一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

80 / 221
18

庭に来てる野生のポケモン達にポケモンフードを配ってたらサマヨールが小さく声を漏らした。

何ー?と聞き返そうとしたら口を手で塞がれる。

ホントに何!?ともごもごと口を動かせばサマヨールは口元に人差し指を立てて静かにとワタシを黙らせる。

ゆっくりと手が離されたからサマヨールの視線の先を目で追った。

ツバキが連れて来た色違いのミロカロスと低能馬鹿が並んで歩いてる…!!!!

 

「なッ…!!」

「…静かに」

 

再び口を塞がれた。

サマヨールの言葉に数回頷けばまたゆっくりと手が離される。

静かにしてるつもりだったけどびっくりして声が出そうになった…っていうか、ちょっと待って、マジで待て!!

 

「…な、なにが起こった…」

「…分からないが、良い機会だと思う…」

 

サマヨールと二人して身を屈めて気付かれないように小さな声で会話をする。

良い機会…って何処が…?

シンヤがいるのにメスと一緒って…アイツ、馬鹿だとは思ってたけど本当に救いようのない馬鹿だったんだ…。

脳みそ絶対に腐ってる。

 

「…尾行、開始ッ」

「な、何!?…本気かミミロップ…」

「ったりめーだろ…」

「あまり触れない方が良い気がするのだが…」

「うっせ、一人でもワタシは行く…」

「い、いや、自分も行こう…」

 

尾行とか何か男らしくなくて嫌だなぁと思いつつも海辺の方へと歩いて行くミロカロスを追いかけた。

離れ過ぎてて声は聞こえないんだけど…。

女の方がニコニコ笑ってなんか喋ってるってのは分かる、それにあの馬鹿が頷いたり頷かなかったり…まあ、楽しげでは無い…。

海が近くの場所で二人が並んで座った。

その二人へギリギリまで近付いて聞き耳を立てた。ギリギリっていうのはワタシのギリギリだからサマヨールには話声なんて聞こえないと思う。

 

「あの、えと、なんか同じミロカロスだと呼び掛け難いですよね!何か呼び方を考えません?」

「え…ぁ、別に何でも良いけど…」

「普段はミロカロスって呼ばれてるんですか?他に呼び方とかは…?」

「人前でとかはミロって呼ばれる」

「じゃあ、ミロくんですね。私はどうしましょう、ミロカロスだからミーとかどうですかね?」

「知り合いにミーって子居る…」

「え、あ、じゃあ、えーっとえーっと…」

「…」

 

なんだこの一方的な会話。

女の方がひたすら話しかけてる…、話したくないなら何で一緒にこんな所まで来てんの?

なんなの、馬鹿なの?

 

「あ、色違いだから。イロって呼んで下さい!別に呼び方なんて何でも良いですから!!」

「…うん」

「私、色違いだから綺麗な赤毛って羨ましいです。憧れちゃいます!髪の毛、触らせて頂いてもいいですか?」

「…ぇと、」

 

「ッぅがぁあああああああ!!!」

「!?」

 

ミミロップ!!と隣に居たサマヨールがワタシを呼んだけど無視。

サマヨールの腕を引っ掴んで家まで走った。

ふざけんなクソ低能馬鹿ッ、その腐った脳みそ頭カチ割って引き摺り出してやりたいッ!!!

 

「あぁああぁぁあああああああッ!!!!」

「ミミロップ!お、おい、どうしたんだ!?」

 

ミロカロスなんて大っ嫌いだ!!

馬鹿過ぎて馬鹿過ぎて馬鹿過ぎて…ッ、ホントに嫌い!!

でも、ワタシはちゃんと認めてたんだ。認めてたから尚更、腹が立つッ!!!

シンヤが一番だろ!!シンヤしか居ないんだろ!!シンヤさえ居れば良いんだろ!!

なんだよ、なんだよ、なんだよっ!!

今更、他の奴に歩み寄ろうっての!?なんだよ、やっぱりポケモンが良いとか言い出すわけ!?今になってメスが可愛く見えたっての!?

ずっと待ってたくせに…ッ、ずっとシンヤだけを待ってたくせに…ッ!!

頭の悪いお前なんて嫌いだ、嫌いだけど頭の悪いままで居るお前を認めてた。

シンヤの事はワタシだって好きだ、大好きだ、他の人間なんかと比べ物にならないくらい大好き。

だけど、待ってられなかった…ッ!

