ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

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ヒュドラ戦決着です。まさか3話もかかるとは思わなかった・・・。


29.決着

 時は少し遡り、社がハジメとユエの盾となり吹き飛ばされた後の事。ハジメと社の2名が割って入ったおかげで極光の直撃を避ける事が出来たユエは、社の姿が見えない事に最悪の結末を想像しつつも、同じように極光に呑まれたハジメを抱えて柱の裏に退避していた。

 

 そんなユエとハジメを追い詰める様に、ヒュドラは光弾の雨を次々と撃ち込んでいく。直径10㎝程の光弾は機関砲(ガトリング)もかくやといった速さと手数でありながら、一つ一つに恐ろしい程のエネルギーが込められている様で、柱を削りきるのも時間の問題だろう。

 

 とにかく時間が惜しいとユエは神水でハジメの治療を試みる。ハジメの容態は酷いもので、今も少なくない量の血が流れ出ていた。また、指や肩、脇腹が焼け爛れている他、一部骨が露出している箇所もあった。

 

 社の結界に加えてサソリモドキの外殻で作ったシュラーゲンを咄嗟に盾にし、その上で〝金剛〟を発動したのにも関わらずこの有様である。もし、どれか1つでも欠けていたら死んでいたかもしれない。

 

 ユエは急いで神水をハジメの傷口に降り掛け、もう一本も口移しで無理やり流し込む様に飲ませる。だが、何故か治療が上手くいかない。止血自体は出来ている様だが、遅々として傷の修復が始まらないのだ。

 

「どうして!?」

 

 ユエは半ばパニックになりながら、手持ちの神水をありったけ取り出した。今のユエ達は知る由も無いが、ヒュドラの極光には肉体を溶かしていく一種の毒の効果も含まれていたのだ。若干ではあるが毒による溶解を神水の回復力が上回っているため、時間をかければ治りそうではある。問題はその時間が残されていない事であるが。

 

 柱はもうほとんど砕かれ、ハジメが動けるようになるまではとても持ちそうにない。ユエは決然とした表情でハジメを見つめるとそっと口付けをして、ドンナーを手に取り立ち上がった。

 

「・・・今度は私が助ける・・・」

 

 決意の言葉を残し、ユエはボロボロになった柱を飛び出していった。魔力は僅か、神水は既に使い切り、頼れるのは身体強化を施した吸血鬼の肉体と、心もとない〝自動再生〟の固有魔法、そしてハジメのドンナーだけだ。

 

 柱から飛び出たユエを、ヒュドラの銀頭は睥睨(へいげい)し光弾を連射する。ユエは現在魔力が少ないため魔法で相殺するわけにも行かず、ハジメの様にドンナーで撃ち落とすことも出来ないので、ひたすら走って躱していく。だが、元来体術を始めとした近接戦は不得意なユエ。直ぐに追い詰められていく。

 

 そして、遂に光弾の一発がユエの肩に直撃した。

 

「あぐっ!?」

 

 痛みに呻き声を上げながら、吹き飛ぶ勢いそのままに立ち上がり駆けるユエ。痛みで動きが止まった瞬間、畳み込まれると分かっているのだ。ユエの〝自動再生〟が始まるが、回復は目に見えて遅い。極光の付加効果は〝自動再生〟にも有効のようで、更に魔力が削られてしまう。このままでは身体強化に使う魔力も直に無くなるだろう。

 

 焦燥と痛みが心身を苛むが、ユエの瞳に諦めの色は映らない。自分の敗北は即ちハジメの死を意味するからだ。挫ける事無くユエはヒュドラの隙を探そうとする。

 

「・・・?」

 

 突如、光弾の雨が止んだ。訝しみ足が止まるユエだったが、それも一瞬の事。時間を稼ぐべくハジメを寝かせていた場所とは別の柱の裏に退避するが、いつまで経っても追撃の光弾が放たれる事は無かった。

 

 柱を遮蔽にしつつ、慎重に顔だけを出してヒュドラの様子を伺うユエ。しかし、肝心のヒュドラは見当違いの方向を見て威嚇する様に唸り声を上げていた。

 

