ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

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本来なら2話分あったのを詰め込んだので少し長めです。


30.真の歴史

「ん・・・ここは・・・?」

 

 全身を包む温かさと柔らかな感触を感じながら、微睡みから目覚めたハジメ。自分達は迷宮内に居た筈だと寝起きの頭を回そうとするが、己がベッドで寝ている事に気付き、今までの経緯を思い出した。

 

(・・・そうか。ここは反逆者の・・・)

 

 ヒュドラを撃退した後、疲労困憊の3人が仲良くぶっ倒れていると突然扉が独りでに開いたのだ。すわ新手か!?と警戒したもののいつまでたっても特に何かが起こるわけでも無く。時間経過で少し回復したユエと最も重傷なハジメをその場に残して、いつの間にか元の姿に戻っていた社が確認しに扉の奥へ入ったのだ。

 

 神水の効果(ヒュドラ戦の後、影鰐(かげわに)の能力で保管していた神水も飲ませた)と『呪力反転』で大分回復しているとは言え、ハジメが重傷であることに変わりは無い。ユエと社もハジメ程では無くとも消耗していた為、そんな状態で新手でも現れたら一巻の終わりである。そのため、多少の無理を押してでも確かめなくてはならなかった。

 

 そうして踏み込んだ扉の奥にあったのは、反逆者の住処だった。

 

 内部には広大な空間に住み心地の良さそうな住居があり、罠や魔物等の危険が無いことを確認した社はユエとハジメを呼ぶと、寝室に案内して休ませたのだ。幸いな事に部屋は幾つかあった為、1人1部屋という贅沢っぷりである。

 

「ふぁ〜・・・久々に良く寝たぜ・・・」

 

 大きな欠伸をしながら、ベッドの上で背伸びをするハジメ。純白のシーツに豪奢な天蓋付きの高級感溢れるベッドは寝心地抜群であった。爽やかな風が寝起きのハジメの頬を優しく撫でる。部屋の中も上品な造りになっており、空間全体が久しく見なかった暖かな光で満たされている。

 

 どこか荘厳さすら感じさせる光景に浸っていたハジメだが、ふと社とユエがどうしているのか気になり、部屋を出る事にした。服を脱いだ覚えが無いにも関わらず全裸だった事に何故か身震いを覚えたが、幸い着替えはドンナー等の装備一式と共に目に付く所に置いてあった為すぐに身に付ける。ユエか社のどちらかが用意してくれていたのだろう。

 

 

 

 

 

「しかし、何度見てもとんでもないな・・・。」

 

 ベッドルームから出たハジメは、宙に浮く太陽を眺めながら感嘆の声を上げる。

 

 無論、本物では無いだろう。ここは地下迷宮の最奥であり、日光が入る余地など無い。ハジメの頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのだが、僅かに温かみを感じる上に蛍光灯のような無機質さを感じないため、思わず〝太陽〟と称したのである。

 

 感心するハジメの耳に心地良い水音が届く。天井近くの壁から大量の水が流れ落ちる音だ。ヒュドラを倒した後、開いた扉の先の部屋はちょっとした球場くらいの大きさの空間が広がっており、更に奥の壁は一面が滝になっていたのだ。

 

 滝から流れ落ちる水は川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいく。よく見れば魚も泳いでいるようで、もしかすると地上の川から魚も一緒に流れ込んでいるのかもしれない。

 

 川から少し離れたところには大きな畑もあった。と言っても今は何も植えられていないようだが。その周囲に広がっているのは、家畜小屋だろうか。動物の気配はしないのだが、水、魚、肉、野菜と素があれば、ここだけでなんでも自炊できそうだ。緑も豊かで、あちこちに様々な種類の樹が生えている。

 

 ハジメは川や畑とは逆方向、ベッドルームに隣接した建築物の方へ歩を進める。建築したというより岩壁をそのまま加工して住居にした感じだ。

 

 石造りの住居の壁や床は白く石灰のような手触りだ。全体的に清潔感があり、エントランスには温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。薄暗いところに長くいたハジメには少し眩しいくらいである。どうやら3階建てらしく、上まで吹き抜けになっている。

 

(感知系技能には反応が2つ・・・。社とユエか?取り敢えず中を探してーーーッ!?)

