ありふれない怨霊こそ世界最愛 作:白紙
「私達の家族も助けて下さい!」
峡谷にウサミミ少女改めシア・ハウリアの声が響く。よほど必死なのか、先程から相当強くユエに蹴りを食らっているのだが、頬に靴をめり込ませながらも離す気配がない。あまりにも必死に懇願するので、ハジメは仕方なくーーー〝纏雷〟をしてあげた。
「アババババババババババアバババ!?」
「おー、容赦無いな」
叫びを上げるシアを眺めながら、他人事の様に呟く社。出力は調整してある様だが、しばらく動けなくなる位の威力はある。幾ら悪意が無いとは言え(あくまで一般人基準でだが)凶悪な魔物の
「・・・え、何、今の!?姉サン無事!?」
「全く、非常識なウザウサギだ。2人とも、行くぞ?」
「ん・・・」/「あいよー」
突然の凶行に唖然としていた包帯巻きの人物(声で判断するなら少女だろうか)だったが、シアが倒れ込むのを見て我を取り戻すとすぐに駆け寄った。一方下手人であるハジメは何事もなかったように再びバイクに魔力を注ぎ込み発進しようとする。しかし。
「に、にがじませんよ~」
包帯巻きの少女に介抱されていたのも束の間、シアはゾンビの如く起き上がりハジメの脚にしがみつく。流石に驚愕したハジメは思わず魔力注入を止めてしまう。
「お、お前、ゾンビみたいな奴だな。それなりの威力出したんだが・・・何で動けるんだよ?つーか、ちょっと怖ぇんだけど・・・」
「・・・不気味」
「こんな頑丈なら、俺達の助けなんていらなかったんじゃ無い?亜人の人ってみんなこうなの?」
「うぅ~何ですか!その物言いは!さっきから肘鉄とか足蹴とか、ちょっと酷すぎると思います!断固抗議しますよ!お詫びに家族を助けて下さい!」
ぷんすかと怒りながら、さらりと要求を突きつけるシア。案外余裕そうである。このまま引き摺っていこうかとも考えたハジメだが、何か執念で何処までもしがみついてきそうだと思い直す。血まみれで引きずられたまま決して離さないウサミミ少女・・・完全にホラーである。
「ったく、何なんだよ。取り敢えず話聞いてやるから離せ。ってさり気なく俺の外套で顔を拭くな!」
「・・・良い性格してるなぁ」
外套を汚されてイラッと来たハジメが再び肘鉄をシアに食らわせる。「はぎゅん!」と奇怪な悲鳴を上げ蹲ったシアを見ながら、社は呆れた様に皮肉を飛ばす。
「ま、また殴りましたね!父様にも殴られたことないのに!よく私のような美少女をそうポンポンとーーーもしや殿方同士の恋愛にご興味が!?だから先も私の誘惑をあっさりと拒否したんですね!お相手はそこの眼鏡の方ーーー」
ガツンッ!!!
「ッ〜〜〜〜!?!?」
「HAHAHA、面白い事を言うお嬢さんだ。次言ったら兎鍋にするからな?」
何やら不穏当な発言が聞こえたので、蹲まるシアの脳天目掛けて鞘を思い切り落とした社。大切な
「むぅ・・・。最大の
「待って?お願いだから変なとこでライバル意識出さないでねユエさん?」
「社の言う通りだからな、ユエ。おいウザウサギ、お前の誘惑だがギャグだが知らんが、誘いに乗らないのはお前より遥かにレベルの高い美少女がすぐ隣にいるからだ。ユエを見て堂々と誘惑できるお前の神経が分からん」
「俺の場合は単に君が好みでは無いだけだよ。正直無いわ。臭そう」
「臭っ!?!?」
社の言葉にショックを受けるシアを他所に、ユエはハジメの言葉に赤く染まった頬を両手で挟み、体をくねらせてイヤンイヤンしていた。
格好も、その美貌に相応しい物となっている。フリル付きの純白のドレスシャツに、黒色ミニスカート。その上から純白に青のライン入りロングコートを羽織っている。足元はショートブーツにニーソだ。オスカーの衣服に魔物の素材を合わせて、ユエ自身が仕立て直した逸品である。高い耐久力を有する防具としても役立つ衣服である。
因みにハジメは黒に赤のラインが入ったコートを始めとして、黒と赤で構成された衣服を纏っている。当初、ユエはハジメにも白を基調とした衣服を着せてペアルック気味にしたがったのだが、流石に恥ずかしいとハジメが懇願した結果、今のスタイルに落ち着いた。
社はオスカーの隠れ家に居た時と同じく、白のカッターシャツに黒のスラックスと非常にシンプルな格好である。本人曰く「動き易さ重視」らしい。
