ありふれない怨霊こそ世界最愛 作:白紙
「だぁー、ちくしょぉおおー!」
「・・・ハジメ、ファイト・・・」
「ユエさんってば大分気楽だね!?」
現在、ハジメはユエを背負いながら、社と共に猛然と草むらの中を走っていた。周りは160㎝以上ある雑草が生い茂り、ハジメの肩付近まで隠してしまっている。ユエなら完全に姿が見えなくなっているだろう。
「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」
そして、必死に逃走するハジメと社の背後には、彼らに追いすがんとする200近い数の魔物が迫っていた。
ハジメ達が準備を終えて迷宮攻略に動き出した後、10階層程は順調に降りることが出来た。ハジメ達の装備が充実してきた事や、〝技能〟の熟練度が上がってきたというのも理由の一つではあるが、最も大きな要因はユエの魔法が凄まじい活躍を見せた事だろう。
全属性の魔法をなんでもござれとノータイムで使用し、的確にハジメと社を援護する。魔法の手段が乏しいを通り越して皆無であった2人にとって、ユエの魔法は痒い所に手が届く有難いものであったのだ。〝自動再生〟により無意識に不要と判断しているからか、回復系や結界系の魔法はあまり得意ではないらしいが、社の『呪力反転』や〝神水〟があるので何の問題にもなっていない。
そんなこんなで3人が降り立ったのが現在の階層である。10mを超える木々が
問題が発生したのはハジメ達が階下への階段を求めて探索していた時だった。突然、ズズンッという地響きが響き渡り、何事かと身構える3人の前に巨大な爬虫類を思わせる魔物が現れた。見た目は完全にティラノサウルスであったのだが、何故か頭に一輪の可憐な花を生やしていた。
「・・・うん?」
鋭い牙と
「〝緋槍〟」
ユエの手元に現れた炎は渦を巻いて円錐状の槍の形をとり、一直線にティラノの口内目掛けて飛翔。そのまま頭を貫通し、周囲の肉を容赦なく溶かして一瞬で絶命させた。地響きを立てながら横倒しになるティラノ。そして、頭の花がポトリと地面に落ちた。
「・・・今の俺達って世間一般で言う役立たずとか、ヒモってやつなのでは?」
「言うな社。悲しくなる」
社のしみじみとした言葉に思わず遠い目をしてしまうハジメ。ここの所、ユエ無双が激しい。最初はハジメや社の援護に徹していたはずだが、何故か途中から2人に対抗する様に先制攻撃を仕掛け魔物を瞬殺するのだ。その為、ハジメと社は最近出番がめっきり減っていた。
「あ~、ユエ?張り切るのはいいんだけど・・・最近、俺達あまり動いてない気がするんだが・・・」
ハジメは抜きかけのドンナーをホルスターに仕舞い直すと、苦笑いしながら話しかける。肝心のユエはと言うと、2人の方を振り返って無表情ながらどこか得意げな顔をしていた。
「・・・私、役に立つ。・・・
「いやぁ愛されてるねぇハジメ。やっぱりあの時口説いたのが決め手だったか」
「そんな意図はねぇよ!」
社の
「・・・目下のライバルは、社。・・・負けない・・・」
「ほぉ・・・。俺も負けてはいられんな!」
「社は悪ノリしてユエを煽んな!ユエももう十分に役立ってるって。魔法が強力な分、接近戦は苦手なんだから後衛を頼むよ。前衛は俺達の役目だ」
「・・・ハジメ・・・ん」
ハジメに注意されてしまい若干シュンとするユエ。どうにもハジメの役に立つ事にこだわり過ぎる嫌いのあるユエに苦笑いしながら、ハジメは彼女の柔らかな髪を撫でる。それだけで、ユエはほっこりした表情になって機嫌が戻ってしまうのだから、ハジメとしてはもう何とも言えない。
