「ホエルオーの乗り心地最高……!」
「ミロォオオ!!」
はぁ、と息を吐けば下でミロカロスがこっちに乗れこっちに乗れとうるさい。
でも嫌だ。私はホエルオーの上で寝る。
この広い背中にゆったりとした揺れの少ない泳ぎ方が良い。大きいポケモン万歳、それにチルタリスの羽毛枕にトゲキッスがパラソルを持ってくれてるし、サーナイトが隣に座ってうちわで扇いでくれるので至れり尽くせりだ……。
別に強要したわけじゃない、自発的にトゲキッス達がやってくれた。
浜辺ではミミロップとサマヨール達がポケモンの姿のまま砂遊びをしている。その傍でブラッキーがすでに砂風呂状態。エーフィはブラッキーの上にかかる砂の上で日向ぼっこだ。
コンテストが始まるとかで人が少なくて良いな…。
「シンヤさーん!!」
「んぁ?」
「ジョーイさんが呼んでますわ」
「聞こえないフリしろ」
「え…、良いんですか?」
「聞こえない聞こえない」
寝転んだまま目を瞑るとまた「シンヤさーん!」とジョーイの声。私は何も聞こえてませんよ、っと…。
少しすると声が聞こえなくなって、諦めたかと瞼をゆっくりとあげるとトゲキッスとサーナイトが悲鳴をあげた。
「シンヤ、逃げて下さいー!!」
「なん、」
「チルー!!」
チルタリスに肩を掴まれて空を飛ぶ。
トゲキッスの持っていたパラソルに火が付いて燃えていた…、浜辺を見ればワカシャモの隣でジョーイが笑っている。
「シンヤさーん!」
「はーい…」
返事をしないと次は私がパラソルの二の舞。
トゲキッスとサーナイトは海に飛び込んだのかミロカロスにしがみ付いて居た。
ジョーイ…恐ろしい女だ…!!
チルタリスが懸命に飛んで浜辺まで運んでくれた、やっぱりトゲキッスほど力持ちというわけではないらしい。ジョーイの傍に降りればニッコリと笑みを向けられる。
「良かった、聞こえなかったみたいなのでワカシャモに頼んだんです」
「ソウデスカ…」
「今日のコンテストは1時からなんです。さ、シンヤさんも行きましょう!」
「まだ10時じゃないか」
「シンヤさんに会いたい人は沢山居るんですよ」
私は会いたい人なんて居ない。
怒鳴ってやろうかと思ったがワカシャモに睨まれて言葉を噤む、くそ、ワカシャモめ…ミロカロスにハイドロポンプの指示を出しても良いんだぞ私は…!
やらないけど…。
ミロカロス達をボールに戻せば私のカバンを持ったチルタリスが飛んでくる。カバンを受け取ってチルタリスを肩に乗せた
「シンヤ、ワタクシたちはポケモンセンターに戻りますわ…」
「びしょ濡れになっちゃいましたから…」
「ああ…」
あらあら、と言葉を発したジョーイ。だが原因はお前だ。
後からコンテスト会場に行きますね、と言ったトゲキッスに頷き返してチルタリスを肩に乗せたままジョーイと共にコンテスト会場へと向かう。
いっそ濡れて私もポケモンセンターに行けば…、いや、乾いてからでも強制的に連れて行かれるんだから一緒か…うん。
「ハルカちゃんも出るって言ってたじゃないですか」
「そういや、言ってたな…」
*
「レディースアーンジェントルメーン!大変長らくお待たせ致しました!!ホウエン名物ポケモンコンテスト!!カイナ大会の始まりでーす!!
その出場者達を厳しく優しく審査して頂くのはこちら、大会ジム局長のコンテスタさん、ホウエンポケモン大好きクラブの会長スキゾーさん、そしてカイナシティのジョーイさんでーす。
見事優勝に輝いたコーディネーターとポケモンには栄誉あるこのカイナリボンを贈呈、各地で開催されるリボンを5つ集めたグレイトなアナタにはトップコーディネーターの祭典ポケモングランドフェスティバルへの参加が認められちゃいますよー!!
