一日千秋の思い   作:ささめ@m.gru

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マジックショーの手伝い、楽しかった…!!と言って息を吐いたヤマトを睨む。

 

「お前、気楽だな」

「あはは、は…。あ、ミミローくん、そこの小道具もここー」

「んー…」

 

手伝いをさせられたミミロップは少し不満気ながらも根が真面目なのでちゃんと仕事はしていたらしい。

人間に関わる仕事嫌いだもんな…。

そしてミミロップと同じく手伝いをしていたミロカロスはご機嫌だ。こっちはマジックを近くで見れて楽しかったらしい。

片付けをするヤマト達を見ているとガシャーンと大きな音。

慌てて顔を上げたヤマトと顔を見合わせて音の方へと走って行く。

 

「なんか大道具倒れたんじゃね?」

「しょうめー?」

「照明だろ…」

 

走って行けばハルカが床に座り込んでいる。

サトシ達も先に駆け付けてたみたいだ、特に大事にはなってない。

 

「ジラーチのせいよ!!もぉー!!」

 

ハルカが拳を握って怒っている。

「ジラーチは無邪気みたいだからねぇ」と言いながらヤマトが苦笑いを零した。

するとまた大きな音、今度は破壊音だ。

 

「な、なんだ!?」

 

マサトの悲鳴も聞こえて慌ててまた走り出す。

そこにはマサトに向かって攻撃を仕掛けるアブソルの姿。

 

「アブソルだ!!」

「アブソル!?」

「災いが起きる時に現れると言われるポケモンだ!!」

 

バトラーの言葉にサトシたちが「え!?」と声を発した。

アブソルが災いを察知して来た…という事はやはり良くない事が起きるのか…嫌だな…。

逃げるマサトを追いかけるアブソル、ステージ上にやって来た所でハルカがアブソルの前にアチャモを繰り出した。

 

「アチャモお願い!!」

「チャモー!」

 

ハルカから"ひのこ"の指示。

アチャモがアブソルに向かってひのこを放ったがアブソルはあっさりとひのこを蹴散らす。どう見てもレベルの差は歴然だ。

 

「ピカチュウ、十万ボルト!!」

 

サトシのピカチュウがアチャモの隣に並んだ。

ピカチュウの十万ボルトを食らったアブソルは弾き飛ばされたものの一回転して着地、アブソルがジラーチの名前を呼んだ。

知り合いか…?

 

< アブソル、迎えに来た…! >

 

そのジラーチの言葉にマサトが驚きの声をあげる。

そしてマサトの前に居たアチャモとピカチュウが消えた…。

これ以上、アブソルに攻撃するなってことか。

こちらを睨んだアブソルが威嚇しながら走って来る。

サトシ達が身構えるがステージに穴が開きアブソルが穴に落ちた。どうやらステージの仕掛けをバトラーが作動させたらしい。

 

「飛び入りはショーをやっている時にして欲しいね…」

 

目の前に檻に入れられたアブソルが現れる。

「フィナーレだ」と言ってバトラーがボールからキルリアを出した。

 

「キルリア、催眠術!」

 

キルリアの催眠術でアブソルがその場に倒れて眠る。

ジラーチに飛ばされたピカチュウとアチャモが戻って来たのを見て、バトラーの背に視線をやる。

 

「アブソルはどうして…」

「迎えに来たってジラーチが!」

「アブソルはジラーチの仲間ってこと?」

「だからピカチュウたちを瞬間移動させたのか」

「そうなの?ジラーチ」

< ぼく…眠たい… >

 

日中遊んでいたのと能力を使ったので疲労が限界に達したのだろうジラーチが眠ってしまう。

ヤマトと目が合って小さく頷いた。

 

*

 

「アブソルはファウンスからジラーチを連れ戻しに来たのね…」

「多分な…」

「きっと、このまま続けると災いが起きるんだわ…!」

「恐れることはない!」

「バトラー!お願い、やめてちょうだい!恐ろしいことになる気がする!!」

「私はこの日の為に今までやって来たのだ、さあショーを始めるぞ!!」

 

あんなことになってますけど、とヤマトに視線をやればどうしましょうと困ったような視線を返される。

 

「お前が真実の目を開く時、千年彗星から巨大なエネルギーを集める事が出来るのは分かっている…」

 

ジラーチが悲痛な声をあげている。

 

「私を馬鹿にしたマグマ団のやつらを見返してやる!!」

 

よく状況は読めないが。

バトラーがジラーチを使って千年彗星から巨大なエネルギーを集めて何かをしようとしているのは確かだな。

しかもそれが良い事では無いのも…。

 

「さあ、ジラーチ!お前の真実の目を開け!!そして天空より彗星のエネルギーを集めるのだ!!」

< 嫌だー!! >

「嫌でも開くようになる、サマヨール、サイコキネシス」

 

行くぞ、とヤマトに声を掛ければヤマトは頷いた。

頷き返してボールを二個放り投げる。いけ、ブラッキー!サマヨール!