「大分手慣れてきたなハジメ。やはりお前さんにはタラシの才能があったか」
「やはりってなんだ、やはりって」
社の軽口に答えながらも、ユエを撫でるのを止めないハジメ。ユエに懐かれる事自体はハジメも悪い気はしないものの、依存して欲しいわけではないので所々で注意が必要だろう、と気を引き締める。
「さて、イチャイチャしてる所悪いが団体客のお出ましだ」
「ああ、こっちも感知した。 」
2人がイチャついていると、まず社の〝悪意感知〟に、次いでハジメの〝気配感知〟に続々と魔物が集まってくる気配が捉えられた。数は凡そ10体程、統率の取れた動きで取り囲むようにハジメ達の方へ向かってくる。
「囲まれる前に突破する。社!」
「あいよ。殿は任せな!」
数的不利を覆す為、ハジメ達はすぐに移動を決意する。自分達を円状に包囲しようとする魔物に対して突破口を開く為、ハジメはその内の1体目掛けて自ら突進。生い茂った木の枝を払い除け飛び出した先には、体長2m強の爬虫類、例えるならラプトル系の恐竜の様な魔物がいた。但し、頭からチューリップのような花をひらひらと咲かせていたが。
「・・・かわいい」
「・・・流行りなのか?」
「・・・ん〜?」
ユエが思わずほっこりしながら呟けば、ハジメはシリアスブレイカーな魔物にジト目を向け、有り得ない推測を呟く。社はと言うと、先程から謎の違和感が拭えずしきりに首を傾げていた。
「シャァァアア!!」
ラプトルが花に注目して立ち尽くすハジメ達に飛びかかる。その強靭な脚には20cmはありそうなカギ爪が付いており、ギラリと凶悪な光を放っていた。
「散開!」
社の言葉と同時、3人はばらける様に飛び退き回避する。それだけでは終わらず、ハジメは 〝空力〟を使って三角飛びの要領でラプトルの頭上を取ると、そのまま頭のチューリップを撃ち抜いてみた。
ドパンッという発砲音と同時に頭上の花が四散する。ラプトルは一瞬ビクンと痙攣したかと思うと、着地を失敗してもんどり打ちながら地面を転がり、樹にぶつかって動きを止めた。静寂が辺りを包みこむ中、ユエもトコトコとハジメの傍に寄ってきてラプトルと四散して地面に散らばるチューリップの花びらを交互に見やった。
「・・・死んだ?」
「いや、生きてるっぽいけど・・・」
ハジメの見立て通り、ピクピクと痙攣した後ラプトルはムクッと起き上がり辺りを見渡し始めた。そして、地面に落ちているチューリップを見つけるとノッシノッシと歩み寄り親の敵と言わんばかりに踏みつけ始めた。
「え~、何その反応、どういうこと?」
「・・・イタズラされた?」
「そんな背中に張り紙つけて騒ぐ小学生じゃ「いや、ユエさんの当たりかもだ」・・・嘘だろ?」
ユエの冗談とも取れる発言を社が肯定した事に半信半疑のハジメ。一方のラプトルは一通り花を踏みつけて満足したのか、喜びを表すかの様に天を仰ぎ鳴き声を上げた。そして、ふと気がついたようにハジメ達の方へ顔を向けビクッとする。
「今気がついたのかよ。どんだけ夢中だったんだよ」
「・・・やっぱりイジメ?」
「結果的にはイジメにもなってるな」
ハジメがツッコみ、ユエと社が同情したような眼差しでラプトルを見る。ラプトルは暫く硬直したものの、直ぐに姿勢を低くし牙をむき出しにして唸ると一気に飛びかかってきた。
ドパンッ!
