一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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※この連載は10年前に書き、完結させたものです。
ゲーム設定などが古いのはその為です。ご了承ください。


01

長く入院していた私には可愛らしい友人が出来た。風邪をこじらせて入院していたノリコという女の子とその見舞いに来ていたノリコの双子の兄であるカズキ。

退院後も家が近所だったという事で双子の兄妹はよく私の家に遊びに来る。記憶喪失という理由で仕事に就けないので一日中家に居る私は学校帰りの双子の兄妹の良い遊び相手になってしまったようだ。

まあ、それは良いのだが……。

 

「もうやりたくない!!」

「「だめー!!」」

 

学校が終わったら家でゲーム、なんていうのはもう常識と化しつつあるのだろうか。

私ははっきり言ってゲームをした事がない、記憶は無いがゲーム器具が無いのだからゲームで遊んでいたとは思えない。でも、トランプとかボードゲームなら覚えているのでそっちならまだ出来そうなんだが……。

新しく発売した学校で流行ってるポケモンのゲームをカズキとノリコに付き合わされて現在プレイ中……、ゲーム本体とソフトはヤマトが買って来たが。

はっきり言おう、私はゲームが苦手だ!!

 

「勘弁してくれ……」

「貸してあげたゲームは?遊んだんじゃないの?」

「カスミが倒せなかった……」

「えー……」

 

ポケモンという変わった生き物を戦わせて進むゲームなんだがタイプやら技やらそのポケモンの種類も沢山あってイマイチよく分かっていない。

しかもこのアイテムやらを使うのも慣れないんだ、歩いてたら急にバトルを仕掛けられるし……、現実にこんな事があったらおちおち外も歩けない。

 

「シンヤ兄ちゃん、ホワイト買ったんだろ?」

「知らん、ヤマトが買って来た」

「何処まで進んだ?」

「子ブタを選んだらチェレンに負けた」

「最初で負けるってほとんど無いのに!?」

 

負けたんだからしょうがないじゃないか……。

ブチ、とDSの電源を切ればカズキとノリコが不満気に声をあげた。

 

「やだ、もうやらない」

「子供か!」

「シンヤお兄ちゃん頑張れ!!」

「やだ」

 

ぽいっとDSを投げれば頬を膨らませたカズキがバトル出来ねぇじゃん!と怒った。そういえばヤマトも同じような事を言っていた気がする。

どうにも慣れない。ボタン操作にもだが、この画面の中で動いて戦う生き物が何故か気持ち悪いというかイライラするというか……、嫌な気分になる。

なんだろうな……、ゲームなんだからそんな考えるような事でもないような気がするんだが……、納得出来ない、のだろうか……?

 

「ゲームしよーよー!!」

「はい、DS!!」

「……」

 

心の中で舌打ちをしてゲームを受け取った。

今の子供はトランプとかボードゲームはしないのか、神経衰弱にオセロとか得意なんだけどな……。

 

「はい、付けて!!そんで強くなったらバトルしよーぜ!!」

「バトルは嫌いだ」

「バトル嫌いだとこのゲーム進まないよー?」

 

だから、やりたくないって言ってるのに……。

渋々電源を入れた。最初にやったあの赤色のゲームからこのホワイトをやると別のゲームのようだな……。グラフィックが全然違う……。ポケモンも進化するらしいがゲームも進化してるんだな……。

 

*

 

「シンヤー、お菓子買って来たよー」

 

記憶喪失の私を案じてか、よく遊びに来るヤマト。

今日はコンビニに寄って来たらしい菓子の入った袋を両手に持ってやって来た。そんなに大量に誰が食べるのだろうか、私は菓子をほとんど食べないんだが……。双子に持って帰って貰おうか……。

 

「お、ゲームしてる!!どう進んでる?ジムリーダー倒した?」

「ヤマト兄ちゃん!今な、カラクサタウン入った!!」

 

全然進んでない!!というヤマトの言葉は無視した。

 

「なんだコイツら」

「プラーズマー!」

「プラーズマー!」

「プラーズマー!!」

「……」

 

三人で何やってるんだ……?

