ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

11 / 82
11.ステータスプレート

 異世界転移から一夜明けた翌日。早速訓練と座学が始まった。

 

 まず、王国の訓練施設に集まった生徒達に12cm×7cm位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、指導役である騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。

 

 騎士団長が訓練に付きっきりでいいのかとも思ったハジメだったが、対外的にも対内的にも〝勇者様一行〟を半端な者に預けるわけにはいかないと言う事らしい。メルド団長本人も「むしろ面倒な雑事を副長(副団長のこと)に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていたくらいだから大丈夫なのだろう。最も、副長さんは大丈夫では無いかもしれないが・・・。

 

「よし、全員に配り終わったな?このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

 非常に気楽な喋り方をするメルド。彼は豪放磊落な性格で「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告するくらいだ。

 

 ハジメ達もその方が気楽で良かった。遥か年上の人達から慇懃(いんぎん)な態度を取られると居心地が悪くてしょうがないのだ。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

 

「アーティファクト?」

 

 アーティファクトという聞き慣れない単語に光輝が質問をする。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具の事だ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

 成る程、と頷いた生徒達は顔を(しか)めながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。ハジメも同じように血を擦りつけるーーー前に、隣に居た社が眉を(ひそ)めてステータスプレートを睨んでいるのに気付いた。

 

「どうしたの、社君?」

 

「いや、原理が分からない物を使っていいのか悩んでな。まぁ、気にし過ぎか」

 

 社の『呪術師』としての主な仕事は、主に悪霊や呪物等の、人々の害となる存在の討伐・破壊であった。一見そうとは見えなくても、実は呪われた物品だった、なんて事もあった為警戒していたのだ。唯、悪意等は感じなかったので、少しの間の後、プレートの魔法陣に血を擦り付けたのであった。ハジメもそれを見た後、同様に血を擦り付けた。そして2人のプレートから一瞬の光が放たれ、ステータスが表示される。

 

 

===============================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:10

体力:10

耐性:10

敏捷:10

魔力:10

魔耐:10

技能:錬成・言語理解

===============================

 

 

 まるでゲームのキャラにでもなったようだと感じながら、ハジメは自分のステータスを眺める。他の生徒達もマジマジと自分のステータスに注目している。

 

「全員見れたか?説明するぞ?まず、最初に〝レベル〟があるだろう?それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない。」

 

 メルド団長の説明によれば、どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないらしい。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させる事もできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しい事は分かっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

 メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということは無いらしい。地道に腕を磨かなければならない様だ。

 

「次に〝天職〟ってのがあるだろう?それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが・・・百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

 ハジメは自分のステータスを見る。確かに天職欄に〝錬成師〟とある。どうやら〝錬成〟というものに才能があるようだ。

 

 ハジメ達は上位世界の人間である為、トータスの人達よりハイスペックなのはイシュタルから聞いていた。なら当然だろうと思いつつも、口の端がニヤついてしまうハジメ。自分に何かしらの才能があると言われれば、やはり嬉しいものだ。

 

 しかし、メルド団長の次の言葉を聞いて喜びも吹き飛び嫌な汗が噴き出る。

 

「後は・・・各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍は高いだろうがな!全く羨ましい限りだ!あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

 この世界のレベル1の平均は10らしい。ハジメのステータスは見事に10が綺麗に並んでいる。ハジメは嫌な汗を掻きながら内心首を捻った。

 

(あれぇ~?どう見ても平均なんですけど・・・。もういっそ見事なくらい平均なんですけど?チートじゃないの?俺TUEEEEEじゃないの・・・?他の皆は?社君は?幸利君は?やっぱり最初はこれくらいなんじゃ・・・)

 

 ハジメは僅かな希望にすがりキョロキョロと周りを見る。皆、顔を輝かせハジメの様に冷や汗を流している者はいない。

 

「や、社君はどうだった?」

 

 動揺を押し殺し、震える声で隣の社に尋ねるハジメ。しかし社はハジメの声に反応せず、黙って自分のプレートを見つめている。その顔には、先程プレートに登録する事を躊躇っていた時よりも険しい表情が浮かんでいた。

 

「・・・社君?大丈夫?何かプレートに問題でも?」

 

「・・・問題しか無ぇ」

 

 再び問い掛けるハジメの声にようやく答える社だったが、反応は芳しく無い。何事かと思い、マナー違反では無いかと考えつつも横から社のプレートを覗き見るハジメ。

 

 

