一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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グリーンフィールド。緑豊かな平和の地、吹き抜ける風は人の心もポケモンの心も和ませる。

 

「と、言ってなかったか?エーフィ?」

「なんですかここぉぉおお!!」

「すげぇええー!!」

「キラキラしてる!!」

 

もうすぐグリーンフィールド付近という所でカイリューに地面へと降りてもらい徒歩でやって来た。

これはエーフィの要望だ。

森を抜けて丘を登った所で美しい情景が広がるのを空から眺めるなんて惜しいと文句を言うので特に興味も無いが急ぐ用でもなかったので歩いて来た…の、だが…。

丘から見下ろした景色はグリーンとは程遠い、ゴツゴツとしつつ怪しげに輝くクリスタルだろうか…。

一際目を引くのは大きな花を象ったような造形物、その花を中心として草花があっという間に結晶化されていく…。どうやらあの花にこの現象を起こしている原因があるのだろう。

膝を付いて呻るエーフィ……。

ブラッキーとミロカロスは結晶化された草花を見て目を輝かせていた。

花に手を伸ばそうとしたブラッキーの首根っこを掴み止めればブラッキーは不満気に私を見た。

 

「触るな」

「一個だけ!!一個だけ持って帰ろうぜ!!」

「駄目だ」

 

ゴツンとブラッキーのボールを額に当ててやればブラッキーは渋々とポケモンの姿に戻りボールに戻った。地面に膝を付くエーフィに声を掛ければ無言のままエーフィもポケモンの姿に戻る。

エーフィは暫く立ち直りそうもないな……。

ミロカロスに視線をやれば首を横に振られる。少しの間、ミロカロスと睨み合っていたが仕方なくカイリューをボールから出してミロカロスもカイリューの背に乗せた。

 

「何処行くの?」

「ポケモンセンターだ」

 

わりとのんびりとここまで来たからツバキはもう先に着いてるだろう。

空を飛ぶカイリューの背から下の様子を見れば確実に結晶化が浸食しているのが分かる。

 

「上から見てもキラキラしてて綺麗だなー」

「そうか?不気味だと思うが…」

 

ミロカロスの言葉に返事をしつつ視界に入ったポケモンセンターを見下ろす。

車が何台か停まっているのが見えた、この現象を知り駆け付けた者達が居るのだろう…こんな事になるんなら私は絶対に来なかったのに…・

カイリューがポケモンセンターの近くに降りた。

 

「なんとこの怪現象の起こるグリーンフィールドにかの有名なシンヤさんまでもが駆け付けたようです!」

「は?」

 

ずいっとカメラを向けられて思わず体を仰け反らせる。

オーキド博士が手招きをしたのでカメラマンを押し退けてオーキド博士の傍へと近寄った。

 

「シンヤ、お前さんも来てくれたのか!」

「私はツバキとここで会う約束をしてたんです。シュリー博士のアンノーンの調査についてのお話を聞かせてもらう事になっていて」

 

そうだったのか、と驚いた表情をした博士が花の造形物の方へと視線をやる。

同じように視線をやればオーキド博士が言った。

 

「あそこがシュリーくんの屋敷だ」

 

ツバキに話を付けてさっさと帰らせて貰おうか…。

眩暈を起こしながらも小さく溜息を吐けば、ちょんちょんと腕を誰かに突かれた。視線をやればニコリと笑ったハナコさん……。

 

「シンヤくーん、久しぶりね!」

「ご、ご無沙汰しております…」

 

アーシア島で会ったきり、もう二度と会う事は無いだろうと思っていたのに!!

