一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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野生ポケモンの見回りを兼ねた、自分の記憶探し……。

ゲームをしている時は歩く度に呼び止められて突如バトル。出会えば問答無用な状況に持っていかれると思っていたのだが実際に現実となった世界を歩くとそうでもなかった。

まあ、ポケモントレーナーにコーディネーターとして活躍していたシンヤのせいで知っている人には歓喜の声をあげて呼び止められるがトレーナーとして強過ぎるらしくバトルはそんなに挑まれない。

シンヤという人間が一つの体になってしまった現状には慣れた……。

ゲームの世界と認識している私にすればこの世界で生まれたシンヤ達の記憶は大いに助かるし、知識も記憶もあるので不自由はしない。

でも、このシンヤ達の名声はめんどくさいので要らない……と思ってしまう私は贅沢なのだろうか……。

小さく溜息を吐いて前を見据えると道のど真ん中に大きな穴が開いていた。その穴の周りには掘り出した土……。

通り道にこんな穴があるなんて危ないじゃないか、と思いつつその穴を覗き込んだ。

 

「……あ」

「「ん?」」

「ニャ?」

 

見た事のある顔、そういえばこの男女とニャースは結局あのポケモン城に何をしに来ていたのか。

そして何故、道の真ん中に穴を掘っているのか……。

 

「お、お前は!!」

「前に会った男ー!!」

「……何処で会ったか覚えてるか?」

「「……さあ?」」

 

揃って首を傾げた男と女、息がピッタリだなと思っているとニャースが穴の中からよいしょと声を出して上がって来た。

よいしょ…、って……。

 

「何処で会ったのか覚えてないニャ…」

 

人語を喋るニャースだ、これは凄い。

テレパシーなんてものじゃない本当に喋ってる。ニャースを抱きかかえて口を開けさせるとニャースは変な声で呻っていた。

 

「ちょ、ニャース!!」

「おいおい!何してんだよ!!」

「いや、喋るニャースの声帯がどうなってるのか気になって…」

「あがががが…!!」

 

無理やり過ぎるだろーが!!と私の手からニャースが奪われた。

ちなみにニャースの声帯は人間に近いくらいに鍛えられているのだと思われる、元々賢くないと出来ない芸当だな。

 

「で、何をしてるんだ?」

 

私がそう聞けば二人の目がキラリと光った。

男の手からニャースが飛び降りるのを見て、視線でニャースを追う。

 

「なんだかんだと聞かれたら」

「答えてあげるが世の情け」

「世界の破壊を防ぐため」

「世界の平和を守るため」

「愛と真実の悪を貫く」

「ラブリーチャーミーな敵役」

「意味は分からないが長いからもう良い。穴は危ないからちゃんと埋めとくんだぞ」

 

じゃあな、と穴の横を通り過ぎようとしたら背中に男と女とおまけにニャースまでが飛びついて来た。

 

「ちょっと!!最後まで聞いていきなさいよ!!」

「そうだそうだー!!」

「決め台詞を遮るなんて邪道ニャ!!」

 

絶対に聞かなければいけない理由でもあるのか……。

邪道とまで言われては仕方ないので立ち止まり、二人と一匹に向き直れば三人は素早く立ち上がり私から距離をとった。

 

「それじゃ、なんだかんだと聞かれたら!!」

「最初からするな、ラブリーチャーミーな敵役からやれ」

「こっちにも流れってもんがあんのよ!!」

「ならもう良い」

「わ、分かった!!途中からやるから!!な、ムサシ!!」

「仕方ないわね~…」

 

渋々と納得した二人。

こっちだって好きで聞きたいわけじゃないんだから手短にやってくれ。

それじゃ、と言ってからゴホンと咳払いをした男が先ほどの続きからセリフを始めた。

 

「ラブリーチャーミーな敵役」

「ムサシ!」

「コジロウ!」

「銀河を駆けるロケット団の二人には」

「ホワイト・ホール 白い明日が待ってるぜ!」

「ニャーんてニャ!!」

 

ビシッと決めた二人と一匹を眺める。

こういうのは自分達で考えるのだろうか。よくもまあここまで楽しげに出来るものだ。

 

「……」

「「「……」」」

「……」

「な、なんか言いなさいよアンター!!」

「ここまで反応無かったのって初めてだよな~…」

「ピクリとも表情変えなかったニャ…」

「もう終わったなら行っても良いか?」

 

ガクンとその場で崩れ落ちた二人を見下ろす。

なんだろう、この二人はお笑い芸人か何かだろうか……、喋くり漫才?

