ありふれない怨霊こそ世界最愛 作:白紙
■月◯日
兎人族が熊人族達をしばき倒し、ハジメVSハウリア&俺で突発的な鬼ごっこをこなした後、俺達はカムさん達の案内で大樹に向かった。深い霧の中を迷い無く案内するハウリア達は、真剣な表情も相まって酷く頼もしく映った。この姿を見れば、彼等が元最弱の種族だったなんて誰も信じないだろう。これで全員コブやら青タンやら無ければ格好ついたんだけどなー。
因みに俺は無傷で逃げ切った。魔力以外のステータスがハジメの約1.5倍はある上、〝悪意感知〟まであるのだから、本気であっても全力では無いハジメから逃げ切るのは容易い。「情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!そして何よりもーーー速さが足りない!」とか「何で負けたか明日までに考えといて下さい」なんて煽りが脳内を過ったが、そんな事言えば今度こそマジで追われるのでやめといた。俺は退き際が分かる男である。■■関連以外では。
そんなこんなで撃たれた尻を摩りながら泣き言を言う姉ウサギさんとか、俺だけ逃げ切った事に若干恨みがましい視線を向ける妹さんを無視しながら、無事に目的地の大樹〝ウーア・アルト〟に着いた・・・までは良かったんだが。どうやら今のままでは迷宮に入れないらしい。
先に聞いていた通り、大樹〝ウーア・アルト〟は見事なまでに枯れていた。周りの木は青々と生い茂っていたので、確かに異様な光景である。その代わりと言えば良いのか大きさに関しては途轍もなく、目測ではあるが少なくとも直径50mはあったか。
カムさん曰く、「大樹はフェアベルゲン建国前から枯れているが、朽ちることもない」「周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点から、いつしか神聖視されるようになった」「と言っても特徴はそれだけなので亜人からすれば観光名所みたいなもの」との事。
取り敢えず近くで調べて見ようと俺達が大樹の根元まで進んでみると、アルフレリック氏が言っていた通り石板が建てられていた。石版にはオルクスの部屋の扉や指輪と同じく、七角形とその頂点の位置に七つの文様が刻まれていた他、裏側にはそれらに対応する様に同数の小さな窪みが開いていた。
そこでハジメが手に持っているオルクスの指輪を、石板の表のオルクスの文様に対応している窪みに嵌めたところ、石板が淡く輝き文字が浮き出始めたのだ。以下は、その文章の写しである。
〝四つの証〟
〝再生の力〟
〝紡がれた絆の道標〟
〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟
以上、原文ママである。方向感覚を消し去る樹海と言い、指輪を嵌めると文字が浮かび上がる仕組みと言い、ここに来て本格派RPGっぽさが止まる事を知らない。ゼ◯ダの伝説かな?
で、俺達とハウリアであーでも無いこーでも無いと話し合ったり試した結果、
・〝四つの証〟→他の迷宮の証?
・〝再生の力〟→〝再生〟に纏わる神代魔法?それを使って大樹を再生する?
・〝紡がれた絆の道標〟→亜人の案内人、若しくは協力者を得られるかどうか?
では無いか、との結論に。要するに「七大迷宮の半分を攻略した上で、再生に関する神代魔法を手に入れて来い」って事らしい。うーむ、クソめんどい。
と、そんな理由もあって他の大迷宮から先に攻略する事にしたんだが、その旨をハウリア達に伝えたところ、何と「我々もお供します!」とか言い始めた。それを聞いた姉ウサギさんや妹さんもかなり驚いてたので、2人も初耳だったんだろう。
別れの挨拶をすべく気合いを入れていた姉ウサギさんをガン無視し、俺達ーーーと言うか、ハジメについて行きたいとごねるカム達ハウリア。そのうちの半数位は俺の方を見ていた気がしないでも無いが、気の所為だろう。「我々はもはやハウリアであってハウリアでなし!
