一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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記憶の矛盾を感じながらもポケモンセンターで手伝いをして早数日。

霧がかった記憶はいまだ晴れない。しかし生活する分には支障もなく医者をする知識もあるので問題は無かった。

 

「ラッキー、ジョーイは何処だ?」

「ラキ?」

 

首を傾げたラッキーとジョーイを探して部屋を回るがジョーイの姿は無い。

黙って何処かに行くなんて事は無いと思ってたがジョーイが長くポケモンセンターを開けるなんて事はしないだろうと気にしなかった。

でも、

ジョーイは次の日になってもポケモンセンターに帰って来ない。

さすがにラッキーと顔を見合わせて変だ異常だとジュンサーさんへと連絡した。

そしてジョーイの居ないポケモンセンターでは、すでに一週間が経とうとしている、……。

捜索願も出されているのにジョーイは帰って来ない。こんな事は異例であるしジョーイの居ないポケモンセンターでいつも通りの治療も出来るわけがない。

野生ポケモン専門医である私にジョーイの代わりが務まるわけもなく、ポケモンセンターは一時的に閉鎖。緊急で重傷なポケモンが居たらジュンサーさんから連絡してもらい私が診に行くという事を繰り返していた。

そんな時に……、

この港町に立ち寄ったトレーナーが私に声を掛けて来た。それはもう鼻息を荒くして……。

 

「シンヤさんですよね!?各地方のポケモンリーグで優勝した、あのシンヤさんですよね!?」

「……」

「コーディネーターになったって聞きましたけど俺の中じゃシンヤさんが一番強いトレーナーです!!ジムリーダーや四天王、それにチャンピオンよりも!!シンヤさんこそがポケモンマスターですよ!!」

 

誰だ、コイツ。

私の心情はそれに限った。急に話しかけられたかと思うと一人熱く語り出したものだからこっちはどうすれば良いのか分からない。

しかも"あのシンヤさんですよね"と言われても、ここに居る私はその時の記憶こそあれど"あのシンヤさん"では無いだろう……。

 

「バトルして下さい!!俺、シンヤさんに憧れてポケモントレーナーになったんです!!おこがましいかもしれませんけどシンヤさんを超えたいんです!!」

 

バトル、バトル、バトル……。

記憶に浮かぶのはポケモントレーナーだったシンヤの記憶と、ゲーム内で散々ボロ負けした私の記憶……。

記憶を集結させた結果、私は……。

バトルが嫌いだ…!!!

 

「今、忙しいのだが……」

「そこを何とか少しだけでも!」

 

お願いします、と頭を下げた少年を見て考える。

バトルはしたくない、それにバトルなんて出来るわけがない。と言う私と……、私に勝負を挑もうなんて良い度胸だ、トレーナーとしての格の違いを味わうと良い!!と言う何故か勝ち気で偉そうな私が居る……。

この私の頭の中にある記憶は本当に別人の物だな……と再認識しつつ溜息を吐いた。

 

「シンヤさん!!お願いします!!」

「……」

 

*

 

ポケモントレーナーの私は強かった。

その一言を思い頷く、勿論、今の私では無いので他人事なのは仕方のない事だ。

ジョーイが居ないのでバトルに負けたポケモンを治療出来ないだろうと少年の手持ちのポケモンを治療してやれば、今はお医者さんなんですね!やっぱりシンヤさんは凄いです!!と更にシンヤという人間の株が上がっていた。

私じゃ、無いんだけどな……。

溜息を吐いてポケモンセンターに戻ろうと足を進める。

ジョーイさえ帰って来ればこんな忙しい毎日から解放されるというのに……、あの女は一体何処に行ったのか……。ジュンサーさんが言うには誘拐という事もあるらしいが、ジョーイなんて誘拐してどうするというのか……。

何処のポケモンセンターに行っても居るぞ、同じ顔したジョーイが。

どういう遺伝子を引き継げば同じ顔ばかり生まれるのか甚だ疑問だ。

 

「バゥー!!!」

「ん?」

 

ポケモンセンターの近くまで来た所で鳴き声が聞こえた。

大きな影が足元を過ったので空を仰ぎ見るとくるりと旋回するカイリューが。

カバンを持っている……、何か仕事をしているカイリューなのだろうかと眺めているとカイリューは私の傍にドシンと降りて来た。

 

