一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「第一回、シンヤの手持ち争奪戦ー!!!」

 

メガホン片手に高らかと声をあげたブラッキー。

よっしゃー!!やるぞー!!と各々に気合の入った声をあげる連中を眺めながら私は小さく溜息を吐いた。

 

「枠は6席!!!だがここに居るのは14体、その中の6体だけがシンヤに連れて行ってもらえる!!恨みっこ無しのバトルだぜー!!」

「ぜぇぇったい負けねぇぇええ!!!」

「ラァアイ!!」

 

拳を握りしめるミミロップと睨み合うライチュウ。

この騒ぎの発端はツバキからの電話だった。

今度、遺跡調査に行く博士さんが居てですねその話をご一緒する事になったんでシンヤさんもどうですか?

遠慮したい…所ではあったが、遺跡でのアンノーンに関する調査と聞いては断れなかった。それに、ジョウト地方にはスイクンが居るみたいだしな……。

エーフィが言うにはアイツらも影響を受けずに引き継がれているそうだから、会えるなら話もしたい。

だから、

ツバキの誘いを受けてジョウト地方に行く、と私が発言した所…この騒ぎだ。

庭でバトルを始めたものだから家に集まっていた野生ポケモン達が慌てて逃げて行く、ミロカロス達もポケモンの姿に戻って人の話を聞きやしない。

 

「ご主人様、お茶が入りました」

「……」

 

参加しないらしいチルットが私の前にカップを置く。

そのカップを持ち上げてその場から飛び退けば吹っ飛ばされたらしいミミロップがテーブルを巻き込んで視界の隅に飛んで行った。

 

「わぁ、ご主人様さすがです!!」

 

チルットからの拍手を背にミミロップの方に視線をやれば目を回してダウンするミミロップが居た。治療するのは私か……。

ミミロップを吹き飛ばしたらしいガラガラが骨を振り回してハシャいでいる。

ミミロップ、リタイヤ…。

 

「ミロォオオ!!!」

 

ハシャぐガラガラにミロカロスがハイドロポンプを食らわせた。そのハイドロポンプはガラガラとその傍に居たペルシアンを巻き込み庭の壁へと激突する。

ガラガラとペルシアンもリタイヤ。

 

「ラァアアイチュゥウウ!!!」

 

空を飛んで移動していたトゲキッスにライチュウの雷が落ちる。そのまま落下して目を回したトゲキッス…リタイヤ…。

サマヨールとゴーストの一対一のバトルはゴーストが勝ったらしい。サマヨールもリタイヤ。

エーフィと戦っていたラルトスはブラッキーからの一撃を受けて倒れた。あそこはタッグを組んでるからずるいな…ラルトスもリタイヤ。

 

残っているのは空を上手に逃げ回っているカイリューと…、辺りに放電をまき散らすライチュウ、サマヨールに勝ったゴーストに素早く走り回るギャロップ。

タッグを組んでいるエーフィとブラッキーに、あとはミロカロスだけか…と思った所でそのミロカロスがギャロップにハイドロポンプを食らわせた。

倒れたギャロップを視界にも納めずミロカロスは空を旋回するカイリューへと攻撃をしかける。

 

「カイリュー、ライチュウ、ゴーストにエーフィ、ブラッキー、ミロカロス…。6体だな」

「では、僭越ながらチルが声を掛けさせて頂きます」

 

勝ち残った6体が決まりましたので第一回シンヤの手持ち争奪戦は終了でーす。

ブラッキーの使っていたメガホンで声を掛けるチルット、キョトンとしたようにこっちを見たカイリューが両手をあげて喜んでいた。どうやら逃げているだけで残ったらしい。

 

「勝ったぁあああ!!」

 

人の姿で飛び跳ねて喜ぶミロカロス。

ミミロップかラルトスは連れて行きたかったのだが仕方がない。ライチュウとエーフィも居るし困りはしないだろう。

 

*

 

ぶつぶつと文句を言いながら私のカバンに医療道具を詰めるミミロップ。

相性が悪かった、と文句を言いながらも手は一度も止まらない辺りミミロップらしい。

 