===============================

宮守社 17歳 男 レベル:1

天職:呪術師

筋力:300

体力:300

耐性:400

敏捷:350

魔力:10

魔耐:200

技能:宿聖樹[+被憑依適性][+■■■■憑依]・呪力生成[+呪力操作][+呪力反転]・呪術適性[+式神調]・全属性耐性・物理耐性・剣術・剛力・縮地・先読み・悪意感知・言語理解

===============================

 

 

 自らの眼がおかしくなったのだろうかと、目を擦りながら自問自答するハジメ。しかし何度見てもハジメの目に映る社のステータスは変わらない。魔力を除き、ステータスは驚きの3桁。技能の数も11個と、2つしか無いハジメとは雲泥の差である。驚きで開いた口が塞がらないハジメ。その間に、メルド団長の呼び掛けに答えた光輝がステータスの報告をしに前へ出た。

 

 

============================

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

==============================

 

 

 まさにチートの権化。勇者の肩書は伊達ではなかった。が、数値のみで言えば社の方に2倍〜4倍近い開きがあった為、微妙に霞むステータスである。もっともハジメもどうこう言えるステータスでは無いが。

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か・・・技能も普通は二つ三つなんだがな・・・規格外な奴め!頼もしい限りだ!」

 

「いや~、あはは・・・」

 

 団長の称賛に照れたように頭を掻く光輝。ちなみに団長のレベルは62だそうで、ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだとか。しかし、光輝はレベル1で既に三分の一に迫っており、社に至っては、一部ステータスが既に上回っている。成長率次第ではあっさり追い抜きそうだ。

 

 因みに、技能=才能である以上、先天的なものなので増えたりはしないらしい。唯一の例外が〝派生技能〟だ。これは一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる〝壁を越える〟に至った者が取得する後天的技能である。簡単に言えば今まで出来なかったことが、ある日突然、コツを掴んで猛烈な勢いで熟練度を増すということだ。

 

(いいや、まだだ!社君と天之河君が異常なだけで、他の人達もそうであるとは限らない!諦めるのはまだ早い!)

 

「おーい、お前らはどうだった?やっぱチートか?」

 

「社君は凄いんじゃないかなー」

 

(来たっ!僕の救世主達がっ!)

 

 絶望に沈む寸前、社と光輝が元々高スペックである事を考え、希望を取り戻すハジメ。非常に後ろ向きな決意の元、此方に近づいて来た幸利と恵里を見て、すぐに2人のステータスを確認する。

 

 

===============================

清水幸利 17歳 男 レベル:1

天職: 闇術師

筋力:50

体力:40

耐性:50

敏捷:40

魔力:70

魔耐:50

技能:闇属性適正・闇属性耐性・風属性適正・言語理解

===============================

 

===============================

中村恵理 17歳 女 レベル:1

天職:降霊術師

筋力:40

体力:40

耐性:40

敏捷:40

魔力:90

魔耐:80

技能:降霊術・闇属性適正・火属性適正・言語理解

===============================

 

 

 光輝だけが特別かと思ったら、他の連中も光輝に及ばないながら十分チートだった。余りのショックに白目を剥くハジメ。どいつもこいつも戦闘系天職ばかりなのだが・・・。

 

 訝しげな様子の幸利と恵里を放置して、ハジメは自分のステータス欄にある〝錬成師〟を見つめる。響きから言ってどう頭を捻っても戦闘職のイメージが湧かない。技能も2つだけ。しかも1つは異世界人にデフォの技能〝言語理解〟つまり、実質1つしかない。

 

 だんだん乾いた笑みが零れ始めるハジメ。報告の順番が回ってきたのでメルド団長にプレートを見せた。今まで、規格外のステータスばかり確認してきたメルド団長の表情はホクホクしている。多くの強力無比な戦友の誕生に喜んでいるのだろう。

 

 その団長の表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。

 

「ああ、その、なんだ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか・・・」

 

 歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。鍛治職ということは明らかに非戦系天職だ。クラスメイト達全員が戦闘系天職を持ち、これから戦いが待っている状況では役立たずの可能性は高い。メルドの言葉につられ、社と幸利がハジメのステータスプレートを覗きこむ。

 

「・・・ハジメさんや、何も異世界来てまで縛りプレイしなくてもいいんだぜ?」

 

「うるさいよ幸利君!好きでこんなクソ雑魚(ALL10)ステータスしてるんじゃないやい!」

 

「・・・あー、何だ、ほら、魔力のステータスは俺と同じだし?まあ、気にすんなよ」

 

「社君は糞チートでしょ!魔力以外は200超えてるじゃん!」

 

