一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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シンヤが熱を出した。

昨日、帰って来てすぐにエタノールを少量とはいえ一気に飲んだからだと思う。勿論、疲れてたっていうのもあると思うけどさ…。

 

「自業自得だからな!」

「…」

 

頭が痛いのかシンヤはワタシの言葉に頷きながらも顔を歪めていた。

朝、起きて来ないと思ったらベッドの上で死にかけてたとか洒落にならないんだけど…本気で動けないらしいシンヤを見て小さく溜息を吐く。

シンヤが熱を出してまず発狂したのがあの馬鹿。無理やりボールに押し込んでテープでぐるぐる巻きにしてカバンの中にしまってやった。

サマヨールがやり過ぎだって言ったけどミロカロスが居たんじゃシンヤはずっと治らない、アイツは余計なことをし過ぎるからと言い放って看病を引き受けたけど…。

 

「服、着替えたいよな…さすがに…」

 

汗でぐっしょりと濡れたシャツ、着替えさせて体も拭いてやりたいんだけど。

シンヤの体が持ち上がんないんだよ…!!!

力の入ってない人間ってめっちゃ重い!!無理、シンヤ意外と体重ある!!これワタシ絶対に無理!!!

 

「トゲキッスー!!サマヨールでも良いけどー!!どっちか来てー!!」

「オレは?」

「ブラッキーは雑に扱うから許さん。部屋に入るな」

「…ひでぇ…」

 

正しい判断です、とエーフィに言われブラッキーが更に落ち込む。

 

「オレだってシンヤが心配なのにー!!あ、シンヤの為にオレが代わりに仕事やっちゃおっかなー!!」

「余計に仕事増えるからやめろ!!大人しくテレビでも見てろ、それが出来ないならテメェもミロカロスと仲良くカバンに放り込む!!」

「……、二時間ドラマ見よう…」

「素直は良い事ですよ」

 

項垂れるブラッキーを追い払いエーフィからタオルと水の入ったペットボトルを受け取った。

何か用か、と声を掛けて来たサマヨールに頷き返す。

 

「シンヤが重たい」

「……」

「だから、着替えさせんのと体拭くの手伝って」

「持ち上げられなかったのか…意外とか弱いのだな…」

「蹴 り 飛 ば す ぞ !!」

 

足を踏みつければサマヨールが呻き声を上げた。

エーフィに「後は頼みましたよ」と言われて眉間に皺を寄せながら頷く、…けど、アイツ絶対にブラッキーと一緒になってテレビ見る気だな…。

シンヤの部屋へと入ればサマヨールがシンヤの顔を覗き込んで眉を寄せた。

 

「主…」

「早く着替えさせないと汗が冷えて余計に悪化するから」

「そうだな…」

 

小さく頷いたサマヨールがシンヤを軽々と起こして服を脱がせていく。

ワタシは上体も起こせなくて苦戦してたのに…なんだろ、やっぱ体格差って奴かな…。ワタシってそんな貧弱…?

 

「タオル…」

「あ、はい」

 

随分と熱いな、と不安げな声色を漏らすサマヨール。なんだかんだでコイツも結構シンヤのこと好きだよな。

 

「40度近くあるから、そりゃ熱いだろ」

「そうか…、そうだな…」

 

体を拭き終わって新しいシャツを着せる。

そのまま寝かせずにサマヨールがシンヤを抱き上げて抱えたのを見てワタシはすぐにベッドのシーツを一気に取った。

すぐに新しいシーツに変えて枕と布団も全部一式変える。綺麗になったベッドにサマヨールがシンヤを寝かせて終わり。

除菌スプレーを部屋に吹き付けてそのまま廊下の方まで除菌していく。

 

「そんなにしなくても良いんじゃないのか…?」

「え?でも、今、シンヤの免疫力低下してるし他の菌はちゃんと殺しとかないとなんかあったらどうすんの」

「いや、それもそうだけどな…」

「次、シンヤの部屋に入る時は除菌してからだからな」

「……」

「なんか文句あるわけ?」

「お前は本当に主が好きだな…」

「……はぁ!?」

 

シンヤが好きとか、まあ好きだけどさ。

そんな馬鹿にした様にサマヨールに言われたくないんだけど…!!