「いつ出掛けるんですか?」

「遺跡調査から帰ったシュリー博士と話をするらしいからな、別に急いで行く必要は無いだろ」

「ジョウトの何処に行くんです?」

「グリーンフィールド、だったかな」

 

私の言葉にエーフィがパッと顔を明るくさせた。そうですか、と返って来た返事も何処か弾んだ声のように聞こえる。

グリーンフィールドに行きたかったのだろうか…。

 

「ブラッキー」

「んぁ?」

「エーフィはグリーンフィールドに行きたがってたのか?」

 

明らかに機嫌が良いエーフィの様子を視界に入れてからブラッキーの方へと視線を戻せばブラッキーは少し考えるように視線を泳がせた。

ぽいっと口に食べかけのお菓子を放り込んで立ち上がったブラッキーは雑誌の束をごそごそと漁り出す。

 

「これかなー?」

「ん?」

「ジョウト地区、女の子の行きたい所ナンバー1!!」

「…女の、子?」

「まあ良いじゃん。エーフィは機嫌良い方が可愛いし」

 

もぐもぐと再びお菓子を食べる作業に戻ったブラッキー。受け取った雑誌には美しい高原が広がる写真が載せられていた。

雑誌から視線をあげてブラッキーにもう一度声をかける。

 

「なあ」

「なに?」

「機嫌が良くない時は可愛くないのか」

「…そりゃ機嫌悪い時は目がこーんな、」

 

ぐいっと普段でもつり目な自分の目を指でつり上げて見せたブラッキー。

エーフィは元々つり目な方だろ。と思いつつ頷こうとしたがブラッキーの視線が私の後ろへと向いている気がして後方を振り返った。

 

「「……」」

「こーんな、顔で悪かったですねぇ…」

 

ブラッキーの行動を真似るように自分の手で目元をつり上げて見せたエーフィは口元を引き攣らせながら笑っていた。

チラリとブラッキーに視線を戻せばブラッキーもエーフィ同様、引き攣った笑みを浮かべている。

 

すまん、

小さく呟いて私はその場からそそくさと離れた。

 

「ゴメンゴメンゴメンゴメンゴメン!!ゴーメーンー!!そういう意味で言ったんじゃないんだって!!」

「じゃあどういう意味ですか!!」

「怒った顔がコワイって意味で!!」

「そういう意味で言ってるじゃないですか!!!」

「そういう意味ってどういう意味ー!?!?」

 

ブラッキーの頬を両手で目一杯引っ張るエーフィを視界から外した。全て私が悪いとは思うが止めに入る勇気は無い。

カバンに医療道具を入れ終えたらしいミミロップがカバン片手に近付いて来た。

 

「ほっといて大丈夫だから」

「……」

 

はい、とカバンを手渡されて私は小さく頷く。

カバンの中身をざっと確認してから未だにブラッキーに文句を言っているエーフィを見て少し首を傾げる。

 

「エーフィはあんな奴だっただろうか…」

「ずっとあんな感じだと思うけど?」

「いや、もっとブラッキーに甘い親みたいな奴だったような気がするんだが…」

「別に今でも甘いっちゃ甘いけどねぇ…でもそこまで大袈裟なのは大分前の事じゃない?」

「……」

 

首を傾げたミミロップの言葉に私は小さく頷き返した。

世界に一人…、取り残されたような気分をまた味わった…。時が経って変わらない者の方が少ないのかもしれないな…、私だって自分では気付いていなくても変わってしまっているのだろうし。

 

「あ、シンヤの部屋の本読んでも良い?」

「ああ、良いぞ」

「よっし!!ラルトスー、許可貰ったー!!」

 

ラルー、と返事をしたラルトスが走ってミミロップに駆け寄った。ここも大分仲良くなっているような気もしなくはない。

よく観察して見てみればポケモン連中同士の接し方や関係も私の知っている姿よりずっと親しくなっている気がする。

やはり何だか少し疎外感を感じるな……。

小さく溜息を吐いた所でリビングの扉が勢いよく開けられた。視線をやれば目に涙を溜めたミロカロスが……。

 