 死にかけのお前達等眼中に無いと言わんばかりの態度に怒りが湧くユエだったが、今がチャンスであると思い直すとドンナーを構える。両手で銃把(グリップ)を握りしめ、照準を合わせると残り少ない魔力を雷系統の魔法に変換して電磁加速を発生、そのまま銀頭を撃ち抜こうとする。

 

 だが、それよりも速く銀頭は光弾の連射を再開した。慌てて柱の影に引っ込むユエだが、どういう訳か一向に光弾は放たれない。いや、射出音がする為放たれてはいるのだろうが、ユエに向けてはいない様だった。

 

 もしやハジメ狙いか!?と焦るユエはハジメが居る方向を見やるが、光弾の向かう先はそちらでも無い。意を決して柱の影から覗き見ると、ヒュドラが光弾を撃ち出していたのは2人が居る場所とは別の方向であった。

 

「・・・社・・・?」

 

 ボソリ、と疑問を呟く様に名を呼ぶユエ。ヒュドラが光弾を打ち出していたのは、自身に迫り来る人影に対してだった。小さな、それこそヒュドラからすれば取るに足らない大きさの相手に対して狂った様にばら撒かれる光弾の数々を、人影はゆらりゆらりと余裕を持って躱して行く。

 

 決して素早いとは言えない動きで、しかし確実にヒュドラとの距離を詰める人影。その動きに焦れたのか、大きな咆哮を上げて極光を放つ銀頭。それを見たユエは叫び声を上げて人影に注意を促そうとして。

 

 

 

 

 

 次の瞬間、ヒュドラの胴体で黒い火花が閃いた。

 

 

 

 

 

「クルゥアアアア!?!?!?」

 

「おぉ!?人生初の黒閃!?やっぱ■■ちゃんの加護がーーーってヤベッ!?〝(くゆ)(きつね)〟!」

 

 しぶとく生き残るヒュドラに対して、一矢報いる事に成功した社。肉体の凡そ3割が吹き飛び苦悶の絶叫を上げる銀頭だったが、辺り一体にヤケクソ気味に光弾をばら撒く姿を見た社は急いで式神を召喚。ヒュドラの周囲を煙で包んで目眩ましをしてからユエと合流する。

 

「社・・・なの・・・?」

 

「Yes!説明は後でするからハジメと合流しよう!場所は?」

 

「・・・あの柱の裏・・・」

 

「了解!悪いけど時間無いから抱えていくわ!」

 

 ヒュドラが痛みに悶絶している間に、ユエを抱えた社はハジメが居る場所まで移動する。ヒュドラから放たれる悪意が消えていない以上、すぐにでも体制を立て直す必要があった。

 

「・・・ハジメ!気が付いたの!?」

 

「ついさっきな。見てたぞユエ、ナイスファイトだった」

 

 ボロボロになった柱の裏では、満身創痍のハジメがフラつきながらも立ち上がっていた。荒い息を吐いているハジメを見た社はすぐ様『呪力反転』による治療に移る。

 

「うっわハジメってば血塗れじゃねぇか。・・・立ってて大丈夫なのか?」

 

「お前達だけに無茶させる訳にはいかねぇだろうが」

 

 ハジメの怪我はほとんど治っておらず、それに気付いた社は深刻な顔で問う。実際、ハジメは気力だけで立っているようなものだった。だが、ハジメは感極まったように抱きつくユエをあやしながら、不敵に笑って答える。

 

「それよりも、だ。お前の姿こそ何なんだ。()()は、本当に大丈夫なのか?」

 

「・・・社」

 

 ハジメとユエの視線が社に突き刺さる。その眼には社を(おもんばか)る様な、若しくは心配する様な感情はあっても、嫌悪や忌避(きひ)感は微塵も込められていなかった。その事に内心感謝しながらも、どう説明したものかと頰を掻く社。

 

 『縛りの更新』の直後、ゲル状となった■■は溶け込む様に社の肉体と一体化していた。社の顔を、胴体を、手足を、皮膚を、余すとこ無く染め上げる様に、■■の呪力はスキンの如く癒着していた。健康的な肌色だった皮膚は(くす)んだ灰色へと変色し、両脚の膝から下と左腕の肘から先、そして焼け爛れた右腕を作り直す様に、濁った黒色の呪力が鎧の如く再形成されており、そうして形作られた暗く黒い手甲と足甲には、社の魔力と同じ蒼に煌めく輝線が走っていた。

