ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

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12.模擬戦

「・・・どうしてこうなった」

 

 メルド団長をはじめとした騎士団員達と、クラスメイト達が見守る中。模造の剣をこちらに向け、自分を睨み付ける光輝と向かい合いながら、心底理解出来ないと言わんばかりに社は独り言ち、こうなった経緯を思い出した。

 

 

 

 ハジメ達が自分のステータスを知った日から2週間が経った。

 

 現在、ハジメ達ーーー面子はハジメ、社、幸利、恵里、香織、雫、鈴の7人であるーーーは、訓練の休憩時間を利用して王立図書館にて調べ物をしていた。ハジメの手には〝北大陸魔物大図鑑〟という何の捻りもないタイトル通りの巨大な図鑑がある。

 

 何故そんな本を読んでいるのかと言うと、この2週間の訓練の最中、最弱ぶりと役立たず具合を突きつけられたハジメが「力がない分、知識と知恵でカバーできないか」と訓練の合間に勉強を始めたのがキッカケだった。

 

 当初ハジメは1人で勉強に励むつもりであった。しかし、(友人・身内限定で)面倒見の良い社と、何だかんだ付き合いの良い幸利が勉強会に参加。社の参加によって当然の様に恵里も合流し、何処から聞きつけたのかハジメ目当てで香織が、更には付き添いで雫と鈴まで参加する事になっていた。あれよあれよと言う間に人が増えた為、ハジメも最初の方こそ困惑していたが、1人で勉強しても気が滅入るだけと考え今ではこの状況を受け入れている。

 

 そんな訳でハジメはしばらく図鑑を眺めていたのだが・・・突如「はぁ~」と溜息を吐いて机の上に図鑑を放り投げた。ドスンッという重い音が響き、偶然通りかかった司書が物凄い形相でハジメを睨む。ビクッとなりつつ、ハジメは急いで謝罪した。「次はねぇぞ、コラッ!」という無言の睨みを頂いてなんとか見逃してもらう。自分で自分に「何やってんだ」とツッコミ、再び溜息を吐いた。

 

「・・・そうだ、旅に出よう」

 

「急にどうしたんだオイ」

 

「や、だって。コレを見れば、そうも言いたくなるよ」

 

 悟った様に呟くハジメ。現実逃避と未知への期待が7:3程でブレンドされた表情から脈絡無く放たれた独り言に、正面で別の図鑑を読んでいた社が片眉を上げて反応した。するとハジメはおもむろにステータスプレートを取り出し、頬杖をつきながら机に放る。

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:2

天職:錬成師

筋力:12

体力:12

耐性:12

敏捷:12

魔力:12

魔耐:12

技能:錬成・言語理解

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 これが二週間みっちり訓練したハジメの成果である。「刻み過ぎだろ!」と内心ツッコミをいれたのは言うまでもない。ちなみに光輝はというと、

 

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天之河光輝 17歳 男 レベル:10

天職:勇者

筋力:200

体力:200

耐性:200

敏捷:200

魔力:200

魔耐:200

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

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 ざっとハジメの5倍の成長率であった。正直やってられない、と言うのがハジメの感想である。

 

「おまけに魔法の適性も無いし、そりゃ投げ出したくもなるさ」

 

「あー・・・」

 

 不貞腐れるように話すハジメに、フォロー出来ずに気まずそうにする社。トータスにおける魔法は、魔力と詠唱、魔法陣の3つの要素で成り立っている。ハジメ達が居た世界に例えるならば、魔力が電気(ねんりょう)、詠唱が魔力と魔法陣を繋ぐ電線(ケーブル)、魔法陣が家電と言えば分かりやすいか。魔力を直接操作することはできず、どのような効果の魔法を使うかによって、正しく魔法陣を構築しなければならない。

 

 そして、魔法陣に込めた魔力の量はそのまま魔法の威力や効果の上昇に、詠唱の長さは一度に込められる魔力の上限にそれぞれ比例する。ここで重要となるのが、魔法陣の複雑さと大きさである。魔法の効果の複雑さや規模に比例して魔法陣に書き込む式も多くなる為、基本的に強い魔法=魔法陣が大きい、と言う事に繋がる。