 

「ブラッキー、あくのはどう!!」

「ブラァア!!」

「ッ…!?邪魔をするな!!」

「するに決まってるだろうが!」

 

咄嗟にサマヨールを庇うように前に出たバトラー。サマヨールを攻撃してサキコキネシスを止めようと思ったのだが…。

まさか身を呈して守るとは…。

 

「サマヨール、鬼火」

「サマ!」

 

火傷しろ!と本気で思ってバトラーに鬼火を仕掛けるがヤマトが叫んだ。

 

「真実の目がッ!!」

「なッ!?」

 

ジラーチの真実の目が開かれた。眩い光線が千年彗星とジラーチの真実の目が繋がる。

強大なエネルギーに爆発が起きてバトラーも私達も吹き飛ばされた。

目を開けると少し離れたところでぐったりと倒れるヤマトが視界に入った。体を起こそうとすればサマヨールが私の上に覆い被さっている。

 

「サマヨール…!」

「…マ…」

 

咄嗟に爆風から庇ってくれたらしい。

走って来たサトシ達がこの光景を見て息を飲んだのが分かった。

 

「ッあ、ジラーチ!!」

「凄いエネルギーだ!!次は必ずコントロールする!!」

「ジラーチになにをしたんだ!!」

「ソイツを渡せ!」

「ヤダ!!」

 

サマヨールの手を借りて体を起こす。

バトラーに攻撃しようとサマヨールが手をかざした時、バトラーをダイアンさんが制した。

 

「バトラー!!もうやめてちょうだい!!」

「やめるわけにはいかない!絶対に上手く行く!!ダイアン、私を信じろ!あと一歩なんだ!!」

「私こんなことしてほしくない!!」

「何っ!?」

 

おい、この状況で痴話喧嘩か…!!

唖然としているとマサトがジラーチを抱えて走り出した。

それを見てバトラーがダイアンさんを払い除けてサマヨールに指示を出す。

 

「サマヨール!サイコキネシス!!」

「ピカチュウ、十万ボルト!!」

 

サトシがサマヨールに十万ボルトを食らわせた。

「帰りたい、ファウンスに帰りたい…」というジラーチの声。

 

「みんな!私の車に急いで!!」

 

ダイアンさんの言葉でサトシ達が走って行く。

ヤマトがマサトの腕を引きながらこちらを振り返った。

 

「シンヤ!!」

「先に行け!!ブラッキー、くろいまなざし!!」

「ブラァ!!」

「くっ…!!サマヨール、シャドーボール!!」

 

ブラッキーの前に私のサマヨールが立つ。バトラーのサマヨールからのシャドーボールを食らったサマヨールはよろけながらも敵を睨む。

 

「よし、しっぺがえし!」

「サマッ!!!」

 

バトラーのサマヨールが後方に吹き飛んだ。

ブラッキーにアイアンテールの指示を出してアブソルの檻を破壊してからサマヨールとブラッキーをボールに戻した。

 

「行くぞ、アブソル!!」

「ソォル!!」

 

*

 

「ファウンスに帰りたいってジラーチが言ったのね」

「うん…」

「ファウンスはバトラーがジラーチを見つけた場所よ。バトラーはかつて科学者としてマグマ団に関わりグラードンを再生しようとしたの」

「グラードン?」

「大地を創る事が出来ると言われてる伝説のポケモンですね」

「ええ、それに失敗した彼はマグマ団から追放された…。でも彼はついにファウンスでジラーチを見つけたの」

「ジラーチに願いを叶えてもらおうとしたの?」

 

マサトくんの言葉にダイアンさんは「いえ…」と否定の言葉を発した。

 

「ジラーチを使って千年彗星の強大な力をグラードン再生の為に利用しようとしたってことですか…」

「…その通りよ」

 

僕がそう言えばダイアンさんは切なげな声で返事をしてくれた。

 

「でも、ジラーチを目覚めさせるにはパートナーになる少年が必要だった。だからマジックショーをしながらその少年が現れるのを待っていたのよ」

 

「それがマサトだったってわけか…」とハルカちゃんが言葉を漏らした。

まさかバトラーの目的がグラードン再生だったなんて、誤算だったなぁ…。

 

「こんな事ならもっと早くにジラーチの眠り繭の様子を見に行って、見張っとくべきだった…」

「ヤマトさんとシンヤさんはバトラーがしようとしてること、気付いてたの…?」

「さすがにグラードン再生までは予想してなかったんですけどね。僕は今回の千年に一度のジラーチの目覚めを見守る事を任されたポケモンレンジャーです。シンヤは僕の幼馴染で協力者」