 

「そんな心配そうな目で見なくても大丈夫さ。少なくとも今すぐどうこうなりゃしないから。それよりも、今はアッチが先だろ」

 

「・・・後で説明しろよ」

 

 あいよー、と軽く返事をする社に、毒気を抜かれた様にため息を吐いたハジメ。緩みかけた気を引き締めると、3人はボロボロの柱越しにヒュドラの様子を伺う。だが、肝心のヒュドラはハジメ達を狙い撃つ事もせずに、その場でジッとしていた。目眩しの煙は晴れかけているのにも関わらず、である。

 

「・・・?何か光ってる?」

 

「おや、本当ーーー嘘だろ、呪霊じゃねーんだぞ」

 

「チッ、自己回復持ちか。面倒ここに極まれりだな」

 

 ヒュドラの様子を訝しむ3人だったが、その理由はすぐ分かった。ヒュドラの肉体が淡く輝いていたかと思うと、社が与えた傷が巻き戻る様に治癒されていたのだ。ハジメ達の処理よりも自らの治療を優先している甲斐あってか、全快に至るのも時間の問題だった。

 

「・・・今のうちに、攻撃する・・・?」

 

「いや、半端な攻撃じゃ焼け石に水だ。ヤツが回復に専念しているうちに、俺達も作戦を考えるべきだろう」

 

 ユエの提案をやんわりと否定しながら、眉間に皺をよせて考え込むハジメ。『呪力反転』による治療は今も続いており、ある程度調子を取り戻してきた様だ。

 

「社、さっきの黒い一撃、もう一度打てるか」

 

「黒閃の事か?んー・・・半々って所だな。後、今さっき気付いたんだが『式神調』で呼べる式神が増えたみたいだ。少なくとも2体までなら安定して呼べそうだから、何か案があるなら言ってくれ」

 

 呪力の手甲で覆われた掌を眺めながら答える社。ハジメの目から見ても、姿形が変わった事を除けば、社に大きな変化は見られなかった。最も、変化が見られない事の方が問題なのかも知れないが。

 

「・・・分かった。お前が黒閃を撃てるか否かで作戦を変える。〝影鰐〟呼んで保管していた手榴弾を全部出しといてくれ。ユエは俺の血を吸って魔力を回復しろ。どちらの作戦で行くにしろ、トドメはお前の魔法にかかってる。ーーーやるぞ、2人共。俺達が勝つ!」

 

「勿論!」

 

「・・・んっ!」

 

 強靭な意志の宿ったハジメの言葉に、ユエと社もまた力強く頷く。この場の誰1人として無傷の者などいないというのに、目に宿る戦意は微塵の衰えも感じられない。迷宮の先でどんな物を手に入れようとも、或いはこの繋がりに勝るものはないのかも知れない。そう思わせる程には、3人はお互いを信頼し合っていた。

 

 

 

 

 

「・・・以上が俺の考えた作戦だ。異論や質問は無いな?ーーー行くぞ!」

 

 ハジメの掛け声と共に、柱の影から飛び出す人影が2つ。1つはヒュドラに向かって真っ直ぐ突き進む社。もう1つの影は〝空力〟で宙に飛び上がったハジメである。ハジメの肩には比翼鳥(ひよくどり)が止まっており、背にはユエが、そしてユエの背にはパンパンに膨れた革袋が背負われていた。

 

「クルゥアア!!」

 

 威嚇する様に鳴いたヒュドラが、周囲に浮かべていた光弾を地上の社と空中のハジメに向けて撃ちまくる。だが、放たれる光弾の数には大きな違いがあった。

 

《予想通り、社を集中的に狙うつもりか》

 

《みたいだな。回復が中断したのはラッキーだが》

 

 比翼鳥(ひよくどり)越しに通話しながら、光弾の嵐の中を踊る様に避けていくハジメと社。先程の一撃は大層効いたのだろう。ハジメの言葉通り、生み出された光弾の凡そ7割程が社に放たれていた。

