一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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朝早く布団から抜け出せば隣で寝ていたカズキとノリコが目を擦りながら起き上がった。

明日、旅に出ると私が言ったものだから一緒に寝ると聞かなかったのだ。私は凄く狭くて寝苦しかったぞ……。

 

「もう、朝……?」

「朝6時だ」

 

半分眠っている状態でフラフラと歩く二人の背を押してリビングまで行けばカナコさんとイツキさんが「おはよう」と声をかけてくれた。

 

「息子の旅立ちの前はやっぱりよく眠れなかったわ……」

「俺は叩き起こされた!!」

 

私が旅に出るとはいえ、そう気を使って貰わなくても良いのに……、そうは思いつつも言葉には出さず朝食を少しだけ口に運ぶ。

用意をすませ、荷持を持って外に出ればカズキとノリコが私の足にしがみ付いて来た。

 

「……」

 

ずるずると二人を引き摺って歩くと二人はべしゃりと地面に落ちた。

 

「痛いー!!!」

「うわーん!!」

 

カナコさんの傍へと駆け戻った二人を見てから私は小さく手を振った。

 

「いってらっしゃーい!!」

「気を付けてな!!」

「……いってきます」

 

大きく手を振ってくれるカナコさんとイツキさんに返事を返した・

カズキとノリコも目に涙を溜めて手を振ってくれたが……、もう二度と会えないみたいな送り方をしないで欲しい。

少しこれからの事が不安になりながらも前を見据え歩き出した。

 

 

途中で見かけたロストタワーを見上げているとトレーナーにバトルを申し込まれた。

首を横に振ったが容赦なくポケモンを出してきたので嫌々モンスターボールを取り出した。

この世界の人達は良い人だが話を聞かない節があるのは気のせいか。

ヨスガシティに着くまでに幾度となくバトルを挑まれ、フラフラと歩きながらヨスガシティと書かれた看板を見やる。

 

やっと着いた…。

 

普通に通行出来ていればこんなに時間は掛からなかったのに……、若干の苛立ちもありながらとりあえずポケモンセンターを探す。

持っていたキズぐすりやらを使ったのでポケモン達はまだわりと元気だが、私の方が休みたいんだ。私にはキズぐすりも何もないんだから仕方ない。

 

「すみません、少し良いですか」

 

ポケモンセンターの場所を聞こうと近くに居た男性に声を掛けた。

 

「わたしホウエン地方からやって来た者です」

 

聞いてない。

 

「コンテスト会場が分からず迷っていたわたしをここの人は当たり前に送ってくれました!」

 

だから、聞いてない。

 

「感動です!なのでわたしも貴方を送って行きましょうか?」

 

「はい?」

 

「では、こちらです!」

 

ぐい、と腕を引かれて歩き出す。

今のは返事をしたわけじゃないのに、と思いつつ引かれるままに歩けばポケモンセンターを通り過ぎた。

私はあそこに行きたかったのに!!

 

「ここがコンテスト会場です!ささっ中にどうぞ!」

 

「は?」

 

ぐいぐいと背を押されて会場とやらに押し込まれた。

人の賑わう会場内を見渡せば綺麗に着飾った人や楽しみだとはしゃぐ人も……、会場内に居るポケモンも何処か緊張している様だった。

私はそそくさと踵を返してコンテスト会場を後にした。

場違いも良い所だ。それにコンテスト会場って、何のコンテストなのかもさっぱりだ。

 

ポケモンセンターに行こう、そう思って歩き出した時に看板が視界に入った。

 

『ポケモンコンテスト会場 集えポケモン自慢!』

「……」

 

ポケモンセンターに行こう。

 

 

やっと見えて来たポケモンセンターに入ろうとするとポケモンセンターの隣の家から誰か出て来た。

何か大きな荷物を持って大変そうだったが気にせず歩いていると呼び止められる、不運だ。

 

「ちょお!!アンタやアンタ!!」

「……」

 

めちゃくちゃ睨まれてる所を見るとやはり私らしい。

 

「手開いてるんやったらこれ持って!!」

「私はポケモンセンターに……」

「ポケモンセンターに運ぶから持て言うとんねん!!」

 

ダンボールに入った荷持を持たされた。

訛りのある喋り方をする女は再び家に入って同じくらいの荷持を持って「行くで」と私に声をかけた。

この世界の人間は強引だ……。

 

ポケモンセンターでジョーイさんとやらに荷持を渡せば女はニコリと私に笑みを向ける。

 

「ありがとうなぁ!!ホンマに助かったわ!!」

「……どういたしまして」

 

勿論、皮肉を込めた返事だ。

ついでにジョーイさんにモンスターボールを渡して私はさっさと近くにあった椅子に座った。

隣に女が座る、まだ何か用なのかと視線をやれば愛想の良い笑みで女は話かけて来る。

 

