バトルタワーに行って、シンヤがちゃんと避難したか確認しに行く途中。
デオキシスと遭遇したワタシ達はそのデオキシスの異様な雰囲気を感じ取り、逃げだした。
結果的に、まあ…捕まった。
夜中まで頑張って逃げてたんだけど、捕まったわ。
「不覚だった。ポケモンの姿に戻って攻撃すれば良かったのだが…そこまで意識がいかなかったな…」
ワタシ達の他にもちらほらと捕まった人間に野生ポケモンが周りに居る。
どうやらデオキシスは攻撃をしてくるつもりはないみたいだけど、ワタシ達を一ヶ所に格納していたいらしい。理由は分からないけど、ここに集められているんだから多分そうだ。
こんなところで一晩過ごすのは嫌だったけど、こんなに人が多いんじゃポケモンの姿に戻って無理やり脱出ってわけにもいかないしなぁと溜息を吐いて唯一開いている天窓を見上げた。
…あそこから放り込まれたんだけどさ…。
っていうか、昼間から捕まった人間なんてもう日が昇って朝になるんだから、半日も閉じ込められてることになるよな…地獄…。
「主がここに居ないのは救いだな…、安全な場所に避難していると良いが…」
「意外とまだ図書館で本読んでるかもよ」
「…やめてくれ、冗談に聞こえない。主ならありえそうだ…」
アハハ、と笑えば上空に影。
朝になってもう捕まる人間は居ないかと思ってたけどまた誰か捕まって連れて来られたのか…。
視線をあげればポケモンの姿のエーフィを抱きかかえたブラッキーがじたばたと足を動かしている。
お前らかよ…。
「テメェこの野郎!!絶対にゆるさねぇ!!ぶっとばす!!」
珍しくブラッキーが怒ってるな…と隣でサマヨールが呟いた。まあ、確かにブラッキーがあそこまでブチ切れてんのは珍しいかも。
床に放り投げられたブラッキーが「ぐお!」と苦しげな声をもらした。
「おっす、ツッキー。調子どうよ」
「…ミミローにヨル…?え、なにお前らも捕まった系?」
…捕まった系ってなんだよ。捕まったけど。
エーフィを抱きかかえたまま駆け寄って来たブラッキーが眉間に皺を寄せて天窓をチラリと見上げた。そこにデオキシスの姿はもうない。
「あのポケモンなに!!マジでゆるせねぇんだけど!!」
「デオキシスというポケモンだ…、何故ここに居るかは不明だがな…」
「デオキシス!!オレのぶっとばすリストに載ったわ!!マジでぶっとばす!!」
「ぶっとばすリストなんてあんのかよ…、つーか何があったわけ?」
「……」
抱きかかえるエーフィに視線を落としたブラッキーは気を失っているらしいエーフィの頭を撫でた。
「なんとか上手く逃げて隠れてたんだけどさぁ、朝方になって辺りの様子を見に行ったエーフィが捕まっちまって…。咄嗟にオレ、悪の波動かましたらエーフィに当たった…」
「お前じゃん」
「そうだよオレだよ!!でもデオキシスが居なきゃエーフィに攻撃をくらわせちまうことにならなかったんだからデオキシスが悪い!!アイツぶっとばす!!」
「まあ、なんにせよ、効果バツグンは痛いな…」
「エーフィ、マジごめんなぁあああ!!」
ぐったりとしているエーフィを抱きしめて泣くブラッキー。
そういえばミロカロスが居ない。悔しいけど、やっぱりなんだかんだで一番強いもんな…。
「…また誰か来たぞ」
「「んん?」」
*
「はぁ、はぁ、はぁ…ッ、」
ごくん、と唾を飲み下してミロカロスはすっかり日の昇った空を見上げた。
辺りを見渡し変なポケモンが居ないのを確認してまた走る。逃げては隠れ、また走るを繰り返したミロカロスはバトルタワーを見上げて立ち止まる。
変なポケモンと何処から来たのかレックウザが戦っているのも見掛けたが完全に無視だ。
シンヤはこのバトルタワー内にある図書館に居るのだろうか、居ないなら居ないで逆に安心出来る。
すっかり機能を停止した自動ドアを両手でこじ開けてバトルタワー内のエスカレーターを走って駆け上がる。
「(シンヤ、シンヤ、シンヤ、シンヤ…!!)」