 

 しかし、適性が有るのならば話は違ってくる。適性持ちは程度に差はあれど、魔法陣に書き込む式を自らのイメージで省略できる。火属性であれば巻き上がる炎を、水属性であれば湧き上がる流水を、と言った具合にイメージして魔法を使えば、適正無しの人間よりも圧倒的に強く、速く、魔法を発動出来るのだ。

 

 大抵の人間は何らかの適性を持っているのだが、ハジメの場合は全く適性が無い為、非常に細かく式を書かなければならなかった。具体的には初級の火属性魔法である〝火球〟一発放つのに直径2m近い魔法陣を必要としてしまう。端的に言って、実戦で使えるような代物では無い。

 

 そんな訳で近接戦闘はステータス的に無理、魔法も適性がなくて無理、頼みの天職・技能の〝錬成〟は鉱物の形を変えたりくっつけたり、加工できるだけで役に立たない。錬成に役立つアーティファクトも無いと言われ、錬成の魔法陣を刻んだ手袋を貰っただけであった。

 

 この2週間ですっかりた唯1人の無能であると言う自覚の芽生えたハジメ。最も、社を経由する形でハジメのお人良しぶりは知られているため、クラスの人間の中にハジメを悪し様に言う人間は()()居ない。仕方なく知識を溜め込んではいるものの、何とも先行きが見えずここ最近すっかり溜息が増えた。先程の「旅にでも出てしまおうか」発言も半分位は本気であるため、大分末期である。

 

 

 

「いや、でも最近は地形の変形とかも出来る様になってきたんだろ?」

 

「変形って言ってもね・・・まだ出っ張りとか落とし穴(もど)きだし。そもそもの前提として、敵の目の前で地面に手を突くなんて事がそもそも無茶だしなぁ」

 

 社のフォローにも言葉を濁すハジメ。錬成の規模自体は少しずつ大きくなっているが、対象には直接手を触れなければ効果を発揮しない術である以上、敵の眼前でしゃがみ込み、地面に手を突くという自殺行為をしなければならず、結局のところ戦闘では役立たずである事に変わりは無い。

 

「目に見える成果が出てるなら上々だ。継続は力なりとも言うし、派生技能が出る可能性もある。諦めるのはまだ早いぞ?・・・まぁ、俺が言うのも嫌味になるかもしれないけどな」

 

「・・・そんなことないさ。そうだね、諦めるのはもう少ししてからでも良いかな」

 

 社の自虐交じりの励ましに、淡く笑いながら応えるハジメ。ハジメは、宮守社と言う人間が約10年もの間、叶うかどうかも分からない願いを抱き、それでも尚諦めずに努力していたことを知っている。それがたとえ、広大な砂漠の中で一粒のダイヤを見つけるに等しい苦行であったとしても、社は弱音一つ吐かず諦める事もしないのだろう。「自分のしたい事だから」と心底幸せそうに笑いながら、自らの愛する婚約者(フィアンセ)を解放するまで彼はきっと止まらないのだろう。

 

(・・・少しだけ、ここまで誰かを愛せる社君が羨ましい。僕にもそんな相手がーーーまぁ、できないか。それにこんな事思うのは社君に失礼・・・いや、社君普通に喜びそうだな。正直に羨ましいって言えば、「まぁな!良いだろ!」とか言いそう)

 

 社が婚約者(フィアンセ)の為に努力する姿を思い出し、自分にそんな相手は出来ないと諦めてはいるものの、そこまで愛情を注げる相手がいることを少しだけ羨むハジメ。ーーー自らの最愛にして運命の相手ともいえる吸血姫(きゅうけつき)との出会いがもうすぐそこまで来ている事を、今のハジメは知る由もなかった。

 

 

 

「因みに行くならどこ行きたいんだ?」

 

「う~ん、そうだなぁ」

 

「話は聞かせてもらった!ここは亜人の国一択だよなぁ!」

 

「うおっ幸利いつの間に。他の面子は?」

 

「別の棚で本探しだ。いやそんな事はどーでも良いんだよ!ケモミミだケモミミ!ケモミミを見ずして異世界トリップは語れんだろーが!」

 