いや、別に会うのは悪い事では無いのだがカナコさん…、現在の私の母親に辺る人間と似た雰囲気を持つハナコさんに少し苦手意識がある……。

 

「シンヤさん!!」

「サトシ!!カスミに…、タケシとは随分と久しぶりだな!」

 

お久しぶりです、と笑ったタケシ。

ウチキド博士の所に居たんじゃないのか、と聞けばタケシは膝を抱えて「聞かないでくれ…」と何故か暗雲を背負ってしまった。

 

「な、何か悪い事を聞いたのか…?」

「あー、気にしないで下さい。いつもの事ですからー」

 

アハハと笑うカスミに小さく頷き返す。

 

「あ、あの!!」

「ん?」

「わたし、リンって言います!こんな状況で言うのはどうかと思いますけど、わたしシンヤさんの大ファンで!!会えて凄く嬉しいです!!」

 

握手して下さいと手を差し出されたので状況を把握出来ぬまま、手を出してリンと握手をする。

シンヤさんって有名人なの?というサトシの言葉に曖昧に返事をしてツバキの姿を探した。外には居ない、ポケモンセンターの中に居るのだろうか…。

 

「おい、ミロ…」

「なんと美しい!!この世の美しいという言葉は貴女の為にあったのですねお姉さん!!自分はタケシと申します、以後お見知りおきを…」

「……」

 

ミロカロスの手を握ったタケシ。

白い歯を見せて笑うタケシをミロカロスは無表情で見下ろしていた…。

 

「タケシ…」

「はッ!?もしかしてシンヤさんの恋人…!?」

「タケシ…、あのな…」

 

美男美女って奴ね、はーいアンタは邪魔だからさっさと離れてー、とカスミに耳を引っ張られてタケシがミロカロスから引き離された。

口を尖らせたままミロカロスが私の隣へとやって来る。

お姉さんじゃなくて、お兄さんなんだと…教えてやりたかったんだけどな…。

カスミに引っ張られて行ったタケシを見送って小さく溜息を吐いた。

 

「なあなあ、シンヤ…この結晶…綺麗なのに消しちゃうのか?」

「ん?ああ、当然だろ」

「そっかー…」

 

*

 

「シンヤさーん…大変な事になっちゃいましたねー…」

 

肩を落としたツバキ。

そうだな、と返しつつ外のテラスに座っているサトシ達の方に視線をやる。

ミロカロスの奴がハナコさんに誘われて向こうに座っているんだが…大丈夫なのだろうか…。

 

「シュリー博士の娘さんがお屋敷に取り残されてるんですけど、どうにもこの現象はアンノーンの仕業らしんですよ」

「なんでだ?」

「ジョンさんが、あ、シュリー博士の助手の人なんですけど。この結晶化が広がる前に屋敷内でシュリー博士の娘さん、ミーちゃんとアンノーンが一緒に居る所を見てるんです」

「…そのシュリー博士は?」

「遺跡に行ってから行方不明です、遺跡からは一緒に行ったジョンさんだけが帰って来たんですよ」

 

さっぱり、だ。

と、言いたい所だがシュリー博士はアンノーンに何処かへ連れて行かれた可能性も無くは無い。私もアンノーンに連れ去られた経験があるし、行方不明扱いにもされたしな…。

それでも娘のミーちゃんとやらがアンノーンと一緒に居るというのが疑問だ。

何かアンノーンを呼び寄せるような原因があったのかもしれない。はたまた、遺跡から一人戻ったという助手のジョンさんが何かをしたのか……。

どちらにせよ、アンノーンの一匹でも目撃出来れば捕まえて話を聞けるんだがな……。

アンノーンは数が多いから私の知り合い…と言っては変だが、知っているアンノーンでは無い可能性の方が高いだろう。多分、シンオウ地方に生息しているアンノーンは私の事を知っているのかもしれない。

私をここに連れて来たのも多分、シンオウに生息するアンノーンだと思うし…。見分けは全くつかないが…。

シュリー博士の残した遺跡調査のメールを見ながら首を傾げる。うーん、さっぱりだ…。いや、アンノーン自体はアルファベットだから読めない事は無いんだが…この原因に至る理由がさっぱり分からない。

ツバキと話をしていると突然、ピカチュウの声が聞こえた。威嚇するその言葉に私とツバキはテラスの方へと視線をやる。

外へと出ればそこにはエンテイが居た。

おぉお!!と若干喜びの混じった声を横に居たツバキがあげる。

あれは確かにエンテイの姿をしているが、私の知っているエンテイではない……。

 

「別に世界に一匹というわけじゃないだろうしな…」

「なんてー!?」

 

