ありふれない怨霊こそ世界最愛 作:白紙
隠れ家生活 初日(0日目)
ハジメの提案により、暫くの間オスカーの隠れ家に滞在する事になった。期限については厳密に決めてはいないが、工房でのハジメの浮かれ具合を見ると最抵でも1月はかかるだろう。何と言うか、此方の世界に来てから初めてと言って良い程に目の輝きが違っていた。
話を聞くにオスカーの残した素材や設計図を見た事で、創作意欲が大いに刺激されたらしい。今まではハジメの頭の中にのみあった空想が、努力次第で現実に作り出せるかもしれない所まで来たのだから、確かにテンションが爆上がりするのも理解出来る。
だが、ハジメは気付いていない。オスカーの残した物に夢中になる余り、構って貰えなくて不機嫌になっていく人物がいる事を。何を隠そうユエさんである。
ユエさんの性格上、ハジメの作業の邪魔をするとは考え難い。余り我儘を言うタイプでは無さそうだし、ハジメに迷惑を掛けるのも本意では無いだろう。どちらかと言えば、ハジメがユエさん自身に興味を向けたくなる様な言動をするタイプの筈だ。それらの事実が意味するのは、即ち
今の今まで、ユエさんは恐らく本気でハジメを誘惑しようとはしていなかった。・・・いや、この言い方だと
だが、今は違う。ユエさんを遮る諸々の事情は既に無いに等しい。彼女は満を辞して
現に先程ユエさんから「・・・今夜仕留める」と短くも覚悟の込もった御言葉を頂いた。要するに俺に静観していてくれと言いたいのだろうが、真正面から堂々と伝えに来るとは恐れ入る。ユエさんマジ男前。
恋する乙女を邪魔する権利など、俺は持ち合わせていない。よって「了承したーーー健闘を祈る」とサムズアップしながら即答した俺は間違っていない筈だ。その言葉を聞いたユエさんも一瞬大きく目を見開いたものの、俺の意思が伝わったのか「・・・ありがとう」と一言残し、去って行った。向かう先は唯一つ、ハジメがいる大浴場だろう。彼女の後ろ姿に、己が身一つで戦場に向かわんとする歴戦の戦士の姿を幻視した。
ユエさんは言わずもがな、ハジメにしたってユエさんを憎からず想っているだろう。ならば、助言やらを乞われるまでは俺の様な外野は黙って見守るに越した事は無いと思う。2人の事なのだから、2人で決めるべきだろう。誰かが望んだ幸せを、何の関係も無い他人が否定するのは許されない事だと思うから。
と、まぁそれっぽい事を書いたものの、今夜一晩でハジメが堕ちるとは思っていない。いや、時間の問題ではあるだろうが。ただ、元の世界で白崎さんに大なり小なりアプローチ(空回り気味だったが)されていたにも関わらず、袖にしていたのがハジメという男である。口説き落とすのは中々に骨が折れるだろう。
俺の予想では、最速で半月持つか持たないかと言った所だ。本能に負けるその日まで、ハジメの理性がどこまで保つか見ものである。
隠れ家生活 1日目
ハジメは既に陥落していた。即堕ち2コマかな?