とは言え俺もハジメも答えはNoだった訳だが。ハジメも言っていたが、幾ら強くなったとは言え、ハウリア達と俺達では未だ歴然とした実力の差がある。正直足手纏いにしかならないだろう。それに今後旅を続けていく中で、俺達は間違い無く〝神〟及びそれに連なる者達と敵対するだろう。下手をすれば、この世界の全てを敵に回すかもしれない。姉ウサギさんの様に覚悟を決めたのならまだしも、ハウリアの人達をそんな旅に巻き込む訳にはいかない。彼等は家族を守る為に刃を取ったのであって、世界に挑む為に刃を取ったのでは無いのだから。
そんな感じでカムさん達には説明したんだが、それでも諦め切れない様子。結局、ハジメの「次に樹海に来た時までにもっと強くなってれば、部下として考えなくも無い(意訳)」の鶴の一声により、どうにか説得したのだった。
まぁ「許可を得られなくても勝手に付いて行きます!」とまで言ってたから、これも
尚、ハウリア達が盛り上がっている傍で、姉ウサギさんが地面にのの字を書いていじけていたのは見なかった事にした。妹さんも慰めていたし、励ますとしても俺じゃなくてハジメで良いだろうしな。
そんなゴタゴタがありつつも何とかハウリア達を説得した日の夜。
下手人である熊人族達を見逃した際に、俺は彼等との間で『縛り』を設けなかった。これは別に熊人族達を信用したとかでは無く、下手に彼等に『縛り』をかけた場合、先に俺達がフェアベルゲンの長老衆と結んだ『縛り』に抵触する可能性があったからだ。
例えば『俺達とハウリアに二度と関わらない』と言う『縛り』を設けたとしよう。この場合、長老衆と結んだ『ハジメ、ユエ、社の3人がハルツィナ樹海の迷宮に挑む際には、長老衆の権限で出来る限り支援する』『縛り』に十中八九引っ掛かる。こう言った意図しない部分で制限ができてしまうのが、他者間の『縛り』の厄介なところでもある。
何よりも怖いのが重複してこんがらがった『縛り』を、誤って
後者については、ハルツィナ樹海の大迷宮攻略を延期する事、その間に長老衆達主導でポーションやら希少な薬やらを用意しておいてくれと依頼する為である。釘刺しとも言うが。対象をアルフレリック氏に限定したのは、他の長老衆では色々な意味で話にならないからだ。最悪、再び血を見る事になるだろう。流れるのは亜人達の血だけだがな!
話が逸れた。てな訳で、単独でフェアベルゲン潜入を試みた俺。ハジメと一緒でも良かったんだが、生憎と
で、特に問題無く潜入成功。道中?常時〝気配遮断〟全開の上、〝影鰐〟でちょくちょく影の中に隠れていたので誰にも見つからなかった。「熊人族の若者達が兎人族にボロクソにやられた」と騒ぎになり、注意がそちらに向いていたのも大きかっただろう。熊人族達は約束を守った様だ。
自室に侵入してきた俺を見て目をひん剥くアルフレリック氏だったが、事情を話すとそれはもう深い溜息と共に耳を傾けてくれた。物分かりが良いと言うか、人間出来てるエルフだった。諦めが良いとも言う。
その後、これからの予定をアルフレリック氏に告げた俺は、再び〝気配遮断〟全開でフェアベルゲンから脱出した。無論、帰りも見つかるなんてヘマは犯さない。文句無しの
・・・ただ、気になる事が一点。俺がアルフレリック氏と会話していた時、彼はハウリアと言うか、
■月△日
今現在、俺達はブルックと呼ばれる町の宿屋に宿泊している。次の目的地である【ライセン大峡谷】にあると言われる大迷宮に向けての前準備の為である。
大樹に着いてから一夜明けた次の日。樹海の境界でカムさん達の見送りを受けた俺達5人は、魔力駆動四輪に乗り込んで平原を疾走していた。運転手ハジメ、助手席ユエさん、後部座席にハウリア姉妹、俺が荷台で周囲の警戒である。
荷台と言っても、固定されたクッション付きの座椅子があるので、特に苦では無い。それに二輪と同じく車体底部の錬成機構が悪路を整地しながら進むので、揺れや振動もほぼ0だしな。態々夜なべして後付けの椅子を作ってくれたハジメにはツンデレムーブが板についてきた感謝しかない。
