「おい、起きろ」
「……」
目を開ければ視界一杯に真っ白の空間。
うわ、嫌な予感がする。と思ったのと同時に再び目を閉じてみた。
「あ、この野郎っ」
「……」
「まあ時間など俺からすれば永遠にある。いくらでも問答を続けろ」
「シンヤくーん、あーそーぼー」
「……」
チッと舌打ちと共に起き上がれば不満気なパルキアと目があった。
「なんでそんな愛想悪ぃの、感謝はされど憎まれる覚えねぇよオレはー」
「ああ、そうだな、その節はどうもありがとう。ディアルガ」
「どういたしましてだ」
「どーせ、オレはなんにもしてねぇよくそ…。でも、一応は空間の調整したのに…ちくしょ…」
憎いながらも久しい顔ぶれ。
この空間も懐かしいな…、二度と来たくなかったけど……。
「体調はどうだ?」
「一週間程、寝込んでスッキリだ」
「一週間か、意外と反動は軽かったな」
「どんどん人間離れしていくよな。まあ、したのオレらだけど」
わはは、と笑うパルキアをディアルガが冷たい目で見た。笑うパルキア本人は気付いてないが…。
というか、一週間寝込んだアレで軽かったのか…。もし何年も寝たきりになっていたらどうするつもりだったのやら…恐ろしい…。
「なんにせよ、無事でなによりだ」
「…で、」
「で?ってなんだよ」
「本題はなんだ。用件をさっさと言え、そして私を家に帰せ」
ぽりぽりと頬を掻いたパルキアが首を傾げた。
「特に用事はないけど?」
「殴るぞ」
「神への冒涜発言だぞ、お前」
「それを殴るのは構わないがな、まあ俺の話を聞いていけ」
くらえっ!!
「イテェ!!マジで殴った!!」
*
「実はな、シンヤ…ここにお前を連れて来たわけではない。お前の体は家にある」
「…まさか、私はまた精神だけ体から抜けたのか…」
「その通りだ」
ディアルガが頷いた。
じゃあ、別に今の私は勝手に家を留守にして行方をくらましているわけじゃないのか…。
「でも、なんでだ?」
「繋がったからだな。俺と」
「ディアルガと?」
「そうだ。世界のはじまりの樹と人間が呼ぶあの木は時間を司る。俺の領地へと最も近い場所だ」
へぇ、と言葉を返せばパルキアが苦笑いを浮かべる。
「オレらに近付ける場所がいくつか存在するんだよ…、まあそこから人間が入ってこねぇように何かしらのポケモンが守ってるわけだけどよ」
「それは、例えばシンオウ地方でいう湖とかか?」
「そうそう。あと変に歪みがある洞窟とか森とかな」
なるほどな、といくつかの場所を思い浮かべてみる。
ミュウの住処である世界樹もその一つだったというわけか。
「シンヤが俺の領地へと足を踏み入れたことで俺は直接お前に接触出来るようになったということだ」
「精神だけか?」
「まあ、体ごと攫って来ることも可能だが。アンノーンを集めるのが面倒でな」
攫うって表現の仕方はやめろ。
「なんにせよ、こっち来てまだ会えてなかっただろ?せっかくだから一回呼んどくかーってなってさ」
「……」
ニコリと笑ったパルキア。
まさか、会えてなかったことで私の事を少なからず心配してくれていたとは……。
「いやでもまあ、色んな世界をちぎってはくっつけでやったわりには良い出来だよなぁ!!さすがオレ!!途中、これ結果的に脳みそ爆発しねぇかなーなんて思ったけど、なんとかなるもんだなー!!」
コイツ…!!!
