ありふれない怨霊こそ世界最愛 作:白紙
「えへへ、うへへへ、くふふふ~。」
同行を許されて上機嫌のシアは、奇怪な笑い声を発しながら緩みっぱなしの頬に両手を当ててクネクネと身を捩らせてた。先程ハジメと問答した際の真剣な表情が嘘の様な、酷く残念な姿である。
(これが残念美人ってやつか、ハジメも愛されてんなー。俺も■■ちゃんの前なら、こんな感じだったーーーいややっぱココまで酷くはならねーわ。)
それを見て色々思う所はあるものの、敢えて口には出さなかった社。未だスタートラインに立っただけではあるが、シアからすれば大きな一歩に違い無く、その喜び様も仕方ないものなのだろう。更に言えば、自分の
「・・・キモイ。」
(ユエさん直球すぎでは?)
が、ユエはそうは考えなかったらしい。ボソリと呟かれた毒は、舞い上がっていたシアの優秀なウサミミにしっかりと捉えられた。
「ちょっ、キモイって何ですか!キモイって!嬉しいんだからしょうがないじゃないですかぁ。何せ、ハジメさんの初デレですよ?見ました?最後の表情。私、思わず胸がキュンとなりましたよ~、これは私にメロメロになる日も遠くないですねぇ~。」
「うわキツ。」
「社さん酷い!?」
調子に乗りまくっているシアの余りの酷さに、思わず本音と言う名の毒を吐いてしまう社。その一方で、ハジメとユエは声を揃えてうんざりしながら呟いた。
「「・・・ウザウサギ。」」
「んなっ!?何ですかウザウサギって!いい加減名前で呼んでくださいよぉ~、旅の仲間ですよぉ~。・・・まさかこの先もまともに名前を呼ぶつもりが無い、とかじゃあないですよね?ねっ?」
「「・・・。」」
「何で黙るんですかっ?ちょっと、目を逸らさないで下さいぃ~。ほらほらっ、シアですよ、シ・ア。りぴーとあふたみー、シ・ア。社さんも何とか言ってくれません?」
「2人が呼ばないなら俺もパスで。」
必死に名前を呼ばせようと奮闘するシアを尻目に、今後の予定について話し合いを始めるハジメとユエ。それに「無視しないでぇ~、仲間はずれは嫌ですぅ~」と涙目で縋り付くシア。旅の仲間となっても扱いの雑さは変わらないようだった。
「で、単刀直入に聞くけど。妹さん、姉ウサギさんの事知ってたでしょ。」
「・・・やっぱ、バレますよねー。」
「姉ウサギさんが何言おうと、不自然なくらい無反応だったからね。」
社の質問、と言うよりは断言に、アルは気まずげに目を逸らすと頰を掻いた。社の言う通り、アルは訓練初日の夜に他のハウリア達同様、シアの決意をあらかじめ聞かされていたのだ。
「君ら家族の事情に首突っ込むつもりは無いけど、良かったの?」
「・・・分かんないっス。義姉さんのやりたい様にやれば良いんじゃナイ?って気持ちもあれば、危ない事はやめときなよって気持ちもあるんで。」
難しい顔をしながら、ハジメ達の方を眺めるアル。彼女の視線の先では、シアがハジメとユエの間に力づくて割り込もうとして、2人から心底ウザがられていた。にも関わらず、シアは一切めげないどころか、嬉々として2人に絡み続けていく。心臓だけで無く、精神まで
「でも、普段あんまり我儘言わない義姉さんが、珍しく譲らなかったんスよね。諦めるもんかー、ってカンジで必死に
ハジメとユエから早くも居ない者扱いされているシアだが、その顔には笑みが浮かんでいる。その表情は、きっと
「成る程ねぇ。で、妹さんはどうすんの?ハジメとユエさんからOK貰ってるけど。」
「アー・・・。」
社が聞いているのは、アルの今後についてだ。目処はついたとは言え、アルは未だ『術式』を掌握し切れてはいない。呪術師としては半人前も良いとこな腕前のまま放り出すのは無責任である、と社は考えていた。故に、アルが望むのであれば、彼女を旅に連れて行くのに否は無かった。無論『術式』の制御が出来る様になれば、ハウリア達の下へ戻って貰うが。
「・・・『術式』を完全に制御出来る様になれば、アタシはもっと強くなれますか?」
