ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

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27.最奥のガーディアン

 エセアルラウネの寄生花を問答無用で撃ち抜き、ユエの機嫌を損ねた日から随分経った。あの後、気絶するまで血を吸われたハジメはその甲斐あって何とかユエの機嫌を直すことに成功し、再び迷宮攻略に勤しんでいた。

 

 そして遂に、次の階層でハジメが最初にいた階層から100階目に当たるところまで来た。その1歩手前の階層でハジメ達は装備の確認と補充をしている所である。

 

「さて、いよいよ通算100階目まで来た訳だが。今のお気持ちをお聞かせ下さいハジメ君?」

 

「もう良い加減陽の光が恋しいんだが?」

 

「わーお目が笑ってない。全面的に同意するけども。そう言えば、ユエさんって陽の光とか大丈夫なの?俺の世界の吸血鬼は、種族と言うか氏族によってその辺バラバラだったけど」

 

「・・・問題無い・・・」

 

 社の疑問に答えながらも、ハジメの作業をーーーと言うよりかは作業をしているハジメを見つめているユエ。今もハジメのすぐ隣で手元とハジメを交互に見ながらまったりとしており、その表情も迷宮には似つかわしく無い程に緩んでいる。

 

「いやぁお熱いねぇ。良いよ良いよー、そう言うのもっと頂戴」

 

「ええい、喧しい。作業中位は静かにしてろ」

 

 最近、ユエはハジメに露骨に甘えてくる様になっていた。特に顕著(けんちょ)なのが拠点で休んでいる時で、暇さえあれば必ずと言って良い程にハジメに密着していた。横になれば添い寝の如く腕に抱きつき、座っていれば背中から抱きつく。吸血させる時はハジメと正面から抱き合う形になるのだが、終わった後も中々離れようとせず、ハジメの胸元に顔をグリグリと擦りつけ満足げな表情で寛ぐのだ。

 

「ハジメってば、ユエさんにここまで擦り寄られてドキドキしないの?と言うか、ぶっちゃけムラムラしないの?」

 

「するかボケェ!見た目完全にOUTだろうが!」

 

「・・・むぅ・・・」

 

 社の問いに思わず叫ぶハジメ。幾ら歳上とは言え、ユエの外見は12、3歳相当である。元の世界で言えば、ギリギリ中学生に成るか成らないかと言った所。そんな相手に欲情したと知られれば弄られるのは目に見えている為、ハジメは割と必死に弁解する。

 

 唯、ユエはユエで時々歳上の魅力を見せつけるかの様に妖艶になったりもする為、ハジメは内心頭を抱えていた。未だ迷宮内である事や社が近くに居る為に耐えてはいるが、地上に出て気が抜けた後ユエの大人モードで迫られたら理性を保てる自信はあまり無かった。

 

「ハジメ・・・いつもより慎重・・・」

 

「うん?ああ、次で100階層だからな。もしかしたら何かあるかも知れないと思ってな。一般に認識されている迷宮も100階だと言われていたから・・・まぁ念のためだ」

 

「と言いつつも、確実になんかあるよなぁ」

 

 ハジメが最初にいた階層から80階を超えた時点で、ここが地上で認識されている通常の【オルクス大迷宮】である可能性は消えた。奈落に落ちた時と各階層を踏破してきた感覚から言えば、通常の迷宮の遥か地下であるのは確実だ。

 

 銃技、体術、固有魔法、兵器、そして錬成。いずれも相当磨きをかけたという自負がハジメにはあった。社に関してもそれは同様だろう。そう簡単にやられる事は無いと考えてはいるものの、そのような実力とは関係なくあっさり致命傷を与えてくるのが迷宮の怖いところである。

 

 故に、怠る事無く出来る時に出来る限りの準備をしておくのだ。因みに今の2人のステータスはこうである。

 

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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:76

