ありふれない怨霊こそ世界最愛   作:白紙

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今回から2章突入です。後、前話の後書きにて社がいた事による原作との変更点を1つ書き忘れていたので追加しました。まだ描写していないので透明にしておきますが、内容としては「『呪力反転』により神水の節約が出来たので、原作よりもストックが増えている。具体的には試験管型保存容器12本分→24本分になっている。」です。


2章.第2の迷宮
33.ライセン大峡谷と残念なウサギ


 ーーー【ライセン大峡谷】。谷底への平均深度は1.2km、幅は900mから最大8kmと、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断する、まさに大地の傷跡とも言うべき場所。断崖の下はほとんど魔法が使えないにも関わらず、多数の強力にして凶悪な魔物が生息しているこの地は、この世界に住む人間にとっては地獄に等しい場所でもあった。

 

 そんな過酷過ぎる環境である事から、大罪人の処刑場としても使われてるライセン大峡谷。その谷底にある洞窟の入口から、複数の人影が現れた。我先にと飛び出した3つの人影は呆然とした様子で空を見上げると、暫しの間固まった様に動かなくなる。そして。

 

「よっしゃぁああーー!!戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」

 

「んっーー!!」

 

「Yeahhh!!」

 

 ハジメとユエ、社の3人が思い思いに歓声を上げた。

 

「ちゃんと地上に繋がっててマジで良かった!魔法陣が繋がってた先が洞窟だった時は泣きたくなったからな!」

 

「ユエの言う通り、秘密の通路なんだから隠しとくのは当然と言えば当然なんだがな・・・」

 

「・・・ん・・・隠すのが普通」

 

 心底安堵したと言わんばかりにため息を吐く社とハジメ。オスカーの魔法陣に転送された先には、別の洞窟が広がっていた。その光景を見たハジメと社は落胆に膝を突きかけたのだが、ユエの言葉を聞いて気を持ち直したのだった。

 

 洞窟内部は灯1つ無い真っ暗な状態であり、道中には幾つか封印が施された扉やトラップもあった。が、3人とも暗闇をものともしない上に、罠や封印はオルクスの指輪が反応して全て勝手に解除されたので、問題にはならなかった。

 

 拍子抜けするほど何事もなく洞窟内を進んで行った先で、一行は遂に光を見つける。その瞬間、3人は思わず立ち止まりお互いに顔を見合わせた。それから互いにニッと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出しーーー待望の地上へと出たのだった。

 

 

 

(あー長かった。何ヶ月ぶりだよ?よくもまぁ生きて帰れたもんだが・・・)

 

 地の底とはいえ頭上の太陽は燦々(さんさん)と暖かな光を降り注ぎ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐる。自分達は確かに地上に居るのだと実感しながら、社は違和感の正体を探る。

 

(・・・この世界に来てから奈落の底に堕ちるまでずっと感じていた、推定〝神〟からの悪意が感じられない。今感じ取れるのは・・・恐らくはこの谷に住む魔物達が、俺達3人に向ける敵意だけか)

 

 小柄なユエを抱きしめたハジメは、喜びを表す様にくるくると廻る。はしゃぎ回る2人を微笑ましく思いながらも、社は周囲への警戒を強める。

 

(迷宮深部にまでは悪意が届かなかっただけかも知れないが・・・〝神〟は俺達が生きている事を認識出来ていないのか?神と言えども全知全能では無いのか・・・今の所は気付かれてなさそうだが、まぁ時間の問題かね)

 

 そう結論付けて、一旦思考を打ち切る社。社が新しく得た〝悪意感知〟の派生技能である[+範囲上昇]は、自らだけでなく周囲の人に向けられる悪意すらも感じ取れる様になる技能だった。〝悪意感知〟の欠点の1つである「自分以外に向けられた悪意は、手遅れになるまでに強いものでなくては気付けない」を克服した事になる。

 