「バォ」

「……私にか?」

 

カバンから取り出した手紙を差し出して来たカイリュー。

カイリューが頷いたのを確認してから私はその手紙を受け取った。封を開けて取り出せば一枚のカード。

立体映像で一人の女の姿が再生された。

 

< 突然のお手紙をお許し下さい >

「……ジョー、イ?」

 

一方的に再生される映像。思わず呟いた言葉に勿論返事など返って来ない。

 

< 貴方を前途有望なポケモントレーナーと認め、最強のポケモントレーナーであるご主人様のパーティーにご招待します。場所はニューアイランド……、ポケモン城 >

 

ポケモントレーナーじゃないんだが……と思った言葉は、返事が返って来ないのは目に見えているので口には出さなかった。

 

< おいでになるかならないか返信用ハガキにチェックをお願いします。最強のポケモントレーナーの招きを是非お受け下さい >

 

再生が終わって視線をあげれば返信用ハガキを持って帰る為に待っているであろうカイリューと目が合った。

普通ならこんな怪しい誘いは勿論、NOだ。

でも、再生された映像に映った女は顔も声もジョーイだった。あいにく各地方のジョーイの顔は見分けが付かないがジョーイかジョーイじゃないかくらいは分かる。

 

「……じゃあ、これを」

「バォ」

 

返信用ハガキのチェックは勿論、YES……。

 

*

 

ニューアイランドに行く為、波止場に来たがこの嵐で船が出せるのだろうか……。

船着き場に入ればトレーナー達がボールを片手にニューアイランド方面へと各々のポケモンに乗り、外へと出て行くのが見えて、やっぱり船は出ないのかと溜息を吐いた。

外は風が強く海も荒れている。

一層強く風が吹いた時、見慣れた帽子が飛んできて手を伸ばし掴まえた。

 

「やっぱり止めても無駄ね……」

「え……」

「あの子たちはポケモントレーナー、冒険者達……。止めてやめるような子ならここに集まって来ない……。無事を祈りましょう」

 

荒れる海を眺めている二人を見つけて私は二人の傍に駆け寄った。

 

「ジュンサーさん」

「シンヤさん!!」

「あら、貴方もニューアイランドに行くつもり?」

 

クスクスと笑ったボイジャーさんを見て眉間に皺を寄せる。

ジュンサーさんに帽子を押し付ければジュンサーさんは驚いたようにお礼を言った。

 

「あ、ありがとうっ」

「ジュンサーさん、ニューアイランドにジョーイが居るんだ」

「え……、な、なんですって!?」

「私はジョーイを迎えにニューアイランドに行って来る。冒険者達と一緒にはしないでくれよな、ボイジャーさん……」

「そんなに否定することじゃないわ、貴方もまた冒険者だったでしょう」

 

私じゃないシンヤがな……という言葉は飲み込んで溜息を吐いた。

荒れる海に視線をやる。船で行けたらどんなに良かった事か……、雨も降ってるし、と心の中で不満ばかりを呟きながらモンスターボールを投げる。

 

「シンヤさん、気を付けて!!」

「ああ」

 

敬礼をして見送ってくれたジュンサーさんを見てから私はカイリューの背に乗り、雨が降る中ニューアイランドへと向かった。

目が雨に入らないように目を細めて荒れる波を眺めていると大きく波打つ海が一層大きく揺れたの見た。

 

「お、凄い高波が来るな……」

 

カイリューの首元をポンポンと叩き少し上昇する。すると一瞬、船が見えた気がした。

こんな海に船……?とは思ったが、気になったのでカイリューに下降してもらい周りを見渡した。船の姿は無い。高波に飲み込まれてしまったのか……、人が乗っていたのなら大変だろう……。

 

「バォ!!」

 

カイリューが鳴き声をあげて「あそこ」と指を差した。暗くてよく見えないが何かがバシャンと海面を跳ねながら泳いでいる。

 

「なんだ?ポケモンか?」

「バォー」

「子供?……ポケモンに乗ってる子供か!」

 

カイリューを更に下降させて近寄れば人間の私にもよく見えた。小さく乗るには不十分なヒトデマンとゼニガメにしがみつく子供が三人。

 

「カイリュー、掴まえられるか?」

「バオ!」

 

バシャンバシャンと海を跳ねる一人の子供のカバンをカイリューが掴みあげる。

 

