一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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全然遊んでないとミロカロスが駄々を捏ねるし、セレビィの奴はいつの間にか居なくなってたし、スイクンは庭で勝手に昼寝してるし…。

チルットから聞けば、なんと出掛けて2週間も経っていると言うじゃないか…。

 

「時間と労力だけを無駄にした…」

 

*

 

風呂に入って一日休んで、朝起きればミロカロスに泣かれた。

 

「あーそーびーたーいー!!!」

 

あーそーびーたーくーなーいー…。

人の膝の上に座り込んで胸に顔を押し付けてくるミロカロスの服を引っ張ってみるが全然離れない。

チルットが用意してくれた朝食を食べながら、わんわんとうるさいミロカロスを無視した。

 

「オレも遊びたいぃいい!!」

 

ブラッキーまでミロカロスの我儘に便乗する。

結局、出掛けたとは言ってもほぼボールの中に居たから気持ちは分からないでもない。私も店内で本を読んでいただけだったし。

床を転がるブラッキーを見てチルットが「そうだ」と声を発した。

 

「近くの森にピクニックに行くのはどうでしょう?」

「ウバメの森は薄暗いから嫌ー…」

「近くにハテノ村がありますよ」

 

ハテノ村と隣接してある森か…、あの大きな川と滝がある所だな…。アサギからも大分近いし…悪くないな。

特に観光スポットもあるわけじゃないし、のんびり昼寝も出来そうだ。

 

「出掛けるか」

「行くの!?マジで!?」

 

膝の上に座っていたミロカロスが飛び上がった。

私が了承したのがそんなに意外だったのだろうか、私だって疲れてる時はのんびり昼寝でもしたいんだ。

 

「やったぁあああ!!」

「それ、スイクンも行くわけ?」

 

ミミロップの言葉に私は頷く。

綺麗な川があればスイクンも休めるし丁度良いだろ。

はしゃいでいたミロカロスが途端に静かになって床に膝を付いた。

 

「じゃあ、ワタシ行かなーい」

 

ミミロップは家に居たいらしい。床に膝を付いたミロカロスが小さくガッツポーズをする。…本当にお前たちはお互いが嫌いだな。

 

「俺も残りますから、代わりにチルットを連れて行ってあげて下さい」

「え、チルですか!?」

「ずっと家事をしてて疲れてるだろうし息抜きにね、家の事は俺が代わりにやっておくから」

「あ、ありがとうございます!!」

 

トゲキッスにペコペコと頭を下げるチルット。

良いですか?とトゲキッスに聞かれて勿論、と頷き返す。

ミミロップが行かないらしいからラルトスも連れて行ってやれるな、と思った所でサマヨールがミミロップに無理やり留守番を強いられていた。

 

「…自分も残るのか?」

「なんか文句あんのか!!」

「いや…文句は無いが…、なん…」

「シンヤー、サマヨールも留守番でー!!」

 

別に好きにしてくれて構わないけどな……。

サマヨールを黙らせたミミロップがドンと胸を叩く。

 

「シンヤはのんびりして来れば良いよ!代わりにワタシ達でポケモンフードとか作っておくからさ!」

 

それは助かるな。

2週間も経っていたらしいので作り置きもほとんど無いし、家に集まる野生ポケモン達が食べる分も無くなってしまう。

やれやれ、といった様子でサマヨールが小さく溜息を吐いた。

 

「シンヤ、出掛けるの?」

 

庭に居たスイクンが人の姿になって首を傾げた。少し眠たげな目が可愛らしい…。

 

「近くにある森にな、ピクニックだそうだ」

「近くの森は…セレビィの森だね」

 

ニコリと笑ったスイクンにへぇと相槌を打つ。

あそこセレビィの森なのか…初耳だ…。

 

「森には命の湖もあるし、良い所だよ」

 

大層な名前だな、と思いつつ頷く。

温泉みたいに効能なんてものがあるのだろうか……。

 

「行くのなら野生のポケモンに聞くと良い」

「一緒に行かないのか?」

「眠たいから…先に行って少し休んでおく…」

 

スイクンの言葉に頷けばスイクンは一瞬でポケモンの姿に戻る。

風が起こった時に目を瞑るともうすでにスイクンの姿は無かった。さすが北風の化身、速いな…。

 

「私も用意するか…」

 

カバンの中に荷物を詰める。

中身は医療道具が大半を占めていた。機材が無い分、道具の種類も多くなるのでこれがまた邪魔だ。必要ではあると思うが…。

でも、今日は良いよな。

うんうん、と一人頷いてカバンの中から医療道具を半分ほど取りだした。野生ポケモンが怪我をしていても軽傷のものばかりだ、それを考えると別に旅をして歩き回るわけじゃないのだからこんなに道具は要らないだろう。

大怪我のポケモンなんてそうそう居ないし、沢山のポケモンが一度に怪我をするなんていう事もまあ無い。

のんびりしに行くのだから、とカバンの中に読みたかった本を詰めた。

これがまた重いのだが仕方がない。

 