「ポケモンレンジャー…」

 

えぇ!?と驚きの声をあげたサトシくんたちに苦笑いを返すとマサトくんの腕に抱かれたジラーチが苦しげに声を漏らした。

 

「そのファウンスって何処にあるの!?」

「この車で4日ってとこね」

「ジラーチをファウンスに連れて行ってあげるのはパートナーであるボクの役目だ!」

 

マサトくんの言葉にサトシくんが拳を握る。

 

「マサト、よく言った!!オレも協力するぜ!!」

「オレも行くぞ!」

「しょうがないわね、私も行ってあげる!」

 

三人の言葉に僕は思わず乾いた笑いが出た。

 

「ポケモンレンジャーとしてはここでジラーチだけ預かってキミ達を安全な場所に避難させるべきなんだけどなぁ…」

「ヤマトさん…!!」

「でも、ここでそんな空気の読めない事は出来ないよねー。みんなで行こうか!」

 

マサトくんの顔に満面の笑みが浮かぶ。

「決まりね」とダイアンさんが言葉を発したのに僕は頷いた。

 

「そうだ、シンヤさんは大丈夫なんですか?足止めに残ってくれてたみたいですけど、連絡とか取れたりとかは…」

「シンヤ?んー、特に連絡を取る手段は無い!」

「「「えぇ!?」」」

「けど、シンヤなら追いかけて来るでしょ。トゲキッス連れてるし、ファウンスの場所も知ってるし」

「そんなアバウトな…」

 

*

 

「ん?」

 

トゲキッスに乗ってファウンスの方角へと飛んでいると前方にダイアンさんの車。停車しているところから休憩でもしているのだろうか。

昨日の夜から走りどおしで今は昼過ぎ、もっと先に進んでるかと思ってたんだけどな…。

停車してる車の傍に降りれば窓からハルカが顔を覗かせた。驚いた顔をしたハルカがすぐに車のドアを開けてくれる。

 

「シンヤさん!!」

 

トゲキッスをボールに戻して車内に入ればヤマトが「ほら追いかけて来たー」と言って笑っている。

 

「でも、もっと早く来ると思ってたのに」

「私だってもっと先に進んでるものだと思ってた」

 

席に座ればジラーチが私の肩に乗った。

昨夜のダメージはあまり残っていないらしい、元気そうだ。

 

「シンヤが追いかけて来ると思ったからダイアンさんになるべく休憩入れて貰ったんだよ。何してたの?」

「買い物してから来た」

 

途中で買った大きめのカバンをヤマトに手渡す。

とりあえずファウンスまでに必要な食料類が大半。

さすがにジラーチに瞬間移動して食料を出してもらうわけにはいかない、それも盗品なので気が引けるだろうし、ジラーチも疲労するしな。

 

「良かった、積んである食料だけじゃ心許なかったの」

 

ほっと息を吐いたダイアンさん。

カバンの中身を見たヤマトが「そこまで気が回らなかった…」と小さな声で呟いた。

 

「ミロさんたちはどうしたんですか、シンヤさん?」

 

タケシの言葉にヤマトがビクリと肩を揺らした。

ボールの中に居るぞ、とは言えないので「危険だから昨夜の内に途中で別れたんだ」と曖昧に返事を返しておく。

真夜中の時点でミロカロスとミミロップは日中の手伝いで疲れてボールの中で寝てたしな。

私の曖昧な返事にタケシは納得してくれたのか頷き返してくれる。ヤマトが密かに安堵の息を吐いたが別にバレたところで特に問題も無いと思うけどな…。

 

*

 

三日目の千年彗星が夜空に浮かぶ。

眠ってしまったサトシとマサトを視界に入れながらポケモンフードをタケシと作っていると隣で寝転がっていたヤマトが呟いた。

 

「あと、四日かぁ…」

 

ヤマトの呟きに私とタケシは特に返事は返さない。

 

「あと四日でジラーチがまた千年の眠りにつく…、バトラーのグラードン再生が阻止出来るのは良いけどねぇ…」

 

体を起こしたヤマトがサトシとマサトの方に視線をやった。

 

「お前はポケモンレンジャーとして任務を遂行しろ…」

「…うん」

 

頷いてからも小さく溜息を吐いたヤマトを見てから手元にあるポケモンフードを大きめの葉の上に乗せた。

葉の上に乗せたポケモンフードをたき火から少し離れた場所に置く。

 

「…?」

「シンヤさん?」

「ん、なんだ?」

 

タケシに呼ばれて首を傾げれば同じようにタケシとヤマトが首を傾げた。

 