 

「サマヨールもシンヤのことかなり好きじゃん!!」

「まあな…」

「じゃあ、本当に好きだな…とか馬鹿にしたように言うんじゃねぇよ!!」

「馬鹿になんてしてないだろ…」

「した!!したっていうかそういう目で見た!!」

「…?感心はしたけどな…」

「か、感心…?」

「尊敬に近い、素直に凄い奴だと…思っただけだが…」

 

え、なに、ワタシ、今褒められてんの!?

何か不快な思いをさせたのか…?と言って首を傾げてくるサマヨール、何コイツ、褒めんの下手…!!!

 

「どうした…?」

「い、いや、別にっ!!」

「?」

「あー、もう仕事戻ってほら!!後はワタシが見とくから!!」

 

*

 

丸一日、寝込んだシンヤは次の日にのそのそと自分から起きて来た。

まだ熱があるものの意識はしっかりしているらしく朝食におかゆを少し食べてミミロップとサマヨールが片付けた書類に目を通した。

 

「シンヤ、大丈夫ですか?」

「……」

 

こくん、と小さく頷いたシンヤに苦笑いしつつトゲキッスはシンヤの前に薬と水の入ったコップを置く。

薬を飲んでフラフラとしながら部屋に戻るシンヤの背をトゲキッスは見守る。

大丈夫かなぁ、という言葉を心の中でトゲキッスが呟いた時にシンヤはリビングの扉の前でドサリと音を立てて倒れた。

 

「シンヤッ!!!!」

 

*

 

倒れたシンヤは昼ごろに目を覚ます。

看病していたサーナイトが目を覚ましたシンヤを見てほっと安堵の息を吐いた。

 

「シンヤ、あまり無理をしないで下さいよ…」

 

熱が下がっているのか軽やかな動きで起き上がったシンヤはサーナイトを見て首を傾げた。

 

「まだ寝ていた方が良いですわ」

「あぁ?誰だアンタ?」

「………」

「…だから、姉ちゃんは誰だっての。ここも何処だ…?」

「シンヤ…ですわよね?どどどどうしたんですの!?ワタクシ、サーナイトですわよ!ここはシンヤの家ですわ!!」

「サーナイト?ポケモンの名前付けるなんてアンタの親どうかしてんのか…?」

「シンヤの手持ちのサーナイトですわよ!?」

「…"俺"、サーナイトなんて連れてたか?あ、ラルトスは居たな…」

「みなさーん!!シンヤが変になってしまいましたわぁあああ!!!」

 

部屋から慌てて出て行ったサーナイトを見てシンヤは首を傾げた。

辺りを見渡せば「ああ、確かに家か」と何やら違和感を感じつつも納得してベッドから出る。立ち上がると少しばかりのまた違和感……。

 

「…あれ?俺…デカくなってる…?」

 

自分の手を見つめて眉を寄せる。

途中から記憶が曖昧だ、でも自分はまだまだガキだったような気がする。

 

「……ま、良いか」

 

考えると頭が痛い。それを理由に小さく欠伸をしてからシンヤは部屋を出た。見知らぬ家というわけじゃない、ただ違和感はあるが気にしなくて良いだろう。

自分が寝てたという事を考えると体調でも悪かったのかもしれない、とりあえず"いつもの日課"をやらなくては…。

 

「おい、さっきの自称サーナイト。俺の他に誰か…」

「ほらぁ!!変でしょう!?どう考えても別人ですわ!!」

「誰コイツら…」

 

リビングに集まる人の姿にシンヤはポカンと口を開けた。見知らぬ人間ばっかりでさすがにシンヤも動揺を隠せない。

そして変なシンヤを目の当たりにした連中も動揺を隠せなかった。

 

「え、シンヤさん…?」

「シンヤだけど、アンタ誰?」

「その口調!!その目!!わ、忘れもしません…!!!ポケモントレーナーのシンヤですね!?」

 

エーフィの言葉に他の連中はぎょっと目を見開いた。

シンヤはシンヤで首を傾げながら顔を歪めている。

 

「ポケモントレーナーだけどそれが何?」

「シンヤさんは何処に行ってしまったんです!?」

 

どうしよう、どうしよう、っていうかどうしたら!!!