「うわぁあ!!!」

「タケシ!!」

 

子供三人を抱きかかえるように掴みなおしたカイリューが空へと上昇する。

カイリューから落ちないように抱えられた三人の姿を覗き見れば驚いた表情をした三人がこちらに視線をやった。

 

「大丈夫か?」

「た、助かったぁ……」

「ありがとうございます!」

「ピカァ」

「た、高いっ!!」

 

落ちないようにな、と声を掛ければ三人はコクコクと頷いた。

そのままカイリューがスピードを緩めながらニューアイランド、ポケモン城へと向かう。

少しすると嵐が止んだ。ぽっかりとそこだけ綺麗な空が覗いている。周りを渦巻く暗雲がまた不気味だった。

 

「あ、あそこ!」

「ん?」

 

少年が指差した先に不気味な建物が見えた。あれがポケモン城だろうか。そのまま近付いていけばカンテラを持ったジョーイが立っていた。

ドシンとジョーイの前にカイリューが下りればジョーイの異常さがよく分かる、服が違うだけじゃなく顔に生気が見られない……。

 

「よく、おいで下さいました。招待状をお見せ下さい」

 

ジョーイの言葉に反応した少年がポケットから私が貰ったものと同じカードを取り出した。渋々私もカバンのポケットからカードを引っ張り出す。

 

<< この方達は確かにお招きした人達です >>

 

同じタイミングで喋ったものだから声が被っていた。

このカードもこの外装もまた不気味だと私が眉を顰めると一人の少年がジョーイに話しかけた。

 

「やっぱり貴女だったんですね」

「はい?」

「船着き場の捜索願で見たジョーイさん!」

「そういえば似てるかも」

「なんのことでしょう。私は生まれた時からこの城にお仕えしている身でございます」

 

ジョーイの言葉に私は驚いてジョーイに詰め寄った。

 

「ふざけるな!何の冗談だ、ジョーイ!!」

「ちょ、ちょっとお兄さん!!」

 

トゲピーを抱きかかえている少女が私の腕を掴んだがそんな事に構っていられなかった。

 

「お前が居なくなった後、私がどれだけ大変だったか分かってるのか!?わざわざ迎えに来てやったんだ、さっさとポケモンセンターに戻れ!!」

「私は生まれた時からこの城にお仕えしている身でございます」

 

同じ事しか言わないジョーイ。よく見ると目に光が無い、まるで人形のようだ……。

腹も立つが状況が状況なので言い返そうと思った言葉は飲み込んだ。それにどうせ言ったとしても会話は成り立たないだろう。

 

「さ、こちらへどうぞ……。他の招待客の皆様はすでにお揃いです」

「……チッ」

 

踵を返しスタスタと歩いて行ってしまうジョーイの背を見て、カイリューをボールに戻し渋々後を追った。

それにしても外観も不気味なら中も不気味だ……。薄暗い洞窟のような中を見渡しながら階段を上って行く、階段を上りきったかと思うと大きな扉が目の前に広がった。

扉がひとりでに開くのをぼんやりと眺める。少年達の後に続いて中に入ればその広い空間に関心してしまった。天井も随分と高いな……。

 

「あちらにいらっしゃるのがすでにお着きのトレーナーの皆様です」

 

ジョーイの言葉に視線をやればそこには船着き場に居た多数のトレーナーの姿は無かった。

 

「たった三人……!?」

「あんなに沢山居たのに!?」

「あの嵐を乗り越えて来れないトレーナーなど招待しても仕方が無い」

「あの嵐で試したって言うんですか!?」

 

ふむ、トレーナーの力を試したにしろ嵐の日を前以て予測して招待しなければいけなくなる……。

が、こんな嵐はそうそう起こる事ではないだろう……。人為的、いや、ポケモンの力を使っての策略めいた悪意を感じるな。

 

「モンスターボールからポケモンを出してお座り下さい」

 

何故だ。

わざわざポケモンをお披露目しなければいけない理由でもあるのだろうか。ジョーイの言う事を聞いてやるのも癪なので無視してやろう……。

 

「貴方達は選ばれたトレーナーです」

 