 

 いざ住居の中に参らん!と入り口のドアを開けようとしたハジメの背に、特大の悪寒が走る。生命の危機ーーーでは無い。何者に害意や殺意を向けられたわけでも無い。だが、迷宮内の死闘で培った勘と経験が、この先にハジメにとって良く無いものがあると警鐘を鳴らしていた。

 

(・・・中から社とユエの声が僅かに聞こえる。2人がこの先に居るのは間違い無い)

 

 ハジメが耳を澄ますと扉の先から声が聞こえる。声色から判断するならば十中八九ユエと社である筈だが、防音性が高いのか内容までは聞き取れない。他に物音はしない為、戦闘しているわけでも無いだろう。

 

(ええい、ままよ!)

 

 思考する事数秒。ハジメはドアノブを握り締めると、意を決して扉を開け放つ。この先に何が待っているのか分からないが、覚悟だけはしっかりと決める。そして。

 

「・・・黒頭にやられて絶望の淵にいた私に、ハジメは優しくキスをして。一緒に故郷に帰ろうって、プロポーズしてくれた・・・」

 

「はぁ〜〜〜何だよハジメの奴、やる事やってんじゃん!ここぞという場面でバッチリ120点叩き出すのは流石としか言いようがないな!」

 

 目の前で繰り出される会話に、決めた筈の覚悟が粉々になった。

 

(・・・・・・何でやねん)

 

 2人の会話を聞き、その場で彫刻の様に固まるハジメ。確かにユエにはキスした。その後で「一緒に生きて帰ろう」的な事も言った。全て事実ではある。客観的に見てプロポーズかと言われれば、まぁ半々くらいだろうが。

 

 ハジメ自身、早まったかと思わないでも無かったが、後悔は微塵もしていない。ヒュドラの放った精神作用魔法を跳ね除ける為と言う理由は有ったものの、ユエに向けた言葉には嘘偽りなど無かったからだ。だが、それをこんなにも早く社に知られるとは思いもしなかったのだ。

 

 無論、ユエ自身には悪意など欠片も無い。ぶっちゃけただの惚気である。が、友人の恋話に関して興味津々なのが社と言う男である。プライバシーも有るため根掘り葉掘り聞き出そうとはしないが、相手から話してくれるのであれば嬉々として耳を傾けるつもりだったので、結果的には全てを知られる事になってしまった。

 

「うん?おや、ハジメ。目が覚めたのか」

 

「・・・ハジメ?ーーーハジメ!」

 

「うおっ!」

 

 羞恥と混乱で固まっていたハジメの存在に、漸く気付いた2人。片手を上げ軽い返事をする社とは対照的に、ユエは感極まって押し倒す様にハジメに抱き付いた。

 

「わりぃ、随分心配かけたみたいだな」

 

「んっ・・・心配した・・・」

 

「ま、元気そうで何よりだ」

 

 胸に顔を埋めぐすっと鼻を鳴らすユエと、彼女の頭を優しく撫でるハジメ。そんな2人の様子を生暖かい目で見守る社。暫し穏やかな時間が流れたが、社の目線に気付いたハジメは照れを誤魔化す様に咳払いをしながら話題を振る。

 

「俺はどのくらい寝ていたんだ?」

 

「正確な時間は分からん。俺とユエさんが起きたのも1、2時間前だしな」

 

「そうか。・・・ユエと2人で探索してたのか?」

 

「ああ。神水と『呪力反転』で粗方治ったとは言え、1番重傷だったのはハジメだったからな。お前さんの怪我が酷くなってないか(主にユエさんが)確認した後、念の為周囲の警戒がてら探索してたんだよ。おかげで色々と見つける事が出来た」

 

 そう言うと社は説明を始める。今現在ハジメ達が居るのは、3階建の内の1階にある所謂リビングらしき場所である。この他にも台所やトイレ等も発見していたため、ここに長く人が住んでいたのは確定だろう。

 

