「コイツ、リョウスケの事が気になってるみたいなんだよな」
そう言って来たのはトレーナーとして旅に出ていた友人だった。
腰に付けた六つのボールから一つを俺に向けて言ったのだ。
勿論、意味が分からない。
暫く会っていなかった友人が帰ってきて早々に見てくれオレの育てたポケモンをー!とボールを俺に向かって投げて来た。早朝の寝起きの人間に対してだ、頭が可笑しいとしか思えない。
そんな事があった。あったにはあったが友人のポケモンなんてほとんど覚えちゃいない。だって寝起きだったもん。と言っておく。
オレよりリョウスケと一緒に居たいみたい。そう言われてしまっては俺はそうと頷く他ないわけで。自分のポケモンがそんな風に思っているのに気付いてしまった友人もトレーナーとしてそのポケモンを連れ回す気にはなれないらしい。
再び旅に出るという友人と望んでもいないポケモン交換が行われた。
大事に育てたポケモンをお前にくれてやるなんて!タダでくれてやるなんて!嫌だ!とハッキリとモノを言う友人をぶん殴ってやろうかと思ったが。俺の唯一のポケモンは街をほとんど出ない俺のせいで成長はみられない。
この辺ではゲット出来ない珍しいポケモンというのもあって、友人に交換を持ち掛けられたのだ……。
俺のポケモン、フシギダネ……。
旅立つトレーナーが連れて行くはずだったポケモン、勿論この地方のではないが……。ちょっとした知り合いのツテで俺の元にやってきた。
しかし旅に出ない俺の元に来たフシギダネは……、俺には分からないけど旅に出たかったかもしれない。
俺は寂しい気持ちを抱きながらも友人に向かって頷いた。
そして俺の手元に来たのはルカリオ。
俺を見てペコリと小さくお辞儀をしてみせたルカリオの頭を撫でてやる。フシギダネも可愛かったけどルカリオも可愛いな。
俺に興味を持ってくれたポケモン、自ら望んで俺の所へと来てくれた、はずだった……。
ポケモンの言葉が分かればな……、と思う。
最初の内はとても良い子だった。ポケモンショップで働く俺の手伝いをしてくれて、甘えん坊なのかべったりと俺に付いて甘えてくる。
それなのに……、暫くするとルカリオは急に癇癪を起したように暴れた。
帰宅すると部屋がめちゃくちゃになっていたり、俺の枕を噛みちぎってベッドで眠っていたりとそれはもう酷い有様だった。
何が不満なのか俺にはさっぱり分からない……。頭を撫でてやればルカリオは嬉しそうに目を細めて擦り寄って来る。何が……、不満なのか……。
家に置いておくとルカリオが部屋をめちゃくちゃにするかもしれないので仕事場にルカリオを連れて行く事にした。
外で大人しくしているルカリオを見てほっと安堵の息を漏らす。
「いらっしゃいませー」
入って来たお客さんと挨拶を交わす。
常連のトレーナーさんで新しいポケモンをゲットしたから見てくれと、傷薬を買ってくれたトレーナーさんの言葉に頷いた。
トレーナーさんと一緒に外に出て、新しくゲットしたというポケモンを見せてもらう。ボールから出て来たのはブイゼルだ。
「ブイー」
「可愛いですね」
なかなか強いんだ、これからもっと強くなると笑って言ったトレーナーさん。
へえ、と頷きながらブイゼルを抱きかかえる。水ポケモンなだけあって、すべすべっとした毛並みが気持ちいいっ。
「ガルルルルゥ……」
「!?」
牙を剥いたルカリオが俺を睨み付けていた。
何かまた不満な事でもあったのか、癇癪を起して暴れ出す前兆だ。
「ルカリオ!落ち着け!」
「ガァアアウッ!!!」
ルカリオは俺を突き飛ばしてブイゼルを叩き落とした。トレーナーさんが驚き声をあげる。
ブイゼルに噛みつこうとしたルカリオを慌てて抱きすくめれば俺の腕が噛まれた。
ボールに戻せばルカリオは大人しくボールにおさまった。最近はボールに入れると勝手に出て来てしまっていたから安心した。
トレーナーさんに頭を下げて謝る。
言う事を聞かないのか?と心配されて俺は困ったように笑って頷くしかない。
トレーナーさんが言うには人と交換したポケモンはなかなか懐かないし、レベルが高いと言う事を聞かないそうだ……。
仕事を終え帰宅してからボールの開閉ボタンを押す。
ボールから出て来たルカリオが何か言いたげに……、いや、俺に何かを言って欲しいのか期待するように潤んだ瞳で俺を見つめた。
「ルカリオ……」
「……」
「バトルをしてるわけでもないのに何で攻撃したんだ?ブイゼルが大怪我するかもしれなかったんだぞ……」
お前は一体……俺に何が言いたいんだ。そうルカリオに言えばルカリオはギリと歯を食いしばった。
ああ、俺の言った言葉はお前の求める言葉じゃなかったんだな……、でも、俺はお前が何を求めてるかなんて分からないよ……。
「俺はお前に暴れないでほしいし、他のポケモンをむやみに傷つけるのもやめてほしい」
だって、暴れた後のお前は酷く悲しげに俺を見つめる……。
グルル……と呻ったルカリオが牙を剥いて飛び掛かって来た。また噛みつかれてはたまらないし、噛み癖がついても困る!!
手荒だと思いながらルカリオの頭を掴んで床に叩き付けた。ポケモンのルカリオなら俺の手を振りほどいて反撃する事も出来るだろう……。でも、ルカリオは反撃してこなかった。
押さえ付けられたルカリオは呻り声をあげてその目から涙を零す。
「お前はっ、俺に何を求めてるんだ……ッ」
分からない、理解してあげられない。
ゆっくりと頭を掴む手を緩めればルカリオの姿が瞬きをした瞬間に人の姿に変わっていて驚いた。何が起こったのか分からない。
小さくルカリオの名前を呼べばルカリオは目から涙をぼろぼろと流しながら俺を見つめた。
盲信
(わけも分からず、ただひたすらに信じること)
リョウスケは、僕を好きになってくれたから交換してくれたんじゃないの……?優しく撫でてくれたし抱きついたら抱きしめ返してくれた。
唯一のポケモンを手放してまで僕を受け入れてくれたのに……。
名前もしらない人間にその辺のポケモンになんでやさしくするの……。
ソイツ等ナンカヨリ……、
僕ニモット笑イカケテ!!僕ダケニ優シクシテ!!頭ヲ撫デテモラエルノモ僕ダケ!抱キシメテモラエルノモ僕ダケ!!
僕ダケデ良イノニ!!
「……ルカ、リオ、ッ」
ソウだよ……、そう……。
「リョウスケの事がスキ……、ダイスキだから、他の奴に優しくするなぁああああッ!!!」
「!?」
(ほら、早く僕に首輪を付けて!お前は俺のモノだって!!)