ツバキにこんな時に何考え込んでるんですか!と盛大に怒鳴られた。

真面目に考えてるんだ私は!と言い返した所でミロカロスが悲鳴染みた声で私の名前を呼んだ。

 

「シンヤッ…!」

「なん、」

 

グラリと倒れたミロカロスがエンテイの背に乗る。すでにそこにはハナコさんも乗っていたが折り重なるように二人はエンテイの背に乗った。

 

「は!?」

「ちょちょちょ、ハナコさんが!!ミロちゃんがぁあああ!!!」

 

ハナコさんとミロカロスを乗せたエンテイがシュリー博士の屋敷へと戻って行く。

エンテイの尻尾にピカチュウがしがみついているのが見えて、呆然と眺めてしまっていた私は慌ててエンテイの後をサトシ達と共に追いかけた。

 

「見ろ!!エンテイが触れた足跡の部分だけ結晶化してるぞ!!」

「冷静に分析してる場合ですかシンヤさんコノヤロー!!」

 

エンテイがピカチュウを地面に叩き落とした後、エンテイはそのまま結晶の上を駆けながら屋敷へと戻って行った。

結晶に阻まれて追いかけられなかったサトシが地面に崩れ落ちる。

 

「なんで…!!なんでママが!!」

 

なんでミロカロスまで連れて行ったんだ…。

それにエンテイが触れた部分だけが結晶化している所を見ると、あのエンテイ自体が結晶化の原因だとも思える。

 

「ミロちゃんがぁああ!!!シンヤさんミロちゃんが!!ちょ、シンヤさん!?シンヤさーん!!!」

「あのエンテイ…」

「冷静に考えてる場合ですかってんだ!ちくしょーめーぃ!!ミロちゃんまで連れてかれちゃいましたよ!?」

「まあ、ミロカ…いや、ミロは大丈夫だろ…」

 

薄情者!!冷血漢!!と罵られているが…ツバキはミロカロスがポケモンなのを忘れてないか…?

相手がエンテイで炎タイプのポケモンなら、ミロカロスは負けないだろうが…。いや、本当にエンテイだったら、の場合だな……。

それに連れて行かれたのもサトシ達が周りに居た事でポケモンに戻れなかったからだ、連れて行かれて周りに人が居なければいくらでも戦える……。

あ、ハナコさんも一緒だったか。

 

夕暮れになって結晶化がドンドンと進む。

その光景を高みからぼんやりと見物していたらツバキに声を掛けられた。

 

「シンヤさん!!」

「なんだ?」

「オーキド博士が言ってたんですけど、今回の怪現象はエンテイとアンノーンが大きく関わってるそうです!」

「そんなこと言われなくても分かってる」

 

教えてあげたのに!!と怒っているツバキを無視してシュリー博士の屋敷へと視線を向けた。

エンテイ…、あれがエンテイだとはどうにも納得がいかない……。

私の知っているエンテイは人間を連れ去ったりするような奴ではない、あの三体の中でもまとめ役のようなしっかりとした考えを持っている奴だったと思う。

それに、人前に現れる事を良いとは思ってはいないだろう。自分達という存在がどう人々に混乱を招くかもちゃんと理解している奴だ。

そのエンテイと同じ、別個体のエンテイというならこうして人前に姿を現して人間を攫う真似なんてしないだろう…。

 

「シンヤさん?」

「あれは、エンテイじゃない…」

「エンテイじゃなかったら何だって言うんですか?」

「知らん!!私に聞くな!!」

「逆ギレー!?そんなイライラしないで下さいよ、もー!!!」

 

すっかり月も昇った頃、結晶を撤去する為にブルドーザーが突き進む。

離れた所から眺めていたが結晶はブルドーザーを拒み、更に結晶化を広げただけに終わった。

ポケモンセンターに戻ってオーキド博士の所へと行けばツバキと視線が合った。

 

「シュリー博士の失踪から、この謎の結晶化現象…。そしてエンテイの出現。全ての謎の発端はアンノーンです…」

「それしか考えられんなぁ…」

 