私一人置いてケラケラと笑いあってる三人の笑いどころがイマイチ分からない。

とりあえずゲームに視線を戻した。

 

「今回のゲームのストーリーは今までで一番深いよね」

 

今までをやってないから知らん。

 

「その偉そうなの、ゲーチス悪い奴なんだぜ」

 

何故言った。

お前、それは物語的に言ったら見事なネタバレなんじゃないのか……。

 

「……まあ、ようするにこの団体はポケモンは人間に良いように使われるべきじゃないと言っているんだろ」

「そうそう」

「ポケモンは野生に戻してポケモンで戦いをするトレーナーを撲滅しようと……」

「撲滅って……」

「良いじゃないか!!人間からのポケモン解放!!バトルなんて動物虐待だ!!悪い奴だろうが何だろうが知らん!!ゲーチス万歳!!」

「「「えー……」」」

「ポケモン解放に賛同すべくこのゲームをやめるという解放方法を行おうと思うのだが」

「駄目!」

「却下!!」

「はんたーい!!」

 

くそ、駄目か……。

そしてゲームを進めたら進めたでNという男が出て来てバトルに負けた。

 

「……」

「「「……」」」

「もうやめたい」

 

よし、と手を叩いたヤマトが自分のカバンから何かを取り出した。何々、良い物?と食い付いた双子を確認してから私はこっそりDSの電源を切った。

そしてクッションの下にDSを隠した。これでよし!!

 

「僕、シンヤがポケモンを覚えられるようにDVD借りて来たんだよね!!見よう!!」

「おー!!オレ、ミュウツーとか見た事ないー!!」

「のんも!!のんもー!!」

 

賑やかに楽しんでいる所悪いが……。

家にテレビはあるがDVDを再生するDVDプレーヤーは無かったぞ。

 

*

 

DVDプレーヤーが無いという事に気付いたヤマト。そしてカズキとノリコは一度自宅に戻りプレステを持って来ると出て行った。なんだプレステって。

そしてDSが無くなっている事に気付かれた……。

 

「あれぇ!?シンヤ、DSは!?」

「……」

「シンヤー!!」

 

溜息を吐いたヤマトは不満気だったが気にしない事にする。

バトルしたいのに、なんて言われても私はバトルをしたくないのだから仕方が無い。

ペットボトルに入ったお茶を飲んでソファに寝転べば、寝ないでねとヤマトに釘を刺されたけど返事はしない。

 

「「ただいまー!!」」

「あ、おかえりー」

 

何か大きな袋を持って戻って来たカズキとノリコ。

袋の中からは何か機械が出て来た。テレビゲームという奴かもしれない。見た記憶が無いのでよく知らないが……。その機械をヤマトがテレビに繋げた。

 

「それでDVDが見れるのか?」

「え、うん、見れるよ。PS3だったらブルーレイも見れるよ」

 

首を傾げる私を無視して、テレビ画面にはDVDが再生されたる。

テレビの前に横一列で並んだ三人の背を見てから私はクッションを枕にして天井を仰ぎ見る。

ポケモン、ポケモン、ポケモン……。

何故か少し頭が痛くなる、でもその頭痛と共に誰かが私を呼んでいる。

なんだろう、でも出来るなら考えたくない、疲れるんだ、頭も痛くなるし……。

 

< ここは何処だ、私は誰だ、私は記憶に無いこの世界をいつも夢に見ていた、ん……?お前は誰だ!待ってくれ……!!

私はあの誰かが飛び立って行った世界を忘れない…… >

 

「ふぅー!!」

「ミュウツー!!」

「イエー!!」

 

随分と楽しげだ……。

目を瞑って小さく溜息を吐いた。

 

< ここは何処だ、私は誰なんだ、誰が私をここへ連れて来た……!私は誰だ……、何故ここに居る、いや……私はまだここに居るだけだ、私はまだ……世界に生まれてすらいない……、私は誰だ!!

 

おお、目覚めたぞ!!

ヤツがやったのか!?

素晴らしい!!

完成したぞ!!ミュウツーが!!

 

ミュウツー……?

 

お前の事だ、世界で一番珍しいと言われているポケモンから我々はお前を生み出した。そう、あれが世界で一番珍しいと言われるポケモン、ミュウだ!