天職:錬成師

筋力:1980

体力:2090

耐性:2070

敏捷:2450

魔力:1780

魔耐:1780

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・金剛・威圧・念話・言語理解

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宮守社 17歳 男 レベル:80

天職:呪術師

筋力:2720

体力:2610

耐性:3120

敏捷:3050

魔力:990

魔耐:2060

技能:宿聖樹[+被憑依適性][+■■■■憑依]・呪力生成[+呪力操作][+呪力反転]・呪術適性[+呪想調伏術][+怨嗟転式][+式神調]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+豪脚]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・全属性耐性・物理耐性・剣術・剛力・縮地・先読み・金剛・威圧・悪意感知・念話・言語理解

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 ステータスは初見の魔物を喰えば上昇し続けているが、固有魔法はそれほど増えなくなっていた。その階層における主級の魔物ならば取得する事もあるが、通常の魔物ではもう増えないようだ。魔物同士が喰い合っても相手の固有魔法を簒奪しないのと同様に、ステータスが上がって肉体の変質が進むごとに習得し難くなっているのかもしれない。

 

「よし、準備は整った」

 

「んじゃ、行きますか」

 

「ん・・・」

 

 しばらくして全ての準備を終えたハジメ達3人は、階下へと続く階段へと向かった。

 

 

 

 

 

 記念すべき100階層目は、荘厳と言うに相応しい無数の強大な柱に支えられた広大な空間だった。柱の1本1本が直径5m程で、螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱は規則正しく一定間隔で並んでおり、天井までは30mはありそうだ。地面も綺麗に整えられた綺麗なものであり、総じて制作者の拘りを感じさせた。

 

 ハジメ達はしばしその光景に見惚れつつ、部屋に足を踏み入れる。すると、全ての柱が淡く輝き始めた。警戒するハジメ達を余所に、柱は3人を起点に奥の方へと順次輝いていく。

 

「・・・社、〝悪意感知〟には何か引っ掛かるか?」

 

「いいや、今の所は何も。唯、警戒だけはしておいた方が良い。〝悪意感知〟は便利だけど万能じゃ無い」

 

 ハジメの確認に否を返す社。暫く様子見をしても特に変化や異常は見られなかった為、感知系の技能をフル活用しながら歩みを進める。そして200mも進んだ頃、前方に巨大な扉を見つけた。全長10mはある巨大な両開きの扉には、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

「・・・これはまた凄いな。もしかして・・・」

 

「・・・反逆者の住処?」

 

「確かにそれっぽい感じはするな」

 

 いかにもラスボスの部屋といった感じだ。未だ感知系技能には反応が無いものの、迷宮内で磨かれた第六感とも言える感覚は、この先に未だかつて無い危険があるとハジメ達に告げていた。

 

「最深部に待ち受ける番人とか、お約束過ぎて笑えてくるな」

 

「ハッ、最高じゃねぇか。漸くゴールにたどり着いたってことだろ?」

 

「・・・んっ!」

 

 本能が鳴らす警鐘を無視して、ハジメと社は不敵な笑みを浮かべる。たとえ何が待ち受けていようともやるしかないのだ。ユエも覚悟を決めた表情で扉を睨みつける。

 

 そして、3人揃って扉の前に行こうと最後の柱の間を越えたその瞬間。扉とハジメ達の間30m程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

「あの糞牛(ベヒモス)の時と同じタイプの魔法陣か」

 

「大きさも構築された式も、比べ物にならないがな。しっかし、デカ過ぎないか?マジでラスボスかよ」

 

「・・・大丈夫・・・私達、負けない・・・」

 

「・・・そうだな」

 

 目の前に現れた魔法陣は以前ベヒモスを呼び出した物の凡そ3倍程の大きさで、構築された式もより複雑で精密なものとなっていた。ハジメが流石に引きつった笑みを浮かべるが、ユエは決然とした表情を崩さず、寄り添う様にハジメの腕をギュッと掴む。その光景に、眩しいものを見た様に目を細め薄く笑う社。

 

 魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにする3人。光が収まった時、そこに現れたのは体長30m、6つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼を持つ化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

 不思議な音色の絶叫をあげながら6対の眼光がハジメ達を射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気がハジメ達に叩きつけられた。

 

「散れ!」

 