確かにその通りだ。

アンノーン自体よく分からないポケモンだがアンノーンだけでここまで行動を起こせるものなのか疑問も出てくる。

視線を落とした所でパソコンからの突然の音に視線をあげた。

 

「ん?メールじゃ!」

 

オーキド博士がパソコンの画面にメールを開く。

開かれたメールには少女の姿が映し出された。

 

『パパとママが帰って来てミーは嬉しいの!このままがいい!誰も入って来ないで!!』

 

そう言ってメールの再生が終わったのか画面から少女の姿は消えた。

 

「ミーちゃん!」

「メールを送って来たという事は無事らしいの…」

「でも、変よ。この子のパパって行方不明なんでしょ?」

 

カスミの言葉に助手のジョンさんが頷いた。

 

「それにママって…」

「謎じゃ…」

 

部屋がシーンと静かになる。

サトシが黙ったまま部屋を出て行った。それを見てカスミとタケシもお互いに視線をやってから部屋を出て行く。

三人が出て行った後にリンも部屋を出て行った所でツバキが「あー!!もー!!」と癇癪を起したように声をあげた。

 

「わからーん!!」

「そうでもない」

「え!?」

「この結晶を作って誰も入れないようにしているのがミーという少女なのは分かったじゃないか」

「なんで!?」

「このままがいい、誰も入って来ないで」

 

私がさきほどのメールの言葉を言えば「あ!」とツバキが声をあげる。

 

「なるほど…そう考えると確かにそうじゃ…だが、どうやって…?」

「アンノーンの力以外に何があるって言うんですか」

「アンノーンの力だとしてもミーちゃんとアンノーンにどういう関係があるんですか!?」

 

声をあげたジョンさんの言葉に私は眉間に皺を寄せる。

確かにそれは分からない、何かしらのきっかけがあってミーという少女とアンノーンが協力関係になったとしか分からない。

 

「遺跡から…お前が連れて来たんじゃないのか?アンノーンを」

「ボク、が?」

「シンヤさん!それは何でも考え過ぎですって!!」

 

ツバキに怒鳴られて私はジョンさんから視線を外した。

でも、ジョンさんは思い出したように「あ」と声を漏らす。

 

「遺跡にあった古代文字の彫られたパズルのような物を、屋敷に持ち帰りました…」

「……」

「なんですとぉおお!?欲しいっ!!超欲しい!!」

 

ゴツンとツバキに拳骨を落として溜息を吐く。

オーキド博士と視線が合えばオーキド博士が小さく頷いた。

この怪現象はアンノーンの力を使ってミーという少女が起こした事なんだろう。

でも、何故…ミロカロスとハナコさんを連れて行った。何の為に連れて行った。

 

「うーん、しかし…パパとママが帰って来たって言うのはどういう事なんでしょう?」

 

ツバキが腕を組んで首を傾げる。

 

「ママは…、まあ、ハナコさんとしてー…」

「…え?」

「え?な、なんですか?」

 

視線を向けられたツバキが気まずそうに視線を泳がせる。

ママがハナコさん?だから連れて行ったのか…?帰って来たって言うのはそういう事なのか…?

なら、ミロカロスがパパか?でもアイツはどちらかと言うなら女っぽいからママの方が……。

もしかして、

 

「エンテイか…」

「何が!?」

「エンテイがパパだ、多分な」

「パパ、ごつくない!?」

 

そうなら一応、辻褄は合う。

でも、納得がいかない。

なんで、ミロカロスまで連れて行ったんだ…!!

 

「あれ…でも、じゃあミロちゃんは何で連れて行かれたんだろ?」

「私が聞きたいッ!!!」

「ぎゃあああ!!!そんな怒んなくてもぉおお!!」

 

*

 

「ツバキ、お前なんとかオーキド博士と喋るなりして時間を稼げ」

「え?何処行くんですか?まだアンノーンをどうするか話し合ってる途中ですよ?」

「ちょっと乗り込んで直接本体を叩いて来る」

「ぶっ!!」

 

カイリューの背に乗って空を飛んでいると前方にニャースの気球を見つけた。

下からこっそりと近付いて見ればロケット団だ。良いなニャース気球…今度、機会があったら乗せてくれ。

 

「アイツら御苦労なこったニャー」

「我ら宇宙を目指すロケット団」

「下が駄目なら上から行くのだ」

「目指すはあのお城のお宝よ~」

「「「いい感じー!!」」」

 

お宝なんてあるのか?

