一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

82 / 221
20

「ツキさん、今日はありがとうございました!」

「おー、気にすんな!困った時はお互い様だろ!」

 

ポン、とサトシの肩を叩いたブラッキー。

何のことかは分からないが"何か"あったんだろうな。

ちなみにサトシは日が暮れてからポケモンセンターに戻って来てカスミに「もー!」と怒られていた。

そしてサトシ達と別れ部屋に戻った所でその"何か"の話になる。

あと人の姿ばっかりで部屋が狭い。

ジョーイは私に一人部屋を貸してくれたようでベッドは一つ。他の部屋よりはマシかもしれないがやはり狭い。

 

「で、何があったんだ?」

「うん、変な女の二人組が人間に化けたポケモンを追ってた」

「あのポケモン、何のポケモンなんでしょうね」

 

変な女の二人組…。

そう言われてコジロウの言っていた"ザンナーとリオン"という名の泥棒二人組を思い出した。

 

「狙ってる宝はこの場所だとどう考えてもこころのしずくだろ?…となると、やはり追っているポケモンはラティオスとラティアスか」

「なんです、狙ってる宝とかいうのは」

「ああ、実はな…」

 

お互いに知った状況を繋ぎ合わせると何とか把握出来た。

ザンナーとリオンは泥棒でこころのしずくを手に入れる為にラティアスとラティオスを追っている。ちなみにブラッキー達が見たのは少女に化けたポケモンだったのでラティアスの方だという事にした。

こころのしずくを手に入れる為にはラティアス、ラティオスが必要なのだろう。そこの所はよく分からないが宝の在り処を知る為かもしれない。

 

「きっと何かあるんですわ、このアルトマーレに昔からあるものとかそんなのから探したらどうです?」

「昔からあるものって、あの大聖堂にあった機械とか?」

 

コテンと首を傾げたミロカロス。

なるほど、と頷けばブラッキーが「オレも見たいなー」と素直な感想を述べた。

 

「今から見に行きましょう!!」

「今からですか!?」

「だって、泥棒ならやっぱり盗むといったら夜に行動ですもの!」

 

そうかもしれないが…。

見張り見張り!!と言って私の腕を引っ張るサーナイト。今から行くのか…、もうこんな遅いのに…、徹夜で見張るのか…。

 

「嫌だ…寝たい…」

「さ、カバンを持って行きますわよ!!」

「俺様、今日見たから別に良いー…」

「あら、じゃあワタクシがシンヤと夜のデートに…」

「ダメ!俺様も行く!」

 

行くのは決定なのか…。

溜息を吐いてカバンを肩に掛けた。

 

「何にも無さそうなら帰るからな!」

「泥棒が来たらどうするんですの!」

 

今日来るとは限らないだろ、明日か明後日かもしれないじゃないか…。

 

「面倒なことになった…」

 

*

 

大聖堂の近くで座り込み夜空を見上げる。

重たい瞼を擦り、欠伸を漏らす。

帰って寝たい。その一言しかないな…。

菓子類を広げて小規模な宴会を開くサーナイトとブラッキー。

ただ遊びに来ただけじゃないか、と思いつつ缶コーヒーを手に取った。

 

「シンヤさん…」

「なんだ…」

「言ったらびっくりしますよ」

「言ってみろ」

「泥棒が来ました」

「……、…何ッ!?」

 

本当に来たのか!!!!