「取り敢えず声量落とそうか幸利君。司書さんがこっち睨んでるから。もう目線で僕らの事射殺さんばかりだから」

 

 社に聞かれて旅するならどこに行こうかと、ここ2週間誰よりも頑張った座学知識を頭の中に展開しながら物思いに耽けるハジメ。そこに何時から話を聞いていたのか、テンション高めな幸利が口を挟んだせいで再び司書から睨まれる始末である。先程よりも眼力が増しており、心無しか殺意すら乗ってる様にも感じたため急いで頭を下げる3人。

 

司書さんコエーな。・・・第一候補は亜人の国だろ。イヌミミ、ネコミミ、ウサミミ、選り取り見取りじゃねーか」

 

「そうだね。でも彼等の住処って〝樹海〟の奥地なんだよね。聖教教会からすると被差別種族だから、奴隷以外では殆ど見つからないらしいし、現実的には厳しいかな」

 

 幸利の浪漫ある意見に賛成しつつも、実現は難しいと話すハジメ。ハジメの話す通り、亜人族は被差別種族であり、基本的に大陸東側に南北に渡って広がる【ハルツィナ樹海】の深部に引き篭っている。何故差別されているのかと言うと彼等が一切魔力を持っていないからだ。

 

 この世界はエヒトを始めとする神々の〝神代魔法〟によって創られたと言い伝えられている。現在使用されている魔法は、それに比べて劣化したものではあるものの、神からのギフトであると言う価値観が強い。聖教教会がそう教えている、と言うのが1番の理由なのだが。よって、魔力を一切持たず魔法が使えない種族=神から見放された悪しき種族、と言う理論で亜人族は差別されているのである。

 

 因みに魔物はと言うと、一言で言えば害獣扱いらしい。あくまで自然災害的なものとして認識されており、神の恩恵を受けるものとは考えられていないんだとか。「何ともご都合解釈な事だ」とハジメ達は内心呆れていた。

 

 尚、魔人族は聖教教会の〝エヒト様〟とは別の神を崇めているらしいが、基本的な亜人に対する考え方は同じらしい。

 

 この魔人族は全員が高い魔法適性を持っており、人間族より遥かに短い詠唱と小さな魔法陣で強力な魔法を繰り出すらしい。数は少ないが南大陸中央にある魔人の王国ガーランドでは、子供まで相当強力な攻撃魔法を放てる様で、ある意味で国民総戦士の国と言えるかもしれない。

 

 人間族は崇める神の違いから魔人族を仇敵と定め(これも又、聖教教会の教えである)神に愛されていないと亜人族を差別する。魔人族も同じだ。亜人族は、もう放っておいてくれといった感じだろうか?どの種族も実に排他的である。

 

 国にしろ組織にしろ集団を纏め上げるのに最も簡単な方法は、共通の敵を作る事である。それを考えると、この種族単位での敵対関係も非常に何者かの悪意に満ちている様な気がしてならない社である。

 

「樹海は無理だろうから西の海に出てみようか?確か、エリセンという海上の町があるらしいし。ケモミミは無理でも、マーメイドは見たい。その辺りにも男のロマンは有るでしょ。あと海鮮料理」

 

「そうか、そっちもアリだな。悩ましいぜ」

 

「たた、こっちに行くなら【グリューエン大砂漠】を超えなきゃならないんだよねぇ・・・」

 

 ハジメの言う【海上の町エリセン】は海人族と言われる亜人族の町で西の海の沖合にある。亜人族の中で唯一、王国が公で保護している種族だ。因みに保護の理由は、北大陸に出回る魚介素材の8割がこの町から供給されているからである。全くもって身も蓋もない理由だ。「壮大な差別理由はどこにいった?」と、この話を聞いたときハジメは内心盛大にツッコミを入れたものだ。唯、西の海に出るには、その手前にある【グリューエン大砂漠】を超えなければならない為、険しい旅になるのは間違い無いだろう。

 

「砂漠も無理・・・となると、もう帝国に行って奴隷を見るしかないんだろうけど・・・」

 