何か勘違いをしているんじゃないかと思いつつも声を掛けずにこっそり気球の後ろを付いて行く。

すると屋敷の天辺からエンテイが飛び出してきた。

絶対に攻撃される、絶対に撃ち落とされる、ここに居たら絶対に巻き込まれる!!

カイリューに指示を出しゆっくりと下降する、下降した所でエンテイからの攻撃が放たれた。

穴の開けられた気球は空気の抜ける音と共に下降して私の前方にある屋敷の壁へと激突した。壁と言っても結晶化しているが……。

大きな破壊音と共に開けられた壁の穴がみるみる塞がっていくのを見てその隙間にカイリューと共に滑り込む。。

カイリューの尻尾すれすれで壁の穴は塞がってしまった。

 

「行き成りなんて酷いじゃないかー!!」

「とにかく潜入成功ニャ」

「でも、何よココ!」

「お宝なんてありそうに無いぞ?」

「大体お宝なんて肌身離さず身に付けておく物よ!」

「だったらお宝はあっちの塔ニャ」

「…あっちの塔に行くならば?」

 

ロケット団が揃って下を見下ろした。

 

「降りて昇って行くっきゃニャい」

「降りて昇って行くったって…」

「エレベーター無いのー…?」

「そんな物あるわけないニャ!!」

 

溜息を吐いた三人を見てからカイリューと顔を見合わせる。

上から眺めていたのだが三人は全く気付いてないな…、正しくは二人と一匹だが……。

 

「悪いが先に行かせてもらうぞ」

「「「あ!!」」」

 

ロケット団の横を通って下降する。

 

「ちょっと待ったぁああ!!」

「エレベーターが居たじゃないのよ!!」

「乗せてけニャー!!」

「重量オーバーは確認済みだろ」

「「「あー…」」」

 

久しぶりに会ったのに冷たくない?とコジロウに言われたが知らん。私は今急いでるんだ。

 

「お前達なら大丈夫だ、頑張れよ」

「レディーだけでも乗せてって!!」

「あ!ずるいぞ、ムサシ!!」

「軽いニャーだけ乗せてって欲しいニャ!!」

「ニャースまでぇ!!」

「うるさいぞ!!!」

 

*

 

「誰だったー?」

「いや、お前と私たちだけだよ」

 

安心したように笑ったミーがハナコと顔を見合わせる。

パソコンに映るテレビ映像を見ながらミーは笑った。

 

「見て、私たちの家が映ってる。綺麗ね、ミロちゃん」

「…うん、綺麗」

 

ハナコとミロカロスの間に座るミーは隣に座っているミロカロスの手を握った。

テレビ映像には水路を利用して屋敷内へと侵入しようとするサトシの姿が映し出されていた。

 

「誰かがミーたちの家に入って来ようとしてるみたい…」

 

不安げに声を漏らしたミーの隣でテレビの映像を見るハナコの表情が曇る。

自分の息子の名前を小さく漏らした時、水路を昇っていたサトシが足を滑らせた。

 

「ッ!?危ないじゃないそんな事して!!」

「なに?ママ?」

「ぃ、いえ…」

 

息子の危機を目の当たりにして正気に戻ったハナコは今の状況に混乱しながらも返事を返す。

知り合いの少女ミー、その傍に居るエンテイに、虚ろな目をしたままテレビを眺めているミロカロス…。

ハナコの様子に特に疑問も持たぬままミーはテレビの映像へと視線を戻す。

 

「あの背中に居るのピカチュウよね!あー!!フシギダネとチコリータも居るー!!ママ、あのお兄ちゃんポケモントレーナーなのかな?」

「え、ええ…」

「他にも色んなポケモン持ってるのかな?ね、パパ」

「…パパ?」

 

エンテイに視線をやったミーがエンテイをパパと呼んだ事に眉を顰めたハナコはこの状況を把握しようと考えを巡らせた。

 

