一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「ブラァアー!!」

「ミロォオオ!!」

 

…うるさい。

もそもそと動いてチルタリスの羽毛に顔を埋める。

命の湖の場所を野生ポケモンに聞いて辿り着いたのだが私がそうそうに寝たら途中までミロカロスがぶーぶーとうるさかった。

そして静かになって、ふっと意識が落ちた所でこの声だ……。もっと離れた所でバトルしろ…。

 

「サーナイト…今、何時だ…?」

「もうすぐお昼ですわ」

 

あんまり寝れてない…。

人の姿のままミロカロスとブラッキーのバトルを眺めていたサーナイトが私を見てニコニコと笑う。

 

「…お前、こうして見ると男には見えないぞ」

「ま、嬉しいっ。ワタクシ綺麗ですか?」

「綺麗綺麗」

 

うんうん、と少し適当だったが嘘では無いので頷いて返す。

サーナイトがきゃっきゃっと喜んでいるのは分かるが私は体を起こして欠伸をした……。

 

「よいしょっと…」

「悪いな、疲れたか?」

「いいえ、全然」

 

ポケモンの姿のまま私の枕になっていたチルタリスが人の姿へと変わる。

傍に置いてあったバスケットを手に取ってニコリと笑った。

 

「お昼に致しますか?」

「そうだな、食べてからまた一眠りするか」

「ふふふ、食事の後に寝ると太りますわよ」

「私は太らない体質なんだ」

 

また欠伸が出そうになったので欠伸を噛み殺して髪の毛を撫でる。うん、寝ぐせは無いみたいだ。

 

「太らない体質って具体的にどういったものなんでしょう?ワタクシもその体質になりたいのですが…」

「基礎代謝が生まれつき活発でな、何もしてなくてもカロリーを消費するから太り難い」

「なら、その基礎代謝を上げれば良いのですね。どうすれば上がるんです!?」

「運動して筋肉を付ける。基礎代謝は筋肉の量に比例してるからな」

「嫌ですわ…筋肉を付けるのは…」

 

綺麗に痩せていたいのに…とぶつぶつと呟くサーナイト。お前、本当に女みたいな事言うんだな…。手持ち唯一の紅一点、サーナイト。しかし心だけ。

 

「シンヤはそんなに筋肉があるように見えませんわよ!!」

「体脂肪が無いんだ、脂肪が!」

「はぁん…なるほど、脱いだら実は凄いとか言うのかと思いましたわ…」

 

なんかお前の発言は鼻に付くな…。

言っておくが私は貧弱では無いぞ、脱いだらそれなりだ。…多分。

 

「でも、食べても太らないなんて不思議ですね」

「チルタリスは可愛げがあるな」

「え?」

「失礼な、ワタクシも可愛げくらいありますわ」

 

自分で言う辺り可愛げが無い。

溜息を吐いて腰にかけていた上着を着る。

 

「食べても太れない燃費の悪い人間の気持ちなんて分からないだろうな」

「分かりませんわ、だって食べた分だけ太る燃費の良い生き物は嫌ですもの」

 

クスクスと笑うサーナイトに苦笑いを返す。

女はスレンダーで美しくいつも可愛いね綺麗だねと褒められたいんですの。と言い放ったサーナイト。お前、オスだろうが…。

 

「…ちょっと丸くて抱き心地が良い方がモテるんじゃないか?」

「あぁん、シンヤの好みが"ちんちくりん"だったなんて幻滅ですわ~…、ミロカロスさんが泣きますわよ?」

 

だからミロカロスもオスだろうが…。

サーナイトとくだらない話をしている横でお食事のご用意が出来ました、と笑顔で言ったチルタリスの頭を撫でる。

 

「献身的なのが可愛いと思うぞ、私はな」

「ならミロカロスさんの何処が駄目なんです?」

「…駄目なんて言ったか?」

「あら?」

 

*

 