冒頭でも書いたが、俺達の次の目的地は【ライセン大峡谷】にあると言われる大迷宮だ。現在、確認されている七大迷宮は【ハルツィナ樹海】を除けば、【グリューエン大砂漠の大火山】と【シュネー雪原の氷雪洞窟】の2箇所。なので確実を期すなら、次の目的地はそのどちらかにするべきではある。が、シュネー雪原はバッチリ魔人国の領土なので、対策無しで行けばまず間違い無く戦闘になる。よって目指すべきは大火山一択となるのだが、丁度その道中にライセン大峡谷があるので、ついでにソッチにも寄っていこう、となった訳だ。
ついででライセン大峡谷を渡ると聞き、ハウリア姉妹は頬を引き攣らせていた。やはり一般的にライセン大峡谷は地獄にして処刑場という認識らしい。いや、君ら姉妹は魔力と呪力の違いはあれど、肉体強化出来るんだから問題無いのでは?ハジメやユエさんも呆れていたぞ。まぁ、彼女達一族もあわや全滅といったところまで追い詰められた場所なのだから、しょうがないと言えばしょうがないのか。
快適な車内で雑談しつつ、草原を走る事数時間。そろそろ日が暮れるという時間帯になり、漸く御目当ての街が見えてきたので、良い所で徒歩に切り替えた。流石に四輪車に乗ったまま街に乗り付けて騒ぎを起こす訳にもいかないしな。
徒歩で町に向かう道中、俺達はハウリア姉妹の今後の身の振り方ーーーと言うのは少し大袈裟かも知れないがーーーについて、話し合いを行った。簡単に言えば「ハウリア姉妹の立ち位置」についてだ。
突然ではあるが俺の中で最も素敵で愛しい女性は、言うまでもなく■■ちゃんである。未来永劫何があろうとも間違い無くそこは変わらないと断言出来る。それを踏まえた上で、あくまでも一般的な価値観として見た場合に、ハウリア姉妹もまた美少女と断言して良い見た目をしている。
問題は彼女達が亜人である事だ。この世界に於いて、亜人は被差別種族ーーー身も蓋も無い言い方をすれば人権が無い。軍事国家で実力至上主義を掲げている【ヘルシャー帝国】に至っては、奴隷として取引している始末。そういう世界なのだと言われればそれまでだが、ハウリア達に加担した身からすると何とも言えない気分になる。
そんな価値観が
そこで考案されたのが、彼女達を俺達が所有する奴隷として扱う事だ。と言っても建前上だけであり、特に何かを制限するわけでも無い。彼女達は既にお手付きであり所有物であると対外的にアピールする為だけの、文字通り形だけの扱いである。そうすれば無闇と彼女達にちょっかいを出す人間は減るだろうし、仮に強引な手を使う奴が現れても所有者としての正当性を盾にボコせばいいだけだしな。
1つ問題があるとすれば、ハウリア姉妹の心情だった。仮とは言え奴隷扱いされるのは嫌がるだろうから、どう説得したもんかと考えていたんだが、事情を説明したところ、ごねる姉ウサギさんとは対照的に妹さんはアッサリとOKを出してくれた。
思わず「不満じゃ無いの?」と聞くと、妹さん曰く「アタシ達を守る為ってのは理解してるつもりデス」との事。うーむ、凄い素直。ちょっと心配になる。姉ウサギさんも最初こそ嫌がってたが、ハジメから「容姿もスタイルも抜群なお前が奴隷の証も無しに人前に出れる訳が無いし、奴隷じゃないとばれて襲われても見捨てたりはしない(意訳)」、ユエさんから「大事なのは大切な人が自分を知っていてくれる事(意訳)」と励まされ納得してくれた様だ。
話が纏まった後で、ハウリア姉妹には首輪が預けられた。姉ウサギさんは黒色、妹さんは白色を基調とした首輪で、目立たないが小さな水晶の様な石が付けられているお揃いの首輪である。一定量の魔力を流す事で簡単に取り外しできる他、念話石*1と特定石*2が組み込んである特別仕様である。妹さんは現状では使えないから、取り外しは姉ウサギさんにやってもらうしか無いが。