キタキタキター!とハシャぐブラッキーの口をサーナイトが笑顔で塞ぐ。

嘘だろ、そんな出来過ぎた話があってたまるかと見てみればアリアドスの背に捕えられたラティオスが担がれ運ばれている。

クルーザーに乗ってた変な女の二人組…間違いない…全てが大当たり過ぎてなんか逆にガッカリするな。予想も期待も裏切らないとはまさに…。

大聖堂に入っていった二人を追って私たちも後に続く。

中の様子を窺うと大聖堂の中央に位置する場所にラティオスが置かれていた。

どういう仕組みか、あの動かないと言われていた機械が動きだした…。

 

「うごい…!」

「声を出すな…」

 

ミロカロスの口を片手で塞いで様子を見る。

あの機械が一体なんだと言うのか、こころのしずくを手に入れたのかもよく分からない。

 

「これは!?お前らなんという事を!!」

 

誰だ。

なんか顔の丸い老人と帽子を被った少女が現れた。

あの少女、ラティアスが化けていたモデルの人間ですわ。と言ったサーナイトの言葉から考えるとラティアスと知り合いの人間なんだろう…。

ラティアスは化けられるがミロカロスたちみたいに人の姿にはなれないのかもしれない。

老人と少女が倒れた。

ザンナーとリオン、どちらかのポケモンなんだろうエーフィからサイコキネシスをくらったらしい。

 

「さて、どうするか」

「何をするか見物ですわね!」

「見てるだけで良いのか?」

「あの機械、どう動くか気になりません?」

「「「「…気になる!」」」」

「えー…!?い、良いんですか…、そんな事言って…」

 

オロオロとうろたえるトゲキッス。

まあ、トゲキッスの言ってることも分かるがやっぱり少しな…気になるし…。

 

「動いてから止めるという事で行きましょう」

「賛成だ」

「動いたの見たらぶっ壊して良いよな!」

「シンヤまで~…」

 

女が機械に近付くのを眺める。

取り返しがつかなくなったらどうするんですかー…とトゲキッスはまだ納得出来て無いらしい。

- ぴちょん -

水の音が聞こえたと思ったら機械が活発に動き出した。

女が歓喜の声をあげる、私たちも離れた所から「おぉー…」と密かに声をあげた。

本格的にいつ動かすのか、どういった機械なのかとか気になる事があってなかなか出るに出られない。

老人と少女がアリアドスの糸に捕えられているのを見てトゲキッスが「ああああ」と情けなく声を漏らした。

 

「好奇心が勝ってしまうこの感じ、申し訳ないな…」

「良いじゃないですか、どうせ知らない人間ですし」

 

エーフィ、その言い方は少し冷たいぞ。

でも助けに出ない私も私だが…。

助けに行きましょうよー…とトゲキッスが私の腕を揺する。しかし、まだ機械が動いてないので「よし」とは頷けない。

 

「あ、なんか乗り込むっぽい…!」

「やっとか!」

「乗り込んでからじゃ手遅れになるかもしれないじゃないですかー…!」

「まあまあ、様子を見るのは大事ですわ!」

 

見過ぎですよ~…!とトゲキッスがめそめそと嘆く。

横でミロカロスが俺様も乗りたいなぁと声を漏らした、それにブラッキーもオレもオレもと賛同する。

どういう機械なのか分からないのではさすがに私もとは言えないな…、乗って酷い目に合うかもしれないし。

 

「あぁ!ラティオスが目を覚ましましたよ!助けに行きましょう!」

「もうちょっとだって!今から動くんだから!」

「えぇー…!」

「お!乗った!!」

 

ブラッキーに押さえられてトゲキッスがさめざめと顔を両手で覆った。

女の一人が機械へと乗り込む、どうにも形状からどんな機械か把握出来ないな…。

どういう風に動くのか見ていると機械に乗り込んだ女は前に手をかざした。特に機械自体が動く様子は無いな…そう思った時に大聖堂の化石がみるみる生きたポケモンの姿へと戻った。

 

「化石を復元…!?」

「プテラとカブトプス!すげぇじゃん!」

 

凄い凄いと感動しているとトゲキッスに頬を突かれた。

 

「ラティアスを捕まえに行っちゃいましたよ!」

「そうだな…もうそろそろ助けに…」

「いや、もうちょっと!!次はなにやるか見よう!!」

「どういう仕組みなんでしょうね」

「不思議ですわー」

「俺様も乗りたい…」

 

肩を落としたトゲキッスはしゅんといじけてしまった。

三角座りをして体を小さくしたトゲキッスの背を擦る、ごめんな、と謝れば涙目で睨まれた。

 