 

ミュウ……?あれが私の親なのか?父なのか?母なのか?

 

とも言える、だがとも言えない。お前はミュウを元にして更に強く創られた。

 

誰が……。母でもなく父でもなく、ならば神が?神が私を創り出したとでも言うのか。

 

この世で別の命を創り出せるのは神と人間だけだ!

 

お前達が……?人間がこの私を……? >

 

子供向けなのに随分と難しい話をするんだな……。

傾けた耳だけから聞き取れる言葉を考えながらそう考えたが……、もう眠たくなってきた……。

 

< 私は誰だ……、ここは何処なんだ……、私は何の為に生まれたんだ……!! >

「おぉぉー!!」

 

カズキの興奮するような声が聞こえた。

何かの破壊音、眠る為のBGMにはあまり相応しくない……。

 

< 世界最強のポケモンを創る……、私たちの夢が…… >

 

「ぎゃぁああ!!」

「ぼーん!!!」

「ふ、二人とも、落ち着いて……」

 

眉間に皺が寄る。

 

< これが私の力……、私はこの世で一番強いポケモン。ミュウ……、お前よりも強いのか…… >

 

ミュウから創られたからミュウ、ツーって安直な名前だな。そう思ったのを最後に私の意識は途絶えた。

 

*

 

「……ん、」

 

目が覚めるとバサリと私の上からタオルケットが落ちた。どれくらい寝てたのかとテレビの方に視線をやれば三人は未だにテレビを見ている。

欠伸を噛み殺してソファに座り直しテレビに視線をやる、大きな怪獣が空を飛び戦っている。

 

「……」

 

何処かで見た事があるような気がした。

腕を組み考えてみるがまるで霧がかかったようにハッキリとしない。

知らないキャラクターが怪獣二体の名前を言う。神と呼ばれるポケモン……。

 

「パルキア……、ディアルガ……」

 

何を喧嘩しているのか、でもやっぱり喧嘩するとパルキアはディアルガに勝てないのか……と思った所で私は首を傾げる。

やっぱり?ってなんだ。

考えれば考えるほど分からなくなる。落ちたタオルケットを畳んでソファに置いた私はトイレに行こうと立ち上がった。

 

時間を確認すれば随分と時間が経っていた。

あの三人は立て続けに映画を二本か三本見ているのだろうか、よくも飽きもせず見ていられるものだと手を洗いながら考える。

鏡に映った私は眠たげな目だった。ついでにバシャバシャと顔を洗う。

 

「……頭が、痛い」

 

タオルを顔に押し付けて呟いた声は私の脳内で反芻された。

溜息を吐いた時、タオルを床に落としてしまった……。もう一度溜息を吐いてタオルを拾う。

 

シンヤ

「……」

 

また誰かに呼ばれた気がした。

記憶が無いからなのだろうか……。でも呼ばれた気がする度に頭が少し痛むし、憂鬱な気分になるから、出来る事なら止めて欲しい……。

 

さあ、来い

「……?」

 

何だ?

今、頭の中で……、というより何処か別の所から聞こえたような気がしたぞ。

辺りを見渡してみたが声が聞こえてきそうな場所はない、洗面所だしな……と思いつつ風呂場の扉を開けたがやっぱり何も無い。

 

こっちだ、シンヤ

 

外からの声が何処からか漏れてるのだろうか。微かに聞こえる声は何を言っているのかイマイチ分からない。

まあ、良いか……と心の中で納得させて、持っていたタオルをぽいっとカゴに放り入れた。

 

シンヤ!!

