一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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朝からテンガン山へと向かった。

ジョーイさんに見送られてヨスガシティを出たものの、まだ歩き出して10分くらいなのにバトルを挑まれるのは何故だ。

トレーナーじゃないのに、と思いつつ勝ち進みテンガン山へと着いた。

中に入ると薄暗くて思わず「うわ」と声が漏れる。

岩が邪魔、足場も悪い、水が溜まってて進めないで最悪だったがヒンバスを小脇に抱えて水場を無理やり進もうとしたら「危ない!!」と呼び止められた。

 

「……」

「そこ結構深いよ!?」

 

トレーナーらしい少女が私の腕を掴んで行かせまいと必死だ。

 

「ヒンバスの生息地に行きたいんだ」

「かなり上の方だし、あそこは霧が凄いよ?」

「別に良い」

 

じゃ、と水場に足を浸けようとしたらまた腕を掴まれた。

 

「ここでびしょ濡れになって進むのは無茶だって!!」

「何でだ?」

「山頂は雪積もってるけど!?」

「……それは困る」

「貴方の反応にあたしが困る~」

 

ツバキ、と名乗った少女は仕方ないと呟いて私をヒンバスの生息地まで連れて行ってくれる事になった。

ポケモントレーナーでコンテストにも参加しているというツバキは子供のわりには優秀なトレーナーだ。

途中、二人で居たせいかタッグバトルを挑まれて大変だったが……、ツバキはノリノリでバトルしていた。

トレーナーはバトル好きらしい、私には理解出来ない。

 

「ヒンバスの居た所を通り抜けたら216番道路に出たんだよね」

「216……」

 

地図を広げてみると216番道路の先にはキッサキシティしかない。

結局、一番上まで行かないと駄目なのか……。

 

「あ、こっちがやりの柱だよ」

「やりの柱、古代の遺跡がある所か?」

「そうそう、見てく?」

 

ツバキの言葉に頷いてやりの柱へと向かった。

古代の遺跡、と言われても古い何かが崩れている様な……、特にどういったものなのかは分からないがそこらへんを歩き回ってみる。

 

「あたし、ちょっと休むねー」

 

入り口の前で座り込んだツバキを見てから私は一人でどんどんと奥に進んでいく。

パッと視界が広がった、青空と小さく街が見える。ここから落ちたら確実に死ぬだろうな、と思いつつその景色を眺める。

そろそろツバキの所へと戻ろうとすると何もなかった場所がぐにゃりと歪んでいた、何だ?とその歪みの中を覗き込むと天と地が反転した様な世界が広がっていた。

 

声も出ず、その歪みから一歩後ずさるとその歪みの中を大きな生き物が呻く様な声をあげて横切った。

あれも、ポケモン?

 

「シンヤさーん、どうしたのー?」

 

手を振ってこちらに呼びかけるツバキ。

どう説明しようかと、再び歪みに視線をやったが歪みは消えてなくなっていた……。

 

「シンヤさん?」

「いや、なんでもない」

「じゃあ、そろそろ行こっか」

「ああ」

 

もう一度、その場所を振り返ってみたがやっぱり何もなかった

 

*

 

「着いたー!!!」

 

ツバキが両手をあげて喜んだが霧が深くて何も見えない。

 

「水場があるのかさえ分からないな……」

「あるよ、ちょっと待ってね、きりばらいするから」

 

そう言ってツバキはヨルノズクを出す。

ふくろうみたいだ、と言えばふくろうポケモンだもんと返された。

ヨルノズクのきりばらいで霧がはれていく、大きな広い水場が姿を現した。

 

「おお」

「ここにヒンバスが居るよ」

 

私がヒンバスを抱えて水際でしゃがみ込むとツバキも同じ様に隣に座った。

 

「ヒンバスのお嫁さん探しとか?」

「いや、ここに捨てに来たんだ」

「へぇー……、えぇぇええ!?」

「それ行け!!」

 

ぼちゃんとヒンバスを水場に投げた。

ツバキが「あぁぁああ」と声をあげて、信じられないとばかりに私を見やった。

 

「ゲットしたポケモン捨てるとか何考えてんのー!?」

 

胸倉を引っ掴まれたのでここまでの経緯を教えてやるとツバキは「悲しいけど居るよね、そういう最低なトレーナー」と言って苛立ちを隠せない様だった。

 

「でも、シンヤさんまで捨てる事ないじゃん」

「私が育てる理由もない」

 

私が立ち上がればツバキは水面を覗き込んで溜息を吐いた。

ツバキの協力のおかげでまだ昼過ぎ、さっき昼食を食べたばかりだしポケモンセンターには日が暮れる前に着きそうだな。

 

「このままキッサキシティに一泊した方が近いよな」

「そうだね、でも!!」

「でも?」

「まだ時間あるから付き合って、シンヤさん」

 

語尾にハートマークでも付いていそうで不気味だった。

嫌だ、と言いそうになったがツバキにはここまで協力して貰ったわけだし私も付き合わないわけにはいかない。

 

「……何をするんだ?」

「もち、ポケモンゲットだよ!!」

「もちポケモンを捕まえるのか」

「ち、ちがっ!!」

 

移動して釣り糸を垂らすツバキの背を見つめる。

もちポケモンではなく勿論ポケモンを捕まえるんだよ、という事でツバキはお目当てのポケモンを釣りたいらしい。

別に一緒に行動する必要もなかったが一人じゃ寂しいからとツバキが言うので付き合っている、だからと言って私も一緒になって釣りをするわけではない。そこは嫌だと断らせてもらった、釣りはじっとして水面を見てないといけないから嫌いなんだ。

 

「釣れないなぁ」

「そうか、私はその辺を見てくるぞ」

「え、結局あたし一人じゃん!!話し相手とか……、あ、もう居ない」

 

何かツバキが言っていた気がするが聞こえなかったので別に良いだろう、釣りをしているツバキを眺めるのにも飽きた。

カナコさんがカバンに入れてくれていた空のボール、種類が何個かある。赤と白の普通のモンスターボールしか知らないがこの空のボールはゲット用だろうか?