「想定する敵にもよるだろうけど、ライセン大峡谷にいた帝国兵達とか、俺が腕を斬り飛ばした熊人族の長老辺りなら、軽く一蹴出来る「分かりました、行きます。」即決かい。・・・その心は?」
食い気味に返答したアルに対して、再度問いかける社。何処か試す様な冷たい響きのある声に、アルは怯む事無く自分の思いを正直に伝える。
「アタシは姉さんみたいに、皆サンに何処までも着いて行く気概は無いですケド・・・それ以上に、もっと強くなりたいんスよ。出来る事なら自分の身だけじゃなくて、家族の事も余裕で守れる位に。」
アルにとって、自身の体質の克服は諦めかけた夢であった。治らなくとも生きていけると思いながら、しかし心の何処かで常に残っていた未練は、何の因果か別の世界の人間の協力により叶おうとしていた。
普通であれば、自身の悲願が叶うのは手放しで喜べる事だろう。だが、アルにとってはそうではなかった。それだけでは駄目なのだ。アルにとって本当に大切なのは、自分の体が治る見込みが生まれた事では無く、それを我が事の様に喜んでくれた家族の存在なのだから。
「宮守サン達に着いて行けば、きっとそれだけ強くなれると思うから。なんで、その、厚かましいカモですケド、『術式』の制御が完璧になるまでは、お世話になっても良いですか?」
「良いと思うよ?ハジメー、妹さんも同行するってさー。」
「軽っ。」
社が軽く即答した事に思わずツッコむアル。
「まあ、別に構わないが。その代わり、ちゃんと社が最後まで面倒見ろよ?」
「あれ、もしかしてペット扱い?そっスかぁ・・・。」
訂正、何かしらの試験がある方がマシだった。悪意は無いのだろうが、ハジメの台詞はまんま「犬が飼いたい子供に向けて親が言いそうな台詞」だった。それを聞いたアルの眼から光が急速に消える。
「いや、俺にもハジメにもそんな意図は無いーーー。」
「
「・・・調子に乗らない。」
「つーか、
社のフォローよりも早く、色々と勘違いしたシアが妄想を垂れ流し切るよりも更に早く、ユエの流れる様な右ストレートがシアの顔面に突き刺さる。小柄な肉体をものともしない、お手本の様な美しい拳だった。ハジメの至極最もな発言も耳に届く事無く、アッサリと地面に沈むシア。
「目の前の惨状を見た上で念の為にもっかい聞いとくけど、本当に俺達に着いてくるの?」
「・・・・・・・・・・・・えぇ、勿論っスよ。」
「思いっきり声震えてるけど?」
そんな風に(主にシアが)騒いでいると、霧をかき分けて数人のハウリア族がハジメ達の下に戻って来た。彼等はハジメと社から特定の魔物の討伐を課題として出されていたのだが、様子を見るに無事成功したらしい。
一方で、シアは久しぶりに再会した家族に頬を綻ばせる。本格的に修行が始まる前、気持ちを打ち明けたときを最後として
早速、父親であるカムに話しかけようとするシア。報告したいことが山ほどあるのだ。しかし、話しかける寸前で、カム達が発する雰囲気が何だかおかしいことに気がつく。歩み寄ってきたカムはと言うと、シアを一瞥すると僅かに笑みを浮かべただけで、直ぐに視線をハジメに戻した。そして・・・。
「ボス、先生。お題の魔物、きっちり狩って来やしたぜ?」
「ボ、ボス?せ、先生?と、父様?何だか口調が・・・というか雰囲気が・・・。」
父親の言動に戸惑いの声を発するシアをさらりと無視して、カム達は魔物の牙やら爪やらをバラバラと取り出した。それらは全てこの樹海に生息する魔物が持つ体の一部であり、更に言えば樹海の中でも上位に位置する魔物達のものでもあった。
「おぉー、やりますね皆さん。」
「いや、感心してる場合じゃないだろ、社。俺達は1体でいいと言ったと思うんだが・・・。」
ハジメ達の課した訓練卒業の課題は、上位の魔物を1チームにつき1体狩ってくる事だった。しかし、眼前の剥ぎ取られた魔物の部位を見る限り、優に10体分はある。ハジメの疑問に対し、カム達は不敵な笑みを持って答えた。
「ええ、そうなんですがね?殺っている途中でお仲間がわらわら出てきやして・・・生意気にも殺意を向けてきやがったので丁重にお出迎えしてやったんですよ。なぁ?皆んな?」