私が首を傾げるとムサシとかいう女が立ち上がり私に詰め寄って来た。

 

「あたし達をコケにするなんて良い度胸じゃないの!!」

「そーだそーだ!!もっと言ってやれムサシー!!」

「ニャー達の恐ろしさを味わうと良いニャ!!」

「コテンパンにしてやるわ!!と、思ったけどアンタ……、よく見ると良い男じゃなぁーい!!やだ、ホントに良い男ー!!」

 

後ろでコジロウという男とニャースが派手に転ぶ。

この連中は本当に何がしたいのやら……。

私が溜息を吐けば、きゅるるるる…と変な音が聞こえた。辺りを見渡しても音の出所はよく分からない。

 

「……ムサシ~、このタイミングはねぇだろ~」

「う、うっさい!!」

 

顔を赤くしたムサシがコジロウを蹴っ飛ばす。

どうやら腹の音だったようだ、空腹状態で穴を掘る作業なんてよくやるな。

 

「腹減ったニャ~」

「何か食べれば良いだろ」

「あったら食べてるニャ!!」

 

手持ちに食糧が無いらしい。

空腹の人間とポケモンを見捨てて行くのは医者という立場から少し気が引けたので少し早いが私も昼食にしようか……。

 

*

 

手持ちの食糧が食い尽された。

まあ、後で買い足せば良いから別に構わないんだが、そんなに腹が減るまで何故なにも食べなかったのか……。

 

「いやぁ、救世主現るだな!」

「お腹いっぱい食べれて幸せニャ」

「やっぱ良い男は違うわね~!!あ、そういえばアンタの名前は?」

 

ムサシの言葉に視線をあげるとコジロウとニャースもこちらを見ていた。

お前達、口の周りが……。

 

「……シンヤだ」

「なーんか聞いた事ある名前ねー…」

 

何処で聞いたっけ、と首を傾げたムサシ。

隣に座っていたニャースの口をタオルで拭いてやれば、ムサシとコジロウも気付いたのか自分達で口元を拭いていた。

 

「シンヤはポケモントレーナーかニャ?」

「ポケモンドクターだ」

「お医者様だったのか…」

「良いわね、イケメンの医者!!」

 

コジロウとニャースにじとっとした視線を向けられたムサシは少し焦りながら二人から距離をとった。

そういえばムサシとコジロウはロケット団とか言ってたな、ロケット団って何だ。

記憶の中を探ってみたが名前は聞いたことがあるような気がする、という程度で詳しい事は分からなかった。

興味の無い事にはとことん興味が無いのはさすが私と同じシンヤだな、と一人関心した……。

私がコーヒーを啜るとムサシがパンと両手を叩いて立ち上がる。

 

「さぁてと、お腹もいっぱいになったし!!さっさと落とし穴を完成させるわよ!!」

「「オォー!!」」

 

何故、こんな所に落とし穴なんかを作っているのか……。

二人と一匹が落とし穴を作っているのをのんびりと眺める。無視して通り過ぎても良いが私はまだ昼食を食べてるんだ。

昼食を食べ終わった頃、落とし穴が完成したらしい「出来たー!」と声をあげながら両手をあげる連中が見えた。子供みたいだな。

 

「さてと、後はジャリボーイ達が来るのを待つだけね」

 

ジャリボーイ?

昼食後のコーヒーを飲んでいる私の所へと戻ってきたムサシが「あたし達にもちょーだい」とコーヒーをねだりに来た。

仕方なくコーヒーを入れてやり、ニャースにはミルクを渡した。

 

「今回こそはピカチュウゲットよ!!」

「あれだけ大きい落とし穴も作ったし、ピカチュウ対策も万全!!」

「今後こそ成功ニャ!!」

「……」

 

何かよく分からないが食事を食べたすぐ後に動くのは嫌なので読書をする事にした。

暫くするとドシーンと大きな音と悲鳴が聞こえてきて、私は本から顔をあげる。近くで横になって寝ていたムサシとコジロウとニャースも飛び起きた。

 

「かかったわ!!」

「よし、行くぞ!!」

「ニャー!!」

 

寝起きで元気だな……。

ムサシ達のあの口上が終わったのを見計らって私は穴の中を覗いてみた

 

「あ!!シンヤさん!!」

「なんだ、サトシ達か」

「シンヤさんがなんでロケット団と!?」

 

たまたま、と返して手を伸ばすサトシの手を掴み引っ張り上げる。

穴から這い出たサトシはムサシ達を睨みつけた。

 

「ピカチュウを返せ!!」

「……」

 

コジロウの持つ檻の中にピカチュウが閉じ込められていた。ピカチュウゲットというのはサトシのピカチュウを捕まえるという事だったのかと思いつつカスミの手を掴む。

タケシは居なかったが見知らぬ少年も引っ張り上げた。

 