「流石に奴隷扱いされてるケモミミを見て喜ぶ趣味はねぇぞ」

 

「だよねぇ」

 

 ハジメが最後の手段として、帝国に行く事を提案してみるも、幸利は素気無く却下する。ハジメとしてもそこまでして見たいものでは無い為、幸利に同調する。

 

 ヘルシャー帝国。この国は凡そ三百年前の大規模な魔人族との戦争中にとある傭兵団が興した新興の国で、強力な傭兵や冒険者がわんさかと集まった軍事国家らしい。実力至上主義を掲げており、かなりシビア且つブラックな国のようだ。

 

 この国は王国の東にある【中立商業都市フューレン】の更に東にある国で、使えるものは何でも使うという発想からか、亜人族を扱った奴隷商が多く存在している。

 

 中立商業都市フューレンは文字通り、どの国にも依らない中立の商業都市だ。経済力という国家運営とは切っても切り離せない力を最大限に使い中立を貫いている。欲しいモノがあればこの都市に行けば手に入ると言われているくらい商業中心の都市である。

 

「ん〜、こうして見ると、意外と行けそうなところないね」

 

「確かになぁ。折角召喚されたんだから、もうちょい俺らに役得があっても・・・?オイ、何でさっきから黙ってんだよ、社」

 

「うん?いや、ちょっとな。無粋な考えが浮かんだから黙ってただけだ。あんまり夢を壊す様な事言いたくないしな」

 

 予想外に障害が多くなりそうな旅路を思い、気落ちするハジメと幸利。ふと、ここで社がずっと黙ったままなのに幸利が気付く。話を振ると、ハジメ達の会話に入らなくても耳には入れていた様ではあるが、意味ありげに言葉を濁している。

 

「何だそりゃ。そんなん言ってみなきゃわかんねーだろ」

 

「そうだね。言ってみるのはタダだよ、社君」

 

「・・・本当に良いのか?後悔しないか?」

 

「くどい。さっさと言っちまえ」

 

 社の遠慮がちな言葉に、水臭いと言わんばかりに返す幸利とハジメ。念押しも一蹴され観念した様に社は口を開く。

 

「それじゃあ言わせて貰おうか。ーーー2人共、亜人を見るのは良いけど、誰も彼もが美男美女じゃないと思うぞ」

 

 ビシリ、と擬音が聞こえてくる様に固まるハジメと幸利。2人の反応をよそに、社は言葉を続ける。

 

「美女にケモミミ。確かに良いものだろう。イケメンでも需要はあるな。子供であれば微笑ましさもあるだろう。だが、むさ苦しい男衆だったら?ケバいおばさんだったら?今にも枯れ果てそうなご老体だったら?マーメイドにしたって、インスマス(APP3)顔がいないとも限らないぞ?」

 

「「・・・・・・・」」

 

 社の、非情であり非常に現実的な言葉に、先程の興奮が嘘の様に黙り込む2人。実際にそこまで考えが及ばなかったのだろう、2人の顔に沈痛な表情が浮かぶ。

 

「・・・訓練、行くか」

 

「・・・うん」

 

「・・・おう」

 

 居た堪れなくなった社が、訓練の時間が迫っていることに気付き、2人に声を掛ける。見るからにテンションの低くなった2人と共に、別の棚で本探しをしている女子達を迎えに行く社達であった。

 

 

 

 図書館から王宮までの道のりは短く目と鼻の先ではあるが、その道程にも王都の喧騒が聞こえてくる。露店の店主の呼び込みや遊ぶ子供の声、はしゃぎ過ぎた子供を叱る声、実に日常的で平和だ。この景色を見ていると、戦争の真っ最中だとは到底思えないだろう。

 

「社君。ちょっと良い?」

 

「恵里?何か用か?」

 

 訓練施設に向かう道すがら、隣に居た恵里が社の裾を引っ張り小声で話しかける。社の前では香織がハジメに質問攻めをしており、それを雫が軽く窘めている。後ろでは鈴と幸利が、ハジメと香織の関係の進展について話している様だ。幸利は女性が相手のため若干挙動不審ではあるが。社達との間にはある程度距離があり、小声でなら内緒話位は出来るだろう。

