一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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連載とは別個体、ミュウツー


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ゲームの中のオレの手持ちには改造ミュウツーがいるはずでした。

今頃は賞金荒稼ぎしてあんまり懐いてないミュウツーを連れまわしてるはずなんです。

あくまでゲームの話、ゲームのキャラクター、そんなポケモンが現実の世界に現れてオレはどうすれば良いんですか?バイト中であろう友人がすぐに駆けつけてくれるわけもなく、尻尾をオレの腕に巻き付けたまま大人しいミュウツーに視線をやる。7

でかいし白いし、当然ながらめちゃくちゃ強いんだろうし……。

ボールは勿論あるわけない、ゲームみたいに都合よくパソコンの中に入れてしまえるわけじゃないし、ポケモンって何食べるんだろう……、アニメだとポケモンフードとかポケモン用のがあったよなぁ……。

まあ、唯一の救いはミュウツーがエスパータイプでテレパシーを使ってオレと会話が出来るって所だ。うん、言葉が通じれば意思疎通も出来なくはない。仲良くなれるかは……、まあ、置いておこう。

パカ、と音を立てて携帯を開く。まだ友人のバイトは終わらないだろう、電話してミュウツーが……、なんて言ったら今度は笑い飛ばされるよりブチ切れされそうだ。忙しいみたいだし……。

オレが溜息を吐けば後ろからミュウツーがオレの手元を覗きこんでいた。じー……と見てるのは……、携帯、かな?

ポケモンの世界の方が科学は進歩してるんだからそう珍しいものでもないような気がする、ミュウツーは映画通りだと頭も良いんだろうし。

 

「携帯電話、見た事ない?」

「……携帯電話」

「小さくなって持ち運べる電話、っていうか電話ぐらい知ってるだろ?」

「電話とは何をするものだ……」

「え?」

 

ミュウツーがオレを真剣に見つめる。

電話を知らない?ゲームの世界に電話はあった、ミュウツーが知らないはずは……。

 

「何も知らない、私は生まれたばかりだ」

 

オレが生んじゃったぁあああ!!

赤ん坊同然、むしろ有り余る力を持つミュウツーは赤ん坊よりやっかいだ。

落ち着こうオレ、落ち着けオレ、何も知らないのは恐ろしい事だがよく考えろ、何も知らないという事はオレが教える事が出来るという事だ。

教える事が出来る、すなわち、ミュウツーを支配出来る!!

よしよしよし!!!

とりあえず、オレの言う事は絶対に聞くという事を教え込もう。教えなければオレが死ぬ、世界が終る。

 

「ミュウツー、何も知らなかったなんてオレも知らなかった」

「そうか」

「だから一番大事な事を教えといてやるよ!」

「一番大事な事……」

「そう、生まれた時……、一番最初に見た相手の言う事は絶対に聞かなきゃいけないんだぞ」

「私が一番最初に見た相手は……お前だ。私はお前の言う事を絶対に聞かなければいけないのだな……?」

「そう!オレも生まれた時に一番最初に見た相手の言う事は絶対に聞いてるし、これはもう本当に絶対に大事な事なんだ!!」

 

わかった、と頷いたミュウツーにオレは心の中で安堵の息を吐いた。や、やったよ!!これで一応オレの身の安全は確実に確保出来たわけだ!!

うん、オレ、嘘は吐いてない。オレだって一番最初に見た相手、まあ母ちゃんだけど言う事ちゃんと聞いてるもん、絶対って言うとまあうん……、でも、聞いてるし。

 

「ミュウツー、オレはヒロミっていう名前なんだ。ミュウツーは外に出ると色々と危ないからここで大人しくしててくれよな?」

「……」

 

コクンと頷いたミュウツーが何だか可愛くみえて頭を撫でてやるとミュウツーはきゅと目を瞑ってされるがままになっていた。

いやぁああああ、でっかいのに小動物みたいぃいいい!!!

