ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

26 / 86
25.ゆっくり語らい

 サソリモドキを倒した後、ハジメ達はサソリモドキとサイクロプスの素材やら肉やらを拠点に持ち帰った。その巨体と相まって運搬には物凄く苦労するかと思いきや、素の腕力が凄まじい社と、ハジメの血を飲んだ事で見事な身体強化による怪力を発揮してくれたユエの2名により、割と簡単に運び込む事が出来た。

 

 そのまま封印部屋を使うという手もあったのだが、ユエが断固拒否した為にその案は没となった。曰く「何年も閉じ込められていた場所など見たく無い」との事。全くもって正論である。ドンナーや手榴弾等の消耗品の補充もあり暫く身動きが取れないことを考えれば、拠点に移動する事になったのは当然の成り行きだろう。

 

 そんな訳で、現在ハジメ達は消耗品を補充しながらお互いの事を話し合っていた。

 

「記録だと吸血鬼族は300年くらい前の戦争で滅んだって書いてあったんだが、その頃から生きてたのか?それとも、落ち延びた一族でもいたのか?」

 

「・・・私は、前者」

 

 パチンッ パチンッ

 

「・・・そうすると、ユエって少なくとも300歳以上なわけか?」

 

「・・・マナー違反」

 

 パチンッ パチンッ

 

 ユエが非難を込めたジト目でハジメを見る。女性に年齢の話はどの世界でもタブーらしい。ユエ自身、長年物音一つしない暗闇に居たため時間の感覚は殆ど無いそうだが、それくらい経っていてもおかしく無いと思える程には長い間封印されていたのだとか。20歳の時に封印されたというから、大体300歳ちょいである訳だ。

 

 パチンッ パチンッ

 

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」

 

「・・・私が特別。〝再生〟で歳もとらない・・・」

 

 パチンッ パチンッ

 

 聞けば12歳の時、魔力の直接操作や〝自動再生〟の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも200年くらいが限度なのだそうだ。因みに、人間族の平均寿命は70歳、魔人族は120歳、亜人族は種族によるらしい。エルフの中には何百年も生きている者もいるとか。

 

 パチンッ パチンッ

 

「・・・先祖返りで力に目覚めてから・・・私は数年で当時最強の一角になった・・・。戦争で得た功績で・・・17歳の時に吸血鬼族の王位にも就いた・・・」

 

「成る程。そりゃあんな魔法をほぼノータイムで撃てるんなら、最強と言われるのも当然だろうな。しかも、ほぼ不死身の肉体付きなら尚更だろ」

 

「・・・でも、裏切られた・・・」

 

 パチンッ パチンッ

 

 欲に目が眩んだユエの叔父は王位を簒奪すべく、彼女を化け物として周囲に浸透させ大義名分の下殺そうとしたらしい。だが〝自動再生〟により殺しきれなかった為、やむを得ずあの地下に封印したのだという。

 

 パチンッ パチンッ

 

「って事は、あのサソリモドキとか封印方法とか、どうやって奈落(ここ)まで連れてこられたかとかはーーー」

 

「・・・分からない。当時の私は、叔父の裏切りが信じられなかった・・・。本当に突然だったから・・・凄く混乱してて・・・気がついたら、あの部屋にいたから・・・」

 

「そうか・・・」

 

 パチンッ パチンッ

 

「「・・・・・・・・・」」

 

 チラリ、と2人の目線が音の発生源に向かう。先程から聞こえていた謎の音の主人(あるじ)である社は、何故か床に向かって一心不乱にデコピンをしていた。態々指を『呪力』で強化してまで、である。

 

「・・・お前は何してんだ、社」

 

「ん?ああ、ちょっとな。俺の事は気にせず話を続けてくれて良いぞ。内容自体は聞いてるからな」

 

「お前なぁ・・・」

 