「うわぁああああん!!!!シンヤー!!!」

「……」

「俺様っ、シンヤに頼まれたから!!部屋で洗濯物たたんでたのにっ!!ミミロップが追い出したっ!!低能馬鹿退けって!!」

 

俺様悪くないもん、悪くないもん。と人の背にしがみつきながらわんわんと泣くミロカロス。

 

「で、洗濯物は?」

「たたんで、ちゃんとなおした…」

「よしよし」

 

頭を撫でてやれば嬉しそうにへらへらと笑うミロカロス。

 

「お前はあんまり変わらないな」

「…?」

 

小首を傾げたミロカロスの額をピンと指で弾けば小さく悲鳴をあげてミロカロスが私から離れた。

さてと…、出掛ける準備でもするか…。

 

「カイリューは何処だ?庭か?」

「なんで?」

「道具を買い足しておこうと思ってな、ジョウトまでそれなりに時間も掛かるし…」

「俺様も行く!!」

「カイリューは何処だ」

「俺様が行く!!」

「飛べないだろうが」

「気合いで飛ぶから!!」

 

さすがにポケモンに甘いブリーダーのシンヤでもそこは仕方ないなぁとは言えないだろう。馬鹿か。

 

「カイリュー!!」

「うわぁあああん!!!」

 

*

 

「道具類良し、手帳もある、本は…重たくなるから少なめにしておくか…」

 

ずっしり重たいカバンの中から渋々数冊の本を取り出した。

これ読みたいんだけどな、こっちも読みたいんだけどな、と思いつつも仕方がない。カバンは少しだけ軽くなった気がする。

記憶が戻る前はこれぐらい普通、と思っていたが反転世界に住んでいた事を思い出すと荷物の多さに溜息が出る。

まあ旅をしていたわけでは無かったというのもあるが、いつでも帰れるから荷物なんてここまでこだわらなかったんだ。ギラティナの有難さが今になって分かったな……。

あの時は人の行動を観察するな!と文句を言っていたが観察してくれていたからこそいつでも帰れたわけだし…、ギラティナは今頃何をしているのだろうか…。

 

「ご主人様、リビングに皆様お集まりになられましたよ」

「ああ」

 

チルットの声に顔をあげた。

そういえばリビングに集めてくれと言ったのは私だった。部屋の扉を開ければチルットが私を見上げる。

 

「チルット」

「はい」

「ギラティナに会ったか?」

「ギラティナ様ですか?…そういえばお会いしていませんね」

 

どうやらユクシー達とも会っていないらしい。となるとディアルガやパルキアとも当然会えていないだろう。

珍しいポケモンだし、そう簡単には会えないのかもしれないな。むしろ親しくしていた頃が異質だったのか…?

 

「でもご主人様がお戻りになられましたし、シンオウ地方に行けば会えるのではないでしょうか?」

「私が関係あるのか?」

「ご主人様が記憶を取り戻せばまた会える、と仰っていましたから」

 

そういえば、ユクシーが言ってたか……。

 

「…行くか」

「はい、参りましょう」

 

ニコリと笑ったチルットとリビングへ向かう。

リビングの扉を前にして中から賑やかな声が聞こえてくる、ガラスが割れるような音はあえて聞かなかった事にしておこう……。

 

「イヤー!!!」

 

両手で耳を塞げばミミロップが私にラルトスを投げて来た。ゴツンと頭に当たったラルトスが私の頭によじ登る。

 

「ライチュウの代わりにこの家の留守は任せたからな」

「ワーターシー!?」

 

この野生ポケモンの面倒見んの!?めんどくさ!!と不満を垂れるミミロップ。別に一人じゃないぞ、とガラガラとペルシアンを指差せばミミロップは口を尖らせる。

 

「そりゃ誰か居ないと駄目だとは思うけどー…」

「自分も残ろうか…?」

 