「機械動いたー!!」

「いや、でも、もうこの街は私のものよーとか言ってますけど」

「泥棒が目的だったんじゃないんですの?街の支配が目的ならまずいですわ…」

「あちゃ、失敗したか!」

 

少し後悔し出した所でトゲキッスが「遅いですよ!」と怒鳴る。

ごめんごめん、と軽いノリで謝るブラッキーにトゲキッスが「あんなに言ったのに~…」と涙ながらに訴える。

 

「よし、ラティオスを助けに行くぞ」

「「おー!」」

「放って置いたら死ぬんですか?」

「知らん」

「というか、どうしてラティオスとラティアスを捕まえる必要があるんですの?」

「知らん」

「なんでも良いから早く助けに行きましょうよー!!」

 

よし行くぞ、と立ち上がった所でラティオスの苦しげな声が聞こえて来た。

ああ、これは最悪だ…。

のんびり見物なんてしてる場合じゃなかったな。本当にこれ以上は手遅れになるかもしれない。

 

「あの機械の動力がラティオスだ、機械を使い過ぎるとラティオスの体が持たん!」

「マジで!?やべぇじゃん!!」

「ああ、放って置いたら死ぬんですね」

「あらあら、それでラティアスも捕まえたいというわけですのね」

「手遅れになっちゃいますよー!!!」

 

わぁぁん!!と嘆くトゲキッス。

合図を出せばミロカロス達は一斉にポケモンの姿に戻った。

 

「エーフィ、サーナイト、機械にサイコキネシス!!」

「フィィイイ」

「サナァアア」

「な、なによぉ!?」

 

ガクンと大きく揺れた機械、ラティオスが捕えられている限りは完全に停止させられるわけじゃないようだ。

機械に乗っている女が悲鳴をあげた、下から機械を眺めていた金髪の女がこちらを睨んでくる。

 

「邪魔が入ったってわけね!!良いじゃないの!!エーフィ、サイケ光線!」

「ブラッキー、悪の波動」

「フィー!」

「ブラァアア!!」

 

エーフィの攻撃を跳ねのけてブラッキーの攻撃がエーフィに直撃する、糸を吐いてきたアリアドスの攻撃をブラッキーと共にバク転をして避ける。カバンが重くて少し邪魔。

 

「トゲキッス、エアスラッシュ!」

「キィィッス!!」

 

アリアドスが目を回して倒れる。そのまま蜘蛛の糸に捕えられた老人と少女の方に視線をやって指を差し合図を出せばトゲキッスが糸を切断した。

 

「ぉお!」

「あ、ありがとうございます!」

「いやぁあん!!何すんのよぉ!!」

 

キーキーと喚く女を無視してミロカロスに視線を合わせる。コクンと頷いたミロカロスを確認してからラティオスの方へと視線をやった。

 

「ハイドロポンプ!」

「ミロォオオ!!」

「ダメダメダメー!!」

 

ミロカロスの邪魔をしようとした女の手を掴んで止めればキッと睨み付けられた。

アリアドスと敵のエーフィが倒れてトゲキッスとブラッキーもラティオスを解放する為に攻撃をしかける。

 

「邪魔してんじゃないわよぉ!!」

「そっちこそ、面倒な真似をしてくれるな」

「なにを…ッ、…ぁ、あら?」

「なんだ」

「え、ちょ、シンヤじゃない?」

「……」

「やぁだぁあ!!あたし、シンヤのちょーうファンなんだけどぉ!!いやーん!!こんな所で会えるなんてラッキー!!」

 

勢いよく抱き付いて来た女に思わず体勢を崩されて後方に倒れ込む。

腰に激痛が!!と思っていても女はどかないし抱き付いて顔を近付けてくる、あんまり化粧が濃い感じの女は好きじゃないから微妙な気分だ…。

 

「ミロォオオオ!!」

「「!?」」

 