 尚「これが最初からあれば、ハジメは奈落に堕とされずに済んだかなー」と地味に凹んだ社に対して、「奈落に堕ちなきゃユエにも会えなかったから気にすんな」と言ったハジメに、ユエと2人揃って「トゥンク・・・」したのは余談である。

 

 

 

「おーい、2人共。イチャイチャすんのは構わないけど、お掃除が先だぞー」

 

 武器を取りながらハジメとユエに声をかける社。一方の2人はと言うと、社の声にイチャつくのを止めてすぐ様臨戦体制を整える。その切り替えの余りの速さに、声をかけた社自身が苦笑した。

 

「おう、了解。全く無粋なヤツらだな。・・・確かここって魔法使えないんだっけ?」

 

 ドンナー・シュラークを抜きながらハジメが首を傾げる。座学に励んでいたハジメと社は、ここが【ライセン大峡谷】であり碌に魔法が使えない場所である事を理解していた。

 

「・・・分解される。でも力づくでいく」

 

「うーん、この強キャラ感よ。ユエさんまじ頼もしいわー」

 

 ライセン大峡谷で魔法が使えない理由は、発動した魔法に込められた魔力が分解され散らされてしまうからである。勿論それはユエの魔法も例外では無い。が、ユエはかつて最強の名を欲しいままにした吸血姫。内包魔力は桁違いな上に、今は外付け魔力タンクである魔晶石シリーズを所持しているのだから、魔力を分解される前に大威力を持って殲滅する事も不可能では無い。

 

「力づくって・・・効率は?」

 

「・・・10倍くらい」

 

 どうやら初級魔法を放つのに上級レベルの魔力が必要らしく、射程も相当短くなるようだ。ゴリ押しにも限度はあったらしい。

 

「あ~、じゃあ俺と社がやるからユエは身を守る程度にしとけ」

 

「うっ・・・でも」

 

「いいからいいから、適材適所。ここは魔法使いにとっちゃ鬼門だろ?任せてくれ」

 

「ユエさんも言ってたけど、俺達は一蓮托生なんでしょ?だったら、少しくらい任せてくれて良いよ?」

 

「ん・・・わかった」

 

 ユエが渋々といった感じで引き下がる。せっかく地上に出たのに、最初の戦いで戦力外とは納得し難いのだろう。少し矜持(きょうじ)が傷ついたようで、唇を尖らせて拗ねている。そんなユエの様子に苦笑いするハジメ。

 

「後で俺の分までフォロー入れといてくれよ?」

 

「お前に言われるまでもねぇよ」

 

「ワオ即答。彼氏らしさが板について来たなぁオイ」

 

 社と軽口を叩きながら、ハジメはおもむろにドンナーを発砲した。相手の方を見もせずにごくごく自然な動作でスっと銃口を向けると、ジリジリと距離を詰めて来る魔物の一体に向け、これまた自然に引き金を引いた。

 

 あまりに自然すぎて攻撃をされると気がつけなかったようで、ハジメ達を取り囲もうとしていた魔物の一体が何の抵抗もできずに頭部を爆散させ死に至った。辺りに銃声の余韻だけが残り、魔物達は何が起こったのか分からずに凍り付いている。

 

「レールガンも一応撃てるのか。魔力の消費は?」

 

「ユエの言う通り、体感で10倍くらいだな。さて、奈落の魔物とお前達、どちらが強いのか・・・試させてもらおうか?」

 

 スっとガン=カタの構えをとり、ハジメの眼に殺意が宿る。それにつられる様に、社もまた殺意を宿して刀を抜き放つ。2人の眼を見た周囲の魔物達は無意識の内に一歩後退っていた。自分達が敵対してはいけない化物を相手にしてしまった事を、本能で感じ取ったのだろう。

 

 常人なら其処にいるだけで意識を失いそうな壮絶なプレッシャーが辺り一帯を覆う中、遂に魔物の一体が緊張感に耐え切れず咆哮を上げながら飛び出した。

 

「ガァアアアア!!」

 

 ジャララララ!!