 幸利と社から慰めにもならない言葉をかけられて、思わず叫ぶハジメ。その叫びを聞いたクラスメイト達が騒めき、急いでメルドが社のステータスプレートを確認する。

 

「驚いた!まさか勇者よりもステータスが上だとは!天職については余り聞かないから分からんが、技能も10以上、派生技能も出てるし、文句無しだな!」

 

 社のステータスを確認したメルドが豪快に笑う。自らのステータスが、戦いを知らない(少なくともそう伝えられているであろう)子供に負けたのにも関わらず、その顔や笑い声からは嫉妬を初めとした負の感情は感じられない。寧ろ「頼もしいばかりだ!」とでも言うように、心の底から喜んでいる様に見える。

 

(騎士団長殿は人間出来てそうなのが救いだな。それに比べて・・・)

 

 心の中でメルドの評価が上がっていく一方、別の方向から悪意が向けられているのを感じていた社。そちらを見ると、光輝が社の方を険しい顔で睨んでいた。本人に自覚は無いのだろうが、自分のステータスを超えられていたのが悔しいのか、はたまた周りからの称賛が恨めしいのか、社に嫉妬している様だった。

 

(相変わらず拗らせてんな。俺の事なんざどうでも良いだろうに。異世界の他人よりも、クラスメイトの方が信用出来ないとか笑うしかない。大丈夫かよ、これから)

 

 光輝からの嫉妬の目線を軽く流しつつ、社がこれから先の事に思いを馳せていると、いつの間にか近づいていた香織と愛子先生がハジメを慰めていた。

 

「大丈夫だよ南雲君!南雲君にも良いところはいっぱいあるから!いざとなったら私が守るよ!」

 

「そのフォローは逆に心が痛くなるからやめて欲しいな白崎さん」

 

「南雲君、気にすることはありませんよ!先生だって非戦系?とかいう天職ですし、ステータスだってほとんど平均です。南雲君は一人じゃありませんからね!」

 

 香織からの100%善意の言葉に、へこみながらも返すハジメ。愛子先生はというと、ハジメにフォローの言葉を掛けつつ、自分のステータスを見せた。

 

 

=============================

畑山愛子 25歳 女 レベル:1

天職:作農師

筋力:5

体力:10

耐性:10

敏捷:5

魔力:100

魔耐:10

技能:土壌管理・土壌回復・範囲耕作・成長促進・品種改良・植物系鑑定・肥料生成・混在育成・自動収穫・発酵操作・範囲温度調整・農場結界・豊穣天雨・言語理解

===============================

 

 思わず崩れ落ちるハジメ。見せられた物は、何一つ救いにはならなかった。「神は死んだ、幸利君は正しかった」と死んだ魚のような目をして遠くを見始めるハジメ。

 

 ガクガクとハジメの肩を揺さぶるりながら「あれっ、どうしたんですか!南雲君!?」と声を掛ける愛子先生。確かに全体のステータスは低いし、非戦系天職だろうことは一目でわかるのだが・・・魔力だけなら勇者に匹敵しており、技能数なら超えている。糧食問題は戦争には付きものだ。ハジメの様にいくらでも優秀な代わりのいる職業ではないのだ。つまり、愛子先生も十二分にチートだった。

 

 ちょっと一人じゃないかも、と期待したハジメのダメージは深い。この様子を見ていたクラスメイト達も、流石に可哀想になってきたのか、目線は同情的である。

 

「・・・ドンマイ、ハジメ」

 

「こうなりゃあれだ、ハガレンみたく、真理の扉開けるしかねぇな」

 

 反応がなくなったハジメを見て、社と幸利が苦笑いしつつ同情の言葉をかける。愛子先生は「あれぇ~?」と首を傾げており、相変わらず一生懸命だが空回る愛子先生にほっこりするクラスメイト達。上げて落とす的な気遣いと、これからの前途多難さに、ハジメは乾いた笑みを浮かべるのだった。

 

 ーーー心配そうな表情の香織と、彼女に寄り添われるハジメに向けられる、嫉妬と憎しみに塗られた目線には、ついぞ誰も気づかなかった。

 

 

 

 

 

「さて、全員集まったな」

 

 初の訓練が無事(?)終了した日の夜。王国の自室でゆっくりしていたハジメ達を、自室に集めた社が口を開いた。

 

「そんで?なんで俺らをわざわざ夜中に集めたんだ?ご丁寧に『帳』まで降ろして。どうせ碌な事じゃ無いんだろうが」

 

「流石だユッキー。持つべき物はお前さんの様な勘の良い友人だな!」

 

「Fu○k!」

 

