一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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シンヤが戻らなくて大変だった、と文句を言われては何も言えない。

ミナモシティから連絡船タイドリップ号と結ばれているカイナシティへと遊びにやって来た。

リゾートビーチもあって遊びに来るには持って来いの場所というわけだ。

 

「私は寒いのも嫌いだが暑いのも勿論嫌いだ…」

「泳ぐぞー!!」

「遊ぶぜー!!やべぇ、なんかコンテスト近いからか可愛い子多くない!?」

「ブラッキー、海に出るの禁止です。ボールに入ってなさい」

「なんで!?」

 

ポケモンの姿に戻ったブラッキーが逃げようと走り出したがエーフィにのしかかられて地面に突っ伏した。

お前、のしかかりなんて使えないだろうが…。

 

「ミロー!!」

「ミミー!!」

 

ポケモンの姿に戻ってハシャぐミロカロスにミミロップ。こういう時は仲が良いのか砂浜を一緒になって転がっている。

しかし、暑い……。

暑いせいでサマヨールはボールから出て来ないし。私もボールの中に入りたいところだ…。

 

「チルゥ」

「ああ、まずはポケモンセンターだな」

 

ちなみに今日はボール6個所持。

2個は家に置いて来たがサーナイトとトゲキッスは人の姿のまま着いて来たので見事に大所帯だ。

 

「暑い……、私は先にポケモンセンターに行くからな!」

「ミロ!?」

「一緒に行くなら一旦全員ボールに戻れ!」

「ミミー」

 

とりあえずエーフィの下敷きにされているブラッキーをボールに戻す。そのままエーフィも戻してミロカロスとミミロップもボールに戻す。

チルタリスを肩に乗せれば、更に暑い。

そういえばトゲキッスとサーナイトは荷物を持ったまま何処に行った、と辺りを見渡せば二人並んで海を眺めていた。

 

「…おお、恋人同士に見えるな…」

「チル…」

 

しかし、両方オスだ。

 

「海が綺麗ですわー」

「やっぱりお弁当作ってくれば良かったですかねー」

 

*

 

ポケモンセンターに着くとコンテストに参加するコーディネーターでいっぱいだった。

 

「人がいっぱいですわ」

「ジョーイさんもこれは大変ですね」

「そうだな…、面倒事を押し付けられなければ良いが…」

 

苦笑いするサーナイトとトゲキッス、そして肩に乗ったチルタリスを連れてジョーイへと挨拶に行く。

こんにちは、と挨拶すればジョーイの顔に笑みが浮かぶ。

 

「あら、シンヤさん!こんにちは!コンテストを見に?」

「いや、海に遊びに来ただけだ」

「でもコンテストは見て行くんでしょう?」

「んー…まあ…」

 

見て行くに決まってるじゃないですか!とコーディネーターのシンヤが頭の中で声をあげたのでジョーイには曖昧に返事をしておく。

 

「そうだ、丁度良かった!」

「…」

「今日、トレーナーになる子が来るんですけどその子に渡すポケモンたちの健康診断、手伝ってくれません?」

「嫌だ」

「それじゃ後で声掛けますからー」

 

私ちゃんと「嫌」って言ったよな?

まさか、自分でも分からないうちに「良いぞ」なんて返事してたのか!?

 

「私、今なんて返事をしてた…?」

「「嫌だ…って」」

「ジョーイめ!!!」

 

*

 

ジョーイに呼ばれて、ほぼ無理やり引き摺られて来ると見知った顔と目が合った。

 

「シンヤさん!!」

「お久しぶりです!!」

「おお、サトシにタケシ」

「ピカー!」

「ピカチュウも久しぶりだな。で、そっちの子は…?」

 

まだ旅をしてるとも思えない年齢の眼鏡をかけた少年に視線をやればパクパクと口を開閉される。

口が聞けない子なのか…?

 

「こっちはマサト。今は居ないけどハルカっていう子も居て、マサトはそのハルカの弟なんだ」

「へぇ」

「はははは、はじめましてシンヤさん!!」

「はじめまして」

「ぼ、ボク!!マサトって言います!!」

 

つい数秒前に聞いたけど…。

 

「あのシンヤさんに会えるなんて光栄です!!」

「そういやシンヤさんって有名人だったっけ」

「サトシ!!シンヤさんは凄い人なんだよ!?っていうか、知り合いだったんならもっと前に教えてよ!!」

「そんな事言われてもな~」

 

頬をかいたサトシにマサトが怒鳴る。

後ろでクスクス笑うジョーイに視線をやれば「三人も手伝ってくれる事になったの」と笑顔で言われた。

じゃあ、私要らないじゃないか。

 