「すみません、ありがとうございます!」

「どういたしまして」

 

頭を下げた少年を見てからサトシ達の方へと視線をやる。

ムサシ達は子供相手に何をやっているのだろうか……、アーボックとマタドガスを出した二人に対してサトシがリザードンを繰り出したものだから瞬殺されていた。

 

「ピカチュウ、十万ボルト!!リザードンは火炎放射だ!!」

「「げげっ!?」」

「……」

 

大きな爆音と共にムサシ達が吹っ飛んでいく。

死んでしまうんじゃないかと一瞬身を案じたが「やな感じ~」なんて言いながら飛んで行ったので大丈夫だろう……。

そして何故サトシのピカチュウが欲しいのかその理由が全く不明だ。ピカチュウなんて珍しいわけでもないだろうに……。

 

「結局、アイツらは何なんだ」

「ロケット団って言う悪い組織の連中で人のポケモンを盗もうとするんですよ!シンヤさんも気を付けて下さいね!」

 

カスミにそう言われて、へぇとしか返せなかった。

そんな悪い連中には見えなかったけどな……、私のポケモンを奪おうとする素振りも見せなかったし。

 

「ヴォオ」

「お、リザードン。サトシにちゃんと懐いたのか」

「ヴァォオオ!」

 

リザードンの頭を撫でるとピカチュウが私の肩に乗った。

カリカリカリ、とペンを走らせる音が聞こえて、そちらに視線をやれば少年がニコリと笑って「観察させてもらいます」と一言……。

何を?

 

*

 

「ポケモンウォッチャーか、なるほど」

「はい、よろしくお願いします!」

 

ケンジというらしい少年は頭を下げてからまたスケッチブックにペンを走らせる。

タケシは何処に行ったのかと聞けば、ダイダイ島のウチキド博士の所に居るそうだ。

あそこのジョーイは日焼けしてるよな……。

 

「シンヤさんも旅をしてる人だったんですね」

「まあ、色々な所を歩いて野生ポケモンを見て回ってるから……」

 

不本意で。

私自身ではあまり気乗りはしないが職業上ポケモンセンターを回らないといけないし、記憶を思い出す手掛かりになるようなものを探すには色々な所に行った方が良いだろうし……。

まあ、出来るなら私の記憶を消したエスパータイプのポケモンを見つけだしたいところだな。

 

「シンヤさん、シンヤさんの手持ちのポケモンを見せて頂けませんか!」

「手持ち?」

「はい、是非!!」

 

面倒だけど頼まれてしまっては仕方ない。

6個のボールからポケモン達が出て来るとケンジは目を輝かせた。

 

「おぉぉっ!!観察させてもらいます!!」

 

ポケモン達の周りをぐるぐると回りながら全体を見てスケッチブックに絵を描くケンジ。

うん、まあ、楽しそうで何よりだ。

よく育てられてますね!と言われても私が育てたわけじゃないので曖昧な返事しか返せないが……。

そういえばこの手持ちは誰のポケモンなんだろうな……。いや、シンヤのポケモンである事には違いないが。

どのシンヤなのか……。

はて、と首を傾げて考えてみたが頭の中ではカイリュー達が当然のように思い出されるだけ……。

 

「考えるだけ無駄か…」

 

ポツリと呟いて溜息を吐く。

失った記憶が戻れば解決するかもしれない。私はもうそれに賭けるしかないな……。

 

「シンヤさん、バトル!!バトルしましょう!!」

「嫌」

「バートールー!!」

「嫌」

「ピカァー…」

「嫌なものは嫌」

 

*

 

サトシ達と別れた後……、私はオレンジ諸島内の島の一つに身を置き、ポケモンセンターでジョーイの手伝いをしていた。

別れてから一週間ちょっと経っただろうか。サトシ達も今頃どこかの島に居るんだろうと思いながら空を見上げる。

 

「ラッキー!」

「ん?何か用か?」

「ラキラッキ」

 

駆け寄って来たラッキーが私に一枚の手紙を差し出した。

受け取った手紙の便箋はアンティーク風でなかなかオシャレなものだ。宛名は確かに私の名前が書いてあったので間違いはない。

誰からだろうと裏面を確認すれば差出人の名前……。

 

「Girardin……」

 

……。

チラリとラッキーに視線をやるとラッキーは首を傾げた。

そしてまた手紙に視線を落とす、差出人の名前はやっぱりGirardin……。

 

「……誰?」

「ラッキー……」

 

ミュウツーの一件があるため。

もう怪しい手紙は開けたくないのが本音だ……。

 

「……」

 

どうするかな……。

 

*

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