シンヤが帰って来た時に以前のままの自分で居る事なんて出来なかった。待ってる期間が長過ぎた。シンヤは大好きだけどそれ以上にバトルが好きだったし旅をするのも楽しくて、ワタシは変わった…。

シンヤも変わった。

でも、変わったからこそシンヤは…、昔のワタシ達とは違う所を見つけると少し寂しそうにワタシ達を眺めてた。

……気付いてた。

ミロカロスを見ると安心したように笑うシンヤにも、変わらないなって呆れたように言ってもシンヤが喜んでいる事にも…。

シンヤが、自分だけを真っ直ぐに追いかけてくるミロカロスを、一番大事にしている事も。

…ワタシは気付いてた。

一番大事にされてるミロカロスなんて嫌いだ。でも、あいつはシンヤにそれだけ尽くしたし、ワタシ達とは違って変わらないまま待ってたんだ…。

気付いてたよ。

ワタシが、昔みたいにシンヤにべったりくっ付く事がなくなったのも…、ミロカロスを認めてたからだ。馬鹿だけど凄い奴だって、嫉妬するぐらい尊敬してた…ッ!

何をするにも何に置いても、シンヤはミロカロスに甘くてミロカロスを優先しているのがムカつくし悔しいけど、勝てないしワタシには真似出来ない。

認めてたのに…ッ、

なのに、今になってシンヤを裏切るなんて許さない…ッ!!

お前なんてお前なんて!!

シンヤの為に生きて、シンヤの為に死ねば良いんだッ!!!

 

「ワタシは絶対に認めない!!!」

「ミ、ミミロップ…!?」

 

*

 

「さあ、引け」

「この出てるのなんですか、え、ちょ、片方がぴょこんと顔を出しているのですが…え、これババ?いや、これはフェイクでこの出てるものこそがハートの2なのか!?」

「早く引け」

「待って待って待って!!そんなババ抜きを心理戦に持ち込むなんて卑怯!!」

「良いから引け」

「いや、駄目よツバキ、負けちゃ駄目。これで負けたら8連敗…」

 

ぶつぶつと独り言を言いだしたツバキ。

お前がトランプしましょう、って誘って来たんだろうが…しかも誘っておいてババ抜きしか出来ませんって…。

おまけにそのババ抜きも弱いしな…。

 

「えぇーい、引いちゃえー!!」

「……」

「どぅぇえええええ、ババきたぁあああ!?!?」

 

ババ抜きでここまで楽しそうな人間、初めて見た。二人でひたすらババ抜きなんて面白くないだろう普通…。

残り二枚のトランプを混ぜて「さあ!」と私の方に向けたツバキ。

片方に手をやればツバキはニヤニヤと笑い、もう片方に手をやればツバキの表情は歪む。

歪む方を、引く。

 

「ノォオオオオ!!!」

「8連勝」

「何故勝てないッ、一度くらい勝てても良いはずなのに何故勝てない!!これでも研究所でポケモン達と一緒にトランプやったらそこそこ強いのに…!!!」

「……」

 

ぶつぶつと文句を言いながらもまたトランプを切るツバキ…まだするのか。何度やっても私は負ける気がしないぞ。

9戦目となるババ抜きを始めた時、リビングにミミロップが駆け込んできた。片手でサマヨールの腕を掴んでいるのだが何処かサマヨールがぐったりしたように見える…。

 

「どうしたんだ…?」

 

サマヨール…。

 

「あの馬鹿がメスのミロカロスと一緒に居た!!」

「「……」」

 

そりゃ、話をしに行くと言って出て行ったからな…。

というか、私が聞きたいのはその床に座り込んだサマヨールの様子なんだが…何があったんだ…。

 

「ミロカロス同士仲良くやってたー?」

「知らねぇ!!!」

「何を怒ってるんだ?」

「ぅ…行くぞ、サマヨール!!!」

「あ、ああ…」

 

サマヨール、引き摺られるように連れて行かれたけど…大丈夫なのか…?

向かいに座るツバキと顔を見合わせ首を傾げた。

9戦目のババ抜きで私は9連勝。

すっかりツバキが落ち込んだ所でミロカロス達が帰って来たらしい。女特有の高い声で「ただいまです」と声を掛けられて。

おかえり、と私とツバキが返事を返そうとするとバタバタと足音がしてリビングにまたミミロップが駆け込んできた。ああ、後ろにはブラッキー達も居るな…。

 

「ミロカロス、ちょっと来い!!」

「え、あ、はい?」

「テメェじゃねぇよ!!女は引っ込んでろ!!」

「ご、ごめんなさい…ッ」

 

ミミロップがミロカロスの腕を引っ掴んでリビングを出て行った。

ブラッキー、エーフィ、サマヨールも何も言わなかったが…なんなんだ一体…。

 