 

「社君さ、こっち来てから隠し事してるよね」

 

「そうだな、幾つか話していない事はある」

 

「・・・普通だったら誤魔化したりするから、そこから突き崩していくんだけどなぁ。社君あんまり隠し事しないよね」

 

「流石に打ち明ける相手は選んでるぞ?精々が身内と友人、合わせて10人いるかどうかだ。後、隠し事する方が面倒臭い」

 

 恵里の質問と言うよりは確認に近い言葉に、誤魔化しなどせず正直に言う社。予想通りの返答ではあるものの、思わず苦笑する恵里は更に言葉を重ねる。

 

「こっちに来たばかりの時さ、社君焦ってたでしょ。次の日には何時もの社君に戻ってたから、その時は何も言わなかったんだけどね。最近になってまた少しピリピリしてるみたいだったから、心配になってね。ちょっと聞いてみたんだ」

 

「・・・そんなに分かりやすかったか、俺は」

 

「んーん、気付いてるのは僕と雫ちゃん、南雲君と清水君かな。雫ちゃんは忙しそうにしてるから、精々違和感を感じてる位だろうけど。男子2人は、分かってて放置してるんだと思う。フフフ、男の子の友情は麗しいね」

 

「麗しいかどうかはさて置くけど、友情云々に関しては有難い話さ」

 

 恵里が自身の隠し事だけで無く、焦りすらも見抜いていた事に動揺する社。「やっと一本取れた」と面白そうに笑う恵里はハジメ達との関係を茶化すものの、社自身は2人の友情には感謝している為、恵里の言葉を否定する事はしない。

 

「・・・私には話せない?」

 

「話せないと言うか、話しても意味が無いと言うか」

 

 恵里の問いに曖昧に返しつつ、どう話すべきかを考える社。社の隠し事とは、この半月の間に社に対して悪意を向ける人間の数がジワジワと増えている事である。悪意が増え始めたのが大体2週間前。具体的には社のステータスが明らかになった後だ。そのため、恐らくは自身の体質を狙ったものであると社は当たりをつけていた。

 

「今はまだ話せない、話せるようになったら話す。・・・じゃダメか?」

 

「・・・分かった。その代わり、出来れば僕に最初に話してね?」

 

「善処する。(・・・流石に恵里達を巻き込むわけにはいかないよなぁ。狂信者じみた連中の事だから何するか分からないし)」

 

 最初の頃に社が感じたのは、()()()()()()()()()()()()()からの悪意だけであった。悪意が向けられているにも拘らず、向けている相手の居場所が分からなかった為それはそれで不気味ではあったが、不味い事に最近になって教皇や教会の上層部、一部の貴族等の権力者からも似たような悪意が向けられて来ているのだ。恐らく、神のお告げか何かで社自身について言及があったのだろう。今の所、目に見えた妨害はされていないが、最悪の場合は国を敵に回す事になると考えると、ハジメ達には不用意に話せない。

 

「話はそれだけ。さ、早く行こうか」

 

「そうだな」

 

 恵里に促され、足を早める社。どうしたもんか、と考える社の顔を、恵理は何時ものニコニコ顔で見つめるのであった。

 

 

 

 訓練施設に到着すると既に何人もの生徒達がやって来て談笑したり自主練したりしていた。どうやら案外早く着いたようである。ハジメ達は「自主練でもして待つか」と、各々支給された武器を取り出す。と、そんな彼等に近づく人影があった。

 

「香織に雫、こんな所にいたのか。一体今まで何をしていたんだ?」

 

 ご存知、我らが勇者の天之河光輝である。香織と雫に声を掛けている光輝だが、心配していると言うよりは「何故俺に黙って行ったんだ?」と、どことなく非難している様に聞こえる。まるで束縛の強い彼氏の様な発言だった。

 

「さっきまで、南雲君達と図書館で勉強してただけだよ?別に光輝君と約束なんてしてないよね?」

 

「・・・いや、確かにそうだけど」

 

「「「ブフォッ」」」

 

