ありふれない怨霊こそ世界最愛 作:白紙
ベヒモスに向かって弾丸の如く真っ直ぐ突き進む社と■■。社を前衛として、縦に並んで走って来る2体の敵に対して、ベヒモスは迎撃する様に咆哮を上げる。
ベヒモスの狙う獲物は、社。無論、ベヒモスとていきなり現れた異形を警戒していない訳では無い。寧ろ、魔物としての本能は真っ先に異形を殺せと警鐘を鳴らしている。
しかし、先程まで虫ケラとしか見ていなかったモノに潰された左目の痛み。今も感じる痛苦がそのまま屈辱と憤怒に変換され、警戒ではなく報復をベヒモスに選ばせた。自身に迫ってくる敵を叩き潰すべく、大きく右前脚を掲げる様に上げるベヒモス。
「頼む、■■ちゃん」
「ウン。ーーー『ウゴクナ』」
自らに向けられる殺意や憎しみと言った悪意を鋭敏に感じ取った社は、静かに最愛のパートナーの名を呼ぶ。それに応えるかの様に■■は社の前に躍り出ると、ベヒモスの出鼻を挫くべく『呪い』を込めた言葉を放つ。
高等術式『呪言』ーーー『呪力』を込める事で言霊を増幅、対象に行動を強制する『呪術』である。非常に強力な『術式』ではあるが、強力な言霊や相手が格上の場合は消耗や反動が大きく、最悪の場合自分に返ってくる場合もある扱いの難しい力である。
静かに、しかし他の音にかき消される事無くその場に響いた言霊は、ベヒモスの体を一瞬だけ麻痺させる。■■が必ず足止めを行うと確信していた社は、ベヒモスに起こった異変にも眉一つ動かさない。速度を緩めるどころか更に加速した社は、そのまま前脚の下を通り抜けた。
その後すぐ様社の後方で、ドスンッ!と硬直の解けたベヒモスの脚が叩き付けられる。体重が十二分に乗っていた前脚の一撃は、音を聞いただけで当たればただでは済まない事が分かる。掠っただけでも自らの死に繋がりかねない一撃を、しかし社は全く気にしないまま更に直進、ベヒモスの股の間を通り抜ける。
「ーーー八重樫流剣術〝水月・
と同時、社は右手の刀に『呪力』を込めて振るう。本来ならば納刀状態で体を一回転、全方位を薙ぎ払う様に抜刀する八重樫流抜刀術〝水月・
生まれ持った体質により、社は人一倍身体能力に秀でている。自らの健脚で生み出した加速を剣に乗せて、その場で回転しながら斬り払いを行う。円を描く軌跡で振るわれた刀は、ベヒモスの後ろ両脚と尻尾の肉を確かに斬り裂いた。
(よっし、関節なら切れる!後は隙を見て、チマチマと時間稼ぎに嫌がらせしますかね)
技を放った後、社は即座にその場から離脱してそのままベヒモスの背後を取る。尻尾の方は浅くしか斬れなかったが、関節の方には確かな手応えを感じていた。その感覚を裏付ける様にベヒモスの後脚の関節からは血が流れており、それを見た社は自分の攻撃が通用している事に一先ず安堵する。
「ヒトリジャアブナイヨ、ヤシロ」
「ゴメンゴメン。さっきはサポートありがとうね」
「フフフ、マカセテェ」
いつの間にか背後にいた■■と会話しつつも、構えを崩さずベヒモスから目を離さない社。致命傷はおろか、重傷を与えるのも骨が折れそうではあるが、時間稼ぎとヘイト集めが目的なので問題は無い。
「グルァァァァァアアアアア!!」
「おーおー、随分とまあご立腹の様で。もう片目も潰してやろうか?ん?」
「イイネ。ヤッチャエ、ヤシロ」
橋の向こうで退避している騎士団と生徒達には目もくれず、器用に巨体を反転させながら社の方を向くベヒモス。最早社以外は眼中に無いのだろう、何が何でも殺してやると息巻く様に叫びながら頭を赤熱させていた。しかしそれにも動じる事は無く、あろう事が煽りまでする社。自らの死の危険性を十分に自覚しつつ、それでも尚恐怖を感じさせずに。ありふれぬコンビは再びベヒモスに突撃した。
ベヒモスから退避したメルド団長達を迎えたのは、階段前と入口を陣取る様に占拠していた騎士団員と生徒達だった。