「シンヤとデート、シンヤとデート!」

「え、約束したのか?」

「ううん、でもする」

「えー…」

 

ウキウキとハシャぐミロカロスを見てブラッキーが眉間に皺を寄せる。

勿論、私はミロカロスに付き合うつもりはさらさら無い。今日は読書をして昼寝をする。

手を繋いで歩くんだ、と語りだしたミロカロス。そのミロカロスをブラッキーは呆れたような目で見ている。

 

「ミロカロスー…、シンヤが好きなのは分かるよ。オレもシンヤの事好きだし…。でもな!」

「うん?」

「シンヤは男だから駄目だと思う!!」

「………なんで?」

「なんで?ってシンヤも男でミロカロスも男だろ。男同士だし、シンヤは女の方が好きだろ」

 

普通に考えて、とブラッキーが言えばミロカロスは眉間に皺を寄せる。

そんな二人の会話を聞いていた私は少しだけ感心した。ブラッキーもやっぱり成長してるんだな、今も子供っぽさは残っているが発言が常識的だ。

ミロカロスも見習うと良い…お前は常識も無ければ物を知らなさ過ぎだ…。ブラッキーみたいに雑誌でも良いから世間を知ると良い。

 

「シンヤは俺様の事スキだよ!!だって俺様がシンヤの事スキだから!!」

「え、それミロカロスが思ってるだけだろ?」

「でも俺様、捨てられてないもん」

「ちょ、ちょい待ち!ミロカロスの基準どうなってんの!?」

 

首を傾げたミロカロスに合わせてブラッキーも首を傾げる。

捨てられたら嫌われてる、捨てられないって事は好かれている…とそういう事を言いたいらしいミロカロス。

ブラッキーは私の代わりに頭を抱えた。そして話を聞いてはいるが私は会話に参加するつもりは毛頭無い。

 

「じゃあ、シンヤはオレの事も好きってことじゃん!!」

「うん」

「あれ、良いのそれ!?」

「でもなでもな、シンヤの事を一番スキなのは俺様だから!!」

「……」

「な!」

「えーっと…うん、えっと…、ミロカロスってマジで馬鹿だったんだな」

「はぁああ!?」

 

ブラッキーに馬鹿と言われてミロカロスが怒った。

怒るミロカロスにごめんごめんと謝りながらもブラッキーは苦笑いを浮かべている。

ミロカロスは馬鹿というより無知。物事を知らない、世間も知らない、常識も知らない。無知って恐ろしい…。

 

「ミロカロス、恋人同士って知ってるか?」

「知ってる。スキスキ同士だろ!!」

 

今の発言は馬鹿と言われても仕方ないな…。

ミロカロスの言葉に一瞬考えるように目を瞑ったブラッキーは「うん、そうかな!」と自分を納得させていた。

 

「じゃあ、恋人同士が何するか知ってるか?」

「んー…、デート!!」

「そんで?」

「ちゅー!!」

「で?」

「…で?」

 

ん?と首を傾げる二人。

聞いてる私の方が恥ずかしくなってきた…、傍から見れば馬鹿二人の会話にしか聞こえない…。あの二人と関わりがある自分が恥ずかしい…ここが家の中で良かった…外なら私は確実に他人のフリをする…。

 

「バカヤロー!!恋人同士っていうと大事な事がまだあるだろうが!!」

「何々!?」

「交尾!!」

「こーび!!!…って何!?」

 

ガクンとブラッキーがその場で崩れ落ちた。

いや、っていうか…ちょっと、その話をもっと詳しく話してくれないだろうか…。

ポケモンもやっぱり交配を行うのか!?タマゴが見つかる経緯がこんなくだらない状況で判明するのか!?ツバキが泣いて喜びそうな話題だぞ…!!

 

「恋人同士で大事なこと」

「そうなの!?じゃあ、俺様もシンヤとこーびする!!」

 

嫌だ。

 

「それが男同士じゃ出来ないんだぜ!」

「えぇぇええ!?!?」

 

…いや、出来ない事は…、………まあ良いか…。

 

「だからな、ポケモンのメスを好きになった方が良いって」

「ヤダー!!シンヤが良いー!!」

「っていうか、もっとそれ以前の事言ったらさ。なんでポケモンなのに人間スキになってんの?って感じなんだけど」

「シンヤはシンヤ!!」

「そんなのじゃ通じませんー。絶対にミロカロス仲間のメスとか探した方が良いって!!」

「絶対にイヤー!!!」

「気持ち良い事出来ないぞ!!」

「…それってどんなの?」

 

ぐすぐすと泣きながらミロカロスがブラッキーを見つめた。ブラッキーは少し考えてからニヤリと笑う。

あのな、と呟いたブラッキーの声は凄く小さい…!!

ちょっと待て、さっきまでと同じ声量で話せ、聞こえないじゃないか!!ポケモンの謎が一つ解明されるチャンスが…!!