なお、今回はそのグランドフェスティバルの優勝者であるトップコーディネーターであり数々の経歴を持つシンヤさんが特別ゲストとしてこのカイナ大会へやって来てくれましたー!!コーディネーターの皆さんの気合いも更に高まること間違いなーし!!
そして本日の司会は私、ビビアンです。よろしくお願いしまーす!」
なんか変な紹介のされ方して居心地悪いな……。
ビビアンめ、いや、さっき会ったばっかりだけどファンだのなんだのと言われて最終的には「ビビアンって呼んで(はぁと)」とか言われたから…。
写真まで一緒に撮らされてしまった…。
コンテスト前にハルカに会いに行こうと思ってたのにギリギリまで引きとめられたからな…、ジョーイは途中で逃げたし…。
「さあ、一次審査は魅せる演技!!コーディネーターとポケモンが共に力を合わせ鍛え上げて来た技の美しさや決まり具合を披露していまーす」
なんで私…ジョーイの横に座らされて評価までさせられてるんだろう…。
客席で良かったのに…。
「続いて24番はシュウさんの登場でーす」
色々と不満が溜まって来た、途中退席してやろうかと思っていてもコンテストに休憩なんて挟まれない。
24番の登場に小さく溜息を吐いてからコーディネーターへと視線をやった。
「ロゼリア、花びらの舞い!!」
「ロゼリア、花びらの舞いで華麗に登場!!これはビューティフォー!!」
「続いてしびれ粉、マジカルリーフ!!」
「しびれ粉とマジカルリーフの合わせ技!素晴らしいコラボレーションに場内はただ見惚れるばかりです!!」
場内に舞う花びらにビビアンが感嘆の声を漏らす。
とどめと言わんばかりに繰り出された花びらの舞いからのマジカルリーフで更に場内に花びらが舞った、あまりの花びらの多さにロゼリアが花びらに隠れて消えてしまう程の量だ。
「さあ、華麗にフィニッシュを決めたロゼリアの得点は?29.4!!今までの最高点が出ました!!」
私は得点が押せないからやっぱりここに居る意味が無いよな……。
「いかがでしたか?」
「素晴らしいコンビネーションでした!」
「いやぁ…好きですねぇ…!!」
「ステージ構成も見事!よく育てている事も伺えましたなぁ!!」
「シンヤさんはいかがでしたか?」
「花びらの舞いの完成度が高く花びらの量は評価出来ました。しかし多くは花びらに視線を奪われてロゼリア自身のしなやかな動きや仕草を存分に魅せきれなかったところもあるので次は技だけでなくポケモンそのものも魅せる演技を期待したいですね…」
真面目に評価している私を一番評価して欲しい…。
というか、そろそろハルカの出番なんだろうか…。よく考えたら途中で抜けるにしてもハルカの演技を見てからでないと申し訳ないことに今気付いた。
でも、そろそろ本気でだるい。
「次はエントリーナンバー31番、ロバートさんの登場です!!」
登場した金髪の男が出したポケモンはミロカロス。
あれ絶対にメスだ。やっぱりメスのミロカロスは良いな。
「ミロカロス、しんぴのまもりです」
ミロカロスの周りからエメラルドグリーンのしんぴのまもりが放たれる。
「これは見事ですな…!」
「好きですねぇ…」
「素晴らしいですわ!!」
魅せる用に改良されたしんぴのまもり。周りに煌めくオーラとミロカロス自身の美しさに観客が見惚れている。
「ミロカロス!!技の見事さ+ボディの見事さで会場を魅了しておりまーす!」
あのミロカロスの美しさとしなやかな体付きからして、今回の優勝は決まったも同然だな…。あのミロカロスはなかなか強いぞ…。
*
「さあ、一次審査も残るはあと一人!!エントリーナンバー50番、ハルカさんの登場でーす!」
くそぉ、ハルカめ…!!