 社の言葉に呆れる様にぼやくハジメ。この友人が時たま突拍子も無い事をするのは長い付き合いの中で知っている為、面倒臭くなったハジメは放置する事を決める。無意味な事をする性格でも無い為、「何があれば口に出すだろ」程度には信頼してもいるからだが。しかし、ここで意外な人物が口を挟む。

 

 パチンッ パチンッ

 

「・・・社は、私の事避けてる・・・?信用ならない・・・?」

 

 パチンッ

 

 ユエの言葉に、床を叩いていた音が止んだ。ハジメが社の方を見ると、当の本人は片目を閉じて眉を(ひそ)めながら、うなじに手を当てて考え事をしていた。微妙な沈黙が降りる中、数十秒その姿勢で固まっていた社が漸く目を見開いてユエの方を見る。

 

「正直に言えば、ユエさんにあまり近づかない様にはしている」

 

「・・・それは「でも、それはユエさんに原因がある訳じゃ無い」・・・?」

 

 社の言葉に悲しげに俯くユエ。自分が吸血鬼である事が受けつけ無いのか、それとも封印されていた身であるから簡単には信用出来ないのか。諦めずに新たに言葉を紡ごうとするユエだが、しかし被せる様に放たれた社の言葉を聞くと不思議そうに首を傾げた。アニメであれば頭上に見事なハテナマークが浮かんでいるだろう。

 

「原因と言うか、理由と言うか。何にせよ、ユエさんに非がある訳じゃ無いよ。様子を見て大丈夫そうなら普通に接するしね」

 

「・・・その理由は、聞いても良い・・・?」

 

「ん〜・・・」

 

 ユエの疑問に唸りながら考え込む社。社がユエとの接触を控えている理由は、主に2()()。■■関連の事情と、もう一つが社の()()に関する事情である。どちらも話す事自体に大きな抵抗があるわけでは無い。が、■■関連の話は雫には話しておらず、友達の方の事情は友人達の誰にも話した事は無かった。最も友達云々は話す機会が無かったと言うのもあるが。

 

(雫にも話してない事を知り合ったばかりのユエさんに話すのは、不義理な気もするが・・・。緊急時だし、しょうがないか。罪悪感もあるしなぁ)

 

 チラリと、ユエの方を見る社。ユエの目はジッと社の方を向いていた。相変わらず無表情にも見える顔には、若干の不安や悲しみが浮かんでいる様にも見える。

 

「OK、分かった。事情を話そう」

 

「・・・良いのか?」

 

「まぁ、しょうがない。話さない事で何かある方が嫌だしな。それに俺達はユエさんの事色々聞くのに、俺達だけ隠し事するのも公平(フェア)じゃないだろ」

 

 ハジメの言葉に、肩をすくめながら答える社。実際問題として、話す事で生じるデメリットは(社の思い付く限りでは)無い。これからどう転ぶにせよ、長い付き合いになるのは目に見えている。今の内に腹を割って話すのも悪い事では無い、と社は前向きに考える事にした。

 

「さて、まずは誤解を解くか。さっき近づかない様にしているって言ったが、厳密にはユエさんを避けてるんじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「・・・?どう違う・・・?」

 

 社の言葉に、更に困惑が深まるユエ。今まで殆ど無表情だったユエの顔に、ここに来て戸惑いが明確に表れていた。その顔を見た社は「そりゃそんな顔になるわな」と苦笑しながら、更に言葉を続ける。

 

「結論から言えば、俺は幼い頃に死んだ婚約者(フィアンセ)に呪われている。この呪いは基本的に無害なんだが、俺に強い危害が加えられそうになると俺の意思を無視して発動して、その元凶を排除しようとする。もし、仮にユエさんの吸血が〝強い危害〟と見做されたなら、最悪ユエさんが祟り殺されかねない」

 

「・・・!」

 

 社の言葉を聞き、驚愕に目を見開くユエ。彼女の予想通りの反応に苦笑しつつ、更に言葉を続ける社。

 