怒ったミロカロスが私の上に乗る女を体当たりで突き飛ばした。お前、体当たり覚えてないけどな…。

主力が抜けた事で「ちょ、オレ達だけとか無理なんだけど!!」とブラッキーが喚いている。トゲキッスなんて半泣きだと思うぞ。

 

「ミロカロス、攻撃を続けろ!」

「ミロ」

 

コクンと頷いたミロカロスは女に向かってまた体当たりをする。

悲鳴をあげて女が逃げ回っている…が…。

 

「いや、そっちじゃない!!」

 

あっちあっち!!と指差せば不満気な視線を向けて来た。

今、それどころじゃないだろうが…!

 

「フィィイ!!」

「サナサナァ!!」

 

早くしろ!と二人も怒鳴る。機械を押さえているのが相当疲れるんだろう…。

二人にも怒鳴られ渋々といった様子でミロカロスは再びラティオスを助ける為の攻撃に加わった。

攻撃をすればするほど跳ね返されているらしくブラッキー達も苦戦している。

電撃の一発でもあれば爆発を起こせそうなものなんだけどな、あいにく電気技を使えるミミロップが不在…。ライチュウが居ればもっと楽なのにな…。

しかし、あのラティオスを捕まえている"アレ"を見ると嫌な思い出しかよみがえってこないな。ジラルダンを思い出す…。

まあ、ジラルダンの使っていたコレクション用の捕獲網よりも今回の方が頑丈みたいだが。

 

「このこのこのぉ!!邪魔しないでよ!!」

「フィィ…!」

「サナァ…!」

 

機械に乗っている女が必死に機械を動かそうとしているらしい、エーフィとサーナイトが苦しげに声を漏らした。

捕えられているラティオスもどんどんと衰弱していっている…。

 

「しょうがない、私が女を引き摺り出す!」

「フィー!」

「サナ!!」

 

絶対に動かすなよ!と視線で釘をさしておいて面倒な形をした機械をよじ登る。今、私…エイパムみたいだろうな…。

 

「よ、っと…」

「リオーン!!シンヤがそっちに言ったわよぉー!!サイン貰っといてぇ!」

「今それどこじゃないわよ!!アリアドス!!その男を捕えなさい!!アリアドス!!」

 

アリアドスなら伸びてるぞ、とは言ってやらないが球体のコントロール室へと辿りついた私は女に手を伸ばす。

 

「出て来い!!」

「嫌よ!!邪魔しないで私は世界を征服するんだから!」

「馬鹿な事を言ってないで降りろ!!」

「い・や・よ!!」

 

女が抵抗すると機械がガクンと大きく揺れた。危なく落ちる所だ。

下から見ていた金髪の女が声を掛けてくる。

 

「シンヤー、もっと優しく甘い言葉で言ってあげないとぉー!」

「…はぁ!?」

「ほら優しく甘い言葉でぇ!!」

 

優しく甘い言葉ってどんな言葉だ…!!

少し考えてから小さく咳払いをしてからこちらを睨む女に視線をやった。

 

「危ない事はもうやめて、下に降りて来てくれないか…。そんな所にいつまでも居られるとお前の綺麗な顔がよく見えないだろ…」

「…ッ、ぅぐ!!!」

「いやぁあああん!!!素敵ぃいい!!!」

 

女が顔を真っ赤にしたが私も多分、顔が真っ赤だ…。

照れてるー可愛いー!!と下からヤジが飛んできて余計に恥ずかしくなる…!!

 

「シンヤー!!こっち向いてぇー!!」

「うるさい黙れ!!」

 

怒鳴った時に機械がぐわんと先ほどの比じゃないほど大きく揺れて動き出した。

なんでだ!と思ったらエーフィがその場で体を丸めて震えているしサーナイトが両手で口元を押さえてこちらを凝視している。

畜生、そんなに笑うか…!!!

