「凄い!!世界的に有名なコレクターよ!!」
悩みに悩んで手紙を読むべきかと相談を持ちかけたら先にジョーイに読まれてしまった。
それは別に良いんだが……。ベシンベシンと興奮するジョーイに腕を叩かれるのは痛い……。
痛いと訴える私を無視してジョーイは手紙の内容を音読し始める。まさか読み聞かせられる事になるとは……。
「尊敬すべき最愛の君、シンヤへ。突然の手紙にさぞ驚かれた事でしょう、私は世界の珍しく美しいものを収集しているコレクターです。私は数年前に貴方という人間をこの目で拝見しました。貴方の美しい姿に私の心は歓喜に震えた……。私は一目で貴方とそのポケモン達の虜となった貴方のファンの一人です」
非常に気持ち悪いな、とジョーイの音読するその内容に耳を傾ける。
しかし、私の姿を見たと言っているという事はトレーナーかコーディネーターの時か……、美しいと言っているのだからおそらく後者なんだろうが……。非常に気持ち悪いな。
「この手紙を貴方に送った理由は他でもありません。貴方に是非とも私のコレクションを見て頂きたい。そして今回新たに素晴らしいコレクションの候補を見つけ手に入れる準備が整いました。新たなコレクションが飾られる瞬間を貴方に一番に見て欲しい……。○日の○時頃、貴方をお迎えに上がりますのでその場でお待ち下さい。
コレクター.ジラルダン……、はぁ…、素敵…!!」
ジョーイはそのコレクターのファンらしい。私は全く知らないが……。
コレクションを生で見れるなんて!ジラルダン様の飛行宮に招待されるなんて!羨ましい!!とまた私の腕を叩くジョーイ。
だから痛い……。
っていうか、ちょっと待てその手紙の最後にお迎えに上がりますって書いてたのか!?ジョーイの手から手紙を奪い取り確認する……。
「○日の○時頃…今日!!時間もまさに今じゃないか!!」
「シンヤさんが読むのを躊躇ってたからでしょう?それにしても羨ましいわ~…」
いや、確かに手紙を開けなかったのは私だ。
ジョーイに差出人の名前を言って奪い取られるまで開けなかったのは私だが……、数日経過してしまってるのは確かに私が悪いんだが……!!
何だこの有無を言わさぬ招待状は、むしろ誘拐予告に近いじゃないか!!
私は行くなんて一言も言ってないのに!!ファンだか何だか知らんが相手の都合も聞けないのか!!
「はい、シンヤさん。カバン持って髪型はそれで良いの?平気?」
「……おい」
「くれぐれもジョーイの事を良く言っておいて下さいね、シンヤさん」
「おい!」
「あ、服にほこりが…」
「行くなんて言ってないぞ!!!」
「来たわ!!!シンヤさん、来た!!」
キャーキャー言ってるジョーイの指差す先を見ると巨大な建造物のようなものが空を飛んでいる。
「……なんだアレは!!」
「ジラルダン様の飛行宮よ!!写真では見た事があるけど実物はやっぱり更に素敵だわ!!」
「はぁぁああ!?!?」
*
どうしてこうなった……。
「火の神、雷の神、氷の神に触れるべからず……。されば天地怒り世界は破滅に向かう。海の神、破滅を救わんと現れる。されど世界の破滅を救う事ならず…、優れたる操り人現れ神々の怒り鎮めん限り……。
私の望みは火の神でも雷の神でも氷の神でもない……、海の神」
周りの絶景を眺めているとピポーンと変な機械音。
振り向きはしたが再び私は視線を空へと向けた……、帰りたい……。
< 綿密な調査の結果、火の神は幻のポケモン、ファイヤー。それもオレンジ諸島アーシア島周辺に生息するファイヤーの特殊な一種と考えられます。同じく雷の神はサンダー、氷の神はフリーザー。サンダー、フリーザーどちらもファイヤーと同じくアーシア島周辺に生息する特殊な一種である以外は考えられません >
「やはりどれもアーシア島……。確かにどれも手に入れたいポケモンではある。しかし私の目指すものは更に先にある。……気になるだろう?シンヤ」
ジラルダンに呼ばれ振り返ると部屋の中央にいるジラルダンが私を見て笑っていた。
「いや別に」
「ふふふ」
< 幻のポケモンらしき生命反応三体感知、ファイヤー、サンダー、フリーザー >
「現れたか…」
窓の外へと視線をやったジラルダン。
ああ、なんで私がこんな所に居るんだ……。いや、それも全てジョーイのせいなのだ、それ以外に理由はない。
あの女が私を無理やりこの飛行宮に突き飛ばしてジラルダンにサインをねだったせいだ!!一応、予定は大丈夫かとジラルダンは聞いてくれたのに……!!