お馴染みの発砲音と共に、ハジメの構えたドンナーから電磁加速されたタウル鉱石の弾丸が放たれた。弾丸は一筋の閃光となって大きく開かれたラプトルの口内に命中、後頭部を粉砕しそのまま頭部を貫くと背後の樹すら貫通して樹海の奥へと消えていった。
「ホント、一体なんなんだ?」
「・・・イジメられて、撃たれて・・・哀れ」
「いや、イジメから離れろよ。絶対違うから。で、一体どういう事だ、社?」
跳躍の勢いそのままにズザーと滑っていく絶命したラプトル。ユエが何とも言えない顔でラプトルの死体を見やり、ハジメは社に疑問を投げかける。魔物達による包囲網が狭まってきていたので移動しつつ、だが。
「あのラプトルからはどういう訳か、2体分の悪意が感じられた。1つは間違い無くラプトルのものだったけどな。で、ハジメが花を撃ち抜いた際にもう片方の悪意が消えたんだよ」
「・・・つまり・・・?」
「ラプトルを操るなり、指示するなりしている奴がいるって話だろ」
「多分な。で、どうする?」
「何方にせよこのまま逃げてたら埒が開かねぇ。迎え撃つまでだ」
迫り来るラプトル達から逃げながら、今後の方策を出し合うハジメ達。程なくして直径5mはありそうな太い樹が無数に伸びている場所に出た。隣り合う樹の太い枝同士が絡み合っており、まるで空中回廊のようだ。
ハジメと社は〝空力〟で、ユエは風系統の魔法で頭上の太い枝に飛び移る。ハジメ達はそこで頭上から集まってきた魔物達を狙い撃ちにし殲滅するつもりだ。
ハジメ達が木の上に陣取ってから、5分もかからず眼下に次々とラプトルが現れ始めた。3人は各々の方法で迎撃しようとするが、しかし魔物達の数が増えていくのを見るにつれ、その動きは固まっていく。
「ーーーなんでどいつもこいつも花つけてんだよ!」
「・・・ん、お花畑」
「しかも見た感じ全部違う種類の花じゃないか?お洒落さんかよ」
「2人とも呑気過ぎだろ!」
ハジメ達の言う通り、現れた10体以上のラプトルは全て頭に花をつけていた。思わずツッコミを入れてしまったハジメの声に反応して、ラプトル達が一斉にハジメ達の方を見た。そして、そのまま襲いかかろうと跳躍の姿勢を見せる。
「これでも喰らってろ!」
「〝
「〝緋槍〟」
ハジメは〝焼夷手榴弾〟を投げ落とすと同時に、その効果範囲外にいるものから優先してドンナーで狙い撃ちにしていく。社も〝
そしてきっかり3秒後、群れの中央で〝焼夷手榴弾〟が爆発し、3000℃の燃え盛るタールが飛び散り周囲のラプトルを焼き尽くしていった。この階層の魔物にも十分に効いているようだとハジメは胸を撫で下ろす。やはり、あのサソリモドキが特別強かったらしい。結局10秒もかからず殲滅に成功した。
「これで一先ずは終わりか」
「いや、寧ろここからが本番だ。」
「あん?何だとーーーマジかよ!」
ハジメが緊張を解こうとしたその時、社の〝悪意感知〟が再び魔物達の敵意を捉えた。全方位からおびただしい数の悪意が向けらており、〝気配感知〟で更に詳細を調べようとする2人。ハジメと社の〝気配感知〟範囲は20mといったところだが、その範囲内において既に捉えきれない程の魔物が一直線に向かってきていた。
「ユエ、ヤバイぞ。30、いや40以上の魔物が急速接近中だ。まるで誰かが指示してるみたいに全方位から囲む様に集まってきやがる。やっぱり、黒幕が居やがるな」
「・・・逃げる?」
「俺とハジメが先陣切れば無理矢理押し通れはするが、なぁ」
「この密度だと振り切るのも一苦労だ。一番高い樹の天辺から殲滅するのがベターだろ」
「ん・・・特大のいく」
「おう、かましてやれ!」
「俺は広範囲攻撃無いから、こういう時はユエさんが羨ましいなー」