「ミロカロスちゃーん、大丈夫だよこっちおいで!!」

「悪いな。普段はああじゃないんだが…今日は機嫌でも悪いのか…」

「いえ、大丈夫ですから!」

 

ブンブンと手を振って笑うメスのミロカロス。

ミロカロスの青い髪を撫でながらツバキがニコニコと笑みを浮かべる。

 

「で、仲良くなれた?」

「少しですがお話出来ました!」

「良かったねー、友達欲しがってたもんね!」

「もっと仲良くなれるでしょうか?」

「なれるなれる!」

 

頷くツバキを見てメスのミロカロスは嬉しそうに笑った。

 

「シンヤさん!!」

「なんだ?」

「ミロカロス同士仲良くなったらシンヤさんのミロカロス、研究所に送って下さいよ!!」

「なんでだ」

「えー、だってラブラブになれるかもしれないじゃないですかー」

「はぁ?」

 

メスのミロカロスが「え!?」と驚きの声を上げて顔を赤くした。

 

「そ、そんな…まだ知り合ったばっかりですし…!」

「やらんぞ」

「なぬ!?シンヤさんのケチ!!」

 

なんか満更でもないような態度のメスのミロカロスが少し気に入らないが可愛いので許す。

でも、ミロカロスはやらん。

 

「なんでー!!なんでー!!なんでー!!お願いしますよー!!」

「そんなに言うならメスのミロカロスをここに置いて行け」

「嫌です!!」

「なら私だって嫌だ!!」

 

頬を膨らませたツバキから視線を逸らすようにそっぽを向いた。

その光景を見ていたらしいトゲキッスがクスクスと笑った。笑われたツバキが顔を赤くする。

 

「仲良しですね」

「喧嘩してたのに!?っていうか、トゲキッスも思うよね!?ミロカロス同士ラブラブ良くない!?」

「でも、ミロカロスさんはシンヤの事が好きですし…」

「えー…でもー…」

「シンヤもミロカロスさんの事、好きですもんね」

 

トゲキッスに同意を求められるように視線を向けられた。

ツバキとメスのミロカロスの視線が私へと向けられて少し居心地が悪くなる。

 

「そう、見えるのか…?」

「見えますよ」

「そうなの?ラブラブカッポーだったの?ツバキちゃん初耳」

 

私ってミロカロスの事、好きなのか…いや、そりゃ好きか嫌いかだと勿論好きだけどな…。

ん?と首を傾げた時にツバキが思い出したように言葉を発した。

 

「人間とポケモン、種族を超えた愛!!研究させてシンヤさん!!」

 

…嫌だ。

 

*

 

ミロカロスを両脇から睨み付けるようにミミロップとブラッキーが座った。

一体、これはどういった状況なのか…、隣に居るエーフィに視線をやれば小さく溜息を吐かれるだけに終わる…。

自分には全く現状を把握する術が無い…。

 

「そんで、メスのミロカロスと仲良くなったか?」

「ちゃんと喋った、と思う」

「はぁ!?お前なんでメスとイチャコラしてんだゴラ!!」

「ブラッキーが友達になれって言うから…ッ」

「シンヤに勘違いされたらお前、ツバキの居る研究所に放り込まれて婿入りだぞこの低能が!!」

 

やーだー!!と叫んだミロカロスを余所にミミロップとブラッキーが睨み合いを始めた。

これはつまり、ブラッキーはミロカロス同士を仲良くさせたいがミミロップはミロカロス同士を仲良くさせたくないという…利害の不一致…。

どちらが正しいのかは自分には分かりかねるが…。

 

「ミロカロスはシンヤに依存し過ぎなんだよ!シンヤが居なきゃ生きていけないなんて間違ってる!!」

「あぁん!?シンヤが居なくなったら死ねば良いだけの話だろーが!!間違いもクソもねぇ!!」

「ミロカロスの幸せになんないだろ!!」

「シンヤと一緒に死ねれば本望だろうよ!!」

 

…ブラッキーはミロカロス自身の幸せを願っている。自立して主が居なくともちゃんと生きていけるような男になれと言いたいというのはよく分かった。

それに反してミミロップはミロカロスに主の為だけに生きろと言っている。一見、無理難題を押し付けているようだがミミロップの意見にミロカロスは賛同しているようだ。

主…シンヤの為に生きたい。シンヤが逝けば自分も共に逝きたいと思ってはいるようだが…それではミロカロスの為にならない本当の幸せではないとブラッキーが反論している…。

ブラッキーは優しい、ミミロップはミロカロスを理解している…。

どちらも間違っているとは思えない

思えないが、どちらも正しいと判断し難い……。

 