なんでよりによって一番最後なんだ…!!結局、最後まで見てるハメになったじゃないか…!!
「ハルカさんは今回のコンテストが初めての参加となります。では、ポケモンの登場を華麗に決めて頂きましょう!!」
随分と緊張してるな…と見守っているとボールを振りかぶったハルカがその場で転んで尻餅を付いた。
あーあー…、この前に見た回転しながらボールを投げるのをやるんじゃなかったのか…。
「あららー、大丈夫?」
ビビアンがハルカに駆け寄って手を差し出した。
これは逆にテンパるか、はたまた逆境で根性が座るか…。笑みを零しながら立ち上がったハルカがボールを投げた。
「わーぉ、アゲハント!羽の美しさを大アピール!!」
「アゲハント、糸を吐く!」
フリスビーを投げたハルカ、そのフリスビーをアゲハントが見事に糸でハルカに返す。
「見事なリターン!!」
「もう一度!」
「二人の軽快なラリーが続きまーす!!」
なかなか上手く魅せてるな。
でも、コーディネーターの顔が必死過ぎて…美しいっていうより逞しい…。
「最初のずっこけもチャラにする絶妙なコンビネーションだー!!」
「行くわよアゲハント!かぜおこし!!」
「今度はかぜおこしでリターン!!キャッチが決まれば高ポイントだー!!」
ビビアンの言葉にたじろいだのかは分からないが。
走ってフリスビーを受け取りに行ったハルカがわたわたとフリスビーを取りこぼしそうになりながらもギリギリでキャッチ。
キャッチして大きく息を吐くなんて…、その時点で魅せる演技にはどうかと思うぞ、ハルカ…。
「なーんとかキャッチ、落とさなかったのでセーフでしょう」
「フィニッシュよ、アゲハント!!銀色の風!!そのままスピン!!」
「これはなんとー!!アゲハント、渦状の銀色の風に包まれたー!美しい…!!さながら銀色の衣を纏っているかのようです!!」
見事に最後はポージングで決めたハルカ。
練習で見た時よりも演技はかなり良かったな、アゲハントは本番に強いらしい。
「さあ、アゲハントとハルカさんの演技はいかがだったでしょうか!」
「初めてにしては良かったですね!」
「うん、将来有望と見ました!」
「いやぁ、好きですね~!」
「得点は24.9です!!シンヤさんもコメントを是非お願いします!」
ビビアンに言われてチラリとハルカに視線をやると眉を寄せたハルカが一心にこちらを見つめている。その、お願いします…!みたいな目はやめろ…!!
「初めてにしてはアゲハントの技も魅せ方も良かったと思います…。次はコーディネーターも余裕のある表情と演技でポケモンを引っ張り、よりいっそうポケモンの魅力を引き出してあげて下さい…」
しゅん、と項垂れたハルカを見て後で謝りに行こうと思った。
さすがにここで知り合いだからって評価するのは出来ないだろ…、すまんハルカ…。
「以上で一次審査は終了です。二次審査の出場者発表まで暫くお待ち下さーい」
二次審査に上がる出場者を選んでいるジョーイ達に一声掛けてから出場者の控室を覗きに行く。
ハルカとロゼリアを使っていたシュウとかいう少年が見えて部屋へと入ると他の出場者にぎょっとしたような目で見られた。
「ハルカ」
「あ、シンヤさん!」
なんでバラなんて持ってるんだろう…。
とは、思ったが特に突っ込まず。さっきは悪かったな、と謝れば大きく首を横に振られた。
「そんな良いですよ!!本当の事だったし、ちょーっと期待しちゃったのは確かですけど…」
苦笑いを浮かべたハルカに苦笑いを返す。
「わ、私、二次審査に行けます…か?」
「さあ?私は審査には加わってないからな…」
ま、見ただけで二次審査に上がるのが誰かぐらい分かるけど…。ここで発表前に言うわけにはいかないからな…。
そうですか、と項垂れるハルカの頭を撫でれば不安げながらも笑みが返って来た。
「ぁ、あの、シンヤさん…!」