相談した3人は高速で移動しながら周囲で一番高い樹を見つける。そして、その枝に飛び乗り、眼下の足がかりになりそうな太い枝を砕いて魔物が登って来にくいようにした。
ハジメと社はそれぞれの得物を構えながら静かにその時を待つ。と、ユエがそっとハジメの服の裾を掴む。手が塞がっているので、ハジメは代わりに少しだけ体を寄せてやると、ユエの掴む手が少し強くなった。それを見た社がニヤニヤとし始めたがハジメは無視した。
「来たな」
「ああ。ラプトルだけじゃねぇ、ティラノもいるな」
そして第1陣が到着する。ティラノはハジメ達の居る樹に体当たりを始め、ラプトルは器用にカギ爪を使ってヒョイヒョイと樹を登ってくる。
ドパパパパンッ
シャリリリン
そんな魔物達を歓迎するかの様に、破裂音と金属が擦れ合う様な音が連続で聞こえた。その音に追随する様に放たれた紅い閃光と見えない斬撃は、眼下の魔物達を鏖殺せんと降り注ぐ。紅い尾を引く弾丸は樹にしがみついていたラプトルを次々と撃ち抜き、不可視の銀閃はギロチンの様にティラノの首を落としていく。
「随分と器用なことするな、ハジメ」
「伊達に隻腕になってねぇよ」
ドンナーの弾切れ手前で〝焼夷手榴弾〟を投合、爆発した直後にドンナーからシリンダーを露出させると、クルリと手元で一回転させ排莢し、左脇に挟んで装填。そして、再度ドンナーを連射する。流れる様な一連の動きを片手で熟すハジメを見て、驚嘆の声を上げる社。褒められたハジメはぶっきらぼうな口調で返すが満更でも無い様だ。
「・・・俺のリロードはレボリューションだ!って「言わん」ちぇー」
しょうもない軽口を叩き合う2人だが、その手が止まる事は無い。既に20体は屠ったハジメ達だが、その事実にも特に満足感は無い。眼下には30体を超えるラプトルと4体のティラノがひしめき合い、ハジメ達のいる大木をへし折ろうと、或いは登って襲おうと群がっているからだ。
「ハジメ?」
「まだだ・・・もうちょい」
ユエの呼び掛けにラプトルを撃ち落としながら答えるハジメ。ユエはハジメを信じてひたすら魔力の集束に意識を集中させる。そして遂に、眼下の魔物が総勢50体を超え、事前の〝気配感知〟で捉えた魔物の数に達したと思われたところでハジメはユエに合図を送った。
「ユエ!」
「んっ!〝
ユエが魔法のトリガーを引いた瞬間、ハジメ達のいる樹を中心に眼下が一気に凍てつき始めた。ビキビキッと音を立てながら瞬く間に蒼氷に覆われていき、魔物に到達すると花が咲いたかのように氷がそそり立って氷華を作り出していく。
魔物達は一瞬の抵抗も許されずに、その氷華の
「おぉ〜・・・壮観だな。ユエさんお見事」
「はぁ・・・任せて・・・はぁ・・・」
「お疲れさん。流石は吸血姫だ」
周囲一帯、まさに氷結地獄と化した光景を見て混じりけのない称賛をユエに贈るハジメと社。ユエは最上級魔法を使った影響で魔力が一気に消費されてしまい肩で息をしている。恐らく酷い倦怠感に襲われている事だろう。
ハジメは傍らでへたり込むユエの腰に手を回して支えながら、首筋を差し出す。吸血鬼としての種族特性なのか、神水よりも血を飲ませた方が遥かに魔力回復の効率が良いのだ。
ユエはハジメ達の称賛に僅かに口元を綻ばせながら照れたように「くふふ」と笑いをもらし、差し出された首筋に頬を赤らめながら口を付けようとした。
「ハジメ。ユエさんに血を飲ませながらで良い、ここから離れるぞ」
「あ?今度は何だーーー!!」
だが、それを急かす様に社がハジメに促す。怪訝な顔をするハジメだが、社の言葉の意味は即座に理解出来た。ハジメの〝気配感知〟が更に100体以上の魔物を捉えたからだ。
「さっきの倍か。幾ら何でもおかしい。たった今、全滅したって言うのにまた特攻・・・確定だな」