混乱する連中を見てシンヤは眉間に皺を寄せる、誰だか本当に分からない。

 

「なんでも良いけど、俺のボールしらね?」

「ボール?モンスターボールですの?そんなものどうするんです?」

「トレーニングしねぇと」

 

ひぃぃ!!とエーフィが悲鳴を上げた。

あの地獄の日々が帰って来る、そう思っただけでエーフィはシンヤからすぐさま距離を取った。

 

「シンヤ、オレが誰だか分かる?」

「分かんねぇよ」

「オレ、ブラッキー」

「……ポケモンの?」

「そう。オレたちみんなポケモンで人の姿になれるの」

「……」

 

ホントかよ、と疑わしい目を向けてくるシンヤを見てブラッキーはシンヤの目の前でポケモンの姿に戻って見せた。

人間が急にポケモンになったのを見てシンヤは驚きの声をあげる。

 

「うぉお!?マジか!?」

「ブラァ!」

「ああ、俺のブラッキーだ…。間違いねぇ…人の姿になれるポケモンとか居るのかよ…」

 

ブラッキーを抱き上げてまじまじと観察するシンヤの目はまるで子供だった。

それもそのはず、シンヤの中に居るポケモントレーナーのシンヤはまだ10歳そこらの少年。

シンヤの中にある存在が外に出て来てしまっている。

人の姿に戻ったブラッキーがシンヤに視線を合わせる、急に大きくなったブラッキーに驚いてシンヤはその場で仰け反った。

 

「シンヤ、戻れー!!!」

「いてぇえええ!!!!」

 

ガツーンとシンヤに頭突きを食らわせるブラッキー。

シンヤは痛みに悶えるばかりで元のシンヤに戻る気配は無い。

 

「荒療治過ぎますわ…」

「これで戻らないんじゃ手詰まりだぜ!」

「それで本気で戻ると思ったブラッキーは凄いですよ…」

 

額を押さえて蹲るシンヤを見下ろしてからブラッキー達は顔を見合わせた。

 

*

 

シンヤにいつも通りのコーヒーを出したチルタリスはシンヤにギロリと睨まれる。

 

「"俺"、ブラックコーヒー飲めねぇんだけど…」

「え!?も、申し訳ありません!!では、何をお飲みになられますか…?」

「水、もしくはジュースで」

「じゅーす…」

 

あのご主人様が…いつものお姿のご主人様がジュースをご所望されている…。いつものカッコイイご主人様が良い…と思いつつもチルタリスは冷蔵庫にあるオレンジジュースをシンヤに出した。

ちなみに購入者はブラッキー。シンヤはあまりジュース類は飲まない。

 

「ストローは?」

「す、すぐにお持ち致します…!」

 

いつものご主人様のお姿でジュースを…しかもストローを使って飲んでる…なんか可愛らしい…とチルタリスは目に涙を溜めながらシンヤの姿を眺めた。

そんなシンヤをチルタリス同様に眺めるポケモン連中…。

ミミロップは顔を両手で覆って深い溜息を吐いた。

 

「あんなシンヤ、嫌だ…」

「昔は気になりませんでしたけど、やっぱり"子供"なんですね…」

「あんな奴だったなぁ、ってすげぇ思い出すわ…」

 

エーフィとブラッキーが揃えたように同じタイミングで溜息を吐いた。

トレーナーのシンヤをそこまで毛嫌いしているわけではないし、シンヤはシンヤだし…と特に不満も言えないトゲキッスとサマヨール。

 

「元に戻るまで技をかけて攻撃しまくりましょう、いつか戻りますわ!」

「そ、そんな事したらシンヤが死んじゃいますよ!!」

「トゲキッスさん!!そんな事を言っていたらシンヤは一生戻らないかもしれませんわ!」

「いや、でもシンヤは俺達みたいに頑丈な体じゃないし…怪我をしてもすぐ治るわけじゃないですから…」

 