「ん?」
ハルカの傍に居たシュウに声を掛けられて視線をやる。
何故か目をキラキラさせているように見えなくもない…。気のせいだろうか…。
「先程は的確なお言葉ありがとうございました!!憧れてやまないシンヤさんにこのカイナ大会で評価して頂けるなんてとても光栄です!」
「え、シュウってシンヤさんに憧れてるの?」
「僕はシンヤさんの演技を幼い時に見てコーディネーターを目指そうと思ったんだ!!」
「へー!!そうなんだー、私はシンヤさんがコーディネーターだって知らなかったけど…」
「トップ!コーディネーターだ!!」
「は、はい…!!」
幼い時って今でも十分幼い年だろうに…。
もっと下か、コーディネーターとしてシンヤが活躍してたのは十代後半になったくらいだから、3歳とかそれぐらいか…。
そしてそんなに必死に訂正してくれなくても良いぞ、私は別にコーディネーターじゃないし。ドクターだし。
「はぁ…、キミはシンヤさんと知り合いでいながらまだそのレベルなのか…」
「なっ…!!シンヤさんとは最近知り合ったばっかりなの!!サトシとタケシが知り合いだったから知り合えただけだし!!」
「ふぅん」
「悔しいー!!シンヤさん!!また私の特訓に付き合って下さいね!!」
「え゛」
「キミ!シンヤさんに教えを乞うなんて何を考えてるんだ!!恐れ多いぞ!!」
「シュウには関係無いでしょ!!」
「シンヤさんが忙しい人なのくらい分かるだろう!?それにシンヤさんに教わりたいのはキミだけじゃないんだ!!」
バッ、と周りに居た出場者たちの方に手をやったシュウ。
ハルカと共に出場者たちに視線をやれば出場者達はうんうんと頷いてこちらを睨んでいた。
「こ、こわいかも…!!」
「私もこわい…」
ごめんなさい、と小さくなりながら謝ったハルカに「まあ見るくらいなら付き合ってやるから」なんて言葉はここで口には出来ない。
下手すれば大規模な講習をやるはめになる。
「悪いなハルカ。仕事が忙しくて…」
「いえ、私のほうこそ無理言ってごめんなさい…」
「応援してるからな」
「はい、ありがとうございます!」
笑顔で頷いたハルカを見てからシュウを含めた出場者全員を見渡して精一杯の笑みを貼り付けた。
「勿論、コーディネーター全員を」
「「「「ありがとうございます!」」」」
じゃ、と片手を上げて部屋から出る。
出場者の控室になんて行くんじゃなかった、なんかもうドッと疲れた…。
遊びに来たのに、疲れた…。
ホエルオーの背で寝てた時間が恋しい…。
*
「はぁーい、お待たせしました!一次審査を突破したのはこの8人のコーディネーターさん達でーす!!」
やっぱり、ハルカもギリギリ入ってきたな…。
まあ周りのレベルも多少低かっ…、ゴホン!!いや、ハルカは将来的に伸びるコーディネーターだろうしな。
しかし二次審査はバトルだから、ハルカのアゲハントは少し力不足だな…。なにより、今回は飛び抜けてるのが一人居たし……。
「この8人がシャッフルされ二次審査コンテストバトルの対戦カードが、決まりましたー!!」
ハルカとシュウ、か…。
どっちが勝っても次がロバートだろ。いや、ロバートが勝ち上がってくるかはまだ分かってないが、あのミロカロスは確実に上がってくる…。
あー…キツイなこれは…。
「さあ、二次審査はコンテストバトルです!!5分という制限時間の中でいかに技を決め相手のポイントを削れるかが勝負です!!それでは、ファーストステージの最初の試合スタートです!!スタートォ!!」
「さあ、ロゼリア!ゴー!!」
「アゲハント!ステージオーン!!」
相性だと草タイプと虫タイプでアゲハントが有利だが、レベルの差と実力の違いで押されるだろうな…。
ロゼリアのマジカルリーフをアゲハントがかぜおこしで弾き飛ばすがマジカルリーフは体勢を立て直しアゲハントを襲う。
