかった。
でも、オレは視力を手に入れたと同時にヒロキヨに可愛がられなくなった。バトルに使ってくれないって事はないけど……。オレよりも"可愛げ"のあるポケモンは他に居るわけで。
人間の基準なんて分からないが、それぞれの基準があるならトレーナーの望む姿形に進化させて欲しい。
オレに選択肢なんていらない、トレーナーが可愛ければ弱くとも構わないというのであればオレは強さなんて要らないし……。トレーナーが見た目はどうであれ強ければ良いと言って可愛がってくれるなら……。
でも、オレは中途半端……。
弱いとは思っていない、ヒロキヨと積み重ねた実戦でオレは強くなっている。でも、どんな敵でもねじ伏せられる強さがあるかと言われるとそんなものは持ち合わせていない。
ズバットよりは強いし大きいが、他のポケモンに比べれば強くもなく大きくもない……。
オレはどうすれば良いんだ……。どうすれば良いんだ、ヒロキヨ……。
「っぅおわ!?!?」
オレが悩んでいると後ろでヒロキヨが声をあげた。振り返れば目を大きく見開いてこちらを見ているヒロキヨ。
何があったのかさっぱり分からない、今この場……。まあ、次の街に行く途中で回りは草木ばっかりの場所なんだが。
野生ポケモンが襲ってこないように見張りをしているオレとヒロキヨだけしかいないはず、他のポケモンは今はヒロキヨの腰のボールの中。
「ヒロキヨ?」
「……お、おお」
小さく頷きながらヒロキヨが近づいて来た。目の前に座ったヒロキヨがオレに手を伸ばす。
頭を掴まれクシャクシャと音がした。何の音だと思いながら羽を動かしたつもりがオレが動かしたのは人間の手だった……。
「あ?」
「ゴルバット、だよなぁ。お前……」
「え、何……コレ?」
「いや、それは俺も聞きたい」
だって、お前一瞬で人間と同じ姿になんだもん。ビックリした。とヒロキヨが苦笑いを浮かべる。
状況はさっぱり理解出来ない。でも、一番驚いたのはオレの言葉がヒロキヨに通じているという事。今まで何を言ってもポケモンの言葉じゃヒロキヨは首を傾げるばかりだったのに……。
「ヒロキヨ……」
「なんだよ」
「……可愛くなくて、ごめん」
「……は?」
キョトンとした顔をしたヒロキヨは数回瞬きをしてから口元に手をあてた。
「ッく……、ふ……!」
「?」
「、ぁははははははッ!!!!」
「!?」
「お前、何言って……、ちょ、待、ふははははッ、ツボった……!!!」
腹を抱えて笑うヒロキヨに何を言っていいのか。オレは笑い転がるヒロキヨを茫然と見つめる。
苦しげに呼吸をしつつ息を整えたヒロキヨがニヤニヤと口元を緩めつつオレに視線をやる。
「お前に可愛さ求めてねぇし、ぶはっ!!」
「ヒロキヨがオレに昔は可愛げあったのにっていっつも言うだろ!?」
「いや、お前の攻撃技を見るとな、昔が懐かしくなるんだよ。お前の吸血攻撃えぐいし、攻撃パターン鬼畜だし、ズバットの時はもっと可愛げのある攻撃だったなぁって」
指示してんのヒロキヨじゃん……。
「でも、いつもオレの事冷たい目で見るから……。オレはもう可愛くなくなったから嫌われたのかと、思って……」
「はぁ?俺がいつ冷たい目で見た」
「今も」
「あー、あれか、普通にしてる俺は目付き悪いと……、ほっとけコノヤロー!!!」
頬を思いっきり抓られてオレは涙が出た。
ボロボロ、目から涙が流れてヒロキヨが困ったように笑う。
「情けねぇ面だなオイ」
「……可愛い、だろ?」
「そういう事にしといてやるよ」
頭を撫でられて、久しぶりに嬉しくて笑った。
嫌われてなくて良かった、オレはオレのままで良いんだ。
ゴルバットに進化出来て良かった。進化してなかったらオレには笑ってくれるヒロキヨの表情が見れなかったんだから。
「オレ、これからもゴルバットで頑張るからな!!」
「え、それは困る」
「!?」
可愛げなくてごめんね
「速攻で補助技使える奴が欲しかったからお前ゲットしたんだもん」
「今でも出来るけど……」
「確実に先制攻撃して欲しいから早く進化しろ」
「……え?」
「クロバットが欲しいんだよ、だから早く俺に懐け」
「……」
*