「・・・寄生」
「ユエさんも同意見か」
ハジメと社の推測を肯定するようにユエがコクンと頷く。ラプトル達の特攻は、自分達の生死を明らかに度外視したものだった。
「・・・本体がいるはず」
「だな。あの花を取り付けているヤツを殺らない限り、俺達はこの階層の魔物全てを相手にすることになっちまう。さっさと本体を探し出さないと「本体の居場所ならついさっき分かったぞ」ーーーはぁ!?」
社の発言に驚きの声を上げるハジメ。ユエも声には出さないものの、両目を見開いて驚いていた。
「俺達が魔物を一掃したのが大層お気に召さなかったらしい。さっきまであやふやだった本体らしき奴からの悪意が、明確に増した。さっきよりも本腰入れて俺達を殺しにかかるだろうがーーー」
「ーーーさっさと本体を叩いちまえば良いって事だ」
「そう言う事」
ハジメ達は物量で押しつぶされる前に、魔物達を操っているのであろう黒幕の下へ向かう事を決意する。今の状況では、とてもでは無いが階下探しなどしていられないからだ。幸い社の〝悪意感知〟で本体の居場所に目星はついている為、後はそこまで真っ直ぐ進むだけである。
座り込んでいるユエに吸血させている暇は無いので、ハジメは代わりに神水を渡そうとする。しかし、ユエは何故かそれを拒んだ。訝しむハジメに向けて、ユエは両手を伸ばして言う。
「ハジメ・・・だっこ・・・。」
「お前はいくつだよ!まさか吸血しながら行く気か!?つーか社は他人事だと思って笑ってんじゃねーよ!」
「ウワハハハハ!いや、だって他人事だしな!アハハハハ!」
「・・・だっこ・・・」
「コイツ等はぁ・・・!!」
高笑いする社を他所に、ユエのお願いについて吟味するハジメ。確かに不測の事態に備えるならば、神水よりも効率の良い吸血で回復させるのは悪い手では無い。しかし、自分が必死に駆けずり回っている時にチューチューされるという構図に若干抵抗を感じるハジメ。背に腹は替えられないと分かってはいるが・・・。
「ええい、ままよ!」
「・・・ハジメ・・・素敵・・・」
「良いぞー、ブフッ、それでこそだ、クヒヒッ」
「社は後で覚えておけよ・・・!」
結局了承してユエをおんぶしたハジメは、社に笑われながら本体探しに飛び出していった。
そして冒頭に戻る。ハジメ達は現在、200近い魔物に追われていた。草むらが鬱陶しいと、吸血は済んでいるのにユエはハジメの背中から降りようとしない。
ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!
背後からは地響きを立てながら魔物が迫っている。背の高い草むらに隠れながらラプトルが併走し四方八方から飛びかかってくる。それを迎撃しつつ、社の先導で本体が居ると考えられる場所に向かいひたすら駆けるハジメ。背中のユエも魔法を撃ち込み致命的な包囲をさせまいとする。
カプッ、チュー
「方向は合ってるみたいだな!妨害が激しくなってるのが良い証拠だ!」
「
社も〝
カプッ、チュー
「・・・ハジメに背負われながら飲む血は美味しいかい、ユエさん?」
「・・・風を感じながら、血を飲むのも・・・
「ユエさん!?さっきからちょくちょく血を吸うの止めてくれませんかね!?」
こんな状況にもかかわらず、ハジメの血に夢中のユエ。元王族なだけあって肝の据わりかたは半端ではないらしい。
「・・・不可抗力」
「嘘だ!ほとんど消耗してないだろ!クッ、社!式神で分身出してユエを運べ!」
「いや、ユエさんの魔法に頼る以上、魔力切れを起こさない為にも今のままがベストだと思うぞ。」
「クソッ、こんな時だけ正論吐きやがって・・・!」
「・・・社(グッ)」/「任せてくれ(グッ)」
「示し合わせたかの様にサムズアップしてんじゃねーよ!いつの間に話つけたんだお前等はぁ!!!」