「俺様ッ、シンヤと一緒が良い…ッ、シンヤが良いッ!!」

「そうだ、それで良いんだよ!!」

「良くない!これじゃミロカロスはずっとこのままだ!!」

「良い!!」

「良くねぇって!!毎日のように泣いてるミロカロスの気持ちを考えろよ!!」

「涙腺弱いだけだろッ!!!」

「不安なんだ!!今のままで良いわけねぇだろ!!」

 

殴り合いにまで発展しそうな剣幕で怒鳴り合う二人…。

二人の間に座っていたミロカロスは蹲って泣きだしてしまった…、二人の言いたい事は分かるがこのまま怒鳴り合っていてもミロカロスが可哀想だ…。

 

「二人共…一旦、落ち着け……」

 

二人の間に手を入れれば怒りの剣幕のまま睨み付けられたが二人の肩を押さえてちゃんと座らせた。

そして二人の間で蹲り泣いていたミロカロスを二人から引き離す。

 

「「……」」

「二人がミロカロスの事を考えているのは分かる、分かるがこれは二人が口を挟む問題じゃない…」

「そりゃ、そうかもしんねぇけど…オレは心配なんだよ…。ミロカロスはシンヤが絡むと、なんつーか…怖ぇ…」

「言っとくけどなぁ!シンヤに執着無くしたミロカロスなんて何の役にも立たねぇから!!その異常な執着があってギリ使える奴だからコイツ!!」

 

再び睨み合った二人を見て小さく溜息を吐く。

黙って傍観していたエーフィが「分かりましたよ」と小さく言葉を零した。

 

「「……」」

「ブラッキーはミロカロスが報われず泣く毎日を送る事を可哀想だと思っているんですよね?毎日が不安だからミロカロスの行動や発言が異常だと思ってる」

「うん、まあ…」

「ミミロップはミロカロスが今のままシンヤさんの為だけに生きる方が良いと思っているんですよね?シンヤさん以外に関心を示さないミロカロスのままで良いと思ってる」

「ああ」

「ミロカロスはシンヤさんと一緒にシンヤさんの為だけに生きたいと思っているんですよね?でも、シンヤさんが自分だけを見てくれないのが不安で堪らない…だから行動や発言に制御が利かなくなる」

「ぅ、あ…ッ、ぇぐ…」

「これを踏まえて、サマヨール…どう思います?」

「主が受け入れれば全て解決するな…」

 

予想通りの答えだったのだろう、エーフィは満足げに頷いてみせた。

そう、全て主が受け入れれば話は解決する。

不安で堪らないというミロカロスに主が安心するような言葉を掛けて、共に生きようと…まるでプロポーズでもするかのようにミロカロスにそう言えば全ては丸く納まる。

そんな事、最初から分かっていたのだが。

ミミロップとブラッキーは盲点だったと言わんばかりに口を大きく開けた…。

 

「悪いのシンヤじゃん!!」

「テメェ!!シンヤは悪くねぇだろ!?」

「いや、ハッキリしないシンヤが悪い!」

「違うね!!それを言うならシンヤに勝手に惚れたミロカロスが悪いんだよ!!」

「ああ、それもそうだ。シンヤは巻き込まれただけか」

「だろー!!ってわけで、低能テメェが全て悪い!!」

「、うあぁぁぁ…ッ!!」

 

お前が悪い、と今度は二人から責められてミロカロスが泣いた。

ミロカロスの背を擦った時、部屋の扉が開く。少し驚いた表情でこちらを見る主はすぐに不快そうに「なにやってるんだ…」と言葉を漏らした。

 

「くだらない戯言ですよ」

 

フン、と鼻で笑ったエーフィ。

泣きながらも体を起こしたミロカロスが主へと視線をやった。

 

「なんだ、何で泣いてるんだお前は…」

「シンヤ…ッ、ごめ、なさぃ…俺様がッ、勝手、に…スキ、に、なった、から…ッ!!ごめ、んなさッ…!!」

「なんなんだ本当に…」

 

眉間に皺を寄せた主がそのまま首を傾げた。この状況を把握しきれないのだろう、無理もない…。

 

「よく分からないが、まあそれはどうでも良い」

 

ケロリとこの状況を投げ捨てた主。

信じられないとばかりにミミロップとブラッキーが驚愕の表情を浮かべた。

なんとも主らしい対応だ……。

 

「さっきトゲキッスに言われて気付いたんだけどな、どうやら私はミロカロスの事が好きらしい」

「「「…はぃ?」」」

「…俺様?」

 

頷いた主はミロカロスを見て少し照れたように視線を逸らした。

これは、主らしくない…珍しい光景だ…。

 