「お姉ちゃんも喜ぶよ、有名なトップコーディネーターでもあるシンヤさんに会えるなんてさ!」

 

「積もる話は後にして健康診断を先にしちゃいましょ」

 

「はぁい!!」

 

ジョーイの言葉にタケシが喜々として返事をした

こんなに人数居たら私、絶対に要らないだろ…。

色々と文句を言いたいところだが、周りの機器を見て研究所みたいだーなんて言ってはしゃぐマサト達を見て言葉を飲み込んだ。

 

「この街には研究所が無いから新人トレーナーはここから旅立って行くのよ。うん、アチャモもキモリもミズゴロウも健康そのものだわ」

 

健康そのものならもう良いかな、と思いつつカルテに視線をやる。

サーナイトとトゲキッスとチルタリスを食堂に待たせてるし…。

 

「じゃ、ちょっとモンスターボールから出して運動させてあげましょう。先輩のキミ達は色々と教えてあげてね」

 

ジョーイの言葉にサトシ達の足元に居たアチャモ、キモリ、ミズゴロウが頷いた。サトシ達のポケモンなんだろうな。

マサトがジョーイに勧められてモンスターボールを受け取り、ボールからポケモンを出して行く。

 

「出てこい、アチャモ!!」

「チャモチャモ!」

 

おーおー、生意気そうな…。

 

「いでよ、ミズゴロウ!!」

「ゴロ…」

 

おー、こっちはまた気弱そうな…。

 

「キモリ、キミに決めたー!なーんてね!」

「キャモー」

 

お、大人しそうなキモリだ。メスだな、可愛い可愛い。

カルテを閉じれば電話が掛かって来たらしい。ジョーイが「なにかしら?」と言いながら電話に出た。

 

<「ジョーイさん大変なんです!!」>

「あ、ハルカ」

 

画面に映った女の子がサトシ達の言っていたハルカという子らしい。マサトのお姉ちゃんだな。

 

「一体どうしたの?」

<「浜辺にホエルオーが打ち上げられてて、なんだかぐったりしてるんです!」>

 

えぇー、と揃って不安げな声が漏れた。

図鑑を開いたサトシが「最大のポケモンかぁ」と言葉を漏らす。

 

<「ジョーイさん、早く来て下さい!」>

「分かったわ、すぐに行きます!」

 

電話が切れて画面からハルカの姿が消えた。

こちらを振り向いたジョーイと目が合って、すぐにサトシ達の方へ視線をやった。

 

「留守の間その子達をお願い!ただし、建物の外には出さないでね、まだ外に慣れていないから」

 

さ、行きますよ!とジョーイに腕を掴まれて走らされる。

やっぱり私も行くんだな……。

「自分もジョーイさんのお手伝いをしまーす」とタケシが後からついて来るが…、サトシとマサトだけで大丈夫なのか…?

 

*

 

「大丈夫そう?」

「ああ、これでもう大丈夫だろ」

「良かった」

 

打ち上げられた衝撃で弱っていただけで特に大きな怪我という怪我は無かったホエルオー。

少し休んで体力が回復すれば海にも戻れるだろう。

 

「シンヤさんが居て良かったですね!」

「ホント助かるわ」

「ポケモンドクターのシンヤさん、カッコイイかもー!」

 

仕事もしたし、もう帰っても良いだろうか…。

遊びに来てるのに遊べなかったら遊べなかったで後々文句を言われるのは私なんだが…。

 

「あ、そうだ、ハルカ」

「なに?」

「シンヤさんはコーディネーターの経験もある人なんだぞ」

「えー!?ホントに!?リボンは何個くらい持ってたんですか!?」

「リ、リボン…?まあ、グランドフェスティバルに出るくらいには持ってたが…」

「グランドフェスティバルに!?」

「謙遜しちゃって、シンヤさんは優勝してるからトップコーディネーターでしょ」

「すすすすごぉおい!!!」

 

それほどでもありますけど…、と褒められて悪い気はしないのかコーディネーターのシンヤが頭の中で返事をする。うるさい。

 

「各地方のポケモンリーグもハルカちゃんくらいの時に優勝しちゃってるものね」

「…まあ、」

 

俺がな!!とトレーナーのシンヤが大声をあげたせいで頭が痛くなった。うるさい。

 

「こうして経歴を聞いてみるとやっぱり凄いですねぇ…、優秀なトップブリーダーでもあるし本当に尊敬します!」

「…そ、そうか」

 