 

 しかし、それと同時。チェーンを振り回す様な音が響き渡ると、空に鈍色の線が走り複数の魔物の肉体が綺麗に両断される。社が振るった日本刀型呪具〝天祓(あまはらい)〟が蛇腹剣宜しく刀身を分割・伸縮し、周囲の魔物を切り裂いたのだ。

 

「・・・やっぱり変形機構は浪漫があるな」

 

「それは同感。それじゃあ、さっさと殺っちまおうか」

 

 そこから先は、もはや戦いではなく蹂躙。魔物達はただの一匹すら逃げることも叶わず、頭部を吹き飛ばされるか五体を斬り刻まれて骸を晒していく。辺り一面が魔物の屍で埋め尽くされるのに3分もかからなかった。

 

 ドンナー・シュラークを太もものホルスターにしまったハジメは、首を僅かに傾げながら周囲の死体の山を見やる。その傍に、トコトコとユエが寄って来た。

 

「・・・どうしたの?」

 

「いや、あまりにあっけなかったんでな・・・ライセン大峡谷の魔物といやぁ相当凶悪って話だったから、もしや別の場所かと思って」

 

「・・・ハジメと社が化物」

 

「それについては否定出来ないねー」

 

「ひでぇ言い様だがな。まぁ、奈落の魔物が強すぎたってことでいいか」

 

 そう言って肩を竦めたハジメは、もう興味がないという様に魔物の死体から目を逸らすと、2人にこれからの方針について話す。

 

「さて、この絶壁、登ろうと思えば登れるだろうが・・・どうする?ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」

 

「・・・なぜ、樹海側?」

 

「いや、峡谷抜けていきなり砂漠横断とか嫌だろ?樹海側なら、町にも近そうだし」

 

「成る程そりゃそうだ」

 

 ハジメの提案に、ユエと社も頷いた。魔物の弱さから考えても、この峡谷自体が迷宮というわけではなさそうだ。ならば、別に迷宮への入口が存在する可能性はある。ハジメと社の持つ〝空力〟やユエの風系魔法を使えば絶壁を超えることは可能だろうが、どちらにしろライセン大峡谷は探索の必要があったので特に反対する理由もない。

 

 ハジメは右手の中指にはまっている〝宝物庫〟に魔力を注ぎ、魔力駆動二輪を取り出す。運転手のハジメが颯爽と跨ると、その後ろにユエが横乗りして腰にしがみついた。社はと言うと、着脱可能なサイドカーに座り込む。こちらもハジメが凝りに凝って作成したので、長い間座っていても疲れづらい一品となっている。

 

「良いなー。俺も運転したいなー。また後で貸してくれよ」

 

「散々オスカーの隠れ家で運転してたじゃねーか。つーか何で俺よりも運転上手かったんだお前は・・・」

 

「そりゃ爺さんに教わったからな」

 

 バイクを駆りながら雑談するハジメと社。この自動二輪、魔力の直接操作によって車輪関係の機構を動かしているので、魔力操作が可能なら誰でも運転出来る。最も、魔物を除けばそんな事出来る人物はこの世界に殆ど存在しないだろうが。当然エンジンも燃焼機構を使っている訳では無いので、速度調整は魔力量次第、運転駆動音も非常に静かである。ハジメとしてはエンジン音がある方がロマンがあると思ったのだが、エンジン構造などごく単純な仕組みしか知らないので再現できなかった。

 

「・・・社の、お爺様?」

 

「そーそー。俺の実の祖父で、呪術師としての師匠でもある人」

 

「あの人からバイクの運転を?厳格そうな人に見えたんだが、人は見かけによらねぇな」

 

「あー、それは猫被ってるだけだ。あの爺様、今時の若者には寡黙で渋くてダンディな方がウケが良いと本気で思ってるからな。ハジメ達の前でなければ結構ファンキーなジジイだぞ」

 

「ウッソだろ!?お前ら一族揃いも揃って猫被り上手かよ!!」

 

「・・・お茶目な人?」

 