「とは言ったものの、■■ちゃんーーー呪いが俺の周りの人を故意に傷付けた事は無いから、心配しすぎだとは思うんだけどね。後は、()()()()()()()()色々あるんだけど、そんな感じだから俺から血を飲もうとするのは諦めてくれ。ハジメの血ならいくら飲んでも良いから」

 

「・・・分かった」

 

「オイコラ勝手に決めんな」

 

 社の言葉に納得したのか、素直に引き下がったユエ。因みに社が話さなかった方の理由に関しては、()()()()()()()()()()が絡んでいる。話す事自体に問題は無かったが、此方の世界では吸血鬼は滅んでいる為、その辺り説明がややこしくなるのを避ける為に話すのはやめた。面倒臭くなったとも言う。

 

「俺の事情はそんな所だ。だから、もし気になる様なら程々に距離を取る事をお勧めするぞ」

 

「・・・別に、気にしない。殺されたところで、再生するから・・・」

 

「おや本気(マジ)か。流石戦場(げんば)叩き上げの王族様は懐がデカいな」

 

 ユエの発言に今度は社が驚いた。今の言葉だけでなく、呪い関連の話を聞き終わった後も、ユエから社に悪意が向けられる事は無かったからだ。そのまま拒絶される事も想定していたので、■■(じつぶつ)を見せていないとは言えここまでキッパリと断言されるとは思っていなかった、というのが社の正直な感想である。

 

「ま、俺の事情に関してはそんなところだ。他に聞きたい事があれば、話せる範囲で話すよ。勿論俺達からも聞くけども」

 

「・・・ん。分かった・・・」

 

 社の話が終わった後は、ユエの力についても話を聞いた。それによるとユエは全属性に適性があるらしく、ほぼ無詠唱で魔法を発動できるそうだ。ほぼ、と言うのは癖で魔法名だけは呟いてしまうから、との事。魔法を補完するイメージを明確にするために何らかの言動を加える者は少なくないので、この辺はユエも例に漏れない様だ。〝自動再生〟については一種の固有魔法に分類できるらしく、()()()()()()()()()()()一瞬で塵にでもされない限り死なないらしい。つまり封印解除直後、長年の封印で魔力が枯渇していたユエはサソリモドキの攻撃を受けていればあっさり死んでいたという事になる。

 

「なんだ、そのチートは・・・」

 

「・・・でも、接近戦は苦手・・・。身体強化して逃げながら・・・魔法を連射するくらいしか、出来ない・・・」

 

「高機動・連射可能・破壊不能な魔法砲台とかどう対応しろと・・・?」

 

 ユエの話に呆れるハジメと社。幾ら近接戦が苦手だとしても、それを補って余りある程に魔法が強力無比なのだから大したハンデになっていない。対戦ゲームであれば即調整(ナーフ)ものである。

 

(しかし、話を聞くにユエさん相手でも、手を尽くせば殺し切る事は出来たはず。何で彼女の叔父は封印だけに留めたんだ?無駄に争って被害が大きくなる事を嫌ったのか、封印し続けて魔力が切れた頃にサソリモドキを投入するつもりだったのか、それとも他の思惑があったのか・・・)

 

「それで・・・肝心の話だが、ユエはここがどの辺りか分かるか?他に地上への脱出の道とかは?」

 

「・・・分からない。でも・・・この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

 

「「反逆者?」」

 

 ユエの唇から出た不穏な響きの言葉に思わず反応してしまうハジメと社。社の持った疑問をハジメが気付いていないというのは考え難いが、今はそれどころでも無いのだろう。思考を打ち切りユエの話に耳を傾ける社。ハジメもまた、錬成作業を中断してユエに視線を転じる。

 

「反逆者・・・神代に神に挑んだ神の眷属のこと。・・・世界を滅ぼそうとしたと伝わってる」

 

 ユエ曰く、神代に神に反逆し、世界を滅ぼそうと画策した7人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ彼等は世界の果てに逃走した。その果てというのが、現在の七大迷宮と言われているらしい。この【オルクス大迷宮】もその1つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。