 と同時、悪意を察知した社が声を荒げる。その直後、赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き火炎放射を放つ。炎の壁と言うに相応しい規模の火炎を、その場を飛び退く様に避けた3人は反撃を開始する。

 

 初手を担うのはハジメ。構えたドンナーが火を吹き、電磁加速された弾丸が超速で赤頭を狙い撃つ。号砲一発、反撃の号令を下すかの様に発砲音が響き渡り、放たれた弾丸は狙い違わず赤頭を吹き飛ばした。

 

 だが、白い文様の入った頭が「クルゥアン!」と叫ぶと、吹き飛んだ赤頭を白い光が包み込んだ。すると、まるで逆再生でもしているかの様に赤頭が元に戻る。白頭は回復魔法を使えるらしい。

 

 ハジメに少し遅れてユエの氷弾が緑の文様がある頭を吹き飛ばし、社は青い紋様持ちの頭を殴り飛ばすが、同じく白頭の叫びと共に回復してしまう。その光景を見ていたハジメは舌打ちをしつつ〝念話〟で2人に伝える。

 

〝2人共、あの白頭を狙うぞ!キリがない!〟

〝あいよ!〟

〝んっ!〟

 

 復活した青い文様の頭が口から散弾のように氷の礫を吐き出し、それを回避しながら3人が白頭を狙う。

 

 ドパンッ!

 

「〝緋槍〟!」

 

 赤く尾を引く閃光と燃え盛る槍が白頭に迫る。しかし、直撃するかと思われた瞬間、黄色の文様の頭が射線に入ると自らを一瞬で肥大化させる。そして淡く黄色に輝き、盾となってハジメのレールガンとユエの〝緋槍〟を受け止めてしまった。衝撃と爆炎の後には無傷の黄頭が平然とそこにいて、ハジメ達を睥睨(へいげい)している。

 

「ちっ!盾役か。攻撃に盾に回復にと実にバランスの良い事だな!」

 

「だが、俺には関係無い。〝薙鼬(なぎいたち)〟!」

 

 社の呼び声と共に、白い鼬を模した式神が現れる。複数の頭から放たれる魔法を避け続けていた社は、そのまま足を止める事無く愛刀を腰だめに構えると、『呪力』を込めて強化された居合い斬りを放つ。

 

 ズバンッ!

 

「クルァン!?」

 

 社の狙い通り〝薙鼬(なぎいたち)〟によって発生した斬撃は、盾となっていた黄頭に防がれる事無く、白頭を直接斬り付ける事に成功する。不意を突かれ痛みと驚きに叫びを上げる白頭だが、致命傷には程遠い。

 

〝チィッ、浅い!ハジメ!〟

〝任せろ!〟

 

 回復される前に畳み掛けるべく、ハジメはドンナーの最大出力で白頭目掛けて連射する。ユエも合わせて〝緋槍〟を連発し、社も〝薙鼬(なぎいたち)〟による斬撃で更に追い討ちをかける。

 

 黄頭はハジメとユエの攻撃を尽く受け止めるが、〝薙鼬(なぎいたち)〟の斬撃はその防御をすり抜け、白頭に確実にダメージを与えていく。混乱しつつも如何にか斬撃を防ごうとする黄頭だが、ハジメとユエの攻撃を無視する訳にもいかず、徐々に傷だらけになっていく。

 

〝俺とユエはこのまま黄頭を釘付けにする!社はそのまま白頭をやれ!〟

〝あいよ!ーーーヤベッ!?〟

 

 すかさず白頭が黄頭を回復しようとするが、社が斬撃を飛ばす事で妨害を行う。すると、赤、青、緑の3頭が一斉に社の方に狙いを定めた。斬撃を飛ばしていたのが社であると判断し、集中攻撃をして先に始末する腹積りなのだろう。

 

 ヒュドラの悪意を感知し焦る社だが、3頭が魔法を放つ寸前に白頭の頭上で燃え盛るタールが撒き散らされた。隙を見てハジメが〝焼夷手榴弾〟を投げ込んでいたらしく、摂氏3000度の炎に巻かれたヒュドラ達は苦痛に悲鳴を上げながら悶えている。