「で、気になる点が幾つか。1つは、どの部屋も長年放置されていた割に綺麗過ぎる事。人の気配はしないし感知系技能にも反応は無いから誰か住んでる感じでも無いんだろうが・・・。まぁ、俺達を襲うタイミングなら幾らでもあったから敵ではないだろ。で、2つ目は入れない部屋が幾つかある事。扉の表札を信じるなら書庫と工房なんだが、開けようとすると同じ紋様が浮き出てくるから、共通して開ける方法があるんだろう。念の為後で錬成で開けられるか試してくれ。そして最後3つ目何だが・・・これに関しては実際に見た方が早そうだ。案内するから来てくれ」

 

「分かった。場所は?」

 

「3階の奥の部屋だ。つっても1室しか無いけどな」

 

 そう言って立ち上がる社とユエを見て、ハジメも頷きながら2人の後を追ったのだった。

 

 

 

 

 

「ところで・・・何故俺は裸だったんだ?」

 

 3階へと案内されている最中、ハジメは気になっていた事を聞く。何となく聞いておかなければならない気がしたのだ。

 

「そりゃ、血やら埃やらで汚れてたからな。そのまま寝かせるのも不味いと思って身綺麗にしたのさ、ユエさんが。気になるなら後で風呂に入ると良い。探索してた時に見つけたんだが、かなりデカかったぞ」

 

「マジか!風呂なんて何ヶ月ぶりーーー待て。今なんて言った?」

 

 喜びも一瞬、真顔になって聞き返すハジメ。確かに風呂は大事である。心の洗濯という言葉もある通り、日本人には必要不可欠な要素だろう。ハジメもその例に漏れはしないが、今はそれよりも引っかかる言葉があった。

 

「うん?ああ、安心しろ。俺はその場に居なかったからな。ユエさんが何をしたかなんて見ても聞いても無いさ」

 

「心配してんのはそこじゃねぇ。クソッ聞き間違いじゃなかった!」

 

「・・・ふふ・・・」

 

「まて、何だその笑いは!俺に何かしたのか!っていうか舌なめずりするな!答えてくれませんかユエさん!?」

 

 思わず敬語になりながらも激しく問い詰めるハジメ。だが、ユエは妖艶な眼差しでハジメを見つめるだけで何も答えなかった。

 

「・・・まあ良い。それよりもユエは何でそんな格好なんだ?」

 

 楽しそうな表情で一向に答えないユエに、色々と諦めて別の質問をするハジメ。奇妙な事に、ユエの服装は上質な1枚の布で全身をすっぽりと覆う様な格好だった。遠目から見れば雨合羽に見えなくも無い。

 

「・・・似合う?」

 

「・・・ノーコメント。で、どう言う事だ社」

 

 心なしか期待する様な目を向けるユエから顔を逸らしながら、社に矛先を向けるハジメ。因みに社の服装は白のカッターシャツに黒のスラックスと非常に手抜き、もといシンプルな格好である。

 

「いや、単純に女性用の服が無くてな。男物の服を無理に着ようとしてもサイズがブカブカで合わなかったんだとさ」

 

「それにしたってもうちょい何かーーー」

 

「で、何故かカッターシャツ1枚で済ませようとしたから慌てて止めたんだよ」

 

「ーーー良くやった社。お前はいつだって“正しいことの白”の中に居る!」

 

 清々しい迄の掌返しである。別にハジメとてユエが嫌いな訳では無い。寧ろ好みの部類に入るだろうが、今回に限ってはそれが問題なのだ。今は社という第三者がいるからまだ良い。が、もし隙を見て2人きりになろうものなら、その時にカッターシャツ1枚などという扇情的な格好で誘惑されたりでもしたら。ハジメの理性は音を立てて崩れ落ちるだろう。少なくともハジメ自身は我慢出来る気がしなかった。

 

(ユエの誘惑に負けるのはまだ良い。だが、それを社に知られたら俺は恥ずかしさで死にたくなる!変に揶揄ったりはしないだろうが、あの生暖かい目で見られるのは屈辱的でしかないっ・・・!)