そんな可憐なユエを見て「うっ」と僅かに怯むシア。が、先の評価はあくまでもハジメの主観が多分に入った意見である。客観的に見ればシアも負けず劣らずの美少女ではある。具体的にはAPP16ほどか。すれ違った10人の内、8人は確実に振り向くだろう。・・・枕詞に黙っていれば、と付くが。
青みがかったロングストレートの白髪に、蒼穹の瞳。眉やまつ毛まで白く、肌の白さとも相まって神秘的な容姿と言えるだろう。ウサミミやウサ尻尾がふりふりと揺れる様は、ケモナー達が見れば感動して思わず滂沱の涙を流すに違いない。
そして、何よりユエには無い
要するに、彼女が自分の容姿やスタイルに自信を持っていても何らおかしくないのである。むしろ、普通にウザそうにしているハジメと無関心極まりない社が異常なのだ。ハジメは変心前なら「ウサミミー!!」とル○ンダイブを決めたかもしれないが。それ故に、矜持を傷つけられたシアは
「で、でも!胸なら私が勝ってます!そっちの女の子はペッタンコじゃないですか!」
峡谷に命知らずなウサミミ少女の叫びが木霊する。恥ずかしげに身をくねらせていたユエがピタリと止まり、前髪で表情を隠したままユラリと二輪から降りた。
ハジメは「あ~あ」と天を仰ぎ、無言で合掌する。社も実家が神社の癖に、胸の前で十字を切った。ウサミミよ、安らかに眠れ、と。社に対してのホモ発言と言い、シアは人の地雷を踏むのが得意な様だ。
「・・・お祈りは済ませた?」
「謝ったら許してくれたりーーーあぁ!許す気なんて微塵も無いと目が訴えてますぅ!!死にたくなぁい!死にたくなぁい!!アル!お姉ちゃんを助けて下さい!!」
「今のは
「嫌ぁ!お姉ちゃんを見捨て「〝嵐帝〟」アッーーーー!!」
懇願虚しく、突如発生した竜巻に巻き上げられ、錐揉みしながら天に打ち上げられるシア。彼女の悲鳴が峡谷に木霊し、きっかり10秒後、グシャ!という音と共にハジメ達の眼前に墜落した。
まるで犬○家のあの人のように頭部を地面に埋もれさせ、ビクンッビクンッと痙攣している。神秘的な容姿とは相反する途轍もなく残念な少女である。百年の恋も覚める姿とはこの事だろう。「黙っていれば美人」を地で行く人物だった。
一方でユエは「いい仕事した!」と言う様に、掻いてもいない汗を拭うフリをするとトコトコと戻ると、二輪に腰掛けるハジメを下からジッと見上げた。
「・・・おっきい方が好き?」
実に困った質問だった。ハジメとしては「YES!」と答えたい所だったが、それを言えば残念ウサギの二の舞である。仲良く犬○家は勘弁して欲しかった。
「・・・ユエ、大きさの問題じゃあない。相手が誰か、それが一番重要だ」
「・・・社?」
「うん?ハジメは巨乳好きだよ?」
「社サン!?!?」
ユエの確認にノータイムで答えた社。目にも留まらぬ裏切りは、まさに神速と呼ぶに相応しい。親友に対する配慮や気遣い等は絶無だった。ユエが冷気を纏った視線でハジメを射抜く。
「・・・ハジメ?」
「待て待て待て!!ユエさん待って!?ーーーオイコラ社!余計な事言ってんじゃねぇよ!?」
「いやいや、ここで誤魔化しちゃ駄目だろ。ハジメが巨乳好きなのは本当の事だしな。だけどその上でユエさんを選んだのは、ハジメがユエさんに心底惚れ込んでいるからだと思うよ。そう言うところで嘘つく様なヤツじゃ無いからね。俺なんかに言われるまでも無く、ユエさんも分かってる事でしょ」
「・・・ん」
社の発言に、ユエは納得した様に頷くと無言で後席に腰掛けた。こう言う場合は得てして
「流石だ親友!俺は信じてーーー」
「あぁ、それとメイド服萌えだから、後で使っても良いかもね?」
「ーーー秒で裏切るんじゃねぇよォ!!」
俺の安堵を返せと言わんばかりに叫ぶハジメ。ハジメは忘れていた。コイツは安心した頃合いを見計らって、躊躇無く背中を刺しに来る様なヤツだった事を。「呪術師なんて性格悪い奴ばっかに決まってんだろー?」と元の世界でも良くほざいていたのだ。まさにその通りだった。
「うぅ~ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのに・・・」
と、涙目で意味不明なことを言いながら、シアがハジメ達の下へ這い寄って来た。ハジメ達3人が騒いでいた間に地面から頭を抜き出したのだろうが、見た目がグチャグチャの所為で和製ホラー顔負けだった。