「え、なんでそんなとこに置いたの?」

「食べると思って」

「誰が?」

「アブソルが」

 

私の言葉にヤマトが辺りを見渡した。

いや、ついて来てるかはしらないけどな。多分、ついて来てるだろ。

私は買い物に行きたいから直接車を追わなかったがアブソルは車が向かったと思われる方角へ走って行ってたし。

それに食べなくても土になるから大丈夫。

 

*

 

真横は絶壁の崖。

途中でダイアンさんと運転を変わったヤマトは悲鳴をあげながらハンドルを握る。

 

「ヤマトさん!!落ちないで~!!」

「コワイー!!!こんなとこ走るの初めてだよー!!」

 

やめろ、運転手にそんなこと言われると乗ってる方も不安になるだろうが…!!

窓から崖を覗き込むサトシ達の顔色も悪い。

 

「シンヤー!!バトンターッチ!!!」

「お前もう運転するな…!」

 

*

 

ダイアンさんの運転中にタイヤが泥にはまって進まなくなったらしい。

軽く仮眠を取っていた私が起きるとヤマト達が外に出て車を後ろから押しているところだった。

ポケモンの技で押せば良いのに…と思いミロカロスのボールを取りだした所で車が勢いよく前進した。

 

「抜けたわ!」

 

喜ぶダイアンさん。

後ろを見ればヤマト達が泥で真っ黒だ。

窓からミロカロスのボールを投げて「軽いやつ」と指示を出す。

 

「ミロォオー!!」

「「「どわわわわわ!!」」」

 

ミロカロスの軽いハイドロポンプで泥が落ちたらしいヤマト達がケラケラ笑っている。

 

「シンヤ!起きたなら手伝ってくれれば良かったのに!!」

「手伝おうと思ったら抜けたんだ」

 

四日目の夜。

エーフィのブラッシングをしているとサトシとマサトが川に石を投げて水切り遊びをしている。

 

「ボクとヤマトさんの引き分けだね!!」

「あとちょっとだったのにー!!」

「アハハハ!!」

 

それに混じってヤマトが大人げなくハシャいでいるのだが…。

 

「私、あれと幼馴染なのか…」

「フィー…」

 

*

 

五日目の夜。

 

「やめてよ!お姉ちゃん!!」

 

マサトの声に顔を上げる。

様子を見に行くと湖の傍にマサトとサトシが座っている。タケシに視線をやると苦笑いを返された。

 

「あと二日だもんねぇ…」

「ああ、それでか…」

 

ヤマトの言葉になんとなく状況を把握した。

あと二日でジラーチは千年の眠りにつく、もう二度と会う事が出来なくなる…。

 

「千年後なんて想像出来ないよね」

「……」

 

というか、ジラーチは千年ごとに目を覚ましてるのか…アイツどれぐらい生きてるんだろうな…。

ポケモンって本当に長生きだ…。

 

「お前は千年、生きたいと思うか?」

「え、いやぁ…微妙…。でも千年後には可愛いポケモンが今よりもっと増えてるのかもしれないと思うと迷っちゃうなぁ…!!」

 

聞いて損した。

 

*

 

六日目で目的地、ファウンスへと到着した。

ヤマトの言っていた通り無数の岩の柱と緑に囲まれた自然郷。

チルタリスの群れが上空を飛んでいくのにサトシ達が「わぁ」と声を漏らした。

 

< ぼく、ここが好き! >

「オレも気に入ったぜ!」

「ボクも!」

「ピィカ!」

 

周りには野生ポケモンだらけ。

隣を歩いていたヤマトがサトシ達と同意して「僕もー」と返事を返していた。

私はちょっと嫌。野生ポケモンが賑やか過ぎる。

 

六日目の夜。

たき火の灯りで本を読んでいるとマサトとジラーチが一本の小枝を引っ張り合い遊んでいた。

 

「よこせよー!!」

< んーッ…!! >

 

マサトに引っ張られてジラーチとマサトの頭がぶつかった。

お互いに笑みを零すマサトとジラーチ。

それを見ていたサトシとヤマトも釣られて「アハハ」と笑った。

 

「マサト、もう寝なさい!」

「良いじゃないか、もうちょっとー!」

「アンタが病気にでもなったらママから私が叱られるの!」

「ちぇー、こういう時だけお姉さんぶるんだもんなぁ…!」

 

ハルカの言葉にマサトは渋々とメガネを外して横になる。

そのマサトの言葉にハルカは苦笑いを浮かべた。

横になったかと思ったマサトはすぐに体を起こしてジラーチを抱きしめながら眉を寄せる。

 

「だって!ジラーチといられるのはあと一日しかないんだよ!?」

 