 が、香織の天然には全く効果が無かった様だった。光輝の勢いが急速に萎んでいく様を見て、思わず噴き出すハジメ達男子3人。光輝がそちらを睨むと笑い声は収まったものの、3人ともニヤケ顔は隠せていない。香織に言い負かされたからか、光輝の矛先はハジメに向く。

 

「南雲はもっと努力すべきじゃ無いのか。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう?図書館で読書に耽っている暇があるのなら、少しでも強くなるために鍛錬をした方が良いんじゃないか。俺ならそうするよ」

 

「え、注意するの僕だけ?幸利君と社君は?」

 

「・・・勿論、南雲だけじゃ無い、清水も宮守も、もう少し真面目になった方がいい。図書館に居るだけじゃ強くなれないだろ」

 

「うわ、巻き添いじゃねーか。ハジメふざけんなよー」

 

「ハハハ、僕と一緒に仲良く不幸になろうよ、2人共」

 

「うーむ、ハジメも順調に良い性格になってきたな。俺達との友人付き合いの賜物か」

 

「真面目に俺の話を聞くつもりが有るのか、君達は!?」

 

「「「無い」」」

 

「〜〜〜っ!!」

 

 ハジメ達にお説教を始める光輝。しかしハジメ達は何処吹く風で光輝の善意の忠告(と本人だけが思い込んでいる)に取り合おうとはしない。まあ、香織達には注意せず、自分の気に入らない相手にだけ滅茶苦茶言ってる様なものなので、その反応も当然である。ハジメ達のふざけた態度に堪らず光輝が叫ぶが、3人同時に否定され声にならない声を上げる。

 

 今まで成功し続け挫折の経験が無かった光輝は、自らのカリスマも合わさり自分の話を聞いて貰えない、と言う状況に身を置いた事が無かった。その為、自分以上に話を聞かない(勿論光輝自身は、自分の思考や正義感を疑わない為、結果的に自らが人の話を聞かない人間であるという自覚は無い)人間に対しての耐性が無かったのである。頭を抱える光輝だったが、そこに雫の助け舟が入る。

 

「取り敢えずそこの3馬鹿は鎮まりなさい。それと光輝。私達はこれから戦う事になる魔物や魔人族の事を予習がてら調べてたのよ。これは社達も一緒。なら、私達も同罪かしら?」

 

「それは・・・」

 

「違うわよね?だったら、社達を責めるのはやめなさい」

 

「「「「「・・・オカンだ」」」」」

 

「何でそこで皆奇麗にハモるのよ!特に社!アンタ隠れて笑ってんじゃ無いわよ!はっ倒すわよ!」

 

「おっとバレた」

 

 頭を抱える光輝に優しく諭す様に告げる雫。自らを疑わず簡単に善意で暴走する幼馴染みを宥める手腕を見て、一部始終を見ていたハジメと周りのクラスメイト達は思わず呟く。が、その声はしっかり聞かれていた様で、その中でも露骨に笑っていた社にはご立腹の雫。瞬く間にワーワーと叫ぶ声が広がりーーー。

 

 

 

「あれ?でも、光輝君より宮守君の方がステータスは上じゃなかった?」

 

 

 

 香織(ド天然)の口から飛び出した呟きによって、水を打った様に周囲が静まり返る。本人に悪意は無く、光輝が放った「強くなれない」発言を聞いて、事実確認として言っただけだったのだろう。だが、周りの人間が同じ様に捉えるかと言うとそうでは無い。間違い無く面倒な事になると、社の直感は警報を鳴らしていた。社がハジメと幸利の方に目線を向けると、2人して手で目を抑えながら「やっちまったなぁ」と言わんばかりに空を見上げていた。雫はと言うと、目があった瞬間に顔ごと逸らした。香織はキョトンとしているばかり。そして。

 

「・・・宮守!俺と戦えーーー!!!」

 

「マジかよ」

 

 こうして、急遽勇者VS呪術師のマッチが開催されるのであった。




以前の話でも描写したのですが、社に付随する形でハジメ君の性格の良さがクラスメイトに気付かれているので、原作に比べてハジメ君の扱いが良くなっています。その為、思い人を狙われる可能性を考えた香織さんはハジメ君に対して、より積極的になっていたり。
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