「シンヤ、シンヤ、はい、あーん!」

「…今、食べてる」

「あーん!」

 

この私の口の中にすでに噛み砕いている途中の米が入ってるのが分からないのか。私の右手に握り飯があるのが見えないのかお前は。

もぐもぐと口を動かしているというのに私の口に玉子焼きを押し付けるミロカロス

ぶん殴るぞ。

 

「あーん!!」

「……」

 

口の中に米が入ってる状態で玉子焼きを口に入れた。口の中がもさもさする。

横で見ていたチルタリスがお茶の入ったコップを手に取った。そのコップを受け取ろうとしたらミロカロスが先に受け取った……。

 

「はい、あーん!!」

「(…コイツ!!)」

 

口の中にまだ米と玉子が入ってるというのにコップを口元に押し付けてくる馬鹿!!もうお前は馬鹿だ!!ただの馬鹿だ!!

見ていられなくなったらしいエーフィがミロカロスの腕を掴んだ。

 

「ミロカロス、自分もちゃんと食べなさい」

「えー…」

「おにぎりと玉子焼き、口に詰めますよ?」

「た、食べる…」

 

コップを置いてミロカロスが自分の分の昼食を食べ始めた。

エーフィ、ナイスフォロー。

すかさずミロカロスが置いたコップを手に取って口の中の物を胃へと流し込んだ。

おにぎりの米と具の昆布そして玉子焼き、決して合わないわけでは無いが絶妙に不快だった。別々にゆっくり食べるのが一番だ。

 

「…なんか、ザワザワしてねぇ?」

 

おにぎりを口の中に放り込んで辺りを見渡したブラッキー。

釣られて同じように辺りを見渡してみたが特にこれといって何も無い。

 

「そうですね…、少し変ですね」

 

ブラッキーの言葉にエーフィが同意した。

私の周りの連中も頷いている…ポケモンって不思議な生き物だな…。

 

「オレ、ちょっと見て来る」

 

おにぎりを食べ終わったブラッキーが指を舐めながら立ち上がった。

そのまま走って行ったかと思うとすぐにポケモンの姿に戻って茂みの中へ飛び込んだ。アイツ、野生的だな…、あのまま人間に捕獲されて帰って来ないんじゃないだろうか……。

ブラッキーが様子を見に行って、少しすると遠くの方で爆音やら木々のへし折れるような音が聞こえて来た。

 

「嫌な音ですわ…」

「チルも見て来ます」

 

ブラッキー同様、ポケモンの姿に戻って空へと飛び上がったチルタリス。

ゆっくりランチというわけにもいかないのだろうか…、サーナイトに視線をやればサーナイトはコクリと頷いて弁当をバスケットに戻し片付けを始めた。

まだ上空に居るチルタリスを見上げればチルタリスはすぐに下降して人の姿に戻った。

 

「へ、変な物体が!!!」

「「「「変な物体?」」」」

 

チルタリスの言葉に首を傾げた時、少し離れた場所に閃光が走る。

木々をへし倒し、湖の中央辺りで閃光が消えたと思うと物凄い爆音を立てて爆発した。

湖の水が辺り一面に広がる。

 

「ッ!!!!」

 

その水圧に当然、吹っ飛ばされた。

 

*

 

「げほげほッ!!!…ッく、ごほッ…!!」

 

水中の中に爆弾でも仕掛けてあったのか疑うな。

まあ、あの強力過ぎる攻撃を放ったのが何かの方が疑問だが…破壊光線、何発分だ…くそ…。

 

「ミロー…」

 

ゴツンと私の頭に軽い頭突きをしたミロカロスが心配そうに私の顔を覗き込んだ

大丈夫、と声は出なかったがミロカロスの頭を撫でて頷く。

咄嗟にポケモンの姿に戻って私を水圧から守ってくれたミロカロスには感謝だな。あの水圧を人間の私がまともに受けていたら腕の骨やらあばら骨やらが確実に折れてた…。

 