まあ、確実に当たる技だしな…。でも避ける方法は無くは無い…明らかな指示ミスだな…。
「ロゼリア、しびれ粉!」
「しびれ粉、あめあられ!!アゲハントピーンチ!!」
「アゲハント!!糸を吐く!!」
「マジカルリーフ!!」
アゲハントの糸がロゼリアのマジカルリーフで切断された。
「そこはかぜおこしでしびれ粉を美しく散らせてかわし、上空全体に糸を吐くで注意を惹き付けて銀色の風で攻撃でしょうが!!」
……お前が叫んでも私の頭の中でしか聞こえてないぞ…。
「アゲハント、銀色の風!!」
「花びらの舞い!!」
アゲハントの銀色の風がロゼリアの花びらの舞いでかき消される。
銀色の風自体がまだ完成度が低くて弱いな…、力押し出来てもおかしくない相性なんだが…。
「ロゼリア、ソーラービームだ!」
「ロゼリア!ソーラービームの体勢に入りましたー!!貴重な残り時間を使いエネルギー充電を計っていることは勝負に出たかー!?」
「アゲハント!糸を吐く!!」
「アゲハントが攻撃に出たー!!」
いや、避ける方に意識を向けた方が良いな。相殺出来る技が無いし…。
私がそう思った瞬間、ロゼリアがソーラービームを放つ。チャージ時間もなかなか短縮して来てる。
「ロゼェエエ!!」
「なんと見事な色合い!!」
「いやぁ、好きですね~!」
「草タイプ最大の技がアゲハントにクリーンヒットー!!」
これはかなり不味い…。
急所に当たったらしくアゲハントはボロボロになって地面に突っ伏した。
「アゲハント!しっかりして!」
「残り時間は後僅か…、バトル続行は可能なのでしょうか!!」
場内にブーという音が響く。
ジョーイらがバトルオフのボタンを押したらしい。
「アゲハント!!バトルオフ!!シュウさんとロゼリアがセカンドステージに進出でーす!!」
席から立ち上がって目に涙を浮かべるハルカを見てからアゲハントを抱きかかえる。
「ハルカ」
「…はぃ」
ハルカのアゲハントを治療して席に戻る。
そしてセカンドステージにやはりロバートが勝ち上がって来た。シュウは…ロバートが居なきゃ今回の大会は取れただろうな。
「さあ、第二試合はすでに3分が経過!!アゲハントを無傷で降したロゼリアですが圧倒的な強さのミロカロスに対し攻めあぐねています!!」
ミロカロスのアイアンテールを食らいながらもロゼリアがマジカルリーフを放つ、しかしミロカロスの繰り出した竜巻きにかき消されてしまう。
しかもマジカルリーフを美しく散らすという魅せ方までやってみせた…。
やはり飛び抜けてるな…相手が悪かった…。
「タイムアーップ!!決勝戦に進出したのはロバートさんとミロカロスです!!美しさだけでなくかっこ良さも大アピールしたミロカロス!!コーディネーターとの息もぴったりでしたー!!」
*
「今、優勝したロバートさんとミロカロスにカイナリボンが授与されました!!ポケモンカイナ大会はこれにて終了です!!まったお会いしま、」
「ちょっと良いですか?」
「へ?」
終わろうとしたビビアンに声を掛けたロバート。キョトンとしてみんながロバートに視線をやった。
「今回、シンヤさんが来ているとの事で是非コンテストバトルでお手合わせしたいのですが…」
「おおっと、なんと!!ロバートさんからシンヤさんへ挑戦状を叩き付けましたー!!」
会場内がどっと沸いた。
え、本気で嫌なんだが…と言いだしたいのにビビアンがヒートアップする。
「現役コーディネーターのロバートさんと、現在はポケモンドクターで多少ブランクのあるシンヤさん。果たして勝利はどちらの手に!!」
嫌だー…やりたくないー…。
よろしくお願い致します、と頭を下げるロバート。
頭の中で「さあ、代わって下さい!」とコーディネーターのシンヤが物凄い笑顔…。
ビビアン…、私の中の連中にブランクなんて全く無いんだぞ…!!なんせ時が止まってるも同然だからな!!
