新しい家に越してきてから、少し部屋に違和感を感じた。
寝室にした場所がたまにぼんやりと歪んで見える……。ゴーストポケモンが住みついているのだろうか……。
でも、あいにくそんな事にビビる性格でもないので気にすることなく生活していた。
ある夜、オレが眠っているとベッドの上にボスンと何かが乗った。
少し体を起して乗ったソレを確認してみる。人っぽい。
ゴーストポケモンじゃなくて幽霊か、ちょっと嫌だな、と思いながら眠たいので再び眠りについた。
朝になってオレが起きるとベッドの上で見知らぬ男が寝ていた。つん、と頬を突いてみると小さく呻った。
幽霊じゃなかったのかと思いつつベッドから蹴落としてみる。
「ぎゃあッ」
がばっと勢いよく起きあがった男はオレを見て眉間に皺を寄せる。
「誰だテメェ!!!このパルキア様の空間に押し入るたぁ、良い度胸だなぁ!!」
「……」
ボスンとベッドを叩いた男の顔面を蹴ってそのまま男を押し倒しマウントポジションを取らせてもらう。
「まだ寝惚けてるなら覚めるまで殴ってやるよ」
両手をグーにすればソイツは顔を真っ青にさせた。
「ごめんなさいごめんない本当にごめんなさい!!!」
話を聞けば寝惚けて落っこちました。とわけの分からない事を言いだした。
ここには空間の捻じれがあって気を付けてないとすぐ歪んで自分の世界と繋がってしまうのだと……。
まあ、話を聞いて分かった事はあれだ。
「病院、行こうか。付き添ってやるから」
「正常ぅうう!!嘘偽りない真実しか喋ってねぇよぉおお!!」
駄目だ、コイツ頭おかしい。
凄く可哀想な頭してるぞ、空間だとか自分の世界だとか……。
異常な奴に限って自分の事を正常だとか言うんだよ、自分がおかしい事に気付いてないんだ、きっと精神病でも患っているんだろう優しく接してあげよう。
「私は空間を司る神なんだ!パルキアって名前くらい聞いた事あるだろ!?超有名だろ!?」
「うん。お前は神様だよ、みーんな知ってる。だからちょっとオレと一緒に病院って所に行こうな?」
「お前、全く信じてねぇじゃんかああ!!何で!?嘘っ、私の事しらねぇの!?」
「……大丈夫、オレはお前の味方だ。コワくない」
「いやぁああ!!変に優しくしないでぇええ!!!本気で泣きそうになるからぁあ!!超有名だとか言っちゃった自分が凄く恥ずかしいよぉおお!!」
半泣きになりながらソイツは玄関から出て行こうとする。
病院行かなくて本当に大丈夫か?と声を掛けたらしつこい!と怒鳴られる。
「私が嘘吐いてないって証拠持って来るから待ってろコノヤロー!!」
うわあああん、と最後は結局泣いて走って行ってしまった。もう来ないでくれと思ったオレは人として間違っていない。
その日の夜……。
玄関の扉がノックされた。扉を開ければ今朝の奴がいた……。
「わーぉ」
「証拠持って来たから!見てコレ!」
押し付けられた本。新しいものから古いものまで……。
オレの返事も聞かずにオレの背を押してパルキアが家へと入って来る。なんて図々しい奴だ、まあ自分は神だとか言ってるから仕方ないのか……。
テーブルの上に本を置けばソイツは本を開いて「ほらほら」と空間を司るポケモン、パルキアの挿絵を指差した。
「な?ちゃんといるだろ?まだ沢山の本にいーっぱい書かれてるんだぜ!!」
私、やっぱり超有名じゃん!お前が無知なだけだったな!とソイツはオレを見て笑った。
可哀想に……。
この男は本気で自分の事をポケモンだと思っているのか……。身内とか居ないのかな……、誰か病院に連れて行ってやれよ……。
「この前な、ディアルガの奴と喧嘩したんだ。アイツ本当に容赦ねぇ攻撃してくるんだぜ?しんじられねぇよな!!」
「……そうだな」
「ちょーっと遊びに行っただけなのによぉ」
楽しげに一人喋りだしたパルキアに相槌を打つ。
もう夜中だから病院開いてねぇんだよな……、こんな夜中に可哀想な人間を放り出すほどオレも鬼じゃない。
「……何か飲むか?」
「飲むっ!」
温かいお茶でも淹れてやろう。
自分で自分の事を言うのは気持ち悪いけど。オレって凄い良い奴。
見たものしか信じない
「つーか、こんなに有名な私の事を知らない人間っつーのも珍しいよな」
「……」
神話で語られる"ポケモン"のパルキアなら知ってますけど。
「あ!言っとくけどゲットはされねぇからな!!」
「ああ、うん……」
アハハ、と笑ってお茶を啜ったパルキアをぼんやりと眺めた。
むしろ人間をどうやってゲットするのか聞きてぇよ……。
「じゃ、また遊びに来るからなー!」
「……」
*