「けほッ…ぁりがとな…」

「ミロォ」

 

ずぶ塗れになりながら辺りを見渡したがエーフィ、サーナイトの姿が無い。水圧で吹き飛ばされたんだろう。

飛んで逃げたらしいチルタリスが私のカバンを持って近付いて来た。

 

「チルゥー」

「すまん、助かった」

 

大事な物やら医療道具が入ったカバンを死守してくれたのは助かる。これを駄目にしたらジョーイに笑顔で撲殺されるかもしれない…、免許とか入ってるしな…。

 

「しかし…なんなんだ…」

「チルー、チルゥー」

 

向こうから変な物体が来てる、飛行船のようなものも見えた。と…。

十中八九、その変な物体が攻撃して来たんだろう。ポケモンなのだろうか、でも、ディアルガ、パルキアくらい巨大なポケモンや力のあるポケモンならこれぐらいの攻撃は出来そうだ。

湖に視線をやれば底の土やらで、かき回されたせいで綺麗だったのに酷く淀んでしまっている…まあ、スイクンが来れば元通りにはなるか…。

 

「ミロォオ!?」

「ん?」

 

湖から顔をあげれば変な物体が目で確認出来るまで近くに来ていた。

あの攻撃が通った部分だけ草の一本も生えてないんじゃないだろうか…地面も抉れてしまっている…。

というか、チルタリスの言ってた通り…本当に変な物体だ。他の何かに例え難い。

近くを飛んでいる飛行船…というより、空飛ぶ水上用ボートに見えるが…。その飛行船が変な物体に攻撃されて湖の方へと落下してくる。

おお、上手く着水出来たな…と見ていたら変な物体は止めと言わんばかりに更に攻撃を放った。乗船してる人間を殺す気か!!

沈んだのかと見渡したら、水圧で陸に打ち上げられたらしい。向こう岸に居る船から顔を上げた連中が見知った顔だったので「またか!」と思う反面、無事で良かったと息を吐いた。

 

「向こうまで行くぞ」

「ミロ!」

 

水面へと飛び込んだミロカロスの背に立って向こう岸を目指す。不安定だがサーフボードの上に立っていると思えば大丈夫だ。サーフィン経験は無いけどな。

水面で移動して船が近付いたら陸へと上がり、ポケモンの姿のままのミロカロスとチルタリスと共に船へと近付いた。

 

「大丈夫か?」

「シンヤさん!!大丈夫です、でもなんでここに?」

「家が近くでピクニックに…」

 

来てた、と言わずともカスミ達が「あぁ…」と声を漏らした。

災難でしたね、という言葉は言われずとも伝わってきた…。本当に災難続きだ…。

 

「これは一体どういう状況なんだ?」

「変な仮面の男がセレビィを邪悪なポケモンにしちゃったんです!!」

「…は?」

 

コテンと首を傾げたらカスミが「もー!」と声を上げる。もーと言われてもな…。

サトシ達がセレビィの所に行ったから追いかけないと!と言われてミロカロスと顔を見合わせてタケシ達の後を追いかける。

変な物体の傍に本当に変な仮面の男が居た…。あの変な物体がセレビィらしいが状況はよく把握出来ない。

呆然と眺めていると仮面の男がセレビィに攻撃の指示を出す。サトシと見知らぬ少年に攻撃が当たると思った瞬間、目の前を風が横切った。

 

「あれは!!北風の化身!!」

「スイクン!!」

 

サトシと少年を背に乗せたスイクンが颯爽と地を駆ける。

カッコイイ登場だな…。

でも出来ることなら私が水圧に吹っ飛ばされた瞬間に助けに来てくれればもっと良かったのに…エーフィ達ともはぐれたし…。

仮面の男の立っていた枝を折ったスイクンがサトシと少年を乗せたまま仮面の男を見やる。

どうやらスイクンはサトシ達を乗せてセレビィの所へと行くらしい。

滑稽だと言わんばかりに笑った仮面の男はボールからバンギラスを出した。スイクンに向かって破壊光線をしようとするバンギラスを見てタケシがボールを投げてイワークを出した。

