一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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キッサキシティに向かって歩いてはいるが雪に足をとられ、トレーナーにはバトルを挑まれ……。

 

「あられが痛いな」

「だねぇ、ポケモン達もじわじわあられのダメージで疲れてるみたいだし」

 

休みたいよ~、と言葉を漏らしたツバキ。

確かに何処か雪を凌げる所で休まないとキッサキシティまでポケモンの体力も私達も持たないかもしれない。

小さく溜息を吐くと雪に覆われた視界の隅に小さな家が、ザクザクと雪を踏みしめて歩けば看板が立っている。

『ロッジゆきまみれ あたたかいベッドあります』

ゆきまみれ、はどうかと思うが助かった。後ろの方をふらふらと歩くツバキに声をかければツバキは走って駆け寄ってきた。まだ元気じゃないか……。

 

「おじゃましまーす」

 

ロッジに入ればおじさんに「やっほー!」と迎えられた。陽気な人だな、と思いつつ隣で「やっほー」と返事を返すツバキの声を聞いた。

 

「ぼろいロッジだがまったりゆったり休んでくれい!」

 

お言葉に甘えて休ませてもらう事にした。

ベッドに寝転んでごろごろするツバキを視界に入れながらタマゴの表面を撫でる、カバンに入れていたとはいえこの寒さでとても冷たかった。

タオルで拭いてみたがやはり冷たい、活発に動き始めていたのに今は静かなものだ。

タマゴを温めるように抱きかかえれば腹が冷たくなったが少し我慢しよう……。

 

暫く休んでからロッジを出る、室内が暖かかっただけに外の冷気は肌を裂く様に痛く感じた。

ぐるぐるとタオルを巻いてみたタマゴも殻があるとはいえ寒いだろう、早くキッサキシティに着かないとな……。

 

 

途中でバテたツバキを背負って雪道を歩く。

何で私が……と思いつつも挑まれたバトルの大半や出てきた野生ポケモンの相手もツバキにさせていたので文句は言うまい。

もうすぐ着きそうだ、そう思った時にツバキが私の肩を叩いた。

 

「あそこ登れそう」

 

「は?」

 

あそこ、とツバキが指差した先には崖。

ボールを取り出したツバキがにやりと笑う、もうすぐキッサキシティに着くというのに寄り道か……。

 

「エンペラー、ごー!!」

 

エンペラーと呼ばれた大きなペンギンがロッククライムで崖を登る。

 

「エイチ湖だって、看板あったよ!!」

 

さっきまでバテてた癖に……。

走って先に行ってしまったツバキの後を追った、少し歩けば静かな湖が広がっている。

エンペラーの背に乗って向こう岸の原っぱへと進むツバキ、湖の中央には大きな岩があった空洞か何かになっていそうな感じがする。

まあ、私には調べる術が無いし調べに行くほど元気なわけでもないから良いのだけど……。

 

ぱしゃん、と水音。

水面に映る自分を眺めていた私が顔をあげると少し離れた所にぼやける物体が……。

生き物……、ポケモンかと目を細めれば、それは二本の尻尾を揺らして大きな岩の方へと消えて行った。

 

「ただいまー」

 

陸に戻って来たツバキがエンペラーをボールに戻そうとボールを取り出した。

 

「不思議なポケモンがあっちの岩の方に消えたぞ」

「え、不思議なポケモン?珍しいポケモン?」

「それは分からないが、尻尾が二本あった」

「なんだろ、エテボース?」

「知らん」

 

再びエンペラーの上に乗ったツバキが手招きをするので私もエンペラーの上に乗る

ゆっくり岩の方に近づくと中に入れそうな穴があった。

 

「おお!!発見の予感!!」

「……」

 

中に入れば広く、水が溜まっていて、大きな水溜りの様になっている。

何処か不思議な形をしている気がするが上から見ないとよく分からないな……。

バシャバシャと水の上を跳ねる様に走り回るツバキがぐるっと広くも狭くもない空間を一周した。

 