首を傾げたサマヨールにミミロップが素早く頷き返す。

首がもげるんじゃないかというぐらい首を縦に振ったミミロップが溜息を吐いた。

 

「はぁー…、まあサマヨールも一緒なら良いか」

「悪いな。それで…ギャロップとトゲキッスをツバキの所に送る事になる」

 

ギャロップとトゲキッスが頷いた。

ツバキが移動手段を下さい、としつこかった為だ。まあ私も今のツバキではないがトレーナーのツバキにはポケモンを借りていたしな……。

 

「チルットとラルトスは一足先にジョウト地方にある自宅の方に送って、他の連中は私と移動だ」

「了解しました」

「ラルー」

 

以上。と話を終われば各々で動き出す。

窓が一枚割れているのは気のせいだと言う事にしておこう。もう日常茶飯事だ、野生ポケモンが暴れて物を壊す事も少なくない。

 

「ポケモンフードの作り置きは何処に置いてあるんだ…?」

「そこの棚んとこ入ってない?ワタシ、そこに入れたと思うんだけどー」

「ここか…?」

「その上」

 

ミミロップとサマヨールが棚を漁っているのを見てから視線を動かす。

はて…、ボールを何処に置いたんだったか…。

 

「あれ?俺のボールは…?」

「私は触ってないぞ」

「シンヤが持ってないんだったら何処かに置きっ放しなんですかね…」

 

キョロキョロとトゲキッスが辺りを見渡した。

ボールを無くすトレーナーなんて私くらいだろうな…。

 

「今日の朝、何処にあったんだ?ボールの中で寝てただろ?」

「リビングにありましたよ、そこに」

 

トゲキッスの指差した場所には何も無い。

私は買い物に行く時にカイリューが持ってきたカイリューのボールしか持っていない。

 

「ミロカロス、お前のボールは何処だ?」

「俺様のボール?あそこ、池の真ん中に浮いてる!!」

 

庭を指差したミロカロスの言葉を聞いてトゲキッスと私は池の方に視線をやる。

確かに言葉通りミロカロスのボールはプカプカと池の中央辺りで浮いていた。白いボールなのでよく分かる…。

 

「ミロカロスさん、俺のボールを知りませんか?」

「あそこ」

 

あそこ、と指差したミロカロスの指の先には木しかない。でも、あの場所にはポッポが巣を作っていたはずだ。

ポッポの巣を覗きに行ったトゲキッスが「あ!」と声をあげて自分のボールを片手に戻って来た。

 

「ありました!」

「他のボールは何処だ!?」

「俺様、ゴーストの友達が持って行ったの見たもん。ゲンガーが笑いながら遊んでた」

 

見てないで止めろ!!

というか、お前は自分のボールが池に放り投げられるのを平然と眺めていたのか…!

その後、目撃者であるミロカロスの言葉を頼りに全員で家中を捜索した。

 

「っしゃー!!!ワタシのボール見つけたぁああ!!!」

「ミミロップさーん!!あんまり動かないで!!落ちちゃいますからー!!」

「梯子!!梯子ちゃんと支えて!!」

「なんだ!?あったのか!?何処にあった!?」

「屋根の上だそうですよ。…って、ご主人様!?どどど、どうしたんですか!!その格好!?」

「…………」

「シンヤ!?シンヤが真っ黒!!!」

 

屋根から降りて来たミミロップが駆け寄って来たが私は何も言わない。

あとは誰のボールが見つかってないんだ……。

 

「何があったわけ!?」

 

ケラケラ笑うブラッキーに掴みかかったミミロップ。ブラッキーは腹を抱えながら言った。

 

「ボール持ったゲンガー見つけて、シンヤが追いかけたんだけどっ!!シンヤ…海に、海に落ちてタッツーに墨吐かれ…たッ!!ひー、ァハハハハハッ!!!超面白かった!!」

「笑いごとじゃないですよ!!私のボールが墨だらけです!!」

「そーでした、エーフィのボールでした。ごめんなさいでした」

 

…でした?

 

*


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