「うおっ、いつの間に!?本気でゾンビみたいな奴だな。頑丈とかそう言うレベルを超えている気がするんだが・・・」
「・・・・・・・・・ん」
「亜人って凄いんだな・・・」
3者3様の反応を返すハジメ達。自分達の事を棚に上げた発言ではあるが、それはそれである。少なくとも、ハジメ達の見た目はシアほどグチャグチャに汚れてはいない。
「はぁ~、お前の耐久力は一体どうなってんだ?尋常じゃないぞ・・・何者なんだ?」
ハジメの胡乱な眼差しに、ようやく本題に入れると居住まいを正すシア。バイクの座席に腰掛けるハジメ達の前で座り込み真面目な表情を作るが、もう既に色々と手遅れ感がある。
「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘、シア・ハウリアと言います。で、こちらが妹のーーー」
「・・・どうも、アル・ハウリアです。見た目に関しては、気にしない方向で」
ペコリ、と一行から少し離れた位置にいた包帯巻きの少女が目礼する。シアとは異なる簡素な作りの長袖長ズボンを着用しており、首元のストールが口元を覆い隠している。顔全体の他、手足の末端に至るまでを包帯で巻いており、徹底的に露出を無くしているのが印象的である。
「んもう!何でアルはそんなぶっきらぼうなんですか!もっと愛想良くしなきゃ駄目ですよ!?」
「・・・いや、言ってる場合じゃ無いでしょ、姉サン」
プンスカ、と擬音が聞こえて来そうなシアに対して、呆れた様な口振りで先を促すアル。どうやら2人は姉妹らしい。騒がしい姉に対して、静かでしっかり者の妹といった風だ。
「むぅ、まぁ良いです。私の事を説明するのであれば、まずは私達兎人族について語らなければなりません」
そう言って、自分達の事情について語り始めたシア。彼女の話によると、シア達兎人族は【ハルツィナ樹海】にてひっそりと暮らしていたらしい。兎人族は聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、温厚な性格も災いし亜人族の中でも格下と見られる傾向が強かったが、本人達はそれを気にする事なく暮らしていたのだとか。
そんな兎人族の一つであるハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪で、しかも亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操る術と固有魔法まで使えたのだ。
一族は大いに困惑した。兎人族、否、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば、間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵だからだ。また亜人自体、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達を迫害する人間族や魔人族に対しても良い感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどだ。
それが分かっていて尚、ハウリアは彼女を捨てなかった。百数十人全員を1つの家族と称する程に、兎人族は情の深い種族だったのだ。故に、彼等は女の子を隠し、16年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。
行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。未開地ではあるが、山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。しかし彼等の試みは、人間により潰えてしまう。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。兎人族は総じて容姿に優れている為、帝国では愛玩用の奴隷として人気の商品となる。一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。
女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。