「なんもないね」

「そうだな」

「でも、神秘的な空洞だよー。ダウンジング持ってくりゃ良かった」

 

頬を膨らませながらツバキが空洞から出る、続いて私も外に出ようと思えば後方でぱしゃと水音……。

黄色い頭部、閉じられた目には私の姿が映っているのか……。じ、とこっちの様子を窺うようにその場に佇むポケモン。

 

無言のまま対峙していると外からツバキが私を呼んだ。

 

「シンヤさーん!!」

 

チラリとポケモンを見てから私は踵を返して外へと向かう。

触れてはいけないような、近づいてはいけないような、そんな気がした……。

 

< シンヤさん… >

 

鈴の鳴るような、静かで凛とした声が聞こえた……。いや、まるで直接頭の中に伝わって来たような。

ポケモンを振り返れば二本の尻尾をゆったりと動かして、微笑んだ……。

 

「お前は……」

< ユクシー >

 

そう言うとソイツは霧の様に消えてしまった。

 

「シンヤさん!!遅いよ!!」

 

再び中に入って来たツバキが私に手招きをした、ツバキに返事を返して私は空洞から出る。

まさかポケモンに直接、人の言葉で話しかけられるなんて……。

 

「ユクシー、か……」

「ん?何か言った?」

「いや、ポケモンは不思議な生き物だと思ってな」

「へ?」

 

エンペラーをボールに戻したツバキがそういえばと言葉を続ける。

 

「さっき向こうの岸からキッサキシティが見えたよ」

「ならあと少しだな」

「だね!!」

「自分で歩けよ」

「ケーチー」

 

*

 

キッサキシティに着いた。

雪に音が吸収されるのか静かな街だ……。

 

「おふ、ここ深っ……」

「……」

「置いてかないで!!っていうか、手を貸して!!」

 

ポケモンセンターに入ればツバキがあたたかいと言って喜んでいた。

ジョーイさんにポケモンをあずけて今日泊まる部屋を借りよう。

 

「これお願いします」

「はーい、かしこまりました。寒いですよね、良かったらそちらのタマゴも暖めておきましょうか?」

 

そんな事までしてくれるのかポケモンセンター。

ご好意に甘えてタマゴもジョーイさんに渡して部屋のキーを貰う。

 

「あ、シンヤさん、コダックが居るよ」

「コダック?」

 

ツバキの指差す先を見ればまたアイツだ!!

黄色いアヒルが頭を抱えてこちらを見ていた、また首を傾げられる……、だから私が何をした……。

 

「コダックっていつも頭痛に悩まされてるんだって~」

「それでか!!」

「何が?」

「いや、別に……」

 

少し声を荒げてしまい恥ずかしくなってツバキから顔を逸らす。

まあ、コダックが首を傾げている理由が私ではなかったので良しとしよう。疑問が一つ消えてスッキリした。

 

部屋に入って荷持を隅に置く。

窓の外は雪の降り積もる雪景色、そういえばポケモンセンターには連絡を取る手段があるから研究所にかけて来いってヤマトが言ってたな。

貰った電話番号を何処にしまったか……。

 

 

「……」

<「シンヤー!!今どこー?」>

「キッサキシティだ」

 

普通の電話かと思ってたら相手の顔まで見える機能まで付いていた、まあ生き物をボールに入れる事に成功してるのだからこれぐらいは当然か…。

 

<「テンガン山はどうだった?」>

「疲れた」

<「ヒンバスは?」>

「ああ、ちゃんと捨ててきたぞ」

<「……本当に捨てちゃったんだ」>

「捨てに来たんだから当然だろ」

 

顔を曇らせたヤマトの表情がツバキの表情と同じだった。

捨てる、という事をどうにも受け止められないらしい。二人と比べるとあっさりヒンバスを捨てた私は二人とは何処か違うのだろう。

生息地であるあの場所に捨てるのがヒンバスには一番だと、私は思うだが……。

 