ジョーイがその言葉を発すると後ろで大きな扉がひとりでに閉まった。

トレーナーじゃない人間がここに居るのは良いのだろうか、ジョーイが少し異常だが面倒なので無理やりにでも引っ掴んで帰った方が良い気がしてきた。

こんな不気味な場所で良い事が起こるなんて思えないし、トレーナーが集まってる時点でもうバトル以外にすることなんて無いじゃないか……。

 

「……帰りたい」

 

ボソリと小さく呟いた声はどうやら誰にも聞こえなかったらしい。

律儀に言い付けを守ってポケモンをボールから出した少年と少女……、ジョーイにボールからポケモンをお出し下さいと再び言われたので渋々カイリューだけをボールから出した。

 

「カイリュー、気を付けろよ。ここは怪しい……」

「バゥ……」

 

辺りを見ながら少年達の後に続いた。

先に着いていたトレーナー達の視線がこちらへと集まる。

 

「キミ達も来たんだね」

「あ、キミは……」

 

のんきに挨拶なんてしている場合だろうか。

こんな怪しげな場所に連れて来られて危機感は無いのか……、冒険者達は随分と無謀な連中だと、私の記憶にあるポケモントレーナーのシンヤも含めながらぼんやりと思った。

 

「お兄さん」

「え?」

 

少年に声を掛けられて考え込んでいた私に視線が集まっている事に気が付いた。

帽子を被った少年がニコリと笑う。

 

「さっきは助けてくれてありがとう!オレはサトシ!!それと相棒のピカチュウにゼニガメとフシギダネ!!」

 

私はカスミ、俺はタケシです、と笑顔で名乗ってくれた少年と少女達……。

カスミとタケシってあの恐ろしく強かったジムリーダーと同じ名前じゃないか……、少しゾッとした。

 

「私はシンヤだ……。トレーナーではなくポケモンドクターでジョーイがここに居るのが分かって連れ戻しに来たんだ」

「それであんなに……」

「やっぱり、あの人はジョーイさんですよね……」

 

カスミとタケシが納得したように頷いた。

カイリューもありがとな、とサトシがカイリューに話しかけてカイリューが返事をした時に部屋が急に薄暗くなった。

部屋の正面に天井からライトが当たる。

なんとも派手な演出でのご登場だと、小さく溜息を吐いてその姿が登場するのを見つめる。

 

「皆様、お待たせしました。最強のポケモントレーナーがおいでになられます」

 

不穏な空気にポケモン達が呻る。

天井から降りて来る姿、それは人の体型に似通ってはいるが人ではない……。

 

「そう、この方は最強のポケモントレーナーにして最強のポケモンで在らせられるミュウツー様です」

「ミュウ、ツー……」

 

サトシが声を漏らした。

ミュウツーってあのヤマト達が見てた映画のミュウツーなのだろうか、あいにく目を瞑っていたので姿は見ていないのだが……。

 

「ポケモンがポケモントレーナー!?馬鹿な!!」

<「いけないか」>

 

ギャラドスを連れた少年がミュウツーに食いかかる。言葉を発したジョーイの声と重なって男の声が聞こえた。

 

<「私のルールは私が決める」>

「この声…!!」

「テレパシー!?」

 

ミュウツーはエスパータイプ。頭の中で私の記憶ではないシンヤ達がそう判断したようだ。

ミュウツーが片手を前に出し、その体に怪しげなオーラを纏う。急に苦しみ出したギャラドスを連れた少年が空へと持ち上げられる。

苦しむ少年を見てミュウツーが楽しげに笑った。そしてそのまま少年は自分の手持ち達が集まる水場へと放り投げられた。

随分と乱暴なポケモンだと思う……。

 

「念力か…!!行けっ、ギャラドス!!」

 

少年がギャラドスへと指示を出せばギャラドスはミュウツーへ向かって行く。

 

「ギャラドス!!破壊光線だ!!」

 

相手の力量を判断出来ないのは痛いな、とポケモントレーナーのシンヤが頭の中で笑った。

ミュウツーの力で跳ね返された破壊光線はギャラドス自身を襲った。最強のポケモンと呼ばれるに相応しい規格外の力だ。

 

「ギャラドス…ッ!!」

<「他愛も無い……、」>

 

再びジョーイとミュウツーの声が重なった時、ミュウツーは片手を振り払い言った。

お前にもう用は無い、その言葉と共にジョーイの目に光が戻りフラフラと倒れそうになった。それをタケシが素早く駆け寄り受け止める。

なんて紳士的、私なら倒れても手を貸さないのに……と、そこまで思って自分は何でこんなにジョーイを毛嫌いしてるのかと疑問に思ったが、今は特に気にしない事にした。それどころではない。

 

「ジョーイさん…!」

「ッ…ここは何処……?どうしてこんな所にいるの!?」

< 私の世話をさせる為、ポケモンセンターから連れて来た。ポケモンの体の事に詳しい医者は便利だ、随分役に立った……。お前は何も覚えていないだろうがな >

「なんだって…!?」

 

なんだと!!お前がジョーイを!!

