一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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「千年に一度、7日間だけ夜空に現れる千年彗星がよく見えるっていうポケモン遊園地、一緒に行かない?」

 

家にやって来たヤマトがにっこりと笑顔で言った。

話を聞いていたミロカロス達は「行きたーい」と返事をしているが…。

 

「怪しいな…」

「う…ッ」

「本当にただ遊びに行くだけなら、お前は問答無用で私を引き摺り連れて行くくらいするだろ…。なんで聞いた?裏があるんじゃないのか?」

「さすが、シンヤ…」

 

敵わないなぁ、と言って自嘲気に笑うヤマト。

やめろその無駄に芝居がかった仕草、腹立つ。

 

「実はね、僕の仕事が関わってるんだよ」

「自分の仕事は自分でしろ」

「大規模なポケモン遊園地に一人で行く男って寂しくない?調査とはいえ周りには男一人遊園地に来てるようにしか見えないんだよ?周りは友達、家族連れ、はたまた恋人同士…僕、成人男性一人…。嫌だぁあああ!!!想像しただけで悲しいぃいいいい!!!」

「お、落ち着け…ッ」

 

孤独に耐えきれない、と頭を抱えたヤマト。

仕事に私情をはさむなと言ってやりたい所だが、確かに遊園地に一人は寂しい光景だな…。

 

「他の仕事仲間に声を掛けたら良いんじゃないのか?」

「みんなバラバラなんだもん、仕事貰っても基本的に個人行動だしさー…。知り合いに連絡したよ?でも他の連中もやっぱ仕事入ってるし、僕のこれも一応ちゃんとした仕事だし…」

「…その内容はなんだ?一緒に行くだけなら、まあ…行ってやるから」

「シンヤ…!!」

 

目に涙を溜めるヤマトを見て小さく溜息を吐く。

遊園地ー!!と言ってミロカロス達がハシャいでるのはこの際無視だ。

 

「ファウンスっていう場所があってね。無数の岩の柱と緑に囲まれた自然郷なんだけどそこに千年に一度、眠り繭から目覚め7日間だけ行動することが出来るポケモン"ジラーチ"が居たんだ。勿論、眠り繭の状態でね」

「ふむ」

「そしてジラーチが以前に眠りに付いてから今年で千年。夜空に千年彗星が現れている7日間だけジラーチが行動する」

「そのジラーチの様子を見に行くのか?」

「いや…最初はそうだったんだけど、僕がジラーチの眠り繭の状態を確認しに行ったら…無くなってたんだ…」

「は?」

「人為的に誰かがジラーチの眠り繭を持ち出したんだよ。それで調べたら元マグマ団の研究員バトラーという男が眠り繭を持ち出したってことが分かった」

「捕まえれば良いだろ」

「僕らからすれば困ることだけど別にジラーチの眠り繭を持ち出すのは罪じゃない。ポケモンだからね。ただ持ち出した理由が分からない、しかも元マグマ団の研究員だから何かしらの悪事を企ててるかもしれない、ジラーチの身に危険が及ぶのも僕らとしても困るし」

「じゃあ、ジラーチじゃなくてバトラーという男の様子を見に行くのか」

「うん、そのバトラーはポケモン遊園地で人気マジシャンとして活動してる。これ雑誌ね」

 

はい、とヤマトに手渡された雑誌にはポケモン遊園地なるものの宣伝がデカデカとされている。

千年に一度、7日間だけ目覚めるポケモンか…。

 

「ジラーチはそんなに凄いポケモンなのか?」

「残念なことだけど、イエス。ジラーチのお腹にある真実の目と呼ばれる目には強大な力が宿ってると言われてる」

「千年分の力、みたいなもんか…」

「ジラーチのその強大な力が目的ってのがほぼ確定的なんだよね。何をするかまでは分からないけどさ」

「元研究員だろ?そのマグマ団とかいう…なんかの会社か?」

「知らない?マグマ団は悪の組織だよ。他にもポケモンを利用して悪事を働く組織は多いけど、その一つだね」

 