全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし、ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。
しかし、予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つことにしたのだ。
そして案の定、魔物が襲来した。もう無理だと帝国に投降しようとしたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い・・・。
「・・・気がつけば、60人はいた家族も、今は40人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」
最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。どうやらシアはハジメ達と同じ、この世界の例外というヤツらしい。特にユエと同じ、先祖返りと言うやつなのかもしれない。話を聞き終ったハジメは特に表情を変えることもなく端的に答える。
「断る」
(・・・まぁ、今のハジメならそう答えるよなぁ)
「・・・まぁ、そうっすよネー」
ハジメの端的な言葉を、今まで黙っていたアルが静かに肯定した。一方で何を言われたのか分からない、といった表情のシアは、ポカンと口を開けた間抜けな姿でハジメをマジマジと見つめた。そしてハジメが話は終わったと魔力駆動二輪に跨ろうとしてようやく我を取り戻し、物凄い勢いで抗議の声を張り上げた。
「ちょ、ちょ、ちょっと!何故です!今の流れはどう考えても『何て可哀想なんだ!安心しろ!!俺が何とかしてやる!』とか言って爽やかに微笑むところですよ!流石の私もコロっといっちゃうところですよ!何、いきなり美少女との出会いをフイにしているのですか!って、あっ、無視して行こうとしないで下さい!逃しませんよぉ!アルも早くお姉ちゃんを手伝って下さいよ!!」
「えぇ・・・?つっても、アタシらが言ってんのは要するにタダ働きしろってことだし。兄サン方に渡せる報酬なんて何も無いでしょ。残念美人とは言え姉サンのカラダでも首を縦に振らなかったんだから、どうしようもなくない?」
「アルはどっちの味方なんですか〜!?」
(何ともまぁ姉妹間の温度差の激しい事。妹さんの方は現実的と言うか、悲観的と言うか。まぁ、正論ではあるが)
シアの抗議の声をさらりと無視して出発しようとするハジメの脚に再びシアが飛びつく。さっきまでの真面目で静謐な感じは微塵もなく、形振り構わない残念ウサギが戻ってきた。足を振っても微塵も離れる気配がないシアに、ハジメは溜息を吐きながらジロリと睨む。
「お前の妹の言う通りだ。帝国から追われているわ、樹海から追放されているわ、お前は厄介のタネだわ、デメリットしかねぇじゃねぇか。仮に峡谷から脱出出来たとして、その後どうすんだよ?また帝国に捕まるのが関の山だろうが。で、それ避けたきゃ、また俺を頼るんだろ?今度は、帝国兵から守りながら北の山脈地帯まで連れて行けってな」
「うっ、そ、それは・・・で、でも!」
「俺達にだって旅の目的はあるんだ。そんな厄介なもん抱えていられないんだよ」
「そんな・・・でも、守ってくれるって見えましたのに!」
「・・・さっきも言ってたな、それ。どういう意味だ?・・・お前の固有魔法と関係あるのか?」
一向に折れないハジメに涙目で意味不明なことを口走るシア。そう言えば、何故シアが仲間と離れて単独行動をしていたのかという点も疑問である。その辺りのことも関係あるのかとハジメは尋ねた。
「え?あ、はい。〝未来視〟といいまして、仮定した未来が見えます。もしこれを選択したら、その先どうなるか?みたいな・・・あと、危険が迫っているときは勝手に見えたりします。まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど・・・そ、そうです。私、役に立ちますよ!〝未来視〟があれば危険とかも分かりやすいですし!少し前に見たんです!貴方が私達を助けてくれている姿が!実際、ちゃんと貴方に会えて助けられました!」