「そうなんですよ、ボス、先生。こいつら魔物の分際で生意気な奴らでした。」
「きっちり落とし前はつけましたよ。一体たりとも逃してませんぜ?」
「ウザイ奴らだったけど・・・いい声で鳴いたわね、ふふ。」
「見せしめに晒しとけばよかったか・・・。」
「まぁ、バラバラに刻んでやったんだ、それで良しとしとこうぜ?」
不穏な発言のオンパレードだった。全員、元の温和で平和的な兎人族の面影が微塵もない。ギラついた目と不敵な笑みを浮かべたままハジメ達に物騒な戦闘報告をする。それを呆然と見ていたシアは一言。
「・・・誰?」
「ど、どういうことですか!?ハジメさん!父様達に一体何がっ!?」
「お、落ち着け!ど、どういうことも何も・・・訓練の賜物だ・・・。」
「いやいや、何をどうすればこんな有様になるんですかっ!?完全に別人じゃないですかっ!ちょっと、目を逸らさないで下さい!こっち見て!」
樹海にシアの焦燥に満ちた怒声が響く。先ほどのやり取りの後、他のハウリア族も戻って来たのだが、その全員が何というか、控えめに言ってワイルドになっていた。男衆だけでなく女子供、果ては老人まで。変わり果てた家族を指差しながら凄まじい勢いで事情説明を迫るシア。
「・・・別に、大して変わってないだろ?」
「貴方の目は節穴ですかっ!見て下さい。彼なんてーーー。」
どことなく気まずそうに視線を逸らしながらも、のらりくらりとシアの尋問を躱わしていたハジメ。だが、突如シアからの追及の手がピタリと止んだ。それどころか、あらぬ方向を見て固まっている。不思議に思ったハジメがシアの視線の先に目をやると。
「はーい、今回の訓練で怪我した人は、治療するんで潔く前に出て来て下さーい。以前のパル君の様に“カッコ悪いから”なんて理由で隠そうものなら、拳骨落としまーす。はい、ヤオさん、小さな怪我でも関係ありません、感染症とか毒とかもあるので素直に治療を受けてください。おや、イオさん物足りないんですか。なら後で俺かハジメと組み手でもしますか。え、死ぬ?大丈夫、ギリギリの見極めはオレもハジメも得意なんで。はぁ、ミナさん、何故俺に抱きつくので?え?セクシーか?・・・ハニトラの練習は俺以外で試して下さーい。」
「・・・はぇ?え?あれ?私を差し置いて、何か凄い仲良くなってません?」
目の前に広がる予想外の光景に、先程までの剣幕が嘘の様な気の抜けた声を出すシア。久しぶりに会った家族が見るも無惨に豹変していたかと思えば、何故だか自分以上に社と仲良くなっており、一部女性陣に至っては妙に距離が近い気もする。訳も分からず呆然とする義姉の様子を見かねてか、アルが今までの経緯を話し始めた。
「宮守サンがアタシの面倒見てくれてたのは、義姉さんも知ってたと思うケド。それ以外の時間では、宮守サンずっと
ハウリアに自分の身の上を語った翌日から、社はより熱心にハウリア達を指導する様になった。理由は言わずもがな、ハウリアが家族の為に刃を取る覚悟を示したからだ。
訓練とは言え、自分の家族に向けられた刃を退ける為、震えながらも刃を握ったハウリアの姿は、彼等の
「効果的な体の動かし方とか、武器の持ち方だとか。他の皆んなが挫けそうになったり、しくじりそうになっても、根気良く何回も教えててさ。南雲さんはハチャメチャに厳しかったポイけど、宮守サンは厳しいだけじゃなくてかなり親身になって教えてくれてたから、それで余計にじゃないかな。」
ハジメがハウリア達全体を指導する傍らで、社は個別にハウリアを指導していた。それは例えば訓練の厳しさに心が折れそうな者だったり、或いは一部の技能が上手く習得出来ない者だったり。兎にも角にも、訓練から脱落してしまいそうなものを見つけては根気良く指導したのだ。
効率だけを考えるならば、素質のある者を選定して訓練した方が余程良いだろう。だが、ハウリア達の望みは、家族を守る為の力を得る事だ。ならば、家族の誰かに戦いを押し付けるのでは無く、自分達全員が強くなるべきだろう。そう考えた彼等に、社が惜しみ無く協力した結果がコレである。