トラウムソルジャーを生み出す魔法陣は絶え間無く出現するものの、湧き出す側から潰されてその場から動く事も難しそうだ。抵抗出来る個体もいる様だが、そう言ったものも数名に囲み込まれるか、魔法により一掃されていった。
「無事ですか、メルド団長!?」
「アランか!此方は何とかな!お前達もよくぞここまで持ち堪えてくれた!」
退避して来たメルド団長達を迎えるアラン達騎士団員。階段側からメルド団長達を視認出来た時点でその場を生徒達に任せて、先に騎士団員だけで迎えに来たのだ。
「いいえ、自分達だけの力ではありません。パニックになった生徒達を守り、勇気付けたのは彼等です。恥ずかしながら、彼等が居なければどうなっていた事やら」
階段前の生徒達と合流すべく、メルド団長達を守りながら送り届ける騎士団員達。行手を阻むトラウムソルジャー達を一掃しながら、道すがらで何があったのかを勇者一行に話すアラン。
「そうか、アイツ等が。全く本当に頼りになるばかりだ。合流出来たら礼を言わねばな」
「南雲も清水もやるじゃねーか!」
「南雲君凄い!ね、雫ちゃん」
「・・・そうね。でも、その話は後。今はとにかく合流を急ぎましょう!」
階段前を目指しつつアランから社達4人の話を聞き、口々に称賛するメルド団長達。その中でもやはり1番話題に上るのはハジメの名前だろう。最も弱い筈だったハジメが、最前線で勇敢に魔物に立ち向かって行った事実は、勇者達一行を鼓舞していた。ーーーその裏で唯1人、自らの無力を受け入れられず、他人の活躍も認められず。俯いたまま一言も話さない勇者の姿には誰も気付かなかった。
階段前の生徒達と勇者一行の合流は速やかに行われた。予め言い聞かせていた事もあるが、隊列を崩す事無く連携をしっかりとって行われる戦闘には、当初の危なっかしさは感じられない。1人1人がしっかりと自分の役割を理解し実行している生徒達の姿は、ハジメ達4人が行っていた連携と何ら遜色は無かった。
無事合流したメルド団長達を見て、真っ先に駆け寄ってくるハジメと恵里、幸利の3人。だが、肝心の社の姿が見えない事に恵理が気付く。
「ーーー社君は?」
「社は殿だ!ベヒモス相手に1人で時間稼ぎしている!」
「アイツ本気で馬鹿かよォ!?相変わらず息吐く様に無茶しやがんなぁ!」
「社君はこういう時
メルド団長からの返答を聞くと、恵里はスッと目を細めて黙り込み、幸利は頭を抱えなら叫ぶ様に悪態を吐きだし、ハジメはそれを宥める様に呟いた。三者三様な反応だが、誰もが社の事を心配しているのは明白だ。3人の反応を一瞥した後、そのままメルド団長は声を張り上げて指示を出す。
「全員そのまま聞け!社が今たった一人であの化け物を抑えている!前衛組!このままソルジャーどもを寄せ付けるな!後衛組は遠距離魔法準備!此方で社が離脱したのを確認次第、一斉攻撃であの化け物を足止めしろ!」
ビリビリと腹の底まで響くような声に気を引き締め直す生徒達。すぐ側にはこの場から逃げられる出口があると言うのに其方には見向きもせず、彼等彼女等は再び魔物達に立ち向かって行く。
この場にいる殆どの生徒は、何故自分達がここまで戦えたのかを理解している。それは実力云々の話では無い。動揺と混乱でマトモに戦う事すら出来なかった自分達の前に立ち、真っ先に魔物達に戦いを挑んでいた4人の姿が無ければどうなっていた事か。連携をとる事で容易く魔物達を処理出来る様になり、余裕が生まれ始めた今。生徒達の間でもそこまで考えが及ぶ様になっていた。
恐怖は未だ消し切れず、階段への未練も完全には断ち切れていない。しかしそれ以上に「全員で生きて帰る」という強い思いが生徒達の心の内を占めていた。此方の世界に来てから流されるままに戦ってきた生徒達はここに来て初めて、明確に自分達の意思で戦いに挑もうとしていた。
メルド団長の指示に従いながら、魔物達を迎え撃つ騎士団員とクラスメイト達。生徒達だけでも余裕を持って対処出来ていたのだから、そこにメルド達と勇者一行が加われば
ピシャァァァン!!!