 

〝ナイスフォローだハジメ!〟

〝気にすんな!それより今がチャンスだ!このままーーー〟

 

「いやぁああああ!!!」

 

「「ユエ(さん)!?」」

 

 このチャンスを逃すまいとハジメが〝念話〟で合図を送り、3人同時攻撃を仕掛けようとした直前。先程まで黄頭を釘付けにすべく魔法を放っていたユエが突如絶叫した。咄嗟(とっさ)にユエに駆け寄ろうとするハジメだが、それを邪魔するように復帰した赤頭と緑頭が炎弾と風刃を無数に放ってくる。

 

「ーーー行け、ハジメ!こっちは俺が相手しておく!」

 

「スマン、任せた!」

 

 未だ絶叫を上げるユエを見るに、何か良くない事が起こっているのは明白だった。ヒュドラと付かず離れずの距離を保ちつつ妨害に徹していた社は、ハジメをユエの下に向かわせると、〝縮地〟で一気に距離を詰めて赤頭を殴り飛ばす。

 

 『呪力』で強化された拳は赤頭を一撃でダウンさせるが、残った青頭と緑頭が氷塊と風刃を放ち社を迎撃する。先んじて悪意を感知していた為すぐ様離脱して攻撃範囲から逃れるが、その隙に白頭が赤頭の傷を癒してしまう。

 

(厄介極まりないな。魔力も無限では無い以上、此方の攻撃も全くの無意味では無いだろうが・・・。このまま削り合いを続けていたら先にバテるのはこっちだろうな)

 

 その様子を眺めながら思考を回す社。チラリとハジメの方を伺うと、黒い紋様の頭をドンナーで撃ち抜き、ユエを抱えて退避する姿が映った。何とか無事に救出は出来た様で、それを見て小さく安堵の息を吐く社。

 

「ここが正念場か。ーーー行くよ!■■ちゃんッ!!!」

 

「エェモチロン。ーーーウフアハハハハ!サァ、アーソビーマショー!!」

 

 ハジメ達が部屋の端、柱の影まで引っ込んだのを確認した社は惜しみ無く■■(切り札)を切る。社の呼び声に汚泥の様な漆黒の『呪力』を噴き出しながら、さも当然と言わんばかりに特級怨霊■■■■が応える。その声に歓喜の色が含まれていたのは、社に頼られた喜びからか、はたまた好き勝手に出来る玩具(ヒュドラ)を得た暗い悦楽によるものか、傍目には分からない。

 

 今まで社が■■を呼ばなかったのは、彼女には敵味方の区別がつかないからだ。■■が正確に認識出来るのは、社唯1人。彼女の目には社しか映らず、それ以外は全て有象無象にしか見えない。そんな状態で周りを巻き込まずに戦うのはまず不可能だ。

 

 だが、ハジメとユエがこの場から離れた今、周りに配慮する必要は無い。この世界に来てから2回目、正真正銘最悪の■■(かいぶつ)が、化け物(ヒュドラ)を呪い殺す為、迷宮の最奥で再び完全顕現した。

 

 

 

 

 

「「「「「「クルルゥアァッ!!」」」」」」

 

 完全顕現した■■を見て、ヒュドラの頭達が一斉に社の方に向き直る。如何やら■■の危険性をすぐ様感じ取った様で、6つの頭が仲良く並んで社達を威嚇していた。

 

「アハハハハ!ナニイロガスキィ?アカ?アオ?ミドリ?フフフ、スキナイロデオケショウシテアゲルワァ!」

 

 ■■の言葉と共に、圧倒的なまでの『呪力』が炎の如く巻き上がる。河川の氾濫を思わせる程に際限無く湧き出す『呪力』は、■■の持つ『術式』により多種多様の『呪術』に変換され、ヒュドラ目掛けて打ち出されていく。

 

 ベヒモスを相手にした時とは異なり、手加減無しに発動する色取り取りの『呪術』は、例外無くその全てに明確な殺意が乗せられていた。それに対抗する様に、赤・青・緑の3頭がそれぞれに対応した魔法を使って迎え撃つ。目の前の敵を滅ぼす為に放たれた魔法/『呪術』は、丁度両者の中間地点で激突。白い光を放ちながら、お互いを打ち消す様に対消滅していく。

 

(全力の■■ちゃんと互角かよ!マジでとんでもないな!)