 

 雨霰と降り注ぐ光弾の数々。だが、その悉くがハジメはおろか社にも擦りはしない。ゆらりゆらりと光の弾幕を紙一重で躱していく2人の動きは、まるで光弾自らが2人を避けている様にも錯覚させる。

 

(・・・これマジで便利だな)

 

 視界の全てがモノクロに染まる光景に内心で感嘆する社。死に瀕した体験からか、或いは■■との融合を果たしたせいか。社とハジメの身には新たな技能が宿っていた。

 

 2人が得た派生技能の名は〝瞬光〟。〝天歩〟の最終派生技能でもあるこの技能の効果は2つ。1つは〝天歩〟及びその派生技能の強化。そしてもう1つが、知覚機能の拡大による擬似的な超加速である。

 

 周囲の全てが色褪せスローモーションの様にゆっくりと動く中、自分だけが普段通りに動けるのだ。肉体に相応の負荷が掛かる為乱用は出来ないだろうが、それを加味してもお釣りが来るほどには強力無比な技能だった。先程ヒュドラに決めた黒閃も、この技能を使用して発動したものだった。

 

(この調子で近付きながら、もう一度黒閃を入れられれば!)

 

 光弾を避けながら、圧をかける様にジワジワとヒュドラとの距離を詰める社。空中にいるハジメも隙を見てドンナーを撃ち込んでおり、大きなダメージとはいかないまでも銀頭の集中を妨げるには十分な効果を発揮していた。

 

(来た!)

 

 幾ら光弾を撃っても当たらない事に苛立ったのか、社に向けて銀頭が極光を放つ。だが、そんな分かり易い一撃が今の社に当たるはずもない。アッサリと極光を躱した社は〝縮地〟で一気にヒュドラとの距離を詰めた。

 

「なっ!?」

 

 だが、次の瞬間。極光を放っていたはずの銀頭が、懐の社に向けて既に狙いを定めていた。

 

(フェイントかよ!)

 

 銀頭の目に嘲りの色が宿るのを見て内心で毒吐く社。今までの極光の平均発動時間は5秒程で、その間銀頭は硬直していた。先程の社はその隙を突く形でヒュドラに一矢報いたのである。

 

 だが、直前に放たれた極光の発動時間は凡そ1秒程。実際に当たったわけでは無いので断言は出来ないが、威力自体も5分の1を下回っていただろう。仮に命中したとして致命傷には至らないであろう攻撃は、しかし愚かな獲物を嵌める囮として十二分の役割を果たした。ここに来て、ヒュドラの策が社の思惑を上回る。

 

 直後、今度は本気の極光が銀頭から放たれる。照準を合わせられた社は、既に拳を打ち込む体勢に入っている為に避け切れない。再度放たれた極光に、社は呆気なく飲み込まれて。

 

 

 

《ーーー行け!社!》

 

《ーーー応!》

 

 

 

 比翼鳥(ひよくどり)から伝わるハジメの声を合図に、()()()3()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ヒュドラに向かって駆け出す社の肩には比翼鳥(ひよくどり)が止まっており、左の二の腕には双頭の白蛇が巻き付いていた。

 

 銀頭が仕留めた筈の獲物の存在に気付くが、もう遅い。呪力による肉体強化と〝縮地〟を併用した社は、瞬く間にヒュドラの懐に潜り込んでいた。

 

「〝瞬光〟」

 

 社の呟きと共に世界から色が失われる。自分以外の全てが減速していく中で、社は構えをとりながら呪力を練り上げていく。

 

(黒閃を成功させてから、自分の中を流れる呪力が手に取る様に分かる。爺さんが言ってた「呪力の核心に触れる」ってのはこういう事か)

 

 『黒閃』ーーー打撃との誤差0.000001秒以内に呪力が衝突した際に、生じる空間の歪みが呪力を黒く光らせる現象。発生した場合の威力は()()()通常の打撃の2.5乗と爆発的な強化が見込めるが、その難易度の高さより狙って出せる術師は存在しない。だが、『黒閃』を経験した者とそうでない者とでは、呪力の核心との距離に天と地程の差がある。