「シンヤさんの予定はありません。丁度凄く暇になったところでしたから!いってらっしゃい、シンヤさん!!」
ジョーイなんて嫌いだ……!!
「シンヤ」
「……何だ」
「私は少し上に行って来る。一緒に行くか?」
「ここで良い」
「席も無いのでは辛いだろう、何処の部屋でも好きに使ってくれ」
そう言ってニコリと笑ったジラルダンが椅子に座ったまま上に昇って行った。この飛行宮は仕掛けが凄いな……、あんまり好きなセンスではないが……。
しかし、上からだと景色が更によく見えるのだろうか、別にここからでも十分、アーシア島と三つの島がよく見えるけどな。
景色を眺めているだけというのも退屈だ、と小さく欠伸をした時にドンと大きな音がした。立て続けに大きな音、砲撃だろうか。
驚いていると三つの島の一つに砲撃が直撃している。ジラルダンが撃ってるのか!?
あの男が何を考えているのか更に分からんな……。
島がどんどんと凍り付いていくのが見えて私は天井を見上げた。
「ジラルダン!!」
私が声を荒げた時にこちらに向かって火の鳥が飛んで来る。
ファイヤー…!!明らかな敵意と怒りをこちらに向けている。なんという事だ、こんな所に居たくない……。私がここで死んだらジョーイを一生呪ってやる。連帯責任で全地方のジョーイを呪ってやる……。
ファイヤーに砲撃が直撃する。
するとリングのような物体がファイヤーの周りを取り囲む、これもジラルダンが……?
「!?」
二つのリングがファイヤーを捕えてしまった。
慌てて視界で追ったが下の方に消えてしまったので私の居る場所からは確認出来ない。
「ジラルダン!!何の真似だ、降りて来い!!」
「どうした?そんなに声を荒げて」
「何故ファイヤーを捕まえたんだ!!」
「勿論、コレクションの為だ」
ジラルダンの言葉に眉間に皺が寄る。
「次なるコレクションは神なるサンダー、そしてフリーザー。だが私の最高のコレクションは誰も見た事のない海の底より現れる神…、ルギア」
「ルギア…?」
「そう、シンヤに一番最初に見て貰いたいコレクションこそがルギアだ」
「別に見たくない!」
「素直じゃないな……。もう少し待て、必ず手に入れてみせる。私とシンヤの為にな」
「だから、別に見たくないと言ってるだろうが!!」
再び上へと昇ってしまったジラルダンに対して舌打ちをする。
全く話を聞かない、なんて自己中な奴だ!!
しかし、ルギアを捕まえるのにファイヤー達を絶対に捕まえなければいけないのか…?まあ、コレクションの一環だと言われてしまえばそうなのかもしれないが……。
ジラルダンのコレクションの一つの石碑に視線を落とす。
そう言えばこれを読んでいたな……。
火の神、雷の神、氷の神に触れるべからず。
ファイヤーとサンダーとフリーザーの事だな……。触れるべからずと書いてるんだから触れなければ良いというのに……。
触らぬ神に祟りなしという諺(ことわざ)を知らんのか……。
されば天地怒り世界は破滅に向かう。
……は、破滅?
海の神、破滅を救わんと現れる。されど世界の破滅を救う事ならず……。
……破滅が起こる前提の話じゃないか、破滅の前兆が無いとルギアが現れない。だからジラルダンはファイヤー達を捕まえてルギアを誘き出そうと……。
ん?待て、これだとルギアまで捕まえてしまったら世界が破滅するんじゃないのか?