<「あ、僕にもお土産よろしくね」>

「何をだ?」

<「旅の楽しい話、期待してるよ」>

「……楽しい、ね」

<「あれ、楽しくない?」>

「普通、もしくは楽しくないに分類されるかもしれない。バトルにはもううんざりだ」

<「シンヤが凄腕トレーナーみたいな雰囲気出してるから声かけられるんだよ」>

 

どんな雰囲気だ。

 

「そうだ、また時間があったら聞いといてくれないか」

<「何?」>

「ノリコにお土産でポケモンを捕まえて帰ろうと思うんだが可愛いポケモンがイマイチ分からないからな……」

<「そっかー……ってイツキさんの所は10歳にならなきゃ自分のポケモン連れちゃ駄目だって言ってたから、暫くは研究所に……」>

「そうなるな」

<「じゃあ、僕はユキワラシをよろしく」>

「お前のは聞いてない」

<「良いじゃん!!ついでじゃん!!近くに居るだろ~!!!」>

「チッ」

<「舌打ち!!」>

 

また雪道を練り歩くはめになった。

もう電話を切って風呂にでも入って来ようかと思った時にヤマトが「待って待って」と制止する。

 

<「ユキワラシをゲットしたらまた連絡してよ、それで研究所に直接送って」>

「そんな事出来るのか」

<「そこのくぼみにボールを入れて送信を押すだけ」>

「よし、とりあえず送るからノリコに見せて要らなかったら欲しがってる奴が居るからまた送り返してくれ」

<「何、何を送るの!?え、ちょっとー!!」>

 

送信を押せば画面の向こうで「何か来たー!!」とやかましくヤマトが叫んでいる。

画面には映ってない所でボールの開く音が聞こえたかと思うとすぐに満面の笑みを浮かべたヤマトの顔が画面に映る。

 

<「僕も欲しいんだけど」>

「諦めろ」

<「ケチ!!ミニリュウとかめちゃくちゃ可愛いじゃんかー!!」>

「ノリコに聞いとけよ」

<「うん、他の欲しいポケモンの候補も聞いとくんだよね、了解」>

 

じゃあな、と言って電話を切れば。

丁度通りがかったらしいツバキが私の背中に飛びついて来た。

 

「誰と電話してたの?」

 

「……ヤマト」

 

「誰だ!!」

 

ポケモンの研究をしてる奴だ、と付け足してやればツバキは大して興味も無いのかふぅんと相槌を打つだけだった。

 

「あ、ジョーイさんがポケモンの回復終わったって言ってた」

「なら受け取りに行くか」

 

そろそろお腹空いて来たねー、なんて言ってついて来るツバキに適当に返事を返しつつユキワラシがどんなポケモンなのか考える。

そういえばキッサキシティに来る途中に遭遇してたかもしれない、猫みたいなのはニューラだニューラだとツバキが言っていたが……。

 

「ユキワラシって居たよな?」

「ユキワラシー?居たねー、欲しいの?」

「ヤマトが欲しいらしい」

「また雪道に逆戻りだよ、超吹雪いてるのに可哀相にシンヤさんファイト!!」

「……」

 

少し腹が立ったので頬っぺたを抓ってやった。

 

「いてて…」

「どんなポケモンだ?」

「へ?知らないの?来る途中見たじゃん」

「見たポケモンは覚えてるがどれがユキワラシか分からない」

「三角形で傘みたいなの被ってる」

「ああ」

「ゆきかさポケモンのユキワラシだよ」

 

居たな、傘みたいなの被った小さい奴。

窓から外を見れば少し風が強いのか窓に雪が打ち付けられていた……。

 

「今日はもう風呂に入って食事をとって、寝る」

 

「朝から行くんだ、少しでも弱まってると良いよね~、雪」

 

溜息を吐けばツバキがケラケラと笑った。

 

 

*

 


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