ポケモンを捕まえる気は全く無かったのだけど、こんな遠くまで来れば珍しいポケモンが居るかもしれない。捕まえて連れて帰ればノリコへのお土産になるか……。

 

珍しいのかどうかが判別出来ないんだけどな。

 

さっきからよく見掛けるイシツブテとか言うのはやはり多く見掛けるだけに珍しい事は無いのかもしれない。

可愛いかどうかと考えると丸みがあって可愛い……のか?丸いのが可愛いってヤマトも言ってたし……。

ああ、でも、もっと全体的にやわらかい感じの方が良いか。イシツブテは抱っこ出来なさそうだし……。

アサナンはどうだろう、丸くはないが目とか大きくて可愛い……だろうか……?

 

イマイチ分からないが、こう丸みのあるフォルムで目が大きくてキラキラしてるポケモンは……。

 

「…」

「…」

 

水面から顔を出すポケモンと目があった。

キラキラした大きな目に小首を傾げてこちらを見る頭はなめらかに丸い。

 

「可愛い……な」

「リュ?」

 

私が近づくと瞬きをしながらポケモンも近づいて来た。

手を伸ばして頭を撫でれば水に住んでいるだけあって、肌はつるりと滑らかだ。丸いし、目も大きいしコイツで良いんじゃないだろうか。

 

「よし」

 

バトルして弱らせてから捕まえるのが基本らしいが、ここまで大人しいし直接ボールでも大丈夫な気がする。

赤と白のモンスターボールを手に取ったが、ポケモンの色が青かったので青いボールを使う事にした。

 

「…」

 

あまりにも近くに居るので投げるわけにもいかずそのままボールをポケモンに押し付けてみる。

カチ、と音が鳴ったかと思えばボールが開いてポケモンが吸い込まれた。

手の中にあるボールが忙しなく動いている、これは中でポケモンが暴れているのだろうか……、少しすると赤く光っていたランプが消えてボールも動かなくなった。

 

「お土産捕獲完了」

 

ポーンと片手でボールを高くあげてキャッチする。

家に戻るまでに他にもポケモンを探してみよう、何匹か捕まえて帰ればノリコが気に入るポケモンが居るかもしれない、気に入らなければ研究所に行ってヤマトに押し付けてやれば良いしな。

 

捕まえたポケモンはニョロリと長い胴体をしていた。

ヘビというより……ウナギ?

 

ツバキが釣りをしている所に戻るとツバキの背は何処か哀愁が漂っている。

声をかけるか迷っているとツバキがこちらを振り返った。

 

「シンヤさーん、釣れないよぉ……」

「私に言われても」

 

ガクンと肩を落としたツバキの隣に座ってタマゴを膝の上に置いた。

そういえば、何を釣りたいのだろうか。

 

「何を釣るんだ」

「ミニリュウ」

「小さい龍か」

「うん、超可愛いの~」

「可愛いのか……」

 

小さいリュウなのに可愛いのか……ん?小さい龍?

 

「それは目が大きいか?」

「うん」

「体は青いか?」

「そうだねー、お腹は白だけど体は青」

「もしかしてコイツか?」

 

青いボールからさっき捕まえたポケモンを出せばツバキは「そうそう」と頷いた。

そうか、お前、ミニリュウって言うのか、龍だったのか、ウナギとか思って悪かったな……。

 

「ミニリュウゥウウウ!!!!」

「うおっ」

「何で何で何でシンヤさんがぁあ!!」

「さっき捕まえた……」

「釣りしたの?」

「いや、水面から顔出してたから」

「ミニリュウゥウウウ!!!!」

 

凄く落ち込んでいるツバキの肩に手を置いてみた、チラリとこちらに視線をやったツバキ。

 

「ミニリュウ、頂戴」

「駄目だ」

「何で!!」

「お土産にするんだ」

「誰の!!」

「妹の……、まあ、妹が要らないって言ったらやるよ」

「妹さん要らないって、今、テレパシーで来た」

「嘘付け」

 

愚痴るツバキの手を引いてテンガン山を抜けた。

視界いっぱいに銀世界が広がる、ここからまた歩いてキッサキシティまで行かないといけないようだ。さすがにしんどい。

 

「さっさと行くぞ」

「うわ、自分だけフード被ってる」

「……入れて欲しいのか?」

「いやいやいや、そんな!!恋人同士みたいな、いや、あったかいだろうけど、そんな!!やだなーもー!!!」

 

 

 

 

「遅いぞー」

 

 

 

「うおい!!!」

 

 

走って追いかけてきたツバキに何故か怒られた、何で私が怒られなきゃいけないんだ。

 

*


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