「よし、できた」
レミリアの遥吸血事件から数週間後、遥は自室にてたった今完成したとあるモノを前に伸びをしていた。
遥の目には下腹部に描かれている紋章と同じものが浮かんでおり、床には大きなシートの上に複雑な魔法陣が描かれた布が広げられており、その周りにはメスやハサミ、縫合用の針と糸が散らばっている。
「はー、つかれた片付けてねよ──」
「面白そうな匂いがするわ!!」
遥がベッドに向かおうとしたところでバターン、という音とともにレミリアが現れた。
ちなみに現在時刻は深夜の2時である。つまり良い子は寝る時間である。……寝ろよ。
「……ノックってしってる?あとどういう嗅覚?」
「面白そうな事を見つけられるように運命を操作してるのよ!!」
「なるほどそういう特殊能力か」
レミリアの能力、《運命を操る程度の能力》によるものらしい。
ちなみに遥が見たところ、運命を操っているというより偶然を積み重ね、自分の求める運命に導く能力つまりは《運命を操る程度の能力》というより《偶然を操る程度の能力》ではないかと思っているが、結果は同じなので放置してる。
つまりは今この場でりんごが欲しいと言っても出てくるわけでなく、この期間内にりんごが欲しいと言えばちょっとした偶然が積み重なり、りんごが手に入るというわけである。
やろうと思えば今この場では無理でも1年位あれば台風をここに直撃させることも出来るかもしれない。
(つまりは凄いことには変わりないんだよな。彼方がおかしかっただけで)
原理は違うが彼方も同系統である。一応。
「とりあえず今日はかえってよまたあしt──」
「なにこの子可愛い!!」
見つかったようである。
(よくよく考えたらこの場でコレが見つかるのは即興で起こせる偶然の範囲か)
少し遥が現実逃避してると、
「お姉様、なにしてるの?」
(ナンデ?)
さらにフランがやって来た。
フリルの付いた赤いワンピースに白に赤いリボンの付いたナイトキャップを被っているおり、黄色に近い金髪をサイドテールにしている。
「お姉様なにその子可愛い!!」
姉妹そろってそっくりの反応である。
さらに──
「貴方達こんな時間になに騒いでるのよ。……何?ソレ」
「あんたもか」
普段図書館から出てこないはずのパチュリーまでやってきた。
しかし吸血鬼姉妹とは少し反応が違った。
吸血鬼姉妹が可愛いと称し、パチュリーがソレと称したモノは、小型犬サイズの、というより頭が3つの小型犬そのものであった。
「
「「「ワン!!」」」
そのパチュリーの言葉に遥は、
「そ、この間人里で死にかけの犬が3匹捨てられてて、そのうち2匹はほぼ死んでたから拾ってきて繋げた」
「……言いたいことは山ほどあるけど、どうやったの?」
「わたしは
「錬金術とは違うの?」
「ちょっとちがうかな。具体的にこうちがう、って説明するのはむりだけど」
「……で、コレ大丈夫なの?」
「……大丈夫なわけないじゃん」
お互い考えている事は同じだと確認し合っていると、
「お姉様、この子飼ってもいい?」
フランがそんな事を言い出した。
「もちろんいいわよ!」
「「駄目に決まってるでしょ!」」
遥とパチュリーの声が重なるも、2人には聞こえていないらしく、どんどん話が進んでいく。
「そうとなれば名前を決めないとね!」
そのフランの提案にレミリアが、
「そうね……『レン』ってのはどうかしら」
「いやだからだめだって。地味にいい名前なのが腹立つな」
「フフ、レミリアの『レ』とフランの『ン』で『レン』よ。なかなかいいでしょう?」
「前言撤回、それはないわ」
レミリアが付けた名前のあまりの由来に半眼でツッコむ遥。
─────────────────
次の日の昼、紅魔館の庭でレミリアとフランが昨日の犬、レンと楽しそうに追いかけっこをしてるのをパチュリーは紅茶を飲みながら、咲夜と遥はその傍で立ちながら眺めていた。
ちなみにここで問題になる日光は遥の遮光結界により遮られ、代わりに小さな光球がいくつも浮かんでおり、幻想的な雰囲気を醸し出してるいる。日に当たれない元アルビノはだてではない。
「……どうしよ」
「……どうしましょうね」
「どうしたんですか?」
「「…………」」
遥とパチュリーのつぶやきに対する咲夜の質問に2人はしばらく複雑そうな顔で(遥は無表情だが)目を合わせ、
「……とりあえず咲夜も遥も座りなさい」
その言葉に促され、遥が座り、いつもは遠慮しただろうが2人の雰囲気がおかしかったことから咲夜も座る。
それからしばらく目で牽制し合っていた2人だったが、やがて遥が話し始めたことに咲夜は目を見開き驚いたが、同時に納得もしていた。
「なるほど、言われてみればそれもそうね。この事お嬢様方には?」
「そこが問題なのよ」
「さすかのわたしもうらみもない子どもをわざわざ悲しませる趣味はない」
「怨みがあればするのね」
「子供って……お嬢様方貴方の軽く数十倍の年齢よ?」
「ざっと計算して25倍だね。でも妖怪って見た目と実年齢はつりあわないけど見た目と中身はつりあうよ?」
「「…………」」
あまりに納得出来る遥の言葉に2人は無言で頷く。
「でもほんとにどうしよ。この反省はつぎに活かすとしても問題はいまなんだよね。はぁー、こうなるなら最初から──」
と、良いアイデアが思いつかない為か、遥の声に若干の苛立ちが見え始めると突如、
───ドクン!