少し怒鳴るように言ったマサトは今度こそ横になった。

 

「ジラーチ…、ボクもっとキミと一緒に居たいよ…」

< ぼくもー… >

 

お互いに額を擦り寄せて眠るマサトとジラーチ。

隣で若干涙ぐんでる気がするヤマトは無視しよう…。

カップを手にとってお茶を飲めば、ハルカが子守唄を歌い出した。ヤマトが情けない顔で泣いた。

 

「どぁー…、ティッシュくらさい…」

「無い」

「たおる…」

「ん」

 

*

 

七日目。

道中でアブソルと会い、道案内をしてもらいながら進む。

もうすっかり辺りは夕焼け色。歩みを進める度に野生ポケモンが顔を出すのでサトシ達が嬉しそうなんだが。

ポケモンレンジャーが一番ハシャいでるのはどうなんだ…。

 

「フライゴンだ!!」

「ホントだぁああ!!」

「ヤマト、うるさい」

 

ベシンとヤマトの後頭部を叩く。

 

「みんなジラーチを迎えてくれてるみたい…!」

 

ハルカの言葉にタケシが相槌を打った。

少し歩くと前方に洞穴、ダイアンさんがライトを点けた。

 

「ここ、ここ!」

「お前は一回来てるのになんでそんなハシャぐんだ…」

「いや、だって僕一人で来た時はあんなに野生ポケモン出て来なかったもん…」

 

しゅんと肩を落としたヤマトを見て溜息を吐く。

 

「この奥よ、ずっとジラーチが眠っていた場所は」

 

ダイアンさんがそういうと天井へと視線をやったアブソルが洞穴の奥へと走って行ってしまった。

ここだけ随分と明るい。

天井にはぽっかりと穴が開いていて千年彗星が見えた、サトシたちが「わぁ」と声を漏らす。

 

< 星が、よんでる… >

「ジラーチ…」

 

マサトの頭の上に居たジラーチがふわりと浮き上がった。

そのジラーチを捕まえてマサトが抱きしめる。

 

「やっぱり嫌だ!!」

< マサト… >

「せっかく友達になれたのにもう会えなくなるなんて嫌だよー!!こんな思いするくらいなら会わなきゃ良かった…!!」

 

マサトの言葉にヤマトが自分の口元を手で押さえた。

お前、この状況で一人だけ泣くのか…。

 

< 星が…よんでる… >

 

ジラーチがマサトから離れて浮き上がった。

 

「真実の目が開くわ…」

「真実の目…?」

「ジラーチは千年彗星からエネルギーを呼び込む時に真実の目を開くの」

「彗星のエネルギーを…」

「呼び込む…」

 

顔にタオルを押さえつけていたヤマトの肩を叩く。

ジラーチを見守るのがお前の任務だろ、と小さな声で言えばハッとしたようにヤマトが顔を上げた。

 

「眠っている千年の間、ジラーチは彗星から吸収したエネルギーを少しずつ大地に注いでくれるの…、そのおかげでファウンスは豊かな緑を保つことが出来るのよ」

「ここの森はジラーチが育てたんだ…」

 

へぇー、とヤマトが言葉を漏らした。

お前…良いのか、ポケモンレンジャー…。自分が受けた任務対象のポケモンのこと知っておかなくて…。

ジラーチの真実の目が開くのを眺めていると急に壁から轟音を立てて機械が飛び出してきた。

その機械が放った不気味な光はジラーチを取り囲む。

 

「ぁあ!?」

「ジラーチ!!」

「罠だわ!」

 

ジラーチが遥か上空へと連れていかれる。

空には変な機械、その上にはバトラーの姿があった。

 

「諸君、本当のグレートバトラーのマジックショーにようこそ!」

「バトラー…!!」

「どうしてここに!!」

 

どうしても何もファウンスからジラーチを持ち出したのがバトラーなんだから、まあ当然来るだろうな…。

そしてもうマジックショーでもなんでもないだろ…。

 

「ジラーチの心を開き信用させるにはキミ達の友情がもっとも効果的だった。キミ達こそがジラーチに仕掛けた最後で最大のトリックだ!!」

「バトラー…!」

 

マジックなのかそれ…?

 

「ダイアン!実験が成功すればキミは私を理解してくれるはずだ!!」

 

機械から不気味な光が私たちの周りを囲んだ。

 

「諸君、クライマックスはこれからだ!この偉大なショーを楽しんでくれたまえ!!」

「ジラーチ!!」

 

実験が成功って…グラードンを再生させるんだろ…?

グラードンを探せば良いだけなんじゃないのか…、再生させることになんの意味があるのか…。研究者の意地か…?