トゲキッスの言葉に医療知識のあるサーナイトもさすがに言葉を詰まらせる。

薬ですぐに治ってしまうポケモンではない、シンヤが死んでしまっては元も子もない…。不満気ながらサーナイトは渋々引きさがった。

 

「今の主は一種の幼児化と考えて良いのか…?」

「幼児化っつーか、シンヤは元々ワタシ達とは違って人格を混ぜた状態の人間だったし…。多重人格の一人が顔を出したみたいな感じ…?」

「元のシンヤさんはどうやったら出て来るんですか…!!私は嫌ですよ、シンヤさんがもう戻らないなら私はツバキさんの所に逃げますからね…!!」

 

少しヒステリックに叫んだエーフィをブラッキーが宥める。

エーフィの頭をよしよしとブラッキーが撫でればエーフィは少し落ち着いたのか小さく息を吐いた。

 

「大丈夫か?」

「ええ、何とか…」

「良かっ…、どわッ!?!?」

 

げしっ、とブラッキーの背中が蹴られて座っていたブラッキーは顔から床に倒れ込む。

そのブラッキーを見てからエーフィは後ろを振り返ると腕を組んだシンヤが不機嫌な顔でこちらを見下ろしていた。

 

「な、なにするんですか…!?」

「あぁ?お前、誰だよ…人の姿になってると何のポケモンかホント分かんねぇな…」

「エーフィです!!それより、急に蹴飛ばすなんて酷いじゃないですか!!」

「別に俺のポケモンだろ。俺のポケモンを俺がどう扱おうとトレーナーである俺の自由だ。それよりお前らポケモンの姿に戻れよ、やっぱ日課のトレーニングやっとかねぇと感覚が鈍る」

「い、嫌です!!」

「ああ、お前は良いぜ。サーナイトが居るみたいだからそっちの方が使える」

「…なッ…!!!」

 

いつものシンヤの顔と姿。

見下してまるでポケモンを物のように扱うそのシンヤの姿にエーフィは絶句する。

大好きで尊敬するシンヤの顔で嘲笑い、シンヤの声で罵倒するこの男が憎い…。

 

「シンヤさんを侮辱されている気分ですよ…!!」

「はぁ?」

 

殺す!!とポケモンの姿で飛びかかろうとしたエーフィをブラッキーが慌てて抱きとめる。

暴れるエーフィを必死に抱きかかえてブラッキーがシンヤから離れた。

 

「落ち着け、エーフィ!!」

「フィィイイ!!!」

「シンヤが怪我したらどうすんだよ!!あれはシンヤだ!!今はトレーナーのシンヤだけどちゃんと戻って来るから!!」

 

必死にエーフィを宥めるがエーフィは放せと言わんばかりにブラッキーの腕に噛みついた。

これはヤバイと思ったのかミミロップがエーフィをボールに戻す。そのままテープを巻いてボールをカバンに突っ込んだ。

 

「…エーフィ…」

「危、ねぇ…!!エーフィのマジギレとかワタシ初めて見た…」

 

肩で息をしながら冷や汗を流すミミロップ。ブラッキーはボールの入ったカバンを見つめて眉を下げた。

何、今の?と首を傾げたシンヤ。

 

「少し混乱していただけだ…主は気にしなくて良い…」

「あー、うん?っていうか、お前は何のポケモン?」

「サマヨールだ…」

「ああ、サマヨールね!」

 

なるほど、とサマヨールの肩に手を置いて無邪気に笑うシンヤ。

その姿は普段のシンヤとはかけ離れているが今は懐かしい幼少時代のトレーナーのシンヤを思い出させる表情だった。

 

「シンヤ、貴方はもう25歳だという事をちゃんと分かっていますの?」

「俺?俺、25?」

「そうですわ、今はポケモンドクターをしているじゃないですの」

「え?俺、ポケモントレーナーだろ?…あれ、なんか頭痛ぇ…」

「ちゃんと思い出して下さいまし!!」

「あー…、あ!!」

「思い出しました!?」

「俺…、お前のこと姉ちゃんって言ったけど俺のラルトスってオスじゃん」

「……」

「オカマかお前、キモイな」

「ああ、シンヤ…貴方なら許して下さいますわよね…思いっきり殴りますわ…!!」

 