ガラス張りの図書館の中を確認しながらミロカロスは図書館の出入り口である扉に手を掛けた。ここもロックされていて開かない。
シンヤは避難したのだろうか、そう思いながらも両手で無理やり扉をこじ開けた。無我夢中に扉をこじ開けたせいで手は傷だらけで血も出ているがそんなことには気付いていない。
「はぁ、はぁ…はぁ、ッ」
棚と棚の間を見て回る。
居ない居ない居ない居ない居ない、…。
「…はぁ、はぁ…ッ、シンヤ…」
居た。
図書館内の窓の傍、頬杖を付きながら本に視線を落とすシンヤをミロカロスは見つけた。
ペラリ、とシンヤが本のページを捲る。
荒い呼吸を押さえようとミロカロスがまた唾を飲み込む。そしてぎゅ、と自分の服を掴んで息を吐いた。
ペラリ、とまたシンヤが本のページを捲る。
すぐにでも飛び付きたかった。
でも、もう少しだけ本を読んでいるシンヤの横顔を見ていたい…。
本を読んでいるシンヤがまたページを捲った時、ふふふ、とミロカロスは笑みを零した。
その笑い声に反応したのかシンヤがゆっくりと視線をあげる。そしてミロカロスの方を見たシンヤはキョトンとした表情を浮かべた。
「ミロカロス…?」
「うんっ!!」
「お前、なんでここに居るんだ?」
「シンヤを迎えに来た!!」
「は?」
首を傾げたシンヤは窓の外に視線をやる。
そしてゆっくりとミロカロスに視線を戻して眉間に皺を寄せた。
「日が昇っているだと…!?」
馬鹿な、と呟いて頭を押さえたシンヤ。
どうやら本を読んでいて日付が変わったことにすら気付いていなかったらしい。
ミロカロスがシンヤの傍に行けばテーブルの上とテーブルの下にはどっさりと本の山が出来ていた。
「はぁ…、で、緊急事態ってなんだったんだ?」
「あのな、あのな、変なポケモンとレックウザが戦ってるんだ」
「変なポケモンってデオキシスか?それにレックウザって…、またデカイやつが……、」
「なに?」
「現在進行形?」
「げんざいしんこーけー?」
「今も、戦ってるのか?もう終わってるから迎えに来たわけじゃないのか?」
「今、戦ってた。迎えに来たのはな、俺様がシンヤに会いたかったから!!」
ぎゅ、と抱きついて来たミロカロスを受け止めてシンヤは窓の外を見る。
窓の外をデオキシスが横切って、レックウザが横切った。咄嗟に「うわああ」と出そうになった叫び声を飲み込んだシンヤは口を一の字に閉じる。
「シンヤ、なんか俺様…手痛い…」
「手…、おおおおおお!?なんだこの手!!お前何やったんだ!!」
「おおおおお!!なんで?」
「私が知るか!!」
「いたい…」
「手当てするから、そこ座れ!」
*
「あれ、何やってんだ?」
「しらねー。でも、ここから出れるなら良いんじゃない?」
大の字に寝転がるミミロップ。
その横でエーフィを膝の上に乗せたままあぐらをかくブラッキー。
一番最後に捕えられてやって来た少年とバシャーモが来て早々に機械をいじる。その様子を遠くから眺めるだけ。
サマヨールは天窓を見上げて小さく溜息を吐いた。
ゆっくりと目を開けたエーフィがピクリと耳を動かした。そのエーフィを見てブラッキーが笑みを浮かべる。
「エーフィ!」
「フィー…」
エーフィが少年とバシャーモの方へと視線をやった。外からは何処かで聞いたことのある声。
「ん?この声って…」
「サトシ!!こっちだ!!プラスルとピカチュウはいるな!?」
「ああ!どうすれば良い!?」
電気だってさ、とブラッキーがミミロップの方へと視線をやった。だからなにさ、とミミロップがそっぽを向く。
協力する気はさらさら無いらしい。
*
「なんだあのレックウザ、やけに気が立ってるな」
「おー」
バトルタワーの最上階、デオキシスを追いかけ回すレックウザを見付けたは良いが……さてどうしたものか、デオキシスがここにいる目的も定かではないし…。
ミロカロスに攻撃の指示を出してレックウザを倒すか…。ふぶきで勝てるだろ…。