「まあ、そういう事だ」

 

それだけを伝えに来たらしい主は部屋から出て行った。

唖然としたまま、隣へと視線をやれば同じようにエーフィが目を何度か瞬かせて口元に引き攣ったような笑みを浮かべた。

 

「ぇ?なんですか今の…?」

「主の愛の告白…だと思うが…」

「おおおおお!!究極のデレが来たぞぉおおお!!」

「いや、待て!!両想いだとかそんな薄ら寒い展開だとワタシは物凄く嫌だ、腹立つ!!」

 

キョトンとした表情で叫ぶブラッキーとミミロップを眺めているミロカロス。

そのミロカロスに良かったな、と声を掛けると予想に反してミロカロスはキョトンとした表情のまま首を傾げた。

 

「何が?」

「何がって…シンヤさんに好きって言われたんですよ?嬉しくないんですか?」

「え?でも、シンヤは俺様の事ずっと好きだったんじゃないの?」

「なんですかその自意識過剰な態度は!!ミミロップに同意したくありませんがね、腹立たしいですよ!!」

 

いや、エーフィ…。

自意識過剰でも何でもないと判明したのだから腹を立てるのはどうかと思う…。

ミミロップとエーフィが意気投合してムカつくムカつくと言葉を発している、やはり皆…主の事が好きなんだな…。

いや、それよりもだ…。

キョトンとした表情のままのミロカロスの傍に腰を下ろしてミロカロスと視線を合わせる。

 

「ミロカロス」

「…ん?」

「主はな、手を繋ぐのもキスをするのもミロカロスだけだと言って来たんだ…」

「…………」

「この意味が理解出来るか…?」

「……こ、恋人同士?」

「その通りだ」

「ヤッター!!!ヤ、ヤッター…?あれ、でも何で?何で?何で?」

 

何で…と聞かれても流石に自分は主では無いからな…主の心情は知りかねる…。

 

「あぁッ!!でもダメだ!!」

「何故だ…?」

「恋人同士でもな、男同士だとな、こーび出来ないってブラッキーが言ってた!!」

 

涙を溜めながら言ったミロカロスの言葉を脳内でもう一度確認する…。

こーび?こーび…こうび、交尾…?

 

「恋人同士のこーびは大事なことなんだって…ッ、でも男同士は出来ないから…!!ちゃんとした恋人同士にはなれないんだ…ッ!!」

「……」

 

こんな事を自分の口から伝えるのは気が引けるが…教えてやるべきなのだろうか…。

男同士でも体の交わりは可能だという事を…。

いや、しかし、流石に…、教えた後にどうやってするのかという具体的な内容を聞かれると…。言葉としては非常に伝え難い…流石に自分にも羞恥心というものが…。

いや、でもここは、恥を忍んでミロカロスの為に口に出そう…!!

 

「ミロカロス…」

「…ぅえ?」

「男同士でも交尾は可能だ…」

「……ぇ、え!?どうやって!?!?こーびってどんなの!?!?」

「…待て、今から…腹を括る為に深呼吸をしたい、少し待ってくれ…」

「え?え?え?」

 

*

 

「今日の夕食にな、揚げだし豆腐を食べたい」

「揚げ物ですか?」

「フライパンで揚げずに揚げだし豆腐だ」

「それだと焼きだし豆腐ですわ、シンヤ…」

「でも、名前は揚げだし豆腐。揚げなくても出来るんだから楽だろ」

「本当は揚げる物なんですね」

「私は揚げて作った事ないけどな、片栗粉をまぶしてカリッと焼くんだ。豆腐の水気を切っといてくれ」

「かしこまりました」

 

洗濯物を畳みながらチルタリス達とシンヤの話を聞いているとリビングにミロカロスさん達が入って来た。

ツバキさん達が帰るってなった時も部屋にこもったままで出て来なかったし、それから随分と経ってるのに何をしていたのだろう…。

少しだけ疑問に思っているとパソコンをしているシンヤの傍をミロカロスさんがウロウロしてる…。

 

「……」

「……」

「…なんだ?何か用か?」

「…ッ!?え、や、あの…ぇと…なんでもないッ!!!」

 

顔を真っ赤にしてミロカロスさんがリビングから飛び出して行った…。

シンヤがミロカロスさんの事を好きだって分かったから一応伝えてくるって言ったのは聞いたけど…どんな伝え方したんだろう。相手を赤面させるほどの口説き文句ってどういうのかな…。

 

「…なんなんだ…」

 

どんな口説き文句なんだろう。

凄くカッコイイ言葉とか言ったのかもしれない!!さすがシンヤだ、カッコイイなぁ!!

 

*


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告