尚、社が分かりやすく慕われているだけで、ハジメが嫌われている訳では無い。現にハウリア内部では“ハジメに厳しく指導して欲しい派”と“社に優しく親身に教えて欲しい派”がほぼ5:5で分かれている。無論、ハジメと社は知るよしも無い。
「成る程。それなら納得ーーーいや、出来ませんよ!?さっきから一部のハウリアがナイフを見つめたままウットリしてーーーあっ、今、ナイフに〝ジュリア〟って呼びかけた!ナイフに名前つけて愛でてますよっ!普通に怖いですよ!?」
「ヤ、あれは一時的なものだから。訓練が終わった直後でハイになってるだけで、直ぐに元の優しい皆んなに戻るから。」
「その台詞、お義姉ちゃんの目を見てもう一度言えますか?」
「・・・(スッ)」
「思いっきり目を逸らしてるじゃないですか〜!もう良いです!父様達に直接聞きます!」
アルとの問答では埒があかないと判断したのか、シアの矛先がカム達に向かった。
「父様!みんな!一体何があったのです!?まるで別人ではないですか!さっきから口を開けば恐ろしいことばかり・・・正気に戻って下さい!」
縋り付かんばかりのシアにカムは、ギラついた表情を緩めいつも通りの温厚そうな表情に戻った。それに少し安心するシア。だが・・・。
「何を言っているんだ、シア?私達は正気だ。ただ、この世の真理に目覚めただけさ。ボスと先生のおかげでな。」
「し、真理?何ですか、それは?」
嫌な予感に頬を引き攣らせながら尋ねるシアに、カムはにっこりと微笑むと胸を張って自信に満ちた様子で宣言した。
「この世の問題の九割は暴力で解決できる。」
「やっぱり別人ですぅ~!優しかった父様は、もう死んでしまったんですぅ~!うわぁ~ん!」
ショックのあまり、泣きべそを掻きながら踵を返し樹海の中に消えて行こうとするシア。しかし、霧に紛れる寸前で小さな影とぶつかり「はうぅ」と情けない声を上げながら尻餅をついた。小さな影の方は咄嗟にバランスをとったのか転倒せずに持ちこたえ、倒れたシアに手を差し出した。
「あっ、ありがとうございます。」
「いや、気にしないでくれ、シアの姐御。男として当然のことをしたまでさ。」
「あ、姐御?」
霧の奥から現れたのは、未だ子供と言っていいハウリア族の少年だった。その肩には大型のクロスボウが担がれており、腰には二本のナイフとスリングショットらしき武器が装着されている。随分ニヒルな笑みを見せる少年だった。シアは、未だかつて〝姉御〟などという呼ばれ方はしたことがない上、目の前の少年は確か自分のことを〝シアお姉ちゃん〟と呼んでいたことから戸惑いの表情を浮かべる。
そんなシアを尻目に、少年はスタスタとハジメの前まで歩み寄ると、ビシッと惚れ惚れするような敬礼をしてみせた。
「ボス!手ぶらで失礼します!報告と上申したいことがあります!発言の許可を!」
「お、おう?何だ?」
少年の歴戦の軍人もかくやという雰囲気に、今更ながら、シアの言う通り少しやり過ぎたかもしれないと若干どもるハジメ。少年はお構いなしに報告を続ける。
「はっ!課題の魔物を追跡中、完全武装した熊人族の集団を発見しました。場所は、大樹へのルート。おそらく我々に対する待ち伏せかと愚考します!」
「あ~、やっぱ来たか。速攻で来るかと思ったが・・・成る程、どうせなら目的を目の前にして叩き潰そうって腹か。なかなかどうして、いい性格してるじゃねぇの。・・・で?」
「はっ!宜しければ、奴らの相手は我らハウリアにお任せ願えませんでしょうか!」
「う~ん。カムはどうだ?こいつはこう言ってるけど?」
話を振られたカムは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると願ってもないと言わんばかりに頷いた。
「お任せ頂けるのなら是非。我らの力、奴らに何処まで通じるか・・・試してみたく思います。な~に、そうそう無様は見せやしませんよ。」