尚、「なるほどぉ~、つまりいつでも私の声が聞きたい、居場所が知りたいというハジメさんの気持ちというわけですね!もうっ、そんなに私の事が好きなんですかぁ?」と懲りずに調子に乗った姉ウサギさんは、またしてもユエさんにしばかれていた。・・・俺が心配する事じゃないんだけど、姉ウサギさんは真面目にハジメにアプローチするつもりある?もしや、最初は同性の友達みたいなノリで距離を詰めた後、ふとした拍子に女を見せて意識させるなんて高等テクを駆使するつもりなのだろうか。・・・いや、初めて見つけた
姉ウサギさんを筆頭に騒ぎながら進んでいた俺達は、遂に街の門まで辿り着いた。門番ーーーと言っても革鎧に長剣を腰に身につけているだけで、兵士というより冒険者風ーーーもキチンと居て、町が中々の規模だと分かる。
門番に呼び止められた俺達は、身分証代わりにステータスプレートと街に来た目的を話し、問題無く通行を認められた。俺とハジメのステータスプレートは偽装済み*3(ハジメは忘れかけてたので俺が予め言っておいた)、ユエさんはステータスプレートを紛失、ハウリア姉妹は奴隷扱いですんなり通った。
ただ、予想外と言えば良いか案の定と言えば良いか。俺達の様子を伺っていた門番はユエさんとハウリア姉妹にガッツリ見惚れていた。然もありなん、ユエさんも姉ウサギさんも妹さんも、タイプは違えど相当な美少女である。客観的に見てそこに異論を挟む余地は無い程に美形だ。・・・改めて書くと顔面偏差値が怖いくらいに高いな、女性陣。クトゥルフTRPGなら、度を過ぎた美形は
そんな3人を連れている訳だから、羨望と嫉妬の入り交じった視線を門番から頂戴した俺とハジメ。まぁ、肩をすくめるだけで何も答えなかったが。前もって建前上とは言え奴隷扱いしといて良かった。コレ最悪所有されていると分かっててもちょっかい出す奴現れそうだ。
その後、門番に道を聞いた俺達は、樹海で得た素材を換金すべく冒険者ギルドに向かった。町中は露店からの呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒で賑わっていた。オルクス大迷宮があったホルアドほどではないが、それでもこういった騒がしさを聞くと何となくテンションが上がる。元の世界の縁日を思い出すからだろうか。■■ちゃんと行った夏祭りの露店、楽しかったなー。
ハジメやユエさん達(姉ウサギさんは物珍しそうに、妹さんはおっかなびっくり周囲をキョロキョロしていた。対照的な姉妹である。)と共に町の雰囲気を楽しみながら、メインストリートを歩いていくと、数分もしない内に冒険者ギルドに到着した。看板には一本の大剣が描かれており、ホルアドの町でも見たのと同一だったので、デザインは共通らしい。最も、ギルドの規模はホルアドに比べて二回りほど小さかった。
重厚そうな扉を開き中に踏み込むと、入口正面には受付が、左手は飲食店になっていた。ゲームとか創作物だとギルドは荒くれ者達の溜まり場だったり、暗い雰囲気の薄汚れた場所だったりするんだが、店内は清潔さが保たれていた。
俺達がギルドに入ると、食事を取ったり雑談していた冒険者達が当然のように注目してくる。最初こそ、見慣れない5人組ということでささやかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線がユエさんとハウリア姉妹に向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増していた。中には見惚れ過ぎて恋人らしき女冒険者に殴られている奴もいた。こう言うとこは俺達の世界と変わらんなぁ。
意外だったのは、無駄にちょっかいを掛けてくる奴が居なかった事だ。まぁ、誰も彼もがライセン大峡谷で会った帝国兵みたいな、ヒャッハー属モヒカン種みたいなお猿さんでは無いのだろう。書いといて何だがどんな世紀末だ。
カウンターには受付嬢らしき、ふくよかなオバチャン(後で知ったがキャサリンさんと言うらしい)がいた。ニコニコと愛想の良い笑みを浮かべてはいたが、抜け目無く俺達を観察してもいた。それも全員が不快に感じず不自然にも思われない程度に、だ。俺達の様な奇抜な集団を見ても大きな反応を見せなかった事と言い、中々やり手のおばちゃんらしかった。