悪の組織の元研究員……。

良い要素が一つも無いな…、嫌な予感しかしない…。

 

「…お前の仕事めんどくさいな」

「いや、まあ…危険も伴うけどポケモンと触れ合えて楽しいよ」

「でも、お前…名前のカッコ良さで選んだだろ」

「うん、"ポケモンレンジャー"ってカッコイイよね!!」

「ポケモンレンジャーの幼馴染を持った私は不幸だ…」

「いやぁ…僕はポケモンドクターの幼馴染を持って幸せだよー。オマケにバトル強いし、ポケモンに詳しいし、頼もしいねー」

 

世界が混ざる前はバトル下手の見習い研究員だったくせに…。

今は一人前のポケモンレンジャーとして活躍してるんだからパラレルワールドって不思議だ…。

 

「みんなー!!!遊園地行くよー!!」

「「「ワーイ!!」」」

 

*

 

「シンヤー!!おぉーい!!」

「はいはい…」

 

遊園地のアトラクションにハシャぐヤマト。なんで私はお前の荷物を持って下から手を振ってるんだ。お母さんか。

 

「はい、これシンヤの分」

「このアイス美味い!!」

 

アイスを買いに行ったミロカロスとミミロップが両手にアイスを持って戻って来た。

アイスを受け取って辺りを見渡す、ブラッキーとエーフィがそういえば何処かに行ったまま戻ってきてないがその辺で遊んでいるのだろうか…。

 

「ヤバイ、遊園地、超楽しい…!!」

「これ、ヤマトのなー」

「ありがとー!!」

 

ミロカロスからアイスを受け取ってヤマトがミロカロスの頭を撫でる。

仕事で来てるのにハシャいでアトラクションに飛び乗ったヤマトに心から殺意が湧いたのは渋々だが心の奥底にしまっておいた。

 

「トゲキッスとサマヨールは出さないの?」

「トゲキッスは飛び疲れて回復中、サマヨールは人が多過ぎて引き籠ってる」

「あ、そぉ」

 

アイスを食べながら頷いたヤマトを見てから、自分の手元にある食べかけのアイスをミロカロスに渡した。

二つ目のアイスを食べ始めたミロカロスを眺めているとミミロップが「ん?」と声を発し後ろを振り返る。

 

「グレートバトラーのマジックショー!!」

「見なきゃ損だよー!」

「もうすぐ始まるニャー!!」

 

お、本題!!とヤマトがピエロのばら撒くチラシを拾い上げた。

あの宣伝してるピエロ…、ロケット団じゃないか…。

 

「…バイトか?」

「ニャニャ!?」

「げ!?」

「な、なんでここにー!?」

「ほら、チップ」

 

はい、と札を一枚渡せば「ワーイ」と両手をあげて喜ぶ二人と一匹。

チラシを一枚貰うと「あそこのエアドームだぜ」とコジロウが親切に教えてくれた。

ロケット団と別れてヤマトの傍に戻ればヤマトがチラシを見てたらアイスが溶けたと嘆いている。

 

「手がべとべと…」

「拭け」

「コイツがバトラーってやつ?」

「見に行くの?」

「そりゃ当然、行くしかないでしょ!!」

 

仕事で来てるのに完全に楽しんでないか…?

 

「僕は今日、普通の一般人なんだ!!レンジャーなんかじゃない一般人!!」

「そういう設定で来てるだけだろうが、仕事しろ」

 

ミミロップの手を無理やり掴んで手を繋ぎながら歩いて行くヤマト。ミミロップが「キモイ、ヤダ!」と悲鳴染みた声をあげてるのは良いのか…?