族長の言葉に周囲のハウリア族が、全員同じように好戦的な表情を浮かべる。自分の武器の名前を呼んで愛でる奴が心なし増えたような気もする。シアの表情は絶望に染まっていく。社は気にせず治療に専念していた。
「・・・出来るんだな?」
「肯定であります!」
最後の確認をするハジメに元気よく返事をしたのは少年だ。ハジメは一度瞑目し深呼吸すると、カッと目を見開いた。
「聞け!ハウリア「ちょい待ち、ハジメ。」ーーーオイ。」
が、激励を飛ばそうとした瞬間に、社に水を注されてしまう。折角気合いを入れたと言うのに出端を挫かれてしまったハジメはジト目で社を見遣る。が、当の社はその視線に見向きもせず、真剣な様子でハウリア達に向き直る。
「俺からは1つだけ。ーーー誰の為に刃を握るのか。それだけは忘れないで下さい。それさえ出来るのならば、きっと皆さんなら大丈夫ですから。」
「「「「「「「「「「ーーーはいっ!!」」」」」」」」」」
社の言葉に、ハウリア全員が景気良く返事をする。先の様な好戦的なだけの笑みでは無い。家族を守る為戦う事への覚悟を宿した、勇ましくも凛々しい笑み。正しく勇気凛々と言う言葉が似合う顔に、今度は良い意味で驚愕するシア。
「良かったですぅ〜。やっぱりどれだけ見た目や雰囲気が変わっても、皆んな私の家族に変わりない「んじゃ、後はハジメ頼むわ。」え・・・?」
が、社がハジメにバトンタッチした瞬間、猛烈に嫌な予感がシアの直感に突き刺さった。常日頃から〝未来視〟の技能を使用する事で鍛え上げられた第六感とも言うべき感覚が、ハジメを止めないと後悔することになると悲鳴を上げた。その本能に逆らう事無くハジメを止めようとしたシアだったが、一歩遅く。
「聞け!ハウリア族諸君!勇猛果敢な戦士諸君!今日を以て、お前達は糞蛆虫を卒業する!お前達はもう淘汰されるだけの無価値な存在ではない!力を以て理不尽を粉砕し、知恵を以て敵意を捩じ伏せる!最高の戦士だ!私怨に駆られ状況判断も出来ない〝ピッー〟な熊共にそれを教えてやれ!奴らはもはや唯の踏み台に過ぎん!唯の〝ピッー〟野郎どもだ!奴らの屍山血河を築き、その上に証を立ててやれ!生誕の証だ!ハウリア族が生まれ変わった事をこの樹海の全てに証明してやれ!」
「「「「「「「「「「Sir、yes、sir!!」」」」」」」」」」
「答えろ!諸君!最強最高の戦士諸君!お前達の望みはなんだ!」
「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」
「お前達の特技は何だ!」
「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」
「敵はどうする!」
「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」
「そうだ!殺せ!お前達にはそれが出来る!自らの手で生存の権利を獲得しろ!」
「「「「「「「「「「Aye、aye、Sir!!」」」」」」」」」
「いい気迫だ!ハウリア族諸君!俺からの命令は唯一つ!サーチ&デストロイ!行け!!」
「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」」」」」」」」」」
「盛り上がんのも分かりますけど、先ずは治療が先ですからね?後から来た人達は、俺の方に必ず来て下さいねー。」
「うわぁ~ん!!!やっぱり私の家族はみんな死んでしまったですぅ~!!!」
ハジメの号令に凄まじい気迫を以て返し、霧の中へ消えていくハウリア族達。暫くして社による治療を終えた者も、速く先行隊に追い付けと言わんばかりに後を追った。温厚で平和的、争いが何より苦手・・・そんな種族など居なかった。
“変わり果てたと思っていた家族が、実は変わらず優しいままだったーーーと思ったら、自らの想い人に人格改造されていた。”言葉にすると全くもって意味不明過ぎる。落とされた後に持ち上げられ、その後更に深く落とされ崩れ落ちたシアの泣き声が虚しく樹海に木霊する。流石に見かねたのか、ユエとアルがポンポンとシアの頭を慰めるように撫でている。