イワークに体当たりされたバンギラスの攻撃は標準を変えられてスイクンから外れる。

イワークとバンギラスがバトルし出した隙にスイクンはサトシ達を乗せて変な物体…セレビィの所へと向かう。

しかし、あのバンギラス…強いな。力もそうだが技の威力も相当のものだ。

 

「ミロカロス、ハイドロポンプ」

「ミロォオオ!!!」

 

イワークがバンギラスから少し離れた隙を狙って指示を出せばバンギラスは後方へと大きく吹き飛んだ。

すかさず起き上がったイワークが尻尾でバンギラスを湖の方へと叩き飛ばす。ドボーンと大きな音を立ててバンギラスが湖に沈んだが…、泳げるのかバンギラス。

少し心配しながらも湖を眺めていると体力の限界だったんだろうイワークが地面に倒れた。

 

「イワーク!!よくやった!!」

 

タケシがイワークをボールに戻す。

そして私がスイクンに視線をやればスイクンは小さく頷いた。

 

「気を付けてサトシくん、ユキナリくん!!」

「ミロカロス、ハイドロポンプ。チルタリス、りゅうのいぶき!」

「ミロォオオ!!」

「チルゥウウ!!」

 

変な物体の多分、顔。

そんな風に思う場所へと攻撃するミロカロスとチルタリスに加え、スイクンが同じように攻撃を放つ。

多分、腕。がスイクンに向かって殴るように攻撃した。後退してかわしたスイクンは腕を伝って再びセレビィが居る場所へと駆け上がって行く。

するとスイクンの体が草の蔓のようなもので捕まった。

 

「あーあー…」

 

小さく声を漏らすと仮面の男の言葉を合図に草の蔓に電撃でも走ったのかスイクンが痛みに悶える声をあげる。

その苦しむスイクンを見て仮面の男が笑った。

 

「私に逆らう者はこうなるのだ!!」

「……」

 

ムカ。

 

*

 

草の蔓が動いた拍子にサトシ達がスイクンの背から落ちてセレビィの方へと転がり落ちた。

それを確認してから私は仮面の男へと視線をやる。

 

「オイ、お前」

「んん?なんだ貴様は!」

「変な格好して…なにマンだお前は!!恥ずかしくないのか!!自分の年を考えて自重しろ!!」

「な、なにぃ!?」

 

ビシッと私が指を差して言ってやれば後ろからクスクスと笑い声。

振り返れば人の姿をしたエーフィとサーナイトが居た。

 

「なにマンだ!!って…!!シンヤさんホントたまにそういうこと真剣に言いますよね」

「正義のヒーロー気取るんならもっとカッコイイ人の方が良いですわ、あれはまさに悪者って感じですし、なんとか男爵とか名乗ってそう…クスクス」

「何言ってるんですか、男爵なんて地位は勿体ないですよ。ほらあの仮面の頭から髪の毛が出てるのがトレードマークっぽいですから、タマネギマンで良いじゃないですか」

「タ、タマネギマン…!!」

 

二人で何か盛り上がってるな…。

エーフィとサーナイトに馬鹿にされた仮面の男、顔は見えないが多分真っ赤になって怒ってるんだろう…。

クスクスと二人が喋っている間に何かあったのかセレビィが勝手に動きだした。

仮面の男が慌ててセレビィに呼び掛けるがセレビィは湖の方へと進んでいく、周りには集まった野生のポケモン達がセレビィの名を呼び励ますように声を掛けている。

セレビィの操る物体が湖の上を進む…。

仮面の男も物体の足の方に乗ったまま一緒に行ってしまったので、こうなってはどうしようもない。いざとなったらミロカロスとチルタリスに指示を出してサトシ達を助けに行ってもらうか…。