お前のせいでどれだけ私が大変だったか!!どれだけ私がジュンサーさんに怒られたか……!!

「シンヤさん!貴方という者が居ながらどうしてジョーイさんが居なくなってしまったんです!!それに行方が分からなくなったらその日の内に連絡して来なさーい!!!」

思い出すだけで悲しくなる……。なんで私が怒られないといけないんだ。私は悪くない、悪いのはミュウツーだったじゃないか……。

その後は良いようにジュンサーさんに扱き使われるし。とんだ災難だった。ジョーイも嫌いだがジュンサーさんも嫌いになりそうだ。同じ顔ばっかりで見分けが付かないのも一緒だし、不気味だ……。

 

< 人間など私の力を持ってすればどうにでも操れる… >

「酷い事を!!」

「ピィカァ!!」

 

便利な力だなと思ってしまった私は邪道か。そうか、絶対に口に出さないようにしよう……。

口に出したら今回ばかりはビンタされかねない。笑顔で文句を言われるどころじゃないな……。

 

*

 

< 私は一度は人間と一緒にやろうと思った。だが、私は失望した。人間はポケモンにも劣る最低の生き物だ、人間のように弱くて最低の生き物が支配していたらこの星は駄目になる…… >

 

確かにポケモンは人間よりも優れた力を持っているしな……、でもポケモンは人間ほど優れた知能を持っていないからお互いに共存出来ている。

しかしミュウツーは力も知能も兼ね備えている。知能を持ったポケモンが人間を逆に支配しようとする事は十分理に適ってはいるが……。

 

「じゃあ、お前のような……。ポケモンがこの星を支配するってのか…!?」

< ポケモンも駄目だ…、何故ならこの星は人間に支配されてしまった。人間の為に生きてさえいるポケモンもいる >

 

すでに人間に支配されているポケモンが人間を支配することは不可能だと……。

私的には支配というより共存という言葉を使って欲しい所だな、別にポケモンにはポケモンしか出来ない事、人間には人間にしか出来ない事を理解しあって生きている分には良いような気もする……。

でも、ミュウツーはボールに納められ人間の傍で生きるポケモンの事を理解出来ないのだろう。人間を嫌っているのは明らかだ。ミュウツーが一緒にやって行こうと思った人間がどれほど最低な人間だったのか少し気になる所だな。

腕を組んでふむ、と勝手に一人考えに耽っているとサトシのピカチュウがミュウツーの前に躍り出た。

 

「ピィカ、ピカピーカ!!」

< なんだと?言いなりになんてなっていない?好きでそのトレーナーと一緒に居る? >

「ピィカ」

< 一緒に居ること自体が間違っている… >

 

ミュウツーの目が怪しく光った。

また念力を使っているんだろう、ピカチュウの体が空に浮く。弾き飛ばされたピカチュウをサトシが素早く掴まえて庇うように抱きかかえた。

 

< 弱いポケモンは人にすり寄る… >

 

カスミ達がサトシに駆け寄った。

怒るサトシがミュウツーを睨み付けた時、ピジョットを連れていた少年が拳を握る。

 

「どんなポケモンだってゲット出来ないはずは無い!!行けっ、僕のサイホーン!!」

「待て!!」

 

私が少年を止めるように声を出せばカイリューがサイホーンの前に立ち、サイホーンを止める。

 

「邪魔をしないで下さい!」

「ギャラドスの二の舞を演じる気か!?ミュウツーに力で勝とうなんて思うな……!」

「…っ」

 

少年は悔しげに顔を歪めたが痛々しく横たわるギャラドスを見て私から顔を逸らした。

 

< なかなか、賢い人間も居るようだな >

「シンヤさん……!!」

 