 

「見るが良いマグマ団!!グラードン復活だ!!」

 

彗星のエネルギーを使い機械が動いてるのがよく分かる。

隣に居たヤマトに視線をやれば焦ったようなヤマトと目が合った。

 

「シンヤ…!」

「グラードンって今は存在しないのか?」

「知らないよ!!見たことないし!!」

 

サトシのピカチュウが周りを取り囲む不気味な光に十万ボルトを食らわせている。

ヤマトに肩を掴まれてガクガクと揺さぶられた。やめろ、吐く。

 

「シンヤ!!なんとかしてってばー!!」

「中からは無理だ。外からあの光を放ってる機械をどうにかしないと…」

 

私がアレと指を差すと洞穴の奥からアブソルが走って来た。

アブソルの攻撃が機械を破壊する。そして野生のフライゴンもやってきて全ての機械が破壊された。

 

「アブソル!フライゴン!」

 

フライゴンがサトシ達の傍に降りた。

 

「フライゴン!オレ達に力を貸してくれるのか!?」

「フラーィ!!」

「よし!!」

 

フライゴンの背にサトシが飛び乗った。

そのサトシの後ろにマサトが同じように飛び乗る。

 

「ボクも行く!!」

「マサト、ピカチュウ、振り落とされんなよ!」

「うん!」

「ピッカチュウ!!」

「頼むぞフライゴン!」

 

サトシの言葉でフライゴンが飛ぶ。

呆然と見ていたヤマトが「あ!」と声をあげた。

 

「危ないから戻ってきてぇええ!!僕が行くからぁああ!!」

「情けないポケモンレンジャーだな…」

「しまったぁああ!!ミッションどころじゃないよ、子供たちの命の危機だよぉお!!」

 

ヤマトが悲鳴を上げる。

上空ではバトラーの繰り出したボーマンダとフライゴンがバトル中だ。

 

「ちょちょちょ、飛行タイプ!!飛行タイプをキャプチャしてくる!!」

「じゃあ、私は今のうちに機械の方を…」

 

トゲキッスをボールから出して背に乗るとヤマトが私の腕を掴んだ。

 

「なんだ」

「外まで走って戻らないといけないから上から外まで運んで!」

 

…走れよ。

 

*

 

ヤマトを洞穴の外に降ろしたところで攻撃の音が聞こえなくなった。

ジラーチをサトシ達が助け出したのか、と呟くとヤマトが「え!?」とスタイラー片手に声をあげた。

 

「え、なに、僕、完璧な役立たず!?」

「…バトラーがあっさりジラーチを渡したのかもしれないな」

「良い人!」

「違うだろ、グラードン再生がどうなったかが問題だ」

 

トゲキッスの背に座れば地割れのような音。

視線を上げれば大きな影。ヤマトが口を開けたまま固まった。

 

「グラードン…」

「バトラー!!悪い人ー!!」

「さっさと飛行タイプをキャプチャしてこい!」

「わ、分かってるよー!!」

 

グラードンの周りの草木がドンドンと枯れていっている。

あれがグラードン?

実物を見た事がないのでハッキリとは言えないが一言で言い表すなら…不完全、ってところだろうか…。

ポケモンとも言い難い雰囲気がなんとも気持ち悪いなと思ったところでグラードンの背中から緑色の触手。

こちらに向かってくるそれを見て慌ててトゲキッスが飛び上がる。

下に居た野生ポケモンが触手に捕まって触手の中に飲み込まれた…。

 

「絶対に捕まるな!!」

「キィーッス!!」

 

触手が追いかけて来るのをトゲキッスがするすると避けて飛ぶ。

避けているとグラードンの意識が逸れたのか触手が一気に別の方を向いた。視線をやればその先にはサトシ達…。

 

「シンヤ!ジラーチが狙われてる!」

「!?」

 

クロバットに乗ったヤマトがグラードンを指差した。

直接攻撃しろってことらしい。

 

「クロバット、ちょうおんぱ!」

「トゲキッス、みずのはどう!」

 

クロバットとトゲキッスの攻撃を受けたグラードンがその場で雄叫びをあげた。

 

「これー!!どうやったら消えるわけー!?攻撃そんなに効いてないよー!!」

「言われなくても分かってる!!」

 

触手を避けながらひたすら攻撃するが足止め程度で特にダメージは与えられていない。

先程までサトシ達を追いかけていた触手が私達を狙い始めたってことはサトシ達が捕まったか、それともサトシ達を見失ったか…。

 

「フラーィ!!!」

 

フライゴンの鳴き声。

視線をやればフライゴンの背に乗ったサトシとマサト。ジラーチもまだ無事らしい。

 

「シンヤさん!!ヤマトさん!!時間を稼いで下さい!!」

 