「アンタ、トレーナーなん?やっぱりヨスガにはジム戦?それともコンテストに参加しに来たん?」

「どっちも違う」

「じゃあ、何なん?」

「テンガン山に行く途中に通っただけだ」

「へー、研究してるとかそんなん?」

「それも違う」

 

分からんやっちゃなー、と言って口を尖らせた女は私の肩に寄りかかってきた。

 

「……離れろ」

「ええやんかー、よお見たらお兄さん男前やったからー」

 

ケラケラと笑う女を引き離して少し横にずれて座った。

 

「お待ちどうさまー」

「どうも」

「イーブイが二匹とヒンバスが一匹で間違いないかしら?」

「はい」

 

ジョーイさんからボールを受け取ってカバンに戻す。

隣でほーと女が頷いた。

 

「イーブイ、二匹も持ってるんやー」

「悪いか」

「全然!!っていうか、その持ってるのはポケモンのタマゴやろ?」

「だったら何だ」

「アンタおもろいなぁ」

「何が」

「反応が」

 

ケラケラと女は笑うが逆に私の方はイライラして来た。

 

「イーブイが何種類に進化するかしっとる?」

「……いや」

「7種類や」

「それは多いのか?」

「多いに決まってるやん」

 

へえ、と頷けば女は得意気に話し始めた。

 

「特定の石を使って進化したり、時間帯によって進化したり、ある場所でだけ進化したりするんよ」

「そうか、覚えておく」

「そっけない返事やな~、ちなみにヒンバスもある条件を満たさな進化せーへんポケモンや」

「やっぱり進化はするのか」

「美しく育てれば進化するんよ」

「……は?」

 

それはどういう事だ、と聞こうとしたが女は慌てて立ち上がった。

 

「もうこんな時間やん!!ほなね!!」

「あ、オイ」

 

女は手を振ってポケモンセンターから出て行ってしまった。

時間を見るともうすぐお昼になる、まだ何も食べる気はしなかったのでその辺を歩こうとポケモンセンターを後にした。

 

*

 

少し歩くと大きな建物があった、これは何の建物なのかと近くに居た人に聞いたら教会だと教えてくれた。

立ち寄るかどうか考えたが、一度自ら死んだ人間が入るのはどうなんだ……という結論にいたり入らない事にした。

 

教会の近くに看板を見つけた。

『ポフィン料理ハウス 美味しいポフィンは笑顔のもと』

 

「ぽふぃん……?」

「木の実を料理して作るのよ」

 

丁度、建物から出て来た女性が笑顔で答えてくれた。

ポフィンはポケモンが食べる料理らしい。

作り方を教えてあげるから入って行ってと言われお邪魔する事にした。

 

「木の実は持ってる?」

 

カナコさんがカバンに入れていた木の実は沢山あるが……、どういう名前の木の実なのかも分からず使えずじまいだ。

 

「珍しい木の実もあるのね」

 

そう言って女性は笑ったが、どれが珍しいのかも分からない。私からしたら変な形で変な色をしている木の実は全部珍しい。

教わるままに木の実を刻んで鍋に入れる、零さないようにゆっくり混ぜてと言われゆっくり混ぜているとぐるぐる回して!と言われ慌ててぐるぐる回す。

 

「はい、美味しくなれと念じつつ、ぎゅるるんと回す!!」

 

ぎゅるるん!?

 

作り終わった頃に何故か息切れ、ポケモンの食べ物だが少しかじって見るともの凄く辛かった……。

とりあえずイーブイ達を出して早速作り立てのポフィンをあげてみたがにおいを嗅いだだけで食べようとはしない、まあ、こんな辛いの私だって食べたくないが。

 

「食べなかった?そりゃそうよー、人間と同じでポケモンにも好きな味があるもの」

 

……先に言ってくれ。

 

「どんな味が好きなんだ?」

「ブイ~」

「ブイ」

「ヒー」

「……ふむ」

 

鍋を借りて勝手に木の実をブレンドさせてみた、固めの奴は細かくした方が良いと思って勝手に刻むだけじゃなく粉末にして入れてみる。

料理でも一工夫あった方が美味しくなるんだから、ポケモンの食べ物だとしても同じだろう……と勝手に思ってみる。

何回か作ってみて入れる順番も考えてみた、最後の段階で粉末を入れた方が香りがつくが食べた時に粉っぽい、途中でこの木の実を入れると味がよりなめらかになる。

一番最初のは辛いだけだったが、違う木の実を使うと辛くて甘いものも作れた。

 

「ん!!凄いまろやかになったぞ!!」

 

まろやかなポフィンをやるとこれは三匹とも美味しそうに食べていた。

しかし、能天気なイーブイは酸っぱい味が好きらしく私が顔をしかめるポフィンを大喜びで食べていた。腹が立ったのでもの凄く酸っぱく作ってやれば更に喜んだ。私は悶絶したが……。