そんな風に戯れながらもきっちりと迎撃しつつ、ハジメ達は200体以上の魔物を引き連れたまま縦割れに飛び込んだ。
縦割れの洞窟は大の大人が2人並べば窮屈さを感じる狭さだった。ティラノは当然通れず、ラプトルでも1体ずつしか侵入できない。何とかハジメ達を引き裂こうと侵入してきたラプトルの1体がカギ爪を伸ばすが、その前にハジメのドンナーが火を噴き脳天を吹き飛ばした。そして、すかさず錬成し割れ目を塞ぐ。
「ふぅ~、これで取り敢えず大丈夫だろう」
「おう、お疲れさま」
「本当にな!ユエもそろそろ降りてくれねぇ?」
「・・・むぅ・・・仕方ない」
ハジメの言葉に渋々、本当に渋々といった様子でハジメの背から降りるユエ。余程、ハジメの背中は居心地が良かったらしい。
「さて、あいつらやたら必死だったからな、ここでビンゴだろ。油断するなよ?」
「ん」
「分かってるさ」
錬成で入口を閉じたため薄暗い洞窟を3人は慎重に進む。しばらく道なりに進んでいると、やがて大きな広間に出た。広間の奥には更に縦割れの道が続いており、恐らくあの奥が階下に繋がっているのだろう。2人の〝気配感知〟に敵の姿は映らないが、気配を殺せる魔物もザラにいる為に油断は禁物である。
「来るぞ!2人とも気を付けろ!」
ハジメ達が部屋の中央までやってきた時、社が叫んだ。その声にハジメとユエが構えたのと、全方位から緑色のピンポン玉のようなものが無数に飛んできたのはほぼ同時だった。
「〝
ハジメ達は一瞬で背中合わせになり、飛来する緑の球を迎撃する。優に100を超える数の攻撃に対して、社は〝
「威力自体は大した事無さそうだな。」
「ああ。こいつは恐らく本体の攻撃だ。2人は本体が何処に居るか分かるか?」
「この広間の更に奥側。そこから悪意が来てるから、十中八九そこだろうな」
2人に本体の位置を把握できるか聞いてみるハジメ。社は言わずもがな〝悪意感知〟による逆探知が、ユエは吸血鬼の鋭い五感による索敵と、ハジメとは異なる観点で有用な能力を持っているのだ。
「よし、それじゃ片付けるか。・・・ユエ?」
「ーーー離れろハジメ!」
しかし、ハジメの質問にユエは答えない。訝しみユエの名を呼ぶハジメだが、ユエからの返答よりも速く、社がハジメの腕を掴んでその場から離れた。
ヒュバッ!
社がハジメと共にユエから離れた直後、空気を切り裂く音と共に2人が居た場所を強力な風の刃が通り過ぎる。驚きながらも体勢を立て直したハジメが目にしたのは、自分達が居た場所に向け魔法を放った直後のユエの姿だった。
「ユエ!?」
「・・・寄生されたか」
まさかの攻撃にハジメは驚愕の声を上げるが、ユエの頭の上にあるものを見て事態を理解する。ユエの頭の上にも、ラプトル達の様に花が咲いていたのだ。皮肉にもユエ本人によく似合う真っ赤な薔薇が。
「くそっ、さっきの緑玉か!?」
「面倒だな」
ハジメは自身の迂闊さに自分を殴りたくなる衝動を堪えながら、社は現状をどうやって打開するかを冷静に考えながら、ユエの風の刃を回避し続ける。
「ハジメ・・・社・・・うぅ・・・」
「意識があるのか?肉体の主導権だけ奪われるタイプか」
「何方でも構わねぇよ、花を撃てば終いだ」
ユエが無表情を崩し悲痛な表情をする。それを見た社は敵の特性に当たりを付け、ハジメはユエの花に狙いを付けると引き金に指を掛ける。
「チッ、厄介だな」
「ま、そう来るよな」
が、発砲できない。敵はユエを操ると、花を庇う様に動かし始めたのだ。偏差射撃も出来なくは無いだろうが、外せばユエの顔面を吹き飛ばしてしまう。ならばと、社は直接花を切り落とすべく接近しようとすると、突然ユエが片方の手を自分の頭に当てるという行動に出た。言外に、近づけばユエ自身を自らの魔法の的にすると警告しているのだろう。