 

(「世界の全てが自分を中心に廻ってる様な全能感」ーーー確かに、この感覚はそうとしか言えない。今なら何でも出来そうな気がする)

 

 そして、重要な点がもう一つ。一度『黒閃』を発生させた術師はアスリート等で言うところの超集中(ゾーン)に入った状態になる。この状態の術師は自らの潜在能力(ポテンシャル)を120%引き出せる様になるのみならず、連続で黒閃を放つ事すら可能になるのだ。

 

 目を瞑り、迷い無く構えを取る社。腰を落とすと左手を地面と垂直になる様に下ろし、右手を脇の下に畳む様に引き絞る。少しでも格闘技に対する知識があるならば誰にでも分かるであろう技ーーー正拳突きの構えである。

 

 拳を構えたままの社の驚異的な集中力は、五感に入ってくる筈の全ての情報を遮断していた。ただ一つ社が感じ取っていたのは、己が身を混ざり合う様に流れる自身と■■の2つの呪力。常人であれば猛毒である怨霊(フィアンセ)の呪力を感じて、社は微かに笑みを浮かべる。

 

 ーーーここに、条件は揃う。技能〝瞬光〟の知覚機能拡大による身体操作能力の強化(ブースト)。一度『黒閃』を決めた事による超集中(ゾーン)への到達、及び120%の潜在能力(ポテンシャル)発揮。そして、■■との融合により社自身の呪力操作が()()()()()()()()()()上達した事。上記した様々な要因の全てが、黒閃を放つ為の追い風(プラス)として働いた。

 

「ーーーシッ!」

 

 社の体感時間にて数秒、実時間では1秒と経っていないだろう。目を見開いた社が、短く息を吐き出しながら正拳突きを放つ。腰の回転ーーー俗に言う腰を入れるーーーを入れながら、拳を半回転させて真っ直ぐ対象(ヒュドラ)に撃ち込む。何の捻りも無い、否、小手先の技術も気を衒う必要も無い程にシンプルに力強い一撃。それがヒュドラの脚に吸い込まれる様に命中し。

 

【黒 閃】

 

 今一度、黒い火花が咲き誇った。

 

《プランA続行だ!離れろ社!》

 

《了解!》

 

 社渾身の『黒閃』により右脚を根刮(ねこそ)ぎ吹き飛ばされ絶叫を上げる銀頭。バランスを崩して倒れ込むヒュドラに対して、社は何故か追い打ちをかけずにその場を退いた。すると入れ違いになる様に、パンパンに膨れた袋がヒュドラに投げ込まれる。

 

「ナイス遠投だ、ユエ」

 

 ドパンッ!

 

 ハジメの呟きと共に聞き慣れた発砲音が響いた直後。目を焼く閃光と、耳を(つんざ)く爆音、そして紅蓮に燃える炎がヒュドラを包み込んだ。袋の中にはありったけの手榴弾が詰め込まれており、ユエに投げ込ませたのをハジメがドンナーで撃ち抜いて起爆させたのだ。

 

 再度、ヒュドラの絶叫が響き渡る。爆発が起きたのは左脚の付け根付近。胴体の左側は焼け爛れ、何とか肉体を支えていた左脚も辛うじて原型を保っている程度であり、回復には相当な時間がかかるだろう。だが、ここまでされて尚、ヒュドラの戦意は衰えていない。

 

「チッ、流石にしぶとい!」

 

 痛みで悶え身動きも取れないヒュドラが、怒りの叫び声を上げながら再び光弾を撒き散らし始めた。正解な狙いこそ付けられない様だが、その威力は折り紙付きだ。ユエを背負って再び回避に徹するハジメ。

 

 ガンッ!ドゴンッ!ドガンッ!