「ぐぅ、……あ、が……はぁ……はぁ」
遥が胸をおさえて苦しみ始めた。急な遥の異変に2人は驚き、
「ど、どうしたの!?」
「だ、大丈夫かしら!?」
「だ、だい、じょう、ぶ」
遥は今もなおズキズキと張り裂けそうなほど痛む心臓をおさえて息も絶え絶えに答える。
その遥がおさえている箇所を見て咲夜は遥が紅魔館にやってきた日に見た胸の刺傷を思い出す。あの時は自分で刺したと言ったきり誤魔化されたが、
「どう見ても大丈夫じゃないじゃない!まさかあの傷──」
「大丈夫、もうひいた」
またもや遥に遮られ、もう大丈夫だと主張する遥によってその話はうやむやになった。
その後、遥の胸の痛みがレミリア達にばれ、迷いの竹林という所にあるという診療所のような場所に連れて行かれかけるという一悶着があったものの、なんとかレミリア達をなだめ、
─────────────────
それから一週間が経った。
その日は朝から紅魔館中が騒がしかった。
なんでもレミリアとフランが昨日一緒に寝たはずのレンがいないという。館中総出で探したか、誰も見つけられない。
遥も捜索に参加していたのだが、現在パチュリーに呼び止められていた。
「で?なにか心当たりはないわけ?」
「……ないことはない、かな」
「……言ってみなさいよ」
「死期を悟ったペットが飼い主の前から姿を消す。って話知ってる?」
「……聞いたことはあるわね」
「わたしもペット飼ったことないから実際に体験したわけじゃないけど、実際にあるらしいよ。パチュリーはわたしが連れ去ったんじゃないかとうたがったんだろうけど、わたしはやってないし昨日館の住人以外の気配はなかったから自力で抜け出したんじゃない?」
「……本当に貴方がやったんじゃないのね?」
「そうだね、誘拐もしていなければわざわざ殺したりもしていないね。悩んでたあのことだけど、言う必要はなくなったね」
「そうね……」
遥達が言っている悩みの事だが、先程遥が死期と言った通り、レンは本来長くは生きられないからだだった。
そもそもベースが死にかけの犬3匹であり、紋章はあるものの魂の定着も完全とはいっておらず、最初から長く生きるようにつくられてはいなかった。
だからこそのレミリア達に見つかった時の遥達のあの反応である。
どの道別れがすぐに来るのでレミリア達に見せるつもりはなかったのである。死別というかたちか行方不明というかたちか、どちらがよかったかは誰にも分からないが。
この事をレミリア達に伝えるかどうかを悩んでいたのである。結局、その必要はなくなったわけだが、パチュリーは遥がこの事を伝えるのを嫌がってレンを連れ去ったのではないかと疑ったのだが、もちろん遥はわざわざそのためにレミリアやフランが寝ている所からレンを連れ去るような真似はしない。
結局、霧の湖なども調べるも、レンの足跡すら見つからず、捜索は打ち切りとなった。
しかしパチュリーはその事を不思議に思っていた。
(死にかけの犬が吸血鬼であるレミィ達の嗅覚から逃れ、さらにあれだけ探して死体どころが足跡すら見つからないってどういう事?)
そんなパチュリーの疑問も他所に、時は過ぎていく。
次回、ついに遥の能力が明らかに!?
0話である程度分かるようになっていたのですが分かった人はいたでしょうか?