橋の奥から落雷に似た轟音が響き渡る。呆気にとられ動きが止まる生徒達だが、魔物の数が激減していた事とメルド団長の掛け声により直ぐ様我を取り戻した事で被害は皆無だった。
「何だあれ?宮守と一緒に戦ってる奴。見るからにヤバくないか!?」
「いや、周りの方が有り得ないでしょ!宮守君が居る所だけ何か凄い事になってるんだけど!?」
困惑しながらも体勢を立て直したクラスメイト達が、数の減ったトラウムソルジャー越しに橋の奥を見る。そこには刀を振るう社と全身から血を流すベヒモス、そして見た事も無い異形がいた。宙に浮きながらベヒモスに対して攻撃しているところを見るに、恐らくは社の味方なのだろう。が、文字通り異質と言えるその見た目の悍ましさは、ともすればベヒモスよりも恐ろしいものだった。
そして異変はそれだけでは無い。社が戦っている周辺は今も燃えているかと思えば凍結していたり、落雷が発生したかと思えば虫らしきものが大量に湧きだしたりと、摩訶不思議な事になっていた。
「嘘だろ、アイツ出してやっと互角かよ!」
「社君・・・」
(多分、社君が手段を選ばなければベヒモスは倒せる筈。それをしないのは、橋の崩壊が怖いのかな。必要なのは足止めだから無理にベヒモスを倒す必要は無いし、下手に大火力で押して橋が崩れたりでもしたら本末転倒だから。なら、僕に出来るのは・・・)
今まで社から聞いていた本人の実力と知識。そして現在の戦況を見た事で社の目論見に
「ーーーメルドさん、提案があります」
大切な友人に手を貸す為、もう一度だけ優しき錬成師が動き出す。
「ウフフ」
雨が降る。
「ウフフ、アハハ」
ザァザァと窓を叩く様なーーーなんて詩的な表現とはかけ離れた、頭の中を掻き毟る様な名状し難い音を立てて『呪い』の雨が降り注ぐ。
「イヒッ、ウフアハハ」
逆巻く様に炎熱が。汚濁に塗れた水流が。迸る紫電が。刃の様な突風が。泥の様な闇が。目を眩ます程の光線が。血と錆に塗れた武器が。影絵の様な魑魅魍魎が。無音不可視の斬撃と衝撃が。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
我慢出来ぬと言わんばかりの哄笑と共に、特級過呪怨霊■■■■の呪詛がベヒモスの元に降り注ぐ。雨霰と降る『呪い』を受けて、苦しみの声を出しながらも致命傷を受けないベヒモスに対し、同じ様に『呪い』の雨の中を走る社が『呪力』を込めた刀で強く斬り付ける。
『呪術』である事以外は何一つ共通点の無い、正に千差万別と言える『呪い』の雨はその一切が社に当たる事は無い。遠い過去『ずっといっしょにいよう』と結んだ誓いは、今尚『呪い』となって互いを縛っている。目を合わせずとも声を交わさなくとも、互いが互いの動きを手に取る様に理解出来る程に2人は強く深く繋がっていた。
(橋の崩壊を考えると、ベヒモスを一撃で仕留める様な大質量・大出力の攻撃は使えない。目眩しなんかで動きを止めても、破れかぶれで攻撃されて橋が崩れたりしたらそれこそ目も当てられ無い)
ハジメの考察通り、社は橋の崩壊を第一に考えて戦っていた。ベヒモスが先程光輝達に繰り出した空からの落下攻撃は、石橋に少なくないダメージを与えている。もう1、2回同じ事をされれば橋は持たないだろう、と言うのが社の見立てであり、それ故に攻め手も自ずと制限されていた。唯、橋の上と言う狭い空間だからこそベヒモスも自由に身動きが取れないという側面もある為、その辺は痛し痒しだった。
(であれば、このまま■■ちゃんの力で削り殺すか、さもなくば俺がベヒモスの脚の一つも斬り飛ばして、追って来れない様に機動力を削ぐか)
しかしそれらは何ら問題にはならない。宙に浮く■■の『呪術』に気を取られている内に、再びベヒモスの脚関節を斬る社。何度も斬り付けられた傷口からは、少なくない量の出血が見て取れる。良い加減鬱陶しいと言わんばかりにベヒモスは脚で踏み潰そうとするが、その動きも精彩を欠いている。■■の
「さぁ、どうするベヒモス。
悪意ある口調とは裏腹に、何の感情も宿っていない表情で告げる社。■■に敢えてベヒモスの無事な右目側を攻めさせる事で注意を引きつけ、その間に自らは死角である潰した左目側から攻め立てる。いっそ臆病なまでにヒット&アウェイに徹する姿勢は、ベヒモスからの被弾を極限まで減らす為の戦術だ。社としては愛する
ドンッッッ!!!