 

 男の子には意地があるのだ。社に童貞卒業がバレた時の事を想像しながら、自分の理性に喝を入れるハジメ。だが、そんなちっぽけな覚悟は、ユエの前には余りにも無力だった。

 

「・・・因みに中には何も着てない・・・ハジメなら脱がして確かめても、それ以上でも、良い」

 

「ーーーーーーーーー」

 

 ハジメの耳元で強請(ねだ)る様に囁くユエ。理性が削られる等と言った話では無かった。削岩機を通り越してダイナマイト級の衝撃発言に、頭が真っ白になるハジメ。そんな姿を見たユエは、先程の妖艶さをそのままに薄く無邪気に笑うのだった。

 

 

 

 

 

「此処が問題の3つ目だ」

 

「・・・成る程な」

 

 案内された部屋の中央には、直径7、8m程の非常に精緻で繊細な魔法陣が刻まれていた。一種の芸術と言っても良いほどに見事な幾何学模様である。

 

 しかし、それよりも注目すべきなのは魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影ーーー否、白骨化した死体であろう。死体は黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っており、永く放置されていたであろう割には薄汚れた印象は無かった。

 

 その骸は椅子にもたれかかりながら俯いている。その姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろう。魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか。寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図はなんなのか・・・。

 

「・・・怪しい・・・どうする?」

 

「ユエさんの言う通り、何があるか全く予想がつかなかったからな。この部屋に関しては殆ど手付かずのまま、碌に調べてない」

 

 ユエと社もこの骸に疑問を抱いている様だ。おそらく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子もなく座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っているようである。

 

「まぁ、地上への道を探すなら、怪しい場所は全て調べるしか無いだろ。俺の錬成でもびくともしなかった書庫と工房の封印もある。調べない訳にはいかない」

 

「デスヨネー。じゃ、2人は待っててくれ。1番頑丈な俺が試すから何かあったら頼むわ」

 

「ん・・・気を付けて」

 

 社はそう言うと魔法陣へ向けて踏み出した。そして、社が魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

 

 眩しさに目を閉じる3人。直後、何かが社の頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからのことが駆け巡った。

 

 やがて光が収まり、目を開けた3人の目の前には、黒衣の青年が立っていた。

 

 魔法陣が淡く輝き、部屋を神秘的な光で満たす。中央に立つ社の眼前に立つ青年は、よく見れば後ろの骸と同じローブを着ていた。

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

 

 話し始めた彼はオスカー・オルクスというらしい。【オルクス大迷宮】の創造者のようだ。驚きながら彼の話を聞く3人。

 

「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか・・・メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。・・・我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

 そうして始まったオスカーの話は、ハジメ達が聖教教会で教わった歴史やユエに聞かされた反逆者の話とは大きく異なった驚愕すべきものだった。

 

 それは狂った神とその子孫達の戦いの物語。

 

 神代の少し後の時代、人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。領土拡大、種族的価値観、支配欲、何よりも〝神敵〟である事を理由として。だがそれは、神々が仕組んだものであったのだ。

 

 神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していた。神託という形で人々を巧みに操り戦争へと駆り立て、殺し合う様を見て楽しんでいたのだ。

 

 その事に気付き立ち上がったのが、〝解放者〟ーーー今伝わっている呼び方をするならば〝反逆者〟だった。

 

 彼らは皆例外無く神代から続く神々の直系の子孫であった。そのためか〝解放者〟のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまい、その所業に耐えられなくなり志を同じくするものを集めたのだ。

 

 力を付け仲間を集めた彼等は、〝神域〟と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止めた。〝解放者〟のメンバーでも先祖返りと言われる強力な力を持った7人を中心に、彼等は神々に戦いを挑もうとするがーーーその目論見は寸前で破綻してしまう。

 

 神は人々を巧みに操り、〝解放者〟達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである。結局、守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、〝解放者〟達は〝反逆者〟のレッテルを貼られ討たれていった。

 

 最後まで残ったのは中心の7人だけ。世界を敵に回し、自分達ではもはや神を討つ事は出来ないと判断した彼らは、バラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにした。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って。

 

 長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑む。

 

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかはわからない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。・・・君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