「あ、シンヤ。ミュウツーが飛んでる」
「ん?」
こちらへ向かって飛んでくるミュウツーにミロカロスが手を振る。
そういえばミュウツーのやつオーロラを見に行くって言って結局帰って来なかったよな…今の今まで観察してたのか…。
窓を開けてやればミュウツーはふわりとその場で尻尾を揺らして腕を組んだ。
< なんだシンヤ、今の今まで本を読んでたのか >
「くそ、私も人のこと言えなかった…!!」
< それよりデオキシスに捕まった連中が風力発電を使って、もう一体のデオキシスを再生させるらしい >
「もう一体のデオキシス?」
< あのデオキシスには仲間が居てな、アイツはその仲間を探しにこのラルースに来たらしい >
再生させるとか言われても…。
ん?いや、確か研究論文に書いてあった気もしなくはない…。ロンド博士の論文によればデオキシスの一部と思われる物体を持ち帰ったとあったし、それか…?
ほとんどまだ謎のままだから論文とは言い難い、途中経過のものだったから曖昧だが…ツバキが貰って来たとかいうのをザッと目を通したな…。
「レックウザはなんだ」
< デオキシスに縄張りを荒らされたと思っている >
「アイツは説教だな!!」
< ポケモン相手に説教するのはお前くらいだ >
「ブラッキー達、居る?」
< 風力発電の方に居たな >
なんだアイツら捕まってたのか。
警報が鳴った時点で避難してるものだとばかり思っていたが…。
< ん?街を覆っていたバリアーが消えたか… >
「バリアー?」
< これでこの街の機械が動く >
辺りを見渡したミュウツーが窓を通って室内へと入って来る。そのまま人の姿になったミュウツーは壁にもたれて腕を組む。
窓の外にはオーロラが広がっている。
あのオーロラ、結局なんなんだ…。
「とりあえず、レックウザを引き取れば良いんだろ?ちょっと声を掛けて来るか…」
視線を動かしてレックウザが居ないか確認してみれば、すぐに見つかった。
しかもデオキシスが二体に増えてる…。
「シンヤ…こっち来てるよ…」
「ああ、真っ直ぐ来てるな…」
「手間が省けたな」
少し楽しげなミュウツーの言葉にじとりと視線を送る。
天井付近のバトルタワー全体を覆うガラス窓を突き破ってレックウザが室内へと入って来た。
「シンヤ!!!…ミロォオオ!!!」
ポケモンの姿に戻ったミロカロスが私の上に覆い被さる。落ちて来たガラスの破片をミロカロスがハイドロポンプで跳ね飛ばした。
おいおい、ラルースの中心核となるバトルタワーにこんな衝撃あたえて良いのか…、と思ってもレックウザが破壊光線を放ち更に追い打ちをかける。
「レックウザ!!」
「グォオオオ!!!」
「聞いてないな…、よし、ミロカロス、ふぶき」
ぴ、と指を差して指示を出せばミロカロスがレックウザを睨み付ける。
「そんな衝撃あたえて良いのか?」
いつのまに隣に居たのか、腕を組んだミュウツーが首を傾げる。
もうこんな状況なんだから、ふぶきの一発や二発許されるだろ…。
「サイコキネシスでぱぱっと止めてくれても良いんだぞ、ツー」
「それでは面白くない」
この状況で面白さは要らん。
「ミロォオオオ!!」
ミロカロスのふぶきを食らってレックウザがバトルタワーの最上階から一気に下へと落下した。
おお、痛いな…と思いつつ割れた窓から下を覗き込めば不思議な物体が無数に群れをなしてこちらへと向かってきている。
四角い物体が群れをなして向かって来るさまは津波のようだ。
「なんだあれは?」
「この街に多く設置されていた案内ロボットの一部だと思うが」
ミュウツーの言葉にぽんと頭の中に駅で見掛けたロボットが思い浮かんだ。
でも、なんでそのロボットの一部がこんな津波のごとく押し寄せて来てるのか…。ぼんやりと上から眺めていればその波はレックウザを襲う。
そのレックウザを見て二体のデオキシスが防御壁を張りながらロボットの波へと突っ込んで行った…。