 

*

 

マジックショーを見物中。

ポップコーンを頬張るヤマトを軽く睨んでからステージへと視線を戻す。

バトラーの帽子からチルットが大量に出て来た時に隣でヤマトが声をあげた。

 

「可愛いいい!!!」

「うるさい!!」

「むがッ…!!」

 

ヤマトの口にポップコーンを詰めてからステージに視線をやればマジックの道具を持ってくるピエロ。

アイツらやっぱりバイト中なのか…。

なんで?なんで?と小さく言葉を漏らすミロカロスに、ステージを食い入るように見つめるミミロップ。

ブラッキーとエーフィも何処かで見てるんじゃないかと辺りを見渡してみたが薄暗くてよく見えない。

 

「出た!!美人!!」

「眠り繭だろ…?」

「そう、そっちだった!!」

 

赤いドレスを着た女性がジラーチの眠り繭を抱えてステージに現れた。

ヤマトが「なにするんだろ…」と小さく言葉を漏らす。その後に「しかし美女だな…」と漏らした言葉は聞かなかった事にしておいた。

眠り繭をかかげた女性、繭が一瞬眩く輝いたのが見えたがヤマトに視線をやると首を傾げられた。

 

「今、光ったよな?」

「え?」

 

光ったように見えなかったらしい。

ライトの反射だったのかもしれない……。

 

「本日はグレートバトラーのマジックショーにご来場頂きありがとうございます。私がグレートバトラーです、そしてアシスタントのダイアン!ポケモンアシスタントのグラエナ、キルリア!」

 

バトラーの紹介に客席から拍手が湧く。

 

< 星の声が聞こえる… >

「ん?」

 

テレパシーだ。

眠り繭へと視線をやればやはり光っているように見える。

 

< …ぼく、ジラーチ >

 

ジラーチはエスパータイプなのか…、と考えた時に客席から子供がステージへと駆け上がる。

 

「あ、子供…」

「マサトだな…」

「知り合い?」

「ああ、というか、ジラーチのテレパシーが…」

「へ?」

 

ステージに上がったマサトに女性、ダイアンさんが声を掛ける。

ここからじゃあまり声はよく聞こえない。

サトシがマサトと同じようにステージに上がりバトラー達に謝った。

 

「グッドタイミーング!!二人の少年とピカチュウがステージに上がって来てくれました、この二人に次のマジックの手伝いをして頂く事にしましょう!」

「お二人の名前を聞かせて下さい」

「オレはサトシ!」

「ボク、マサト」

「ピカチュウ!」

 

良いなぁ!とヤマトが言葉を漏らして思わずぎょっとする。

 

「お前、仕事だろ…!」

「あ、ああ、そう、うん、そう!!」

 

脱出マジックをするらしい。

サトシとマサトとピカチュウが箱に入れられた。

ああいうのって箱の底が抜けたりするんだよな。

 

「サマヨール!カモーン!!」

 

シンヤのサマヨールの方が良く育てられてるよね、とヤマトがステージに現れたバトラーのサマヨールにコメントするがそれ今どうでも良いだろ…。

 

「10数えた後にサマヨールの破壊光線が箱を粉々にします!それまでに彼らはこのデンジャラスな箱から脱出しなければなりません!!」

 

バトラーが10数えるとサマヨールの破壊光線が放たれた。客席から悲鳴が上がる。

横に座っているヤマトも大きな悲鳴を上げた。

 

箱は空っぽ、空中には花束が舞った。

 

「その花束は私からのプレゼントです!今宵の思い出にどうぞお持ち帰りください!」

「う…!」

「わはは!!シンヤの頭に花束乗ったー!!」

 

頭に乗った花束を手に取って横で欲しがるミロカロスに渡す。

 

「そして、このショーに協力してくれた少年達に拍手を!!」

 

バトラーが客席に手をやるとサトシとマサトが通路に立っていた。

ヤマトが「おおお!」と声をあげて拍手をする。

ステージにサトシ達が戻るのを見ていると、天井にピエロが居た……。

 