シアの説明する〝未来視〟は、任意発動か自動発動するかで効果が変わる。任意発動する場合は、仮定した選択の先の未来が見えるというものだが、これには莫大な魔力ーーー1回で魔力枯渇寸前になるほどーーーを消費してしまう。一方自動の場合は、直接・間接を問わずシアにとって危険と思える状況で発動する。これも多大な魔力を消費するが、任意発動程ではなく3分の1程消費するらしい。
どうやらシアは元いた場所で〝未来視〟を任意発動、結果、自分と家族を守るハジメの姿が見えたようだ。そしてハジメを探すために飛び出し、それを追う形でアルがついて来たらしい。こんな危険な場所で単独行動しようとするとは、よほど興奮していたのだろう。
「そんなすごい固有魔法持ってて、何でバレたんだよ。危険を察知できるならフェアベルゲンの連中にもバレなかったんじゃないか?」
「じ、自分で使った場合はしばらく使えなくて・・・」
「バレた時、既に使った後だったと・・・何に使ったんだよ?」
「ちょ~とですね、友人の恋路が気になりまして・・・」
「ただの出歯亀じゃねぇか!貴重な魔法何に使ってんだよ」
「うぅ~猛省しておりますぅ~」
「やっぱ、ダメだな。何がダメって、お前がダメだわ。この残念ウサギが」
呆れたようにそっぽを向くハジメにシアが泣きながら縋り付く。ハジメが、いい加減引きずっても出発しようとすると、何とも意外な所からシアの援護が来た。
「・・・ハジメ、連れて行こう」
「ユエ?」
「!?最初から貴女のこといい人だと思ってました!ペッタンコって言ってゴメンなッあふんっ!」
ユエの言葉にハジメは訝しそうに、シアは興奮して目をキラキラして調子の良い事を言う。次いでに余計な事も言い、ユエにビンタを食らって頬を抑えながら崩れ落ちた。
「もしかして、樹海の案内して貰うの?」
「・・・正解」
「あ~」
社の問いに、ユエが頷きハジメは納得の声を上げる。樹海は亜人族以外では必ず迷うと言われているため、兎人族の案内があれば心強いだろう。最悪、現地で亜人族を捕虜にして道を聞き出そうと考えていたので、自ら進んで案内してくれる亜人がいるのは正直言って有り難い。が、シア達はあまりに多くの厄介事を抱えている。迷うハジメだったが、ユエは真っ直ぐな瞳を向けて逡巡を断ち切るように告げた。
「・・・大丈夫、私達は最強」
それは、奈落を出た時のハジメの言葉。この世界に対して遠慮しない。3人が互いに守り合えば最強であると。ハジメは自分の言った言葉を返されて苦笑いするしかない。
兎人族の協力があれば断然、樹海の探索は楽になるのだ。それを帝国兵や亜人達と揉めるかもしれないから避けるべき等と〝舌の根も乾かぬうちに〟である。もちろん、好き好んで厄介事に首を突っ込むつもり等さらさらないが、ベストな道が目の前にあるのに敵の存在を理由に避けるなど有り得ない。道を阻む敵は〝全て薙ぎ倒す〟と決めたのだ。
「そうだな。おい、喜べ残念ウサギ達。お前達を樹海の案内に雇わせてもらう。報酬はお前等の命だ。ーーー社もそれで良いな」
「勿論。異論ナシだ」
ハジメの確認に、社もまた同意する。言っていることがヤクザ紛いではあるが、そこはご愛嬌だろう。言い方はどうあれ、峡谷において強力な魔物を片手間に屠れる強者が生存を約束した事で、シアは飛び上がらんばかりに喜びを顕にした。
「あ、ありがとうございます!うぅ~、よがっだよぉ~、ほんどによがったよぉ~」
「・・・
ぐしぐしと嬉し泣きするシアと、信じられないと言わんばかりに絶句したアル。しかし、仲間のためにもグズグズしていられないと直ぐに立ち上がる。
「あ、あの、宜しくお願いします!そ、それでお三方のことは何と呼べば・・・?」
「ん?そう言えば名乗ってなかったか・・・俺はハジメ。南雲ハジメだ」
「・・・ユエ」
「俺は社。宮守社。社でも宮守でも、どっちでも好きな方で呼んでくれ」
「ハジメさんと社さんとユエちゃんですね」
「・・・さんを付けろ。残念ウサギ」
「ふぇ!?」
ユエらしからぬ命令口調に戸惑うシアは、ユエの外見から年下と思っていたらしく、ユエが吸血鬼族で遥に年上と知ると土下座する勢いで謝罪した。どうもユエはシアが気に食わないらしい。理由は・・・
「で、移動はどうする?まさかこの2人は走りとか言わないよな?」
「・・・・・・流石にそこまで鬼畜じゃねぇよ。四輪を出すから、取り敢えず残念ウサギ達も後ろに乗れ」