 ギャアギャアと騒ぎながら、ハジメは軽快に魔力駆動二輪を走らせていく。車体底部の錬成機構が谷底の悪路を整地しながら進むので、揺れや振動も無く実に快適である。

 

 ライセン大峡谷は基本的に東西に真っ直ぐ伸びた断崖のため脇道等は殆ど無い。道なりに進めば樹海に到着するので迷う心配も無く、3人は迷宮への入口らしき場所を探すのに集中する。もっとも谷底には魔物がウヨウヨいる為、襲われる度にハジメと社が蹴散らしているのだが。

 

「ーーー2人とも、この先に大物がいる。心の準備だけしといてくれ」

 

 暫く魔力駆動二輪を走らせていると、〝悟り梟(視覚強化)〟と〝木霊兎(ソナー)〟を使っていた社が反応する。その後すぐにそれほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。中々の威圧感である為、少なくとも今まで相対した谷底の魔物とは一線を画すようだ。

 

「接敵まで30秒ほどーーーおや」

 

「あん?どうした社?」

 

「魔物達に追いかけられている人間がいる」

 

 魔力駆動二輪を走らせ突き出した崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。その見た目を一言で表すならば、双頭のティラノサウルスモドキだろう。だが、真に注目すべきは双頭ティラノでは無く、その魔物に追われている2()()()の存在だろう。

 

 2人組の片割れはウサミミを生やした少女である為、耳が飾りでないのなら亜人ーーー兎人族なのだろう。半泣きになりながら今も必死に逃げ回っている。もう片方は顔を包帯か何かでぐるぐる巻にしているので、種族はおろか性別すらも分からない。逃げ回りながらも隙を見てはティラノに蹴りを入れているが、効いた様子も無く焼け石に水の状態だった。

 

「何だあれ?」

 

「・・・兎人族?」

 

「片方は多分そうじゃないかな。もう片方は分からんけど」

 

「なんでこんなとこに?兎人族って谷底が住処なのか?」

 

「・・・聞いたことない」

 

「じゃあ、あれか?犯罪者として落とされたとか?処刑の方法としてあったよな?」

 

「・・・悪ウサギ達?」

 

 魔力駆動二輪を止めた3人は首を傾げながら、逃げ惑うウサミミ少女達を尻目に呑気にお喋りに興じる。助けるという発想は無いらしい。ウサミミ少女が犯罪者であることを考慮したーーー訳ではない。赤の他人である以上、単純に面倒だし興味がなかっただけである。

 

 ハジメは既にこの世界自体を見捨てている。ユエの時とは違い、少女達にシンパシーなど感じてもいない。メリットも見当たらない以上ハジメの心には届かない。助けを求める声に毎度反応などしていたらキリがないのである。

 

 一方の社だが、基本的に優先すべきは身内・友人という考えなので「2人が助けたいならそうしようかなー」位にしか思っていない。無論例外もあるが、今の所はハジメとユエの意見に合わせるつもりである。

 

 しかし、そんな呑気な3人をウサミミ少女の方が発見したらしい。双頭ティラノに吹き飛ばされ岩陰に落ちたあと、四つん這いになりながらほうぼうの体で逃げ出し、その格好のままハジメ達を凝視している。

 

 そして、再び双頭ティラノが爪を振い隠れた岩ごと吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がると、その勢いを殺さず猛然と逃げ出した。・・・ハジメ達の方へ。それなりの距離があるのだが、ウサミミ少女の必死の叫びが峡谷に木霊しハジメ達に届く。

 

「だずげでぐだざ~い!ひっーーー死んじゃう!死んじゃうよぉ!だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

「ちょっ、姉さん!?」

 

 滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくるウサミミ少女と、一瞬迷いながらもそれに並走した包帯グルグル巻きの人物。そのすぐ後ろには双頭ティラノが迫っていて、今にもウサミミ少女達に食らいつこうとしていた。このままでは、ハジメ達の下にたどり着く前にウサミミ少女達は喰われてしまうだろう。流石に、ここまで直接助けを求められたらハジメ達もーーー。