眺めていると草の蔓から開放されたのかスイクンが湖へと飛び込んだ。

それを合図に変な物体がどんどんと崩れて湖に沈んでいく…、その物体の中からセレビィの力で浮いたサトシ達が出て来た。

どうやらセレビィも正気に戻ったらしい。正気を失った経緯は知らないけどな…。

空に浮いたままこちらに戻って来るのかと思っていたらドンドンと下降して途中で降りてしまった。カスミに腕を引かれてサトシ達が降りた場所へと向かう。

無事に脱出して陸に上がっていたらしいスイクンが駆けて来た。

 

「お、スイクン」

「クォオ」

 

ポンとスイクンの額のクリスタルに手を乗せた。攻撃を受けていたが意外と元気そうだ。

サトシとユキナリというらしい少年が戻って来た。戻っては来たが…セレビィを抱きかかえたサトシが私を見て情けない表情を浮かべる。

 

「?」

「良かった…」

「良くやったぞ!」

「本当に良くやった…!」

 

カスミ達がサトシ達に労いの言葉を掛けるがサトシは返事を返さない。

 

「どうしたの?」

「セレビィが…セレビィが…!」

 

サトシが抱えるセレビィに視線をやればみるみる生気を失い萎れたようになってしまった。

カスミ達が言葉にならない声を上げた。

 

「シンヤさん…!!セレビィを!!」

「……」

 

私が眉を寄せればサトシが口を一の字にした。

 

「水だ!!水に浸ければ!!」

 

タケシの言葉にサトシはすぐにセレビィを湖の水の中へと浸ける。

でも、セレビィに反応は無い。

 

「ダメだ…!」

「どうして…」

「森を壊したせいだ…、命の水も死にかけているんだ…」

「そんなぁ!」

 

カスミが目に涙を溜めながら俯いた。

すると一緒に居た女性が声をあげる。

 

「スイクンは!?ねぇ、スイクンは水を綺麗にする力があるんでしょう!?」

「スイクン!湖の水を綺麗にしてくれ!!」

 

女性の言葉にユキナリという少年もスイクンへと縋る。

命の湖にどれだけ力があるのかは知らないがあのセレビィの状態はもう私にはどうすることも出来ない…、チラリとこちらを見たスイクンに頷き返す。

もし、湖を綺麗にして助かるのなら…という一抹の希望を抱いて…。

スイクンが咆哮し、光り輝く。

軽やかに湖の上をスイクンが走ればスイクンが足を付けた場所からどんどん湖の水が綺麗になっていく。

湖一面を光が包みこむと湖は元の美しさを取り戻した。

 

「わぁ…」

「やったぞ!」

「これがスイクンの力…」

 

湖が綺麗になったのを確認してサトシが再びセレビィを湖へと浸けた。

 

「セレビィ、綺麗な水だよ」

 

そうサトシがセレビィに囁いたがセレビィに反応は無い。

駄目なのか、と杖を付く女性が呟いた。

 

「セレビィ!!死んじゃ駄目だ!!」

 

サトシがどう話しかけてもセレビィは反応しない。

サトシ達の目から涙が零れるのを見て、私はサトシ達から視線を逸らした。

何もしてやれない自分が情けない…小さく息を吐けばスイクンが私の手に頬を寄せた。ミロカロスがまた私の頭に軽く頭突きをくらわせる。

眩暈がした…。

 

「セレビィは悪くないんだ。セレビィを操った人間が悪いんだ。セレビィは悪くない!なのにどうして!!どうしてセレビィが死ななきゃならないんだ!!」

 

ユキナリの言葉にサトシ達が目を伏せる。

野生のポケモン達が各々で鳴き声をあげた、言葉ではない…ただただ声をあげている。

スイクンもミロカロスもチルタリスも声をあげた。人の姿のままのエーフィとサーナイトは目を瞑り下を向いていた。

 

「シンヤー!!!」

「!?」

 

今まで何処に居たのかブラッキーが野生ポケモン達を飛び越えて走って来る。

私に体当たりをするように突っ込んできたブラッキーはニッと悪戯っ子のように笑みを浮かべた。お前、この状況の空気を読め。

ブラッキーを睨むが全く気にしてないのか笑みを浮かべたままブラッキーは私の耳元に手を添えて小さな声で呟いた。

 

「アイツが時間を間違えた詫びをするって」

 

アイツ…?