「今、若干間があったな?・・・俺だけ二輪に乗って「却下だ」ちぇー」
社の我儘を一刀両断しながら、〝宝物庫〟に二輪をしまい四輪を出すハジメ。その光景を見て目をパチクリさせるハウリア姉妹。凶悪な魔物を瞬殺した事や、見た事も無い乗り物、そしてそれらがいきなり現れたり消えたりした事と、余りの情報量に頭がパンク寸前なのだろう。
「オイ、何呆けてるんだ、早く乗れ」
「うぇっ!?り、了解ですぅ!」
「俺は荷台で周囲の警戒しとくぞ。〝念話〟も繋がり難いみたいだから、念の為荷台の窓開けといてくれ」
「応、任せた」
ハジメに促され、恐る恐る後部座席に乗り込むシア。ユエは既に助手席に座っており、それを見たハジメも運転席に乗り込んだ。索敵の為、社は荷台で〝
「・・・乗んないの?」
「え、いや、えっと・・・じゃあ、失礼します」
(今、式神を見てたか?やっぱり彼女も術師・・・いや、そうか。■■ちゃんみたいに自覚が無いパターンもあるか)
アルの目線に気付かないフリをしながら、乗車を促した社は考えを巡らせる。出会った当初からずっと、
(と言うか、姉ウサギさんから悪意が感知出来ない方がおかしく無いだろうか。〝未来視〟で見たとは言え、無用心が過ぎないかね)
「凄いですよアル!座椅子がフカフカです!」
「姉さん、五月蝿いーーーうわ、ホントだ。指で簡単に沈む」
(・・・駄目だ。警戒する方が馬鹿らしいわ。俺らが彼女達を騙そうとするかも、とか微塵も考えてねぇや)
シートの柔らかさにキャッキャと騒ぐハウリア姉妹に、社は完全に毒気を抜かれていた。一方シートの製作者であるハジメは、自慢の一品を褒められた事に少しだけ機嫌を良くしながら魔力駆動四輪に魔力を注ぎ込む。ゆっくりと発進した四輪をみて、更に驚きの声を上げたハウリア姉妹。その姿に更に気を良くするハジメだが、助手席に座っていたユエのジト目に我に帰ると運転に集中する。ハジメは既に立派に尻に敷かれていた。
自覚しないまま、ハジメと社に対して
「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが・・・この乗り物?何なのでしょう?それに、3人共魔法使いましたよね?ここでは使えないはずなのに・・・」
「あ~、それは道中でな」
そう言いながら、ハジメは魔力駆動四輪を一気に加速させる。悪路をものともせず爆走する乗り物に、シアとアルが悲鳴を上げた。地面も壁も流れるように後ろへ飛んでいく。
谷底では有り得ない速度に目を瞑っていたハウリア姉妹だったが、しばらくして慣れてきたのか、次第に興奮して来たようだ。ハジメがカーブを曲がったり、大きめの岩を避けたりする度にシアはキャッキャッと騒いでいる。アルも声には出さないものの、窓の外を食い入る様に見つめていた。
ハジメは道中、魔力駆動四輪の事や自分達が魔法を使える理由、ハジメの武器がアーティファクトみたいなものだと簡潔に説明した。すると、2人は目を見開いて驚愕を露わにした。
「え、それじゃあ、お三方も魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると・・・」
「ああ、そうなるな」
「・・・ん」
「そうだね」
しばらく呆然としていたシアだったが、突然何かを堪える様にアルの胸に顔を埋めた。そして、何故か泣きべそをかき始めた。
「・・・いきなり何だ?騒いだり落ち込んだり泣きべそかいたり・・・情緒不安定なヤツだな」
「・・・手遅れ?」
「手遅れって何ですか!手遅れって!私は至って正常です!・・・ただ、私達だけじゃなかったんだなっと思ったら・・・何だか嬉しくなってしまって・・・」
「・・・姉サン」
「「「・・・・・・」」」
シアの台詞に、ハジメ達3人が揃って沈黙する。どうやら魔物と同じ性質や能力を有するという事、この世界で自分達があまりに特異な存在である事に寂しさを感じていたようだ。家族だと言って16年もの間危険を背負い、シアのために故郷である樹海までも捨てて共にいてくれる一族から、きっと多くの愛情を感じていたはずだ。だからこそ〝家族とは異なる自分〟に余計孤独を感じていたのかもしれない。