 

 頭上で火花が散るのを感じながらヒュドラに突っ込む社。出力自体は両者互角、術の多様性では■■に軍配が上がるが、3つの砲塔ならぬ()()とそれらをサポートする白と黄色の頭の存在が互角の戦況を作り出していた。逆に言えば、ヒュドラの頭の内のどれか1つでも欠けさせてしまえば、この均衡は崩せる。

 

 ヒュドラ自身も今の状況に気付いているのだろう。向かってくる社を近づけさせまいと赤頭が炎を吐こうとするが、■■が雨霰と呪術を放ち余所見を許さない。他の頭も■■の相手で手一杯になっており、その隙を突いた社は跳び上がると〝空力〟で足場を作製、緑頭の横っ面を殴り抜く。

 

「ーーーラァッ!」

 

 ドゴムッ!

 

「クルァン!?」

 

 生物を叩いたとは思えぬ音と共に、短い叫びを上げるヒュドラ。殴られた緑頭は全身から力が抜けた様にグッタリしており、起き上がる様子は無い。緑頭が抜けた穴を埋めるべく赤頭と青頭が必死に魔法を放つが、徐々に傷だらけになっていき、白頭もその2頭の回復を優先している所為で緑頭まで手が回っていない。

 

(このまま押し切る!)

 

 均衡が崩れかけているのを察知した社は、他の頭を潰そうと更なる追撃を試みる。肉体を魔力と呪力の2重強化に切り替え、このまま勝負を決める為に残る頭を潰そうとしてーーー。

 

「アアアァアァアアアァアァアアア!?!?!?」

 

「■■ちゃんッ!?ーーーグゥッ!」

 

 突如、■■が悲鳴じみた金切声を上げた。怨霊となってから聞いた事が無い程の叫び声に、動揺しながらも■■の名を呼ぶ社。だが、その言葉も届かぬまま■■は辺り一体に『呪術』を撒き散らす。無軌道且つ無差別に放たれる『呪術』は、ヒュドラと社に見境なく降り注いでしまう。

 

「痛っ・・・「クルゥアアア!!!」ッーーー〝金剛〟!」

 

 〝空力〟で飛び上っていた所を撃ち落とされてしまった社。2重の肉体強化により大きなダメージにはなっていないが、その隙を逃す程番人は甘く無かった。〝悪意感知〟によりヒュドラの攻撃を察知した社は、避けられないと知るや『呪力』により肉体強化をした上で〝金剛〟を発動する。社が防備を固めたのと、黄頭が肥大化した自分自身を振り抜いたのは同時だった。

 

 ドゴムッ!!!

 

 最も分かりやすく喩えるなら、ゴルフのフルスイングと言うのが1番的確だろう。空中で身動きが取れない状態の社に対して、黄頭は大きく振り被った頭を躊躇い無く振り下ろす。ダンプカーと正面衝突した方がまだマシに思える程の轟音と衝撃は、社をいとも簡単に吹き飛ばした。

 

「ーーーガハッ!」

 

 碌に減速することも出来ず、強かに壁に叩き付けられた社。防御が間に合ったとは言え、普通の人間であればミンチを通り越して壁のシミになっていてもおかしく無い所を、未だ5体満足でいられるのは流石の頑健さだろう。

 

(・・・何とか骨まではイッて無いか。しっかし、まさか■■ちゃんがやられるとは。一体何された?怪しいのは黒頭だが・・・)

 

 怪我の具合を確認しながら思考を巡らせる社。ヒュドラの方を見ると、■■の姿は既に無かった。如何やら既に戻ってしまったらしい。

 

〝目と耳塞げ、社!〟

〝ーーーッ、了解!〟

 