サトシの言葉に「分かった!」と返事を返す。

時間を稼ぐってことは何かしらの策があるんだろう。

一直線にフライゴンを追う触手を攻撃してひたすらに捕まらないように逃げ回る。

ふと視線をやるとあの変な機械の上にバトラーの姿があった。

必死に機械を作動させようと動き回っているところを見ると、あの機械を使ってグラードンをどうにかするのか……。

 

「シンヤ、上ー!!」

 

ヤマトの声に視線を上にあげると変な筒が降って来た。

「シンヤさんナイスキャッチー!!」とマサトの声、よく分からないがフライゴンの傍に近寄って筒をサトシの方に投げ渡した。

 

「グラードンの気を引いていれば良いんだな?」

「お願いします!」

 

サトシの言葉に頷いてグラードンへと攻撃を仕掛ける。

 

「よーっし、クロバットもう一頑張りだよ!!エアカッター!!」

「トゲキッス、みずのはどう!」

 

攻撃を仕掛けているとフライゴンとボーマンダも攻撃に加わった。

やはりあの機械からグラードンの意識を逸らしたいらしい。

それでもグラードンは真っ直ぐにジラーチの居る方へと進んで行く。

 

「バトラーさん!!」

 

サトシの声に私達は一斉に視線をやった。

ボーマンダとフライゴンがグラードンの顔面に攻撃を仕掛ける。

雄叫びをあげたグラードン。触手が不規則に動いてボーマンダとフライゴンが捕まった。

 

「あああ!ボーマンダ、フライゴーン!!」

「ヤマト!!下だ!!」

「ええ!?」

 

クロバットが慌てて方向を変えようとするが捕まった…!!

咄嗟に翼でヤマトを弾き飛ばしたクロバット。

 

「クロバットォオ!!」

「トゲキッス、ヤマトを!」

「キィッス!!」

 

触手を避けながらヤマトの方へと飛ぶトゲキッス。

ヤマトに手を伸ばした時に真横から触手が来てヤマトが悲鳴をあげた。

 

「うあああ!!!」

「ッ!?」

 

しかし、触手は寸前のところで止まった。

慌ててヤマトの腕を掴むとトゲキッスが上空へと逃げる。

 

「今、止まったよね?まさかグラードンに意思が…!?」

 

意思があったら、今もこうして触手に追われてないだろ……。

ヤマトを支えながら身を低くしてトゲキッスから振り落とされないようにしがみ付く。

あれはグラードンの意思というより、攻撃…サイコキネシスだったような…。

 

「ジラーチお願いだ!!みんなを助けてくれぇええ!!!」

 

サトシの声。

機械の方へと視線をやればグラードンが再生された時と同じように機械が動き出した。

 

「もう一体のグラードンを再生させてバトルさせるんだね!」

「絶対に違うだろ…」

 

機械から放たれる光線が地面へと当たる。

グラードンが雄叫びをあげた。

悲鳴のような声をあげたグラードンが機械の方に向かって倒れて行く。

 

「ああああ!!ジラーチが!!!」

 

ヤマトが声をあげた時にグラードンの腹部辺りから眩い光が放たれた。

そのまま大きな光の球体になってグラードンを空へと押し上げて行く…。

 

「おぉ…」

「ど、どうなってんの…!?」

 

巨大な流れ星のような光がグラードンを空の彼方へ連れて行ったかと思うと上空で光が花火のように爆発した。

横に居たヤマトが「ギャァアアア!!」と悲鳴をあげたので思わずグーでぶん殴ってしまった。

無数の光が空から落ちて来る。

そしてグラードンの触手に捕まったポケモン達が戻って来た。

 

「うわ、すご…ッ!!」

「ジラーチか…」

 

ほ、と息を吐いた時に周りがぐにゃりと歪む。

気が付くとトゲキッスに乗ったままの状態でサトシ達のすぐ真上に居た。

 

「あ、シンヤさん!ヤマトさん!」

「え?なに今の?」

「ジラーチがサトシ達のところに瞬間移動させてくれたんだろ…」

 

地面に降りて空を見上げる。

眩いばかりに光り輝くジラーチが上空から降りて来るのが見えてサトシ達がジラーチの下へ走り出した。

 

「ジラーチ!!ありがとうー!!」

< マサト、大好き! >

「ジラーチ…!!」

< みんな大好き!みんな仲間!ずっとずっと友達!! >

「そうさ!ずっとずっと友達だ!」

 

サトシの言葉にタケシとハルカ、そしてピカチュウが頷いて返事を返した。

隣でヤマトが私の腕をかなり強い力で握りしめて今にも泣き出しそうだ…、痛い…。

 

< ぼくのお願い、聞いてくれる…? >

「ジラーチのお願い…?」

< 歌を聞かせて…、ぼくもう眠るから… >

「ジラーチ…」

「マサト、歌ってやろうぜ!」

「ママの子守唄!」

< お願い… >

 

ヤマトの目からぶわっと涙が零れた。

カバンからタオルを引っ張りだしてヤマトの顔に押さえつける。

お前、このタイミングで情けない嗚咽漏らすなよ!?