「シンヤさん頑張れー!!」と観客席からサトシの声。視線をやればサトシにタケシ、ハルカにマサト、おまけにシュウの姿まで確認出来た。
ダッシュで逃げたい。
「オマケにド派手なクライマックスバトル!!個人的な美しき新星のファンである私は胸の高鳴りが抑えきれませーん!!」
さっきまでハルカ達が立っていた場所に私が立たされた。
逃げる余地は無かった、なんて言ったって考える時間とかもくれなかったから即バトルに突入だった。作戦タイムとかくれたらダッシュで逃げたのに。
観客席の何処かでトゲキッスとサーナイトも見てるんだろうな…。
「シンヤさん、私は貴方の力を身を持って知っておきたい…。高みへと昇る為に…」
「……」
ロバートめ…!!!
まあ、でもこの男は昇りつめるだろうな。私なんかとここで戦わなくても…、実力は十分だ…。
「さ、早く代わって下さい」
分かった分かった…。
*
ステージに上がったシンヤさんの姿を目で追う。幼い頃に見た、シンヤさんの美しい姿が思い浮かぶ。
「制限時間は同じく5分です、それではバトルスタート!!」
司会のビビアンさんの声でロバートさんとシンヤさんがボールを構えた。
「ミロカロス、頼みましたよ」
ロバートさんが出したのは勿論、ミロカロス。
シンヤさんが何を出すのか僕は胸を押さえてシンヤさんを見つめる。こんなところでシンヤさんのコンテストバトルをもう一度見れるなんて思いもしなかった。
ロバートさんに負けて悔しいけど、今回ばかりはお礼を言いたい。
「…ふふ、ミロカロス行きなさい」
シンヤさんの雰囲気が一変する。
観客席も一気に静まり返った。今、シンヤさんはポケモンドクターじゃないトップコーディネーターとして舞台に立っている!!
ロバートさんと同じ、シンヤさんが繰り出したのはミロカロス。でも、その美しさは一目瞭然…!!
全てにおいてレベルが違い過ぎる!!
「ミロカロス、竜巻きです!」
「ハイドロポンプ」
ロバートさんのミロカロスの竜巻きにシンヤさんのミロカロスがハイドロポンプを仕掛ける。
相殺させるのかと思えば、シンヤさんのミロカロスのハイドロポンプは勢いで竜巻きを押し返し上空へと逃がす。
上空で散った竜巻きとハイドロポンプ、会場全体にキラキラと水飛沫が舞った。
美し過ぎる…!!
「アイアンテールです!!」
「アクアリング」
ロバートさんのミロカロスの強力なアイアンテールをシンヤさんのミロカロスは食らいながらもアクアリングを纏った。
攻撃を一瞬で無かったようにしたミロカロス。アクアリングを纏う姿は美しい以外の言葉が思い浮かばない。
「「なみのり!!」」
ロバートさんとシンヤさんの声が重なった。
同時になみのりを放つミロカロス二体。それでもアクアリングを纏ったシンヤさんのミロカロスの方が断然美しい。
なみのり同士がぶつかり大きな波音を立ててミロカロス達の上空へと上がった。
水の飛沫にロバートさんが腕で顔を防ぐ、一方シンヤさんは目を瞑った。
「ミロカロス、今ですアイアンテール!!」
「ふぶき」
ロバートさんのミロカロスがシンヤさんのミロカロスへアイアンテールを食らわせようと迫る。
しかしシンヤさんのミロカロスはシンヤさんの指示で上空から降り注ぐ水飛沫にふぶきを食らわせた。
上空から降り注いでいた水飛沫が吹雪で一気に凍って硬い氷のつぶてになり、二体のミロカロスに襲いかかる。
ロバートさんのミロカロスもシンヤさんのミロカロスも苦しむように表情を歪め強力な氷のつぶてを受ける。
ロバートさんのミロカロスが呻き声を上げた。美しい体に傷を作りヨロヨロとシンヤさんのミロカロスを見やる。
でも、シンヤさんのミロカロスはアクアリングを纏っていた為、ロバートさんのミロカロスとは違いダメージも回復し体には傷一つ無い…。
計算されていたんだ…!!