拳を握ったサーナイトを見てサマヨールが慌ててその手を止める。

シンヤなら許してくれますわ!と涙ながらに叫ぶサーナイト。キモイと言われたのが相当ショックだったらしい。

 

「シンヤ!!外、外に行きましょう!!俺がトレーニングに付き合いますから!!」

「誰、お前」

「トゲキッスです!」

「トゲキッスだけかー…カイリューいねぇの?もしくはミロカロス」

「はい、現在不在で…あ、ミロカロスさんは居ますけど…」

「ミロカロス出せよ、一匹だけじゃトレーニングにならねぇし、強いやつと戦わせねぇとな」

 

出して良いのかなぁ、と思いつつもトゲキッスはカバンからミロカロスのボールを取りだした。

テープを巻かれたボールを手に取って、ゆっくりとテープをはがす。

そのトゲキッスを見て、遅い!と言葉を発したシンヤはボールをひったくってテープを勢いよくはがしてボールを投げた。

ボールから出て来たミロカロス。

シンヤを見てボロボロと泣きながら人の姿になった。

 

「うわぁあん!!シンヤー!!」

 

飛びついて来たミロカロスをシンヤは思いっきり蹴っ飛ばす。

 

「、ッ……!?!?!?」

「そこのお前らもポケモンの姿に戻って庭に出ろ。とりあえずバトルだ」

「シンヤが…、シンヤがなんか変…」

 

ぐすぐす、と泣くミロカロスを見下ろしてシンヤが眉を寄せる。

ミロカロスは強くて使えるやつなのになんでこんな情けなく泣いてんの…?シンヤの中にはその疑問しかない。

 

「うぜぇ奴だな、人の姿になるなキモイ」

「!?」

「バトルすんのに人の姿なんて必要ねぇだろ、ポケモンの姿に戻れ。必要な時以外は常時ボールの中に居ろ」

「ヤだ、よ…!!なん、で、そんな事、言うの…ッ!」

「トレーナーに意見してんじゃねぇ」

「…ッ!!!やだ…!シンヤじゃない…ッ、そんな事言うのシンヤじゃないぃ…!!」

「"俺"は"俺"だ」

 

ミロカロスの髪の毛を引っ掴んでポケモンの姿に戻れと怒鳴るシンヤ。

その言葉にミロカロスは泣きながら首を横に振る。

 

「シンヤ…!!やめて下さい!!乱暴はダメです!!」

「…チッ、ポケモンが命令してんじゃねぇよ。言葉話せるってマジうぜぇな…!」

「ご、ごめんなさい!でも、ミロカロスさん痛がってますから!!」

 

舌打ちをしてミロカロスの髪から手を放す。

忌々しげにミロカロスを見下ろしてシンヤはミロカロスの足を蹴った。

 

「どいつもこいつも使えねぇ…、トレーナーの命令に従えないポケモンなんて要らねぇわ…」

「…ッ!?」

「めんどくせぇけど、メンバー総替えで別のポケモン鍛えるか…」

 

どういう戦法で行くかなぁ、と呟きながらミロカロスに背を向けたシンヤ。

そのシンヤの背中にミロカロスは飛びつく。

 

「ぅお!?ッ、なんだお前!!」

「置いてかないで!!言う事聞くから!!俺様も連れてって!!!」

「…はぁ?」

「シンヤ…!!お願い…ッ、捨てないで…!!」

 

ボロボロと泣くミロカロスを見てシンヤは眉を寄せる。

 

「ミロカロス…」

 

呼ばれた事にミロカロスが顔を上げる。

いつもと違うシンヤが、いつもの声で名前を呼んだ、いつもの顔で自分を見てる…。

いつもみたいに「泣くな…」って頭を撫でてくれる、

 

はずなのに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、気持ち悪い」

 

*


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