「・・・
ーーー社の誤算は唯1つ。ベヒモスが想定するよりも遥かに愚かだった事だろう。
怒りによるものか常に頭を赤熱させていたベヒモスが、突如静止した。隙を見ては脚を斬り付けていた社が何事かと警戒する中、脚に力を溜めたベヒモスはその場でいきなり跳躍したのだ。
「馬っ鹿、こいつ本気で馬鹿じゃん!?脳味噌まで筋肉かよぉ!!」
思わず叫びながら、ベヒモスの真下から退避する社。ここにきて社が大きく動揺したのには理由がある。まず1つ目に、ベヒモスの4本の脚には深い傷が付いていた事。相手の機動力を削ぐべく社が執拗に脚を斬り続けた結果、傷は深いものとなり既に結構な量の血液が流れていた。そんな重症と呼べる状態で跳躍するとは思っていなかったのだ。
もう一つの理由が、この跳躍には「社を殺す」以外の悪意が乗っていなかった事である。社が祓ってきた悪霊や妖怪には、最後のイタチっ屁に道連れを狙う者もいた。が、その場合は社に向ける悪意が露骨に増す為に簡単に見破ることが出来たのだ。そして、社にとって致命傷になる程の道連れを行う『呪霊』や妖怪は基本的に賢い。最初から道連れ狙いならまだしも、自分が不利になる事をしない程度の知恵はあるのだ。
翻ってベヒモスは、自分の攻撃が橋を崩してしまうかもしれないという自覚が恐らくは無い。それどころか、跳躍に失敗して橋の下の奈落に落ちてしまう危険性すら思い付いていないだろう。よって、道連れにしよう等と言うある種の悪知恵から来る悪意も生まれようが無い。4本脚は漏れなく刀傷だらけ、片目を失って平衡感覚すら怪しいにも関わらず躊躇無く飛び上がる非常にリスキーな行為。自滅の可能性すら勘定に入れられない愚かさは、ここに来て最悪の形で牙を剥いた。
「■■ちゃんッ!?!?」
『ソレロ!』
1番最初に光輝達に行った時よりも、半分程の高度から行われた急降下攻撃。その分だけ威力は下がるだろうが、その事実は何の慰めにもならないだろう。数秒後、ベヒモスがヒビ割れた橋に着弾するその寸前に社が叫び、最初から距離をとっていた■■が間髪入れずに『呪言』を放つ。猛烈な地響きと共に炸裂する衝撃波は、『呪力』の込められた言霊によって社に向かっていった大半が漸減された。が、全てを消し切るには至らず、大きなダメージは回避したものの余波に吹き飛ばされてしまう。
ビシリッ
「・・・嘘だろ?」
吹き飛ばされた先、橋の淵ギリギリで何とか踏ん張り直ぐ様立ち上がろうとする社。が、そこは最初にベヒモスが急降下攻撃をした場所であり、既にボロボロの状態だった。■■の『呪言』は社に向けられた衝撃波のみを逸らしただけで、橋にかかった負荷には一切干渉していない。
嫌な音と共に、丁度社がいる部分だけを切り取る様に橋の一部が崩れる。体勢を直す暇無く、■■の助けも間に合わない。引き攣った表情のまま、瓦礫と共に奈落に堕ちていく社。
「ーーー錬成っ!」
周りの何もかもがスローモーションで流れていく様な錯覚の中。未だ聴き慣れぬ言葉と、それとは不釣り合いな位良く聴き慣れた声が社の耳に届いた。
「〜〜〜ッナイスだハジメェ!!!」
伸びる様に錬成された橋が、社ごと奈落に堕ちるはずだった橋の一部を包み込む様に支える。誰が何をしたのかを即座に把握した社は友人に一声だけ掛けると、そちらを一瞥すらせずに再びベヒモスに吶喊する。
「合わせろ!■■ちゃんっ!!」
「斬れろぉ!!!」/『キレロ!!!』
ベヒモスが橋に突き刺さった頭を抜いた瞬間、社の斬撃と■■の『呪言』が同時に命中した。『呪力』により自らの身体能力と愛刀を限界近くまで強化、〝縮地〟で生み出した加速を余すとこ無く刃に乗せた上で、技能〝剛力〟による腕力の増強を加えた社渾身の一閃。そして、それを後押しするかの如く、■■の『呪言』による斬撃がその一刀に寸分の狂い無く重なる。裂帛の気合と共に放たれた2つの斬撃は、見事にベヒモスの脚を切り飛ばした。
「ギギャアァァァァ!?!?」
迷宮内部を揺るがす程の叫び声が上がる。体を支え切れずに崩れ落ち、痛みに悶えているベヒモスを油断なく見据えながら、社はハジメの居る場所まで後退する。