私に気付いたジョーイが私の名前を呼んだ。

この城に連れて来られた時点で私達に勝機は見えない、ミュウツーが自分の為だけに用意した城だ。

ただの立派なお城、なんて事はないだろう……。

 

< 私はこの星でいかなるポケモンよりも強く生まれて来た。そこの人間の言う通り私に勝とうなんて思わない事だな… >

 

ミュウツーは何か考えがあって私達をここに連れて来たはず、その目的を明確にすれば……。

力では勝てずとも言葉を理解し話す事の出来る知能の高いミュウツーとなら話し合いというのも絶対に不可能ではない。

私が言葉を発する前にサトシが声を張り上げる・

 

「そんなのやってみなきゃ分かんないだろ!!」

 

……は?

 

< やってみるか? >

「望むところだ!!」

「はぁ!?」

 

私が声をあげればサトシは大丈夫!と言って自信満々に頷いてみせた。

何が大丈夫なのか、明確に言ってみろ!!

 

「私たちは捕えられている状態なんだぞ!?ここで戦うなんて無謀だ!!」

「勝てば良いんですよ!!オレ達にはポケモンが付いてる!!な、ピカチュウ!!」

「ピッカー!!」

 

そうだそうだ、とトレーナー達も自信有り気に頷いた。

ここに招かれた時点で実力のあるトレーナーだと言うのは分かるが……、時と場合、そして状況をよく理解したうえで頷くべきだろう……!?

 

「……子供なんて嫌いだ。トレーナーも嫌いだ……」

「バゥ~……」

 

私が嘆いているとミュウツーの背後の床に穴が三つ開いた。

 

< ポケモントレーナーを目指す人間誰もが最初に手に入れた、ヒトカゲ、ゼニガメ、フシギダネ……。この者たちは私が作ったその進化系のコピー >

「コピー!?」

「あれが…!?」

 

コピー、元となるポケモンから新たに作り出され生まれて来たポケモン……。

それは当然、ミュウツー同様……元となるポケモンよりも強く生まれて来ているんじゃ……。

私が眉を寄せればリザードン、カメックス、フシギバナが出て来た。その背後の大きな窓が歪み、地鳴りを響かせながら私たちの前方に広いバトルフィールドが出現した。

ミュウツーは最初からここに招いたトレーナーとバトルをするのが目的だった。でもバトルだけでは無いはずだ。

人間とポケモンは一緒に居るべきではないと言うミュウツーが私たちに望む事は……。

『ポケモンは人間から解放されるべき』

ゲーム内でこんな事を言っていた男の言葉を思い出した。あの時はゲームをしたくない一心で賛同したが本当にそれが良い事なのかは、私には分からない……。

 

「僕にはフシギバナのバーナードがいる!!」

「私にはカメックスのクスクスがいるわ!!」

「オレにもリザードンがいる!!リザードン、キミに決めた!!」

 

あくまで同じポケモンで戦おうというらしい、相性を考えて戦えばまだ勝機はありそうだが……。

サトシの投げたボールから出たリザードンはミュウツーを睨みつける。私の頭の中でブリーダーのシンヤがあのリザードンは主を認識していないな、と呟いたがその理由はあいにく今の私にはよく分からない。

機嫌が悪そうなのは分かるけどな……。

ボールから出て来て早々に目に入ったミュウツーを睨みつけてリザードンはミュウツーに火炎放射を食らわせた。

 

「リザードン…!!そりゃ不意打ち…!!」

「ピィカピカ…」

 

ミュウツーはその火炎放射を平然と防御し念力で動かした水で消してしまった。

 

< 随分、躾けの悪いリザードンだな >

 

やはり力でミュウツーに勝つのは不可能だな……、ここに居るポケモンが一斉に攻撃しても難しいだろ。

悪タイプがいればな、という言葉が脳裏を過ったが居ないものは考えても仕方が無い。

戦うとなったらギャロップのメガホーン、ペルシアンのつじぎり、あとはゴーストの技でなんとか押せるだろうか…と、ポケモントレーナーのシンヤが頭の中で考えているが私は極力バトルは避けたいところだ。

 

本当に戦うのか、私はもう勝機が見えなくてここで逃げ出したい衝動に駆られているぞ……。

ミュウツーの策略にまんまと嵌ってしまった気がしてならない。

コピーと呼ばれたポケモン達はヤマトが言ってた所謂、改造ポケモンでチートなんだろ?それが何かは知らないが普通のポケモンより強いという事は分かるぞ、嫌でもな……。

 