 

「フィ、ィ、フィーッ…!!!」

「サナサナーッ!!」

 

ラティオスの方はと見ればそっちはそっちでブラッキーが床を転げまわっているしミロカロスは泣いているし、トゲキッスだけはうろたえながらも攻撃を続けていた。

羞恥心で死ねるかもしれない!!!

 

「今のうちー!!」

「あ!?待て、やめろ!!」

 

女が機械を動かそうとした時に「ラティオスー!!」と声を発してサトシが大聖堂へと入って来た。

 

「サトシくん!!」

「カノン!ボンゴレさん!!大丈夫ですか!!」

「ええ、私たちは平気!でもラティオスが!!あのトレーナーさんが助けてくれてるんだけど…!」

「え、あ、シンヤさん!!」

「サトシ!!ラティオスを早く助けろ!!ラティオスを助けないと機械が止まらないんだ!!」

「わ、分かった!!」

 

慌ててサトシがピカチュウに十万ボルトの指示を出す。それを見てブラッキーとミロカロスもなんとか攻撃を再開した。

小規模ながら爆発が起きる、吹き飛ばされてブラッキーがころころと床を転がって行った。

サトシ達が檻からラティオスを引き摺り出すと動力源を失った機械が動きを停止させた。

停止した機械から女の腕を掴んで引っ張り出せばムスッとした顔で私を睨んだ。

 

「リオン!!大丈夫?」

「よくもやってくれたわね、許さないわ!!」

「うるさい!」

 

女から手を離してすぐさま距離を取ればミロカロスのハイドロポンプがリオンと呼ばれた女を吹き飛ばした。

金髪の女が悲鳴をあげたがその金髪の女もミロカロスの尾に思いっきり弾き飛ばされて二人揃って気を失っている。

 

「ミロォ!!」

「よし」

 

フン、と満足気に胸を張ったミロカロスがチラリとサトシ達の様子を見てから人の姿になった。

こんな所で人の姿になるとバレるぞ…とは思ったがまあバレても特に支障は無いけどな。

 

「う~…」

「なんだ」

 

抱き付いて来たミロカロスがぐりぐりと顔を押し付けてくる。

 

「シンヤにぎゅってするのは俺様だけなんだ…」

 

なんでそんなこと勝手に決めるんだ。

ぺしんと軽く叩いてからミロカロスの頭を撫でてサトシ達の方へと向かう、カバンを開いてラティオスの傍にしゃがみ込めばサトシが情けない声で私の名前を呼んだ。

 

「シンヤさん…ラティオス、大丈夫だよな…?」

「ああ、大丈夫だ。これぐらいならすぐに良くなる」

「…!! 良かったなラティアス!シンヤさんはポケモンドクターだからもう安心だぜ!」

「ティァー!」

 

ラティオスの治療をしているとタケシとカスミが大聖堂へと入って来た。

その二人を見てからボンゴレさんというらしい老人が思い出したように声を発した。

 

「こころのしずく!!」

「あ!!」

 

カノンという少女も大きな口を開けて機械の方へと振り返った。

そこには機械に乗りたかったらしいミロカロスが人の姿で球体のコントロール室の上に座り込む姿が見えた。

そんなに乗りたかったのか…でも、それはもう動かないぞ…。

危なっかしい足取りで機械の上を歩いて何かに手を伸ばすミロカロス。

 

「なんだ?」

「それを触ってはいかん!!」

 

ボンゴレさんが声を荒げたがミロカロスは"それ"を片手で取って、しげしげと眺めている。

両手を使って持ったそれは私にはどんなものなのか確認出来ないがミロカロスが目を輝かせて見ている所を見るとミロカロスの好きな類のものなんだろう。

 

「なにも、起こらんのか…?」

 

悪しき者 こころのしずくを使う時 こころは穢れ しずくは消える この街と共に…。

ポツリとボンゴレさんがそう呟いたが特に変化は見られない。

 

「シンヤー、見てこれー、綺麗ー!!」

 

ミロカロスがかかげて見せたそれは青い光を放つ玉だった。

横になっていたラティオスがその玉を見て安心したように声を漏らした、あれが"こころのしずく"ってやつか。

 