 

 そう話を締めくくり、オスカーの記録映像はスっと消えた。同時に、社の脳裏に何かが侵入してくる。ズキズキと痛むが、それがとある魔法を刷り込んでいたためと理解できたので大人しく耐えた。やがて痛みは収まり、魔法陣の光も消えていった。

 

「おい無事か、社?」

 

「ああ、問題無い。にしても予想通りと言うか、何と言うか。やっぱりこの世界の神は碌でも無い糞だったか」

 

「・・・ん・・・どうするの?」

 

 ユエがオスカーの話を聞いてどうするのかと2人に尋ねる。

 

「うん?別にどうもしないぞ?元々、勝手に召喚して戦争しろとかいう神なんて迷惑としか思ってないからな。この世界がどうなろうと知った事じゃないし。地上に出て帰る方法探して故郷に帰る。それだけだ」

 

 一昔前のハジメなら何とかしようと奮起したかもしれない。しかし、変心した価値観がオスカーの話を切って捨てた。お前たちの世界のことはお前達の世界の住人が何とかしろと。

 

「俺もハジメと同意見かなー。ただ、神が俺達を黙って見過ごす程甘くなければ、また話は変わるけどね」

 

 社の価値観に関しては元の世界に居た頃から変わらない。家族・身内・友人が最優先であり、その優先順位を崩さない程度に他人に親切にする。「他人に疎まれず、かと言って利用されない程度に親切にするのが敵を作らないコツよ」とは生前の■■からの教えだった。

 

 だが、ハジメを含む友人達がこの世界の事情に巻き込まれた時点で、他人に親切にする余裕は無くなった。もし仮にクラス全員とこの世界に住む全ての生物のどちらかを選べと迫られたのならーーー社は迷いなくクラスメイト達を選び、この世界を切り捨てるだろう。

 

「・・・ユエは気になるのか?」

 

 どこか慮る様に、ハジメはユエに問い掛ける。ユエはこの世界の住人だ。彼女が放っておけないというのなら、ハジメも色々考えなければならない。既にハジメにとって、ユエとの繋がりは軽くないのだ。そう思って尋ねたのだが、ユエは僅かな躊躇いもなくふるふると首を振った。

 

「私の居場所はここ・・・他は知らない」

 

 そう言って、ハジメに寄り添いその手を取る。ギュッと握られた手が本心である事を如実に語っていた。ユエは過去、自分の国のために己の全てを捧げたにも関わらず、信頼していた者達に裏切られ、誰も助けてはくれなかった。ユエにとって、長い幽閉の中で既にこの世界は牢獄だったのだ。

 

 その牢獄から救い出してくれたのはハジメだ。無論社にも感謝はしているが、ユエにとっての1番はあくまでもハジメである。だからこそハジメの隣こそがユエの全てなのである。

 

「・・・そうかい」

 

「お、照れてやんのー。何だよもうデレデレじゃないかチョロインかよーーーOK、俺が悪かった。だから静かに、ゆっくりと、俺に向けたドンナーを降ろして下さい。朗報があるんです」

 

「おう、額に風穴開けたくなけりゃ早く言えや」

 

 若干照れくさそうなハジメを揶揄う社だったが、銃口を向けられた途端に平謝りをする。そして、話を逸らす様に衝撃の事実をさらりと告げる。

 

「何と、新しい魔法ーーーそれも神代魔法ってのを覚えたみたいだ」

 

「・・・マジか?」

 

「・・・ホント?」

 

 信じられないといった表情のハジメとユエ。それも仕方ないだろう。何せ神代魔法とは文字通り神代に使われていた現代では失伝した魔法である。ハジメ達をこの世界に召喚した転移魔法も同じ神代魔法だった。

 

「この床の魔法陣が、神代魔法を使えるように頭を弄るみたいだ。迷宮内に居た時の記憶を読み取って、合格判定が貰えれば良いらしいな」

 

「・・・大丈夫?」

 

「あぁ、問題無さそうだよ。しかもこの魔法、ハジメのためにある様な魔法だ」

 

「ほぉ・・・どんな魔法だ?」

 