 

「・・・そこなら、地上への道があるかも・・・」

 

「成る程。奈落の底からえっちらおっちら迷宮を上がってくるとは思えない。神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくないって事か」

 

「やっと希望が見えてきたな」

 

 齎された可能性に頬が緩むハジメと社。ユエの話を聞き終えた2人は、再びそれぞれの作業に戻る。ハジメは視線を手元に向けて錬成作業に入り、ユエはそんなハジメの様子をジーと見ている。

 

 パチンッ パチンッ

 

「いや、だからお前は何をしているんだ、社」

 

 指に『呪力』を流しながら、再び床にデコピンをし始めた社に対して、顔を上げたハジメがツッコミを入れた。流石に1度目はスルーしたが、未だ止めないところを見るに社の中ではそこそこ重要度が高い行為なのだろう。が、側から見れば奇行以外の何者でも無かった。ハジメを凝視していたユエの目も、不思議そうに社を捉えている。

 

「これか?〝黒閃(こくせん)〟の練習」

 

「あん?〝黒閃〟?何だそりゃ」

 

 鸚鵡返しのように耳に入った単語を口にするハジメ。社の持つ『術式』については、迷宮内で合流した際に大まかに内容や効果を聞いていた。今後作戦を練る時や連携を取る際に混乱しない様に、という配慮によるものだ。が、先の〝黒閃〟と言う単語はその時の話には出ていなかった。

 

「簡単に言えば、『呪術師』にとっての必殺技みたいなモンだ。俺もまだ出せた事は無いが、もしサソリモドキとの戦いの時に使えていればあの硬い甲殻もブチ抜けてたかもな。」

 

「「ーーー!」」

 

 社の言葉に息を呑むハジメとユエ。社自身は何でも無い様に言ってはいたが、ドンナーのレールガンでさえも軽く凌ぐ程の堅牢さを誇ったサソリモドキの甲殻を砕けるのであれば、正しく切り札になり得るだろう。

 

「そんな技が簡単に出来る様になるモンなのか?」

 

「正直、狙って出すのは不可能に近い。だが、これが出来れば間違い無く俺の火力も上がる。ハジメも火力不足を実感してるから()()造ってるんだろ?」

 

「まあな」

 

 社の言葉を肯定するハジメの手には、幾つかのパーツが握られていた。1mを軽く超える筒状の棒や、縦10cmはある赤い弾丸、その他細かな部品等々。これらはドンナーの威力不足を補うために開発した、ハジメの新たな切り札となる兵器だ。

 

「ーーー対物(AM)ライフル・レールガンVer、名付けて〝シュラーゲン〟!あのクソ忌々しいサソリモドキの甲殻を利用して作り上げる、化物銃と言っても過言では無い逸品だ!装弾数は1発と心許無いが、その弾丸はタウル鉱石の上にシュタル鉱石*1をコーティングしたフルメタルジャケット製!こいつが完成すれば理論上では最大出力のドンナーを裕に超えて、何と10倍の威力が出る計算だ!それに相応しいだけの反動も生まれるが、今の俺の肉体なら問題無ぇ。コイツがあれば、今ならサソリモドキでも蜂の巣にしてやれる!」

 

「そっかー。・・・で、コレは誰が持ち運ぶんですかね」

 

 早口で男の浪漫を語るハジメの言葉を軽く聞き流しつつ、社は肝心の部分を聞いてみる。今は作成途中と言うこともあり全容は見えてこないが、全長・重量共に間違い無く生半可な物では無いだろう。社の至極真っ当なツッコミに、突如固まって動かなくなるハジメ。

 

「・・・・・・〝影鰐〟で影の中に仕舞っておくとか出来ませんかね?」

 

「言うと思った。ま、構わんよ」

 

「ッシャァ!」

 

 社の許諾にガッツポーズを決めるハジメ。数刻前までの激闘が嘘の様な気楽な雰囲気を漂わせる2人に対して、思い出したかの様にユエから疑問の声が上がる。

 

