「レビィー!!」
「痛ッ!!」
ドシンと地面にしりもちを付いた。
セレビィに良い所に連れて行ってあげると言われて外に出たら急に辺り一面を眩い光が包んだ。
道案内じゃなく強制的に連れて行かれるのか…。
立ち上がれば上空に光の歪みがある。その光の中から出て来た足を見て慌てて手を伸ばした。
「ぉっと…」
「ありがとうシンヤ」
落ちて来たスイクンを受け止めて地面に下ろす。辺りを見渡せば昼間だったはずなのに辺りは暗い。
「何時だ?」
「さあ…でも、夜明け前みたいだ…」
何となく分かるらしい、スイクンが空を眺めながらそう言ったので頷いておく。
しかし、ここは一体何処なのか…見慣れない建物もある。
「レビィ!レビィー!!」
「……」
とりあえずセレビィの道案内に任せよう。それから場所を確認しても良いだろうしな……。
空中を飛び回るセレビィを見失わないように歩いているとスイクンの行った通り夜明け前だったらしく、ゆっくりと日が出て来た。
「自然の多い綺麗な街だな」
「水も綺麗…」
人もちらほらと見えてきた。
飛び回るセレビィはまだつぼみの花を咲かせながらくるくると飛びまわっている。街に住むポケモン達もセレビィに挨拶を返していた。
確かにセレビィの言っていた通り、良い所だと思う……。
「おっはーっでございまーす!」
「あら、おはよう」
ツインテールの女が花に水をやる女性に声を掛けた。モジャンボも一緒に居るな。
「テンガンファイターズ、絶対優勝します!!イェイ!!」
水やりをする女性に一方的に話しかける女。
その女の背負っていたリュックから旗が数本飛び出した。
何かのチームを応援しているんだろう、テンガンファイターズと言われてもピンと来ないが…しかし、奇抜だ…。
「磁力の力みなぎって~、行くぞテンガンファイターズー!!」
「盛り上がってること」
急に歌い出した女は話もそこそこに走って行ってしまう。
その姿を苦笑いを浮かべながらも見送る女性。
女の様子を一緒に観察していたスイクンと顔を見合わせて笑った。
「レビィ~!!」
セレビィが女性の前を過って行くと女性が水をやっていたつぼみの花が咲く。
驚きの声を漏らした女性はホースをしまい自転車付きのリヤカーに飛び乗った。後ろの荷台にモジャンボを乗せて行ったがボールに戻した方が軽いだろうに……。
「げ、元気だな…」
私の言葉に同意するようにクスクスとスイクンが笑う。
でも、ああして草花に水をやって回る人間が居るなんて良い街だな。
「シンヤ、あれ」
「ん?」
スイクンの指差した先を見ればセレビィの像があった。
セレビィのお気に入りの場所だと言っていたし、昔から街の象徴として祀られていたのかもしれない。
しかし、尚更、ここは何処なんだ……。セレビィが関わる森というわけでも無いし…ジョウト地方にこんな街はあっただろうか……。
辺りを見渡しながら歩いていると時計塔の鐘が鳴った、午前7時だ。
「シンヤ、街名が書いてある」
「クラウンシティ…?」
はて、と記憶を辿る。
ジョウト地方にそんな街は無いぞ……。
「ポケモン・バッカーズのワールドカップが、このクラウンシティで行われるって…」
「ポケモン・バッカーズ…聞いたことの無いスポーツだな」
壁に貼られたポスターを見て首を傾げた。
スポーツには元々興味は無いが知識くらいならあると思う。それもワールドカップなんて大きな規模でやっているなら尚更テレビなどで見ていても可笑しくないだろう。
ここは違う地方、なのか…?