この下手をすれば世界をものに出来てしまう兵器のような存在を手懐けてしまった……、しかもオレの言う事には絶対に聞く……。おおう、何だろうこの優越感……。

気分良いわぁ、と思ったら無意識に口元がニヤける。オレ今世界で一番凄い奴になってるかも……。

 

「外には出ちゃダメだけど家の中なら好きに歩きまわって良いからな」

 

コクンとまた頷いたミュウツーの頭を撫でる。

いやぁ、友人のバイト早く終わんないかな……。このオレの感動を伝えたい、今すぐにでも伝えたいわ。

オレが立ち上がるとミュウツーも立ち上がった。どうやらオレについて来るらしい。ついでに何を食べるのか確認しようとオレは台所へと向かった。

冷蔵庫の中を開けて肉やら野菜やら、買い置きのインスタントやらをテーブルに並べてみる。何も知らなくても自分が食べれそうな物は大体分かるかもしれない。

ミュウツー、と声を掛けたがオレのその声はミュウツーに届かなかったようだ。

電子レンジをおそらくサイコキネシスかなんかで動かしているミュウツー、電子レンジから普段使っていて絶対に聞けないであろう音が聞こえる……。

え、ちょ、何やってんの……!?と思ったオレの動揺をよそに電子レンジはボンと小規模ではあるが爆発音を立てて動かなくなった。

 

「電子レンジィイイイ!!!」

「……電子、レンジ?この鉄くずに名前があるのか」

 

お前が鉄くずにしたんだろうがぁあああ!!ちょっとぉおお!!そのレンジくんは凄く使える子だったんだぞ!?!?

 

「え、何、何でこんな事したの!?」

「触ったら音が鳴った」

「そりゃ押すとこ押したら音鳴るに決まってるだろうがよぉ」

 

鳴らなかったらそれは電子レンジじゃないですぅううう!!

高熱を発し煙をあげる電子レンジを大慌てで庭に持っていく、じょうろで水をかけなければ!という思考しかオレの頭にはなかった、とりあえず冷やす、とりあえず家から出す。

 

「アチチ!!」

 

水やり用のじょうろ、電子レンジに水をやるなんて人生初の試みだよチクショウ……。

煙もおさまったのでミュウツーに文句の一つでも言ってやろうと思ったが、今気付く……、オレ、ミュウツーに何も触るな!って言ってない。

 

「ミュウツー!!!」

「……?」

 

蛇口を捻ったり閉めたりしてるミュウツーが居た……。あらやだ可愛い、じゃねぇよ!!!

もう他に何も触ってないな。よし、蛇口しか触ってないみたいだ!!良かった、と大きく息を吐けばバキッと嫌な音。

 

「取れた……」

 

「蛇口ぃいいい!!!」

 

水が出っ放しで周りが水浸しなんて漫画みたいな状況にはならなかったが、水が出なくなったのも結構最悪だ……。

 

「ミュウツー、勝手に物に触るな!技を使うのも禁止!分かったか!?」

「……わかった」

 

ホントかよ……。

コクンと頷いたミュウツーを見てオレの心は凄く不安である。

もう数十分前の自分ぶん殴りてぇ……。なんなの、もう、ミュウツーを手懐けたぜヒャッハーイ!!オレって世界一凄い奴じゃねー?とか言ってたオレ、死ね!!!マジで死ね!!世界一ムカつく奴だオレ!!!

もうなんかしんどい。

友人のバイトはまだ終わらないのだろうか……。オレのこの絶望感を伝えたい、今すぐにでも泣きつきたいです……。感動?なにそれ美味しいの?

溜息を吐いてテーブルに並べた食品の数々を指差した。

 

「ミュウツー、どれか食べれそうだなーってのある?」

「……」

 

じー……、と食品を見下ろしたミュウツー。一応触るなと言ったので手は出さない。

暫く見てると「これは何だ」と言いながら首を傾げやがりました。はい、もうゲームの世界に戻って下さいマジで。

とりあえず食べてみれば良いよ、とポテトチップスの袋を開けてミュウツーに手渡す。ゆっくりとポテトチップスを受け取ったミュウツーは袋を持ったまま動かない、視線はポテトチップに向いてるけど……。