「どうして…?どうして穢れて消えなかったの…?」

「ミロさんの心が穢れを祓うほど綺麗だったってことかもしれないな!」

「……」

 

いや、むしろ人間じゃなくてポケモンが手に取ったから…の方が説得力があるような気もするが…。

機械の上から飛び降りたミロカロスがこちらに走って来る。

 

「それはちゃんと返せよ」

「えー…」

 

口を尖らせながらミロカロスがカノンという少女にこころのしずくを差し出すが少女は戸惑ったように受け取ろうとはしない。

穢れるかも、という気持ちがあるんだろう。

 

「…?はい、どうぞ?」

「あ、ありがとう…」

 

おずおずと少女がこころのしずくを受け取ったが特に変化は無い。

ほっと息を吐いた少女はこころのしずくを見下ろして安心したように笑みを浮かべた。

ラティオスの治療が終わって荷物を片付ける。

小さく会釈をしたラティオスに頭を撫でて返す、ああ、それにしても眠い…そう思って時計を見てみればもう日付けは変わってるうえに夜明けだ…。

一睡もしてない…。

ガクン、と頭を垂れればラティオスが心配したように顔を覗き込んだ。

 

「大丈夫だ…」

「ティォ…」

 

エーフィとサーナイトも疲れてるらしく目も眠たそうだ。トゲキッスは無事に解決したことを素直に喜んでいる、ブラッキーはまだ気分が高揚したままなのか早朝なのに元気だった。

 

「帰ろう」

 

私がそう呟けばエーフィとサーナイトがコクンと頷いた。

サトシ達に引きとめられたがこのまま帰るから、と言ってその場からさっさと離れる。

一度ポケモンセンターに寄ってから家に帰ろうと港まで歩いていると屋根の上から人間が降って来た。

 

「ハァーイ」

「……」

 

ヒラヒラと目の前で手を振る女を見てミロカロスが「ぎゃ!」と悲鳴をあげる。

ロープで縛って放置しておけば良かったと後悔しつつ女から視線を逸らして歩く。

 

「シンヤー、サイン頂戴ってばー」

「私は別に要らないんだけど、お金になるから!!」

「ジュンサーさんに連絡だ、ミロ」

「オッケー!!」

「「わぁあああ!!」」

 

ミロカロスを二人掛かりで押さえつけるザンナーとリオン。この犯罪者をどうしてくれようか…。

 

「サインくれたら居なくなるから、ね?」

「逮捕されるべき人間だろう」

「そんな意地悪なこと言わないでよ~」

 

サインは書かない、と言いきればザンナーは頬を膨らませた。

 

「ほら、もう行くわよ!」

「分かったわよぉ~、じゃあねぇシンヤー」

「捕まってしまえ」

「い・じ・わ・る・!」

 

ツンと私の鼻をつついたザンナーの手を払いのけるとザンナーはムッと不満気な顔をしたがすぐにニヤリと口元に笑みを浮かべた。

ずっとファンだから、と呟いたザンナー。肩に手を置かれたかと思えば頬に唇を押しあてられた。

ちゅ、と音がしたかと思うとザンナーはリオンの手を引いて走って行った。

 

「バイバーイ、シンヤー!!まったねー!!」

「ちょっと何アンタだけ良い思いしてんのよ!!」

「早い者勝ちー」

 

屋根を伝って走って行く二人を呆然と見送った後に溜息が出た。

疲れてるのに余計に疲れた…。

 

「ぎゃぁああ!?!?口紅付いてるー!!」

 

ティッシュ、ティッシュ!!と私のカバンからティッシュを取り出したミロカロスが私の頬を拭く。

別に自分で拭くのに、と思っているとその拭く力がありえん…。

 

「痛い痛い痛い!!!」

「うわぁああああ!!!」

「痛い!やめろ!!頬の肉が削げる!!」

「口紅がぁあああ!!!」

「痛ッ、落ち着け!!ミロカロス!!!やめろ!!」

「消毒液!!消毒液、飲んで!!」

「飲む!?!?」

 