いや、そうだとしてもスポーツ自体を知らないのは変だし…。
ポスターを見てから辺りを見渡しながら歩いてみる。
ポケモン・バッカーズとやらのパンフレットみたいな物を何処かで貰えないのだろうか…、そのスポーツに関する本とかも売ってたら調べられるんだけどな
「…ッ、シンヤ!!」
「なんだ?」
スイクンに腕を引かれた時、微かにドドドと聞き慣れない音が聞こえて眉を寄せた。
「ん?」
前方からスイクンが走って来る……。
少し混乱しながらも隣を見れば勿論、人の姿をしたスイクンが居る…。
エンテイの時みたいな偽物というとあれだがそういった類のスイクンなのか、はたまた複数いる内の私の知らない別個体のスイクンなのか。
「お前の仲間か?」
「偽物ッ!!」
そう言い放ったスイクンに腕を引かれて歩いて来た道を戻るように走り出す。走る私達の隣を偽物らしいスイクンが通り過ぎた。
なんで走らされてるんだろう、と思ったのと同時にドドドという聞き慣れない音が大きくなった気がして後方を振り返った。
…見事な大洪水。
「、なぁああああ!?!?もっと速く走れ!!!」
「そこの屋根の上に!!」
スイクンの言葉に地面を蹴って屋根を伝い避難した。さっきまで歩いていた道を大量の水が流れて行く…。
びっくりした…。
でも、普段なら絶対に出ないような悲鳴が出た自分の方にもびっくりした。
「しかしお前…、あんなこと出来るんだな…」
「まあ…」
で、さっきの偽物のスイクンは何だ?と水浸しの道を指差して目で聞いてみればスイクンは首を横に振った。
ハッとした様に顔を上げたスイクンの視線を辿れば少し離れた場所で火柱が立っている。
「綺麗な街が大騒ぎだな」
「あれはエンテイの炎に似ている…でも、違う…」
「お前達の偽物が暴れ回ってるってことか」
屋根を伝いながら移動していると街の至る所にある液晶画面に映像が映った。
液晶画面の前に人々が集まり出す。
私とスイクンも屋根の上から地面に降りて周りの人々と同じように画面を見上げた。
< クラウンシティの皆様、突然ですがコーダイ・ネットワークから重大なお知らせがあります。グリングス・コーダイ社長です >
コーダイ・ネットワーク…なんか聞いた事あるな。グリングス・コーダイという名前も少し覚えがある。
画面の映像にはスーツを着た男が映った、変なスーツだ。
< この場を借りて皆様に謝らなければならない事があります。私がポケモンバッカーの為に連れて来たエンテイ・ライコウ・スイクンが飛行艇に潜り込んでいた悪のポケモン、ゾロアークに操られ暴れています >
ゾロアーク?
聞いたことのないポケモンだな…。
それにポケモンバッカーというのはポスターに書いてたスポーツのことだろ…?
連れて来たエンテイ、ライコウ、スイクンが操られたと言ってるが…、さっき通り過ぎたスイクンは偽物だとスイクン本人が言っているし…。
一体、どういう事なんだ?
< 皆様を危険にさらしてしまい本当に申し訳ございません。現在、我々の手で捕獲・回収中です。皆様はただちに街の外に避難して下さい >
グリングス・コーダイの言葉に画面を見上げていた人々が悲鳴をあげて逃げ出した。
すると、画面の前には私とスイクンの他に見知った二人と一匹…。お互いの顔を見て何か気持ち悪い笑みを浮かべている。
「お前達…」
「げ、シンヤ!?」
「あらー、アンタも居たのね…」
「久しぶりだニャ」
あからさまに嫌そうな顔しやがって…。
というか、久しぶりか?グリーンフィールドで別れてからそんなに日は経ってないと思うぞ…。いや、一週間くらいは久しぶりになるのか…?
「街の外に避難しろと言ってるが、避難しないのか?」
「あー、するする!!」
「そうそう、アタシ達は別ルートで!!」
「いやー、ここに居るのは怖いニャー」
怪しい…。
じとっとロケット団を見ているとスイクンに腕を引かれた。
「シンヤ…」
「ああ、そうだな、私達も移動するか」
「…お前、よく美人連れてるよなー。羨ましいぜ…」
「はぁ?コジロウ…アンタ、いつもとびっきりの美人と一緒のくせして何言ってんのよ!!」
「美人?何処に?」
「怖いニャ」
いだだだだ、と悲鳴染みた声をあげながらコジロウがムサシに引っ張られて行った。
人混みとは別の方向に行ってしまったが良いのだろうか…まあ、ロケット団なら大丈夫だとは思うけど…タフだしな。
「色々と気になる…、こっそり残って様子を見よう…」
「避難しないのか」
走るスイクンの後を追って近くの店内に隠れた。
途中、街の液晶画面にクラウンシティ旧市街が封鎖され、今から旧市街に入る事は出来ないという事を知らせる映像が流れていた。
まさにここがその封鎖された旧市街で封鎖された今、出る事も出来ないんだろうなと思いつつも言葉を飲み込んだ。