自分達に攻撃を仕掛けて来ていたレックウザを助けるためにわざわざ荒波に突っ込むなんて…、デオキシス良い奴だな…。
「寛容なポケモンだな、デオキシス」
「私ほどではないがな」
「…、デオキシスの立場でこの状況になった時にお前…レックウザを助けに入るのか…?」
「ふん、助けに入るわけないだろう」
言ってること違うぞ…。
じとりとミュウツーを見れば後ろでミロカロスが声をあげた。窓の下を覗き込んでいたらしいミロカロスがわたわたと慌てて私の方を見たり下を見たりを繰り返している。
「ミロォ!!」
「なんだ?」
ミュウツーと一緒に割れた窓から下を覗き込めば、ロボットの波がこちらに上がって来ている。波のくせに上がって来ている。このままではここも飲み込まれる…。
< 私は高みの見物といくか >
「ミロ!?」
「なぁ!?」
ポケモンの姿に戻ったミュウツーが割れた窓から外へと出て飛んでいく。
この状況で放って行くのかアイツ!!こんなことならトゲキッスかチルタリスを連れて来るんだった!!
押し寄せて来るロボットの波。
これが本当の海の波ならどちらにせよ惨劇になるが、ミロカロスが居るから逃げる余地はあったな。
「ミロカロス、人の姿になれ!」
「ミロッ」
手足の無いポケモンの姿より人の姿の方が良い。
人の姿になったミロカロスの手を掴んでそのまま引き寄せ横抱きにして抱える。ふおぉ!なんてミロカロスが声をあげたが気にしない。
「、シンヤ!!な、なんで抱っこ!?お、お姫様抱っこ…!!」
「波を走って降りるからだ」
「……ぇ、」
「とうっ!!」
「えええええええええッ!!?!?」
割れた窓からジャンプで飛び降りる。
浮遊するロボットの一部を足場にして下へ下へと降りて行く。足を踏み外したら大惨事だ。
「コワイッコワイコワイッ!!!」
「暴れるなよ、暴れたら足を踏み外す」
「じっとしてるぅううう!!!」
とん、と一番下に到着。
波のように流れ続けるロボットの上を走っているとピカチュウが流れて来た。
「サトシのピカチュウじゃないか」
「ピピカチュゥ!!」
「ほら、足貸してやる」
手は塞がってるからと片足を伸ばせばピカチュウが私の足にしがみ付いた。
ピカチュウが流れて来た先を見ればそこにはメインロボットだと思われるロボットにしがみつくサトシ。あの子は会うたびに無茶をしているよな…。
とん、と私の肩にピカチュウが移動して来た時。忙しなく動いていたロボットの波が止まった。
チラリとバトルタワーを見上げれば上から見知らぬ少年が落ちて来る。
肩に乗っていたピカチュウが声をあげた時、デオキシスが少年をサイコキネシスで助けて空中に浮かせた。
そのままもう一体のデオキシスがサトシも空中に浮かせた…。
ミュウツーもああやって助けてくれれば良かったのになぁ…と思いつつ、ミロカロスを降ろして空中に浮いているサトシ目掛けてピカチュウを投げた。
「ピィィカァアア!!!!」
「ぅわあああ、ピカチュウー!!!」
大丈夫大丈夫、デオキシスが拾ってくれる。
ふわりと浮いたピカチュウがサトシの腕の中へと納まるのを見て私はヒラリとサトシに手を振った。一瞬驚いた表情をしたサトシは笑顔を浮かべて手を振り返してくれる。
ロボットの波からガラガラと音を立てて顔を出したデオキシスの鼻先にポンと手を置けばレックウザと目が合った。
「今回はデオキシスの寛容さを見兼ねて説教無しだ。怪我の治療してやるから良い子にしてるんだぞ」
「グルル…」
よしよし、とレックウザの鼻先を撫でて空を見上げた。
「…そういえば、寝てないから眠い」
「俺様も寝てなーい!!」
帰って寝たいところだが、怪我をしたポケモンの治療でジョーイに扱き使われ…。街の被害やら事情説明やらでジュンサーさんに逃がしてもらえなくなるだろうな…。
いっそ、このまま逃げようか…。
最初から居なかったってことにしておけばバレな……、
「あ、…」
「?」
パスポート発行してるんだった…!!