「なんにせよ、誕生おめでとう!!!」
「……」
「そして、オレがパパだ!!」
「お前、絶対に許さん。ミロカロスのふぶき、絶対に食らわせてやるからな、覚えてろよ」
「……まあ、バカは放って置くとしてだ…」
「ぅおい!!」
さらりとパルキアを無視するディアルガ。
私の方へと向き直ったディアルガが私の右手を取り、ぎゅっと握った。
「な、なんだ?」
「良い知らせと悪い知らせ。どっちから聞きたい?」
「…じゃあ、良い知らせで」
何故か私の手を握ったままのディアルガが頷いた。
隣でパルキアが「その手なに?」と言葉を発しているがディアルガは完全に無視だ。
「シンヤ、お前は記憶を取り戻したことで晴れてこの世界の中心となった。それはこの神と称される俺達を超える存在として世界に認識され、異端であるお前が世界に認められたことを示す」
「そ、そうか…。あまり実感はないが、良いことなんだよな?」
「ああ、消滅の恐れは無くなったわけだからな」
うん、まあ、この世界で生きていきたい私としては突然消えてしまうということが無くなったのは有難いな。
「で、悪い知らせなんだがな」
「……」
「残念ながらシンヤ、お前は世界の中心となり俺達を超える存在となってしまったことにより、人間と呼べる生き物ではなくなった」
「……」
「……」
私とパルキアは互いに顔を見合わせてからディアルガに視線を戻す。
「生物学上で言うとなんになる?」
「生物学上とやらに納まらないだろうな」
「ポケモンですらないと」
「まあ、簡潔に言うと神だな」
「……」
「……」
パルキアと顔を見合わせる。
ニコリと笑ったパルキアが親指でディアルガを指差した。
「アイツ、どっかで頭ぶつけたんだぜ!!」
「そうか。私が診るべきだな」
「俺は正常だ」
ディアルガがパルキアを蹴り飛ばした。
しかし、未だにディアルガに私の手は握られたままである。
「…特に何も出来ないのに神なんて可笑しいだろう」
「神とは本来何もしない。というより、神と言ったのはお前が中心である故の発言だ」
「私が中心に居て何か変わるのか」
「居ても変わらないが…。居なくなれば世界は消える」
「……は?」
「はぁあああああ!?!?」
蹴り飛ばされたパルキアが少し離れたところで声をあげた。
……待て、
居なくなれば世界が消える?私が死ねば世界滅亡?
「「そんな馬鹿な!!」」
「声を揃えて言っても事実は事実」
「な、なんでそんなことに…!!」
「シンヤを中心に世界を創った結果。予想以上にシンヤという存在が馴染み過ぎた。ポケモンはおろか自然がシンヤを受け入れている。お前自身、生活していて他の人間とは違うということに気付いているだろう?」
「それは、まあ…」
ちらほら、なんで私だけ?と思うことはあるにはあったが…。
だからと言って世界が私と共に死ぬなんてことがありえて良いのか、いや、良いはずがない!!
「なんとかしてくれ!!」
「なんとかしようと思って、これだ」
ぎゅ、と握られた手を持ち上げたディアルガ。
え、なに、それになんの意味が?と横でパルキアが私とディアルガを交互に見やる。
「シンヤ、俺と永遠を誓え」
「……」
「……」
はい?
「なんでじゃぁああああああああ!!!!」
パルキアの咆哮だけが真っ白の空間に響き渡った。
*
「ど、どういう意味でだ?」
「言葉の通りの意味でだ」
「その言葉を受け入れると私はどうなるんだ?」
「俺とシンヤ…、二人でこのまま永遠を生き続ける」
まさかの不老不死発言じゃないか…!?
「俺が時を止めて、シンヤが生き続けることで世界は消えることなく動き続ける。世界の消滅を防ぎ、尚且つ、世界の中心である神を俺は手に入れることが出来る。一石二鳥だ」
ふん、とディアルガが満足気に笑った。
最後の方、欲望にまみれてたが良いのか……?
「ちょ、ちょっと待て!!」
「なんだ」
「いや、可笑しい!!なにこの流れ可笑しい!!なにお前すんなり主導権握ってんの!?」
「シンヤを生かし続けられるのは俺だけだろ」
「だから待てって、オレが今のシンヤを創り出したと言っても過言じゃねぇんだから。そのシンヤはオレの所有物でもある、そのオレの所有物をなに勝手に持って行こうとしてんだ」
とうとう、物扱いされた…。
「シンヤを生かし続ける力のないお前が悪い」
「確かに無いけど、オレに力がないイコールお前の物になるっていうのが納得いかねぇ!!お前の物になるっていうのじゃなくて、お前が生かし続けることは当然の義務だろ!!世界はオレが安定させてお前が時を刻み続けるのが決まってんだから、当然、シンヤの時を止めて周りの時を刻み続けさせるのもお前の仕事だ!!」