俺がキャサリンさんの手腕に感心していると、開口一番ハジメがやんわり嗜められていた。どうやら美人の受付嬢を期待していたらしく、アッサリとキャサリンさんに見抜かれていた。ユエさんと姉ウサギさんからは、露骨に冷たい視線を向けられていた。
チラリと周囲を見ると、冒険者達が「あ~あいつもオバチャンに説教されたか~」みたいな表情でハジメを見ていた。冒険者達が大人しいのはキャサリンさんが原因らしい。冒険者なんて大なり小なり荒くれ者だろうに、曲がりなりにも纏められるキャサリンさんの手腕はかなりの物なのだろう。
雑談もそこそこに、素材の買取をしてもらう事に。その時の会話で知った事なのだが、予め冒険者としてギルドに登録した上でステータスプレートを提示した場合、買取額が1割増になるのだとか。他にもギルドと提携している店や宿だと料金から1〜2割引いてくれたりするらしい。
冒険者贔屓かと思われるかも知れないが、生活に必要な魔石や回復薬を始めとした薬関係の素材は、冒険者が取ってくるものが殆どだ。町の外はいつ魔物に襲われるかわからない以上、素人が自分で採取しに行くのも危険な為、それに見合った特典がついてくるのはある種当然だった訳だ。
上記の様にメリットしか無かったので、俺とハジメは登録しておいた。ユエさんとハウリア姉妹はステータスプレート持って無いし、発行したらしたで間違い無く種族とか技能欄とか固有魔法をキャサリンさんに見られるので作成は見送った。自分達から騒ぎの種を作る必要もあるまい。
残念ながら持ち合わせが無かったので、素材の買取額から差っ引いてもらい、今回は1割増は諦める事にーーーと思いきや。キャサリンさんのサービスでちゃんと上乗せしてくれる事に。イケメンならぬイケオバだった。
登録が終わり戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されていた。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに〝冒険者〟と表記され、更にその横に青色の点が付いていた。
青色の点は、現時点でのランクだ。この世界では冒険者の等級を色で分ける仕組みになっている。・・・いるのだが、この色分け、この世界の貨幣価値と全く同じ色分けになっているのだ。
この世界の通貨、名をルタと言い、トータス北大陸の共通通貨として使用されている。ザガルタ鉱石という特殊な鉱石に他の鉱物を混ぜて色を変え、特殊な方法で刻印して造られているのだが、単位がそれぞれ
で、冒険者ランクもコレと同じ様に上下する。下から順に、青、赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と、こんな感じ。つまり青色の冒険者とは「お前は1
因みに、非戦闘系天職の冒険者は黒色が上限らしい。天職有りで金に上がった者より、天職なしで黒に上がった者の方が拍手喝采を浴びると聞いた時点で、どれだけ難しいかが分かる。
冒険者登録が終わったのち、直ぐに買取品の査定に入った。鑑定人はなんとキャサリンさん。この人マジで優秀な人なのでは?不思議に思いつつも査定を待つと、キャサリンさんが驚愕の表情で声を上げた。
何事かとそちらを見ると、どうやら樹海の魔物から取れた素材である事に驚いたらしい。やはり樹海の魔物の素材は十分に珍しい物らしい。奈落の魔物の素材を出さなくて大正解だった。
と、ここでまたハジメがキャサリンさんに嗜められていた。若干呆れ混じりで。どうせハジメの事だから、ラノベのテンプレみたいにチヤホヤされないかなー、とか考えていたんだろう。ユエさんと姉ウサギさんから先程よりもだいぶ冷たい視線が刺さっていた。うーん、擁護出来ねぇ。