< ゾロアークは悪のポケモンです、とても危険です。我々の捕獲・回収作業が完了するまで旧市街に入らないで下さい >
店内に隠れながら外の様子を窺う。
あんな事言ってますけど、とスイクンに避難を促してみるが首を横に振られた。
「セレビィともはぐれたし、ここが何処かいまいち分からないし、面倒な事になった…」
店内に隠れて様子を窺って少し経つが特に変わった事は起きない。
街の液晶画面には延々と同じ事を言うグリングス・コーダイが映っているだけだ。
ボールからポケモン達を出してカバンからチルットの用意した弁当を取り出した。セレビィは居ないが野生のポケモンだしどうにでもするだろう。
「わぁーい!!ってここ何処?」
「クラウンシティという場所らしい」
「クラウンシティ…という事は、ここはシンオウ地方ですね」
エーフィの言葉にそうなのかと頷いて返す。
やっぱり別の地方に飛ばされていたらしい、帰りもちゃんと送って貰えるのか心配になって来るな…。
「お前たち、ポケモン・バッカーズというスポーツを知ってるか?」
「ポケモン・バッカーズ?知らない、何それ?どんなスポーツ?」
ブラッキーが目を輝かせながら首を傾げる。
私も知らない、と言ってやればあからさまにガッカリされてしまった。
とりあえず、ここがクラウンシティであること、ポケモン・バッカーズのワールドカップが明日開催されること、そしてゾロアークというポケモンが暴れていて、偽物のスイクン、エンテイ、ライコウが居る事を伝えた。
「それでシンヤ達はここに隠れてたってことですね」
「スイクンが気になるって言うからな」
「自分がポケモンの姿に戻って様子を見て回って来ようか…?」
「んー…そうだな、どうするスイクン?」
私が聞けば外の様子を見ていたスイクンが頷いた。
スイクンの姿じゃ外には迂闊に出られないもんな…。スイクンが頷いたのを見てサマヨールが頷き返す。
「ありがとう…、サマヨール」
「良い、気にするな」
座っていたサマヨールが立ち上がるとミミロップがサマヨールの腕を掴んだ。
「ちょい待ち!!一人で行ったら危ないじゃんか、お前も簡単に頼むんじゃねぇーよ!!」
「自分なら大丈夫だ」
「大丈夫じゃない!!」
苛立ったように床を叩いたミミロップを見てスイクンが眉を下げながら謝った。
この場が険悪な雰囲気になったのを察してトゲキッスが座ってとサマヨールをもう一度座らせる。
「よし、分かった」
「シンヤなら分かってくれると思ってたー!!」
「弁当を食べよう」
「だぁー!!違うってー!!でも賛成っ」
しゅん、と落ち込んだ様子のスイクンに手招きをして隣に座らせる。
サマヨールも気まずそうに視線を動かしていたがこういう変な雰囲気になると無視が良い。たとえ隣からミロカロスが思い切り睨んでいたとしてもだ。
「なんなんです?急に不機嫌になったりして、ミミロップの頭はどうかしてしまったんですか?」
「うっせーよ…」
「あれだろ、いつも"ワタシの味方"のサマヨールがスイクンのこと助けようとしたからイラッとしたんだぜ。ミミロップ、すぐ怒るもんな」
ブラッキーの言葉にミロカロスが「そうそうすぐ怒る」と頷きながらブラッキーの言葉に同意していた。
私が持たせたサンドイッチをぐしゃりと握り潰したミミロップがブラッキーを睨みつけている…。具のタマゴがべちゃべちゃと床に落ちた…。
「ミ、ミミロップさん落ち着いて…!!」
「…自分が悪いのか?」
サマヨールに困ったように疑問を投げかけられてしまったのでとりあえず「そうなんだろ」と返事をして頷いておいた。
「そうなのか…、すまなかったな…ミミロップ…」
「え!?いや…あの、別、に…」
どっちなんだ。
とりあえず状況をよく理解出来ない私はケラケラと笑うブラッキーの口にサンドイッチを詰めておいた。
「スイクンも食べろ」
コクンと頷いたスイクンにもサンドイッチを渡して私は紙コップにお茶を淹れた。
なんで私がこんなに気を遣わないといけないんだ…。
静かなまま昼食を食べる。
普段なら嬉しいことだが今日はどうにも居心地が悪かった。
「それで、どうするんです?」
「何がだ」
自分の分を食べ終えたらしいエーフィが首を傾げながら聞いたので私が返事を返す。
「誰が様子を見に行くんですか」
「それは自分が…」
「あ?なんて?今、なんて?」
「え…!?」
自分が行く、と言おうとしたらしいサマヨールの胸倉を掴んでミミロップが凄む。動揺するサマヨールなんて珍しいものを見た。
「トゲキッス、様子を見に行って来てくれるか?」
「はい、それは勿論!!」
コクコクとこの場の空気をなんとかしたいらしいトゲキッスが頷いた。
兎にも角にもセレビィを見つけるのが先だな。
*