一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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ジョウト地方、アサギシティ近辺にある家。ブリーダーのシンヤの自宅。

家に帰って来たというのにエーフィはまだグリーンフィールドに未練があるらしい。溜息を吐いてはまだ滞在していたかったと零している……。

カントー地方の家にライチュウとゴーストを送ってミミロップとサマヨールが戻って来たがミロカロスとミミロップが喧嘩をするせいで家の中はいつもうるさい。

そしてグリーンフィールドで別れた時にツバキにカイリューを預け、トゲキッスを受け取った為……。

今、家には人の姿をしたポケモンで溢れ返っているわけだ…。

ポケモンの姿の方が良い…。

うるさいし、うるさいし、うるさいし、うるさいし…もう、うるさいくらいしか理由が無い…。

 

「バカー!!」

「バカにバカって言われたくねぇよ、このバカ!!」

「バカって言う方がバカなんだからミミロップもバカだ!!バカー!!」

 

なんて低レベルな争いなんだ…。

溜息を吐いて私が立ち上がれば傍から傍観していたサマヨールも一緒に立ち上がった。

 

「うるさい」

「ぅぐッ…!!」

 

ミロカロスの口を片手で押さえればミミロップが指を差してゲラゲラと笑った。そのミミロップの口をサマヨールが後ろから両手で塞ぐ。

 

「んーッ!!!」

「やれやれ……」

 

暴れるミミロップをそのまま連れて行くサマヨール。アイツも暫く見ない間に苦労性になったようだ…。

以前とは違う連中の変化を見つけながら私は小さく溜息を吐いた。

 

「お前達はどうしてそう喧嘩するんだ」

「…ぷはっ、ミミロップ嫌いっ!!」

 

ミミロップに聞いても同じことを言われそうだ。

しかし、喧嘩するほど仲が良いという言葉もあるが…実は仲が良いなんて事は無いのだろうか…。喧嘩と言っても口喧嘩で、ほぼ一方的にミロカロスが負けてるみたいだけどな。

ミロカロスの頬を摘まんでやればミロカロスは頬を膨らませた。あ、摘まみにくい。

後ろから抱きこむようにミロカロスの首に腕を回した私はミロカロスを見下ろす。上目がちに私を見上げるミロカロスは何処か不満気だ。

 

「喧嘩ばっかりするお前たちなんて嫌いだ」

「ガーン!!!」

 

口で言うな、口で。

腕を離してやればその場でショック…と言いながらミロカロスが床に膝を付いた。

膝を付くミロカロスを放置して、ソファに座り今日の新聞を手に取った。

 

「ウバメの森でセレビィ目撃…」

 

珍しいポケモンは見つかる度に大騒ぎされて大変だな……。なんて、わりとその珍しいポケモンと面識のある私が言う事じゃないか……。

新聞を捲って次の記事に目を通す。

ご丁寧にもカラー写真、名前と年齢まで公表されているその姿に新聞をぐしゃりと握り潰した。

 

「なになに?」

「……」

 

ソファに座る私の背後から抱き付いてきたミロカロスが新聞を覗き込む。

ぐしゃぐしゃに皺の寄った記事を見て私の手から新聞を引っ手繰った。

 

「シンヤだ!!シンヤが載ってる!!」

「グリーンフィールドに居た時のものが記事になったみたいだな…」

「切り取って置いとこっ!!」

「…やめろ」

 

皺だらけの新聞を片手に持ってミロカロスがはさみを取りに何処かへ行った。

それにしても…何処へ言っても騒がれるのは私も一緒か…。いや、私じゃない…私じゃないシンヤ達が悪いんだ…私じゃない…。

 

「ミロカロスー、何してんの?」

「見ろ!!シンヤが載ってる!!」

「新聞に?別に珍しくないじゃん、雑誌にもいっぱい載ってるしさー」

「違うって!!俺様のシンヤが載ったのは初めてだろ!!」

「ああ、帰って来たオレ達のシンヤがね」

「俺様の!」

「オレ達の!」

 

そんな言い争いどうでもいいぞ…。

はさみ片手のミロカロスからブラッキーが新聞を奪うと新聞の記事へと視線を落とした。

 

「えーっと…、ポケモントレーナーからコーディネーターへと転身し、そこからブリーダーになったと噂されていたシンヤさん(25)がポケモンドクターとして現在活躍していると判明。数々の経験を活かしポケモンを救う立場へとなった美しき新星シンヤ、数多のファンも彼の活躍を知り喜びを隠しきれない事でしょう」

