強いポケモンって誰でも欲しいと思う。
オレもその中の一人。
草むらを歩いて飛び出て来たポケモンをゲットするより、珍しいポケモンが良い。
携帯電話を片手にDSの画面をタッチペンで突く。
「え、何か画面がバグってる……」
オレは全くといってそういった知識が無いので詳しい友人にゲームを改造してもらった。
電話の向こうであーしろこーしろと誘導してくれる友人の言葉通りにゲームを進めてみる。このまま進んでゲームデータ全部消えたら泣くかもしれない。
「ここで電源切ったら良いんだよな?」
完璧!次に電源を入れればチートポケモンゲットだぜ!!と、友人の弾んだ声が返って来て思わず笑う。
そして友人にお礼を言って携帯を切った、何でもバイトに行く時間が来たそうだ。今度、飯でも奢ろうと思う。
ベッドに仰向けに寝転がってDSの電源を入れた。
これでオレの手持ちには……。
一人ニヤけているとゲーム画面が突然真っ白になった。慌てて体を起こしてカチカチカチとボタンを連打。
データが!!と慌てていると真っ白のゲーム画面から真っ白の人外の手……、あ、これ映画で見た事ある……、なんて考えが一瞬、本当に一瞬だけよぎった。
そのままオレは真っ白の腕に首を掴まれ今度は強制的にベッドに寝転がされた。ギリ、と驚異的な力で首を締め付けられる。
「…、ぐ、」
呼吸が出来ない。
首を絞める白い腕を両手で掴んでみるがビクともしない。ああ、そういやオレのDS何処行った……。
霞む視界には真っ白で異様に目をギラつかせた"ヤツ"が居た。
何で、
その言葉は締め付けられた喉から出ない。
確かに手に入るはずだった。
手に入るはずだったので姿があるのは喜ばしいが、"ここ"に居るのは可笑しい。
オレの腹の上にズシリと乗ったソイツ……、ミュウツーはギリギリとオレの首を絞める。このままじゃ本気で殺されると思ったオレも力の限り抵抗する。
ミュウツーの腕を掴み引き離そうともがく、オレがもがけばオレとミュウツーの重みでベッドがギシギシと悲鳴をあげた。
「……ぁ、なせッ、ミュ……、ツ、ゥ……ッ」
「存在するべきではなかった」
「…、!!」
「生まれるべきではなかった、それなのに何故、お前は……」
映画で聞いたような展開だ。
これは悪趣味な夢か何かだと本気で思いたい。
「答えろ!」
「……ゥ、!!」
言動と行動が矛盾していると、訴える為にオレはミュウツーの腕を数回叩く。
すると少しだけ首を絞めていた力が緩んだ。
吸い込んだ酸素に咽ながらオレはミュウツーに視線を合わせる。
「……はッ、く……、ミュゥツー……」
「……」
「オレはお前が、欲しかった……、だから、お前はオレの為に存在してくれ……」
それで一緒に四天王倒しに行って何度もリーグ制覇して賞金荒稼ぎするんだ……。
咽るオレの上からゆっくりとミュウツーが退いた。オレはそのまま体を反転させて枕に顔を押し付け咳をする。
深呼吸して、咳をして、それを繰り返して暫くの間ずっと枕に顔を押さえつけた……。
喉が痛い、そう思いつつ体を起こせばベッドの上からDSが床に落ちた。
電源は入っているのかランプは付いている……。でも画面は真っ黒だ……。
DSを拾って視線を上げればオレに背を向けて座るミュウツーの姿があった。
夢オチだと本気で思い込もうとしてたのに……。
「ミュウツー?」
擦れる声で呼べばミュウツーはチラリとこちらに視線をやったがすぐに視線を窓の外に戻した。
オレ、これのピカチュウバージョン見た事ある!!
歩いてる間はこっち向いてくれてるんだけど放置してたら背向けちゃうんだよ!そんで更に放置するとボールに戻っちゃうんだけど……って、どうでも良いな。
小学生の頃の思い出を蹴り飛ばした、それどころじゃねぇ。
DSを片手に持ったまま、これはまだ夢なんじゃないかという期待をしつつ、オレはミュウツーの背に自分の背中を合わせて座ってみた。
ちゃんと体温がある……。
手元にあるDSの電源を切って、入れてみる……、データは無い。
「はぁ……」
ミュウツーが少し身動ぎした。
するとオレの腕にミュウツーの尻尾がゆるりと絡められる。
何だ、と大人しくミュウツーの反応を待ってみたが何も反応が無い。
「……ミュウツー」
きゅ、と尻尾が少しだけ強く腕を締め付けた。
液晶、何故退いた
「もしもーし」
<「何?今、バイト中なんだけどー」>
「ミュウツーがリアルに出て来た場合はどうすれば良いんですかねー、ボールも何も無いんだけど」
<「は?……あ、もしかしてデータ飛んでパニック?」>
アハハと電話の向こうで友人が笑った。
とりあえず、お前に飯は奢らねぇ。
(オレ、ゲームのし過ぎで頭どうかしちゃってんのかな……)