照れるなー、とブリーダーのシンヤが喜びの混じった声で言った。

全部、私じゃなくて私の中に居る奴らなんだと説明したい。別に私が出来るわけじゃないし…、いや、記憶があってシンヤではあるから一応私は私なんだが…。

面倒な事になったのは全部、ディアルガとパルキアのせいだ…。

 

「色々とお話聞かせて下さい、シンヤさん!!」

「え゛」

「私、今回のコンテストが初めてなんです!そうだ!!私のアゲハントを見て下さい!!トップコーディネーターでありブリーダーでドクターなシンヤさんから見てどうですか!?二次審査のバトルの事でも是非、トレーナーとしての意見も聞きたいです!!」

「いや、待て、ちょっと…」

「よろしくお願いしまーす!!」

「ああぁぁ……、」

 

*

 

ハルカに付き合わされてようやくポケモンセンターに戻って来た。

トゲキッスとサーナイトはジョーイの手伝いに行ったとチルタリスに言われ頷き返す。

 

「ご苦労様、アゲハント。今日の練習は終わりよ!シンヤさんもありがとうございました!」

「ああ、ほとんど見てただけだったけどな…」

「そんな事ないですよ、アゲハントの羽の手入れの方法とか色々教えてもらえて良かったです!!」

 

ニコニコと上機嫌なハルカに苦笑いを返す。

するとマサトがカップを持って近付いて来た。

 

「お姉ちゃんも疲れたでしょ?お茶でも飲んでゆっくり休んでよ」

「あ、ありがと…」

「シンヤさんも」

「悪いな」

 

マサトからカップを受け取って口に運ぶ。

あ、ティーパックの紅茶だ。あんまり好きな味じゃない……。

 

「あとなんか欲しいもの無い?お菓子でも持って来ようか?」

「ううん、いいよ。…でも、なんか妙にサービス良くない?」

 

ハルカの言葉に明らかにマサトの笑顔が引き攣った。

 

「ギクッ…!!そ、そんなことないよ!!ぼくはいつでもお姉ちゃんの良き弟だよ!!」

「良き弟ねぇ…ま、いっかー」

 

今、ギクッ…って口で言わなかったか…。

 

「お茶のおかわり沢山あるから遠慮なく言ってね、お姉ちゃん!!」

「それは良いけど…、アチャモは何処?」

「えぇー…!!?ア、アチャモは…、多分、ピカチュウ達と外で遊んでるんじゃないかな…」

「そう。じゃあ私、迎えに行ってくるわね」

 

立ち上がったハルカを見て、私もそろそろジョーイに一声掛けてトゲキッスたちを引き取って来ようかと立ち上がる。

 

「えぇー!?駄目だよお姉ちゃん!!」

「何が駄目なの?」

「だから、アチャモはそのー…」

「さっきから何か怪しいわねー…!!」

「えっとあの…」

「さては私のアチャモに何かあったのね!?大人しく薄情しなさい!!」

 

お姉ちゃんは恐いな。

ハルカに迫られるマサトの横を通ろうとするとマサトに腕を掴まれる。

 

「シンヤさん!!何処行くの!?」

「ジョーイのところだ」

「えぇええ…、あのちょっと…」

「?」

「マサト!!」

「うううう…!!」

 

マサトが吐いた。

いや、嘔吐じゃなくて真相を。

新人トレーナー用のアチャモがワカシャモに進化してしまって、ハルカのアチャモを身代わりにしているらしい。

選ばれなかったら大丈夫、とのことらしいが…、選ばれたら逆にアウトだろ…。

ハルカが慌てて走って行くのをマサトと一緒に追いかけた。

 

「アチャモ!!」

 

ハルカが部屋に飛び込めばアチャモがハルカの腕に飛び込んだ。

 

「アチャモ、ここに居たのねー!!サトシ!!私のアチャモになんてことするのよ!!」

「ごめん…ばれちゃったよサトシ…」

 

冷や汗を流すサトシが哀れだ。

素直に進化したって言えば良かったのに…。

 

「サトシ、一体どういうことなんだ…?」

「え!?いやぁ…それが…」

 

サトシが口籠っていると、奥の部屋の扉がワカシャモによって蹴破られた。

 

「げ!?」

「シャモシャモ!!」

 

額を押さえたサトシにはもう色々と限界だな…。

素直に謝るサトシとマサト、進化したと聞かされたタケシとジョーイは「えぇ!?」と大きな声を漏らした。

アチャモが必要ならツバキのところからでも送ってもらったら良いと思うけどな…、と考えつつ窓の外に視線をやると大きな影。

 

「んな!?」

「え?ああああ!!ホエルオー!?」

「そんな!!一体誰が!!」

 

あ、ニャース気球!!