シアの言葉に、ユエは思うところがあるのか考え込むように押し黙ってしまった。ハジメには何となく、今ユエが感じているものが分かった。恐らくユエは自分とシアの境遇を重ねているのではないだろうか。共に魔力の直接操作や固有魔法という異質な力を持ち、その時代において〝同胞〟というべき存在は居なかった。
だが、ユエとシアでは決定的な違いがある。ユエには愛してくれる家族が居なかったのに対して、シアには居た。それがユエに嫉妬とまではいかないまでも複雑な心情を抱かせているのだろう。
そんなユエの頭をハジメはポンポンと撫でた。日本という豊かな国で何の苦労もなく親の愛情をしっかり受けて育ったハジメには、特異な存在として女王という孤高の存在に祭り上げられたユエの孤独を、本当の意味では理解できない。ハジメに出来る事は〝今は〟孤独では無いと示す事だけだ。
奈落の底で変貌したハジメにも、身内にかける優しさはある。ユエと出会っていなければ、或いは社が迎えに来なければ、それすら失っていたかもしれないが。ユエと社はハジメが外道に落ちるか否かの最後の防波堤とも言える。2人がいるからこそ、ハジメは人間性を保っていられるのだ。
そんなハジメの気持ちが伝わったのか、ユエは無意識に入っていた体の力を抜いて、ハジメの手を取りほおに擦り寄せた。まるで甘えるように。
「あの~、私達のこと忘れてませんか?ここは「大変だったね。もう1人じゃないよ。傍にいてあげるから」とか言って慰めるところでは?私、コロっと堕ちゃいますよ?チョロインですよ?なのにせっかくのチャンスをスルーして、何でいきなり2人の世界を作っているんですか!寂しいです!私も仲間に入れて下さい!大体、お二人はーーー」
「「黙れ残念ウサギ」」
「・・・はい・・・ぐすっ」
「完全に芸人枠だね、姉ウサギさんは」
泣きべそかいていたシアがいきなり前に身を乗り出して騒ぎ始めたので、思わず怒鳴り返すハジメとユエ。何とも不憫なシアではあるが、社は明確にハジメ達の味方なので口を挟まない。「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ」と元の世界でも言われていたのだから。
ただ、シアはシアで打たれ強かった。怒鳴られヘコ垂れつつも、内心では既に「まずは名前を呼ばせますよぉ~せっかく見つけたお仲間です。逃しませんからねぇ~!」と新たな目標に向けて闘志を燃やしていた。
「つーか、何で明らかに相手の居る俺に言うんだよ。兎人族では略奪愛が流行りなのか?」
「失敬な!兎人族は純愛主義です!私がハジメさんに擦り寄るのは〝未来視〟で一目見た時からビビッと来たからですよ!」
「早々に本心を隠さなくなりやがったこのウサギ!?」
「それと、社さんに関してはアルが気になってるみたいなので!」
「姉サン!?!?!?」
流れ弾どころの話では無かった。最早玉突き事故、完全なる不意打ちである。大切な家族から鮮やかな裏切りを食らったアルは、見るからに慌てふためいていた。それを知ってか知らずか更に追撃するシア。
「良いですか、アル。恋愛において最も大事なのは押しです。誰かを好きになったら、後は押して押して押しまくるのです!
「いや何トチ狂った事言ってんの姉サン。頭ん中お花畑なの恋愛脳なの?魔物達に吹き飛ばされ過ぎて頭打っちゃったの?幾ら見た目が良くても頭パーなら相手にされないよ?」
「酷い言われ様!?で、でも、さっきからチラチラ後ろを気にしてるじゃ無いですか!あれは社さんを見てたんじゃ無いんですか?」
「・・・イヤ、それは・・・」
シアの問いに口籠もってしまうアル。無論、アルの心中には恋心と言った
「相変わらずモテモテだな社?昔っからお前は地味に女子に人気あったよなぁ?初対面の女の子の心を射止める気分はどうだ?ん〜?」
「お前さんさっき性癖バラしたの根に持ってるだろ!?クッソ、ここぞとばかりに弄りやがって・・・!」
微妙に気まずい沈黙が降りる中、それを破る様にハジメが社を
「ぐぬぬ、後で白崎さんにもお前さんの性癖ーーー見つけた!此処から約200m先を曲がった少し先で、兎人族達が魔物達に追われてる!俺は先行して向かってるぞ!」
「了解!こっちも飛ばして直ぐに追い付く!後、白崎に余計な事言ったらお前から殺すからな!」
言うが早いか社は〝
「・・・白崎ってだれ?」
「Oh・・・」
最後の最後で社が落とした爆弾はキッチリ作動した様だ。