樹海の素材が珍しいのは、人間族だと感覚を狂わされ一度迷えば二度と出て来れずにハイリスクだかららしい。亜人の奴隷持ちなら金稼ぎに入れるが、売るならもっと中央に近い町で売るのだとか。そちらの方が幾分か高く売れるし、名も上がりやすいとの事。
そう言いながらキャサリンさんの視線は、ハウリア姉妹に向けられる。恐らく、彼女達の協力を得て樹海を探索したと推測したのだろう。樹海の素材を出しても、姉妹のおかげで不審には思われなかったようだ。
全ての素材を査定したキャサリンさんが提示した買取額は、48万7000ルタ。結構な額である。中央ならもう少し高くなるとも言っていたが、この額でも十分だろう。通貨を受け取った俺達は、この町の地図を受け取り、ギルドを後にした。手渡された地図は店や宿の情報が分かり易く記されている便利な物だった。端的に言って金出しても買う人は居るレベル。聞けばなんと〝書士〟の天職持ちであるキャサリンさん作だそうな。マジで何者だったんだろう、あのオバチャン。謎が尽きない人である。
それは兎も角。去り際、キャサリンさんは「治安が悪い訳じゃ無いけど、その3人なら暴走する男連中も居るだろうし、良い所泊まりな(意訳)」と言っていた。悪意は感じなかったが、周囲の冒険者達も明らかに3人に注目していた事もあり、その辺りを吟味した上で俺達は割と良い目の宿を取った。名前は〝マサカの宿〟。料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるんだとか。その分少し割高だが、必要経費だろう。金ならある。
宿の中は1階が食堂になっているようで、複数の人間が食事をとっていた。俺達が入ると、やはりユエさんとハウリア姉妹に視線が集まる。先程もそうだったが妹さんは割と視線を気にしている様で、若干居た堪れない様子。姉ウサギさんは周りの視線なぞ知った事かとガン無視しているので、本当に対照的な姉妹である。
周りの反応を無視してカウンターらしき場所に行くと、15歳くらいの女の子が元気よく挨拶しながら現れた。彼女が受付の様でテキパキと宿泊手続きを進めてくれたのだが、ここで問題が起きた。宿泊部屋をいくつ取るかについてである。
現在この宿で空いていたのは、2人部屋と3人部屋の2種類。俺の構想ではハジメとユエさんで2人部屋1つ、ハウリア姉妹で2人部屋1つ、俺単独で2人部屋1つだった。ハジメとユエさんの邪魔なんてもっての外だし、ハウリア姉妹と俺で3人部屋取るのも論外。故に2人部屋3つがベターである、との結論が出た訳だ。
が、ハジメは違ったらしい。あろう事か「3人部屋1つと、2人部屋1つで」とか抜かしやがったのだ。この返答に耳を疑った俺だったが、よくよく話を聞くと男女別で分けたつもりだったらしい。つまり
成る程、それなら納得ーーーなどウチの女性陣がする訳が無い。最初にハジメの声に待ったをかけたのは、ユエさん。静かな、しかし通る声で「私とハジメが同室。そこは譲らない」と言い切ったのだ。
その言葉を聞き、途端に周囲がザワつく。ちょっと好奇心が溢れている受付の女の子はまだしも、食堂にいる客達まで興味津々だった。ユエさんもハウリア姉妹も美人ではあるが、それにしたって限度が無い・・・いや、こんなもんなのか?俺自身、人と感性がズレている自覚はあるので、何とも言えない。
俺が周囲の反応を呑気に眺めている内に、更に事態は進んでいく。「私もハジメさんと同室がいいですぅ!」と抗議する姉ウサギさんに、ユエさんが「シアが居ると、気が散ってハジメとナニが出来ない」と涼しい顔で言ってのけたのだ。何というカウンターパンチャー。剛の拳よりストロングな柔の拳。マジで強すぎる。
ユエさんの言葉を聞き、受付の女の子とハウリア姉妹が顔を真っ赤にしていた。それだけならまだよかったのだが、話を聞いて余りの羨ましさに絶望していた男連中が、次第にハジメに対して嫉妬の炎が宿った眼を向け始めていた。俺は巻き込まれるのが嫌だったので、口は挟まなかった。こんなクソ面白そうな事止める訳ねーだろ人の恋路を邪魔しては、地獄に堕ちても文句は言えないからな!