冷静なイーブイとヒンバスは渋い味が好きらしく、渋い味のポフィンを取り合う様に食べていた。

残ったこの辛いのと甘いのと苦いのはどうすれば良いんだ……。

 

「この辛くて渋いのは食べないのか?」

「ブイッ」

 

冷静なイーブイにそっぽを向かれてしまった、仕方なくヒンバスの方に持っていけばヒンバスは嫌な顔一つせずポフィンを食べた。

さすがに食べさせすぎは体に悪い気がして、まだ欲しがっていたがポフィンを没収した。

女性にお礼を言って料理ハウスを出る。ポケモンの食べ物は人間の料理より奥が深い。

 

「お前たちの腹が満たされても私は空腹だ」

 

夢中になり過ぎてお昼をとっくに過ぎていた……、ポケモンセンターに戻って昼食を食べようと思う。

 

 

昼食を食べ終わり地図を広げてルートを確認する。ヨスガシティからテンガン山へと行く事は出来るみたいだが……。

山を登るには何が必要なんだ……、カナコさんがカバンに入れてくれた荷物の中には大量の薬やら道具が入っているから大丈夫だと思いたい。

 

今から行けば夜までには別のポケモンセンターなりに着けるだろうか?それともここで一泊してから朝から行くべきか……ジョーイさんに相談してみた。

 

「朝から行く方が良いですよー」

 

そうします。と、返事してヨスガシティを再び歩き回るとポケモン広場という場所があった。

公園みたいなものかと思って入るがポケモンを連れてでないと入れないらしい、イーブイじゃ駄目かと聞いてみたが連れて入って良いポケモンの名前をつらつらと言われてしまい諦めた。

ギャラドスじゃ入れないと門前払いされたと嘆く男の人を傍を通り過ぎた、ギャラドスも入れないのか……とは言ってもギャラドスをまだ見た事がないが……。

 

ポケモン広場を後にして歩いているとまた大きな建物、看板を見ればポケモンジムと書かれていた。

ジム?トレーニングでもする場所なのだろうか……、リーダーメリッサと書かれてある所からジムの責任者がメリッサという人なのだろうか。

 

『魅惑のソウルフルダンサー』

 

謎が深まった。

 

 

そのままジムに背を向けて歩いていくとマンションの様な建物があった、開けっ放しで入ってもよさそうだったので中に入ってみる。

中に居た女の子と少し会話をして、キノココを見せてもらった。キノコだった。

少しだけ話をした女性から貝殻の鈴を貰った、二つ持ってるからどうぞと言われ有り難く貰っておく事にする。

マンションを出れば隣に小さな建物があった、看板があったので見てみれば『ポケモン大好きクラブ その名の通り!』と書かれていた。

ポケモンが大好きな事は伝わった。

 

中に入ると育て屋で見た黄色のアヒルが居た、また頭を抱え首を傾げられた……私は何もしてないぞ……。

自慢話をやめたという会長さんが自慢話をしたそうだったので少しだけ付き合ってやった、途中から聞いてなかったが話終えた会長さんは満足気だ。

お礼にとポフィンを入れるケースをくれた、ビニール袋に入れていたポフィンの行き場が決まった、これはラッキーだ。

 

「本当に話が長くてごめんなさいね」

「いや」

 

ほとんど聞き流してたから、とは言わず首を横に振っておく。

 

「あら、貴方のイーブイ」

「?」

「凄く懐いてるわね!貴方が優しいのが分かるわ」

「はぁ……」

 

ニコニコとあまりにも自信ありげに言うものだから、ヒンバスを出してこっちは?と聞くと女の人はヒンバスをじーっと見つめた。

 

「もの凄く懐いてるわね!見ててこっちが照れちゃう!!」

 

この顔の何処が?

じ、とヒンバスの顔を見てみたがもの凄く懐いている要素が分からなかった。

 

ぐるっと歩き回ってポケモンセンターに戻って来た、知らない場所を見て回るのはわりと楽しいし、声をかけかけられで人ともよく接する世界だ……。

夕食まで暇になったので借りた部屋のベッドで横になって本を読む、ボールから出したイーブイが部屋の中を走り回っていた。

 

「ふぅ……」

 

本を一冊読み終われば寄り添って眠っているイーブイニ匹、ヒンバスは窓の傍でのんびりしていた。

本をカバンに戻そうと近くに置いていたカバンを手繰り寄せる、ついでにタマゴも拭いといてやろうとタマゴを手に取った。

カタカタとタマゴが動く、やけに動き出したな……と思いつつタマゴをタオルで拭いてカバンに戻した。

 

夕食を食べに行く為にタマゴの入ったカバンを肩にかける。

窓際でのんびりしていたヒンバスを抱えて、イーブイに声をかけた。

 

 

今度、ポフィンだけじゃなくてポケモンフードなんかも作ってみようか。

いちいち買うのめんどくさいし、作った方が量もあるし作り置きも出来るし……。

よし、そうしよう。

 

*

 


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