乗りたかったやつだ!!と思いつつみんなで慌てて外に出る。

「コラー!!」とサトシの怒声が響いた。

 

「あなた達、何をするの!?」

 

「あなた達、何をするの!と聞かれたら」

「答えてあげるが世の情け」

「世界の破壊を防ぐため」

「世界の平和を守るため」

「愛と真実の悪を貫く」

「長い!!!」

 

途中で遮ってやれば二人と一匹がガクンとその場でこける。

 

「だから最後まで聞けってー!!」

「久しぶりでも容赦無しニャ!!」

「うるさい、さっさとホエルオーを下ろせ!」

 

私がそう言えば笑う二人と一匹。

 

「だーれが下ろすもんですかーい」

「これをボスにプレゼントすればオレたちはー「「幹部昇進、支部長就任、良い感じー!!」」になるのだー!!」

「ってわけで、バイニャラ!!」

「ホエルオーの一匹で昇進出来るなんてどんな甘い会社に就職してるんだお前達はー!!」

 

待てー!!と声を荒げた後ろでワカシャモが火炎放射を放った。

そして見事な跳び蹴りでホエルオーをぶら下げていたロープを切断する。

ホエルオーは海に落ちて、ロケット団は空高く飛んで行った…、と思ったら落ちて来た。

 

「ピカチュウ、十万ボルト!!」

「「「ぎゃぃやあああああ!!」」」

 

本当にいつか死ぬぞ。

 

「やったな、サトシ!」

「ああ」

 

喜ぶサトシ達の後ろで新人トレーナーとその子の父親が拍手をする。

 

「凄いかっこよかったわ!私もサトシさんみたいなポケモントレーナーになりたいな!!」

「えっへへ、サンキュー」

「本当に大したものだ、今まで気付かなかったがポケモンとは素晴らしいものだったんだね」

「それで、ポケモン選びの方はどうしましょう?ワカシャモは初心者が持つにはちょっと…」

 

ああ、本題に戻ったな。

アチャモが必要ならツバキに連絡するぞ、とジョーイに小さな声で言えば小さく頷き返される。

 

「良いわ。私ミズゴロウに決めた!」

 

女の子がミズゴロウを選ぶと隣に居たキモリが目に涙を溜める。

そのキモリに見つめられた父親が声をあげた。

 

「私はキモリを選びます!!」

「お父さん?」

「つぶらな瞳に大きな口やわらかそうな尻尾、どれも可愛すぎる!ジョーイさん、ポケモントレーナーになるのに年齢制限は無いんですよね?」

 

おおおおお。

 

「勿論です」

「それなら、私はこの子のパートナーになります!!」

 

父親がキモリを抱き上げて、娘である女の子がミズゴロウを抱き上げた。

親子で旅立つのか…なんかシュールな光景だな…。別に良いけど…。

 

「ごめんなワカシャモ…、お前を進化させたせいでこんな事に…」

「シャモ」

 

サトシがしゅんとしながらワカシャモに声を掛ける。

まあ、確かにワカシャモを初心者に渡すわけにはいかないからな…。

 

「心配無いわ、さっきの勇気ある行動を見て決めました!ワカシャモはうちのガードポケモンとして残って貰います!」

 

ジョーイの言葉にサトシ達の顔に笑みが浮かんだ。

ワカシャモも嬉しそうだ。

 

「初めてのポケモンかー…よぉし、待ってろよー!!ボクのはじめてのポケモーン!!」

 

海に向かって叫ぶマサトを見てハルカが苦笑いを浮かべた。

 

「あ、そうだ!!シンヤさんは?」

「なにがだ?」

「シンヤさんの初めてのポケモンはなんだったの?」

 

はじめてのポケモン…?

トレーナーのシンヤはヒトカゲ。コーディネーターのシンヤはキモリ。ブリーダーのシンヤはワニノコ…。まあ、その連中は世界が混ざった時に居なくなったみたいだが……。

 

「私はタマゴだ」

「え!?いや、タマゴってポケモンじゃないよ!?」

「じゃあ、その次は…ヒンバスだったな」

「ヒンバスー!?それって大変なんじゃ…」

「ふふふ、上級者向けね」

「でも、すぐにイーブイを二匹貰ったからな」

「イーブイも難しいポケモンですよ、シンヤさん…!!」

 

そんなの私が知るか。

 

*

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