「・・・ハジメと社、どうしてここにいる?」

 

「「・・・・・・・・・」

 

 ユエからのある種当然とも言える問いを聞き、顔を見合わせるハジメと社。ここは奈落の底。正真正銘、人外魔境である。魔物以外の生物が居て良い場所ではない。

 

 ユエからの疑問は、尽きる事は無い。何故、魔力を直接操れるのか。何故、固有魔法らしき魔法を複数扱えるのか。何故、魔物の肉を食って平気なのか。ハジメの左腕はどうしたのか。そもそも2人は人間なのか。ハジメが使っている武器は一体なんなのか。

 

「・・・良いな、社」

 

「勿論」

 

 社に確認を取り、ハジメはユエの疑問に1つ1つ答えていく。面倒そうな素振りも見せず、律儀にユエの話に付き合うハジメ。そんな様子を見て、社は密かに安堵していた。

 

(何だかんだ言っても、ハジメが優しいのは変わらんなぁ。甘過ぎる気がしないでも無いが、まぁ冷酷過ぎるよりは余程マシだろ)

 

 ツラツラとこの世界に来てから今に至るまでの経緯を話すハジメと、その話を一言一句聞き逃すまいと真剣に耳を傾けるユエ。2人を見ながら「意外と良いコンビなのかもなぁ」と心中で呟く社。やがて大凡の事情を話し終えると、いつの間にかユエの方からグスッと鼻を啜るような音が聞こえ出した。

 

「・・・ぐす・・・ハジメと社・・・つらい・・・私もつらい・・・」

 

 ハジメが流れ落ちる涙を拭きながら何事かと尋ねると、ユエはどうやらハジメと社のために泣いているらしい。ハジメは少し驚くと、表情を苦笑いに変えてユエの頭を撫でる。

 

「気にするなよ。もう檜山のことは割りかしどうでもいいんだ。そんな些事にこだわっても仕方無いし、何より社がケジメを着けてくれたからな。そんな事より、全員で生き残る術を磨いて、故郷に帰る方法を探す事に全力を注がねぇとな」

 

 スンスンと鼻を鳴らしながら、撫でられるのが気持ちいいのか猫のように目を細めていたユエが、故郷に帰るというハジメの言葉にピクリと反応する。

 

「・・・帰るの?」

 

「うん?元の世界にか?そりゃあ帰るさ。帰りたいよ。・・・色々変わっちまったけど・・・故郷に・・・家に帰りたい・・・」

 

「俺もゴタゴタを片付けて、さっさと帰りたいかなー」

 

「・・・そう」

 

 ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。

 

「・・・私にはもう、帰る場所・・・ない・・・」

 

「「・・・・・・」」

 

 そんなユエの様子に彼女の頭を撫でていた手を引っ込めると、ハジメはカリカリと自分の頭を掻いた。

 

(ハジメさんや、男の見せ所ですぜ?助けたのなら、最後まで面倒見るのが〝助けた側の責任〟てヤツだ)

 

(・・・分かってるさ、俺も腹を括る)

 

 社の言葉に意を決するハジメ。ハジメはユエが自分を新たな居場所として求めている事を薄々察していた。新しい名前をハジメに求めたのもそういう事だろう。だからこそ、ハジメと言う居場所を再び失う事をユエは悲しんでいるのだ。

 

「あ~、なんならユエも来るか?」

 

「え?」

 

 ハジメの言葉に驚愕を露わにして目を見開くユエ。涙で潤んだ紅い瞳にマジマジと見つめられ、なんとなく落ち着かない気持ちになったハジメは、若干早口になりながら告げる。

 

「いや、だからさ、俺の故郷にだよ。まぁ、普通の人間しか居ないーーー事も無い世界だし、戸籍やら何やら人外には色々窮屈な世界かもしれないけど・・・今や俺と社も似たようなもんだしな。どうとでもなると思うし・・・あくまでユエが望むなら、だけど?」