「何で此処まで来たとか言いたい事は色々あるけども!控えめに言って最優秀主演男優賞モノだ!俺が女なら1発で惚れてたわ!」
「いやいや、精々助演男優賞位じゃないかな。それと冗談でもそういう事言うのは止めてくれないかな?君の婚約者さんがジッとこっちを見てる気がするからね!」
「何、■■ちゃんが俺の指示無しで誰かに危害を加えた事は無いし、大丈夫大丈夫・・・多分」
「今、多分って言ったね!?」
ギャーギャーと騒ぎながら、ベヒモスから離れる社達。因みに何故ハジメが此処まで来たのか社が聞いたところ、「社君が橋の崩壊を気にしてたのは予想がついたから、錬成師であれば万が一橋が崩れてもある程度なら直せると思ってね。後は、階段前の防衛に僕が居る必要も無かったから。その辺をメルドさんに提案して今に至るって感じかな」との事。相変わらず良く見ている友人である、と感心する社。
一方のベヒモスはと言うと、目を潰された時とは比べ物にならない程の絶叫を上げながらも、何とか立ち上がろうしている。未だ殺意が衰えないのは驚嘆の一言ではあるが、流石に片脚が無い状態ではバランスが取れないのだろう、起き上がる事さえ出来ないでいた。
「社君があれだけやってまだ生きてるんだ・・・」
「呆れる位にしぶといが、あれなら暫くはまともに立つ事も出来ないだろ。念の為、俺が殿をするから先に行けハジメ」
「了解!社君も気を付けて!」
ハジメが頷き走り出したのを確認してから、ベヒモスの方を視認しつつ同じ様に階段側に向かう社。その後、2人と入れ違う様に凡ゆる属性の攻撃魔法がベヒモスに殺到する。メルド団長が生徒達に準備させていた、足止め用の攻撃魔法である。
夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。社が重傷を与えていた為か、余り強く無い魔法にも苦悶の声を上げるベヒモス。どうやらしっかりと足止めになっている様だ。
(この分なら流石に大丈夫だろ)
峠は越えたと確信しつつも、油断せず殿としての役目を果たそうとする社。そこそこ前にいるハジメは転ばないよう注意しながら、頭を下げて全力で走っている。すぐ頭上を様々な魔法が次々と通っていく光景は中々に壮観である、と余裕めいた考えすら浮かぶ社。ベヒモスとの距離は既に30mは広がっていた。
しかし、その直後。
無数に飛び交う魔法の中で、明確な悪意が込められた火球が存在した。必殺の意思すら感じられる悪意の向く先は、此方ーーー否、ハジメに対してのもの。そして、その感覚を証明する様に火球がハジメを狙い、誘導される様に軌道を曲げたのだ。
「避けろ、ハジメッ!!」
狙われた本人にも予想外だったのだろう、愕然とした様子で動きが止まったハジメに、叫ぶ様に声を上げる社。その声に我を取り戻したハジメは、咄嗟に横っ飛びに火球を避けようとする。が、それを嘲笑うかの様に、目の前で火球が弾けた。熱と衝撃波をモロに浴び、避けようとした体勢のまま橋の淵に吹き飛ばされるハジメ。直撃は避けた様で何とか立てはしたものの、三半規管をやられ平衡感覚が狂ってしまったのか足取りが覚束ない。ーーーそして、追い討ちをかける様に再び火球が迫る。
「ふっざけんなぁ!」
今にも倒れそうなハジメを助ける為、猛烈な勢いで走り出す社。魔力と『呪力』を限界まで振り絞り、最悪我が身を盾にしてでも助けようとなりふり構わぬ覚悟を決める。が、無慈悲な事に社よりも火球がハジメに突き刺さる方が速かった。
抵抗らしい抵抗も何一つ出来ぬまま、ハジメは爆発に巻き込まれた。火球が生み出した熱と衝撃波は友を容易く飲み込み、下手人の狙い通りに橋から吹き飛ばした。社が堕ちて行くハジメに向けて手を伸ばすが、既に意識が無いのだろう、手を動かす様子すら無い。
「ハジメーーーーーー!!!」
社の悲痛な叫びと共に、ハジメは吸い込まれる様に奈落へと消えていった。
イッタイダレガコンナヒドイコトヲ―(棒)