私が眉を寄せた時、ゴォンと鐘が鳴るような音が聞こえた…。

空に眩い光が現れてサトシ達も顔を上げ光を見上げた。

 

「…時渡り?」

 

アイツって、セレビィか?

 

「これは…?」

「時渡り、時渡りの音…!!」

 

光から沢山のセレビィが現れた…。

空をくるくると回りながら下に居る私たちを見下ろしている。

どういうことなのか混乱していると、サトシに抱きかかえられていたセレビィが三体の他のセレビィ達によって空中へと浮きあがった。

幻想的な光景をただただ見つめる。

他のセレビィが生命エネルギーを分け与えている…、森の木々もまるで呼吸をするように輝きだした。

生命エネルギーを与えられたセレビィが息を吹き返した。ポケモンってなんでもありだな、と思うと小さく笑みが零れる。

サトシ達もセレビィの元気な声を聞いて顔に笑みを浮かべた。

 

「森の守り神は森に命を与え、時を渡る」

「セレビィには仲間が居たんですね!」

「オレ達にもな!」

「「うん」」

 

元気になったセレビィを確認した他のセレビィ達はまた自分達の住む場所へ帰る為に時の波紋へと戻って行く。

そして見知ったセレビィが私の前に来てニコリと笑った。

 

「レビィ!」

 

片手をあげたセレビィは仲間達と一緒に帰って行った。

そうだな、次に会ったら拳骨の一発でもくれてやろうかと思ってたが…今回のでチャラにしてやる。

サトシ達が元気になったセレビィに向かって手を振る。

のんびりのつもりで来たがとんだ災難に巻き込まれた、でも滅多に見れないであろうものを見せてもらったので良しとしよう。

小さく息を吐いてスイクンの背にもたれ掛かる。

 

「ん?そういえば、あの仮面の男は何処に行った?」

 

抱いた小さな疑問を口にした瞬間、サトシ達の目の前に水飛沫が上がる。

あの仮面の男が近付いて来たセレビィを両手で鷲掴みにして捕まえたのだ。なんて懲りない馬鹿…いや、執念深い男なんだ。

 

「セレビィ!!」

「これは私のものだ…、誰にも渡さない!!」

「させるもんか!!」

 

サトシが仮面の男に向かって行ったが仮面の男は背に背負っていたらしいロケットのようなもので空へと飛び上がった。

そしてサトシはその仮面の男の足にしがみ付いて一緒に行ってしまった…。サトシも相変わらずの奴だな…。

 

「サトシー!!」

 

上空でサトシのピカチュウが十万ボルトを放ったんだろう。小さな爆発が起きたのが見えた。そして真っ逆さまに地上へと落ちてくる。

サトシは上空でセレビィの力で止まった、ほっと安堵の息を漏らしたカスミ達が走ってサトシが降りて来る方へと行ってしまった。

 

「…じゃあ、私達は仮面の男の方を見に行くか…」

 

死体になってたら回収しないと目覚めが悪いしな。

サトシ達と一緒に居た女性達に一声掛けるとコクンと頷き返された。

仮面の男は無様ながらも木をクッションにしながら落ちて来たので命の心配は無さそうだ、あの"R"のマークはロケット団なのだろうか…。

そうだとしたらロケット団はタフな人間ばっかりだな。

情けない声を出して地面に落ちて来た仮面の男、起き上がった拍子に仮面が取れてしまったのでただの男だな。

 

「お前のようなバカもんは私が性根を鍛え直してやる!!」

 