*

 

水路を昇りきったサトシ達が歩いていると、サトシのポケットに入っていたリンに借りたポケギアが不意に着信を告げる。

 

<「大丈夫?みんな?」>

「リンさん」

<「サトシ!!テレビに映っておったぞ!!」>

 

オーキド博士の怒鳴り声にサトシ達は「あー…」と声を漏らす。

 

「ごめんなさい、オーキド博士…でも、オレ…」

<「そこまで行ったらもう戻れとは言わん。ママを助けて帰って来るんじゃぞ!」>

「はい!」

 

サトシが元気に返事を返す。

その会話に助手であるジョンが声を掛けた。

 

<「サトシくん、ジョンです。アンノーンは見ましたか?」>

「いえ、まだ」

 

サトシの返事にオーキド博士がそうか…と声を漏らした。

 

<「シュリー博士の研究ファイルによるとアンノーンは他の生物の意識を察知する能力があるらしい」>

「どういう事?」

<「人間の心を感じ取りそれを形にするんじゃ」>

「心を感じ取る…?」

<「アンノーンはミーちゃんの心に反応しているものと思う。あの結晶塔は彼女の心に反応したアンノーンが創り上げたに違いない」>

 

オーキド博士がそう言い終わった所でポケギアをツバキがもぎ取った。

 

<「サトシくん!!」>

「あ、ツバキさん!」

<「大丈夫、シンヤさんも結晶塔に行ったから!!」>

「え、シンヤさんも!?」

 

なんじゃと!?とポケギア越しの向こうでオーキド博士が声を荒げたがツバキはオーキド博士を無視した。

 

<「シンヤさんはアンノーンを直接叩くって言ってたけど、何かあったらすぐにシンヤさんに言って助けてもらってね!!」>

「分かりました!!」

 

*

 

「っくー!!開かねぇ…!!」

「どけ、蹴破る!!」

 

結晶に覆われて固く閉ざされた扉を蹴破れば扉が勢いよく開いた。

結局、置いてくな置いてくなとうるさいロケット団を乗せてカイリューが飛んだんだが、ぐったりと疲れたカイリューは暫く休ませてやった方が良いだろう。こんな事ならツバキからトゲキッスを返して貰っておけば良かったな。

 

「やっと下に着いたと思ったら…」

「あれってポケモン?」

「分からないものには近付かない方が良いニャ」

「……」

 

アンノーンが飛び交っている。

まさに、の場所に辿り付いてラッキーだ。歌うように部屋の中央を陣取るアンノーンを見上げる。

 

「ああ…だけどここを通り抜けないとあっちの塔には行けないよ…」

「となったらこっそり行くっきゃない」

 

抜き足差し足忍び足…と歩いて行くロケット団。

それをぼんやりと見ているとコジロウが「早く来い!」と手招きをした。

 

「勝手に行け」

 

アンノーンに近付いて手を伸ばす。

私に気付いたアンノーンの一匹が手の上に乗った。ぐりっとした目と視線が合う。

 

「お前、私の事を知ってるアンノーンか」

「ノーン」

 

返事は肯定、だが鳴き声だけだと否定みたいに感じる……。

アルファベットの"O"を手に乗せたまま未だに歌うように鳴き声をあげながら飛び交うアンノーンを見上げた。

 

「ミーの心に反応するのをやめろ」

「ノーン」

 

今のは否定。

というより、無理だと返された。

全てはミーという少女の心のまま、すでに自分達だけでは止められないくらい力を使ってしまっているのだろうか。

 

「ミロカロスを、返せ」

「ノーン」

 

否定。

ぐわし、とアンノーンを両手で鷲掴みにした所でコジロウが私の腕を引いた。

 

「何やってんだよ!!早く来いってば!!」

「うるさい!」

「良いから!!」

 

コジロウに無理やり腕を引っ張られて走る。

私の胸より少し上…、まるで大きなブローチのように納まったアンノーンを少し睨んでからムサシとニャースを追いかけた。

 

「それ持ってくのか!?だ、大丈夫なのかよぉ!!」

「大丈夫だ!!」

 

*

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