むしろこのパスポートを持ってるせいで「ここに居ますよー」って言ってるようなものじゃないか!!
逃げる余地無し。
潔く捕まろう…下手に逃げたら後が怖い…。
「はぁ…、レックウザ…移動するぞ…」
「グォオオ」
トン、とレックウザの頭に乗ればミロカロスも同じように頭の上に乗る。
ジュンサーさんのところか、はたまたポケモンセンターか…。空を移動するレックウザの頭の上で考えを巡らせればミロカロスが下を見て「おーい!」と声をあげた。
下を見れば風車…、人の姿のブラッキーが大きく両手を振っているのが見えた。
ミミロップとサマヨール、エーフィもポケモンの姿のままだが居るみたいだ。
「シンヤー!!何処集合ー!?」
「…そうだな…、ポケモンセンターだ!!」
「オッケーィ!!!」
行くぞー!!とポケモンの姿のエーフィを抱きかかえたブラッキーが先陣を切って走り出した。その後をミミロップとサマヨールが追いかけて行く。
疲れた様子のミミロップがなんとも言えない…後で愚痴られそうだ…。
「とんだ休暇になったみたいだな…」
私、本読んでただけだけど…。
「俺様、楽しかったよ」
「お前一番ボロボロだぞ?」
「良いんだ、シンヤにお姫様抱っこしてもらったから~」
「…そうか、」
ミロカロス、お前…、
安いな。
今度から遊びに連れて行けとか言われたら、お姫様抱っこしてやるからって言って逃げよう。
疲れるし金も使うしで大変だが、お姫様抱っこは良い。軽いしタダだし座ってても出来る。
「今度からそうしよう…」
「ん~?なに~?」
「…いや、別に」
*
ポケモンセンターに着いてレックウザの頭の上から降りればブラッキーがエーフィを片手に抱きながら手を振って走って来た。
そのブラッキーにミロカロスが手を振り返すのを見てから背後で慎ましやかに立ち、笑顔を浮かべるジョーイにチラリと視線をやる。
…さあ、仕事をしろ!と言われてる気がしてならない。
ジョーイから視線を外し溜息を吐けば、
両脇からどすっどすっと衝撃、思わず「ぐはっ」と苦しい声が出た。
「「シンヤさーん!!」」
「キャサリン!オードリー!」
双子の姉妹らしい二人にタックルをかまされた。駆け寄って来た二人の兄が申し訳なさそうに頭を下げる。
「握手して下さーい!!」
「サイン下さーい!!」
「妹達がすみません…!!」
大丈夫、大丈夫、と手を振れば今度は腰の辺りにどすっとまた衝撃。
チラリと振り返ればにっこりと笑みを浮かべたマサト…。
「さすがシンヤさん!!レックウザに乗っちゃうなんて凄いや!!」
「…そ、そうか?」
うんうんと頷くマサトと双子の姉妹。
ちょっといい加減離れて欲しいなぁと思いつつ苦笑いを浮かべた。
「コラ!!マサト!!シンヤさんから離れなさい!!」
「わあ!?」
べりっとマサトがハルカの手によって引き離される。
マサトが離れたのを見て双子の姉妹も私の腰から手を離し、ハルカに襟を掴まれるマサトを見てクスクスと笑っていた。
「シンヤさん!!おおおおおれ、ショウタって言います!!是非、おれとバトルして下さい!!」
「え゛」
「あぁ!!ずるいぞ!オレだって前から言ってたんだからな!!」
「サ、サトシ…」
ショウタという少年とサトシが睨み合う。
私、バトルするなんて一言も言ってないぞ…。
二人の間に入って「まあまあ」と宥めるタケシ。頑張れ、タケシ。なんとか説得して止めてくれ…。
ドキドキとその様子を見守っているとノートパソコンを抱きしめるように持った女の子が近寄って来た。
「…ぁ、あの!!」
「…なんだ?」
「私、シンヤさんの大ファンなんです!!握手して下さい!!」
勢いよく出された右手に視線を落としてからその手を握り、握手をして返す。
頬を真っ赤に染めて笑顔を浮かべる少女に苦笑いを返してお礼を言えば少女はノートパソコンを小脇にはさみ両手で私の手を握りしめた。
「永遠にファンでいます!!これからも頑張ってください!!」
「……」
頑張るって…なにを?