「・・・やってくれるじゃねぇか・・・」
「・・・」
ハジメは悪態を吐き、社は黙り込むとスッと目を細める。ユエは確かに不死身に近い。が、それも己の魔力ありきだ。上級以上の魔法を使い一瞬で塵にされてなお〝再生〟出来るかと言われれば、否定せざるを得ないだろう。そしてユエは、最上級魔法ですらノータイムで放てる。特攻など分の悪そうな賭けは避けたいところだ。
2人の
「うわキモッ」
「性格の悪さがそのまま外面に出てるな」
思わず感想が口から漏れてしまうハジメと社。確かに見た目は人間の女性なのだが、内面の醜さが反映されている様に醜悪な顔をしており、無数のツルが触手のようにウネウネとうねっていて実に気味が悪い。その口元は何が楽しいのかニタニタと笑っている。
ハジメはすかさずエセアルラウネに銃口を向ける。しかし、ハジメが発砲する前にユエが射線に入って妨害する。社が刀を抜こうとしても、その瞬間にユエが自らの手を頭に当てて牽制する。
「2人とも・・・ごめんなさい・・・」
悔しそうな表情で歯を食いしばっているユエ。自分が足手まといになっていることが耐え難いのだろう。口は動く様で、謝罪しながらも引き結ばれた口元からは血が滴り落ちている。鋭い犬歯が唇を傷つけているのだ。悔しいためか、呪縛を解くためか、或いはその両方か。
ユエを盾にしながらエセアルラウネは緑の球をハジメと社に打ち込む。ハジメはドンナーで、社は拳でそれぞれ球を打ち払う。球が潰れ、目に見えないが花を咲かせる胞子が飛び散っているのだろう。
しかし、ユエのようにハジメの頭に花が咲く気配は無い。ニタニタ笑いを止め怪訝そうな表情になるエセアルラウネ。ハジメと社には胞子が効かないらしい。
(多分、耐性系の技能のおかげだろうな。・・・社は体質もあるのかも知れんが)
(俺はともかくハジメにも効かないとなると、この胞子は分類的には毒なのかね)
2人の推測通り、エセアルラウネの胞子は一種の神経毒である。そのため、〝毒耐性〟によりハジメと社には効果がないのだ。つまり、ハジメ達が助かっているのは全くの偶然で、ユエを油断したとは責められない。ユエが悲痛を感じる必要は無いのだ。
エセアルラウネはハジメ達に胞子が効かないと悟ったのか、不機嫌そうにユエに命じて風の刃を発動させる。ラプトル達の動きが単純だったことも考えると操る対象の実力を十全には発揮できないのかもしれない。
(不幸中の幸いだがーーー)
(人質取られた時点で、こうなるのは目に見えてたな)
「「〝金剛〟」」
2人が風の刃を回避しようとすると、エセアルラウネはこれみよがしにユエの頭に手をやる。
〝金剛〟は魔力を体表に覆うように展開し固めることで、文字通り金剛の如き防御力を発揮する技能である。まだ未熟な為、恐らくサイクロプスの10分の1程度の防御力だが、風の刃も鋭さはあっても威力は無いので凌げている。社に至っては素の防御力が桁違いの為に痛みすら感じていない様だ。
「で、どうするんだ。やり辛いなら俺がやるが」
「んー・・・後が怖いしな・・・。焼夷手榴弾でも投げ込むか?」
式神を呼び出しながら告げる社に、ハジメは後が怖いと言いつつ物騒な事を言い出す。2人がこの状況を打開すべく小声で相談していると、ユエが悲痛な叫びを上げる。
「2人とも!・・・私はいいから・・・やって!」
「あ」
何やら覚悟を決めた様子でやってと叫ぶユエ。2人の足手まといになるどころか、攻撃してしまうぐらいなら自分ごと撃って欲しい、そんな意志を込めた紅い瞳が真っ直ぐ2人を見つめる。が、オチが見えた社は思わず声を上げた。
「え、いいのか?助かるわ」
ドパンッ!!