その事実に気付いたのは本当に偶然だった。オスカー作の人工太陽(何と時間経過で月に変わるシロモノ)から降り注ぐ朝日を浴びて目覚まししていたハジメに、俺は鎌掛けをしたのだ。内容は単純、某有名RPGの台詞「ゆうべは お楽しみでしたね」と言っただけである。
普段なら呆れた目で見られるか鋭いツッコミに切り捨てられるだけの一言は、しかしこの場に置いては致命の一撃となった。タイプ一致+効果は抜群+急所に当たった、と言えば分かる人には分かるだろう。
その言葉を聞いた瞬間、ハジメは見た事も無いくらいに耳まで顔を赤くして、凄まじく
事ここに至って漸く、俺はユエさんを舐めていた事を自覚したのだ。決してハジメの理性がクソ雑魚ナメクジだったのではーーーいや、それも原因の1つではあろうが。真に称賛すべきはユエさんの果断さと狡猾さだろう。
見た目的には12、3歳と、決して大人びているとは言えない外見から繰り出される、歳上が持つ妖艶さ。俺自身、■■ちゃんが居なければ何度か見惚れていたかもしれない艶やかさは、そのギャップ効果も含めてハジメにクリティカルヒットしていたのだ。
重要なのはそこだけではない。昨日の日記で「ユエさんは本気でハジメを誘惑しようとはしていなかった」などと書いていたが、それも正しくは無かった。今まで本気に見えなかったアプローチは、迷宮内で気を張っていたハジメに
成程、幸利から借りた漫画に描かれていた「合戦そのものはそれまで積んだ事の帰結」という台詞は非常に的を射ていた。恋愛と言う名の合戦において、ユエさんは怠る事無く最善の選択を積み上げてきたのだろう。脱帽である。
いや、マジでおっかなかった。d◯dの
そんなこんなで始まった追いかけっこは、昼過ぎにユエさんが起きて来るまでの間ずっと続いていた。初日からこんなんで大丈夫なのか俺達。
隠れ家生活2日目
本日から本格的に準備期間に入った。ハジメはオスカーが残したアーティファクトや設計図を元に、生成魔法を駆使して色々と創り出そうとしている。ユエさんはその付き添いだ。
俺もハジメに頼み事があったりするんだが、優先順位は低いから後回しで良いだろう。それよりも、俺は俺で色々確かめなきゃいけないことがある。下記に記すのは、今の俺のステータスだ。
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宮守社 17歳 男 レベル:99
天職:呪術師
筋力:4530 [+憑依装殻時 最大1.25倍]
体力:4400 [+憑依装殻時 最大1.25倍]
耐性:4820 [+憑依装殻時 最大1.25倍]
敏捷:4050 [+憑依装殻時 最大1.25倍]
魔力:2020
魔耐:4100 [+憑依装殻時 最大1.25倍]
技能:宿■樹[+被憑依適性][+■■■■憑依][+憑依装殻]・呪力生成[+呪力操作][+呪力反転][+黒閃]・呪術適性[+呪想調伏術][+怨嗟招来][+式神調][+複数召喚]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+豪脚][+瞬光]・風爪・夜目・遠見・気配感知・魔力感知・熱源感知・気配遮断・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・全属性耐性・物理耐性・剣術・剛力・縮地・先読み・金剛・威圧・悪意感知[+範囲上昇]・念話・言語理解
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ステータス値に関してはもう突っ込まない。レベルの上限は100までとメルドさんは言ってたが、魔物肉を食べた俺達にその理屈が通用するかは分からないしな。ヒュドラ戦前と比較して大きく変わったのは下記の通り。
①宿聖樹⇒宿■樹への変更(変質?)