 

「うわ、モンスタートレインだよ。勘弁しろよな」

 

「おぉ、これが俗に言うMPK*1か。初めて見た」

 

「・・・迷惑」

 

 やはり助ける気はないらしい。必死の叫びにもまるで動じていなかった。むしろ、物凄く迷惑そうだった。ハジメ達が必死の形相で見つめてくるウサミミ少女から視線を逸らすと、助ける気が無い事を悟ったのか、少女の目からぶわっと更に涙が溢れ出した。一体どこから出ているのかと目を見張るほどの泣きっぷりだ。

 

「まっでぇ~、みすでないでぐだざ~い!おねがいですぅ~!!」

 

「姉さんマジであの人達なんスか!?アタシ達の事見捨てる気にしか見えないんですケド!?」

 

「そうですっ、予知で見たのは、確かにあの人達でした〜!」

 

 ウサミミ少女が更に声を張り上げる。が、ハジメには全く助ける気がないので、このまま行けばウサミミ少女は間違いなく喰われてしまう筈だった。ーーー双頭ティラノが、ウサミミ少女の向こう側に見えたハジメ達に殺意を向けさえしなければ、だが。

 

「「グゥルァアアアア!!」」

 

「アァ?」

 

「・・・ありゃりゃ。喧嘩売る相手は間違っちゃ駄目だろ。来てくれ、〝薙鼬(なぎいたち)〟」

 

 逃げるウサミミ少女達の向かう先にハジメ達を見つけ、殺意と共に咆哮を上げる双頭ティラノ。対するハジメは、自らに浴びせられた明確な殺意に敏感に反応した。その様子を見た社もまた、呆れ混じりに静かに立ち上がる。

 

 双頭ティラノがウサミミ少女達に追いつき、両方の頭がガパッと顎門を開く。このまま2人を纏めて飲み込む算段だろう。ウサミミ少女達の瞳に、絶望の色が写る。が、次の瞬間。

 

 ドパンッ!!

 

 シャリン

 

 聞いたことの無い様な乾いた破裂音と金属同士が擦れる様な音が、同時に峡谷に響き渡る。恐怖にピンと立った二本のウサミミの間を一条の閃光が通り抜け、包帯を巻いた人物の背後には一筋の銀閃が煌めいた。閃光は片方の頭の口内を突き破ると後頭部を粉砕しながら貫通し、銀閃はもう片方の頭をギロチンの如く綺麗に切り落とした。

 

 2つの頭を失い即死した双頭ティラノは、バランスを崩して地響きを立てながらその場にひっくり返った。その衝撃で再び吹き飛ぶウサミミ少女だが、その軌道は狙いすましたかの様にハジメの下に向いていた。

 

「きゃぁああああー!た、助けてくださ~い!」

 

 眼下のハジメに向かって手を伸ばすウサミミ少女。その格好はボロボロで女の子としては見えてはいけない場所が盛大に見えてしまっている。たとえ酷い泣き顔でも男なら迷いなく受け止める場面だ。

 

「アホか、図々しい。」

 

 しかし、そこはハジメクオリティー。一瞬で魔力駆動二輪を後退させると華麗にウサミミ少女を避けた。

 

「えぇー!?」

 

 ウサミミ少女は驚愕の悲鳴を上げながらハジメの眼前の地面にベシャと音を立てながら落ちた。両手両足を広げうつ伏せのままピクピクと痙攣している。気は失っていないが痛みを堪えて動けないようだ。

 

「・・・面白い」

 

本気(マジ)で?いや、遠目に見てる分にはそうかもだけど。あんまり関わり合いになったらいけないタイプじゃ無いかなぁ」

 

 ユエがハジメの肩越しにウサミミ少女の醜態を見て、さらりと酷い感想を述べる。社も社でかなり辛辣な評価を下していた。と、ここで包帯巻きの人物がハジメ達に合流した。

 

「姉サン無事!?なんかモロ地面にダイブしてたケド!?」

 