 

「何でそこで疑問系になるんだ、このヘタレめ」

 

「ウルセェ殺すぞ」

 

「ーーーいいの?」

 

 ハジメと社の軽口に挟む様に、ユエが尋ねる。遠慮がちではあったが、その瞳には隠しようもない期待の色が宿っていた。キラキラと輝くユエの瞳に、苦笑いしながらハジメは頷く。すると、今までの無表情が嘘のように、ユエはふわりと花が咲いたように微笑んだ。その笑顔に思わず見蕩れてしまうハジメ。暫くして、背後からニヤニヤと嫌らしい視線に気付くと慌てて首を振った。

 

「ヒューッ、良いねぇ。お前さんといい幸利といい、肝心な時に格好良く決めるのは流石の一言だなぁ?」

 

「良い加減黙れこのアホ!鬼の首取ったかの様に騒ぎやがって!」

 

「取ったのは吸血鬼の心臓(ハート)では?」

 

「微妙に上手い事言ってんじゃねぇ!ーーーもう良い、飯だ飯!さっさとサソリモドキとサイクロプスの肉喰うぞ!お前も手伝え社!」

 

「あいよー」

 

 話し合いが一段落した(させたとも言う)ハジメと社は、サイクロプスやサソリモドキの肉を焼いて食事の準備を始める。が、その手はすぐに止まった。理由はユエの食料事情についてである。

 

「・・・ユエが魔物肉食うのはマズイよな?いや、吸血鬼なら大丈夫なのか?」

 

「本人に聞こうぜ。ーーーと、言うわけだけどその辺りどうなのユエさん?」

 

「・・・食事()いらない」

 

 ハジメと社が揃って目線を向けると、ユエは首を振って答える。その言葉に一応の納得をするハジメだが、社は何となく発言に引っ掛かりを覚えた。

 

「・・・食事()?」

 

「・・・そう。それよりも、もっと美味しいもの・・・」

 

「ああー・・・」

 

 ユエはそう言って、真っ直ぐにハジメを指差す。感じ取った違和感が解消されて納得の声を上げる社。

 

「ああ、俺の血か。ってことは、吸血鬼は血が飲めれば特に食事は不要ってことか?」

 

「・・・食事でも栄養はとれる。・・・でも血の方が効率的」

 

 吸血鬼は血さえあれば平気らしい。ハジメから吸血したので、今は満たされている様だ。成る程、と納得しているハジメと社だが、何故かユエがペロリと舌舐りをしている。その視線は、先程からハジメの方を見つめたまま微動だにしない。

 

「・・・何故、舌舐りする」

 

「・・・ハジメ・・・美味・・・」

 

「び、美味ってお前な、俺の体なんて魔物の血肉を取り込みすぎて不味そうーーーおい、社。テメェどこ行くんだ」

 

「オイオイ、友人の気遣いを無駄にするなよ。今からユエさんが食事するってんだから、席を外してやろうと思っただけさ」

 

「ふざけんな!体よく逃げただけじゃねーか!」

 

「・・・ハジメの血は、熟成の味・・・」

 

「待てユエ落ち着け」

 

「うーん、何故だか背徳的な雰囲気が凄い。見た目は幼いからだろうか」

 

「冷静に分析してんじゃねーよ馬鹿!」

 

 ユエも交えてギャアギャアと騒ぎ合うハジメと社。火を囲んで各々の食事を取りながら、3人は親睦を深め合うのであった。

 

 

 

 

 

「今だから言うけど、一般に公表されてないだけで俺たちの世界にも吸血鬼はいるぞ」

 

「何ィ!?」

*1
魔力との親和性が高く、魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石。サソリモドキから剥ぎ取れた物。〝錬成〟が効いた為、そこに気付ければもっと楽にサソリモドキを殺せた事実は3人を大いに凹ませた。




基本的に無害(当社比・個人の感想)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。