「義務、役目、仕事と割り切って出来ることじゃない。シンヤは特別、特別扱いするのならこの世界の枠から一度外さねばならないのだ。だからシンヤはシンヤ。お前の安定させる世界とはまた別の物と俺は考える」
「シンヤあっての世界なんだろ!!シンヤは世界、世界はシンヤだ!!同じ物だっつーの!!」
「…お、おい…」
「同じ物だと言うなら俺は世界を生かし続けよう。だがな、生かし続けるこの俺がシンヤを上回る存在だというのはお前にも認識してもらうぞ!!」
「でたよ!!本性!!やっぱそれかよ!!お前、ホントそういう性格だな!!その誰でも下に見るのやめろマジムカつく!!」
「勿論、シンヤにとって自分を生かし続ける俺こそが特別だ」
「世界の安定あっての時間だろうが…、オレが居なきゃ世界は崩れるんだぞ?崩れる世界に時間なんて居らねぇよな?つまり、世界で繋がってるシンヤはオレと一心同体だ!!!!」
話の中心人物のはずの私を放置して話がどんどんと険悪になっていく…。
なんだこの状況、昼にやってるドラマよりドロドロだぞ。
「二人とも、とりあえず落ち着…ッ」
睨み合う二人の間に入ろうとした時に目の前がバチンと爆ぜた。
真っ暗になったかと思うと、ハッと目を開ける。
先程まで目を開けていたのに再び目を開けるという動作に違和感を覚えながら体を起こせば自分の部屋だった。
「…ッ、」
頭が痛い。
ディアルガとパルキアは怒りのあまり我を失っていた。
私をあの空間に繋ぎとめる存在が居なくなり強制的に体の方へと戻って来てしまったのだろう。
ああ、もう面倒なことになった……。
深く溜息を吐けばガチャリと部屋の扉が開かれる。そこに立っていたトゲキッスが目を見開いて私を凝視していた。
「…どうした?」
「シンヤ…!!よか、良かった…!!シンヤ!!」
飛びついて来たトゲキッス。
苦しいくらいに抱きしめられて、ぐえと声にならない声が出る。
「一週間も眠ったままだったんですよ!!!」
「…は!?」
「もう目を覚ましてくれないかと思って…!!本当に良かった…!!!」
もしかしてディアルガが体に戻したわけじゃないから、時間の調整がされてない…?
一週間も眠ったままだったなんて…。
色々と面倒な事が次から次へと脳裏を過る……。
どうしよう、もう一回眠って、とりあえずディアルガに時間を戻して貰いたい…。
「ミロカロスさん達、呼んできます!!」
「……」
私はどうしたら良いのか…。
こんな時に都合良く、神に祈りたくなるがこの世界の神は私らしい…。
世も末だよな…。
「シンヤー!!!うああああああああああ!!!!」
「はいはい、寝坊して悪かった!!」
「寝坊どころじゃないぃいいいい!!!」
飛びついて来たミロカロスは、
かなり痩せていて目の下の隈が酷いことになっていて美人が台無しのありさま…。
やっぱり、コイツ放って置くと死ぬかもしれん……。
「シンヤが起きてくれて本当に良かったですわ!!」
「全く何があったというんですか!!」
「大変だったんだからな!!」
「主の体調は良さそうで何より…」
「つーか!!寝起き早々で悪いけど、とりあえずこの低能にメシ食わせて!!コイツ、寝れなくなったうえにメシも喉通らなくて、キッスが言い包めてメシ食わせても全部吐きやがるんだよ!!マジで死ぬから!!」
ワタシ、看病ノイローゼになる!!!と喚くミミロップの背をサマヨールが擦った。
「ご主人様、何か飲み物をお持ちしますか?」
「ああ、水と…あと、雑炊でも作ってくれ…」
*
天地逆転の世界。
未だ主の戻らぬ家を守り続ける反転世界の王様は今日も外界を覗き見る。。
孤独には慣れていた、
常闇の世界で生きることにも慣れていた、
ただ一度触れてしまったぬくもりが遠のく寂しさを知ったのはつい最近…。
我儘で自分勝手で攻撃的だった自分は影を潜めていたけれど、少し経つ間にまた闇に囚われていく気がする。
あの時のまま止まった家の時間、庭の芝生に寝転がり目を瞑る。
声が聞こえる気がするんだ。
笑い声に鳴き声に怒鳴り声、オレを呼ぶ声が聞こえた気がして目を開けるけれど誰も居ない。
寂しいなァ……。
グルル、と漏れた声に反応してくれる者は居ない。
可笑しな話だ。元々は誰も居ない世界なのだからこれが当然で当たり前のことなのに。
大丈夫かな、
元気にしてるかな、
上手く世界は繋がったのかな、
アイツらは出会えたのかな、
全てが上手くいっていると良い。
再び目を瞑り、芝生に体を埋める……。
シンヤ
待ってるからな、
この世界を、お前の家を守って待ってるからな…。
だから、
オレの世界を脅かすヤツは許さない…!!!
守ってやらねぇと、
オレが守ってやらねぇと…!!
【戦いの伏線】
「…ここが反転世界……!」
「研究を進めましょう!!」
「ああ、そうだな!」
オレが、オレが、オレが…!!