いや、でもルギアには破滅を救えないと書いてあるんだから、ルギアが出て来た時点で世界は確実に破滅する、と……。
優れたる操り人現れ神々の怒り鎮めん限り……。
…って、完全に他人任せじゃないか誰だ、優れたる操り人……!!
「いや待て、私がここでジラルダンを止めれば良いのか…?」
神を怒らせる前に……。
もうファイヤーが怒ってはいるが、サンダーとフリーザーを巻き込まなければルギアは出て来ないだろうし。
「ジラルダン!!!もう一度降りて来い!!!」
世界が本当に破滅したらどうしてくれるんだ!!
正座させて説教だ!!
「……ん?いや、それは違うな。とりあえず降りて来い!!ジラルダン!!」
*
一生の不覚……ッ!!
捕えられるファイヤーの傍で、檻に閉じ込められた私の姿は素晴らしく滑稽だろう……。
「ファイヤー、いくら暴れても無駄だ」
「……」
この状況だ、暴れたくもなる。
あぐらを掻いて座り込む私を見下ろしたジラルダンは満足げに笑った。
「貴方に手荒な真似はしたくなかった。こんな檻に閉じ込めてしまって申し訳ない」
「そう思うなら出してくれ」
「それは出来ない」
「……」
「しかしその姿もまた良いな……。このまま閉じ込めて私のコレクションとして置いておきたいくらいだ、シンヤ……」
自分の顔が引き攣るのがよく分かる……。
やはり手紙の内容でも思ったが非常に気持ち悪い。名前を呼ばれた時に背筋がゾワゾワして鳥肌が立った。
ジラルダンにも腹が立つが自分の不甲斐無さに一番腹が立つ。カバンを持っている事を確認していればこんな事にはならなかったのに!!
話し合いで解決など出来ないと思っていたから脅してでもとカバンからボールを取ろうと思ったらそのカバンを持っていなかったなんて……!!
「……自分が情けない」
カバンは部屋の隅の方に自分で置いた。見える場所にあるのに届かない……。
傍で鳴き声をあげてジタバタと暴れるファイヤーにも申し訳ない気持ちでいっぱいだ……。
< サンダー、ファイヤーの領域に侵入 >
「……くそっ!!」
ファイヤー同様、暴れて檻の格子を蹴り付けたが檻は壊れなかった
暴れ疲れて大人しくなったファイヤーを見てから溜息を吐く、ジラルダンの気が変わらない限りはずっとこのままだ……。
あぐらを掻いて座り込み溜息を吐く。何か上手く言葉巧みに言い包められないものかと考えてみるが疲れている体は目を瞑るとそのままうとうとと視界を妨げる。
ガシャン、と大きな機械音にビクリと体を跳ねさせた私は辺りを見渡す。視界にサンダーが捕えられてるのを見つけて額を押さえた……。
完全に寝てたな私……。
鳴き声をあげて暴れるサンダー、その隣に檻の籠がぶら下がっている。
中に居る見知った顔ばかりに私はとっさに背を向けて身を隠した。サトシ達が捕まってる、これは上手くいくとこの檻から出られるかもしれない。
上の階からジラルダンが下りて来た。来ていた服のフードを被って檻に凭れかかった。私は眠っているフリをする。
「招待状も無しにここに来たのはキミ達が初めてだ。いかがかな?火の神ファイヤー、雷の神サンダー……、私の新しいコレクションだ」
「ちょっとおじさん!!ポケモンをゲットするなら何故モンスターボールに入れておかないの!?これじゃ晒しものだわ!!」
「私はポケモントレーナーではない、私はコレクターなのだ。実物をこの眼で見れてこそコレクションと言える。見るが良い、私のコレクション。ただし手を触れるなよ?それがエチケットだ……」
フリーザーが現れたらしい。ジラルダンは再び上の階へと戻って行く。
サトシ達を檻から出してくれたのは好都合だ。ジラルダンは私とサトシ達が知り合いだという事を知らないのだろう。
それに私がコレクターの立場なら子供連中をここには出さないな、触るなと言われれば触るのが子供だ。