まあ、見た事もない物を食えと言われて食べる奴はあんまり居ないよな。食べ物であるかどうかも知らないんだもんな。

それは仕方ない、それはオレが悪かったとミュウツーの持っている袋に手を突っ込んでポテトチップスを一枚手に取る。

ミュウツーの視線がオレに向いた。オレがポテトチップスを食べればミュウツーはふむふむといった様子で頷いた。

ミュウツーが袋をガサガサと揺らして中身を確認しているのを見ているとピンポーンと家のチャイムが鳴った、チラリとミュウツーを見てからオレは玄関へと小走りで向かう。

 

「はーい」

「よっす、バイト終わったから来てやったぜ」

 

片手をあげて笑った友人の腕をガシリと掴むと友人が眉間に皺を寄せた。

 

「待ってたぁあああ……!!レンジ破壊するし蛇口無くなるし何食うか分かんないしでめっちゃ大変だったんだってマジでー!!」

「お前何なの頭打ったの?変な薬に手出してねぇだろうな……」

 

ミュウツーが現実世界に来たとかバカ言ってんじゃねぇよ、と言いながら友人が慣れたようにズカズカと家へとあがる。

リビングに入って行った友人をオレは玄関で見守った、台所とリビングは繋がってるから必然的に友人はミュウツーと対面する事になるわけだ。

叫べ!!オレの気持ちを味わえば良い!!

そう思っていたが友人の叫び声は聞こえて来ない。まさかアイツがそんな肝の据わった奴だったとは……。ちょっと見直したかも、と思っていたら友人がひょこっとリビングの扉から顔を覗かせた。

 

「お前、そこで何やってんの?」

「え?お前こそ何故驚かない」

「はぁ?」

 

ホントどうしたよお前……、と言いながら友人がこっちに歩いてきた。

その表情は呆れ一色だ、すげぇムカつく!!

 

「ミュウツー見ただろ!?」

「いねぇよ」

「なんだとぉおお!?オレが玄関に行った一瞬のうちに何処に!!あれか、テレポートか!?テレポートなのか!?」

「いや、何言ってんの、っていうかミュウツーはテレポート覚えねぇよ」

 

友人の冷静なツッコミを無視して台所に向かえば椅子に座ってポテトチップスを食べる真っ白の髪した男。

後ろから来た友人が「初めて見る奴だよな?何処で知り合ったの?」なんて聞いてきたが無視だ!!

 

「アンタ誰!?!?」

 

「……?私か?」

 

「あああああ!!ミュウツー!?ミュウツーの声だ!!コイツ、コイツがミュウツー!!」

 

コレコレ!と友人に必死に言ったが目潰しされた。

 

「ぎゃぁあああああ!?!?」

 

床をのたうち回ったのなんて初めてだ。目潰し超痛ぇ。

ミュウツーと同じように友人が椅子に座って勝手にオレのお菓子の袋を開けた。オレのカールが!!

 

「ヒロミくん、キミはちょっとゲームのしすぎです」

「お前に言われたくないわぁあああ!!!」

 

 

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頭が湧いてるだの、変な薬に手を出すなだの、病院行って来いだのとオレを罵る友人が凄くムカつく。

なんでミュウツーが今人間と同じ姿をしてるのかは全く分からないけど……、さっきまでポケモンのミュウツーだったんだから戻れるだろ……。

 

「ミュウツー、ちょっとポケモンの姿に戻って」

「わかった」

 

一瞬で人の姿をしていたミュウツーがポケモンの姿のミュウツーに戻るとカールをむさぼっていた友人が大きな叫び声をあげた。

 

「ざまぁみろぉおおお!!」

「ちょ、ちょ、待て、マジ待て!!何が起こったわけぇ!?」

「……ヒロミ、楽しそうだな」

「超楽しい!!ナイスだミュウツー!!グッジョブ!!」

「ぐっじょぶ……?」

 

 

(っていうか、人の姿になれるならずっとそっちで居ろよ)(……?わかった)(え!?ミュウツーで一儲けしようよ!!)(しねぇよバカ!)


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