< 最初の相手は誰かな >

 

ミュウツーの言葉でズシンとバーナードと呼ばれたフシギバナが前に出た。それを見てミュウツーがコピーのフシギバナに顎で指図する。

やはり同じポケモンで行くのか……。今からでも相手がフシギバナならリザードンに変更すれば、とは思ったがミュウツーはあくまでコピーの方が強く優れていると示したいのかもしれない。

というか、私の隣に居るこのリザードンは良いのかサトシ……。随分とお前から離れているが、懐いてないのか……。

カイリューが自分のツメをくわえながらリザードンを見ていたがリザードンに睨まれて私の背に隠れた。当然、隠れきれてないが。

私がカイリューの頭を撫でるとフシギバナ同士のバトルが始まった。葉っぱカッターを指示した少年に対してミュウツーはつるのムチと指示を出す。

コピーのフシギバナはつるのムチで葉っぱカッターの葉を全て叩き消して相手のフシギバナを持ち上げて放り投げた。

瞬殺とはまさにこれ。

技の威力にスピード、そして使い方までが圧倒的にコピーのフシギバナの方が優れていた。

それでもまだ諦めようとしない。クスクスと呼ばれたカメックスに指示を出した少女に対してミュウツーもコピーのカメックスに指示を出す。

少女の指示したハイドロポンプの攻撃を相手のコピーのカメックスはこうそくスピンで跳ね返しそのままクスクスを跳ね飛ばした。

またも瞬殺……。

 

「サトシ!気を付けて!!向こうの技は強力よ!!」

「分かってるって!!」

 

技も強力だがスピードも技術も向こうが優れているのだ。力の差は歴然だろう。

ミュウツーがリザードンを前に出せば、私の隣に居たサトシのリザードンも勇ましくフィールドに向かった。

 

「リザードン!!ここはパワーじゃなくてスピードで勝負だ!!」

「ヴァォオオ!!」

「よし、行け!!」

 

スピードも勝てないだろう。

冷静に冷たく心の中で切り捨てた私は酷い人間だろうか。頭の中にある記憶のシンヤ達はいやいや、これは仕方がない事だと私の心情に同意してくれた。

別人のようでやはり同じシンヤなのだな……。

 

「何処がスピード勝負よぉ!!」

「相手が速過ぎる!!」

「ピィカァ…」

 

リザードン二体が空を飛びながら天高く昇る。下からじゃリザードンの姿はよく見えないが夜空に赤い炎がよく映えた。

急降下してくる二体のリザードンの姿が見えてサトシが悲鳴染みた声でリザードンの名を呼んだ。不敵に笑ったミュウツーがリザードンに指示を出す。

 

< 地球投げ >

 

サトシのリザードンが鳴き声をあげてもがくが地面へと強く叩きつけられた。

やはり力の差は歴然だったようだ……、勝てば大丈夫だと言い張っていたが負けたらどうなるんだと私は小さく溜息を吐いた。

一度起き上がったリザードンはやはりダメージに耐え切れず再び地面に倒れた。倒れたリザードンを見て慌ててサトシがリザードンの傍へと駆け寄る。

私も医療道具をカバンから出してサトシの後を追った。

 

「リザードン!しっかりしろ!!」

< スピードもパワーも不足している >

 

リザードンの傍に駆け寄った私はリザードンの首元に痛み止めと回復薬を混ぜた注射を打つ。即効性だ。

バーナード、クスクスの二体と比べるとリザードンのダメージの方が大きい。二体と違って受けた技は地球投げ、地球投げは自分のレベルと同じダメージを与える技だ。コピーとはいえあれだけ強いリザードンのレベルが低いはずないだろう。

私がリザードンに注射を打ち終わるのと同時に黒いボールがリザードンに触れた。するとサトシのポケモンであるのにも関わらず黒いボールはリザードンを捕獲してしまった。

 

「やめろぉ!!」

 

サトシが声を張り上げる。

空中を飛ぶボールを視線で追えばカメックスのクスクスもフシギバナのバーナードも捕獲されてしまった。

 

「人のポケモンを盗る気なの!?」

< 盗る?いいや、お前たちの自慢するポケモンよりも更に強いコピーを作るのだ……。私に相応しい……>

 