「サトシ!!」
「え!?あ、シンヤさん!?」
知らない顔も居るが見知った顔ばかりで良かった。
私がガンと檻を叩けば石碑の周りに集まっていたサトシ達が駆け寄って来てくれた。
「シンヤ、お前……。コレクションにされちまったのか…」
「良い男は大変ねぇ…」
「違うに決まってるだろうが!!殴り飛ばされたいのかコジロウ、ムサシ!!」
とにかく出してくれ、と私が声をあげればニャースが檻をツメで引っ掻いた。
しかしニャースのツメは檻に触れる前に見えない壁にぶつかって檻には当たらない。どうやらコレクションに傷が付かないようにバリアーを張っているようだ。
「くそ、ファイヤー達も早く助けないとフリーザーまで捕まっちゃうよ…」
「ケンジ!私のカバンからポケモン達を!!」
「え、カバン!?」
あっち、と私が指を差せばケンジはカバンからボールを6個取り出した。
出て来たカイリュー達は檻の中に居る私を見て目を見開いている。そしてドーンと檻にガラガラが体当たりをしてきたが跳ね飛ばされた。
「この檻に一斉攻撃だ!破壊してくれ!!」
「そうか!!じゃあこっちも一斉攻撃だ!!」
サトシがピカチュウやリザードン達でファイヤーを助けるべく攻撃を始めた。反対側でもムサシとコジロウがサンダーを助ける為に攻撃をする。
バチバチと私の目の前でもバリアーが攻撃を弾いていた。目の前がチカチカするし、いつバリアーを突き抜けて攻撃が私の方に来るか……。
「ライチュウ、かわらわりでバリアーを破壊しろ!!ガラガラは骨ブーメランで檻の扉を!!」
「ラァイ!!」
「ガラガラッ!!」
バリィン!!と一瞬バリアーが叩き割れた。すぐに修復しようとするバリアーの隙間からガラガラの投げた骨ブーメランが檻の扉に勢いよく当たる。
中から檻の扉を蹴ると扉は前方に大きな音を立てて吹っ飛んだ。
「や、やっと出れた……」
カバンを拾い上げてサンダーの檻を指差す。
「ペルシアン、ギガインパクト!!」
「シャァァア!!」
サンダーなら攻撃を食らっても多少は平気だろうという勝手な解釈でペルシアンがサンダーに向かってギガインパクトを放つ。
悲鳴を上げてその場から逃げたムサシ達。ケンジのみんな伏せろぉ!!と言う慌てた声と同時に大きな爆発音。
近くに居たギャロップに飛びついた私はその場でしゃがみ込みながらギガインパクトの反動で動けないペルシアンをボールに戻す。
か、壁に穴が開いたぞ……。
檻から解放されたファイヤーとサンダーが大きく咆哮して穴の開いた壁を更に破壊し、おまけにもう一つ穴を増やして外に出て行った。めちゃくちゃな奴らだ……。
ポカンと眺めていると外でまた爆音、苛立ちのままに飛行宮を破壊しているらしい。
ライチュウ、ガラガラ、ゴーストをボールに戻した所で飛行宮がだんだんと高度を下げている事に気付く、落下するんじゃないか!?
「うわ、寒っ!!夏なのに雪景色とはどういう事だ!!」
傍に居るギャロップに抱き付いてそう言うと今更ニャ!とニャースに突っ込まれた。
そうか、状況を把握してないのは捕えられていた私だけか……。
大きな音を立てて飛行宮が何処かに着陸したらしい。落ちなくて良かったとは思いつつも状況は最悪だった。天井から瓦礫が落ちてくるのをカイリューが私の上に覆い被さり守ってくれる。
「うわあああ!?」
何かが激突したのか知らないが正面の壁が崩れ落ちた。
いや、でも上手く道になっていてここから外に出られそうだ!
「ここから出られるぞ!」
「早く走れー!!」
急斜面を駆け降りるサトシ達が悲鳴染みた声をあげる。ムサシが躓いたらしい塊になって転げ落ちて行った……。
おいおい、下手をすれば死ぬぞ……。
「ヒヒン!」
「あ、ああ……。乗せてもらう……」
私は我が身が可愛いのでそんな真似はしない。
*