「魔法を鉱物に付加して、特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法らしい。名前もまんま生成魔法だとよ」

 

 社の言葉にポカンと口を開いて驚愕をあらわにするハジメとユエ。

 

「それが本当ならーーー」

 

「・・・アーティファクト作れる?」

 

Exactly(その通り)!」

 

 そう、生成魔法は神代においてアーティファクトを作るための魔法だったのだ。まさに〝錬成師〟のためにある魔法である。実を言うとオスカーの天職も〝錬成師〟だったりする。

 

「ハジメは勿論だけどユエさんも折角だから覚えたら?と言っても適性があるみたいで、どれだけ使い熟せるかは人によって違うっぽいけど」

 

「・・・錬成使わない・・・」

 

「まぁ、ユエはそうだろうけど・・・せっかくの神代の魔法だぜ?覚えておいて損はないんじゃないか?」

 

「そうだなー。俺も錬成使わないし、生成魔法の適性も実はほぼ無かったんだけど。でも、その辺を加味しても()()()()()()使()()()()()()()()だからな。取っといても良いと思うよ?」

 

「・・・ん・・・2人が言うなら」

 

 2人の勧めもあり、ハジメと共に魔法陣の中央に入るユエ。魔法陣が輝きハジメとユエの記憶を探る。そして、試練をクリアしたものと判断されたのか・・・。

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスry・・・」

 

 またオスカーが現れた。何かいろいろ台無しな感じだった。ハジメ達はペラペラと同じことを話すオスカーを無視して会話を続ける。

 

「どうよ2人共。無事修得出来た?」

 

「ん・・・した。でも・・・アーティファクトは難しい」

 

「そっか。ハジメはーーー聞かなくても良さそうだな?」

 

「ああ。こいつは正しく俺のためにある様な魔法だ。適性も十二分にある」

 

 手に入れた新たな力を噛み締める様に、口角を吊り上げて笑うハジメ。そんなことを話しながらも隣でオスカーは何もない空間に微笑みながら話している。すごくシュールだった。後ろの骸が心なしか悲しそうに見えたのは気のせいではないかもしれない。

 

「あ~、取り敢えず、ここはもう俺等のもんだし、あの死体片付けるか」

 

 ハジメに慈悲はなかった。

 

「ん・・・畑の肥料・・・」

 

 ユエにも慈悲はなかった。2人の声を聞いたのか、風もないのにオスカーの骸がカタリと項垂れた気がする。

 

「・・・墓石位は立ててやるかね」

 

 呪術の師匠でもある祖父が神社の神主の為、社だけは死者に対して慈悲があった。・・・無いよりはマシ、程度ではあるが。

 

 オスカーの骸を畑の端に埋め、墓石を建てた後。埋葬を終えた3人は封印されていた場所へ向かった。オスカーが嵌めていたと思われる指輪に十字に円が重った文様が刻まれており、それが書斎や工房にあった封印の文様と同じだったのだ。

 

 この指輪が鍵なのでは、と当たりをつけた3人は指輪を封印に近づける。すると紋様は光を放ちながら消えた。推測通り、指輪自体が部屋の鍵の役割をしていた様だ。

 

「最優先は、地上への帰還方法で良いんだよな」

 

「あぁ。兎に角此処から脱出しなきゃ話にならねぇからな。先ずは書斎だ」

 

 ハジメの声を皮切りに、3人は書斎を漁り始めた。一番の目的である地上への道を探らなければならないからだ。書棚にかけられた封印を解き、めぼしいものを調べていく。すると。

 

「ビンゴ!あったぞ、2人共!」

 

「おお、意外とアッサリ」

 

「んっ」

 

 ハジメから歓喜の声が上がる。見つけたのは、この住居の施設設計図らしきもの。どこに何を作るのか、どのような構造にするのかがメモのように綴られたものだ。設計図によれば、どうやら先ほどの三階にある魔法陣がそのまま地上に施した魔法陣と繋がっているらしい。オルクスの指輪を持っていないと起動しないようだ。

 