*

 

家に帰宅すると出迎えてくれたミミロップ、サマヨール、チルタリスがポカンとした表情で私を見た。

 

「シンヤ、その頬…どうしたの…?」

「鬱血している…」

「大丈夫ですか、ご主人様…」

 

心配してくれている三人に大丈夫、とあまり大丈夫ではない返事をしてリビングに入りソファに座る。

カバンからボールを出せば勝手に出てくるポケモン達、ポケモンの姿から人の姿に変わった連中を見てまた溜息を吐いた。

 

「ミミロップ、医薬用のエタノール持ってきてくれ」

「はーい」

 

特に何を言うわけでもなくエタノールを取りに行ったミミロップ、すぐに戻って来てテーブルにエタノールの瓶を置いた。

その横にガーゼとピンセットも添えてくれたがそれは必要無い。

 

「手当てするならワタシがしようか?っていうか、それエタノール使う怪我?鬱血でしょそれ」

「いや、これを飲む」

「……」

「……」

「何言ってんの」

「医薬用のエタノールなら飲めるだろ、酒だし」

「飲めるけど…。飲むもんじゃないの分かってる?」

「分かってる」

「え、やめようよ。お酒が飲みたいなら買って来れば良いだけじゃん」

「飲まないと私の頬が無くなる」

「ごめん、ホント意味分かんないんだけど…」

 

目の前に座るミロカロスがじー…と私を見つめている。その目は本気だ、それも悪意なんて微塵も無い…。

純粋無垢…今の私に立ち塞がる敵だ…恐ろしい…。

 

「飲むぞ!!」

「うん!!!」

「え、シンヤ!?マジで飲むの!?」

 

小さなコップの半分くらいまでエタノールを入れて一気に飲み干した。

 

「でぇえええ!?!?アルコール濃度どんだけあると思ってんのぉおお!!!!」

「っがはぁ!!!喉が焼ける!!!!」

「消毒されてる!?綺麗になった!?!?」

「な、った…!!!」

「良かったー!!!」

「何言ってんの!?何言ってんの!?ちょ、シンヤ!!ぶっ倒れるって!!マジありえねぇ!!」

 

喉が焼ける、激痛だ。

しかも物凄く不味い…!!!

 

「水…」

「ちょ、待ってて!!すぐ持ってくるから!!」

「シンヤ、大丈夫…?」

「だい、じょ、ぶ…」

 

じゃない。

 

「なんで飲んだ!!エタノールなんで飲んだ!!飲むもんじゃねぇだろシンヤのバカ!!」

「……」

「医薬品のエタノールだからアルコール濃度95%くらいあるだろ!!?」

「…ぁる」

「なんで飲んだー!!!」

「……」

 

もう他に手段が無かった。

返す言葉も無かったし…私にはどうすることも出来なかったんだ…。

 

「どうしよう!!シンヤのほっぺが腐ったらどうしよう!!やだよ!!シンヤ!!シンヤが腐って死んじゃう!!」

「なッ!?」

「死なないでシンヤ!!シンヤが死んだら俺様も死ぬけど!!まだ一緒に居たいよ!!死なないでシンヤ!!」

「大丈夫だ死なん!!」

「そ、そうだよね!!消毒液ちゃんと飲んだら大丈夫だよね!?死なないよね!?」

「あ、ああ…」

「持ってる?」

「家に、ある…」

 

「どう、しても、逃げられなかっ、た…」

「何が!?ちょ、大丈夫なわけ!?シンヤッ?!シンヤーッ!!!」

 

近くに居るはずなのに遠くの方から声が聞こえているような気がする……。

ミミロップとミロカロスの悲鳴が重なっていたような……。

 

「シンヤが気絶したぁああああ!!!」

「うあああああ!!!シンヤー!!!死んじゃやだぁあああ!!!」

 

*

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告