 

「ブラッキー…」

「「…」」

 

ミロカロスの耳元に手を添えたブラッキーが口元を引き攣らせながらエーフィを見上げた。

いつの間に来たのか、普段よりも低い声を出したエーフィはブラッキーにニッコリと笑みを向ける。

ブラッキーもニコリと笑みを返したが顔が引き攣っている…。

 

「下品ですよ?」

「す、すみません…」

「ああ、それと恋人が居るのなら是非とも紹介して欲しいところですね。ブラッキー?」

「なななな、なんで怒ってんのぉぉお!?」

「ひぃぃ!!エーフィ、顔コワイよぉお!!」

 

ブラッキーの耳を手で捻り上げたエーフィ、なんかああいうのを見た事がある…。

あ、タケシがカスミにやられてたのか…。

ポケモンの謎は解明出来なかった。

ブリーダーとしてもドクターとしても凄く気になるところだが…エーフィを怒らせると怖いので諦める事にした。

 

「ご主人様、お弁当の用意出来ました」

「ああ、ありがとう」

「レジャーシートはどうします?」

「要らないんじゃないか?荷物はなるべく少なくしたいしな」

「かしこまりました」

 

恭しく頭を下げたチルットがまたキッチンの方へと戻って行く。

その姿が他の人の姿のポケモン達と比べてあまりにも小さい気がしたので家に置いて行こうとカバンから出したビンを手に取った。

 

「ラルトスー、ちょっと来ーい」

「ラルー?」

 

ててて、と小さな足音を立てて近付いて来たラルトス。

ラルトスの前に私が手を出すとラルトスは首を傾げて私を見上げた。

 

「変わらずの石」

「ラルー」

 

何処にしまっていたのか、取り出した石ころを私の手の上に乗せたラルトス。

そして手にしたビンの中に入っていたアメをラルトスの口の中に一つ放り込んでやった。

 

「ラルッ!?」

「……」

 

すぐにラルトスの体が光に包まれる。

光が消えればラルトスの体は一回り大きな可愛らしいバレリーナのような姿をしたキルリアへと変わる。

 

「もういっちょ」

 

ぽいっとキルリアの口にアメを放り入れて私は小さく頷いた。

キルリアはまた光に包まれて、更に一回り大きな姿へと変わり女性的な印象を与えるサーナイトへと進化した。

 

「サナー」

「残りのアメはチルットにな」

「サナ」

 

嬉しそうに笑ったサーナイトの頭を撫でる。これでメスじゃないんだから詐欺だ。

手にしたビンを振ればカラカラと飴玉が中で擦れ合う音が聞こえた。結構、量があるし…、20ぐらいは一気に上がるんじゃないだろうか…。まだ部屋にストックあるけどな。

 

「チルットー」

「どうかなさいましたかー?」

「ちょっとチルタリスになってくれ」

「…はい?」

 

一気に大量に食べさせたら体調不良を起こすなんて聞いた事無いし、大丈夫だよな。

 

*

 

カバンを肩に掛けて周りに並ぶ連中の姿を確認する。

横に立っている男を見たミロカロスの表情は極めて険しい…。

 

「誰、コイツー…」

「サーナイトだ」

「進化させて頂きましたので、ワタクシも人の姿になってみましたの。いかがです?」

 

ニコリと笑ったサーナイトを見てミロカロスが眉間に皺を寄せながら「まあまあ」と返事をした。

サーナイトに進化させたとミミロップに言えば、ミミロップから「アイツ、カマ野郎だから」と言われた。心は乙女とか言う奴なんだな

そういえば昔はミミロップ…ラルトスの事を嫌ってたっけ…。今はそうでもないみたいだが。

 

「シンヤに近付いたらぶっ殺す…!」

「いやん、ミロカロスさん怖いですよっ。それにワタクシはどちらかと言うとミロカロスさんの方が好きですわ」

「ひぃぃぃい!!!!」

「可愛くて綺麗な人、大好きですから!」

「あり、ありがとぅ…でも、近寄るな…」

 

ミロカロスが押し負けている…!!

その光景を見てケラケラと笑うブラッキー。むすっとした顔でブラッキーを睨むエーフィ、そして弁当の入ったバスケットを両手で持ったチルタリス。

今日のボールは5個だな。

 

「サーナイトも変わってて面白ぇけど、チルタリスも背伸びたよな」

「はい!トゲキッスさんみたいにご主人様を乗せて飛べないのは残念ですけど、持ち上げられるくらいには逞しくなれました!!」

「更にふわふわになって気持ち良いですよね」

 

ブラッキーとエーフィに頭を触られたチルタリスが頬を染める。

ふわふわだよな、私は今日絶対にチルタリスを枕にして寝るつもりだ。

 

「さてと、そろそろ行くか」

「ピクニックー!!!」

「ミロカロス、向こう着いたらバトルで勝負だからな!!」

「シンヤとデートしたいから嫌!!」

 

…私は着いたら寝るぞ。

 

*

 

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