そう思った時に「はい、頑張ってもらいましょう」と後ろで弾んだ楽しげな声…。
「ひぃぃぃ」と出そうになった言葉を飲み込んで後ろを振り返れば笑顔のジョーイ。
「……」
「頑張りましょうね、シンヤさん」
「……」
「ね」
「…はぃ」
せめて、疑問符くらい付けろ。
溜息を吐いて未だ握られてる少女の手に視線を落とす。これは今日も徹夜かもしれないな。
はぁ、ともう一度溜息を吐けば少女に握られていた手がべしんと思い切り叩かれた。驚いて視線をあげれば頬を膨らませるミロカロス。
叩かれた手を抑えた少女がキョトンとした様子でミロカロスを見つめていた。
「こら、叩くな」
「長いっ!!」
握手の時間のことらしい。まあ私もちょっと長いなぁとは思ってたけど…叩くのは駄目だぞ。
「あ、あの、ごめんなさい…」
「ん?良いぞ、気にするな。むしろ悪かったな…手、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です!」
頷いた少女に私も頷き返す。
更に頬を膨らませたミロカロスが私の服の裾を掴んだ。
「ぇっと、そちらの方は…?」
少女がミロカロスに視線をやる。
キッと少女を睨み付けるミロカロスの視界を片手で遮りつつ少女に苦笑いを返す。
「私の恋人だ」
「…、ッ!?」
そうだったんですか、なんだかすみません!とミロカロスに頭を下げる少女。
チラリとミロカロスを見れば顔を真っ赤にしたミロカロスと目が合った、しかし一瞬で目を逸らされる。
え、なんだその反応…。
間違ったことは言ってない、よな?恋人同士のつもりだったんだが…、違ったのだろうか…。
まあ、あんまり…いや全く恋人同士らしいことはしてないが…。
「素敵な彼女さんですね!!」
「……」
女じゃないけどな。
*
先にラルースを出るらしいサトシ達と別れ、私はやはりジョーイに扱き使われるはめになった。ジュンサーさんにレックウザの管理まで押し付けられたし…、治療が終えたらその辺から適当に帰すぞ私は。
欠伸を漏らしながら怪我をした野生ポケモンに傷薬を吹きかけていく。軽い怪我のポケモンばっかりだから大したことはない。
群がって来る野生ポケモンにポケモンフードも与えつつ治療しているとブラッキーがちょこんと隣に座った。
「どうした?エーフィの様子を見てたんじゃないのか?」
「いや、エーフィ寝てて退屈だったから」
ふぅん、とブラッキーの言葉に相槌を返す。
深手を負っていたエーフィとミロカロスはポケモンセンターで治療中。ミロカロスは元気だが傷だらけ、エーフィに至っては満身創痍だ。
聞けばブラッキーの悪の波動を食らったらしい。一撃で瀕死だな。
「あのさぁ」
「なんだ」
「思ったんだけど…シンヤって意外と天然タラシだよな。いや、普段から天然系だとは思うけど」
「……は?」
「天然だよな」
「そんなことはないと思うが…」
「恥ずかしげもなく恋人だ!なんてよく言えたもんだよ、聞いてるこっちもちょっと恥ずかしかったっつーの!」
なにが?