「うわぁ…」

「え、なに?」

「いや、あれ…」

 

私が指差した時にサトシの肩に居たピカチュウがアームに掴まれて透明なカプセルに閉じ込められた。

 

「ピカチュウもーらい!」

 

真面目にバイトして給料貰えば良かったのに…。

逃げようとカプセルの中で放電するピカチュウ。

なんでアイツらはサトシのピカチュウを狙ってるんだろうな…。電気タイプならもっといっぱい居るのに…。私がアイツらの立場なら珍しいサンダー、ライコウ辺りを狙うと思う。

 

「「ロケット団参上!!」」

「ロケット団!!なんでこんなところに!?」

「バイトしてたのさ~!」

「でもホントはこの魔術団のポケモンぜーんぶ頂く作戦なのよ!」

 

やっぱりバイトしてたのか、結構上手だったぞピエロ。チップを渡すくらいには愉快な感じで良かった。

横でヤマトが「ロケット団!?」と声を荒げてる所からロケット団を知ってるらしい。

気球で開いた天井へ昇って行くロケット団。

いつも思うんだがなんでそんな派手に盗ろうとするんだろう、攻撃してくれと言わんばかりに大胆に行動するよな…。

もっとひっそりと盗って証拠を残さず逃げれば良いのに…。いや、悪事に加担するつもりはないけど…。

 

「バイト代は要らないよ~」

「有難く思ってね~」

「臨時収入貰ったからニャ~」

 

チップ?

 

「皆さん本日最後のショーをお見せしましょう!!」

 

バトラーがステージで両手を広げた。

 

「サマヨール、鬼火!!」

 

鬼火を食らってロケット団が掴まっていたロープが切れる。ピカチュウが閉じ込められていたカプセルが開いて、サトシがピカチュウを受け止めた。

そしてピカチュウの十万ボルトで捕まっていたグラエナとキルリアが解放されて通路に着地する。

 

「それでは最後にあのポケモン泥棒達を天空へ消してみせます」

 

あーあー…。

 

「サマヨール!ナイトヘッド!!」

「「「ぅああああ!!!やな感じぃいい!!!」」」

 

会う度に同じ事をして吹っ飛んでないかアイツら…。

悪い奴で泥棒なんだろうけど憎めないこの感じはなんだろうな…。

客席から歓声と拍手が湧く、賑やかな中で青い空を眺めて密かに思った。

なんかもう、頑張れ…!!

 

*

 

「あらー…あの少年が受け取っちゃったよ…」

 

マジックショーが終わり客が帰った後にこっそりと様子を覗き見るヤマト。

パートナーが居ないと目覚めないと言っていたから、バトラーはジラーチと波長の合う子供をマジックショーを兼ねて探していたんだろうな…。

ジラーチが目覚めなければ何も始まらない、ってことか。

 

「どうしよ…」

「声を掛ければ良いだけだろ」

「あ、知り合いだっけ?」

 

頷けばヤマトは「ラッキー」と指を鳴らして笑みを浮かべる。

そしてバトラー達を一括してからエアドームを出て行ったサトシ達の後を追いかけた。

ポケモン花火が上がるのをミロカロスとミミロップが立ち止まり眺める。

キョロキョロと辺りを見渡すヤマトが私の腕を引いた、あれ、と指差した先にサトシ達。

近付いていけばサトシが「あ!」と声をあげて顔に笑みを浮かべた・

 

「シンヤさん!!」

「こんばんは!!シンヤさん!!」

「こんな所で会うなんてなんか意外かも!!」

 

こんばんは、と挨拶すればマサトが元気よく挨拶を返してくれる。

隣に居たヤマトが「はじめましてー」と飄々とした声でサトシ達に声を掛けた。

 

「はじめまして!えーっと…?」

「僕はヤマト。シンヤの幼馴染なんだ」

「シンヤさんの幼馴染!!」

 