 突如聞こえた〝念話〟の声に従い、目と耳を塞ぐ社。その数秒後、部屋全体を包み込む強烈な閃光と音波が発生してヒュドラを怯ませた。ハジメ特製〝閃光手榴弾〟と〝音響手榴弾〟の仕業である。

 

 〝音響手榴弾〟の材料は80層で見つけた超音波を発する魔物から採取したものだ。その魔物は体内に特殊な器官を備えていたのだが、その器官自体が鉱物だったので、ハジメが錬成で音響爆弾に加工したのだ。

 

「ーーー『式神調べ (きゅう)ノ番〝(くゆ)(きつね)〟』!」

 

 ヒュドラが悶えている隙に社は〝(くゆ)(きつね)〟を召喚。怯んでいるヒュドラを煙に巻いて時間稼ぎをしながら、ハジメ達が隠れている柱の陰に向かう。

 

「無事か、社」

 

「何とかな。そっちは?」

 

 ハジメ達と合流した社は互いの無事を確認すると、手短に情報交換を行う。内容はユエの安否と、ヒュドラが持つ黒い紋様の頭についてである。

 

「・・・成る程、黒頭は精神に作用する魔法の使い手と。幸利と同タイプか」

 

「ああ。ユエの話を聞くに、不安を掻き立てる様な幻覚を見せて恐慌状態を引き起こす魔法だろう。本当にバランスの良い化け物だよ」

 

 ハジメの悪態混じりの説明を聞いて納得の声を上げる社。社は真正面からのぶつかり合いで■■が敗北する所を今まで見た事が無かった。それ程までに圧倒的な『呪力』と『術式』を持つ■■を倒すのならば、確かに馬鹿正直に戦うよりは搦手を使う方が余程成功率は高いだろう。問題は■■が何を見せられたのか分からない事だが。

 

「嫁さんの方は?」

 

「さっきから呼びかけているが反応は無い。この戦いではこれ以上の活躍は無理かもな。・・・ユエさんは?」

 

「ん、何時でもいける」

 

「あっれ、ピンピンしてるね?しかも凄いやる気満々。何があったの?」

 

 良い意味で予想を裏切る返答を聞き、思わずハジメとユエを見比べる社。ハジメから聞いた話によれば、ユエが見たのは〝ハジメに見捨てられて再び封印される光景〟だったらしい。ところが今のユエの様子は、ともすれば過去最高に戦意が満ちている様にも見えた。

 

 先程ユエが発した絶叫と■■が一発で倒された事実を(かんが)みるに、黒頭の精神作用魔法は生半可なものでは無い筈だ。そんな代物を食らって心が折れかかっている状態からここまで持ち直すには、ユエが持つ不安の全てを取り除く位はしなければならないはずだが・・・。この短時間でそれを成す方法は社には思いつかなかった。

 

「・・・それは「い、今はそれどころじゃねぇだろ!社は早いとこ〝影鰐〟呼んでシュラーゲン出せ!」・・・ハジメの照れ屋・・・」

 

(ほほーう、ユエさんがハジメを見る目が熱っぽいな。んー本当に何したんだろ?愛の言葉でも囁いたのかね。気になるなー)

 

 両手で顔を挟みウットリするユエと何かを誤魔化す様に焦るハジメを見て、訝しみつつも言われた通り〝影鰐(かげわに)〟を出す社。割と良い線を突いている友人(やしろ)の内心など知らないハジメは、咳払いをして気を取り直しつつ2人に作戦を告げる。

 

「ユエ、社、シュラーゲンを使う。連発できないから援護頼む」

 

「・・・任せて!」

 

「了解。後でハジメが何したか、コッソリ教えてねユエさん!」

 

「オイコラ社!テメェ背中に気を付けろよぉ!?」

 

 いつもより断然やる気に満ち溢れているユエを見て、後で絶対に聞き出す事を固く心に決める社。囮となるため真っ先に柱の陰から飛び出すと、ハジメ達から離れる様に大きく回り込みながらヒュドラに向かって走り出す。それに続くようにハジメとユエも柱の陰から飛び出すと今度こそ反撃に出る。

 