②派生技能[+
③派生技能[+黒閃]の追加
④派生技能[+複数召喚]の追加
⑤派生技能[+瞬光]の追加
⑥派生技能[+範囲上昇]の追加 以上、6点である。
我が事ながら、どこから手を付けたものかと頭を抱えたくなる。取り敢えず分かり易く整理しよう。③の[+黒閃]と、⑤の[+瞬光]はヒュドラ戦で派生した技能だろうから取り敢えず除外して良い。
④の[+複数召喚]については、後々検証が必要だろう。ヒュドラ戦で2体までしか呼ばなかったのは、
問題は残りである。①及び②それと⑥の技能は、■■ちゃんとの『縛り』が正常化した際に発現したものだろう。■■ちゃんとの繋がりがより強固なものになった結果、俺の肉体に分かり易い変化として現れたのだと思う。
怨霊となった■■ちゃんに呪われて早10年弱。爺さんには「お前の身に何が起きても不思議では無いのだから気を付けろ」と口酸っぱく言われていたので、この変化を見ても特に動揺は無い。正直な所、今更感が強いと言うか、その辺りは最初から覚悟していた事でもあるからだ。
実際問題、少なくとも俺が知覚出来る範囲では異常は起きていない。今日1日、軽く調子を確かめたが肉体に違和感は無く、呪力操作や術式に関しても変化は無い。それどころか何時にも増して調子が良くなっている気がする。
これが『黒閃』をキメたからなのか、それとも一時的とは言え■■ちゃんとの融合を果たしたからなのかは俺には判断がつかない。この辺りは手探りで少しづつ確かめるしか無いだろう。
隠れ家生活 3日目
本日・・・と言うか当面の課題は主に2つ。〝複数召喚〟で何がどこまで出来るのかの確認と、〝憑依装殻〟使用時のメリット・デメリットの確認である。後者に関しては本当に未知数である為、慎重に確認する事にして。取り敢えず危険性の少なそうな〝複数召喚〟の方からやっていく事にした。
その前に簡単におさらいしよう。『
順転の術式である『
話が逸れた。一方で『式神調』の方はと言うと、俺が『呪力反転』を得手とするからか非常に扱い易い能力をしている。式神の作製には「俺と特定の相手がお互いに一定以上の好感情を向けている」必要があるが、出来上がるのはどれも粒揃いの、非常に強力な式神になっている。
無論、弱点がない訳では無い。まず、
そしてもう1つの弱点が、■■ちゃんも含めて複数召喚出来ない事だった。呼び出せる式神はその殆どが特化型と言うか、役割がハッキリしていた。その為、状況をしっかりと把握した上で、その場に即した式神を呼ぶ必要がある。
コレに関しては欠点と言うか、俺の落ち度だろう。折角の強力な式神でも俺が使い熟せないのなら意味は無い。元の世界ではその辺りどうにかしようと腐心した覚えがある。
が、今回の件で複数召喚が可能になるならば話は変わる。例えば特化型の式神と汎用性の高い式神をそれぞれ呼び出せるのなら、それだけで対応力やら柔軟性は非常に高くなる。同時使用による相乗効果も見込めるので、戦術的な価値は非常に高くなるだろう。
と、言う訳で百聞は一見にしかず。色々と試行錯誤した結果、
呪力消費に関しても想像より少なかった為、実戦使用のハードルも大分下がっていた。この子達マジ優秀。ただし、■■ちゃんを呼び出している間は相変わらず呼び出せなかったが。まぁ、■■ちゃんが強過ぎるので大した問題にはならないと思う。
しかし、予想外の問題・・・いや、問題かコレ?別に危険性は無いっぽいんだけど。どうコメントすれば良いのやら。明日以降はこれについて調べなきゃならん。
隠れ家生活 6日目
前回日記を書いた所から丸3日たった。先日見つけた問題点・・・と言え無くも無い件について、大まかな内容が把握できたので記す。
気付いた切っ掛けは、俺が「式神を3体以上呼び出した時」である。検証の為に3体目の式神を呼び出した所、先に呼んでいた〝
声を掛けても反応しなかった為、不思議に思いつつも頭から下ろしてみた俺は自分の目を疑った。なんと狗賓烏は見事な鼻提灯を作ってスヤスヤ眠っていたのだ。まごう事なき爆睡である。お前は野比の◯太君か。