 社によって集められた面子は3人。その内の1人である幸利が、備え付けられているテーブルに肘を突き皮肉気に問い掛ける。この部屋に来てからずっと渋面を作っていた辺り、社に呼ばれた時から碌な事では無いと勘づいていたのだろう。自らの問い掛けを肯定されて悪態こそ吐くものの、取り乱す事はしなかった。

 

「さて何処から話したもんか。取り敢えず『帳』に関しては盗聴・盗撮防止用だ。どれだけ効果あるか分からないが、やらないよりマシだ。で、結論から言うと、この世界詰んでるかもしれない」

 

「知ってた」

 

「だよねー」

 

「「「「・・・ハァ」」」」

 

 社の口から出た、この世界の評価を端的に示した発言。告げられた内容に反して驚く程に軽い口調で出た言葉に、ハジメと恵里もまた予想していたかの様に軽く返事をする。数秒の沈黙の後、揃ってため息を吐き出す4人。

 

「取り敢えず確定しているのは、この世界に居る俺が知る限りの全ての人間に対して、同一の存在から悪意が向けられてるって事だ。誰が、何故、何処からなんて何一つわからないけどな」

 

「・・・社君、自分以外に向けられてる悪意って感知出来たっけ?」

 

「素晴らしい質問だハジメ。答えは【他人に向けられた悪意の場合、いつ行動に起こしてもおかしく無いくらい、手遅れな程に強いモノで無ければ感知出来ない】だ。あくまでも俺の経験上、だけどな」

 

「OK、把握。つまり余程強い悪意が、僕達やこの世界の皆に向けられていると。泣きたくなってきた・・・」

 

 気を取り直して、分かっている事を伝え始める社。幸利の向かいに座りながら質問の答えを聞いたハジメは、予想しているよりも酷い状況にあると知り項垂れる様にテーブルに突っ伏した。

 

「・・・ああ、だから天之河が考え無しに〝戦争に参加します!〟って宣言した時に、あの馬鹿止めなかったのか。お前の事だからなんか考えでもあんのかと思って黙ってたが」

 

「ピンポーン、正解でーす。悪意の出所が分からない以上、あの場では表面上だけでも良い顔しとく必要があったんだよなー。交渉とかが通用する相手かも分からなかったし。そういう意味ではあの場での天之河の対応はファインプレー以外の何物でも無い。問題は、天之河がそこまで考えていたかどうかだがな!」

 

「アッハッハッ、無理無理ナイナイ。あのデリカシーと配慮が皆無の男にそんな思考は出来ないよ」

 

 社の説明を聞き、納得の声を上げる幸利。社にとっての理想は「ある程度王国側に従順さを見せながら、裏で怪しまれない程度に元の世界への帰還方法を探る」というものであった。一言で言えば面従腹背(めんじゅうふくはい)と言うやつである。その為、召喚直後であっても王国や聖教教会側に疑念を持たれるのは避けるべきであり、その意味では光輝の宣言は一概に悪く言えるものでは無かった。最も、当の光輝本人がそこまで考えていたかは怪しいが。現に恵里は光輝の事を全く信用していない。

 

「現状、俺達が取れる手段は少ない。精々、常に誰かと一緒にいる事を意識して、出来るだけ1人にならない様にする位だ。王国・教会含めても、信用出来そうなのは騎士団長と直属の部下位だろう。悪いが恵理の方で、それと無く雫にも伝えておいてくれないか」

 

「それは良いんだけどねー。なんで雫ちゃん呼ばなかったの?」

 

「・・・あの肩の力を抜くのが壊滅的にヘタクソな雫に、これ以上余計な事言って負荷を掛けてみろ、絶対に途中でぶっ壊れる。ただでさえ天之河達のお守りに忙しいのに、これ以上重荷を背負わせる訳にはいかん」

 

「「「あー・・・」」」

 

 場当たり的ではあるが、少しでも各々で出来る事をしようと提案する社に、雫をこの場に呼ばない理由を聞く恵里だったが、続く社の返答に残る3人が納得の声を挙げる。異世界においても、雫の保護者としての立ち位置は変わらない様だった。

 

「まぁ、そういう訳だ。なんか不安な事とか、気になった事とか何でも良い。何かあったらまた集まって相談する感じで頼む」

 

「分かったよ」

 

「アイヨー」

 

「りょーかーい」

 

 今後もこの集まりを開く事を宣言して締め括る社に、それぞれ返事をするハジメ達。未だ帰る目処も立たず、何れは戦争にも向かわなければならない。不安の種は尽きないが、異世界であろうとも変わらない面子を見て、何処か安心した4人なのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。