周りには野生のポケモン達、逃げ場は何処にも無い。

 

「ニューラ、ハッサム…!!あ、あれ?あれ?無い!!」

 

男が胸に手をやったがそこにボールは無い。

腰に手を当てて自慢気に三つのボールを見せびらかすブラッキー…お前、いつの間に拾って来たんだ…。

男が顔を青ざめさせて情けなく声を発した。

 

「ご、ごめんなさい…!!許して下さい!!」

 

キャタピーやビードル連中の"いとをはく"で拘束された男を見てエーフィとサーナイトがクスクスと笑った。

 

「森は許してくれないようだね」

 

女性の高らかな笑い声が響いた。

やれやれ、一件落着だとみんなで湖の方へと戻って来る。

私はサトシ達から離れた場所でブラッキーが地面に黒いボールを叩き付けるのを眺めていた。ボールからはニューラとハッサムが出て来た。もう一個は空だったがバンギラスのだろうな。

自由だぜ、とのブラッキーの言葉にニューラとハッサムは森の方へと走って行った。

 

「スイクン!!ありがとう!!またいつか会おうぜ!!」

「ピカ!!」

 

そう言ってスイクンに手を振るサトシ達。

スイクンはサトシ達の方を振り返ってから私の背中を鼻で突いた。

 

「私達も帰るか」

「遊び足りねぇけどな」

 

ニシシと笑ったブラッキー。

お前絶対に満喫してただろ…。私が水圧で死にかけた事も知らないで…。

ポケモンの姿のままのミロカロスとチルタリスをボールに戻してカバンを肩に掛け直す。

 

「じゃあな」

「え、シンヤさんも一緒に行くの!?」

「疲れたから帰る」

「スイクンとですか!?」

「友達だからな、良いだろ?」

 

良いなー!!、と素直に返事をしてくれる辺り子供だな。

ヒラリと手を振ればサトシ達は手を振り返してくれた。ユキナリとかいう少年とあまり話は出来なかったがまあ良いだろう。

さて、帰るか。

 

*

 

「うぇーい!!歩き疲れたぜー!!」

 

嘘吐け。

ソファに横になったブラッキーの足をエーフィが叩いた。

 

「ちゃんと座りなさい」

「はぁい」

 

いそいそと言われるままに座り直したブラッキーを見て小さく笑う。

母親と子供みたいだな。

ボールからチルタリスとミロカロスを出してやれば二人はすぐに人の姿になってぐっと背伸びをした。

 

「なんだか大変な一日でしたね」

「そーだよ、遊んだ気しねぇもん!!」

 

苦笑いを浮かべるチルタリスに頬を膨らませるミロカロス。

お帰りなさい、と出迎えてくれたトゲキッスの頭を撫でるとワタシもとミミロップが間に割り込んできた。

 

「結局、ランチも中断してしまいましたものね」

「ゆっくり昼寝も出来なかったしな」

 

溜息を吐けばサマヨールがキョトンとしたように私を見つめた。

 

「何か…あったのか…?」

「色々な」

 

夕食の時にでも話してやると言えばサマヨールはコクリと頷いた。

それを聞いていたチルタリスがパンと両手を叩いた、驚いてチルタリスの方に視線をやればチルタリスはニッコリと笑った。

 

「今日は庭でお夕食に致しましょう!」

「おぉ!!良いねー!!」

 

チルタリスの言葉にブラッキーが両手をあげて喜んだ。

賛成賛成、とハシャぐ連中を見て私も今日くらいはと賛同する。

夕食の用意をするとチルタリスとトゲキッスとサーナイトがキッチンへと行った。夕食の間まで本を読もうとソファに座って本を開けばブラッキーがドンとテーブルに片足を乗せる。

 

「聞いてオレの武勇伝!!」

「足!!足を下ろしなさい!!」

 

ベチンとまたエーフィに足を叩かれたブラッキーはしゅんとしつつ、足をテーブルから下ろした。確実に躾けられている…。

 