(・・・『呪力』?包帯巻きの方は呪術師か?てっきりこっちの世界には呪術師はいないと思ったんだが)

 

 ウサミミ少女を介抱している包帯巻きの人物を見て、少しだけ驚く社。■■と言う特大の呪力の塊が近くにいるからか呪力の感知は不得手の社だが、流石に目の前の相手が呪力を纏っているかどうか位なら間違えない。包帯巻きの人物は、確かにその身に呪力を宿していた。

 

 そうこうしてる間に、今度は別方向から咆哮があがる。ハジメ達がそちらに目を向けると、頭を失ったティラノの側に別個体の双頭ティラノが居た。先程殺したものと番だったのだろうか、その眼には烈火の如き怒りを宿していた。

 

 と、ここで痙攣していたウサミミ少女が跳ね起きた。意外に頑丈というかしぶとい様で、あたふたと立ち上がったウサミミ少女は再び涙目になりながら、これまた意外に素早い動きでハジメの後ろに隠れる。

 

 あくまでハジメ達に頼る気のようだ。まぁ、自分達だけだとあっさり死ぬし、ハジメ達が何かして双頭ティラノを倒したのも理解していたので当然といえば当然の行動なのだが。

 

「おい、こら。存在がギャグみたいなウサミミ!何勝手に盾にしてやがる。巻き込みやがって、潔く特攻してこい!」

 

 ハジメのコートの裾をギュッと掴み、絶対に離しません!としがみつくウサミミ少女を心底ウザったそうに睨むハジメ。後ろの席に座るユエが、離せというように足先で小突いている。

 

「い、いやです!今、離したら見捨てるつもりですよね!」

 

「当たり前だろう?なぜ、見ず知らずのウザウサギを助けなきゃならないんだ」

 

「そ、即答!?何が当たり前ですか!貴方達にも善意の心はありますでしょう!いたいけな美少女達を見捨てて良心は痛まないんですか!」

 

「そんなもん奈落の底に置いてきたわ。つぅか自分で美少女言うなよ」

 

「あと、本当にいたいけな子は、自分の事いたいけって言わない」

 

「な、なら助けてくれたら・・・そ、その貴方達のお願いを、な、何でも一つ聞きますよ?」

 

 頬を染めて上目遣いで迫るウサミミ少女。あざとい、実にあざとい仕草だ。涙とか鼻水とかで汚れてなければ、さぞ魅力的だっただろう。実際に近くで見れば汚れてはいるものの自分で美少女と言うだけあって、かなり整った容姿をしているようだ。白髪碧眼の美少女である。並みの男なら、例え汚れていても堕ちたかもしれない。が、目の前にいる男達は生憎と普通ではなかった。

 

「いらねぇよ。ていうか汚い顔近づけるな、汚れるだろうが」

 

 どこまでも行くは鬼畜道。慈悲?情け?あぁ、良いヤツだったよ。社に至っては眉ひとつ動かさない。いや、本人からしてみれば、婚約者(フィアンセ)がいるのだから反応する方が問題ではある。

 

「き、汚い!?言うにことかいて汚い!そっちの人は目すらも合わせてくれないですし!あんまりです!断固抗議しまッ「グゥガァアア!」ヒィー!お助けぇ~!」

 

 ハジメの言葉に反論しようと声を張り上げた瞬間、てめぇら無視してんじゃねぇ!とでも言うようにティラノが咆哮を上げて突進しようと前傾姿勢を取る。

 

「兄サン方も取り敢えず逃げません!?あんなんマトモに相手する方がバカ見るデショ!?」

 

 双頭ティラノが構えたのを見て、慌てた様に叫ぶ包帯巻きの人物。が、ウサミミ少女は情けない悲鳴を上げて無理やりハジメとユエの間に入り込もうとする。流石にユエもイラッときたのか、魔力駆動二輪に乗ろうとするウサミミ少女を蹴り落とそうとゲシゲシ蹴りをかますが、ウサミミ少女は頬に靴跡を刻まれながら「絶対に離しませぇ~ん!」と死に物狂いでしがみつき引き離せない。包帯巻きの人物も、それを見てあわあわしてるだけである。