ユエの言葉を聞いた瞬間、何の躊躇いもなく引き金を引いたハジメ。銃声が響き渡った後には、広間を冷たい空気が漂い静寂が支配する。そんな中、くるくると宙を舞っていたバラの花がパサリと地面に落ちた。
ユエとエセアルラウネが揃って目をパチクリとする。両者共に、何が起きたのか分かっていない様だ。ユエは分かりたくないだけかも知れないが。
ユエがそっと両手で頭の上を確認するとそこに花はなく、代わりに縮れたり千切れている自身の金髪があった。エセアルラウネも事態を把握したのか、どこか非難するような目でハジメを睨むがーーー。
シャリン
社が居合抜きすると同時、〝
「で、ユエ、無事か?違和感とか無いか?」
気軽な感じでユエの安否を確認するハジメ。だが、ユエは未だに頭をさすりながらジトっとした目でハジメを睨む。
「・・・撃った」
「あ?そりゃあ撃っていいって言うから」
「・・・ためらわなかった・・・」
「そりゃあ、最終的には撃つ気だったし。狙い撃つ自信はあったんだけどな、流石に問答無用で撃ったらユエがヘソ曲げそうだし、今後のためにならんだろうと配慮したんだぞ?」
ハジメとしては、操られた状態では上級魔法を使用される恐れが低いと分かった時点でユエに対する心配は殆どしていなかった。ユエの不死性を超える攻撃などそうそう無いからだ。
しかし、躊躇い無く撃ってギクシャクするのも嫌だったので、戦闘中に躊躇うという最大の禁忌まで犯して堪えたのだ。それなのに一体何がそんなに不満なのかとハジメは首を傾げる。その様子を見てますますヘソを曲げ、ユエはプイッとそっぽを向いてしまった。
「・・・ちょっと頭皮、削れた・・・かも・・・」
「まぁ、それくらいすぐ再生するだろ?問題無し」
「うぅ~・・・」
ユエは「確かにその通りなんだけど!」と言いたげな顔でハジメのお腹をポカポカと殴る。確かに撃てと言ったのは自分であり、足手纏いになるぐらいならと覚悟を決めたのも事実だ。だが、ユエとて女。多少の夢は見る。せめてちょっとくらい躊躇って欲しかったのだ。いくらなんでも、あの反応は軽すぎると不満全開で八つ当たりする。
「まぁ何だ、頑張って機嫌取るんだな、色男?」
「ふざけんな、お前も同罪だろうが!?」
「俺が狙ったのはエセアルラウネの方でーす。ユエさんの事は狙ってませーん」
「その言い訳は汚ねぇぞ!さっきもやり辛ければ俺がやるって言ってたじゃねーか!」
「はて、記憶にございませんなぁ。気の所為では?」
「テメェ・・・!」
あくまでもしらばっくれる社に対して、額に青筋を浮かべるハジメ。社としても、ユエに配慮してエセアルラウネを斬らない、と言う選択肢は初めから頭には無かった。すぐ様行動に移さなかったのは、ハジメと同時に動くタイミングを見計らっていただけである。そうなった経緯は異なれど、躊躇や容赦の無さ等の戦いに対する心構えは非常に良く似た2人。或いは、そういった部分が有るからこそ、奈落に堕ちた後も変わらずに友誼を結べているのかも知れない。
「はぁ・・・。もう良い、これ以上お前に構ってたら、またユエが拗ねちまう。どうやってご機嫌取りするかね・・・?」
「アッハッハ、世界が変わってもこういう問題は尽きないもんだな」
「笑ってないでお前も考えるんだよ
笑う社を引っ叩きながら、ハジメはどうやってユエの機嫌を直すか思案し始める。それは、エセアルラウネの攻略より遥かに難しそうだった。