ヤマトに自己紹介をするサトシ達を見てからチラリとマサトの手にある繭に視線をやる。

その視線に気付いたマサトがにこりと笑った。

 

「この中にジラーチが眠ってるんです!シンヤさんは知ってますか?」

「ああ、少しなら」

「ボクがジラーチのパートナーに選ばれたんですよ!!」

 

嬉しそうに話すマサトを見てヤマトが「へぇー、色々と話聞かせて欲しいから場所変えよっかー?」と笑顔でマサトに声を掛けた。

はい、とマサトは返事をした。周りで誰が聞いてるか分からないからあまり人が多い場所でジラーチの話をしたくないんだろうな…。

遊園地から少し離れた場所まで移動している途中から空が少し曇って来た。

歩きながらミミロップがタケシに「可愛らしい人だー!」なんて言われてブチ切れていたがヤマトが必死になって止めていた。

 

「曇っちゃったな…」

「これじゃ彗星は見えないかもしれないなぁ…」

「そんなぁ…」

 

草原に座り込み空を見上げる。

確かにこれじゃ星の一つも見えないな…。

 

「マサト、少し貸して見せてくれないか…?」

「え…、ジラーチを…?」

 

私が頷けばマサトは少し考える仕草をしてから私にジラーチの繭を貸してくれた。

手に取ればあまり重さは無い。岩のような見た目だがやはり繭ということか。

目を瞑って繭に耳を当てれば微かに心音。

 

「シンヤさん、何か聞こえる?」

< …シンヤさん >

 

マサトの言葉でジラーチが私の名前を呼んだ。

子供のような声、たどたどしい言葉遣いはとても幼い…。

 

「星の声が聞こえるのか…?」

< 聞こえる… >

「シンヤさん…?」

「え、シンヤどうしたの?大丈夫!?」

 

頭を押さえられてヤマトを睨む。

ジラーチのテレパシー、どうやら今のはマサトにも聞こえていなかったらしい。

星の声が何かは知らないが一応言葉は分かって返事もするポケモンだというのは分かった、知能はまあまあだな。

マサトにジラーチの繭を返せばマサトは首を傾げる。

 

「シンヤさんにもジラーチの声が聞こえた?」

「少しだけ」

「なーんだ、ボクだけじゃなかったんだ…」

 

ガッカリするマサトに苦笑いを返す。

そのガッカリしたマサトにミロカロスが「シンヤは特別だから」と笑顔で返した。驚いた顔をしたマサトを見てミミロップがミロカロスを突き飛ばす。

 

「今のは気にすんな!!」

「痛い…」

 

ミミロップに突き飛ばされたミロカロスが地面に突っ伏す。

 

「ブラー!!」

 

ブラッキーとエーフィがポケモンの姿でこちらに走って来るのが見えた。エーフィに探し回った!と怒られて謝れば丁度遊園地の灯りが消えて行く。

アトラクションがもう終わったらしい、空を見上げれば雲が風に流されて雲の隙間から明るさが覗いた。

 

「ぁ…」

「あれが千年彗星だ…!」

 

大きな流れ星がその場に留まっているような形。

願いごとをしなきゃ、と言ってハルカが何かペンダントのようなものを取り出していた。

 

「千年に一度かぁ…!」

「長いわねぇ…」

「オレたち人間にとって千年は凄く長い時間だけど、星にとってはほんの一瞬なのかもしれないよ」

「千年が一瞬か…」

「なんだか不思議…」

 

意外とロマンチックなことを考えるんだな、タケシ…。

星を見上げるのに疲れて草原に視線をやればマサトが繭を抱え横になっている。

 

「マサトが寝てるぞ…」

「あ、ホントだ…」

 

岩の上に座っていたハルカがマサトの隣に座りマサトの頭を撫でた。

頭を撫でられたマサトが小さく「ママ」と声を漏らす。その言葉を聞いてヤマトが笑みを零した。

 