なみのりを放った時の美しさが増すだけじゃない、次の攻撃で受けるダメージと見た目の損傷を防ぐ為でもあった!!
「ハイドロポンプ」
「ミロォオオ!!」
場内に散らばった氷のつぶてを粉々に粉砕しながらハイドロポンプがロバートさんのミロカロスへと向かう。
周りの氷が砕けた事でキラキラとハイドロポンプが輝き、尚且つ、ハイドロポンプの勢いで粉砕した細かい氷が空中を舞っている。
完璧だ………。
シンヤさんのミロカロスのハイドロポンプがロバートさんのミロカロスを場外へ弾き飛ばした。
司会者のビビアンさんも審査員の人達も言葉を失い呆然と魅了されていた。
「良い子ですね、ミロカロス」
「ミロー」
優雅に会釈をしたシンヤさんに僕は立ち上がり拍手をおくる、周りもハッと気付いたように手を叩き始めた。
笑みを浮かべて観客席に頭を下げるシンヤさんは僕が幼い時に見たコーディネーターのシンヤさんのままだった。
「素晴らしいバトルでした!!皆様、今一度!!素晴らしいバトルを見せてくれたシンヤさんとロバートさんに大きな拍手を!!」
*
大満足です、とコーディネーターのシンヤが引っ込んでった。
手加減ゼロだったな…と思いつつロバートさんと握手を交わす。
「今日のバトルは忘れません」
「そ、そうか…」
ありがとうございました、と頭を下げたロバートにこちらこそと頭を下げる。
ビビアンが今度こそカイナ大会を終了させてお開きとなった。コンテスト会場を出るにも握手を求められたりで更に疲れながら会場の外に出る。
うわ、もう日が暮れるじゃないか…!!
「シンヤさーん!!」
「ん?ああ、サトシ達か」
「シンヤさん!!凄かったです!!本当に私、感動しました!!」
「やっぱりシンヤさんは凄いや!!ボク、今度はシンヤさんの本気のバトル見てみたいな!!」
「オレ!オレとバトルして下さい!!」
「ピッカー!!」
「綺麗なお姉さんにモテモテで羨ましい…!!」
綺麗なお姉さんばっかりじゃないぞ、ごついお兄さんも居るぞ。とは夢を壊しては可哀想なのでタケシには言わないでおく。
サトシには「気が向いたら」と適当に返事を返すと「それいつー!?」と不満げな声を返された。
「でも、ホント別人みたいに代わってびっくりしちゃった!!」
別人だしな。
と、思ったけど言葉を飲み込んだ時にハルカの後ろからシュウがやって来た。
「シンヤさんほどになると場面に応じて意識を切り替える。それがプロってものさ」
本当に切り替わってるぞ。人格が。
「今日は本当に素晴らしい日になりました。シンヤさんを目標に僕も今以上に精一杯頑張ります…!!」
「そ、そうか…頑張ってくれ…」
「はい!ありがとうございました!!」
深く頭を下げたシュウの背を見送ってからハルカ達に視線を戻す。
キラキラした子供の視線を受けて私は苦笑いしか返せなかった…。
そして、このコンテストの一件で新聞記者やらテレビの取材陣が押し掛けて来て遊ぶどころではなくなり早々に帰宅するハメになった。
そのせいでミロカロス達から文句を言われたことは言うまでもない…。
私だってもっとのんびりしたかった…!!
*