「!!」

 

背後から声がして慌てて振り返る。

でも、驚いた表情をした私が映る鏡しか無くてやっぱり幻聴かと息を吐いた……。

鏡に映る私は少し顔色が悪いような気がした、情けない顔だと鏡に映る自分の顔に手を当てた……。

 

そうそう、こっちだぜ、シンヤ……

「なっ……!!」

 

鏡が大きく揺れた。映っていたはずの私の姿は映らなくなって、鏡から無数の黒い物体が出て来た。

形が様々な目玉のある黒い物体が私を取り囲む。驚いた、凄く驚いたけど……。何故か知っているような気がして不思議と恐怖は無い……。

 

「……誰、だ」

 

さっきまで聞こえていた声は答えない。

黒い物体に囲まれた私の視界は暗転した……、さっきまで寝てたのに冗談じゃない……。

 

*

 

「シンヤさん、シンヤさん……」

「……」

「シンヤさーん!!」

「!?!?」

 

キーンと耳を劈く声で飛び起きた。

声の主に視線をやれば腰に手をあてて呆れたように私を見ている……。だ、誰だ……。

十字架のマークが入った帽子を被っているから看護師と判断しても良いのだろうか。でも、なんで髪の毛がピンク色なんだ……。

 

「シンヤさん!まだ寝惚けてるんですか!!」

「い、いや、起きてる!!」

「じゃあ、お手伝いお願いしますね」

「は?」

 

はい、立って!と手を引かれて寝ていたらしいソファから立たされた。なんで私はこんな見覚えのないソファで寝ていたのだろうか……。

あれ、いや、なんだ……、頭が混乱しているんだが……。

 

「えっと……、ジョーイ……」

「何です?」

「や、何でもない……」

 

ああ、そうだ彼女はジョーイだ。

ポケモンセンターの女医師で……って、なんでこんな事を知ってるんだ……。

 

「シンヤさーん?」

「ちょっと待ってくれ!!少し時間が欲しい!!」

「早くお手伝いして欲しいんですけど……、まあ、そこまで言うなら少し休んでからでも構いませんよ」

「すまん……」

 

謝罪すれば、良いですよ、とジョーイが困ったように笑った。

ぐるぐるぐるぐる、

頭の中で記憶が渦を巻く……。ここは何処か、カントー地方?か、関東……、じゃないよな、カタカナだ。私はカタカナでカントーと記憶している。

ぐるぐるぐるぐる、

記憶が私の頭に流れ込んでくる。

これは誰の記憶だ!!私!?そんな覚えもないのに!?覚えがないと思ってる私と覚えのあるらしい私の記憶。

記憶を失っていたからなのか、それでも納得出来そうもない記憶、まるでシンヤという人間の記憶を混ぜ合わせたような……。

 

「ラッキー……?」

「……ぁ、大丈夫、だ……」

「ラキラキー」

 

ピンク色の丸い生き物……。

たまごポケモン、ノーマルタイプでメスしか存在していないポケモン、ラッキー……。

なんだ、この覚えのない知識。

私を案じて優しく背を擦ってくれるラッキーの手は温かい。夢じゃない。ポケモンが居る。ゲームの中に居たポケモンが現実に居る。

でも、私はこのポケモンの居る世界の人間で、ポケモンを専門とする医者で、野生ポケモンの治療をしながら各地方のジョーイの所を回って……。

……何でだ。

10歳になった時、トレーナーを目指し旅に出た。でも自分には不向きだと判断してポケモンコンテストに出てコーディネーターを目指したがそこでも自分には向いてないと判断して……。

ポケモンに関した知識を生かしブリーダーになったが出身であるシンオウ地方に戻った時、知り合いのジョーイに勧められポケモンドクターに……なった?

私が?

まるで記憶がバラバラだ。辻褄を合せるように継ぎ接ぎに繋がれた記憶……。

トレーナーの私はポケモンにも自分にも厳しいバトル一筋の人間で、コーディネーターの私は目立つ事とポケモンを輝かせる事が大好きな人間……、ブリーダーの私はポケモンが大好きで探究心と行動力を兼ね備えた人間だった、それが転じてドクターになった。

そして今の私は……、私は以前の記憶が無くて、ポケモンはゲームでしか知らない人間だった……。それだけ、だった、か……?

 

「うぅ……」

「ラッキー……!!」

 

頭が痛い。

なんだこの違和感だらけの記憶。吐き気がする。どうして私の頭の中に記憶が複数もあるんだ。どうしてそれが一人の人間の物とされているんだ。私はそんな事をした覚えは無いのに…!…!

ああ、考えれば考えるほど混乱する。

 

「……頭が痛い」

 

*

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