ミュウツーが両手を振り上げれば無数の黒いボールが現れた。

やはりミュウツーはコピーこそが頂点に立つべきだと思っているんだろう。元となるオリジナルのポケモンを排除して人間と共に生きる事のないコピーばかりを作り人間とポケモンの共存を否定したいのか……。

 

「コピーだと!?」

「やめろっ!!そんなの反則だ!!」

< 私に指図をするなっ!! >

 

私の隣に居たサトシがミュウツーの念力で後方に飛ばされ真後ろに居たらしいタケシに激突した。

 

< 私のルールは私が決める! >

 

ミュウツーが放った黒いボール、一つ一つが目玉のようになっていて不気味だ。

私を通り過ぎて真っ直ぐポケモン達目掛けて飛んで行くボール。サトシ達が逃げる背を目で追うと目を瞬かせたカイリューと目が合った。

 

「カイリュー!!」

「バォオオ!!」

 

大きく翼を広げ空へと飛んだカイリューがボールから逃げる。

無情にその光景を眺めるミュウツーへと私は視線をやる。睨んでしまったのは不可抗力というよりも無意識だ。

 

「コピーを創り出してどうするというんだ。強さを求め相手の居場所を奪った所で争いしか生まれないぞ」

< どちらが本物か、ハッキリさせるには丁度良い >

「どちらが本物…?お前は何を言っているんだ?」

 

不敵に笑ったミュウツーを見て私は眉間に皺を寄せる。

すると後方でサトシが自分のポケモンは自分のモンスターボールに戻すんだ、と呼び掛けた。だがその言葉を聞いてミュウツーは嘲笑う。

 

< 無駄だ… >

 

サトシの手にしていたモンスターボールごと黒いボールはポケモンを捕獲してしまった。

 

< 私の作り出したモンスターボールに不可能は無い >

 

ミュウツーに再び視線をやればミュウツーは私を見て不敵に笑った。頭の良い奴は好きだが話を聞かない奴は嫌いだ……。

ピカチュウが螺旋状の道を昇って行くのが見えた。私も空を仰ぎカイリューの姿を探す。くるくると黒いボールをかわして空を飛ぶカイリューが見えた。アイツ結構余裕そうだな……。

 

「カイリュー!!逆鱗で全てを破壊しろ!!」

「バォオオオ!!!」

 

カイリューは空を飛びながら回転して、襲いかかるボールを全て破壊し地上へと叩き落とす。煙をあげる黒いボールがボロボロと砕け落ちて来ていた。

さっきまで無数に飛び交っていたボールの姿はほとんど無い。ポケモンの姿も無くなっているが…と思った時、サトシが上から降って来てそのまま水面へと落下した。

下が水場じゃなかったら今のは死んでただろう……。

サトシが黒いボールを追いかけてボールが回収されていく場所へ飛び込んだ。私の所からはそれがどういった形状の物かは確認出来ないが落ちて行ったから多分、パイプみたいな感じだろう。

黒いボールが全て無くなったのかカイリューが空を旋回していた。ミュウツーが小さく舌打ちをする。

 

ドシンと私の前に立ったカイリューが大きく鳴き声をあげる。

カイリューがミュウツーを睨むとリザードン、カメックス、フシギバナがミュウツーの前に出た。

 

< よく育てられているカイリューだな >

「他のポケモンも見てみるか…?」

 

ミュウツーに対して不敵な笑みを浮かべたのは私というよりもポケモントレーナーのシンヤだった。ポケモントレーナーのシンヤはバトルが好きで強い者と戦う事が何よりの楽しみ……、全く今の私とは正反対だ。

 

< 良いだろう、力で勝って奪う。それだけの事だ… >

「私が勝ったら勿論奪ったポケモンは返して貰うぞ!!」

< 勝てたら、な >

 

ジョーイが不安げな声で私を呼んだ。

私はここから早く逃げ出したい、そう思っているのだがポケモントレーナーのシンヤがウキウキと胸を弾ませて笑っているのだからどうしようもない。

 

「シンヤさん…!!頑張って!!」

「ああ、久しぶりに楽しめそうだ…」

 

やめろ、ジョーイ!!

私を煽らないでくれ!!私の意思とは裏腹に行動してるんだ!!

 

く…ッ、トレーナーなんて嫌いだ……!!

 

*


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