 ヒュドラは中々晴れない視界に苛立っていた様だが、風魔法で無理矢理煙を吹き飛ばすと猛り狂う様に咆哮を上げ、ハジメ達に向けて炎弾やら風刃やら氷弾やらを撃ち込んでくる。■■が居なくなった今、ヒュドラの優先順位はユエに切り替わったようだ。

 

「〝緋槍〟!〝砲皇〟!〝凍雨〟!」

 

 ユエはハジメを援護すべく、威力よりも手数を重視した魔法を弾幕の如く撃ち放つ。陽炎を生み出す炎の槍が。螺旋に渦巻く真空刃を伴う竜巻が。鋭い針の如き氷の雨が。有り得ない速度で続々と構築されると一斉にヒュドラを襲う。

 

 ユエの〝蒼天〟ならば、黄頭ごと白頭を吹き飛ばす事も不可能では無いだろう。だが、最上級魔法を使うとユエはその後行動不能になる。吸血させれば直ぐに回復するが、生き残りの頭がいた場合を考えるとそう簡単に博打を打つわけにもいかない。

 

 攻撃直後の隙を狙われた赤頭、青頭、緑頭の前に黄頭が出ようとするが、白頭の方をハジメと社が狙っていると気がついたのかその場を動かず、代わりに咆哮を上げる。すると近くの柱が波打ち、変形して即席の盾となった。どうやらこの黄頭はサソリモドキと同様の技が使えるらしい。

 

 だが、その程度の壁など今のユエの前では無意味に等しい。ユエの魔法はその石壁に当たると壁を爆砕し、後続の魔法が次々とヒュドラの頭に直撃した。

 

「「「グルゥウウウウ!!!」」」

 

「ナイスだユエさん!」

 

 悲鳴を上げのたうつ赤・青・緑の3頭。その隙を逃さず、距離を保っていた社が急転換してヒュドラの背後から奇襲する。と、ここで襲撃に気付いた黒頭が向かってきた(てき)の姿を眼に捉え、恐慌の魔法を行使する。

 

「ーーーーーーーーー」

 

 ノイズ交じりの、しかし幻影と断じるには鮮明すぎる映像が社の頭の中に流れ込んでくる。()()()()()()幼い社の首に、皮膚の剥がれ落ちた大きな腕が掛けられる。腕の持ち主はそのまま社の肉体を軽々と持ち上げるが、幼い社は何故か全く抵抗するそぶりを見せない。そしてそのまま大きな掌が、社の首を締め上げる様に握りしめてゆきーーー。

 

「ーーー■■ちゃんが俺にそんな事する訳無いだろうがぁ!!舐めてんのかこの糞蛇がぁ!!!」

 

 瞬間、激高した社の肉体から荒れ狂う程の『呪力』が噴き出した。黒頭の見せた幻影は、非常に的確かつ強烈に社の逆鱗を踏み抜いた。愛する人を侮辱された憤怒は、肉体を覆いつくす程の『呪力』へと変換され、そのまま社の右手に収束していく。

 

「死ねや!!!」

 

 技術のぎの字もへったくれも無い、怒りに任せた大振りで乱雑な右ストレート。雫辺りに見られればため息を吐かれかねない隙だらけの拳(テレフォンパンチ)は、しかし今までとは比較にならない量の『呪力』によって、正真正銘の一撃必殺の拳(ジョルトブロー)へと昇華された。

 

 ズドン!!!

 

 恐慌魔法を食らったのが嘘の様にノータイムで動いた社に、黒頭は全く対応出来なかった。右腕を引き絞る様に構えたまま全身の力と体重を込め、床面から両足を離す様に跳び上がると社は渾身の殴打を放つ。対空砲もかくやという轟音が響き、殴られた黒頭は悲鳴の1つすら上げられない。余りの衝撃に黒頭の顔面は原型を保っておらず、無惨にも首の根本は半ば程まで引き千切られていた。

 

〝今だ、離れろ社!〟

〝ーーーっ、了解ィ!〟

 

 怒り心頭の社にハジメから〝念話〟が届く。ユエと社がヒュドラの相手をしている間に、確実にシュラーゲンを当てられる距離まで近づけた様だ。回復を受けた赤・青・緑の3頭の魔法をユエは尽く相殺して足止めし、黒頭も社が完全に沈めた今がチャンスだろう。冷水を浴びせられた様に我を取り戻した社は、その言葉に返答しながらヒュドラから体を離す。

 

 ドガンッ!!!