ハルカたちが子守唄を歌い始めた。

眠たげな目をしたジラーチがゆっくりと目を閉じる。

 

< ありがとう、みんな…。楽しかった…! >

 

ジラーチが眠り繭に戻る…。

マサトがジラーチの名前を呼んだ。ジラーチの眠り繭は大地へと沈んで消える。

ジラーチの眠り繭が大地へと沈むと大地に光の波が打つ。まるで脈を打つかのように広がる光の波紋がファウンス全体を覆う。

 

「おやすみ…、ジラーチ…」

「おやすみなさい…」

「ジラーチ…、キミに会えて本当に良かったよ…!」

 

ヤマトがここで「うわあああ」と情けない声をあげた。我慢してたらしい…。

お前、結構…涙もろいんだな…。

 

*

 

「私とダイアンはファウンスに残るよ」

「二人で荒れてしまった土地を元に戻して緑を広げる研究をするわ」

「良かったですね、ダイアンさん!願いが叶って!」

「ええ」

 

頷いたダイアンさんがチラリとヤマトの方に視線をやった。

腕を組んだヤマトの目は若干、腫れてる…。

 

「あの…」

「ポケモンレンジャーとして見過ごせないんですけどね」

 

あ、と声を漏らしたサトシ達。

おそらくヤマトがポケモンレンジャーだって忘れてたんだろうな…。

 

「でも、土地を元に戻して緑を広げる研究は大賛成です。上の方にもミッション完了の報告と一緒に説明しときますんで」

「ありがとう!」

「ポケモンレンジャー公認ってことで頑張って下さい!!」

「精一杯、頑張るよ!」

 

バトラーとヤマトが握手を交わす。

勝手にそんなこと決めて良いのかは知らないが、まあ良いか…。

車に乗り込むサトシ達に続いてヤマトが車に乗り込んだ。

そういえば、途中でグラードンの触手を止めてくれた、おそらくサイコキネシス…あれは…。

 

「シンヤさーん、早く早くー!」

「……ああ」

 

*

 

サトシ達と一緒に車を降りてそこで解散。

大きく手を振ってくれるサトシ達と別れて家に帰る為にトゲキッスのボールを取りだした。

 

「トゲキッス、大分疲れてるんじゃない?」

「だろうな。でも帰るまではなんとか頑張ってもらわないと」

 

苦笑いを浮かべたヤマトに苦笑いを返す。

 

「じゃ、僕はこのままミッション完了の報告に行くから」

「ああ、じゃあな」

「まったねー!!今度ちゃんとお礼するからー」

 

手を振るヤマトを見送った。

お礼はあんまり期待しておかないでおこう…。

ボールからトゲキッスを出して、トゲキッスの頭を撫でる。

 

「家に帰るか」

「キィッス」

 

カバンを肩に掛け直したところで視線。

後ろを振り返れば茶色のマントにすっぽりとフードを被っている姿がそこに居た。

驚く私とトゲキッス、そいつが何なのか困惑しているとマントの下からするりと長い尻尾…。思わず口から笑みが零れた。

 

「お前だったんだな」

< 気まぐれだ… >

 

茶色のマントを身に纏っていたのはミュウツー。

元々が人の姿に近いせいで本気で見知らぬ怪しい人間かと思ってしまったじゃないか…。

なんでここに居るのかと聞けば、千年に一度しか見れない千年彗星を見に来ていたらしい。

そこで私を見つけて密かに様子を見ていたそうだが、もうそれだと後半は千年彗星じゃなくて私を観察してるぞ。

 

「サイコキネシスは助かったけどな、助けるならもっとガッツリ助けて欲しかった…」

< 無茶言うな、あのサトシとかいう連中から私の記憶を消した意味が無くなるだろ >

 

サトシは別にそんな細かいことを気にする奴じゃないと思うけど…。ミュウツーを知ったとしても騒ぐ連中じゃ…。

いや、騒ぐ奴が一人居た。

出て来なくて正解だ。ミュウツー…。ヤマトの前に出てくれば歓喜の悲鳴をあげられたうえにベタベタ触られて観察されること間違いない。

 

「私の家はミナモシティだ」

< だからなんだ…? >

「一緒に行くんだろ?」

< …… >

 

少し考える仕草をしたミュウツーは小さく頷いた。

よし、帰ろう。

 

*

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