余りにも予想外の反応に、オイオイ嘘だろと何とも言えないやるせ無さに包まれた俺。だが、ふと狗賓烏の元になった奴も凄まじいまでにグータラな奴だった事を思い出した。
そこからは早かった。ものは試しと式神を呼び出すと、あろう事か
呆気に取られながらも式神達を観察したところ、俺が制御出来る数を超えて呼び出された式神達は、元となった人物を想起させる行動を取る事が分かった。
1番人柄が出てたのは〝
で、俺に反抗的なのが〝
逆に、俺から頑なに離れようとしない式神もいた。〝
コイツらは兎に角距離が近い。俺の肩やら胸やら首やらにくっ付いて離れる気配がまるで無い。なんなん、俺の事
しかも何かビミョーに仲がよろしく無さそうにも見える。嫌な沈黙というか、静かに牽制し合っている様な気がするし。何時の間にやら近づいて来た燻り狐と狗賓烏もそこに混じって睨み合ってるし。君ら皆女の子じゃないの?なんでそんなギスってんの。怖。〝
因みに残った式神である〝
ペットショップを
隠れ家生活 15日目
本日はハジメに頼まれて、開発品の試験を行った。
約2週間という短い時間に、ハジメは義手(オスカーが残した物にハジメが手を加えた代物)のみならず、ドンナーとは異なるもう1丁のリボルバー拳銃(名をシュラークと言うらしい)、そして神結晶を素材とした特殊な
今回はそれら3点の試運転と言う事で、俺には動く的になって欲しいとの事。いや、別に良いんだけどね?弾は魔力だから当たっても痛いだけで傷付かないし。ただ、ユエさんに応援されたからって余計に気合いを入れるのはヤメロ。被害は全部俺に来るんだぞ。
そんな俺の内心など知らぬとばかりに試験は開始された。ハジメは如何やら基本戦術をドンナー・シュラークの2丁拳銃によるガン=カタに決めたらしく、2つの銃口は左右の違和感無く俺に狙いを定めていた。
義手の方も見た感じでは違和感無く動いていた。後で聞いた話によると、魔力の直接操作で本物の腕と同じように動かすことが出来る他、色々とギミックを仕込んであるらしい。不謹慎だが少しカッコいいと思ってしまった。
そして
具体的に言うと、魔力の流れや強弱、属性を色で認識できるようになった上、発動した魔法の核(魔法の発動を維持・操作するためのものらしい)が見えるようになったとか。
相手が放つ魔法の種類や威力を事前に知ることができる上、核を撃ち抜く事で魔法を破壊することが出来ると聞いた時には驚いた。核を狙い撃つのは針の穴を通すような精密射撃が必要らしいが、一方的に魔法を打ち消せるのは大きなメリットである筈だ。頑張って習得してくれハジメ。銃弾パリィは夢と浪漫が溢れているぞ。
一通り試験が終わった後、ハジメには俺用の武器の製作を依頼した。近接武器のみではあるが、ハジメが思い付く限りの様々な種類の武器を作って欲しいと頼んだのだ。
片眉を上げ訝しげに俺を見るハジメだったが、事情を話すと快くOKを出してくれた。持つべき者は理解ある友人である。
尚、最後にボソッと「多少なら趣味に走っても良いよな・・・?」と呟いたのは聞かなかったことにした。俺は信じてるからなハジメ!
隠れ家生活 17日目
作製する武器の細部をハジメと粗方詰めた後。出来上がるのを待つ間、俺はいよいよ〝憑依装殻〟の使用に踏み切った。
身体能力を初めとした魔力以外のステータスや、呪力の出力・総量・操作等が格段に上昇する以外は全くの未知数であるこの技能。ハジメやユエさんには難色を示されたが、流石にこのまま放置する訳にもいかなかった。
これから先この技能を使うにしろ使わないにしろ、メリット・デメリットを把握しておくのは必須である。ならば、余裕のある今の内に試しておいた方が良いだろう。
呪力の消費は?肉体的な負担は?回数制限は?ON/OFFは?この状態で術式に大きな変化はあるのか?どれだけ長くこの状態を保てるのか?肉体の一部のみの変化は可能か?パッと考えつくだけでもこれだけあるのだ。重大な欠点を見過ごした結果、肝心な所で役立たずになるのを防ぐ為にも、念入りに調べなければ。
・・・なんて、大層な事をつらつらと書いてみたが。実際は新しく出来た■■ちゃんとの繋がりを俺が手放したくないだけだ。我ながら女々しい気もするが、同時に俺らしいなとも思った。