一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

50 / 221
エアームド


青空郵便

おれのご主人は郵便屋さんです。

ご主人の名前はアキミチ、おれは優しいアキミチが大好き。

郵便局は色んな街にあって、近い場所への配達はデリバートやペリッパーなど体の小さめなポケモンが。遠くへの配達は大きなポケモンが人間を背中に乗せて配達する。

おれはデリバートやペリッパー達とは違って大きくて頑丈、人間を背に乗せて長時間空を飛べるから長距離用のポケモンなんだって。

でも、おれは最近ゲットされた。

いわゆる新米ってやつ、配達する場所だってまだ覚えてないから勉強しないと駄目なんだ。覚えられるか不安だけどアキミチは一緒に覚えようなって優しく頭を撫でてくれた。

 

アキミチはおれをゲットする前はカイリューと一緒に色んな所へ配達に行ったらしい。

でも、新人の奴が入って来たから仕事をちゃんと覚えてる優秀なカイリューがその新人の奴のパートナーになったらしい。

アキミチが教えてくれた。新人だったアキミチと新米だったカイリュー、一緒に成長したから離れるのは少しだけ、本当に少しだけ寂しいんだって。

それを聞いておれも少しだけ寂しくなったけど……、おれもカイリューみたいになれるかと聞いたらアキミチは笑って頷いてくれた。

だから、おれは頑張ろうと思う。

アキミチが寂しさなんて感じないくらい、カイリューよりも頼もしいと言われるくらい、立派になってやろう。

 

 

まだ新米のおれはまず長距離を飛ぶ練習からする。

おれの前に立ったアキミチはおれと視線を合わせて、分かりやすいようにゆっくりと、おれが覚えられるように説明してくれた。

 

「エアームド、ちゃんと覚えておくんだぞ?」

 

コクンと頷けばアキミチはニコリと笑った。

長い距離を飛ぶにはペース配分が大切だ。最初から速く力一杯飛んでしまうと途中で疲れてしまって配達が遅れてしまう。

だから何処まで行くのかと聞いた時に、どれだけの力と速さで飛ぶのか理解しておく必要がある。これはポケモンによって異なるからこれはしっかりと頭と体で覚えること。

 

「いいか?今日はとっても良い天気だけど、配達する日が雨かもしれないし風が強いかもしれない、嵐だって突然やってくるかもしれない。そんな時にも瞬時に対応しなければいけないんだ」

 

なんだか簡単ではなさそうだ……。

しっかりと頷けないおれを見てアキミチが笑う。

 

「大丈夫。俺がお前の背に乗ってるからな」

 

一緒に覚えよう。

俺もお前のペースを覚える。お前は俺を信用して空を飛んでくれ。

おれはしっかりと大きく頷いた。

すると……、空から沢山の手紙が降って来た。おれとアキミチが空を見上げればカイリューが空をぐるりと旋回する……。

 

「へ……?」

 

アキミチのポカンとした声の後に泣き声混じりの悲鳴が聞こえてきた。

カイリューとパートナーになった新人の奴だ!!

 

「うわわあわわああああああ!!!!先輩ぃいい!!!手紙ばら撒いてもうたよぉおおお!!!」

「見れば分かる!!降りて来てさっさと拾い集めろ!!!」

「うあああああ!!カイリュー降りてぇえええ!!!」

 

大事な手紙がぁああ!!と慌ててアキミチが走って行く。おれも手伝わなければと思ったけど、硬い翼じゃ寄せ集める事も出来やしない。

薄っぺらい手紙を口ばしで掴むのも一苦労だ……。

人間と同じ姿なら……、そう思った次の瞬間におれはすでに人と同じ姿で。アキミチと同じ五本指の手があって感動した。

とりあえず足元の手紙を拾い集める。

 

「アキミチ!手紙拾った!」

「エアームド!?え、マジで!?」

 

新人がびしっとアキミチを指差して言った。

 

「先輩!昔、ポケモンは人と同じ姿をしてたらしいんで別に可笑しい事やないと思います!」

「お前は手紙をカバンに戻せ」

「はい!」

 

カイリューが呆れたように溜息を吐いた。

カバンに手紙をなおした新人の奴はびしっと敬礼をした。

 

「いっぺん局に戻って紛失が無いか確認してもらってきます!」

「当然だ」

「はい、謝ってきます!」

「土下座してきなさい」

 

カイリューに乗って新人の奴が郵便局に戻って行った。

おれはあんな大変な失敗はしないぞ、と心に誓う。アキミチに怒られたくないし。

ふぅと息を吐いてアキミチがおれの方を見た。足元から頭の天辺までまじまじと見られてしまった、少し恥ずかしい。

 

「人の姿になれるポケモンなんて初めて見た……」

「アキミチにも知らない事あったんだ」

「……だな」

 

クスリと笑ったアキミチにおれも笑い返す。

じゃあ、練習を再開するかとアキミチが言ったので俺は元の姿に戻る。やっとアキミチを乗せて空を飛べるぞ!!

 

「とりあえず街を疲れるまでグルグルと飛んでみるか。どれだけ体力があるか確認したいからな」

 

とん、と背にアキミチが乗った

ドキドキと胸が大きく鳴った。ああ、アキミチと空を飛べるこれからずっとアキミチと空を飛びまわるんだ!

大きく翼を広げて力一杯飛び上がった!!!!

 

「うわぁッ!?」

「……?」

 

背中から重みが消えた。

下を見ればアキミチが肩をおさえて置きあがる。

 

「!?」

 

おれ、アキミチの事……、落っことした!!!!

大慌てで傍に寄ればアキミチはおれの頭を優しく撫でてくれる。

 

「飛び上がる時はもっとゆっくり、な……」

「……」

 

ごめんなさい。

でも、もう失敗はしない。絶対にしないからな!!

 

 

青空郵便

 

 

今度はちゃんとアキミチを背に乗せたまま飛べた。

どっちに飛べば良いのかアキミチの指示を待つ。ああ、やっぱりまだドキドキするな!!

 

「それじゃ、郵便局の方に飛ぼうか。そのままグルグル街を回るぞ」

 

よっしゃー!!!

 

「どれぐらいの時間とッ、おおおおおおおおおおおお!!!!」

 

体力の限界ってどれぐらいか分かんないから頑張らないと!!!

 

「ちょ、エアームドッ!!」

 

郵便局の上、通り過ぎまーす!!!

 

「……カイリュー、今の見た?今な、上をエアームドが通り過ぎたんやけどあれは300キロ出る勢いやったで」

「……」

「さすがエアームド!!先輩が生きて帰って来れるようにお祈りしとこか!!」

「リュゥ~……」

 

 

(エアームド……、お前は当分練習だ……)(……?)


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告