「あれ?妹さんのお披露目の時も会って無かったっけ?」
「その時はアルの体が治った嬉しさが上回って、それどころじゃなかったんですよー!」
ハウリア達の治療を終えた社のふとした疑問に、叫びながら答えるシア。アルのお披露目の際にも会うには会ったが、その時はアルの体が元に戻った嬉しさで家族の変化に気付いていなかったらしい。号泣するシアだったが、その隣を少年が駆け抜けようとしたところを咄嗟に呼び止めた。
「パルくん!待って下さい!ほ、ほら、ここに綺麗なお花さんがありますよ?君まで行かなくても・・・お姉ちゃんとここで待っていませんか?ね?そうしましょ?」
どうやら、まだ幼い少年だけでも元の道に連れ戻そうとしているらしい。傍に咲いている綺麗な花を指差して必死に説得している。何故花で釣っているのかと言えば、この少年こそが訓練の最中で道端の草花や虫を踏まない様に歩幅や進路を変えていたハウリアの1人だったからだ。
シアの呼び掛けに律儀に立ち止まったお花の少年、もといパル少年(11歳)は「ふぅ~」と息を吐くとやれやれだぜと言わんばかりに肩を竦めた。まるで、欧米人のようなオーバーリアクションだ。
「姐御、あんまり古傷を抉らねぇでくだせぇ。俺は既に過去を捨てた身。花を愛でるような軟弱な心は、もう持ち合わせちゃいません。」
「ふ、古傷?過去を捨てた?えっと、よくわかりませんが、もうお花は好きじゃなくなったんですか?」
「ええ、過去と一緒に捨てちまいましたよ、そんな気持ちは。」
「そんな、あんなに大好きだったのに・・・。」
「ふっ、若さゆえの過ちってやつでさぁ。」
ニヒルな笑みと共に、今年で11歳とは思えない言葉を返したパル。厨二病にしては早過ぎるが、この世界がファンタジーそのものである為、何ともコメントしづらかった。
「それより姐御。」
「な、何ですか?」
〝シアお姉ちゃん!シアお姉ちゃん〟と慕ってくれて、時々お花を摘んで来たりもしてくれた少年の変わりように、意識が自然と現実逃避を始めそうになるシアだったが、パル少年の呼び掛けに辛うじて返答する。しかし、それは更なる追撃の合図でしかなかった。
「俺は過去と一緒に前の軟弱な名前も捨てました。今はバルトフェルドです。〝必滅のバルトフェルド〟これからはそう呼んでくだせぇ。」
「誰!?バルトフェルドってどっから出てきたのです!?ていうか必滅ってなに!?」
「おっと、すいやせん。仲間が待ってるのでもう行きます。では!」
「あ、こらっ!何が〝ではっ!〟ですか!まだ、話は終わって、って早っ!待って!待ってくださいぃ~!」
恋人に捨てられた女の如く、崩れ落ちたまま霧の向こう側に向かって手を伸ばすシア。答えるものは誰もおらず、彼女の家族は皆、猛々しく戦場に向かってしまった。ガックリと項垂れ、再びシクシクと泣き始めたシア。既に彼女の知る家族はいない。実に哀れを誘う姿だった。
そんなシアの姿を何とも言えない微妙な表情で見ているユエとアル。ハジメと社はどことなく気まずそうに視線を彷徨わせている。ユエはハジメ達2人に視線を転じるとボソリと呟いた。
「・・・流石ハジメと社。人には出来ないことを平然とやってのける。」
「いや、だから何でそのネタ知ってるんだよ・・・。」
「その内
「・・・闇系魔法も使わず、洗脳・・・すごい。」
「・・・正直、ちょっとやり過ぎたとは思ってる。反省も後悔もないけど。」
「ハジメに同じく。ま、彼等なら大丈夫さ。・・・幸利が居れば、もうちょっと楽が出来たんだけどな。」
「それな。」
「・・・あの、皆さん、そろそろ義姉さん宥めんの、手伝ってくれません?」
ハウリア族が去り静まり返った森の中で、アルのツッコミとシアのすすり泣く声が虚しく響き渡るのだった。
当小説オリキャラの見た目イメージ。一応反転しときます。
宮守社:『相州戦神館學園八命陣』 より、
アル・ハウリア:『プリンセスコネクト!Re:Dive』より、エルフの『クロエ』