「可愛いー…!」

「お前は子供も好きだよな」

「可愛さこそ全て!」

 

アホだ。

ヤマトの発言に呆れているとハルカが歌を口ずさむ。歌詞は無い"ル"だけの音だ。

 

「ママがよく歌ってくれた子守唄」

 

へぇー、とサトシが頷いたのと一緒に私もへぇーと同じように言葉を漏らした。

岩の上に座り直したハルカが小さく笑みを浮かべてからまた歌い始める。

するとジラーチの繭が輝きだした。

 

「…ぁ!!」

 

マサトが目を覚まし体を起こす。

隣に居たヤマトが「7日間が始まる…」と小さな声で呟いた。

 

< 星が…星が呼んでる… >

「聞こえた!!」

「今のがジラーチの声…!?」

「テレパシーだ…!」

 

サトシ達が顔を見合わせる中、マサトだけはジラーチの繭を一心に見つめる。

ジラーチの繭が光を放ち空中に浮かぶ。

星が呼んでる、というのは一体どういう意味なんだろうな…。

繭が溶けてジラーチが現れる、ふわふわと落下するジラーチをマサトが受け止めた。

ジラーチが目覚めた。

マサトの周りに集まりジラーチを覗き込むサトシ達の背を見てからヤマトに視線をやる。

 

「ここからだね…」

「そうだな…」

 

ジラーチが目覚めてからどうバトラーが行動するかが問題だ。

何もしないまま、このまま7日間が過ぎてくれれば一番良いのだけど…。

 

「ジラーチ…!!」

「これが…!」

「ピカピッカ!!」

「ちょっと可愛いかも!」

「ボク、マサト!」

 

マサトの言葉にジラーチが「マサト…?」と言葉を返す。

 

「オレはサトシ!仲良くしようぜ!」

「私、ハルカ!」

「オレはタケシ。よろしくな!」

「ピカッチュウ!!」

< サトシ、ハルカ、タケシ…? >

 

記憶するように言葉を続ける。

賢いねぇ…!とヤマトが言葉を漏らし笑っている、ジラーチが小さくて可愛いポケモンだったからデレデレだな…。

小さく溜息を吐くと息を切らせながらダイアンさんが走って来た、ジラーチを見たその表情はあまり嬉しそうではない。

 

「ダイアンさん!!ジラーチだよ!ジラーチ!!」

「バトラーに知らせてくるわ!貴方達は私の車で待ってて!!」

 

はい、とタケシが返事を返す。

バトラーの方を見に行くか…?とヤマトに視線をやればヤマトは小さく頷いた。

 

「シンヤさん!!こっちですよ!!」

「え?」

「ダイアンさんの車!!」

 

サトシに腕を掴まれて引っ張られる。

ま、待て…、私も一緒に行くのか!?特にバトラー達と面識が無いんだが…!!

 

「あー…じゃあ、僕は…」

「ヤマトさんも行きましょ!」

「ハルカちゃん…」

 

結局、引っ張られるまま車に乗せられた。

 

*

 

「ねえ、ジラーチ!僕の願いごと叶えてくれる?」

< ねがい…? >

 

車の座席に座ってジラーチの方に視線をやる。

ハルカの隣に座っているミロカロスが期待のこもった目でジラーチを見つめた。

 

「えーっと、えーっと、なんにしようかなー!!」

「私の願いも叶えて!!」

「オレも頼むよ!!」

 

ハルカとサトシの言葉にマサトが「ボクが最初!!」と声を荒げる。

願いを叶えてくれるポケモンなんて居るのか…?魔法なんてものがあるわけじゃないだろうし、ジラーチは見たところエスパータイプだろ…?