 

文章を読み終えたブラッキーがアハハと笑う。

ブラッキーから新聞を奪い返したミロカロスが新聞の記事を切り抜き始めた。

 

「有名人って大変だな!」

「…」

 

な!と誰に同意を求めているのか…。

バッチリ視線が合ったが私は目を瞑り、聞こえないフリをした。

 

「ご主人様ー!!」

 

ブラッキーの頬を両手で引っ張っているとチルットが珍しくバタバタと大きな足音を立てて走って来た。

何だ何だ、と周りに居た連中も目を丸くしてチルットに視線をやる。

 

「お客様です!!」

「…客だからってそんなに慌てなくても良いんじゃないか?」

「ご主人様もびっくりしますよ!!お通し致しますね!!」

 

来た道をバタバタとまた走って行ったチルット。

キョトンとした表情のブラッキーと顔を見合わせて首を傾げた。

少ししてチルットがリビングの扉を開けて客を部屋へと招き入れると「あ!」という声が周りから発せられた。

 

「シンヤ」

「スイクンか!!」

「久しぶり…」

 

ニコリと笑ったスイクンに駆け寄ればぎゅっと抱きしめられた。

相変わらず美人だな、と思いつつ抱きしめ返すと横からミロカロスに邪魔された。

 

「だぁあああ!!!」

「「……」」

「何しに来たお前ー!!」

 

ビシッとスイクンを指差したミロカロス。指を差されたスイクンはキョトンとした表情をしたもののすぐに笑みを浮かべた。

 

「アンノーンが教えてくれたから、会いに来た…」

 

あの時のアルファベット"O"のアンノーン……。

随分と長い間、待ってた…と寂しげにスイクンが言葉を漏らす。その長い間ってどれくらいなんだろうか…。

反発するように俺様もすっげぇ待ったもん!!とミロカロスが噛みついているが…、伝説と称されるポケモンは長生きらしいしな。

 

「今日、シンヤに会いに行くって言ったら、一緒に行くと聞かなくて連れて来たんだ」

「誰をだ?」

 

エンテイか、ライコウか?それともアンノーンか?

スイクンがリビングにある窓を開けた。何をしてるんだと黙って見守っていると窓からぬいぐるみのようなポケモンが入って来た。

 

「…それは」

「セレビィ」

「ビィー」

 

ウバメの森で目撃されて大騒ぎされたのにまだこの辺に居たのか…捕まっても知らんぞ…。

 

「なんだ、らっきょみたいな頭して」

「ビ!?」

 

抱きかかえれば凄く軽い。本当にぬいぐるみだな。

珍しいポケモンが珍しいポケモンを紹介して来たんだが……、なんにも感動も嬉しさも無いもんなんだな…私だけか。

 

「ビィーレビビィー!!」

「は?」

「レビィ!!」

 

良い所に連れて行ってくれるそうだ…。

凄く心から、遠慮したい。

 

「お出掛け!?やったー!!」

「行くなんて言ってないぞ!」

「オレ、外に居るエーフィ呼んでくるー!!」

「では、チルがお弁当をご用意致します!」

「行くなんて一言も…!!」

 

言ってないのに、なんで行く気満々なんだお前ら!!

溜息を吐けばスイクンがクスクスと笑う。

トゲキッスがボールをテーブルに並べた…。行くなんて言ってないのに…。

 

「レビィ、ビィー!!」

「……」

 

お気に入りの場所に久しぶりに行く、と言われてもな。

出掛ける用意をする連中を眺めながら溜息を吐いた。

 

「荷物良し、医療道具もバッチリ、後は弁当と、ワタシ達がボールに入ればオッケー!!」

「先程まで不満を垂れていたわりには元気なのだな…」

「ふーんだ」

 

サマヨールに呆れたような目で見られたミミロップはそっぽを向いて誤魔化した。

 

「シンヤ…、私も一緒に行くから」

「…まあ、スイクンも一緒なら仕方がないな」

 

なんでだよ!!とミロカロスが私に飛びついて来たが気にしない。

 

「エーフィ連れて来たけどー、留守番って誰?」

「「「「……」」」」

 

睨み合う連中は本当に子供だ…。

結局、チルットとラルトスが残ってくれる事になった。

 

「いってらっしゃいませ、ご主人様!お気を付けて!!」

「ラルー!!」

 

*


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