 

 その直後。大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と共に、深紅に染まった極太のレーザーがヒュドラを穿った。かつて光輝がベヒモスに放った〝神威〟が、まるで児戯に思える程の光量と熱量。タウル鉱石にシュタル鉱石をコーティングしたフルメタルジャケットの赤い弾丸が、敵の命を喰らうべく目にも止まらぬ速さで撃ち出されたのだ。

 

 迫り来る紅い閃光に対して、黄頭は白頭の盾になる様に前に出た。だが、弾丸は黄頭の防御を紙屑の様に突き破ると、背後の白頭ごとあっさりと貫通、余波で黒頭さえも焼き尽くすとそのまま背後の壁を爆砕した。余りの衝撃に、階層全体が地震でも起こしたかのように激しく震動する。

 

 チンッと薬莢が地面に落ちる音が、残心の様に響く。後に残ったのは、頭部を根こそぎ吹き飛ばされた3つの頭と、どこまで続いているか分からない位に深い穴の空いた壁だけだった。

 

 一度に半数の頭を消滅させられた残り3つの頭が、呆然とハジメの方を見る。何が起きたのか信じられない様子である彼等だが、相対している敵は眼を離して良い相手では無かった。

 

「〝天灼〟」

 

 天性の才能を持ちながらも、恐れをなした同族により奈落に封印された吸血姫。一騎当千、自らに並び立つ者等居ないと言わんばかりの無双の力が、天罰の様にヒュドラに降り注ぐ。

 

 ユエの詠唱と同時、残りの3頭を取り囲む様に6つの放電する雷球が空中に現れると、次の瞬間球体同時が結びつくように放電を互いに伸ばして繋がり、その中央に巨大な雷球を作り出した。

 

 ズガガガガガガガガガッ!!

 

 中央の雷球が弾けると、絶大な威力の雷撃がヒュドラを焼き尽くさんと撒き散らされた。残りの頭が堪らず逃げ出そうとするが、6つの雷球が壁の役割をしている様で雷の範囲から抜け出せない。天より降り注ぐ神の怒りの如く、轟音と閃光が広大な空間を満たす。

 

 そして、10秒以上続いた最上級魔法に為すすべもなく、3つの頭は断末魔の悲鳴を上げながら遂に消し炭となった。

 

 

 

 

 

 魔力枯渇で荒い息を吐きながら、ペタリと座り込むユエ。無表情ではあるが満足気な光を瞳に宿すと、「やったぜ!」とでも言いたげにサムズアップする。それを見たハジメも頬を緩めながらサムズアップで返すと、シュラーゲンを担ぎユエの元に歩き出してーーー。

 

「まだだ!ヒュドラからはまだ悪意が消えちゃいない!」

 

 その直後、社の切羽詰まった怒号が飛んだ。ギョッとしたハジメとユエが視線をヒュドラに向けると、ボロボロの胴体部分から7本目の頭がせり出してハジメ達を見下ろしていた。

 

 7つ目の頭ーーー輝く銀色の頭は、スっと視線をユエに向けた。その瞬間、全身を悪寒に襲われたハジメと社は同時に飛び出していた。魔力枯渇で動けないユエに対して、銀頭は予備動作抜きで目を焼く程の極光を放つ。先程のハジメのシュラーゲンに匹敵するレーザーが瞬く間にユエに迫り、庇おうとしたハジメと社ごと3人を飲み込んだ。




ヒュドラ戦は、ハジメ&ユエペアと社&■■ペアの2組に分かれる案もありました。が、本作は「乙骨君オマージュオリ主と里香ちゃんオマージュオリ主によるリベンジ」を目標としているので没にしました。よって、全体的に原作ありふれよりかはイージーモードになっております。・・・基本的には。
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