「・・・清掃機能付きの自律型ゴーレムに、太陽光と同質の光を放つ球体、か。オスカーはマジモンの天才だったらしいな」

 

「神の系譜って言うのは伊達じゃ無かった訳だ。工房の方も期待できそうじゃないか?」

 

 そう言ってニヤリと笑うハジメと社。設計図によれば、工房には生前オスカーが作成したアーティファクトや素材類が保管されているらしい。是非とも譲ってもらうべきだろう。道具は使ってなんぼである。

 

「ハジメ・・・これ」

 

「うん?」

 

「これは・・・手帳?」

 

 ハジメが設計図をチェックしていると他の資料を探っていたユエが一冊の本を持ってきた。どうやらオスカーの手記のようだ。かつての仲間、特に中心の7人との何気ない日常について書いた物の様である。

 

 その内の一節に、他の6人の迷宮に関することが書かれていた。

 

「・・・つまり、あれか?他の迷宮も攻略すると、創設者の神代魔法が手に入るということか?」

 

「可能性はあるな。上手くいけば・・・」

 

「・・・帰る方法見つかるかも」

 

 手記によれば、オスカーと同様に6人の〝解放者〟達も迷宮の最深部で攻略者に神代魔法を教授する用意をしているようだ。生憎とどんな魔法かまでは書かれていなかったがユエの言う通り、その可能性は十分にあるだろう。実際、召喚魔法という世界を越える転移魔法は神代魔法なのだから。

 

「だな。これで今後の指針ができた。地上に出たら七大迷宮攻略を目指そう」

 

「あいよ」

 

「んっ」

 

 明確な指針ができて頬が緩むハジメ。思わずユエの頭を撫でるとユエも嬉しそうに目を細めた。そして、その様子をニヤニヤと眺める社と、視線に気づき顔を赤らめるハジメ。・・・このやり取りは暫くテンプレートになりそうであった。

 

 それからしばらく探したが、正確な迷宮の場所を示すような資料は発見できなかった。現在、確認されている【グリューエン大砂漠の大火山】【ハルツィナ樹海】、目星をつけられている【ライセン大峡谷】【シュネー雪原の氷雪洞窟】辺りから調べていくしかないだろう。

 

「さて、それじゃあ次はいよいよお待ちかね」

 

「工房探索だな!」

 

 書斎をあらかた調べ終え、3人が次に向かったのは工房である。中には小部屋が幾つもあり、その全てをオルクスの指輪で開くことができた。小部屋内部には様々な鉱石や見たこともない作業道具、理論書などが所狭しと保管されており、錬成師にとっては楽園かと見紛うほどである。

 

 ハジメは、それらを見ながら腕を組み少し思案する。そんなハジメの様子を見て、ユエが首を傾げながら尋ねた。

 

「・・・どうしたの?」

 

 ハジメはしばらく考え込んだ後、ユエと社に提案する。

 

「2人共、暫くここに留まらないか?さっさと地上に出たいのは俺も山々なんだが・・・せっかく学べるものも多いし、ここは拠点としては最高だ。他の迷宮攻略の事を考えても、此処で可能な限り準備しておきたい。どうだ?」

 

 ユエは三百年も地下深くに封印されていたのだから一秒でも早く外に出たいだろうと思ったのだが、ハジメの提案にキョトンとした後、直ぐに了承した。不思議に思ったハジメだが・・・。 

 

「・・・ハジメと一緒ならどこでも良い」

 

 そういうことらしい。ユエのこの不意打ちはどうにかならんものかと照れくささを誤魔化すハジメ。

 

「おいおいおいおい、そこは「俺もだぜ、ユエ」って言ってあげるとこだろー。好意ってのは口に出して伝えるものだぞ?」

 

「ウルセェ!外野は引っ込んでろ!」

 

「・・・ハジメは、言ってくれない・・・?」

 

「あぁ、いや、そうじゃ無くてだなーーー社っ!テメェ他人事だからってゲラゲラ笑ってんじゃねぇ!」

 

 先程までの真剣な空気は霧散し、再び騒ぎ始めるハジメ達。結局、3人はここで可能な限りの鍛錬と装備の充実を図ることになった。

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