 

「んー…お菓子!!お菓子をいーっぱい食べたい!!」

「そんなことぉ…」

「いいだろー!!」

 

マサトの願いにハルカが呆れたように言葉を返す。

少し離れた所に座っていたミミロップがクスクスと笑っていた。

子供らしい願いごとだ…。

 

< お菓子…? >

 

首を傾げたジラーチが浮き上がり力を使う。

頭に付いていた短冊のようなものが光った…。本当に願いを叶えてしまうのだろうか…。

 

「いま光ったぜ?」

「確かに…」

「でも、お菓子なんて何処にも無いぞ?」

 

タケシが辺りを見渡した。

少しガッカリしたマサトがすぐに強気に発言する。

 

「大体願いを叶えられる方が可笑しいよ!信じてたの?」

「マサトが一番期待してたくせに!」

 

ハルカに図星を突かれてマサトが肩をすくめる。

苦笑いを浮かべたサトシが「あ」と声を漏らした。

「それ」とサトシが指差した先にはマサトの膝の上にスナック菓子が乗っている。

 

< お菓子!お菓子!お菓子ー!! >

 

ジラーチが空中を飛びまわるとお菓子が次々に現れる。

コツンと頭に当たった菓子を手にとって眉を寄せた。

 

「願いが…!」

「叶ったんだ…!!」

「おおお!!凄い!!」

 

ヤマトが感動してジラーチを目で追いかけている。ミロカロスが床に落ちたお菓子を拾い集めている間にもドンドンとお菓子は増えていく。

車いっぱいになって埋もれる…!!

 

「わーい!!お菓子食べ放題だヤッター!!」

「ジラーチ!次はオレの願いを叶えてくれ!」

「待って!次は私の番よ!」

「オレの願いを叶えてくれー!!」

「次は私!!」

「オレの願いもー!」

 

ハルカとサトシがジラーチの取り合いを始めた。

このお菓子の量はどうにかならないのか…、ごつごつしてて痛いし…。

 

「本当に願いごと叶うんだねー…驚いたよ」

「俺様も叶えて欲しいー」

「いや、このお菓子…遊園地で見た気がするんだが…」

「ワタシも…」

 

ミミロップと顔を見合わせた時に車の後部の扉が開いてお菓子ごと外に流される。

菓子類の上から退いて地面に足を付ければバトラーとダイアンさんが走って来た。

 

「ジラーチは!?」

「ここに居るよー」

< 居るよー >

 

マサトがジラーチを抱き上げて笑う。

菓子の山から手を伸ばすミロカロスとミミロップを引っ張り出すと自力で這い出て来たヤマトが大きく息を吐いた。

 

「なにをしたの?」

「ジラーチが僕の願いを聞いてお菓子をこんなに出してくれたんだ!」

 

お菓子の一つを手に取ったダイアンさんが眉を寄せる。

 

「遊園地で売ってるお菓子だわ」

「やはり物質を瞬間移動させる力があるんだ!!」

 

バトラーの言葉にサトシたちが「え!」と声を漏らした。

やっぱり遊園地で売ってたお菓子か…。

 

「もぉー!!これ本当に本物なの!?」

 

菓子の山から顔を出したハルカが一つの菓子の封を切って食べた。

 

「「「あ!!」」」

「あはは、まあお金払えば大丈夫だよ…」

 

理由を聞いたハルカがマサトに怒鳴る。

 

「変だと思ったのよ!!マサト!アンタのせいよ!なんとかしなさい!!」

「そんなこと言われたって…」

 

まあ、マサトを怒るのはちょっと可哀想だよな…。

「ジラーチに元の場所に戻させるんだ」とタケシが優しい声でマサトに言う。

 

「そうそう!ジラーチ!元に戻しなさい!!」

 

ハルカはこわい。

ハルカに怒鳴られたジラーチは特に怯える様子もなく「戻す!」と言ってまた光を放った。

するとハルカが消えた。

 

「えぇ!?」

「ジラーチ!?お姉ちゃんを何処にやったの!?」

 