「森の様子を見に行ったオレは森に居たポケモン達から話しを聞いて状況を把握したわけ!把握はしたけど歩いてたらシンヤ達の居る場所分かんなくなっちゃってー!!」

 

帰って来ないと思ったら迷子だったのか。

 

「その後、ばったりセレビィの奴と会ってさー!!アイツ普段はあの森の近くに居るみたいでホント偶然!!そっからセレビィと喋ってたらなんか仲間が過去の世界から来てるとかなんとかで助けるにしてもとりあえず自分だけじゃどうにもなんないから仲間呼んでくるってどっか行っちゃって。オレもシンヤの所に走って戻ったわけよ」

 

全く意味分かんねぇよ、とミミロップから辛辣なツッコミを貰ったブラッキー。

でも、私はなんとなく分かった。

エーフィの方はサーナイトと一緒に水圧で吹き飛ばされたけど変な物体を目指して歩いてたら私を見つけたそうだ。

 

「俺様、ポケモンの姿のままだったから我慢したけどタマネギマンに超笑った!!」

「それを言うならシンヤさんの発言が面白かったんですよ」

「え、何?シンヤなんて言ったわけ?」

「凄く奇抜な格好で仮面を付けた男が居たんですけどその男にシンヤさんがね…」

 

別にウケ狙いで言ったわけじゃない。

そう言ってやりたかったが何を言っても駄目だと思ったので諦めて本へと視線を戻した。エーフィ達の会話なんてシャットアウト。全く何も聞こえない、という事にした。

 

「主は時々、天然だ…」

 

そのサマヨールの発言も聞こえてしまったが聞こえなかった事にした。

私は天然じゃない…。心の中で不満を言いつつ本のページを捲る。

そういえば、とサトシ達と一緒に居たユキナリという少年を思い出した。

名前を聞いた時にユキナリという名前なんだなとは思ったが…、今こうして考えてみるとあれだな…オーキド博士と名前が一緒だな。

あの人の名前は確かオーキド・ユキナリだったはず。

名前が一緒だと思うと、あの眉の辺りが似てるような気がして思わず笑みが零れた。

 

「ふふ…っ」

「何?面白い本?」

 

私が笑ったのに気付いたらしいミロカロスが私の手元の本を覗き込んだ。

別に、と返事を返せば不満気に頬を膨らませる。

本なんて全然読めてない、ただページを捲ってるだけだ。

 

「シンヤ…」

「ん?」

「今度はちゃんと二人でデートしよう!」

「…」

 

な!と同意を求めるように笑顔を向けられた。

少し考えてからミロカロスに視線をやると期待のこもった目と視線が合う。

 

「近くの店に買い物でも良いか?」

「うん、良いよ!」

 

嬉しそうに笑ったミロカロスに笑みを返す。

コイツは本当に安上がりだな…。

首に腕を回してぐりぐりと肩に頭を押し付けてくるミロカロスに軽く首を横に倒して頭突きをくらわせる。

 

「離れろ」

「やーだー」

 

クスクスと笑いながら顔を上げたミロカロスと視線が合った。

赤い目の中に私が映っている…。

キッチンから「用意が出来たので運ぶの手伝って下さーい」とトゲキッスの声が聞こえてブラッキー達が会話を止めてキッチンへと歩いて行く足音が聞こえた。

 

「俺様も手伝…」

―――――ちゅ…

「!?」

 

ミロカロスが頬を押さえて私を見たが私は本に視線を戻した。

え?え?とうろたえるミロカロスの声が聞こえたが顔は上げない。が、内心、舌打ちをする。

タイミング良く顔を逸らされた……。

 

「くぉら!!低能!!さっさと手伝え!!」

「え?あ、うん…って、低能って言うな!!」

 

私を見つめる真っ赤な目が妙に色っぽく見えたから、理由はこれだな。

 

*

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