 

 空中を泳ぐ様に動き回る(ハジメ)を、如何にか撃ち落とそうとするヒュドラ。そんな彼等とは離れた場所から何かが砕かれる様な音がする。その音を聞きひび割れる様な悪い笑みを浮かべるハジメとは対照的に、銀頭は何の反応も示さない。

 

 然もありなん、先程投げ込まれた袋の中には〝焼夷手榴弾〟の他〝閃光手榴弾〟と〝音響手榴弾〟も有るだけ入っていたのだ。焔による激痛も相まって視覚と聴覚を潰されたヒュドラに、離れた場所の様子が、社が何をしようとしているかなど分かるはずもなく。

 

「オーーーラァ!!!」

 

 社の裂帛の気合いと共に、ヒュドラの真上から20m程の石柱が叩き込まれた。

 

《悪い、少し頑丈で手こずった!これで良いなハジメ!》

 

《俺から言っといて何だが馬鹿力過ぎんだろ!だが良くやった!》

 

 先程の破砕音は社が部屋内部の柱を叩き折ろうと殴っていた音だった。材料が特別なのか柱は中々に頑丈な様で、社が全力で叩き付けられたにも関わらず表面にヒビが入っただけであった。

 

「仕上げだ。〝錬成〟!」

 

 頭を思い切り石柱で打ちのめされ目を回す銀頭を尻目に、ハジメは最後の一手の準備をする。石柱を錬成して大きな鎖を複数作り出すと、倒れ込んだヒュドラを押さえ込む様にして先端を地面に突き刺し、錬成で床と一体化させた。即席の拘束具兼檻の完成である。

 

「ユエ!」

 

「んっ!〝蒼天〟!」

 

 ハジメの呼び声を引き鉄にして、ユエが最上級魔法を発動する。現れた青白い太陽が、身動きの取れない銀頭を拘束具ごと融解させていく。

 

「グゥルアアアア!!!」

 

 銀頭が断末魔の絶叫を上げる。何とか逃げ出そうと暴れるが、両脚を潰された上で拘束されている為に移動も出来ない。極光も撃ったばかりで直ぐには撃てず、苦し紛れに光弾を乱れ撃とうとする。

 

「良い加減死んどけ。『式神調 (ろく)ノ番〝 双子夜刀(ふたごやと)〟』」

 

 だが、それよりも早く社が『術式』を発動する。社の腕に巻き付いた双頭の白蛇が空色に淡く光ると、社と瓜二つの分身が現れる。そして目配せ一つする間も無くヒュドラに突っ込んだ分身は、自らが燃える事すら厭わずに銀頭を殴り飛ばした。

 

 ドゴンッ!

 

 本物の社が殴ったのと変わらない快音を響かせて、銀頭を殴り飛ばした分身はそのまま焔に巻かれて消えていく。そして殴られた銀頭も漸く力尽きたのか、為す術なく高熱に融かされていった。

 

「・・・やったか?」

 

 恐る恐るヒュドラの死を確認するハジメ。ジリ貧になるのを避ける為に、持てる手は全て出し尽くしていたのでこれ以上の戦いは御免だった。慎重かつ念入りな確認を行う3人。

 

「少なくとも感知系技能からの反応は完全に消えた。悪意感知にも反応は無い。つまりーーー」

 

「・・・今度こそ、終わり・・・?」

 

 そして遂にヒュドラが死んだのを確信した3人。実感が湧かないのか、誰も声を上げようとはしない。守護者を失った部屋の中を静寂が支配する。そして。

 

「・・・決着ゥーーーッ!!」

 

「6部の真似とか無駄に元気あるなお前は!!」

 

「・・・疲れた・・・」

 

 3人同時に仲良く倒れ込んだのだった。




色々解説
・プランA
黒閃が発動した場合の作戦。機動力を削いでヒュドラに回復する隙を与えず畳み掛けるプラン。別名はリソース全ブッパ。ゴリ押しとも言う。
・プランB
黒閃が発動しなかった場合の作戦。社を囮にしつつ原作通りにヒュドラを殺す作戦。どちらにせよヒュドラは死ぬ

・■■との融合
見た目のイメージに関しては、TOX2の骸殻を参照。現在は段階的にはクォーター程度。デメリットに関しては・・・。

・ヒュドラの脚
web版だとあんまり描写されてなくて、アニメ版だと無いっぽくて、漫画版だと明確に有るので、今作では有ると言う事にしました。
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