辺りを見渡せば菓子の山に足が二本…。

バタバタと足を動かし、呻き声をあげるハルカが居た…。

戻すって、さっきまで居た場所に戻さなくても…。

サトシとタケシが慌てて菓子の山を登る、ヤマトとミミロップも一緒にお菓子の山をかき分けていた。

 

< ぼく…眠くなった… >

「ジラーチ…!また千年寝ちゃうの…!?」

「千年の眠りは七日後、これはエネルギーを使った為の一時的な休息だよ」

「良かったぁ…!!」

 

ほっと安堵の息を吐いたマサトに「ちっとも良くない!」とハルカの怒鳴り声。

救出されたらしいハルカは眉を寄せている。

 

「どうするのよ、このお菓子…!」

「オレ達で返しに行こうぜ…」

「それしか無いな…」

「えぇー!?もぉー…!!」

 

ハルカが声をあげる。

肩を落としたハルカを見てヤマトが苦笑いを浮かべた。

仕方がないな…。

 

「ハルカ、私が運んでおくからお前達はもう休んでろ」

「え!?でも、シンヤさんだけじゃ大変ですよ!?」

「いや、エーフィに一気に持ち上げてもらうから大丈夫だ」

 

ま、あとでエーフィに文句を言われそうだけどな…。

 

*

 

次の日、サトシ達がマジックショーの手伝いをするらしい。

バイトが急に居なくなってしまったから、だそうだ…。

ヤマトもポケモンレンジャーというのを伏せてサトシ達と一緒に手伝いすると言っていた。

バトラーの見張りだとか言ってたが、たんにマジックショーの手伝いをしたかったんだろう…。物凄い良い笑顔で手を振って走って行ったからな…。

そして、私は遊園地内のベンチに座ってのんびりと観覧車を眺めた。

実はヤマトに頼まれてマサト、否、ジラーチを見張っていたりする…。

 

「ん…?」

 

アドバルーンに紛れてニャース気球が空に浮かんでいる。

アイツらまた戻って来たのか…。

 

「シンヤさーん!」

< シンヤさーん >

 

手を振るマサトとジラーチに手を振り返す。

走り寄って来たマサトの頭の上にはジラーチが乗っていた。

 

「なにか少し食べるか?奢ってやるぞ」

「ホント!?ヤッター!!」

< やったー >

 

近くの店でジュースとお菓子を買ってベンチに座り直す。

ニコニコと笑うマサトは凄く楽しそうだ。

空中を飛び回っていたジラーチが私の肩に乗ったので視線をジラーチにやる。

 

< シンヤさん、星のにおいがする >

「は?」

 

ジラーチの小さな声に驚いて言葉を発するとマサトが「どうしたの?」と言って首を傾げた。

なんでもない、と返して咄嗟にコーヒーを啜る。

星のにおい…?

この世界か、はたまた別の世界か…。

まあ、私はこの世界にとって異質である事は間違いないしな…。世界や自然に関係しているポケモンや特別敏感なポケモンなどは私の異質さを感じ取るのかもしれない。

この世界の常識から外れてる存在だしな…。

ミュウツーもルギアもセレビィも…いや、他の連中もなんとなく気付いていたのかもしれない。ポケモンによってこの世界に存在している私の異質さに…。

頬に擦り寄って来るジラーチから視線を外し空を仰ぎ見る。

 

「シンヤさん!一緒に観覧車乗って下さい!」

「ん、ああ、良いぞ」

「やった、姉ちゃんに自慢しよーっと!!」

< 観覧車ー! >

 

マサトと手を繋いで観覧車へと向かう。

観覧車に乗った時にニャース気球を見る。

気球に乗ってる連中が見えないものかと目を細めてみたけど。

 

「…遠くてよく見えないな……」

 

 

 

(ニャニャニャ!!?)

(今、目が合ったぁー!!)

(この距離で見えるわけないでしょ!!)

(でも…こっちめちゃくちゃ見てるニャ…)

(睨んでるぅ~!!)

(((ひぃいいい!!!)))

 

*

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