ユエさんにどデカいカウンターを食らった姉ウサギさん。このまま正妻の
あねウサギ から いてつく はどうが ほとばしった!
雰囲気的にはこんな感じである。誰一人、言葉を発することなく、物音一つ立てない静寂が舞い降りた。嘘である。俺だけ腹を抱えて爆笑していた。無論馬鹿にしている訳ではなく「ブラボー!おお・・・ブラボー!!」と混じりっ気の無い称賛故の笑いである。まあ、それ以外の全員が例外無くハジメ達に注目、もとい凝視していたが。厨房の奥に居たであろう女の子の両親と思しき女性と男性まで出てきていた。妹さんは姉ウサギさんの発言を聞くと、手で顔を覆って俯いていた。耳まで真っ赤になってたので、身内として余程恥ずかしかったらしい。
姉ウサギさんの覚悟は確かにハジメに届いただろう。が、それはユエさんの逆鱗に触れる事と同義だ。瞳に絶対零度を宿しながら凄まじいプレッシャーを放つユエさんと、震えながらも背中に背負った大槌に手をかける姉ウサギさん。これから始まる修羅場を想像し、誰もが固唾を飲んで見守りーーー始まる前にハジメが拳骨で2人を止めた。知ってた。
結局、取る部屋は3人部屋1つ、2人部屋2つになった。内訳はハジメとユエさんと姉ウサギさん、妹さん、俺である。尚、何故かこの人数割りを聞いた受付の女の子が、思春期にしても行き過ぎた妄想を膨らませトリップしていたが見なかった事にした。代わりに宿泊手続きをしてくれた父親も「うちの娘がすみませんね」と謝罪しつつ、ハジメを見る眼に「男だもんね?わかってるよ?」という嬉しくない理解の色が宿っていた気がした。きっと翌朝になれば「昨晩はお楽しみでしたね?」とか言うタイプだ。俺も前に言ったから気持ちは分かるこの町の住人、もしかして皆ヤバい?
急な展開に呆然としている客達を尻目に、未だ蹲っているユエさんと姉ウサギさんを肩に担いだハジメは、そのまま3階の部屋に逃げるように向かった。俺も笑い疲れてヒーヒー言いつつ、顔を手で覆ったままフリーズしていた妹さんに声を掛けて3階に向かった。暫くして我を取り戻したのか、階下で喧騒が広がっていたが、気にせず部屋に入ってゆっくりする事に。
刀に呪いを移したり日記を書いていたら、夕食の時間になったとハジメにお呼ばれした。そのままユエさんやハウリア姉妹を伴って階下の食堂に向かった俺だったが、食堂の中を見た瞬間に思わず吹き出してしまった。チェックインの時にいた客が全員まだ其処にいたからだ。
再び爆笑し始める俺とは異なり、冷静を装ってはいたがハジメは頬が引き攣りそうになっていた。妹さんは先程の騒ぎを思い出したのか、また耳まで赤くなっていた。1番静かだった子が1番恥ずかしい思いしてるとはこれいかに。
給仕に来た子も初っ端からめちゃくちゃ顔を赤くしていた。と言うか、最初に受付していた女の子だった。「先程は失礼しました」と謝罪してはいるが、瞳の奥の好奇心は隠せていない。まぁ、悪意も無いし騒いだのも俺達だししゃーない。注文した料理は確かに美味かったし、俺的には満足である。
その後は普通に風呂に入って、普通に部屋に戻って寝た。別にアクシデントやらラッキースケベやらは起きちゃいない。あくまでも俺は、だが。2時間借りた風呂の内、俺と妹さん以外の割り振りがフワフワだったり、ハジメが風呂に向かった後、間髪入れずにユエさんや姉ウサギさんが風呂場に向かった事実なんて俺は知らない。例え何かが起こっていたとしても、観測していないならそれは俺の中では起こっていないのと一緒であるからだ。
久々に横たわったベッドは、俺に素晴らしい快眠を齎してくれるだろう。