 

(うーむ、少しでも俺達を利用してやるとか考えてるなら、斬り捨てても良心は痛まないんだけど。何故か悪意は殆ど無いっぽいんだよなぁ。んー・・・どうするべきかね)

 

 一連の光景を眺めながら物騒な事を考える社。悪意は無いが実害はあると斬って捨てるべきか、はたまた実害はあるが故意では無いと親切心を出すか。悩ましいところではあるが、生憎魔物は待ってはくれない。

 

 ウサミミ少女の茶番劇(恐らく当人は必死ではあるのだろうが)を見てコケにされていると感じたのか、双頭ティラノはより一層怒りを宿した眼光でハジメ達を睨むと突進を開始する。

 

「取り敢えず、お前は死んでくれ」

 

 シャリリン

 

 ーーーその、直前。再び金属音が響くと共に、社の刀が虚空を切り裂いた。都合2回振るわれた斬撃は〝薙鼬(なぎいたち)〟により空間を飛び超えて、向かって来ようとしたティラノの双頭を迎撃する。

 

 ズルリ

 

 濡れた重量物を引き摺る様な音と共に、上顎と下顎を分断する形で双頭ティラノの頭が落ちる。血飛沫を撒き散らしながらティラノは呆気なく絶命、地響きを立てながら前のめりに崩れ落ちた。

 

 その振動と音にウサミミ少女が思わず「へっ?」と間抜けな声を出し、おそるおそるハジメの脇の下から顔を出してティラノの末路を確認する。

 

「し、死んでます・・・そんなダイヘドアが2頭共一撃なんて・・・」

 

「・・・マジで?嘘デショ?」

 

 ウサミミ少女は驚愕も顕に目を見開いている。包帯巻きの方も表情は見えないものの絶句していた。どうやらあの双頭ティラノは〝ダイヘドア〟というらしい。

 

 呆然としたままダイヘドアの死骸を見つめ硬直しているウサミミ少女だが、その間もユエに蹴られ、ハジメにしがみついたままである。さっきから長いウサミミがハジメの目をペシペシと叩いており、いい加減本気で鬱陶しくなったハジメは脇の下の脳天に肘鉄を打ち下ろした。

 

「へぶぅ!!」

 

「ね、姉サン!?」

 

 呻き声を上げ、「頭がぁ~、頭がぁ~」と叫びながら両手で頭を抱えて地面をのたうち回るウサミミ少女。それを冷たく一瞥した後、ハジメは何事もなかったように魔力駆動二輪に魔力を注ぎ先へ進もうとする。

 

 その気配を察したのか、今までゴロゴロ地面を転がっていたくせに物凄い勢いで跳ね起きて「逃がすかぁ~!」と再びハジメの腰にしがみつくウサミミ少女。やはり、なかなかの打たれ強さだ。

 

「先程は助けて頂きありがとうございました!私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです!取り敢えず私の仲間も助けてください!」

 

 そして、なかなかに図太かった。ここまで来ると一周回って清々しい程である。現に社は感心していた。

 

「おぉ。この流れで自己紹介と要求をするのか。怖いもの無しかな?」

 

「他人事だからって暢気な事言ってんな社!?テメェも良い加減離れろやクソ兎!」

 

「嫌です!絶対にーーー痛いっ!?そこの金髪の子!さっきから執拗に蹴るのはやめーーー痛い痛い!!」

 

「・・・・・・チッ」

 

「えーっと、あの・・・なんかスミマセン」

 

 酷いカオスだった。奈落から脱出して早々に舞い込んだ面倒事。これから先が思いやられると、深い溜息を吐くハジメと社だった。

*1
Monster Player Killerの略。元はMMO RPG等でモンスターを利用して別のプレイヤーの操作するキャラクターを死傷させる事を意味する。

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