首を傾げればブラッキーは困ったように笑っていた。
「しかし、ミロカロスの顔が真っ赤になったのは可愛かったね!!」
「……」
「オレ、ミロカロスがメスだったら有りだったなぁ…。性格も一途で可愛いもんなぁ…!」
それは、軽く嫌味だな。
どうせ私はオスなのに有りだよ。メスなら良かったのにと思わない日は無いが…。というか、ポケモンを相手にしてる時点でどうかとも思ってるけど…。
「ミロカロスって基本、ああいうタイプなのかな。ミロ以外だとツバキのとこのイロちゃんくらいしか知り合い居ないけどさー」
「知るか」
「でも、イロちゃんは完全に有りだよな。可愛いよな!!」
「そうだな」
「なー!!」
ザラザラ、と皿にポケモンフードを流し入れながらブラッキーの言葉に相槌を打つ。
イロは可愛いと私も思う。
うん、と頷いた時に私とブラッキーの背後から影がかかる。誰だ?と思いつつ振り返れば腰に手を当てたミミロップが仁王立ちしていた。
「…どうした?」
不機嫌な様子のミミロップ。
どうした、と聞けばミミロップは眉間に皺を寄せた。
その様子をどう捉えたのかブラッキーがぴ、とミミロップの方を指差してウインクをする。
「ミミローも可愛いぜっ」
「蹴り飛ばすぞっ!!」
「…すみません」
更に不機嫌になったミミロップ。
今のはさすがに駄目過ぎるぞブラッキー。ミミロップに可愛いは禁句だしな…。男らしいって言ってやれ…。
「あのさぁ!」
「うん?」
「なんだ?」
「そういうこと、アイツらの前で言わないように!!」
「「…」」
どういうことを、誰の前で言わないようにするんだ…。
「え?なにが?」
「誰が可愛いとか…、軽く言うなっつーの…!!」
「へ?」
首を傾げたブラッキーをミミロップが睨み付ける。
…、なんなのかイマイチ分からん。ああ、でもアイツらってミロカロスのことか?
ぶーと頬を膨らませてる顔が思い浮かぶ…、俺様の方が可愛い~!!って言ってな…。
ミロカロスがうるさくなるから不機嫌にさせるようなことを言うなってことか…?
…ううん、もっと具体的に説明してくれないと分からん。
「なんで?」
「なんで…って!!…、このバカ!!」
「えぇ!?ちょ、なんで!?ミミロー!!」
バカとブラッキーに吐き捨てて走って行ったミミロップ。
なに今の?とミミロップの背を指差してブラッキーが言ったが私は首を横に振る。知るわけないだろ。
「とりあえず、誰が可愛いとか言うなってことだ」
「可愛い子を褒めるのは男の役目だと思いますっ」
そんな真剣な顔で言われても…。
「でもなんであんなこと急に言われなきゃいけないわけ?」
「気に入らなかったんだろ」
「なんでだよ!!別に関係ねぇじゃん!!」
むすっとした様子で声を荒げるブラッキー。
頬杖を付きながら空を睨み付けているので特に何も言わず野生ポケモンの治療をしているとブラッキーが「あ」と声を漏らした。
「もしかして…」
「……」
「ミミローってば、オレのこと…好きなんじゃ…!!」
「………は?」
「あれだろ!!オレが誰々可愛いーとか言ってるの気に入らないってことは、ヤキモチだろ!!ミミローってば素直じゃねぇもんなぁ!!なんだよ、そう考えると結構可愛い理由じゃーん!!」
なんでそんな考えに至るのか私には分からん。
とりあえず、ミミロップに蹴り飛ばされてくれば良いとは思う。
「女の子扱いを心掛けよう、オレって紳士…!!」
あのミミロップに女の子扱い…!?
お前、そんなに死に急ぎたいのか…!?
「あ、シンヤ、このポケモンフード食っていい?」
「人の姿で手掴みやめろ」
「…んー?」
人の姿でポケモンフード、ぼりぼり食べるなよ…。
「あ!!あそこのジュゴン可愛い!!」
「……、」
「おーい!!ポケモンフード食べなーい?」
ポケモンフードの入った皿を片手に走って行くブラッキーを見送って溜息を吐いた。
「…アイツ、もう病気だな」
さすがに私にも治せない。
*